生成AIの登場で、旅行計画は「どこか暖かい場所へ行きたい」といった曖昧なリクエストから具体的なプランが提案される「目的地未定」の旅探しへと変化しています
旅行の計画は、まず行き先を決めることから始まる──。そんな常識が、生成AIの登場によって大きく変わろうとしています。これまでのように具体的な地名を入力するのではなく、「どこか暖かい場所へ行きたい」「アートに触れられる静かな街は?」といった曖昧なリクエストから、AIが具体的な旅行プランを提案してくれる。そんな「目的地未定」の旅探しが、特に若年層を中心に新たなトレンドとして急速に広まっています。
加速する「曖昧検索」のトレンド
この動きを象徴するのが、大手旅行検索サイト「Kayak」の動向です。同社がAIを活用した対話型インターフェースを導入したところ、目的地や日付を指定しない、いわゆる「曖昧検索」を行うユーザーの割合が、平均的なユーザーの10倍に達したと報告しています。
これは、旅行者が計画の初期段階で、特定の目的地に縛られず、より自由なインスピレーションを求めていることの表れと言えるでしょう。生成AIは、ユーザーの漠然とした希望を汲み取り、これまで候補にすら挙がらなかったような意外な旅行先や、個人の趣味嗜好に合わせたユニークな旅のスタイルを提示することができます。
なぜ今、生成AIが旅行計画を変えるのか
この背景には、二つの大きな要因があります。
一つは、言うまでもなく生成AI技術そのものの進化です。自然な対話を通じて文脈を理解し、膨大なデータから最適な情報を引き出して提案する能力は、旅行という複雑な意思決定プロセスと非常に相性が良いのです。
もう一つは、旅行者のニーズの変化です。特にミレニアル世代やZ世代といったデジタルネイティブ層は、画一的なパッケージツアーよりも、自分だけの体験やパーソナライズされた情報を重視する傾向にあります。生成AIは、こうした個々のニーズに応える「デジタル・コンシェルジュ」として機能し、これまでの検索エンジンでは難しかった、偶発的な発見や感動(セレンディピティ)を旅の計画段階で提供してくれるのです。
旅行業界に訪れる新たな競争の時代
この変化は、旅行者にとってはより豊かでパーソナライズされた旅の選択肢が増えるというメリットがある一方で、旅行業界には新たな課題と競争をもたらします。
AIに選ばれるための新マーケティング戦略
これからのOTA(Online Travel Agent)や航空会社、ホテル、観光局にとって重要になるのは、自社のサービスやデスティネーションをいかにしてAIに「最適な提案」として選ばせるか、という視点です。
従来のSEO(検索エンジン最適化)に加え、今後はAIへの最適化、いわば「AIO(AI Optimization)」がマーケティングの新たな主戦場となる可能性があります。AIが学習するデータソースに自社の情報をいかに魅力的にインプットし、AIの提案ロジックの中で優位に立つかが、顧客との最初の接点を獲得する上で決定的に重要になるでしょう。
求められる役割の変化
旅行会社やOTAは、単なる予約・販売のプラットフォームから、顧客の旅のインスピレーションを刺激し、計画の初期段階から寄り添う「旅のパートナー」としての役割を強化する必要に迫られます。AIチャット機能を自社サービスにいち早く、かつ効果的に組み込み、顧客を囲い込む競争はさらに激化していくと予測されます。
生成AIが変えるのは、単なる検索方法だけではありません。それは、私たちが「旅」というものを考え、発見し、計画するプロセスそのものです。この大きな変化の波の中で、旅行者も、そして業界も、新しい旅のカタチを模索していくことになるでしょう。

