リスボンやポルトの喧騒から遠く離れ、ポルトガルの北東の端、スペインとの国境にひっそりと佇む古都、ブランガンサ。その名は、多くの旅人の耳にまだ届いていないかもしれません。しかし、ここには、有名な観光地では決して味わうことのできない、深く、静かで、そして魂を揺さぶるような時間が流れています。石畳の道が記憶する幾世紀もの物語、城壁を撫でる風が運ぶ大自然の息吹、そして地元の人々の温かい眼差し。ブランガンサの旅は、観光ではなく、まるで自分自身の心の奥深くへと分け入っていくような、内なる発見の旅路です。日常の速度を忘れ、忘れ去られた時間の層を一枚一枚めくるように、この土地の魂に触れてみませんか。ここは、訪れる者の心に静かな光を灯してくれる、まさに「魂の故郷」と呼ぶにふさわしい場所なのです。
ポルトガルでは、リスボンやポルトの喧騒を離れた港町を訪れる旅もまた、深い魅力にあふれています。
時が止まった城塞都市、シタデラを歩く

ブランガンサの旅は、丘の上に威風堂々とそびえる城塞都市シタデラ(Citadela)からスタートします。12世紀に築かれたこの城壁に囲まれた小さな街は、中世の時が止まったかのような錯覚を覚える場所です。一歩足を踏み入れると、車の音は遠のき、自分の足音と石壁の間を抜ける風の音だけが聞こえてきます。この静けさこそ、ブランガンサが誇る最高の贅沢かもしれません。苔むした石畳、漆喰の壁に刻まれたシミ、そして今もここで暮らす人々の気配がすべて調和し、訪れる者を温かく、そして厳かな気持ちで迎え入れてくれます。ここでは地図を頼りに目的地を追いかけるのではなく、気の向くままに細い路地を散策し、この場所の空気を肌で感じることこそが、最も大切な道しるべとなるのです。
ブランガンサ城(Castelo de Bragança) – 天に届ける歴史の証人
シタデラの中心に位置し、この街の象徴ともいえるのがブランガンサ城です。整った美しい天守閣(Torre de Menagem)とそれを取り囲む堅牢な城壁は、ロマネスク様式とゴシック様式が見事に混ざり合った軍事建築の傑作。その姿は、この地がポルトガルの歴史においてどれほど重要な役割を果たしてきたかを静かに物語っています。
まずは、城壁の上をゆっくり歩いてみることをおすすめします。ざらりとした石の感触を確かめながら一歩一歩進むと、眼下にはシタデラのオレンジ色の屋根が広がり、その先にはブランガンサの市街地が広がっています。そして遥か遠くには、広大なモンテジーニョ自然公園の緑の大地が果てしなく続いています。吹き抜ける風は時に優しく頬を撫で、時に力強く身体を揺らします。それは、かつてこの城を守ってきた兵士たちの息遣いであり、歴史の流れを見守ってきた城の深いため息のように感じられます。ゲームで駆け回るフィールドとは異なり、ここには静けさの中に圧倒的な存在感が漂っています。武器を掲げる緊張感ではなく、悠久の時間に身をゆだねる心地よい安らぎがここにはあったのです。
天守閣の内部は軍事博物館(Museu Militar)として公開されており、甲冑や銃器、軍服などが整然と展示されています。これらの展示品は、この城がただの美しい建物ではなく、常に戦いの最前線にあったことを生々しく伝えています。アマゾンの奥地で感じた自然との闘いとは別の、人と人の争いの歴史。ガラスケースに収められた武具一つひとつに、持ち主の誇りや恐怖、そして願いが込められているかのようで、胸に深く響きました。「兵どもが夢の跡」という言葉が静かに思い浮かびます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | ブランガンサ城 (Castelo de Bragança) |
| 住所 | Cidadela, 5300-025 Bragança, Portugal |
| 見どころ | 天守閣、城壁からの展望、軍事博物館 |
| ポイント | 城壁の周囲を歩けば、シタデラや周辺の自然を一望できます。特に夕暮れ時は、空と大地が美しいグラデーションに染まり、感動的な景色が広がります。 |
サンタ・マリア教会(Igreja de Santa Maria) – 静謐に包まれた祈りの空間
城壁を巡り歴史の風を感じた後は、シタデラで最も古い教会、サンタ・マリア教会に足を運びましょう。ブランガンサ城のすぐ隣に控えめに佇むこの教会は、一見素朴な趣ですが、内部には息を呑むほどの美しさが広がっています。創建はロマネスク時代に遡るとされ、現在の姿は16世紀から18世紀にかけた改修の賜物で、とりわけバロック様式のファサードが印象的です。
重厚な木製扉を押して中に入ると、外の光や喧騒が嘘のように消え去った、厳かで静かな空間が広がります。ひんやりとした石の空気が肌を包み込み、心が徐々に落ち着いていくのを感じられるでしょう。最大の見どころは、天井一面に描かれた聖母マリアの被昇天の天井画です。樽型の穹窿天井に鮮やかに描かれたその絵は、あたかも天上の世界がそのまま降りてきたかのように壮麗で、しばらく首を痛めるのも忘れて見入ってしまいます。精緻な人物描写、躍動感溢れる構図、柔らかな色彩が見事に調和し、信仰の有無を超えた人間の祈りや芸術が到達できる高みを静かに示しているかのようです。
観光客であふれかえることがなく、聞こえるのは時折訪れる地元の人の小さな祈りの声と自身の呼吸音だけ。ベンチに腰を下ろし目を閉じると、ステンドグラスから差し込む柔らかな光が瞼の裏に色彩を落とし、心を清めるようなひとときを過ごせます。ここは神に祈る場所であると同時に、自分の内なる声に耳を澄ますための場所でもあるのです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | サンタ・マリア教会 (Igreja de Santa Maria) |
| 住所 | Cidadela, 5300-025 Bragança, Portugal |
| 見どころ | 聖母マリアの被昇天を描いた天井画、バロック様式のファサード |
| ポイント | 観光客が少ない午前中に訪れることで、より静かな雰囲気を味わえます。撮影は可能ですが、祈っている方々への配慮を忘れないようにしましょう。 |
ドムス・ムニキパリス(Domus Municipalis) – 謎に包まれた五角形の集会所
サンタ・マリア教会の背後には、ポルトガル全土でもほかに例を見ない非常にユニークな建造物が佇んでいます。それがドムス・ムニキパリスです。ロマネスク様式の市民建築としてはポルトガルで唯一現存している建物とされ、その希少性だけでも十分に訪れる価値があります。特徴的なのは、その不規則な五角形の形状。まるで巨大な宝石の原石が大地から突き出してきたような、不思議な存在感を放っています。
「市民の家」を意味するこの建物の用途は謎に包まれており、何のために使われていたのかははっきりしていません。一階は貯水槽として機能し、上階は集会所として使用されていたとする説が最も有力ですが、その神秘的な起源こそがこの建物の魅力を一層高めています。壁には小さなアーチ状の窓がいくつも設けられ、内部には石造りのベンチが壁沿いに配されています。中央に立つと、自分の声が不思議に反響し、まるで古代の議会場に迷い込んだかのような感覚にとらわれます。
ここでかつて、街の長老たちがどんな議論を交わし、どのような決定を下してきたのか。窓から差し込む光の筋を見つめながら、歴史の謎に思いを馳せる時間は何物にも代えがたい至福の瞬間です。分厚い石壁に守られた空間は、外の世界から隔絶された聖域のような趣があります。ここには現代の合理性とは異なる、重厚な時間の重みと揺るぎない何かが宿っています。この謎めいた場所に身を置くことで、私たちは歴史の大きな流れの中で小さな存在であると同時に、その歴史を紡ぐ一員でもあるという不思議な感覚に包まれます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | ドムス・ムニキパリス (Domus Municipalis) |
| 住所 | Cidadela, 5300-025 Bragança, Portugal |
| 見どころ | ポルトガル唯一のロマネスク様式市民建築、独特の五角形の形状 |
| ポイント | 内部での音の響きをぜひ体験してください。小さな声でも不思議なほど反響します。建物の外周を一周し、様々な角度からその個性的な形状を楽しむのもおすすめです。 |
旧市街の迷宮へ – 知られざるブランガンサの素顔
シタデラの城壁の外に一歩踏み出すと、そこにはまた異なる表情を持つブランガンサの街並みが広がっています。旧市街(Centro Histórico)と呼ばれるこの区域は、城塞都市の厳かな空気とは異なり、人々の日常に温かみを感じられる場所です。観光客向けの華やかな装飾は見られませんが、迷路のように複雑に入り組んだ石畳の小道を歩くと、この街が積み重ねてきた生活の痕跡があらゆる所に見つかるでしょう。これは、ガイドブックには決して掲載されないブランガンサの本来の姿に触れる旅の始まりと言えます。
石畳の路地と色あせた壁が紡ぐ物語
旧市街を散歩する際には、特に目的地を定める必要はありません。ただ自分の気持ちが向くままに歩みを進めるだけで十分です。角を曲がるたびに現れる新たな風景や予期せぬ出会いが、この散策の醍醐味となります。車一台がかろうじて通る細い路地、壁から壁へと吊るされた洗濯物が風に揺れる光景、窓辺に並ぶ鮮やかなゼラニウムの鉢植え。そのすべてが日常の一こまである一方で、訪れる者の心に詩情をもって深く刻まれていく風景です。
剥がれ落ちた漆喰の下から石が顔をのぞかせ、年月を経て色あせた木製の扉。これらは一見すると古びて見えますが、そんな中にこそ本物の美しさが宿っていることに気づかされます。こうした風景は、この街が生きている証拠でもあります。ふと見上げると、バルコニーからこちらを見下ろすおばあさんと目が合い、にっこり微笑みかけてくれる。人見知りの僕でも思わず軽く会釈を返してしまう。そんなささやかな交流が旅の記憶を温かいものに変えてくれます。言葉が通じなくとも、ひとつの微笑みで心が通じ合えること。そんな当たり前のことを、この街は改めて教えてくれたのです。
路地の途中には、地元の人々が祈りを捧げる小さな教会や、子どもたちの声が響く広場が点在しています。観光客の姿はほとんど見られず、耳に入ってくるのはポルトガル語の会話やカフェの食器が触れ合う音ばかり。その音に耳を傾けつつ、ただひたすら歩く。それは一種の瞑想のような行為であり、歩みを重ねるごとに頭の中の雑念が消え、心が澄み渡っていくのを感じました。
地元の味に舌鼓を打つ – タスカで味わうトラス・オス・モンテスの恵み
旧市街を散策してお腹がすいたら、観光客向けのレストランではなく、ぜひ地元の小さな食堂「タスカ(Tasca)」の暖簾をくぐってみてください。肩肘張らない空間で、この土地ならではの素朴かつ力強い料理を味わうことができます。
ブランガンサが属するトラス・オス・モンテス地方は、「山の向こう」という名前の通り、豊かな自然が育んだ食材の宝庫です。ぜひ味わいたいのが「ポスタ・ア・ミランデーザ(Posta à Mirandesa)」。地元産の上質なミランデーザ牛の厚切りステーキで、外はカリッと焼き上げられ、中は信じられないほど柔らかくジューシーです。味付けはオリーブオイル、ニンニク、塩のシンプルさで、肉そのものの旨味を存分に楽しめます。そのボリューム感と力強い味わいは、まさに大地の恵みと言えるでしょう。過酷な環境で食べるレーションとは比べ物にならない、生きる力を感じさせる味わいでした。
忘れてはならないもう一品が「アリェイラ(Alheira)」と呼ばれるソーセージです。豚肉を使わず、鶏肉やパン、ニンニクなどを混ぜ合わせて作られるこのソーセージは、かつて迫害を逃れるため豚肉を食べられなかったユダヤ人が、キリスト教徒のふりをするために考案したという背景があります。カリカリに揚げたアリェイラをほぐし、付け合わせのフライドポテトや目玉焼きと一緒に食べると、香ばしい風味と独特の食感が口いっぱいに広がります。その歴史を思いながら味わう一皿は、単なる食事以上の深い感動をもたらしてくれるでしょう。
秋の季節には、この地方の特産である栗(Castanha)を使った料理やスープも楽しめます。タスカの店主におすすめを尋ねながら、地元のワインと共にゆったりと味わう時間は、ブランガンサの風土と文化を舌で感じる贅沢なひとときです。
大自然の懐へ – モンテジーニョ自然公園の深呼吸

ブランガンサの魅力は、その歴史的な街並みだけに留まらず、さらに奥深いものがあります。背後に広がるモンテジーニョ自然公園(Parque Natural de Montesinho)は、手つかずの自然が広がる広大な聖域であり、都市の喧騒に疲れた心身を癒す理想的な場所です。約75,000ヘクタールに及ぶ広大な園内には、鬱蒼とした森、清流、そして希少な野生動物であるオオカミやイベリアオオヤマネコが生息しています。ここでは文明の喧騒が遠ざかり、耳に届くのは風のささやき、鳥のさえずり、そして自分自身の心の声だけです。大自然の懐に抱かれて深く息を吸い込めば、体中の細胞が歓喜するのを感じることでしょう。
魂が浄化されるハイキング — 古の道を歩む
モンテジーニョ自然公園には、初心者から上級者まで楽しめる多彩なハイキングコースが整備されています。案内所で地図を入手し、体力や時間に合わせて最適なルートを選べます。私が選んだのは、古い集落と森を抜ける中級者向けのコースです。森の中へ一歩踏み入れると、ひんやりとした空気が全身を包み込み、オークや栗の木々の間からこぼれる木漏れ日がきらめきます。アマゾンのような生命を脅かす濃密さはなく、むしろこの森は優しさを湛え、訪れる者を静かに受け入れてくれるような柔らかい懐の深さを感じさせました。
苔むした石畳の道は、かつてこの地の人々が生活の一環として利用していた古い街道です。その上を歩く間、まるで時をさかのぼる旅をしているかのような不思議な感覚に包まれます。足元には可憐な野の花が咲き誇り、木の幹を忙しく動き回るリスの姿、そして頭上を横切る猛禽類の影が見えます。五感を研ぎ澄ませば、自然が発する数え切れないほどのサインに気づくことができるでしょう。しばらく歩くと視界が開け、見晴らしの良い丘の上に出ました。眼下には緑豊かな谷と、点在する小さな村々が広がっています。その雄大な景色を前に深呼吸をすると、心に積もっていたモヤのようなものがすっと晴れていくのを感じました。これこそが、自然がもつ偉大な力、精神を癒すヒーリングの力なのでしょう。
シャンブレ・ダ・マイア(Xhambre da Maia)—苔むした石造りの村々
モンテジーニョ自然公園の魅力は、その壮大な自然だけでなく、園内に点在する時を止めたかのような伝統的な石造りの村々にもあります。これらの村々は「アルデイア・デ・シスト(Aldeia de Xisto)」と呼ばれ、地元産のスレート(片岩)を用いて建てられた家屋が特徴的です。中でも特に印象に残ったのは、リオ・デ・オノール(Rio de Onor)という村でした。
この村の最大の特徴は、村を流れる川がポルトガルとスペインの国境線になっていることです。村人たちは国境を意識せず、両国に跨って暮らしており、独自の言語(リオノレス語)や強固な共同体の絆を今なお育んでいます。石とスレートでできた家々は、まるで大地から自然に湧き出たかのように風景に溶け込み、近代化の波とは無縁の素朴で力強い暮らしが息づいていました。煙突から上る煙、畑を耕す老人の背中、軒先で井戸端会議に興じる女性たち。そのすべてが、一枚の美しい絵画のように心に残ります。
村を歩いていると、家先の椅子に座っていたおじいさんに声をかけられました。言葉はほとんど通じなかったものの、身振り手振りとお互いの笑顔だけで不思議と心が通い合いました。彼は自身の畑で採れたリンゴを一つ手渡してくれ、そのずっしりとした重みと温もりは、どんな高級なお土産品よりも価値ある、かけがえのない思い出となりました。こうした村を訪れることは、単なる観光にとどまらず、私たちが忘れてしまいがちな「人間の暮らしの原点」に触れる貴重な体験なのです。
文化と信仰の深淵に触れる
ブランガンサの旅は、歴史や自然だけでなく、この地に根ざす独特の文化や信仰の深みを感じ取ることで、その魅力に一層の深さが加わります。キリスト教成立以前の古い記憶や、この厳しい土地でたくましく生きる人々の強い精神性を映し出す芸術作品たち。これらは、時に不思議で、時に荒々しいながらも、常に人間の根源的なエネルギーに満ち溢れています。こうした文化に触れることで、私たちはブランガンサの土地の魂のさらに深層へと導かれていくのです。
イベリア仮面・衣装博物館(Museu Ibérico da Máscara e do Traje)– 異教の遺産を今に伝える祝祭
シタデラの一角に位置するこの博物館は、ブランガンサ旅行において絶対に訪れたいスポットのひとつです。一歩館内に足を踏み入れると、薄暗い空間に整然と並んだ、どこか奇妙でありつつもユーモアを感じさせる仮面の数々が、強烈な存在感を放ちます。これらは主にポルトガル北部からスペインにかけてのイベリア半島地域で、冬至を祝う祭り(Festa dos Rapazesなど)に用いられる「カレトス(Caretos)」と呼ばれる悪魔や精霊の仮面です。
角や牙、動物の毛などで彩られた鮮やかな仮面たちは、キリスト教以前の土着信仰、すなわちペイガニズムの記憶を鮮烈に今に伝えています。冬の闇と寒さが最も深まる季節、村の若者たちがこれらの仮面や華やかな衣装を身にまとい、激しく騒ぎながら村の中を駆け巡る様子には、悪霊を追い払い春の訪れや豊穣を祈願するといった、古代から受け継がれてきた人々の強い願いが込められています。展示されている一つ一つの仮面からは、祈りや畏怖の感情、そして生命力への賛歌が伝わってくるようです。それは洗練された芸術作品とは異なる、もっと根源的で荒々しく土着的なエネルギーに満ちています。この博物館は、私たちが普段は意識しにくい、人間精神の深奥に横たわる古代の記憶を呼び覚ましてくれる力強い場所なのです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | イベリア仮面・衣装博物館 (Museu Ibérico da Máscara e do Traje) |
| 住所 | R. Dom Fernão O Bravo, 5300-025 Bragança, Portugal |
| 見どころ | イベリア半島各地の冬の祭りで使用される独特な仮面と衣装のコレクション |
| ポイント | 各地の祭りの映像も上映されており、仮面が実際に使われる様子を観ることで、その文化的背景をより深く理解できます。 |
グラサ・モライス現代美術館(Centro de Arte Contemporânea Graça Morais)
ブランガンサの旧市街に位置し、かつて司教館だった建物をリノベーションして作られた美しい美術館が、グラサ・モライス現代美術館です。グラサ・モライスはトラス・オス・モンテス地方の出身で、ポルトガルを代表する現代画家の一人として知られています。彼女の作品は、この地域の過酷な自然環境や、そこでたくましく生きる人々、とりわけ女性たちの姿を一貫して描き続けています。
彼女の絵画は、力強い輪郭線と、土を思わせるような深く時には烈しい色彩が特色です。描かれるモチーフは、畑仕事に励む女性たちや家族の肖像、神話的な風景など、生まれ育った土地の記憶と深く結びついたものばかりです。その作品群の前に立つと、私たちは単なる美しい絵画を鑑賞しているだけでなく、この土地の精神性と直に対話しているかのような感覚を覚えます。そこには厳しい自然と共に生きる人々の喜びや悲しみ、強さ、そして言葉にならない叫びが込められています。特に女性たちの表情に見られる静かな力強さと深い愛情は、胸に強く響きます。
美術館の建物自体も、古い石造りの壁とモダンなガラスや鉄骨が美しく調和した見事な建築です。中庭に面したカフェで、アートの余韻を味わいながら一息つく時間は、まさに至福のひとときです。グラサ・モライスの芸術を通じて、私たちはブランガンサが持つ外見の美しさだけでなく、その内側に秘められた力強さと豊かさを改めて感じ取ることができるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | グラサ・モライス現代美術館 (Centro de Arte Contemporânea Graça Morais) |
| 住所 | R. Abílio Beça 105, 5300-011 Bragança, Portugal |
| 見どころ | ブランガンサ出身の画家グラサ・モライスの力強い作品群と新旧の融合が美しい建築 |
| ポイント | 常設展に加え企画展も豊富のため、訪問前に公式サイトで最新の展示内容を確認することをお勧めします。 |
ブランガンサの旅で心と体を満たすヒント

ブランガンサでの旅をより深く、心に刻まれる体験にするためには、いくつかのポイントがあります。それは単なる効率的な観光方法ではなく、この土地の時間の流れに身を任せ、その本質に触れるための心構えに近いものです。この秘境が秘める真の魅力を存分に味わうために、ぜひ参考にしてみてください。
旅の拠点の選び方 – 静けさを求めるなら
滞在先の選択が、旅の質に大きく影響します。もしブランガンサの静けさや歴史の風情を存分に楽しみたいなら、城塞都市(シタデラ)内に位置するポウザーダ(Pousada de Bragança)への宿泊をおすすめします。ポウザーダとは、古城や修道院など歴史的建築を改装した国営ホテルのこと。ブランガンサのポウザーダは城壁のすぐそばにあり、部屋の窓からは中世の街並みや壮大な景観を望めます。観光客が去った夜の静まり返ったシタデラを歩けるのは宿泊者ならではの特権で、まるで自分が城の主となったかのような特別な感覚が味わえるでしょう。
また、モンテジーニョ自然公園の豊かな自然にどっぷりと浸かりたい方には、公園内に点在する「トゥーリズモ・ルーラル(Turismo Rural)」と呼ばれる農家民宿が理想的です。石造りの家を改装した宿で、鳥のさえずりで目覚め、地元食材を使った素朴な朝食に舌鼓を打つ。夜は満天の星空を見上げる…。都会では決して味わえない、贅沢なひとときを過ごせます。快適さだけを求めるのではなく、その土地ならではの体験を望む方にこそ選んでほしい滞在スタイルです。
訪れるべき季節と心の準備
ブランガンサはどの季節に訪れても、それぞれ異なる魅力を魅せてくれます。春にはモンテジーニョ自然公園で新芽が芽吹き、鮮やかな緑と花々に包まれます。夏は日差しが強いものの湿度が低く過ごしやすいため、ハイキングにぴったりです。特におすすめなのが秋の季節。公園の木々が黄金色に染まり、地元の特産品である栗の収穫祭が開催されるなど、実り豊かな季節ならではの喜びを感じられます。冬は厳寒で雪が降ることもありますが、イベリア仮面博物館で紹介される伝統的な冬祭りが各地で開かれ、この土地の深い文化に触れる貴重な時期でもあります。
そして何より大切な心構えは、「何もない時間の豊かさ」を楽しむことです。ブランガンサには最先端のエンターテインメントや華やかなショッピングエリアはありません。しかしここには、現代人が失いがちな「時間」と「静寂」というかけがえのない宝物があります。予定を詰め込み過ぎず、あえて空白の時間を意識的に作り出してみてください。カフェのテラスでぼんやり人々を眺めたり、気に入った路地を何度も往復してみたり、沈む夕日を最初から最後までゆっくり見届けるのです。そうした意図せぬ時間のなかに、真の発見や心に残る出会いが潜んでいます。デジタル機器から少し距離を置き、自分自身の五感と心に集中すること。それこそが、ブランガンサの旅を最高のものに導く最大の秘訣かもしれません。
歴史の彼方から聞こえる声
ポルトガルの最果ての地、ブランガンサでの旅を終えたとき、心に刻まれたのは特定の観光名所の記憶ではなく、むしろその土地全体に満ちる、深く静謐で揺るぎない空気そのものでした。城壁の一つひとつの石に宿る歴史の痕跡、旧市街の細い路地に漂う人々の日常の匂い、そしてモンテジーニョの森を渡る風のささやき。それらがひとつとなり、まるで遥かな時の彼方から私の心に語りかけてくるかのように響きました。
アマゾンの奥地で直面した、生命を削り取るような過酷な自然。サバイバルゲームで味わう、一瞬の判断が生死を分ける極限の緊迫感。そうした刺激的な体験とは全く異なる次元で、ブランガンサの旅は私の内側にひっそりと変化をもたらしました。それは外の敵に立ち向かうための強さではなく、自分自身の内なる静けさと向き合うための力でした。
この旅で持ち帰ったのは、美しい写真や珍しい土産品ではありません。むしろ、日々の喧騒に紛れて見失いがちな、自分の本来のリズムを取り戻すための時間であり、魂が深く息をするための空間だったのです。もしあなたが、日々の忙しさに少し疲れを感じているのなら。もしあなたが、自分を見つめ直す静かな場所を求めているのなら。思い出してほしいのです。ポルトガルの北東の端、ブランガンサという古の街が、その重厚な石の扉をそっと開き、静かにあなたを迎えていることを。そこでなら、あなたの心の奥底から聞こえてくる声に耳を澄ますことができるはずだから。

