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    能登の風土が育む究極のウェルネスフード。心と体を満たすヴィーガン&ハラール美食紀行

    世界中の道を駆け抜ける中で、私はいつも考えています。自らのパフォーマンスを最大限に引き出すために、心と体にとって本当に良いものは何か、と。トレーニングと同じくらい、いや、それ以上に「食」は重要です。エネルギーとなり、血肉となり、そして時には精神的な支えにもなる。そんな私が次なる旅の目的地として選んだのは、日本の原風景が色濃く残る石川県、能登半島でした。目的はマラソン大会への出場……ではなく、この土地の自然が育む「食」そのものと向き合うため。特に私の心を捉えたのは、ヴィーガン(完全菜食主義)とハラール(イスラム教の戒律に則った食事)という、二つの食文化でした。一見、交わらないように思えるこの二つが、能登という地で、驚くほど豊かに、そして美味しく共存していると聞いたのです。アスリートとして、そして一人の旅人として、その秘密を解き明かしたい。そんな思いを胸に、私は能登の美食を巡る旅へと走り出しました。

    新たな食への探求が、能登自体の恵みだけでなく、松島湾で味わえる秘島体験と交わることで、さらなる感動へと導いてくれる。

    目次

    なぜ今、能登でヴィーガンとハラールなのか

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    私の旅の仲間には、多様な背景を持つランナーがいます。宗教的な理由で食事に制約があるムスリムの友人や、環境保護や動物福祉の観点からヴィーガンを選ぶ友人たちです。彼らと共に旅をする中で、食の多様性に対応する難しさとその重要性を実感してきました。特に地方を訪れる際は、食の選択肢が非常に限られてしまうのが現状です。しかし、能登はその点で異なっていました。ここには古くから継承されてきた発酵文化や、海や山の恵みを活かす知恵が根付いています。この土地本来の力が、結果としてヴィーガンやハラールの思想と深く調和していたのです。

    里山里海が育む、生命力あふれる食材

    能登半島は、日本で初めて「世界農業遺産」に認定された地域です。海から山へと広がる棚田や、伝統的な農法が生き続ける里山、そして豊かな漁場が広がる里海。この循環する自然環境そのものが、大きな食料庫となっています。厳しい風土のもと育つ野菜は味が濃厚で、強い生命力を感じさせます。日本海の荒波にもまれた海藻はミネラルが豊富で、ランナーにとって理想的なサプリメントと言えるでしょう。そして、この地の食文化を支えるのが発酵技術です。醤油や味噌、魚醤「いしる」といった伝統的な調味料は、動物性の出汁や化学調味料に頼らずとも料理に深いコクと風味をもたらします。これが能登のヴィーガン料理が非常に満足感が高い理由の一つでしょう。

    多様性を包み込む、能登の人々の温かな心

    さらに能登の食の豊かさを支えるのは、外部から訪れる人々を温かく迎える「もてなしの精神」です。古くから北前船の寄港地として栄え、多くの人や文化が交わってきた歴史が、能登の人々の中に多様性を受け入れる土壌を育んできました。ヴィーガンやハラールなど、これまで地域には馴染みが薄かった食文化に対しても、「その方が安心して美味しく味わえるものを」と真摯に向き合う姿勢があります。料理人や生産者のその想いこそが、この地を特別な場所にしているのだと感じます。それは単に調理法や食材の工夫にとどまらず、相手の文化や背景を尊重し、心から食を楽しんでほしいという願いが表れているのです。

    大地のエネルギーを食す、能登ヴィーガンの世界

    能登の旅は、ヴィーガン料理の探訪からスタートしました。アスリートにとって、植物性の食事は体をアルカリ性に導き、炎症を抑え、回復を促進する効果が期待されます。そのため、レース前のコンディション調整に取り入れるランナーも少なくありません。一方で、満足感や十分なエネルギーの摂取が難しいという課題もあります。しかし、能登のヴィーガン料理は、私のその懸念を心地よく覆してくれました。

    古民家レストラン「土と発酵 蘖(ひこばえ)」で味わう、里山のフルコース

    最初に訪れたのは、輪島市中心部から少し車を走らせた山あいにある、築100年以上の古民家をリノベーションしたレストラン「土と発酵 蘖」です。店名の通り、能登の土壌で育てられた野菜と、この地に根づく発酵文化をテーマにした料理が楽しめます。

    店内に入ると、太い梁が張り巡らされた高い天井と、土壁のやわらかな質感に包まれます。窓の外には手入れの行き届いた畑と、その先に広がる里山の風景が広がり、ゆったりとした時間が流れる空間の心地よさを感じました。

    オーナーシェフの田中さんは、もともと東京で料理人として腕を振るっていましたが、能登の食材の魅力に惹かれて移住されたそうです。「能登の野菜は味が本当に濃厚です。余計な手を加えなくてもそのままで十分美味しい。その声を聞きながら、少しだけお手伝いするように料理しています」と、穏やかな笑顔で話してくださいました。

    この日いただいたのは、ランチのヴィーガンコース。どの皿もまるで芸術作品のように美しく仕上げられていました。

    はじまりの一皿:能登金時芋のポタージュと自家製米粉パン

    滑らかな口当たりのポタージュは、金時芋の自然な甘みが広がります。乳製品を全く使わず、豆乳と昆布出汁で作られているとは思えないほどのコクと深みを感じます。添えられた米粉パンは外はカリッと中はもちもちで、小麦アレルギーの方でも安心して食べられる配慮から生まれた一品です。

    前菜:季節の野菜テリーヌ いしるとオリーブオイルのソース添え

    色鮮やかな能登の野菜が層をなすテリーヌ。人参、ズッキーニ、パプリカ、大根それぞれの食感と風味が口内で絶妙に調和します。特にソースに驚きました。魚醤「いしる」を使っているの?と思いましたが、田中さんによるとこれは大豆と米麹で作った「植物性いしる」なのだそう。伝統的な発酵技術を応用し、革新的な調味料を生み出しているその探求心に感心しました。

    主菜:車麩のステーキ 能登産きのこの赤ワインソース添え

    ヴィーガン料理とは思えない、たっぷりとしたボリュームと存在感。しっかりと出汁で煮含められた車麩は、まるでお肉のような弾力とジューシーさがあり、香ばしく焼き上げられた表面からナイフを入れると旨味がじゅわっと溢れます。数種類のきのこを使ったソースは赤ワインの酸味と発酵調味料の深いコクが相まって力強い味わい。長距離ランのエネルギー源として理想的な一皿で、タンパク質もしっかり補給でき、筋肉の修復にも役立ちそうです。

    〆の一品:自然栽培米の土鍋ごはんと自家製漬物

    つややかに輝く炊き立てのご飯は、一粒一粒がしっかり立ち、噛むほどに甘みが増します。これに合わせるのは自家製の糠漬けや赤かぶの甘酢漬けなどの漬物。発酵食品である漬物は腸内環境を整え、免疫力を高める効果が期待されます。ランナーにとって体調管理は何より大切であり、こうした日常の食事が強靭な身体を作り上げることを改めて実感しました。

    食事を終えた後、体が内側からエネルギーで満ちているのを感じました。満腹でありながら胃は重くなく、むしろ軽やかで、まるですぐにでも走り出せそうな感覚に包まれました。これこそが、能登のヴィーガン料理の持つ力なのでしょう。

    スポット情報
    名称土と発酵 蘖(ひこばえ)
    住所石川県輪島市三井町(架空)
    営業時間11:30~14:00, 18:00~21:00
    定休日火曜日・水曜日
    特徴築100年の古民家で味わう、地元の有機野菜と発酵文化を活かしたヴィーガン料理。完全予約制。

    祈りと共にある食卓、能登ハラールの探求

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    ヴィーガン料理で体の内側から整えた翌朝、私はもう一つのテーマであるハラール食の探求に向かいました。ハラールとはイスラム教の教えで「許された」という意味を持つ言葉であり、豚肉やアルコールなど禁止される食材を避け、定められた手順に則って処理された食材を用いる食事を指します。

    世界各地の大会で出会うムスリムのランナーたちは、戒律を守りつつ圧倒的なパフォーマンスを見せています。彼らの強さの源、ハラール食に対して私は以前から深い関心を抱いていました。能登の豊かな食材とハラールという食文化が交わるとき、どんな料理が生まれるのだろうかと期待が膨らみます。

    漁師町の民宿「潮騒の宿 きよみ荘」で味わうハラール対応の海鮮料理

    訪れたのは、日本海に面した珠洲市の小さな漁師町にある民宿「潮騒の宿 きよみ荘」。近年増加する東南アジアからのムスリム観光客の受け入れにいち早く対応し、ハラール対応を始めた宿として評判です。

    迎えてくれたのは、日焼けした笑顔が印象的な女将・清美さん。「特別なことは何もしてない。ただ安心して美味しい能登の魚を味わってほしいだけ」と朗らかに語ります。しかしその裏には相当の努力が隠されていました。

    ハラール対応にはまず調理器具を専用のものと、それ以外(非ハラール用)とに完全に分ける必要があります。まな板、包丁、鍋、食器はもちろん、食材を保管する冷蔵庫も区画を分けるなどの工夫が求められます。さらに、醤油やみりんに含まれるアルコール分も避けなければなりません。清美さんは金沢のイスラム文化センターで指導を受け、ハラール認証を得た調味料を取り寄せ、試行錯誤を重ねて現在のメニューに仕上げたそうです。

    この日の夕食は、まさに能登の海の幸がふんだんに使われていました。

    お造り:朝水揚げの新鮮な魚盛り合わせ

    透き通った身のヒラメ、脂ののったブリ、プリプリの甘エビ。どれも今朝、目の前の港で揚がったばかりのものです。添えられた醤油はもちろんハラール認証済み。アルコールが含まれていないため、大豆本来の香りと旨味がダイレクトに広がり、魚の繊細な味わいを邪魔しません。

    焼き物:のどぐろの塩焼き

    「白身のトロ」とも称される高級魚のどぐろをシンプルに塩だけで焼き上げた一皿。使われている塩は珠洲伝統の「揚げ浜式製塩」で作られたもの。釜でじっくり炊きあげられた塩は、単なる塩味に留まらず、ミネラル由来の複雑な旨味と甘みを含んでいます。この塩がのどぐろの上質な脂の甘さを最大限引き出していました。ランナーにとって汗で失われたミネラル補給は必須であり、これほど美味しく摂れるのは何とも贅沢です。

    煮物:地魚と野菜の煮付け

    ハラール対応のみにん風調味料と醤油で甘辛く煮付けられたカレイ。ふんわりとした白身に優しい味の煮汁がよく馴染んでいます。煮込まれた大根や人参は魚の旨味をたっぷり吸収し、ご飯が進む逸品です。アルコールなしでもここまでのコクと照りを出せるのかと、日本の伝統調味料の奥深さを改めて感じました。

    揚げ物:ふぐの唐揚げ

    能登はふぐの名産地でもあります。淡白ながらしっかりした旨味のふぐの身を、米粉の衣でカラリと揚げました。小麦アレルギーにも配慮した一品です。レモンをキュッと絞ると爽やかな酸味が口の中に広がります。高タンパク低脂肪のふぐはアスリートの体づくりにも理想的な食材です。

    清美さんは語ります。「宗教だとか国籍とか関係ない。ただここに来てくださった皆さんに、お腹いっぱいになって笑顔で帰ってほしい。それが一番大事なんです」と。

    彼女の言葉と心を込めた料理を味わいながら、私は食に宿る普遍的な力を実感しました。誰かのために、その人の背景を思いやり、心を注いで作ることこそが最高のおもてなしであり、料理の美味しさを格段に高めるスパイスなのだと改めて感じたのです。

    スポット情報
    名称潮騒の宿 きよみ荘(しおさいのやど きよみそう)
    住所石川県珠洲市蛸島町(架空)
    連絡先0768-XX-XXXX
    チェックイン/アウト15:00 / 10:00
    特徴ムスリムフレンドリーな宿。ハラール食の提供が可能(要事前予約)。礼拝マットやキブラ(礼拝の方向を示す道具)の貸し出しもあります。

    食の源泉を訪ねて。能登の伝統製法に触れる

    美味しい料理は、優れた食材があって初めて生まれます。能登のヴィーガンやハラール料理の根幹を支える力強い食材は、いったいどのように作られているのか。その秘密を探るべく、私は生産現場を訪れることにしました。

    珠洲「奥能登塩田村」で体感する、ミネラルの結晶

    最初に足を運んだのは、珠洲市の海沿いに位置する「奥能登塩田村」。ここでは、日本で唯一、約500年もの歴史を誇る伝統的な製塩法「揚げ浜式」がいまも継承されています。

    目の前に広がるのは、砂浜に設けられた「塩田」。塩士(えんし)と呼ばれる職人たちが、海からくみ上げた海水を「打桶(うちおけ)」に汲み、リズミカルに塩田へと撒いていきます。その様子はまるで優雅な舞のよう。太陽と風の力を借りて水分が蒸発し、塩分を含んだ砂が集まります。その砂にさらに海水を注ぎ、塩分濃度の高い「かん水」を作り出し、それを平釜でじっくりと炊き上げていきます。気の遠くなるような手間と時間を費やして、ようやくひと握りの塩が誕生するのです。

    特別に塩撒きの体験もさせていただきました。見た目以上に重い打桶を抱え、均一に海水を撒くのは非常に難しく、すぐに腕がパンパンに。過酷な肉体労働であることを肌で感じました。しかし、塩士の皆さんは涼しい顔で黙々と作業を続けていました。

    ここで作られる塩を少し舐めてみると、その風味の違いに驚かされました。鋭く突き刺すような塩辛さはなく、まろやかで後味にほのかな甘みが漂います。これはナトリウムだけでなく、マグネシウムやカルシウム、カリウムなど多様なミネラルがバランス良く含まれている証拠であり、まさに「海の恵みの結晶」と呼ぶにふさわしいものでした。

    ランニングで大量に汗をかくと、水分だけでなく多くのミネラルも失われます。ミネラル不足は足の攣りや熱中症を招き、パフォーマンスの低下に直結します。精製された食塩ではなく、こうした自然な製法で作られた塩を日常の食事に取り入れることが、いかに大切かを痛感しました。この塩さえあれば、水だけで最高のスポーツドリンクになると確信しています。

    スポット情報
    名称奥能登塩田村
    住所石川県珠洲市清水町
    営業時間8:30~17:30(季節により変動あり)
    定休日年中無休
    特徴揚げ浜式製塩の見学や塩づくり体験が可能。ミネラル豊富な自然塩や関連商品を購入できる。

    輪島「谷川醸造」で実感する、発酵がもたらす力

    次に訪れたのは、輪島市にある創業100年以上の老舗醤油蔵「谷川醸造」。能登料理の味を決定づける発酵調味料の原点に触れてみたいと思ったのです。

    蔵内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気とともに、醤油の豊かな香りが鼻をくすぐります。天井に届くほどの巨大な木桶が並び、その中で諸味が静かに呼吸しているのが感じられます。ここでは現在も昔ながらの製法を守り、国産の丸大豆と小麦、塩のみを使い、時間をかけてゆっくりと醤油を醸造しています。

    四代目の谷川さんは、伝統を守りながらも常に新しい挑戦を続けています。「醤油は生き物のようなものです。どんなに同じ作り方をしても、その年ごとに味が変わる。微生物の声に耳を傾けながら、最も良い状態に導くのが私たちの役割です」と話してくださいました。

    蔵の見学で特に印象的だったのは、醤油造りが能登の気候風土と密接に結びついていること。夏は暑く冬は寒く、雪深いこの地域の厳しい寒暖差が麹菌や酵母菌、乳酸菌などの微生物の活動を促進し、複雑で深い味わいを生み出しているのだそうです。まさに能登の自然が醤油を育んでいるのです。

    谷川醸造では、ハラール認証を取得した醤油や、動物性原料を一切使わないヴィーガン対応のポン酢も製造しています。これは単に特別な取り組みではなく、自分たちの本物の調味料を世界中の人々に届けたいという純粋な思いからのことでした。

    発酵食品は腸内の「善玉菌」を豊富に含みます。「腸は第二の脳」とも称されるように、腸の健康状態は全身の健康や精神の安定に大きく影響します。特に長距離を走るランナーにとっては、効率的な栄養吸収と強い免疫機能を維持するうえで、健康な腸は欠かせません。毎日使う醤油だからこそ、本物の発酵調味料を選ぶことが日々のコンディション維持に繋がると、深く納得しました。

    能登の自然を走る。心と体を浄化するランニングコース

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    これほど豊かな食文化が息づく能登半島。その土地を自らの足で感じ取らずにはいられません。旅の合間に、いくつかのコースを走ってみました。それは単なるトレーニングではなく、能登の自然とひとつになるための瞑想のような時間でもありました。

    海岸線を走る、白米千枚田サンライズラン

    輪島市に位置する「白米千枚田」は、日本海に面した急斜面に1004枚もの小さな棚田が広がる絶景スポットです。私は夜明け前の薄明かりの中、この千枚田の麓から走り始めました。

    海から吹き付ける湿った風が肌を撫で、潮の香りが肺を満たします。徐々にペースを上げつつ、海岸沿いの道を北へと進みます。寄せては返す波の音が心地よいリズムを刻んでくれました。やがて東の空が明るくなり、水平線はオレンジ色に染まり始めます。その光が一枚一枚の水面に反射し、まるで無数の鏡が輝いているかのような光景。あまりの美しさに、思わず立ち止まり見惚れてしまいました。

    厳しい自然環境の中で、先人たちが気の遠くなるような労力で築き上げた棚田。その風景は、人の営みと自然の調和の象徴のように感じられました。ここで育まれたお米が力強い味わいになることも納得です。朝日の光を全身に浴びながら走ることで、体だけでなく心も清められていく感覚。まさに究極のデトックスと言えるでしょう。

    聖域の岬を目指す、起伏に富んだコース

    能登半島の最果て、珠洲市にある「聖域の岬」は、古くからパワースポットとして知られています。日本三大パワースポットの一つとも称され、南からの暖流と北からの寒流がぶつかり合う、特別なエネルギーが満ちる場所です。

    この岬へ続く道は、ランナーにとって挑戦的なアップダウンの連続。心拍数を高めながら坂を駆け上がると、目の前に紺碧の日本海が広がります。激しいトレーニングは時に自分の限界と対峙する孤独な時間ですが、この壮大な景色が背中を押してくれました。

    岬の先端にたどり着き、展望台から荒々しい岩礁と果てしなく広がる海を見渡すと、自分が小さな存在だと実感します。しかし、それは決して悲観的な感情ではありません。大自然の中に生かされているという感謝の気持ちが湧き起こるのです。深く呼吸をすると、大地のエネルギーが全身に満ちていくように感じられました。レース前の精神集中や、自分自身と向き合いたい時にぜひ訪れてほしい場所です。

    旅の終わりに。能登が教えてくれた、走ることと食べることの本質

    能登で過ごした数日間は、私の食に対する価値観だけでなく、ランナーとしてのあり方にも大きな影響を与えました。

    ヴィーガンやハラールは、単なる食事の制限ではありません。それは、自分自身の信念や哲学に基づき、心身にとって最良だと感じるものを「選ぶ」という、積極的な生き方の表現です。そして能登には、そのような選択を深く尊重し、最高の形で応えようとする人々がいました。

    厳しい自然環境と共に育まれた力強い食材。微生物の力を借りて素材の旨みを最大限に引き出す発酵の知恵。そして訪れる人々を温かく包み込むもてなしの心。これらが一体となって、能登の食は単に空腹を満たすだけのものから、心と体を癒し、明日への活力を与えてくれる「ウェルネスフード」へと昇華しているのです。

    この旅を通じて、私は本当に美味しいものとは何かという答えの一端に触れたように思います。それは、高価な食材や複雑な調理方法ではありません。その土地の風土の中で、太陽や水、土の恵みを受け、作り手の深い愛情を注がれて育まれたもの。そしてそれを感謝の気持ちをもっていただくこと。そうしたシンプルな行為こそが、私たちの心と体を最も豊かにしてくれるのではないでしょうか。

    能登の道を走り、能登の食を味わい、能登の人々と語り合う。この経験は私の五感すべてを研ぎ澄ませ、走ることや食べることの原点へと立ち返らせてくれました。次に私がスタートラインに立つ時、そのエネルギーは能登の太陽や海、大地からいただいたものであると、きっと鮮明に思い出すでしょう。

    もし日々の喧騒に疲れを感じ、自分の心と体とじっくり向き合う時間を求めているなら、次の旅の行き先に能登を選んでみてはいかがでしょうか。この地の清らかな空気と生命力にあふれた食が、あなたを本来の健やかな姿へと導いてくれるはずです。

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    この記事を書いた人

    世界各地のマラソン大会に出場するためだけに旅をするランナー。アスリート目線でのコンディション調整や、現地のコース攻略法を発信。旅先では常に走り込んでいるため、観光はほぼスタートとゴール地点のみに!?

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