どこまでも続く青い空と、大西洋から吹きつける心地よい風。カモメの鳴き声がBGMのように響き渡り、白壁の家々が迷路のように入り組む。モロッコの港町、アッサウィラに降り立った瞬間、私はまるで一枚の絵画の中に迷い込んだかのような錯覚に陥りました。
韓国のソウルで最先端のカルチャーにどっぷり浸かっていた私が、次なる旅先に選んだのは、アフリカ大陸の北西端に位置するこの小さな港町。マラケシュの喧騒からバスで3時間、そこに広がっていたのは、同じモロッコとは思えないほど穏やかで、自由な空気に満ちた別世界でした。
「風の街」とも呼ばれるアッサウィラ。その魅力は、日中の活気あふれるスーク(市場)や、キラキラと輝く海だけではありません。本当の魔法が始まるのは、太陽が水平線に沈み、街が静寂に包まれる夜。街灯にぼんやりと照らし出された壁画アートが、昼間とは違うミステリアスな表情を見せ始め、青と白の迷宮を歩く私たちの足を、不思議な世界へと導いてくれるのです。
この記事では、私が実際に体験したアッサウィラの魅力、特に壁画アートに彩られた静かな夜の散策の楽しみ方を、具体的なプランや旅の準備情報とあわせて、余すところなくお伝えします。どこを切り取っても「映え」しかないこの街で、ただの観光じゃない、心に深く刻まれる旅をしてみませんか?
夜の街並みが作り出す幻想的な光景に魅了されたなら、[ベルギー・ゲントの運河と歩く幻想ナイトウォーク]もおすすめです。
なぜ今、アッサウィラがアツいのか?心惹かれる3つの理由

世界中から旅人が集まるモロッコには、マラケシュの熱気やフェズの歴史、シャウエンの青い絶景など、魅力あふれる都市が数多く存在します。そのなかで、なぜ今アッサウィラが特に私たちの世代の心を強く掴み離さないのか。その理由を私が感じた3つのポイントに絞って紹介します。
理由1:青と白が織りなすフォトジェニックな迷宮
アッサウィラの旧市街(メディナ)に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、壁も扉も鮮やかな青と白で統一された美しい町並みです。同じく「青の街」として知られるシャウエンが山間にたたずむ幻想的な青の世界であるのに対し、アッサウィラの青は、すぐ隣に広がる大西洋の海の色を映し出すような、力強く開放感あふれる青色です。
潮風に少し塗装がはげかけたドアノブ、壁ぎわに無造作に置かれた植木鉢、窓枠に施された繊細な装飾。これらが絶妙なコントラストを生み出し、どこを切り取っても思わず息をのむほどフォトジェニック。細い路地を気ままに歩けば、次々とシャッターチャンスが訪れ、スマートフォンの充電がいくらあっても足りなく感じるほどです。
迷路のように入り組んだ路地は探検心をくすぐり、曲がり角を回るたびに新たな景色が広がります。見上げれば、建物の隙間から透き通った青空が顔をのぞかせている。地元の人々の生活感が間近に感じられるのも、アッサウィラのメディナの魅力。観光地化されすぎず、ありのままの日常風景がこの街の美しさをより一層際立たせています。お気に入りのカフェでミントティーを片手に外の景色をゆっくり眺めていると、いつの間にか時間が過ぎてしまいました。
理由2:街中にあふれる壁画アートとの出会い
アッサウィラが他のモロッコの街と一線を画す最大の魅力は、街全体がまるでオープンエアの美術館のようになっていることです。メディナの白壁は、国内外のアーティストにとって格好のキャンバスとなっていて、色鮮やかで個性的な壁画が街のいたるところに描かれています。
政治的なメッセージやモロッコ伝統のモチーフをモダンにアレンジした作品、思わず微笑んでしまうようなポップなキャラクターなど、作風は多種多様。計画的に見て回るのではなく、路地裏を散策するなかで「こんな場所に!」と宝物を見つけるようにアートに出会うのが、アッサウィラ流の楽しみ方です。
これらの作品は街の風景に溶け込みすぎているため、気をつけていないと気づかないかもしれません。しかし、一度その魅力に気づけば、壁面から目が離せなくなります。地元の子どもたちが壁画の前で遊び、おじいさんたちがその横で談笑している様子。アートが特別なものではなく、人々の日常の一部として生きている光景は、とても心温まるものです。お気に入りの壁画の前で写真を撮ってポーズを決めるのも、忘れがたい思い出になります。
理由3:喧騒を離れた「チル」な時間。静かな夜の魔法
マラケシュのジャマ・エル・フナ広場のように夜遅くまで続く熱気や喧騒は、アッサウィラにはありません。その代わりに広がっているのは、波の音と静寂に包まれた、落ち着いた心地よい夜の時間です。日が落ちると、日中の賑わいはまるで嘘のように引き、メディナは静けさに包まれ、柔らかな街灯が石畳を穏やかに照らします。
この静寂こそ、アッサウィラの夜が持つ最大の魅力。治安も良いため、女性だけの夜の散策でも比較的安心して楽しめます(もちろん基本的な注意は必要ですが)。ライトアップされた壁画は昼間とは異なる幻想的な表情を見せ、まるで夜の間だけアートが語りかけてくるかのように感じられます。
遠くに聞こえる潮騒をBGMに静かな路地をゆっくり歩き、時折すれ違う人と交わす「サラーム(こんにちは)」の挨拶。そんな何気ないひとときの一つひとつが心に深く染みわたります。旅の疲れをいやし、自身と向き合うためのリラックスした時間を過ごしたいなら、アッサウィラの夜は最高の舞台となるでしょう。
アッサウィラ完全攻略!モデルプランで巡る1日
「アッサウィラに行ってみたいけれど、どんな過ごし方がいいのか分からない…」という方へ。私が実際に訪れて感動した、最高の1日モデルプランをご紹介します。ぜひこのプランをヒントにして、あなただけのアッサウィラでの素敵な一日を作り上げてみてください。
午前:カモメが舞う港と賑やかなスーク(市場)散策
- 9:00 AM:活気溢れる港で一日のスタートを
朝陽に照らされるアッサウィラの港は、一日の始まりにふさわしい生き生きとした雰囲気に満ちています。空を飛び交うカモメの群れ、鮮やかなブルーの小舟が停泊し、漁を終えた漁師たちが新鮮な魚を並べて威勢よく声を交わす様子は、まるで映画のワンシーンのよう。潮風と人々の活力を全身で感じながら、港をのんびり散策しましょう。港の入口付近には獲れたての魚をその場で焼く屋台がずらりと並び、そこでたっぷりとシーフードグリルを楽しむのも格別の体験です。
- 10:30 AM:メディナのスークで宝探し気分を満喫
港の活気を満喫した後は、メディナの中心部にあるスーク(市場)へ。マラケシュのスークほど広大ではない分、歩きやすくて魅力がぎゅっと詰まっています。アルガンオイル専門店や、手作りの革製品(特にバブーシュというスリッパが有名です)、色とりどりのスパイス、美しい模様の絨毯、繊細なシルバーアクセサリーなど、見ているだけで心が躍る店が軒を連ねています。 ここでは値段交渉が楽しみの一つ。最初は言い値の半額くらいから交渉を始めるのがおすすめですが、何よりも大切なのは笑顔と会話。「これ素敵ですね!」「ちょっとだけお安くなりませんか?」といったやり取りを楽しみながら、お気に入りのアイテムを見つけてみてください。私はここで、手刺繍が愛らしい小さなポーチとローズの香りが広がるアルガンオイルを手に入れました。
午後:アート探しとカフェでのひと息
- 1:00 PM:路地裏でアート探訪をスタート
お腹が満たされたら、お楽しみのアートハントの時間です。メディナのあらゆる壁がキャンバスになったストリートアートを探しに出かけましょう。決まった場所を目指すよりも、気の向くまま細い路地に入ってみるのがポイント。観光客があまり訪れない静かな居住区に、思いがけない大作が隠れていることもあります。 特にアートが多く見られるのはメディナの北東エリアやユダヤ人街(メラー)周辺。カメラを手に、自分だけのお気に入り作品を探す冒険はまるで宝探しのようで、とてもワクワクしました。
- 3:30 PM:絶景のカフェでミントティーを楽しむ
歩き疲れたら素敵なカフェで一休み。アッサウィラには、メディナの街並みや大西洋を一望できる屋上カフェが数多くあります。私が特におすすめしたいのは、スカラ(砲台)近くのカフェ。屋上のテラス席に座れば、青と白の美しい街並みが眼下に広がり、遠くにはキラキラ輝く海が見えます。 ここで味わうモロッカン・ミントティーは格別。たっぷりのミントの葉と角砂糖が入った熱々の甘い紅茶が、歩き疲れた身体にじんわり染みわたります。その甘さがモロッコ流のおもてなしの心で、海をぼんやり眺めながら過ごす時間は何よりの贅沢です。
夕方:スカラ・ド・ラ・ヴィルで壮麗な夕日を堪能
- 5:30 PM:夕日の名所、スカラへ向かう
日が傾き始めたら、メディナの海沿いにある「スカラ・ド・ラ・ヴィル」へ足を運びましょう。ここは18世紀に築かれた砲台で、古い大砲が海に向かってずらりと並ぶ印象的なスポットです。城壁の上を歩きながら、大西洋に沈む夕日をゆっくり待つ時間は、アッサウィラ滞在のハイライトの一つと言って間違いありません。 ちなみにこの場所は、世界的に大ヒットしたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のロケ地としても知られています。ドラマでは「アスタポア」という都市として登場し、主人公のデナーリスが「穢れなき軍団」を手に入れる重要なシーンが撮影されました。ファンならずとも、その壮大な景観には圧倒されることでしょう。空がオレンジから紫へと徐々に色を変えてゆく様子を潮風に吹かれながら眺める体験は、心に深く刻まれる思い出となります。
夜:静寂なメディナで星と壁画に酔いしれる
- 7:30 PM:シーフードタジンで夜ごはん
夕日を堪能したら、次はお腹を満たす番です。アッサウィラを訪れたなら新鮮なシーフードは外せません。港町ならではの魚介たっぷりのシーフードタジンが楽しめるレストランへ向かいましょう。白身魚やエビ、イカなどの旨味がぎゅっと詰まったタジンは、クスクスやパンとの相性も抜群。レモンをぎゅっと搾っていただくと、爽やかな香りが口いっぱいに広がります。
- 9:00 PM:静謐な夜のメディナでアート散策を満喫
ディナーの後は、この旅のメインイベントとも言える夜のアート散策へ。昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったメディナは、全く異なる表情を見せてくれます。オレンジ色の街灯が石畳と白壁をやわらかく照らし出し、幻想的なムードに包まれます。 ライトアップされた壁画は、陰影が強調されて立体感が増したり、一部の色が際立ったりしてまた違った魅力が。昼間に見つけたお気に入りの壁画を改めて訪れてみるのもおすすめです。違った表情にきっと驚くはずです。 波の音だけが響く静かな路地を、アートに導かれるまま歩く体験は、まるで街全体が自分だけのプライベートギャラリーのよう。この特別な時間はアッサウィラならではの贅沢で、誰にも邪魔されずアートと静寂に浸る夜のお散歩は、旅の記憶に鮮やかに刻まれました。
旅の準備はこれで完璧!アッサウィラ旅行TIPS

「行ってみたい!」という気持ちが高まった今、次に気になるのが具体的な準備についてです。アクセス方法から予算感、服装や持ち物まで、これを読めば安心してアッサウィラへの旅をスタートできる情報をまとめました。
アクセス方法と所要時間
日本からモロッコへは直行便がないため、パリやイスタンブールといったヨーロッパの都市や、ドバイやドーハなど中東の都市を経由するのが一般的です。モロッコ国内に入ってからアッサウィラへ向かう際は、マラケシュを拠点にするのが最も便利です。
- マラケシュからバスを利用する場合
一般的で快適なのは、国営の「Supratours(スープラトゥール)」か大手の「CTM(セテエム)」社のバスを利用する方法です。
- 所要時間: 約3時間(途中で15〜20分のトイレ休憩があります)
- 料金: 片道およそ80〜100ディルハム(約1,200円〜1,500円)
- 予約: 事前にウェブサイトや現地のオフィスで予約しておくと安心です。観光シーズンは満席になることもあるため、席の指定も可能なうちに予約しましょう。
- 注意点: 大きなスーツケースなどは、乗車前に別途5ディルハム程度の追加料金がかかり、預ける手続きが必要です。
費用の目安と内訳
アッサウィラは、モロッコ内のほかの観光都市と比べて比較的物価が抑えられており、手頃に滞在できるのが魅力の一つです。以下は1日あたりの予算モデルです。
- 宿泊費:
- ドミトリー: 1泊100ディルハム〜(約1,500円〜)
- リヤド(中級クラス): 1泊400〜800ディルハム(約6,000円〜12,000円)
- ホテル(高級クラス): 1泊1,000ディルハム〜(約15,000円〜)
中庭のあるモロッコ伝統の宿「リヤド」への宿泊が特におすすめです。
- 食費:
- 1日あたり200〜400ディルハム(約3,000円〜6,000円)
- 朝食: 多くの場合、宿泊料金に含まれています。
- 昼食(カフェや屋台): 50〜100ディルハム
- 夕食(レストラン): 100〜200ディルハム
- 交通費・雑費:
- 1日あたり約50ディルハム(約750円)
- メディナ内は徒歩移動が基本で、別途お土産やカフェ利用の料金がかかります。
中級クラスのリヤドに宿泊し、食事や観光を楽しむ場合は、1日あたり約800〜1,500ディルハム(約12,000円〜22,500円)が目安となります。
ガイドツアーの利用について
個人での散策も楽しいですが、街の歴史やアートについてより深く学びたい場合は、現地ガイドツアーへの参加を考えてみても良いでしょう。
- 料金の目安: 半日(約3〜4時間)のプライベートガイドで、1人あたり300〜500ディルハム(約4,500円〜7,500円)が相場です。
- 料金に含まれるもの: 日本語または英語のガイド料、主要な歴史的建造物やアートスポットの解説
- 料金に含まれないもの: 各施設の入場料(必要に応じて)、食事代や飲み物代、ガイドへのチップ、個人的な費用(お土産など)
- 予約方法: 現地の旅行代理店や宿泊しているリヤド・ホテルを通じて予約可能です。また、オンラインのツアー予約サイトでも各種オプションがあります。
服装と持ち物のポイント
快適かつ安全に旅を楽しむためには、服装や持ち物の準備が大切です。
- 服装のポイント
- 歩きやすい靴: メディナは石畳の道が多いため、スニーカーかフラットサンダルが適しています。
- 羽織りもの: アッサウィラは「風の街」と呼ばれ、日中は暖かくても朝晩や風の強い日には肌寒く感じることがあります。カーディガンやパーカー、ストールなど、温度調整ができる羽織りものを用意すると重宝します。
- 肌の露出は控えめに: モロッコはイスラム文化圏のため、特にメディナ散策時は肩や膝を隠す服装が望ましいです。Tシャツにロングスカートやゆったりしたパンツの組み合わせがおすすめです。大判のストールは日よけや防寒、モスクでの肌隠しにも使えるため一枚あると便利です。
- 帽子・サングラス: 日差しが強いため、熱中症や紫外線対策として必携です。
- 持ち物リスト
- 必携品
- パスポート(コピーやスマホ写真も準備しておくと安心)
- 現金(モロッコ・ディルハム):クレジットカードが利用できない小規模店も多いです。
- クレジットカード(VISAかMastercardが主流)
- 海外旅行保険の証書
- スマートフォンと充電器
- あると役立つもの
- モバイルバッテリー: 写真撮影が多く、バッテリー消耗が激しいため
- 日焼け止め: 紫外線は日本の数倍とも言われ、SPF50+が望ましい
- 保湿クリームやリップクリーム: 乾燥した空気で肌や唇が荒れやすいので必須
- ウェットティッシュ・除菌ジェル: 食事前や手軽な清掃に便利
- 常備薬: 胃腸薬、頭痛薬、酔い止めなど、普段使っている薬があると安心です
- エコバッグ: スークでの買い物時に重宝します
- 現地のルールと持ち込み制限
- モロッコではドローンの持ち込みに厳しい規制があり、無許可の場合は没収されるリスクがあります。注意してください。
- 宗教施設では写真撮影が禁止されている場所もあるため、表示を確認しルールを守りましょう。
- 人を撮影する際は必ず許可をとるマナーを守り、とくに女性や子どもは無断撮影を避けましょう。
アッサウィラに関するQ&A
- Q. 治安は良いですか? 夜の一人歩きは安全ですか?
A. アッサウィラはモロッコの大都市に比べて治安が良いとされています。日中は問題なく散策できます。夜間もメインストリートは明るく人通りがありますが、街灯の少ない細い路地に一人で入るのは避けた方が賢明です。基本的な海外旅行の注意点(貴重品管理や知らない人への警戒など)を守れば、快適に過ごせます。
- Q. 言葉は通じますか?
A. 公用語はアラビア語とベルベル語、またフランス語が広く使われています。メディナ内の観光客が多い店やレストラン、ホテルでは英語もある程度通じます。簡単なアラビア語の挨拶を覚えて使うと、現地の人とより親しくなれます。例えば「こんにちは」は「アッサラーム・アライクム」、「ありがとう」は「シュクラン」、「さようなら」は「ベスラーマ」です。
- Q. Wi-Fi環境はどうですか?
A. ほとんどのリヤドやホテル、カフェ、レストランで無料Wi-Fiが使えます。通信速度は場所によりますが、メッセージ送受信やSNSのチェックにはほぼ問題ありません。長時間ネット接続を希望する場合は、カサブランカやマラケシュの空港で現地SIMカードを購入すると便利です。
- Q. チップの習慣はありますか?
A. モロッコにはチップ文化があります。
- レストラン: サービス料未込みの場合は会計の約10%が目安です。
- カフェ: お釣りの小銭を少しテーブルに置くだけで十分です。
- ホテル: ポーターやベッドメイキングには5〜10ディルハムを。
- ガイド・ドライバー: 満足した場合、半日なら50ディルハム、一日なら100ディルハムほど感謝の気持ちとして渡すと喜ばれます。
アートとカルチャーの交差点、もっとディープなアッサウィラへ
アッサウィラの魅力は、美しい街並みや新鮮なシーフードにとどまるものではありません。この街には、音楽やアートを愛する人々を惹きつけてやまない、独自のカルチャーが根付いています。より深くアッサウィラを知るための、いくつかのキーワードをご紹介します。
ジミヘンも魅了された伝説の街
アッサウィラを語るうえで欠かせないのが、伝説的なギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの存在です。1969年、彼はこの街を訪れ、その自由でサイケデリックな雰囲気に魅了されたと言われています。彼がこの地で名曲『Castles Made of Sand』のインスピレーションを受けたという話は、今なお音楽ファンの間で語り継がれています。(この逸話には諸説あるものの、街のミステリアスな魅力を一層際立たせていることは確かです)
彼が滞在していたとされる場所や、インスピレーションのもととなった海岸沿いの廃墟は、今やファンにとっての聖地となっています。実際にジミヘンがアッサウィラ(近郊のディアバット村)に滞在していたことは事実で、70年代には多くのヒッピーたちが彼の足跡を辿ってこの街に集まり、独特の自由なカルチャーが花開きました。街のあちこちに描かれた壁画や、土産物店で販売されているTシャツに彼の肖像が見られるのも、アッサウィラが彼を惜しみなく愛し、その伝説を大切にしている証です。
グナワ・ミュージックの聖地として
アッサウィラは、ユネスコの無形文化遺産に登録されている「グナワ・ミュージック」の聖地としても知られています。グナワとは、サハラ以南のアフリカから奴隷として連れてこられた人々の末裔が伝える、伝統的な音楽と儀式のこと。低音の弦楽器「ゲンブリ」が奏でるトランス感あふれるリズムと、金属製カスタネット「カルカベ」の乾いた音が特徴で、一度聴いたらそのグルーヴの虜になるでしょう。
毎年6月頃には、世界中のアーティストやファンが集まる「グナワ・ワールド・ミュージック・フェスティバル」が開催されます。この期間中、街の広場や路上はライブステージとなり、アッサウィラは音楽の熱気に包まれます。このフェスティバルでは、伝統的なグナワ音楽はもちろん、ジャズやロック、レゲエなど多様なジャンルのミュージシャンとのセッションも行われ、異文化が融合した新たな音楽体験が生まれます。もし旅のタイミングが合えば、ぜひその熱狂を肌で感じてみてください。
私が出会った、とっておきのアートギャラリー
ストリートアートも素晴らしいですが、メディナの中には個性あふれるアートギャラリーも点在しています。私が特に心惹かれたのは、現代アートとモロッコの伝統工芸を巧みに融合させた作品を展示するギャラリーでした。
そこでは、色鮮やかなベルベル人の絨毯の模様をモチーフにした抽象画や、古びた木製のドアに直接描かれたアートオブジェなど、アッサウィラという土地ならではのユニークな作品に出会えます。ギャラリーのオーナーは親しみやすい方が多く、作品について尋ねるとアーティストの背景や制作秘話を熱心に教えてくれました。
お気に入りの一枚を見つけて旅の思い出として日本に持ち帰るのも素敵です。たとえ購入しなくても、ギャラリーを巡ることで、この街に流れるクリエイティブな空気をより一層深く味わうことができるでしょう。まるでアーティストたちの魂のかけらに触れるような、豊かなひとときを過ごせました。
潮風が運ぶ、忘れられない夜の記憶

旅から戻り日常を過ごしていると、ふとした瞬間にアッサウィラの夜の景色が蘇ります。街灯に照らされた石畳の路地、昼間とは異なる静けさを湛えた壁のアート作品、遠くから聞こえる波の寄せ返す音、そして肌をなでる冷たい潮風の感触が心に浮かびます。
アッサウィラの夜の散歩は、単に美しい風景の中を歩くことにとどまりませんでした。それは喧騒から解かれ、自分自身の内面と静かに向き合う貴重な時間でもありました。次の角を曲がると何があるのか、この壁画が何を語ろうとしているのかと思い巡らせつつ迷い歩くうちに、日々の悩みや考え事がいつしか些細なことのように感じられてくるのです。
日中の賑やかな姿も、夕暮れ時のドラマチックな空も、もちろんアッサウィラの魅力のひとつです。しかし、この町を訪れるなら、ぜひ勇気を出して夜のメディナに足を踏み入れてみてください。そこには観光地としての表の顔に隠れた、アッサウィラの本当の姿が待っています。
壁画アートは、静寂に包まれる夜だからこそ、私たちの心に深く語りかけてくれるのかもしれません。潮風が運ぶその囁きに耳を傾ければ、きっとあなただけに届く特別なメッセージが見つかるでしょう。
次の旅は、ただの観光名所巡りだけではなく、五感を研ぎ澄まし心に刻まれる体験をモロッコ・アッサウィラで味わってみませんか?
旅の計画やさらに詳しい情報収集には、モロッコ政府観光局の公式サイトが大変役立ちます。ぜひ一度ご覧ください。

