EU一般裁判所は、ブッキング・ホールディングスによる航空券OTA大手eTraveli買収計画を阻止する判決を下しました。
買収阻止判決の概要とこれまでの経緯
欧州連合(EU)の一般裁判所は2026年9月9日、世界的なオンライン旅行会社(OTA)大手ブッキング・ホールディングスが、航空券OTA大手であるスウェーデンのeTraveli(イートラベリ)グループを買収する計画について、欧州委員会が下した買収禁止決定を支持する判決を言い渡しました。
この買収計画は約16億3000万ユーロ規模にのぼり、ブッキング側が航空券予約という強固な補完サービスを自社プラットフォームに取り込むことを目的としていました。欧州委員会は2023年9月にこの買収を阻止する判断を下しており、ブッキング側がこれを不服として提訴していました。今回の判決で裁判所は欧州委員会の懸念を妥当と認め、訴えを全面的に退けています。
焦点となった「逆レバレッジ」とエコシステムの囲い込み
本判決で特に注目されたのが、デジタル市場における「逆レバレッジ」という競争阻害理論が法的に初めて支持された点です。
ブッキングは現在、欧州経済地域(EEA)のホテル宿泊予約OTA市場において約60〜70%という圧倒的な市場シェアを握っています。一方のeTraveliは航空券予約に特化しており、両社の事業領域は直接的には競合していません。しかし裁判所は、ブッキングが航空券という別市場の強力なサービスを獲得することで「包括的な旅行エコシステム」が構築され、結果的に主軸であるホテル予約市場での支配的地位がさらに強固になると指摘しました。
消費者が航空券とホテルを一つのプラットフォームで一括予約できる利便性を享受する一方で、ネットワーク効果が高まり、新規参入企業や競合他社を排除する障壁が極めて高くなることが警戒された形です。
欧州ホテル業界の懸念と公正な競争環境
この決定の背景には、ホテル業界からの強い反発や懸念も存在します。欧州ホテル連盟(HOTREC)は長年にわたり、巨大OTAによる市場寡占が宿泊施設の経営を圧迫していると訴えてきました。
もしブッキングが強固なエコシステムを確立して市場の流動性が失われれば、宿泊施設側はプラットフォームへの依存度をさらに高めざるを得なくなります。結果としてOTAに対する手数料率の引き下げ競争が起きなくなり、高止まりした手数料が最終的に宿泊料金に転嫁され、旅行者自身の不利益に直結するという悪循環が懸念されていました。今回の判決は、OTAの手数料高止まりを防ぎ、宿泊施設と旅行者の双方にとって健全な価格競争を維持するための防波堤としての意味合いを強く持っています。
OTA業界の再編と予測される未来への影響
今回のEU一般裁判所の判決は、今後のOTA業界の再編戦略にパラダイムシフトをもたらす可能性があります。
これまで巨大プラットフォーマーは、自社の主力事業とは異なる隣接領域(航空券、レンタカー、体験ツアーなど)を買収することでスーパーアプリ化を進め、顧客を囲い込む戦略を定石としてきました。しかし今後は、直接的な市場シェアの重複がなくても、既存の優位な市場における支配力が間接的に強化されると判断された場合、EU当局による買収阻止のリスクが極めて高くなります。
旅行者にとっては、単一の巨大サイトで旅の全行程をワンストップで手配できる利便性の進化が一部制限される側面はあるものの、長期的には複数の中堅OTAや新規プラットフォームが独自のサービスや価格で競争する環境が守られます。2026年現在、旅行者の予約チャネルは多様化し続けており、各社は安易な企業買収による規模の拡大ではなく、自社開発のAIを活用したパーソナライズ提案など、技術力や独自の顧客体験を通じた本質的なサービス競争へとシフトしていくことが予測されます。

