欧州のオンライン宿泊予約市場は、Booking HoldingsとExpedia Groupが85%以上を占める極端な寡占状態にあり、ホテルへの直接予約は減少傾向です。中小ホテルは高額手数料や不利な契約条件に苦しみ、生成AIの普及で大手OTAによる顧客囲い込みが加速する懸念があります。これに対し、欧州宿泊業界はEUデジタル市場法(DMA)の厳格な執行を求め、公正な競争環境とホテル側の権利保護を目指しています。この欧州の動きは、世界のオンライン旅行市場の勢力図を変える試金石となるでしょう。
寡占化が進行する欧州のオンライン宿泊予約市場
今年2026年の9月に欧州宿泊産業連盟(HOTREC)が発表した最新の調査レポート「European Hotel Distribution Study 2026」により、欧州におけるオンライン旅行代理店(OTA)市場の極端な寡占化が浮き彫りになりました。本調査によると、2025年時点の欧州におけるOTA経由の宿泊予約の実に85.4%を、Booking HoldingsとExpedia Groupの2大プラットフォームが占めていることが明らかになっています。
特にBooking Holdingsの市場支配力は圧倒的で、単独で欧州OTA市場の68.8%を掌握しています。一方、ホテルへの直接予約の割合は全体の51.3%にとどまり、2013年に記録された57.6%から減少傾向が続いています。対照的にOTA経由の予約割合は、同期間の19%から29.9%へと大きく拡大しており、宿泊業界のOTAへの依存度が年々高まっていることがデータで実証されています。
独立系ホテルを圧迫する高額な手数料と不利な契約条件
こうした大手OTAへの過度な依存は、宿泊施設側に深刻な悪影響をもたらしています。欧州のホテルの大半を占める中小・独立系ホテルは、OTAに支払う高額な販売手数料によって利益率を大きく圧迫されています。
さらに問題視されているのが、ホテル側のコントロール喪失です。OTA経由の予約は直接予約と比較してキャンセル率が高い傾向にあり、また決済システムのプラットフォーム側への移行が進むことで、ホテルが直接顧客データや資金の流れを管理することが難しくなっています。さらに、OTAが独自の裁量でホテルの直接販売価格を下回る価格を提示するケースも報告されており、価格設定の自由度が実質的に奪われているとの不満が業界内で噴出しています。
生成AIの普及がもたらす新たな顧客囲い込みへの懸念
現在の旅行手配市場における大きな転換点として、生成AI技術の急速な普及が挙げられます。自然言語による対話ベースで個別の旅行プランを提案し、そのまま予約まで完了させるAIトラベルアシスタントの台頭は、旅行者にとって利便性が高い一方で、プラットフォーマーによる顧客の囲い込みをさらに加速させる要因となります。
大手OTAは豊富な資金力を背景に独自のAIツールをいち早く導入しており、初期の検索段階から顧客を自社エコシステム内に留める仕組みを構築しています。これにより、ユーザーがホテル独自のウェブサイトへ訪問する機会が奪われ、ブランドと顧客との直接的な接点がこれまで以上に希薄化する未来が予測されています。
EUデジタル市場法(DMA)に基づく公正な競争環境への期待と今後の影響
大手プラットフォームによる市場支配と革新技術による囲い込みへの対抗策として、HOTRECをはじめとする欧州の宿泊業界は、欧州連合(EU)に対して「デジタル市場法(DMA)」の厳格な規制執行を強く要請しています。Booking HoldingsはすでにDMAに基づく「ゲートキーパー」に指定されており、自社サービスの不当な優遇禁止など、厳格な義務が課される対象となっています。
今後の焦点は、EUによる規制がどこまで実効性を持ち、不透明な契約条件やデータ独占を是正できるかにあります。宿泊業界は、プラットフォームを完全に排除するのではなく、健全な選択肢が保証された透明性の高い競争環境を求めています。
欧州で展開されているこの規制強化の動きは、世界のオンライン旅行市場における試金石となります。もしDMAの執行によりホテル側の権利保護と直接予約の回復が実現すれば、日本を含む他の地域でも同様の法整備や業界運動が加速する可能性が高く、旅行テクノロジー業界全体における勢力図を塗り替える重要な契機となるでしょう。

