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    時が止まったカリブの楽園へ。魂を癒すキューバ・キュエト、手つかずの自然と心温まる出会いの旅

    クラシックカーが走り、陽気な音楽が街角から聞こえ、葉巻の香りが漂う…。「キューバ」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、そんなエネルギッシュで色彩豊かな光景ではないでしょうか。ハバナの旧市街を散策し、バラデロの美しいビーチでモヒートを片手に夕日を眺める。それもまた、キューバの持つ素晴らしい魅力の一つです。

    ですが、もしあなたが、日常の喧騒から離れ、もっと深く、もっと穏やかに自分自身と向き合う時間を求めているのなら。観光地化された場所ではない、ありのままのキューバの鼓動を感じたいと願うのなら。私が今回旅した、東部の小さな町「キュエト(Cueto)」を、心の底からおすすめしたいのです。

    ヨーロッパの洗練された街並みやアートを巡る旅を主戦場としてきた私にとって、このキュエトへの旅は、まさに新しい扉を開くような体験でした。そこには、煌びやかな観光名所も、高級なレストランもありません。あるのは、どこまでも広がるサトウキビ畑、鬱蒼と茂る森、そして何よりも、太陽のように明るく、温かい心を持った人々の笑顔でした。

    この記事では、まだ日本のガイドブックにはほとんど載っていない、キューバの原風景が息づく町、キュエトの魅力をご紹介します。都会の忙しさに少し疲れてしまったあなたへ。物質的な豊かさではなく、魂が満たされるような本物の体験を求めるあなたへ。この旅の記録が、次なる一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

    魂を揺さぶる旅をさらに探求したい方は、キューバのアフロ・キューバ宗教が息づく町、チャンバスへの旅もご覧ください。

    目次

    カリブの歌に誘われて、キュエトという名の心の故郷へ

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    そもそも、なぜ「キュエト」という名前が選ばれたのか。それは、キューバを代表する音楽団体、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが奏でる一曲がきっかけでした。コンパイ・セグンドが歌う『チャン・チャン』の歌詞には、こんなフレーズがあります。

    「Alto Cedro, voy para Marcané, llego a Cueto, voy para Mayarí」 (アルト・セドロからマルカネへ向かい、キュエトに到着し、マヤリへ進む)

    軽快なメロディーにのせて歌われるキューバ東部の地名。この曲は、キューバの人々にとって心のふるさとを歌い上げる、誰もが自然と歌える大切な一曲なのだそうです。歌詞に登場する「キュエト」とはどんな場所なのか。そんな純粋な興味が私を未知の街へと誘いました。

    キュエトは、キューバ第二の都市サンティアーゴ・デ・クーバがあるサンティアーゴ・デ・クーバ州と、美しいビーチで知られるオルギン州のちょうど中間に位置し、オルギン州に属する小さな自治体です。かつてはサトウキビ産業で栄え、現在も周囲には広大なサトウキビ畑が広がっています。ハバナのような華やかさはないものの、ここには時間が止まったかのような古き良きキューバの日常が色濃く残っていました。

    街に足を踏み入れた瞬間、まず感じたのは、広がる空の高さと濃厚な空気。そして、パステルカラーに塗られた平屋が連なる、どこか懐かしさを感じさせる風景です。道端では、ロッキングチェアに揺られながら談笑する高齢者たち、裸足で元気に走り回る子供たち、そしてすれ違う人々が「オラ!(こんにちは!)」と屈託のない笑顔で声をかけてくれます。それは観光客としてではなく、一人の人間として歓迎されているような、不思議な安心感をもたらしてくれました。

    ここでは誰もが急いでいません。時計の針の動きが、都会とは明らかに違います。便利さや効率とは無縁の世界。しかし、だからこそ感じられる豊かさが、この街には溢れていました。

    魂が洗われる、手つかずの緑と大地のエネルギー

    キュエトの最大の魅力は、その圧倒的な自然環境にあります。人工的な観光施設はほとんど見られませんが、だからこそ体感できる地球本来のエネルギーが、心身をじっくりと癒やしてくれます。

    シエラ・クリスタル国立公園の麓で深呼吸を

    キュエトは、キューバで最初に設立された国立公園である「シエラ・クリスタル国立公園」へ向かう玄関口の一つです。この地域は、カリブ海固有の動植物が豊富に暮らす、生物多様性の宝庫として知られています。公園の核心部に入るには特別な許可や入念な準備が必要ですが、周辺の自然を散策するだけでも、その豊かさの一端を味わえます。

    私は地元ガイドを頼み、森の奥へ続く小道(トリリョ)を歩いてみました。一歩足を踏み入れると、ひんやりと湿った空気が肌を包み込み、文明の喧騒はまるで嘘のように遠ざかります。耳に届くのは、名前も知らない数々の鳥のさえずり、風が木の葉を揺らす音、そして自分の呼吸と心臓の鼓動だけ。見上げれば、シダや着生植物に覆われた巨木が天井を形成し、木漏れ日がキラキラと地面に降り注いでいました。

    ガイドは時折立ち止まり、薬草として用いられる植物や、キューバ固有の世界最小の鳥「スンシュンシート(ハチドリの一種)」の見つけ方を教えてくれます。彼の話に耳を傾け、土の香りを深く吸い込むと、体内に溜まった澱のようなものがゆっくりと浄化されていくのを実感しました。デジタル機器から完全に解放され、五感すべてで自然と対話するこの時間は、何ものにも代えがたいデトックス。これほど贅沢な瞑想体験はほかにありません。

    トレッキングの途中、小さな滝壺にたどり着きました。エメラルドグリーンに輝く水は驚くほど冷たく、澄み切っていました。ガイドに促され、靴を脱いで水に足を入れると、全身に爽快な衝撃が走ります。まるで大地のエネルギーが足裏から直接流れ込み、都会で忘れかけていた本来の自然との繋がりをここで改めて感じ取ることができました。

    スポット名シエラ・クリスタル国立公園周辺の自然探検
    場所キュエトから車でアクセス可能な国立公園近辺エリア
    体験内容ガイド付きハイキング、バードウォッチング、滝での水浴び、森林浴
    注意点経験豊かな地元ガイドの同行を必ず推奨します。個人だけでの入山は非常に危険です。虫刺されや怪我を防ぐため、長袖・長ズボン、滑りにくいトレッキングシューズの着用が必須です。強力な虫除けスプレーと十分な飲料水も忘れず持参してください。
    おすすめポイント文明の喧騒から切り離された空間で、心身ともにリフレッシュ可能。キューバ固有の動植物との出会いは、一生の思い出になるでしょう。

    風に揺れるサトウキビ畑のハーモニー

    キュエトの町を囲むように、限りなく広がるサトウキビ畑が広がっています。これはキューバの歴史や経済を支え続けてきた、国の原風景そのものです。車で郊外へ向かうと、一面に緑の絨毯が地平線の果てまで続いていました。

    私が訪れたのは、まさに収穫期を迎える直前の頃でした。背丈を超えるほどに成長したサトウキビが、カリブの貿易風に揺れ、さわさわと穏やかな音を奏でています。それはまるで、大地が織りなすオーケストラのような響き。不思議とその音色に心が穏やかになっていきました。

    時折、サトウキビを山盛りに積んだ牛車や、年月を感じさせる古いトラックが土埃を上げながらゆったりと通り過ぎていきます。その様子はまるでタイムスリップしたかのようで、効率やスピードとは無縁の世界で自然のリズムに沿って暮らす人々の姿が浮かび上がります。

    幸運にも畑で働いていたカンペシーノ(農家)の方と話す機会がありました。日に焼けた顔に深い皺が刻まれた彼は、マチェーテ(山刀)で一本のサトウキビを切り倒し、「飲んでみるか?」と笑顔で差し出してくれました。その場で皮を剥いで節をかじると、じゅわっと甘い汁が口いっぱいに広がります。砂糖の人工的な甘さとは異なり、生命の力に満ちた瑞々しく優しい甘さでした。彼はこれを「ガラポ」と呼び、暑い日の労働時に最高の栄養補給になると教えてくれました。

    果てしなく続く緑の畑の真ん中に立ち、大地の恵みをそのまま体感する。これ以上ないほどのグラウンディング体験です。自分の足元がしっかりと大地に根を張り、自然と一体になっているような感覚。スピリチュアルに興味のある方なら、この場所がどれほど強力なエネルギースポットであるかをきっと感じられるでしょう。

    星降る夜空と宇宙との対話

    キュエトの夜は深く、静謐に包まれています。町の中心から少し離れるだけで、人工の灯りはほとんど届かなくなります。私が滞在していたカサ(民泊)の裏庭で夜空を見上げた瞬間、その美しさに息をのんでしまいました。

    そこには、「降り注ぐ」という表現がふさわしい満天の星空が広がっていました。漆黒のキャンバスに大小無数のダイヤモンドが散りばめられたような光景。天の川が白く淡い帯となり、夜空を横切っていました。日本では到底見ることのできない、星々本来の輝きです。

    ロッキングチェアに身を任せ、ただただ空を見上げていると、流れ星がいくつも尾を引いて消えていきました。広大な宇宙のなかにいる自分のちっぽけさと同時に、この宇宙の一部として生きていることへの計り知れない感謝が心の底から湧き上がります。

    日中の雑多な悩みや喧騒が、この星空のもとでは小さなことに思えてしまうのが不思議です。情報に溢れた日常から離れ、静寂のなかで宇宙と対話する時間は、自分自身の内なる声を聴く絶好の機会となりました。キュエトの夜空は、どんなパワースポットよりも深く静かに、私の魂を優しく癒してくれたのです。

    言葉はいらない。笑顔が繋ぐ心温まる人々との出会い

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    キューバの旅の魅力は、美しい景色や豊かな文化だけにとどまりません。何よりも心に深く刻まれるのは、現地で出会う人々との温かな交流です。特に観光地化されていないキュエトのような小さな町では、純粋で心温まる触れ合いを体験できました。

    「我が家」と感じられる場所、カサ・パルティクラルでの滞在

    キューバを訪れるなら、ホテルではなく「カサ・パルティクラル」に宿泊することを強くおすすめします。これは地元の家庭が旅行者に部屋を貸し出す、政府認可の民宿制度です。特にキュエトのような小さな町では、カサに泊まることでキューバの真の暮らしを肌で感じることができます。

    私が滞在したのは、庭にマンゴーの木が立つピンク色の可愛らしい家でした。ホストのマルタさんとロベルトさんの夫妻は、まるで本当の娘のように私を温かく迎えてくれました。部屋は清潔で快適で、何よりマルタさんの手料理が絶品でした。

    朝食には庭で摘んだばかりのマンゴーやグアバ、パパイヤなどのトロピカルフルーツがたっぷりと並び、手作りのパンと淹れたての濃く甘いキューバコーヒーが添えられました。昼にはシンプルながら味わい深い豆のスープとご飯をいただき、夜は豚肉のローストや鶏肉の煮込みをメインに、アロス・コングリ(豆と一緒に炊いたご飯)やトストーネス(揚げバナナ)が付け合せとして供されました。どれも素朴でありながら愛情が込められた、家庭の味そのもの。レストランでは味わえない「おふくろの味」ならぬ「マンマの味」と言えるでしょう。

    食事の時間は、家族とのかけがえのない交流の場でもあります。私の不慣れなスペイン語に対しても、二人は身振り手振りを交えながら町の歴史や家族のこと、キューバの生活についてさまざまに語ってくれました。言葉が完璧に通じなくても、伝えたい気持ちと理解しようとする心があれば、自然と心が通じ合うのだと実感しました。

    夜になると停電になることも珍しくありません。そんな時はロウソクの灯りのもと、ロベルトさんの大好きなドミノゲームを楽しんだり、静かに語り合ったりします。不便を嘆くのではなく、その状況を楽しんでいる彼らの様子から、本当の豊かさとは何かを教えられた気がしました。

    滞在方法カサ・パルティクラル(Casa Particular)
    概要政府認可の個人宅宿泊施設(民泊)
    探し方キューバで広く利用されているアプリやウェブサイトで事前予約が可能。現地では青いイカリマークの看板を見つけて直接交渉することもできます。
    料金の目安1泊あたり25〜35米ドル相当(食事は別料金)。料金は交渉できることもあります。
    おすすめポイントキューバの家庭の温かさを直に感じられます。地元情報やおすすめスポット、ガイドの紹介などもホストから教えてもらえることが多く、旅の大きな助けになります。手作りの家庭料理は忘れがたい思い出になるでしょう。

    町の中心、パルケで生まれる一期一会

    キューバのどの町にも中心に「パルケ」と呼ばれる公園や広場があります。多くの場合ここにはWi-Fiスポットが設置されていて、スマートフォンを手にした若者たちが集いますが、それだけにとどまりません。パルケは老若男女が集い、語らい、憩う、街のコミュニティの心臓部なのです。

    キュエトのパルケも例外ではありません。昼下がりに木陰のベンチに腰かけて人々を眺めていると、飽きることがありません。チェスに興じる年配の方々、恋話を楽しむ若いカップル、ボール遊びに歓声をあげる子どもたち。時間がゆったりと流れ、豊かな空気が満ちています。

    ただ座っているだけで、さまざまな人が話しかけてきます。「どこから来たんだ?」「日本のことを教えてくれ」と。彼らの好奇心は旺盛で、私のような東洋からの珍しい訪問者に興味津々のようです。野球の話題で盛り上がったり、日本の写真を見せると目を輝かせて喜んでくれました。

    ある日、ベンチで休んでいると、一人の老人が隣に座り、古びたギターを取り出して静かに『チャン・チャン』を弾き語り始めました。私がこの曲がきっかけでキュエトを訪れたことを伝えると、彼はしわくちゃの顔をくしゃくしゃにして笑い、「そうか、この歌が君をここに呼んだんだな」と嬉しそうに言ってくれました。彼のしゃがれたけれど温かな歌声は、カリブ海の乾いた風に乗って私の心に深く染み込みました。それはどんな有名なコンサートホールで聴く音楽よりも、魂に響く体験でした。

    言葉の壁を溶かす音楽とダンスの夜

    キューバの人々の暮らしに音楽とダンスは欠かせません。それは単なる娯楽にとどまらず、彼らの魂の表現そのものです。キュエトの夜、小さなバーからソンやサルサの陽気なリズムが漏れ聞こえてくると、人々は自然とその場に引き寄せられます。

    最初は遠巻きに見ていた私も、地元の人に「¡Vamos a bailar!(一緒に踊ろう!)」と手を引かれ、フロアの輪の中へ。サルサのステップは全く知らなかったものの、そんなことは問題になりません。彼らは下手な私の動きを笑うどころか、手を取り腰に手を添えて優しくリードしてくれました。「音楽を感じて。心で踊るんだよ!」という言葉の通り、理屈抜きでリズムに身を任せるうちに、不思議と体が動き始め、言葉にできない高揚感と一体感に包まれました。

    アパレル企業で働く私は日頃、トレンドや外見の美しさを重視することが多いのですが、ここではそんなものは全く関係ありません。年齢も国籍も服装も関係なく、音楽という共通言語を通じて誰もが一瞬一瞬を等しく楽しんでいるのです。汗だくになって笑い合い、踊り明かした夜。言葉の壁は音楽の前ではたやすく溶け去るのだと知りました。この経験は私の価値観を大きく変え、心からの解放をもたらしてくれました。

    大地の恵みをいただく、キュエトの素朴な食文化

    旅の醍醐味といえば、やはり「食事」です。キュエトには高級レストランは見当たりませんが、地元で採れた新鮮な食材を活かした、心身に優しい料理が豊富にあります。

    素材の美味しさが際立つクレオール料理の真髄

    キューバの家庭料理は「コミーダ・クリオーヤ(クレオール料理)」と呼ばれ、スペイン、アフリカ、カリブ地域の食文化が融合した独特のスタイルを持ちます。キュエトで味わった料理は、どれも素材の旨味を引き出したシンプルで深い味わいでした。

    基本はアロス(お米)とフリホーレス(豆)。特に黒いんげん豆とお米を一緒に炊き上げた「アロス・コングリ」は、キューバの食卓に欠かせないソウルフードです。これに豚肉や鶏肉のロースト、ユカ芋やマランガ芋のフライ、揚げバナナの「トストーネス」などが添えられます。

    派手さはありませんが、一口頬張ると食材の力強い風味が口いっぱいに広がります。化学調味料に頼らず、にんにくや玉ねぎ、クミンなどのスパイスに加え、塩、胡椒、ビネガー、そして太陽の恵みをたっぷり浴びた野菜の旨味だけで作られるこれらの料理は、毎日食べても飽きず、むしろ食べるほどに体が元気になるのが感じられました。

    滞在したカサのホスト、マルタさんから教わったのは、キューバ料理の美味しさの秘密が「ソフリート」にあるということ。にんにく、玉ねぎ、ピーマンなどを油でじっくり炒めたもので、いわばキューバ版の香味ベースです。このソフリートを土台に、多彩な料理が生まれるそうです。手間を惜しまず、愛情を込めて作られる家庭の味。この温もりが旅人の疲れた胃と心をそっと癒してくれました。

    地元民に愛される「パラダール」を見つけて

    カサでの食事も素晴らしいですが、外食するなら「パラダール」と呼ばれる個人経営のレストランがおすすめです。国営レストランよりもメニューの自由度が高く、オーナーの工夫が光る料理に出会えることがあります。

    キュエトのような小さな町では、立派な看板を掲げたパラダールはそれほど多くありません。しかし、地元の人に「美味しい店はないか?」と尋ねると、自宅の居間を改装したような、こぢんまりして趣のあるお店を教えてくれることがあります。

    私が訪れたパラダールもまさにそんな一軒でした。メニューは日替わりで数種類だけ。その日の市場で手に入った最も新鮮な食材を使っているそうです。私が注文したのは「ロパ・ビエハ」。牛肉を柔らかく煮込み、細かく裂いてトマトソースで和えたキューバの代表的な肉料理です。「古い服」というユニークな名前ですが、味は格別。じっくり煮込まれた牛肉の旨味と野菜の甘みが溶け込んだソースは、アロス・コングリと絶妙に絡み合っていました。この一皿には、キューバの家庭料理の知恵と愛情がぎゅっと詰まっているように思えました。

    太陽の恵みを感じるトロピカルフルーツと濃厚なコーヒー

    キューバの豊かな土壌が育てたトロピカルフルーツの素晴らしさは特筆に値します。市場や路地の屋台には、日本では考えられない価格で完熟フルーツが並びます。もぎたてのマンゴーの濃厚な甘さと芳醇な香り、グアバの爽やかな酸味、みずみずしいパイナップル。朝食時や散策の途中の水分補給に、自然の恵みをたっぷり味わいました。

    また、キューバの日常に欠かせない存在がコーヒーです。エスプレッソのように細かく挽いた豆を専用の器具で淹れるのがキューバ流。デミタスカップに注がれた濃く苦いコーヒーに、たっぷりの砂糖を入れて飲むのが一般的です。朝の目覚めの一杯、食後の一杯、友人との会話時の一杯。この「カフェシート」と呼ばれるコーヒーは、人々の暮らしに活力と潤いを与えています。最初はその甘さに驚きましたが、慣れてくると濃厚な甘みと苦味の絶妙なバランスに魅了されるのが不思議です。キュエトのサトウキビ畑を眺めながら飲むカフェシートは、私にとって忘れがたい思い出のひとつとなりました。

    旅立ちの前に知っておきたいこと

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    手つかずの自然や豊かな文化が息づくキュエトへの旅は、一般的な観光地への旅行とは異なり、準備や心構えに少し工夫が必要です。快適かつ安全に過ごすために、知っておきたいポイントをいくつかご紹介します。

    時間を感じる旅、キュエトへのアクセス方法

    日本からキュエトへは直行便がありません。まずはメキシコやカナダ、ヨーロッパなどを経由してキューバの首都ハバナへ向かい、そこからオルギン行きの国内線に乗り換えるのが一般的です。オルギン空港からはタクシーや乗り合いタクシーを使い、およそ1時間半から2時間かけてキュエトに到着します。

    移動時間が長く、フライトの遅延や欠航も珍しくありませんが、こうした不便さも「キューバ時間」と捉えて、ゆったりとした心持ちで過ごすことが重要です。車窓に広がるのどかな田園風景や地元の人々の暮らしを眺めながら移動するのも、旅の素敵なひとときになるでしょう。

    旅の快適さを左右する持ち物チェックリスト

    キューバ、とりわけキュエトのような地方都市では物資が不足しがちで、現地で必要なものを調達するのは難しいことがあります。日本から持参すべきアイテムをまとめました。

    • 必携アイテム
    • 常備薬: 胃腸薬、頭痛薬、酔い止め、絆創膏など、普段使い慣れている薬は必ず持参しましょう。
    • 虫除けスプレー・かゆみ止め: 森や自然の多い場所では蚊などの虫が多いため、効果の高いものを用意してください。
    • 日焼け止め・帽子・サングラス: カリブ海の紫外線は非常に強いので、しっかり日焼け対策をしましょう。
    • 現金(ユーロ推奨): キューバでは米ドルの両替レートが悪く、クレジットカードも使える場所が限られています。日本でユーロに替え、現地でキューバ・ペソ(CUP)に両替するのが効率的です。小額紙幣を多めに用意すると安心です。
    • トイレットペーパー・ウェットティッシュ: 公共トイレや地方の飲食店ではトイレットペーパーが備え付けられていないことが多いので、携帯をおすすめします。
    • あると便利なもの
    • 日本からのちょっとしたお土産: ホストファミリーや親切にしてくれた方への感謝に。高価なものでなくても、日本の文房具(特に消せるボールペンなど喜ばれます)、お菓子、扇子などがおすすめです。
    • 簡単なスペイン語会話帳: 「オラ(こんにちは)」「グラシアス(ありがとう)」などの基本フレーズだけでも、コミュニケーションがよりスムーズになります。
    • モバイルバッテリー: 停電に備えてスマートフォンを充電できるよう準備しておくと安心です。

    女性ひとり旅でも安心して楽しむための安全対策

    アパレル業界で働きながら多くの国を訪れてきましたが、女性の一人旅で特に気になるのは安全面です。キューバは中南米の中でも比較的治安が良いとされていますが、油断は禁物です。特に若いアジア人女性は目立ちやすいため、以下の点に注意しながら行動していました。

    • 服装: 過度な露出は控え、現地の人々に馴染むシンプルで動きやすい服装を心掛けましょう。高価なアクセサリーやブランド品の着用は避けるのが無難です。
    • 夜間の外出: 日没後、街灯の少ない場所を一人で歩くのは避けてください。移動が必要な場合は信頼できるタクシーを利用しましょう。
    • 貴重品の管理: パスポートや多額の現金は、鍵のかかる場所に保管し、持ち歩く現金はその日使う分だけに分散して管理するのが安心です。バッグは常に体の前で抱えるように持ちましょう。
    • ヒネテロ(客引き)対策: 観光客に親しく話しかけ、法外な価格で商品を売ったりレストランに連れて行こうとする「ヒネテロ」がいます。しつこく話しかけられたら、興味がなければはっきりと「No, gracias(結構です)」と言って立ち去ることが大切です。曖昧な対応は避けましょう。

    基本的な注意を守れば、キュエトは非常に安全で人々も親切な場所です。過度な警戒は必要ありませんが、「自分の身は自分で守る」という意識を忘れずに旅を楽しむことが、素晴らしい体験の鍵となります。

    旅の終わりに心に灯ったもの

    キュエトで過ごした時間は、私の旅に対する価値観を根本から揺るがすものでした。そこには、私が慣れ親しんできたヨーロッパの街並みのような洗練された美しさや、完璧に整えられた快適さは存在しません。インターネットの接続はほとんどなく、時折停電が起こり、欲しいものをすぐに手に入れることも難しい状況です。

    しかし、この旅を通じて、私は「ない」ことの豊かさを実感しました。何もないからこそ、目の前に広がる自然の美しさに心から感動できるのです。便利でないからこそ、人々が助け合い、その中に温かい絆が生まれていきます。情報から切り離されることで、静かに自分自身の内なる声に耳を傾けることができるのです。

    サトウキビ畑を吹き抜ける風の音、満天の星空の下で味わう静けさ、人々の屈託のない笑顔、そして心を躍らせたサルサのリズム。キュエトで体験したすべてが、私の心に深く刻まれ、乾いた魂を潤してくれました。

    もし、日常に少し疲れを感じたり、人生で本当に大切なものを見失いかけていると感じているなら、ぜひこのカリブの小さな町を訪れてみてください。時が止まったかのようなこの場所で、あなただけの宝物に出会えるはずです。キュエトの太陽と大地、そして人々の笑顔が、明日へと進む新たな力をきっと与えてくれるでしょう。

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    この記事を書いた人

    アパレル企業で働きながら、長期休暇を使って世界中を旅しています。ファッションやアートの知識を活かして、おしゃれで楽しめる女子旅を提案します。安全情報も発信しているので、安心して旅を楽しんでくださいね!

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