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    ブラジル南部の隠れた宝石、グアラミリンの食卓から紐解く豊かな暮らしの物語

    ブラジル、と聞いて皆さまの心に浮かぶのは、どのような風景でしょうか。灼熱の太陽が照りつけるリオのビーチ、情熱的なサンバのリズムが響き渡るカーニヴァル、あるいはアマゾンの雄大な自然や、香り高いコーヒーのプランテーションかもしれません。それらは紛れもなくブラジルの魅力的な一面ですが、この広大な国には、まだ私たちの知らない、奥深く、そして心安らぐ表情が隠されています。

    今回、私が旅の目的地として選んだのは、そうした喧騒とは少し離れた場所。ブラジル南部に位置するサンタカタリーナ州の小さな町、グアラミリンです。ここは、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパ、特にドイツからの移民が多く入植した土地。その影響は町のたたずまいや人々の暮らし、そして何よりも日々の食卓に色濃く残り、ブラジルでありながらどこかヨーロッパの田舎町を思わせる、独特の文化を育んできました。

    旅とは、美しい景色を見たり、史跡を訪れたりするだけではありません。その土地の空気を吸い、人々の日常にそっと触れ、彼らが何を大切にして生きているのかを感じること。そして、その最も純粋な姿が表れるのが「食」の世界だと私は信じています。

    グアラミリンの食卓には、家族の温もり、自然への感謝、そして先祖から受け継がれてきた知恵が、まるでおいしいスープのように溶け込んでいました。それは、日々の忙しなさの中で私たちがつい忘れがちになる、人生の豊かさそのもの。この旅は、そんな本質的な幸福とは何かを、一口、また一口と味わいながら見つめ直す、心満たされる時間となりました。

    さあ、一緒にブラジル南部の静かな町へ、美食と文化を巡る旅に出かけましょう。きっとこの記事を読み終える頃には、あなたの心も温かいスープで満たされているはずです。

    グアラミリンで味わったような、静寂と色彩に満ちた心の故郷をコロンビアの秘境ベナディージョでも見つけることができるかもしれません。

    目次

    ヨーロッパの風が薫る町、グアラミリンへ

    guaramirin

    サンパウロのグアルーリョス国際空港から国内線に乗り継ぎ、およそ1時間のフライト。目的地はサンタカタリーナ州の州都フロリアノーポリス、または工業都市ジョインヴィレの空港です。そこから車を走らせると、次第に風景が穏やかに変わっていきます。果てしなく広がるバナナのプランテーション、緩やかな丘陵地帯、その合間には切妻屋根が特徴的なヨーロッパ風の家々が点在しています。ここが私たちの旅の舞台、グアラミリンです。

    この町の歩みは、ブラジルの多くの都市とは少し異なります。19世紀後半、ブラジル政府は広大な未開拓地を開発し国を発展させるため、ヨーロッパからの移民を積極的に迎え入れました。特にドイツからは、土地を持たない農民や、宗教的・政治的な理由で故郷を離れた人々が新たな生活を求めて大西洋を渡ってきました。彼らが持ち込んだのは農業技術だけにとどまりません。言葉や宗教、建築様式、そして何よりも母国の食文化。グアラミリンの町を歩けば、その痕跡をあらゆるところで感じ取ることができます。

    町の中心部は決して大きな規模ではありませんが、清潔で整然としています。教会を囲む広場には人々が集い、憩いのひとときを過ごしています。パン屋(Padaria)からは豊かな香りが漂い、精肉店(Açougue)の店先には自家製ソーセージが吊るされているのです。一見するとブラジルの地方都市ですが、よく目を凝らせば看板にドイツ語由来の苗字が見え、メニューには「Apfelstrudel(アプフェルシュトゥルーデル)」の文字も。ブラジルという広大な国の中で、ヨーロッパの文化が大切に守られ、独自の発展を遂げていることをひしひしと感じました。

    この地域の気候はブラジル他地域に比べて温和で、四季がはっきりしています。冬には肌寒く感じるほどの季節の変化があり、この気候がジャガイモやキャベツ、豚肉といったドイツ料理に欠かせない食材の栽培を可能にし、食文化の基盤を築いています。豊かな森や川にも恵まれており、自然の恵みを存分に享受できる環境が、この土地の食の豊かさを支える大きな要因となっています。

    グアラミリンの人々は、勤勉で家族の絆を何より重んじると言われています。週末には家族や親戚、友人が集まり、庭先でシュラスコ(ブラジル風バーベキュー)の煙が立ち上ります。これは単なる食事会ではなく、何世代にもわたって受け継がれてきた大切なコミュニケーションの儀式です。この旅では、その温かい輪の中に少しだけ加わりながら、食卓に込められた物語を紐解いていきたいと思います。

    ブラジル南部の食卓の主役たち:伝統と革新の融合

    グアラミリンの食文化は、ブラジル固有の力強さとヨーロッパ由来の繊細さが絶妙に融合した、まさにハイブリッドな魅力を誇っています。ここでは、この地の食卓を彩る代表的な料理を、私の体験を交えてご紹介いたします。

    シュラスコの真髄:炎と肉、そして友情を繋ぐ儀式

    ブラジル料理を象徴するシュラスコ。しかし、南部で味わうシュラスコは、都市部のレストランで楽しむものとは一味違いました。それは単なる「肉料理」ではなく、人々が集い語り合い、絆を深めるための、週末恒例の神聖な儀式のような存在なのです。

    ある日曜日の午後、地元で知り合ったエンリケさんの自宅に招かれました。裏庭には立派なレンガ造りのシュラスケイラ(シュラスコ用グリル)が備えられています。火を熾す役目は家長のエンリケさんで、薪がパチパチと燃える音や、ゆっくり形成される熾火の光景を眺めているだけで心が落ち着きました。効率や早さを追求するのではなく、この「待つ」時間こそシュラスコの本質だと、彼は教えてくれました。

    主役の肉は塊のままで、特にこの地域で人気なのが「ピッカーニャ(Picanha)」と呼ばれる牛のイチボ肉です。厚みのある脂身が付いた赤身肉に、粗塩(Sal Grosso)を大胆に振りかけるだけ。驚くほどシンプルですが、これこそが肉本来の旨味を最大限に引き出す、ガウーショ(ブラジル南部のカウボーイ)伝統の方法です。

    長い串に刺されたピッカーニャは、熾火の上でじっくりと回転させながら焼かれます。脂が溶け落ちるたびに立ち上る香ばしい煙が食欲をそそります。エンリケさんは肉の焼き具合を慎重に見極め、ベストなタイミングで串を取り外しました。そして、長いナイフで表面の焼けた部分だけを薄く削ぎ落とし、私たちの皿にサーブしてくれました。外はカリッと香ばしく、中は鮮やかなロゼ色で、噛むとじゅわっと肉汁が広がります。岩塩のみの味付けが肉の甘みと深いコクを引き立てていて、その一口でシュラスコの概念が大きく覆されるほどの感動を味わいました。

    ピッカーニャ以外にも、牛のあばら肉「コステーラ(Costela)」は骨付きのまま数時間かけてじっくり焼き上げ、ほろっととろける柔らかさに仕上げられます。豚バラ肉やハーブとスパイスで味付けした自家製ソーセージ「リングイッサ(Linguiça)」も絶品です。焼いている間、男性たちはビールやカイピリーニャを片手に談笑し、女性たちはサラダや付け合わせの用意に忙しく、子どもたちは庭を駆け回っていました。世代を超えた家族の笑顔が溢れるその光景から、シュラスコは単に肉を焼いて食べることではなく、幸せな時間と空間そのものを象徴する言葉だと痛感しました。

    スポット名Churrascaria Roda D’Água
    住所Rodovia BR-280, 7555 – Imigrantes, Guaramirim – SC, 89270-000, Brasil
    特徴伝統的なシュラスコを余すところなく楽しめるレストラン。様々な部位の肉が次々とテーブルに運ばれる「ホディージオ」スタイルが人気で、新鮮な地元産野菜のサラダバーも充実。家族連れでにぎわっており、本格的なガウーショの雰囲気を味わいたい方に最適です。
    おすすめポイント名物のピッカーニャはもちろんですが、日本では珍しいクッピン(牛のコブ肉)もぜひご賞味ください。週末は混雑するため、早めの訪問をおすすめします。

    ヨーロッパの魂を伝えるパンと焼き菓子

    グアラミリンの朝は、パダリア(パン屋)から漂う焼きたてパンの香りと共に始まります。ドイツ移民が持ち込んだパン文化はこの地域に深く根付き、日々の生活に欠かせない存在です。

    ブラジルで一般的なパンといえばチーズパンのポン・デ・ケイジョ(Pão de Queijo)や軽い食感のフランスパン(Pão Francês)ですが、ここでは重厚なライ麦パンや、トウモロコシ粉を使った素朴な甘みの「パン・デ・ミーリョ(Pão de Milho)」など、ヨーロッパの面影を強く感じさせるパンが多く焼かれています。

    私がとりわけ惹かれたのは「クーカ(Cuca)」というドイツ由来の焼き菓子です。発酵させた甘いパン生地の上に、フルーツや、小麦粉、砂糖、バターを混ぜて作る甘いそぼろ「ファロッファ・ドーセ(Farofa Doce)」を乗せて焼き上げます。バナナ、リンゴ、ブドウ、グアバなど季節の果実を使った多彩なクーカがショーケースに並び、眺めているだけでも心が和みます。外はサクサク、中はしっとりの生地に、フルーツの甘酸っぱさとそぼろの甘みが絶妙に調和。濃厚なカフェ・コン・レイチ(カフェオレ)と共に楽しむ地元の人々の朝食やコーヒーブレイクには欠かせない一品です。

    ある日、こぢんまりとした家族経営のパダリアを訪ねました。店の奥では、白髪の女性が大きな木製ボウルで生地をこねており、きっとこの店の“オーマ”(ドイツ語でおばあちゃんを意味する)なのでしょう。その手際は力強く、それでいて深い愛情に満ちていました。何世代にもわたり受け継がれてきたレシピは単なる焼き菓子を超え、家族の歴史そのものだと感じました。彼女は多くを語らずともにこやかに微笑み、焼きたてのクーカの一切れを差し出してくれました。その甘さの優しさは私の旅の思い出に鮮やかに刻まれています。

    スポット名Padaria e Confeitaria Pão de Mel
    住所R. 28 de Agosto, 1777 – Centro, Guaramirim – SC, 89270-000, Brasil
    特徴地元で長く愛されるパンと菓子の店。早朝から開店し、焼きたてパンやクーカを求める客で賑わいます。イートインスペースもあり、モーニングやランチ利用に最適。手作りジャムやチーズの販売もあります。
    おすすめポイントバナナを使ったクーカ(Cuca de Banana)は地域の定番特産品。ぜひ味わってみてください。週末限定の特別なパンも登場するので、店員に尋ねると楽しい発見があります。

    フェイジョアーダ – 国民食の南部流アレンジ

    水曜と土曜は、ブラジル各地の多くのレストランでフェイジョアーダ(Feijoada)が提供される日です。黒豆と豚肉、牛肉をじっくり煮込んだこの料理は、ブラジルを象徴する国民食ともいえます。

    リオデジャネイロやサルヴァドールなど、アフリカ文化の色濃い地方では、豚の耳や足、尻尾なども余すところなく用いるのが伝統的ですが、ここグアラミリンで味わったフェイジョアーダは、少し趣向が変わっていました。基本のレシピは同じながら、ドイツやイタリア移民が持ち込んだ燻製技術が加味されているのです。

    燻製された豚のあばら肉や地域特産のブラッドソーセージ、そして「リングイッサ・ブルメナウ(Linguiça Blumenau)」と呼ばれる、近隣のドイツ系移民の町ブルメナウ発祥の生ソーセージが使われ、スープには深みのある複雑なスモーキーな香りが漂います。豆のまろやかさ、塩漬け肉の旨味、燻製の芳醇な薫りが一体となり、一度食べるとスプーンが止まらなくなります。

    フェイジョアーダには欠かせない付け合わせがあります。真っ白なご飯、細かく刻んで炒めたケールの「コウヴィ(Couve)」、そしてキャッサバ芋の粉を炒った「ファロッファ(Farofa)」。これらをお皿の上で混ぜながら食べるのがブラジル流です。さらに、オレンジスライスが濃厚な料理の合間に爽やかな酸味を添え、口の中をさっぱりとリセットしてくれる。この組み合わせの妙は、食文化の知恵の結晶といえるでしょう。

    週末のランチタイム、フェイジョアーダ目当ての家族連れでレストランは満席でした。大鍋から湯気を上げる黒い煮込み料理を囲み、ビール片手に皆が笑顔で語らう光景。時間をかけてゆったりと楽しむその食事の場から、フェイジョアーダは単なる料理ではなく、人々を結びつけ心豊かな時間を紡ぐ魔法の一皿だと感じました。

    地元の恵みを味わう:市場と農園からの贈り物

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    グアラミリンの食文化を支えているのは、何と言ってもこの地の豊かな自然環境です。肥沃な土壌で育つ新鮮な野菜や果物、そしてそれらを丹精込めて育てる人々の想い。この地域の恵みに触れることで、私はここでの暮らしの豊かさをよりいっそう深く感じ取ることができました。

    フェイラ・リヴレ(青空市場)の活気と彩り

    週に一度、町の広場に開かれるフェイラ・リヴレ(Feira Livre)、いわゆる青空市場は、グアラミリンの食卓の中心地です。早朝になると、近隣の農家たちが誇る新鮮な農産物を満載した軽トラックを次々に駆って集まってきます。

    テントの下にずらりと並ぶのは、まるで画家のパレットのように鮮やかな野菜や果物の数々。太陽の光をたっぷり浴びて真紅に熟したトマト、濃い緑の力強い葉野菜、見たことのない形をしたさまざまなカボチャ。そして、この地方の名産であるバナナやパッションフルーツ、マンゴーが、南国特有の甘美な香りを市場全体に漂わせています。

    この市場は、単に物を買う場所ではなく、生産者と消費者が直接顔を合わせて交流する大切なコミュニケーションの場でもあります。「このマンゴーは今が一番おいしいよ」「このアイピン(Aipim、キャッサバ芋)はどうやって調理するといい?」といった会話があちこちで交わされています。ポルトガル語がほとんど分からない私にも、農家の男性は満面の笑顔でパステウ(ブラジル風揚げ餃子)をひとつおまけしてくれました。言葉の壁を越えて伝わる温かい人情に、心がじんわりとあたたまるのを感じました。

    市場を歩きながら、ハーブやスパイスを売る屋台、自家製のチーズや蜂蜜を並べる店、さらには揚げたてのパステウや搾りたてサトウキビジュース(Caldo de Cana)をその場で味わえる屋台など、次々と新鮮な発見があります。特に、搾りたてのサトウキビジュースにライムをぎゅっと絞った一杯は、歩き疲れた身体に染みわたる、自然で優しい甘さでした。市場の活気、人々の笑顔、そして新鮮な食材に宿る生命力――これらすべてが、グアラミリンの暮らしの豊かさを象徴しているように思えました。

    スポット名Feira Livre de Guaramirim
    住所R. 28 de Agosto – Centro, Guaramirim – SC(市庁舎周辺の広場で開催)
    特徴毎週土曜午前中に開催される青空市場。地元の農家が旬の野菜や果物、加工品を販売します。食品だけでなく、手作りの工芸品も並び、見て回るだけでも楽しいです。地域の生活に触れる絶好のスポットです。
    おすすめポイント市場で売られるパステウはぜひ味わってほしい一品。チーズ味や挽肉味などバリエーション豊富です。新鮮なフルーツもお得に手に入るので、ホテルで楽しむためにいくつか買い求めるのもおすすめです。

    バナナ農園とアグロツーリズム体験

    グアラミリンおよび周辺地域は、ブラジル内でも有数のバナナ産地として知られています。郊外へ車を走らせると、一面に広がる緑の葉が印象的な広大なバナナ農園を見ることができます。

    この地にはアグロツーリズム(農業体験観光)に取り組む農園もあり、私はそのひとつを訪問しました。農園主のマルコスさんは三代続くバナナ農家で、広大な農園を案内しながら熱心にバナナ栽培のコツを語ってくれました。私たちの普段目にするのはごく一種類のバナナですが、ここでは調理用の大ぶりな品種から、リンゴのように酸味のある小型の種類まで、多様な品種が育てられています。「バナナは、太陽と水、そして愛情さえあれば、一年中実をつけてくれる、ありがたい植物なんだ」と自信に満ちた表情で話す彼の言葉に、深い誇りを感じました。

    収穫したてのバナナをその場で味わうと、濃厚で濃密な甘みと芳醇な香りに驚かされます。私たちが普段口にしているものとはまったく異なる、本物の果物の味わいを実感しました。

    農園敷地内のレストランでは、マルコスさんの奥様が腕を振るうバナナをふんだんに使った料理を堪能できます。甘くない調理用バナナを揚げた「バナナ・フリッタ(Banana Frita)」は、ほくほくとした食感で、肉料理の付け合わせに最適。バナナの葉で包み蒸しにした魚料理は、葉の香りがほんのり移り、味わい深い一品です。デザートには、手作りのバナナケーキとバナナジャムが振る舞われ、ひとつの食材の多彩な顔を目の当たりにして感動しました。

    土と共に生き、自然のリズムに寄り添いながら作物を育て、感謝を込めて無駄なくいただく。このアグロツーリズム体験は、食の根源に立ち返り、持続可能な暮らしの在り方を考えさせられる貴重な機会となりました。

    カシャッサ蒸留所:ブラジルの魂が生まれる場所

    ブラジルの代表的なお酒といえば、サトウキビを原料とする蒸留酒「カシャッサ(Cachaça)」が欠かせません。国民的カクテル「カイピリーニャ」のベースとして知られていますが、その奥深さはウイスキーやラムにも決して劣らず、豊かな個性を持っています。

    グアラミリン近郊には、伝統的な製法を守り続ける小規模なカシャッサ蒸留所(Alambique)が点在しており、私はそのうちの一軒、家族経営の小さな蒸留所を訪ねました。ここでは収穫したサトウキビを水牛の力で動かす圧搾機で絞り、銅製の蒸留器で丁寧に蒸留する昔ながらの手法が大切に伝承されています。

    蒸留したてのカシャッサはクリアで、青々しく新鮮なサトウキビの香りが特徴です。これを「ブランカ(Branca、白)」や「プラタ(Prata、銀)」と呼び、カイピリーニャの主原料として使われます。

    しかし、この蒸留所の醍醐味は熟成カシャッサにあります。蒸留した原酒を、ブラジル特有の木材で作られた樽にて数年にわたりじっくりと寝かせるのです。ウイスキーで使うオークの他にも、アンブラーナ、ジェキチバ・ホーザ、バルサモといった日本では馴染みの薄い樹種が各々カシャッサに独特の風味をもたらします。アンブラーナ樽熟成のものはバニラやシナモンに似た甘くスパイシーな香りがし、バルサモ樽ではアニスのような爽やかで複雑なハーブの香りを感じます。いくつかの種類をテイスティングさせていただくと、その香りと味の幅広さにカシャッサへのイメージが一変しました。

    職人気質の蒸留所主は、「カシャッサづくりは子育てに似ている。時間も手間もかかるが、愛情を注げば必ず応えてくれる」と、樽を優しく撫でながら話してくれました。彼の言葉には、伝統を守りながら土地の恵みを最大限に活かそうとするブラジルの職人魂が宿っていました。夕暮れ時、カイピリーニャを手にサトウキビ畑を渡る風の音に耳を傾ける時間は、何物にも代えがたい贅沢なひとときでした。

    スポット名Alambique e Cachaçaria Bylaardt
    住所Estrada Blumenau, 6701 – Blumenau, Luiz Alves – SC, 89128-000, Brasil(グアラミリンから車でアクセス可能)
    特徴多くの受賞歴を持つ高品質カシャッサを生産。伝統的製法の見学ツアーや、多種多様なカシャッサのテイスティングが楽しめます。併設ショップではお土産に最適な商品も購入可能。
    おすすめポイント様々な樽で熟成させたカシャッサの飲み比べセットは特におすすめ。異なる香りと味わいの違いに驚くでしょう。運転予定の方はテイスティングは控えめに。

    食卓から見える、グアラミリンの豊かな暮らし

    グアラミリンでの滞在を通して、食事が単に空腹を解消する手段ではなく、その土地の人々の生活を映し出す鏡であることを強く実感しました。彼らの食卓には、私たちが見習うべき豊かな生き方のヒントが満ち溢れていました。

    「カフェ・コロニアル」—午後のゆったりとした贅沢なひととき

    ブラジル南部、とりわけドイツ系移民の文化が根付いている地域では、「カフェ・コロニアル(Café Colonial)」という独自の食文化が存在します。これは直訳すれば「植民地時代のコーヒー」ですが、実際の内容は私たちの想像をはるかに超える、豪華で豊かな午後の食事です。

    休日の午後、私は地元で評判のカフェ・コロニアルを提供する店を訪れました。席に着くと、そこから驚きの連続が始まります。次々とテーブルに料理が運ばれ、たちまち満たされてしまうほどの量が並ぶのです。

    焼きたてのパン数種、季節の果物を使ったクーカやタルト、チョコレートケーキが並びます。自家製ジャムはイチゴやブドウなど定番に加え、グアバやパッションフルーツなども用意されています。チーズは、新鮮なミナスチーズから熟成されたものまで数種類。さらにサラミやコッパ(豚の首肉の生ハム)、燻製ソーセージなどの肉加工品も豊富です。温かい料理としては鶏肉のフリカッセや、トウモロコシ粉を練ったポレンタのフライも出されます。香り高いコーヒーや紅茶、フレッシュジュースは飲み放題で提供されます。

    もはや「おやつ」や「軽食」の範囲を超えていますが、人々は急いで食べることはありません。家族や友人とテーブルを囲み、語らいながら2時間、3時間とじっくりとこの豊かな食卓を楽しむのです。

    カフェ・コロニアルは日々の仕事から解放され、大切な人たちとゆったり時間を共有し、人生を祝うための時間。効率や生産性と無縁の、ただただ豊かで満ち足りたひとときが、そこには流れていました。忙しい現代に生きる私たちにとって、このような時間の贅沢は何にも代えがたいのではないでしょうか。お腹も心も満たされるこの文化は、グアラミリンの人々が守り続ける「丁寧な暮らし」の象徴だと感じました。

    スポット名Strudel Haus
    住所R. 28 de Agosto, 3030 – Centro, Guaramirim – SC, 89270-000, Brasil
    特徴本格的なドイツ風焼き菓子や豪華なカフェ・コロニアルが味わえる店。特に店名にもなっているシュトゥルーデル(Strudel)は絶品です。店内はヨーロッパのカフェのような落ち着いた雰囲気で、ゆったり過ごせます。
    おすすめポイントカフェ・コロニアルは量が非常に多いため、空腹で訪れるのがベスト。週末は予約をしておくことをおすすめします。甘いものだけでなく、塩気のある料理も充実しているのが嬉しいポイントです。

    家族の絆とコミュニティのあたたかさ

    グアラミリンの食卓はいつも家族と共にある。それが私がこの旅で最も強く感じたことでした。週末のシュラスコ、日曜のランチ、誕生日や祝祭日など、何かにつけて人々は集まり、食卓を囲みます。その中心にはいつも家族がいます。

    ホームパーティーに招かれた際、三世代、四世代が共に過ごす光景を目にしました。おじいちゃんが孫に昔話を聞かせ、お母さんと娘たちが一緒にキッチンに立ち、お父さんたちは外で肉を焼く。それぞれの役割を担い、家族という一つのチームとして、その日の食事を作り上げていました。

    食卓で交わされる会話は日常の他愛ない話から人生相談までさまざまですが、いつも大切にされているのは互いを思いやる心です。困っている人がいれば誰かがすぐに手を差し伸べ、喜びは皆で分かち合い、悲しみは共に乗り越える。食卓は家族の絆を見つめ直し、深めるためのかけがえのない場なのです。

    そして、その輪は家族だけでなく、友人や隣人、そして私のような旅人にも開かれています。「さあもっと食べて」「これは私の母のレシピなのよ」と、彼らのおもてなしは見返りを求めない純粋な愛情そのものでした。デジタルが主流の現代において、こうして顔を合わせ同じ食事を囲むことの大切さを、彼らの姿は静かに教えてくれているように感じました。

    自然との共生と感謝のこころ

    グアラミリンの人々の暮らしは、常に自然と共にあります。各家庭の庭先には小さな家庭菜園(Horta)があり、ミントやローズマリーなどのハーブやトマト、レタスなど日常的に使う野菜を育てています。料理に使うハーブは、必要な時に庭に出て摘み取り、その分だけ使う。簡素ながらもとても豊かな営みです。

    市場で旬の果物を買いすぎて食べきれない時は、ジャムやコンポートに加工して保存。野菜の切れ端はコンポストにして土へ返す。食材を無駄にしない知恵が、何世代にもわたり受け継がれ、今も生活の中に息づいています。

    彼らは自分たちの口に入るものが、どこから来ているのかをよく知っているのです。太陽の光、雨の恵み、大地の実りに対する深い敬意と感謝の念が、彼らの料理の根底には流れています。だからこそ、彼らの手料理は滋味深く、心と体にじんわりと優しく染み渡るのでしょう。

    この地で過ごすうちに、私自身の食に対する考え方も少しずつ変わっていくのを感じました。単に空腹を満たすだけでなく、食材の本来の力を感じ、作り手に感謝し、そして一食が自分の心と体を育んでいることを改めてじっくり考えるようになったのです。

    旅の終わりに:グアラミリンが教えてくれた、人生の味わい方

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    ブラジル南部に位置する小さな町グアラミリンでの旅は、私の五感を満たし、心を豊かにしてくれる、かけがえのない体験となりました。

    この地の食卓から浮かび上がったのは、単なる美味しい料理の数々だけではありません。それは、家族を大切にし、地域社会を思いやり、自然の恵みに感謝しながら、一日一日を丁寧に紡いで暮らす人々の姿そのものでした。

    週末のシュラスコから立ち昇る煙の中で聞こえる家族の笑い声。パダリアでオーマが焼くクーカの穏やかな甘み。農園主が語るバナナへの深い愛情。そしてカフェ・コロニアルで流れる、ゆったりとした豊かな時間。それぞれの光景が、人生の本当の豊かさとは何かを私に問いかけてきました。

    効率や迅速さが重視される現代社会のなかで、私たちは時として立ち止まり、味わうことを忘れがちです。しかし、グアラミリンの人々は、毎日の食事という最も身近な行為を通じて、人生をゆっくりと味わう術を心得ていました。彼らの食卓は、文化であり歴史であり、コミュニケーションであり、そして何よりも愛の表現でした。

    もしあなたが、次の旅先にただ美しさだけでなく、心に深く刻まれる何かを求めているのなら。日常から少し離れて、人生の豊かさを改めて見つめ直したいと願うのなら。ぜひ、ブラジル南部のこの静謐で美しい町を訪れてみてください。

    きっとグアラミリンの温かい食卓があなたをやさしく迎え入れ、忘れていた大切な何かを思い起こさせてくれるでしょう。そして旅の終わりには、あなたの心にも温かく、とろけるような、忘れがたい味わいが残っていることと思います。

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    この記事を書いた人

    子供の頃から鉄道が大好きで、時刻表を眺めるのが趣味です。誰も知らないような秘境駅やローカル線を発掘し、その魅力をマニアックな視点でお伝えします。一緒に鉄道の旅に出かけましょう!

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