コンクリートのジャングルをさまよう旅の途中、ふと立ち止まり、感覚を研ぎ澄ませることがあります。アマチュア格闘家として世界を巡る僕、大(だい)にとって、旅は単なる移動ではありません。未知の文化に触れ、五感を刺激し、自分自身を再発見するための修練です。汗を流すトレーニングと同じくらい、その土地の空気を吸い、人々の営みに触れ、そして何より、その土地の「食」を深く味わうことは、僕の魂を鍛え、心を豊かにしてくれます。今回、僕が降り立ったのはオーストラリア、メルボルン。アートと音楽、そして何よりもコーヒーの香りに満ちたこの街は、「世界で最も住みたい街」の常連として知られています。しかし、その称号の裏には、僕の探究心を激しく揺さぶる、深く、複雑で、そして限りなく魅力的な食文化の迷宮が広がっていました。石畳の路地裏から立ち上るエスプレッソのアロマ、生命の力を再認識させてくれる革新的なヴィーガン料理、そして多様な文化が交じり合い生まれた魂を潤すハラールグルメ。これらは単なる食事ではなく、メルボルンという都市が紡いできた歴史と、未来への哲学そのものです。さあ、僕と一緒に、この街の奥深くへと分け入り、味覚と魂の冒険に出かけましょう。感覚を解放し、メルボルンの真の姿を味わい尽くす旅が、今、始まります。
この街の食の多様性は、その歴史と文化の深さを物語っており、例えば、メルボルン郊外に潜む中世ヨーロッパの幻影、モンサルヴァットを訪れることで、その芸術的な精神が街の創造性の源泉の一つであることが理解できます。
メルボルン・カフェ文化の真髄を求めて – 路地裏(レーンウェイ)を歩く

メルボルンの朝は、コーヒーの香りとともに始まります。それは単なる習慣を超えたもので、この街の人々にとってコーヒーは生活の一部であり、文化であり、誇りの象徴でもあります。では、なぜメルボルンのカフェ文化が「世界一」と称賛されるのか。その秘密は、街中に網の目のように張り巡らされた「レーンウェイ」と呼ばれる路地裏に隠されています。
第二次世界大戦後にイタリアやギリシャからの移民がもたらしたエスプレッソ文化は、この街のコーヒー文化の基盤を築きました。彼らは故郷の味を再現するだけにとどまらず、オーストラリアの豊かな乳製品と組み合わせて、独自のコーヒースタイルを創り上げていったのです。そして、メルボルンスタイルは単に美味しいコーヒーを提供するだけで満足しません。バリスタたちは豆の産地、焙煎方法、抽出テクニックのすべてに深い知識と情熱を持つ職人であり、一杯のカップに芸術的なこだわりを込めています。彼らとカウンター越しに交わす会話も、メルボルンのカフェ体験の醍醐味の一つとなっています。
アートと香りが織りなす秘密の舞台裏
メルボルン中心部のフリンダース・ストリート駅の向かいから、私のカフェ巡りはスタートしました。大通りから一歩路地に入ると、そこはまるで別世界です。壁一面を埋め尽くすグラフィティアート、行き交う人々の賑わい、そしてどこからともなく漂ってくる魅惑のコーヒーの香り。レーンウェイはまさに五感を刺激する野外劇場のような場所です。
デグレーヴス・ストリート(Degraves Street)
最初に出迎えてくれたのは、石畳が敷かれたデグレーヴス・ストリート。通りのたたずまいは「リトル・パリ」と称されるにふさわしく、カフェがぎっしりと並び、小さなテーブルと椅子が狭い空間に整然と置かれています。人々は思い思いに新聞を読んだり、友人と和やかに語り合ったりしており、その光景はまるで1枚の絵画のように美しく完成されています。ここでのポイントは、急がずゆっくり過ごすこと。席が空いていたら、まずは腰を落ち着けて、この独特の雰囲気をじっくり感じることです。行き交う人たちを眺めているだけでも、メルボルンの日常に自然と溶け込んだ気分になれます。
センター・プレイス(Centre Place)
デグレーヴス・ストリートからさらに細い路地を進むと、センター・プレイスに辿り着きます。このエリアはよりカオスでエネルギッシュな空気に満ちています。壁のアートはより尖っていて、こぢんまりとしたカフェやデリ、ジュースバーが軒を連ね、まるで隠れ家のようなワクワク感をもたらします。立ち飲みスタイルの店も多く、バリスタがリズムよくコーヒーを淹れる音、ミルクをスチームする音、そして人々の陽気な笑い声が混じり合って、心地よいBGMを形成しています。ここではコーヒーを片手に壁のアートを眺め歩くのが特におすすめです。
メルボルン流コーヒーの楽しみ方
カウンターに立ってメニューを眺めると、見慣れない名前がずらりと並んでいることに気づくでしょう。「ロングブラック」「ショートブラック」はまだしも、「マジック」や「ピッコロラテ」とは一体何なのか。これらはすべて、メルボルンのコーヒー文化の深さを物語っています。
- マジック (Magic): メルボルン発祥とされるコーヒードリンク。ダブルリストレット(通常より濃く抽出したエスプレッソ)に、滑らかにスチームされたミルクを約3/4注いだものです。ラテよりもコーヒーの風味が際立ち、フラットホワイトよりミルクの量が控えめで、絶妙なバランスを実現。一口飲めば、その名の通りまるで「魔法」にかかったかのような体験を味わえるでしょう。
- ピッコロラテ (Piccolo Latte): 小さなグラス(マキアートグラスなど)にリストレットを淹れ、ごく少量のスチームミルクで仕上げた一杯。ラテの味わいを小ぶりなサイズで楽しみたいときに最適で、食後の一杯にもぴったりです。濃密なコーヒーの味とミルクの甘みが短時間で満足感をもたらします。
私もデグレーヴス・ストリートの老舗カフェで初めて「マジック」を注文してみました。バリスタは注文を聞くとにっこり笑い、「いい選択だね」と言って手際よく淹れてくれました。運ばれてきたカップにはシンプルなラテアートが施されていましたが、立ちのぼる香りは格別。ひと口飲むと、エスプレッソの力強い味わいと、それを優しく包み込むミルクの滑らかさが広がり、ただのコーヒー牛乳ではないことがすぐにわかりました。まさに味の芸術、そのコンビネーションは剛と柔が融合した格闘技の妙技のよう。この一杯に感じるのは、メルボルンのバリスタたちの誇りと熱意そのものです。
さらに、メルボルンのカフェ文化を語るのに欠かせないのがブランチ文化。朝食と昼食を兼ねるだけの食事ではなく、ひとつのエンターテイメントです。特に有名なのが「アボカドトースト」。サワードウのパンに美しく盛り付けられたアボカド、ポーチドエッグ、フェタチーズ、そしてハーブやスパイスが彩りを添え、まるでトーストというよりもキャンバスに描かれた芸術作品のよう。栄養面も考慮されており、トレーニング後の身体をしっかりとサポートします。各カフェによって個性的なアレンジがされているため、自分好みの一皿を求めてカフェ巡りを楽しむのも、この街ならではの魅力です。
| スポット名 | 特徴 | おすすめメニュー | 住所 |
|---|---|---|---|
| Degraves Espresso Bar | デグレーヴス・ストリートを代表する老舗カフェ。活気に満ち、伝統的なメルボルンの雰囲気を味わえる。 | クラシックなエスプレッソ、パニーニ | 23 Degraves St, Melbourne VIC 3000 |
| Brother Baba Budan | 人気ロースター「Seven Seeds」の系列店。天井に吊るされた無数の椅子が印象的な内装。 | マジック、フィルターコーヒー | 359 Little Bourke St, Melbourne VIC 3000 |
| Patricia Coffee Brewers | CBDの路地裏に位置する小さな立ち飲み専門コーヒースタンド。ビジネスマンに絶大な支持。 | その日のスペシャルティコーヒー | Cnr Little Bourke & Little William St, Melbourne VIC 3000 |
| Hardware Société | ハードウェア・レーンにある大人気ブランチカフェ。常に行列が絶えないが待つ価値は十分。 | ロブスターベネディクト、焼きマシュマロ付きホットチョコレート | 123 Hardware St, Melbourne VIC 3000 |
未来の食を体感する – メルボルン最先端ヴィーガン紀行
路地裏の伝統的なコーヒー文化に魅せられた僕が次に足を踏み入れたのは、未来の食を垣間見ることができるヴィーガン料理の世界でした。メルボルンは、世界的にも有数の「ヴィーガンの聖地」として知られており、単なる菜食主義の枠を超えて、環境保護や動物愛護、健康志向といった現代的な価値観と結びつき、非常にクリエイティブで味わい深い食文化へと昇華しています。格闘家として自身の身体と常に向き合い、最高のパフォーマンスを追求する僕にとって、この最先端の食の潮流は無視できない強烈な魅力を放っていました。
正直に話すと、最初は半信半疑でした。肉や魚、乳製品を一切使わずに、本当に満足できる食事が作れるのだろうか。激しいトレーニングを支えるための十分なエネルギーと栄養が摂れるのか。そんな偏見や疑念は、メルボルンのヴィーガンシーンによって、簡単にそして見事に打ち砕かれたのです。
ヴィーガンの聖地、フィッツロイを散策する
メルボルンにおいてヴィーガン文化の中心地とされるのは、CBDの北東に位置するフィッツロイ地区です。トラムに揺られてこのエリアに降り立つと、空気感が一変するのを感じます。自由でボヘミアンな空気が満ちており、古着店や個性的なセレクトショップ、そして壁一面に広がる鮮やかなストリートアートが目に飛び込んできます。ここは既存の価値観に縛られない人々が集まる場所。だからこそ、ヴィーガンという新たな食のスタイルが深く根を下ろし、多彩な表現で花開いているのです。
メインストリートであるブランズウィック・ストリートやガートルード・ストリートを歩くと、「Vegan Friendly」と表示されたカフェやレストランが次々と現れます。ヴィーガン専門のピザ店、寿司屋、ラーメン店、さらにはデリカテッセンまで幅広く揃い、その豊富な選択肢にはただただ圧倒されるばかり。ここフィッツロイでは、ヴィーガンであることが特別なものではなく、ごく当たり前のライフスタイルの一つとして街に溶け込んでいるのです。
固定観念を覆す驚きのヴィーガン体験
僕のヴィーガン観を一変させたのは、フィッツロイを代表する二軒のレストランでの体験でした。
Smith & Daughters
「ロックなヴィーガン料理」を掲げるこの店は、もはや伝説的な存在です。薄暗い店内にヘヴィメタルが流れ、まるでライブハウスのような雰囲気。メニューを開くと、「ツナ」や「ブラッドソーセージ」、「モッツァレラ」といったヴィーガンとは思えぬ単語が並んでいます。僕が頼んだのは店員おすすめの「ツナのセビーチェ」と「チキンワッフル」です。
最初に運ばれてきたセビーチェは、見た目も香りもまさに鮮魚のマグロそのもの。恐る恐る口にすると、その食感に驚きました。植物由来の素材(おそらくスイカを独自の調理法で加工したもの)から生み出されているとは信じがたい弾力と繊維感。ライムの酸味とコリアンダーの香りが絶妙に調和し、頭の中は完全に「これはツナだ」と誤認してしまいました。続くチキンワッフルもまた格別。カリッとした衣の中の「チキン」はジューシーで、本物の鶏肉と見紛うほどの味わい。メープルシロップとの甘じょっぱいハーモニーはまさに背徳の美味しさです。これは単なる肉の代替品ではなく、食材の可能性を極限まで引き出した全く新しいジャンルの料理でした。Smith & Daughtersは、ヴィーガン料理は淡泊で物足りないという僕の偏見を完璧に打ち砕いてくれました。
Red Sparrow Pizza
次に訪れたのが、ヴィーガン専門のピザ店、Red Sparrow Pizzaです。薪窯で焼き上げる本格的なナポリピザを提供しており、トッピングはチーズやサラミ、ペパロニに至るまで全て植物性。特に感動したのは自家製カシューナッツモッツァレラで、薪窯の炎で焼かれたピザの上で本物のモッツァレラのようにとろけ、芳ばしい焼き色を帯びています。一口含むと、そのクリーミーでコクある味わいに再び驚嘆しました。知らなければ、誰もナッツ製だとは気づかないほどです。僕が注文した「Bianca」はこのカシューナッツモッツァレラとマッシュルーム、ローズマリー、トリュフオイルが絶妙に調和した一枚。生地の香ばしさ、きのこの旨味、そしてチーズの深みが見事に融合し、至福の味わいを生み出していました。
メルボルンのヴィーガンシーンはデザートにおいても革新的です。ヴィーガン・ドーナツやグルテンフリーケーキ、ココナッツミルクやアーモンドミルクをベースにしたアイスクリームなど、どれも驚くほど美味しく、何より食後の身体の軽さが際立ちます。これはパフォーマンスを重視するアスリートにとって非常に重要なポイント。美味しさを損なわず、身体への負担が極めて少ないのです。メルボルンで出会ったヴィーガン料理は、食の新たな可能性を示すだけでなく、未来のスタンダードの一端を見せてくれました。
| スポット名 | 特徴 | おすすめメニュー | 住所 |
|---|---|---|---|
| Smith & Daughters | ロックで革新的なヴィーガン料理を提供。予約必須の人気店。 | 季節限定スペシャルメニュー、独創的カクテル | 107 Cambridge St, Collingwood VIC 3066(フィッツロイ隣接) |
| Red Sparrow Pizza | 薪窯で焼く本格ヴィーガンピザ。チーズのクオリティが圧巻。 | Bianca、Pepperoni | 406 Smith St, Collingwood VIC 3066 |
| Lord of the Fries | ヴィーガン専門のファストフードチェーン。バーガーやホットドッグ、フライドポテトが絶品。 | Parma Burger、Classic Fries with Belgian Sauce | メルボルン市内に複数店舗あり |
| Girls & Boys | ヴィーガン専門のデザートバー。ソフトクリームやジェラート、ケーキなど夢のようなスイーツが充実。 | ココナッツミルクのソフトクリーム | 382 Brunswick St, Fitzroy VIC 3065 |
魂を潤す多文化の味 – ハラールグルメを巡る旅

一杯のコーヒーが紡ぐ物語、一皿のヴィーガン料理が映し出す明日。メルボルンでの食の旅は、僕をより深い世界へと誘います。それはこの街の基盤となる「多文化主義(マルチカルチュラリズム)」を味わいながら体感する旅でもあります。各国から集まった移民たちが持ち寄った故郷の味が、メルボルンという坩堝(るつぼ)のなかで混ざり合い、尊重され、新たな食文化として花開いています。その多彩さを象徴するのが、ハラールグルメの世界です。
ハラールとはイスラム教の教えにおいて「許されている」という意味を持つ言葉です。料理の面では、豚肉やアルコールを避け、規定された方法で処理された肉を摂ることを指します。しかし僕にとってハラールグルメの探訪は、宗教的な側面以上に、文化への敬意と探求心に満ちた冒険でした。そこには何世代にもわたって受け継がれてきた味わい、家族やコミュニティの温もり、そして心を満たす素朴で力強い美味しさが溢れていました。
中東の香りが漂う街、コバーグとブランズウィック
メルボルンでハラールグルメを楽しむなら、CBDからトラムに乗って北へ向かったコバーグやブランズウィック地区がおすすめです。これらの地域には特にレバノンやトルコ、その他中東からの移民が多く暮らすコミュニティが存在し、街を歩くとアラビア語の看板が目に入り、スパイスの芳しい香りが鼻をくすぐります。
シドニー・ロードという主要な通りは、まさに中東の市場(スーク)そのもの。ナッツやドライフルーツが山積みされた食料品店、カラフルな衣装を扱うブティック、そして香ばしい匂いが漂うベーカリーやレストランが軒を連ねています。人々の活気あふれる声、飛び交う言葉、街全体を包むエキゾチックなムードは、ここにいながらにして遠い異国を旅しているような感覚を呼び覚まします。そこでは、誰もが自らの文化に誇りを持ち、それを分かち合う喜びを感じているようでした。これこそが、メルボルンの多文化主義の美しい姿なのです。
心と身体を満たす、ハラールグルメ体験
ハラールグルメは特別なものではなく、むしろ地元の人々の生活に深く根付いた、手頃で美味しく、心を温めるソウルフードといえます。
A1 Bakery
ブランズウィックにある「A1 Bakery」は、メルボルンのレバノン系コミュニティの胃袋を支える象徴的な店です。外観はシンプルなベーカリー兼カフェながら、店内に足を踏み入れると焼きたてのパンの香ばしい香りと地元の人々で賑わう活気に圧倒されます。ここでぜひ味わうべきは「マナイーシュ」と呼ばれるレバノンのフラットブレッドピザです。
僕は定番の「ザータル・マナイーシュ」を選びました。薄く延ばした生地に、タイムやゴマ、スマック(ウルシ科の果実を乾燥させたスパイス)を混ぜたハーブミックス「ザータル」とオリーブオイルを塗って焼き上げる非常にシンプルな一品。しかしその味は驚くほど奥深く、ザータルの独特の香りとほのかな酸味、オリーブオイルの豊かなコク、そしてもちもちした生地の食感が合わさり、素朴ながらも忘れがたい美味しさを生み出しています。数ドルという安価も魅力的で、多くの人が朝食やランチにこれを求め、店先のテーブルで談笑しながら味わっています。その光景は、食が人々の生活やコミュニティをつなぐ大切な役割を果たしていることを雄弁に物語っていました。
本格的なトルコ料理の世界
シドニー・ロードをさらに北に進むと、トルコ料理店が増えてきます。日本でおなじみのドネルケバブも美味しいですが、メルボルンでぜひ試したいのは、より奥深いトルコ料理の数々です。たとえば「ピデ」は舟形のトルコ風ピザ。ひき肉やチーズ、野菜を乗せて石窯で焼き上げたピデは、外はカリッと、中はふわふわでボリュームも満点です。また「イスケンデル・ケバブ」は薄切りの羊肉に熱々のトマトソースと溶かしバターをかけ、ヨーグルトを添えた一品。肉の旨味、トマトの酸味、バターのまろやかなコク、ヨーグルトのさっぱり感が口中で溶け合い、複雑で官能的な味わいを奏でます。これは僕が知るケバブの概念を根本から覆すほどの逸品でした。
食後には濃厚なトルココーヒーと甘美な「バクラヴァ」を。ピスタチオやクルミを層に挟み込んだ薄いパイ生地を何重にも焼き上げ、シロップをかけたこのデザートは旅の疲れを癒すにふさわしい味わいです。小さなカップに注がれたトルココーヒーの底に沈む粉を見つめながら、この街に根ざした豊かな食文化の歴史に想いをはせる時間は、何にも代えがたい贅沢なひとときとなりました。
メルボルンのハラールグルメは中東料理に限りません。マレーシアの「ラクサ」やインドネシアの「サテ」、インド系の「ビリヤニ」など、アジアの各国から届くハラール料理も街の食の多様性を彩っています。これらはいずれも、移民たちが故郷を想いながら作り続けてきた魂の味なのです。
| スポット名 | 特徴 | おすすめ | 住所 |
|---|---|---|---|
| A1 Bakery | レバノン系コミュニティの拠点。安価で美味しいマナイーシュは必食。常に賑わっている。 | ザータル・マナイーシュ、チーズパイ | 643-645 Sydney Rd, Brunswick VIC 3056 |
| Alasya Turkish Restaurant | 1979年創業の老舗トルコ料理店。本格的な炭火焼ケバブやピデが楽しめる。 | ミックスグリル、ラムピデ | 555 Sydney Rd, Brunswick VIC 3056 |
| New Somali Kitchen | メルボルンでは希少なソマリア料理店。スパイスの効いたラム肉やチキンの煮込みが絶品。 | バリイス・イヨ・フリブ(ライスとヤギ肉) | 284-288 Racecourse Rd, Flemington VIC 3031 |
| Mamak | 連日行列が絶えない人気のマレーシア料理店。ハラール認証を受けた、ロティチャナイが名物。 | Roti Canai、Nasi Lemak | 366 Lonsdale St, Melbourne VIC 3000 |
食から見るメルボルン – 多様性が生み出す調和と未来
メルボルンの街を歩き、その味わいを楽しみ、肌で感じたこの旅は、僕にとって単なるグルメ紀行にとどまりませんでした。それは、一杯のコーヒーに宿る職人の情熱、一皿のヴィーガン料理が映し出す未来への展望、そして一枚のフラットブレッドが結ぶコミュニティの温もりを通じて、メルボルンという都市の魂の核心に触れる旅でもありました。
路地裏のカフェ、最先端を行くヴィーガンレストラン、多文化が息づくハラール食堂。これらは一見すると全く異なる食の世界に思えるかもしれません。しかし、僕はこの三つの体験において、メルボルンがメルボルンである所以となる共通の理念を見つけ出しました。
その一つは、「多様性の受容と尊重」です。イタリア移民がもたらしたエスプレッソ文化を土台にしつつも、そこに満足せず、自身の「魔法」のような独創的なスタイルを生み出す創造力。動物性食材を使わないという制約の中で、既存の料理観を覆すほどの革新を追い求めるヴィーガンシェフたちの熱意。そして、故郷の味を固守しつつも、メルボルンの街に新たな色彩として溶け込むハラールグルメ。ここでは異なる文化や価値観が排除されるのではなく、互いに刺激し合い、敬い合いながら、より豊かで活気に満ちた全体像を築き上げています。それはまるで、それぞれ異なるスタイルの格闘家たちがリング上で技をぶつけ合い、互いを高め合う姿のようでもありました。
もうひとつは、「伝統と革新の共生」です。デグレーヴス・ストリートにある昔ながらのカフェの佇まいには、何十年もの歳月を経て受け継がれた歴史の重みが漂っています。一方で、フィッツロイのヴィーガンレストランには、食の未来を切り開こうとする大胆不敵な実験精神が息づいていました。そしてA1 Bakeryのような店では、母から子へと伝えられてきた家庭の味が今も変わらず地域の人々に愛されています。メルボルンは古き良きものを尊重しつつも、新たな挑戦を怖れない街。その絶妙なバランス感覚こそが、この都市に深みと活力をもたらしているのでしょう。
格闘家である僕は、常に自身の身体と対話しながら最高のコンディションを追い求めています。今回の旅で出会ったメルボルンの食は、身体だけでなく、心や魂にも深く語りかけてきました。一杯の完璧なコーヒーは集中力を限界まで引き上げ、革新的なヴィーガン料理は食に対する固定観念を覆し、新たな身体づくりの可能性を示してくれました。さらに、心温まるハラールグルメは人と人との繋がりや、食が持つ根源的な力を思い出させてくれたのです。
メルボルンを旅することは、まるで世界地図を味わうことにほかなりません。この街のレストランのメニューは世界中の文化が詰まった一冊の書籍のようで、ページをめくるたびに新たな発見と驚き、そして深い感動があります。もしあなたにメルボルンを訪れる機会があれば、ぜひ大通りから一歩路地裏へ足を踏み入れてみてください。そして、先入観を手放し、目の前に広がる一皿、一杯に心身全体を向けてみてください。五感が研ぎ澄まされ、単なる「美味しい」では言い表せないこの街の哲学と、そこに暮らす人々の息遣いを感じ取ることができるはずです。この食の迷宮には、尽きることのない冒険が待っており、その冒険こそが旅の、そして人生の最高のスパイスとなるのです。

