マレーシアの首都、クアラルンプール。近代的な超高層ビルが空を突き、熱気と活気に満ちた大都市のイメージが強いかもしれません。しかし、その喧騒からわずか30分ほど電車に揺られるだけで、まるで時が止まったかのような、荘厳で神秘的な世界が広がっていることをご存知でしょうか。それが、今回ご紹介するヒンドゥー教の聖地「バトゥ洞窟(Batu Caves)」です。
そびえ立つ石灰岩の巨大な崖に、ぽっかりと口を開けた洞窟。その入り口へと続くのは、目も覚めるような虹色の272段の階段。そして、その階段を慈悲深く見守るように佇む、黄金に輝く巨大な神像。ここは、4億年という地球の記憶が刻まれた大自然と、篤い信仰心が融合した、他に類を見ないパワースポットなのです。
ただの観光地ではありません。一歩足を踏み入れれば、お香の香りが鼻をくすぐり、どこからともなくマントラを唱える声が聞こえてくる…。階段を一段、また一段と登るごとに、日常の雑念が消え去り、心が研ぎ澄まされていく不思議な感覚に包まれるでしょう。この記事では、そんなバトゥ洞窟の魅力はもちろん、旅人に語りたくなるようなトリビアや歴史の裏側まで、深く、そして熱くご紹介していきます。さあ、神々の息吹に触れる神秘の旅へ、一緒に出発しましょう。
近代的なクアラルンプールのもう一つの顔を堪能した後は、未来都市クアラルンプールの絶景パノラマを独り占めする方法もチェックしてみてはいかがでしょうか。
バトゥ洞窟とは?天空に最も近いヒンドゥー教の聖地

クアラルンプールの近郊、ゴンバック地区に位置するバトゥ洞窟は、ただの洞窟ではありません。マレーシアのヒンドゥー教徒にとって最も神聖な場所の一つとして、厚い信仰を集めています。その起源は地質学的にはるか古代に遡り、人類の信仰の歴史と深く結びついています。
圧巻の光景!黄金に輝く巨大な神像の正体
バトゥ洞窟に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、入り口に立つ巨大な黄金の神像です。高さはなんと42.7メートルに及び、これは15階建てのビルに匹敵する規模です。その荘厳な存在感に、誰もが息を呑むことでしょう。
この像はヒンドゥー教の神の一柱、「ムルガン神」を表しています。ムルガン神は、破壊と創造を司る神シヴァとその妻パールヴァティーの息子であり、とりわけ南インドで絶大な人気を誇る神様です。軍神として悪を打ち砕き、信者に勝利や勇気、さらに知識を授けると信じられています。手に持つ「ヴェル」と呼ばれる聖なる槍で、神々を苦しめた悪魔スーラパッドマンを討ち破ったという伝説が有名です。このバトゥ洞窟のムルガン神像は、立像としては世界最大規模を誇り、マレーシアのヒンドゥー教徒の信仰の象徴となっています。
この像が完成したのは2006年で、工事には3年の歳月がかかりました。費用は約2,400万ルピー(当時の為替で約67万ドル)にのぼり、製作には15人のインド人彫刻家が携わっています。材料には1,550立方メートルのコンクリートと250トンの鉄筋が使われ、黄金の輝きはタイから輸入された300リットルの金塗料によって実現されました。太陽の光を浴びて輝くその姿はまさに神々しく、訪れるすべての人にこの場所の特別さを示しています。
4億年の歳月が刻み込んだ神秘の洞窟
バトゥ洞窟は石灰岩でできた巨大な岩山によって形成されています。この石灰岩ができたのは約4億年前のことで、長い年月をかけて雨水による浸食が進み、現在のような複雑で広大な洞窟群が形作られました。洞窟内には、悠久の時が創り出した鍾乳石や石筍が自然の芸術品のようにそびえ立っています。
しかし、この洞窟が人類の歴史に登場するのはそれほど遠い昔のことではありません。かつては、テムアン族という先住民がここを住まいや狩りの隠れ家として利用していたと伝えられています。その後、19世紀に中国系移民がマレーシアに渡ってきて、洞窟に生息する大量のコウモリの糞、すなわちグアノに着目しました。グアノはリン酸を豊富に含む良質な天然肥料として重宝され、彼らはこれを採掘して生計を立てていたのです。つまり、バトゥ洞窟はヒンドゥー教の聖地として崇められる以前から、人々の生活を支える資源の宝庫でした。
なぜここが?ヒンドゥー教聖地へと変わった物語
この自然の洞窟がヒンドゥー教の聖地となった背景には、二人の重要な人物の存在があります。
一人は1878年にこの地を訪れたアメリカの博物学者ウィリアム・テンプル・ホーナディで、彼はこの巨大洞窟群の存在を西洋に広く知らしめました。現在メインの洞窟が「テンプル・ケーブ(Temple Cave)」と呼ばれるのは、彼の名前に由来しています。
もう一人は、マレーシアのヒンドゥー教コミュニティで非常に重要な人物、インド出身の裕福な商人K・タンブーサミー・ピライです。1891年にこの洞窟を訪れた彼は、洞窟の入り口の形がムルガン神の聖なる槍「ヴェル」の先端に酷似していることに強い感銘を受けました。彼はこれを神からの啓示と捉え、洞窟内にムルガン神を祀る祠を建てることを決意。さらに、ムルガン神を讃える祭り「タイプーサム」をここで祝うことを提唱しました。
彼の熱意は多くの信者の共感を呼び、バトゥ洞窟は瞬く間に南インド系タミル人コミュニティの信仰の中心地へと成長しました。最初は木造であった階段も徐々にコンクリート製に改築され、多くの巡礼者が訪れる聖地として整備されていきました。4億年という長い自然の営みと、一人の商人の篤い信仰心が結びついたことで、この場所は唯一無二の神聖な空間へと昇華したのです。
試練か、祝福か。272段の虹色の階段を登る
バトゥ洞窟の最大の見どころは、何といっても洞窟へと続く全272段の階段です。以前は灰色一色のコンクリート製でしたが、現在では鮮やかな虹色に彩られ、多くの訪問者の心を魅了しています。この階段を一歩一歩上ること自体が、バトゥ洞窟体験の重要な要素であり、深い意義が込められています。
272段に隠された意味とは?
なぜこれほど長くて急な階段が設けられたのか、そして「272段」という数字にはどんな意味があるのか。この数字にはヒンドゥー教の教義に基づく複数の解釈が存在します。
一つの見方として、人間の持つ三つの性質「グナ(トリグナ)」と関連していると言われています。ヒンドゥー哲学では、人間は「サットヴァ(純粋・善良)」「ラジャス(激情・活性)」「タマス(暗黒・惰性)」という三つのグナを持ち、この組み合わせが個人の性格や行動を形成すると考えられます。272段の階段は、この三つのグナを超越し、解脱へと至る精神的な段階を象徴しているとされています。
また別の解釈では、ヴェーダ文献などの数秘術的な意味合いや、魂が輪廻転生の過程で辿る段階数を表しているとも言われています。正確な由来は明らかになっていませんが、この階段を一歩ずつ登る行為が単なる身体的運動ではなく、精神修行とみなされていることは間違いありません。信者たちは階段を上がることで自らの罪や穢れを浄化し、欲望や執着といった現世の煩悩を一つずつ手放し、心を無にして神に近づこうとします。汗を流し息を切らしながら頂上に達したときの達成感は、俗世から聖なる世界へと足を踏み入れた証とも言えるでしょう。
虹色へと生まれ変わった階段の秘密
現在バトゥ洞窟を象徴する虹色の階段は、実は2018年になってからの比較的新しい姿です。それ以前は、いたって普通のコンクリートの階段でした。では、なぜこの大胆なカラーチェンジがなされたのでしょうか。
これは、寺院の管理委員会が実施した大規模な修復・美化プロジェクトの一環でした。目的は、12年に一度のヒンドゥー教寺院の聖別式「クンバビシェーガム」に合わせて聖地をより荘厳に、そして訪れる人にとって魅力ある場所にすることでした。複数の色彩豊かなペンキが幾何学模様に塗り分けられ、階段はまるで巨大なアート作品のように新たな命を吹き込まれました。この変化は瞬く間にSNS、特にインスタグラムで拡散され、バトゥ洞窟は以前にも増して多くの観光客を惹きつける人気スポットとなったのです。
しかし、この塗装には意外な裏話があります。実はこの変更は、マレーシアの国家遺産法に基づく正式な許可を得ずに行われたものでした。バトゥ洞窟およびその周辺は国の文化遺産として保護対象であり、大規模な改修には当局の承認が必須です。ところが寺院側は宗教施設としての自治権を理由に独自にプロジェクトを進めました。これが明るみに出ると、文化遺産の価値を損なう行為として政府や文化保護団体から強い批判を受け、一時は元の状態への復元命令が検討される事態にまで発展しました。しかし、圧倒的なビジュアルの魅力により観光客が急増し、マレーシアの新たな観光アイコンとして定着したことから、結果的にこの虹色階段は正式に認められることになりました。このエピソードは信仰と法律、伝統と革新が衝突した興味深い物語といえるでしょう。
階段を彩る住人たちとの出会い
272段の階段を上れば、必ずと言っていいほど遭遇するのが、この地に棲む野生のカニクイザルたちです。彼らは人間を恐れず、階段の手すりを素早く走り回ったり、参拝者の様子を興味深げに観察しています。可愛らしい彼らの姿にカメラを向けたくなりますが、接触の際は十分な注意が必要です。
バトゥ洞窟のサルたちは、観光客が持つ食べ物や光る物を狙います。ビニール袋の音を聞きつけるとすぐに近寄ってきて、中身を奪い取ろうとすることも少なくありません。ペットボトルの飲料やスマートフォン、帽子やサングラスなども狙われるため、貴重品は必ずバッグの中に収め、しっかりファスナーを閉めておきましょう。サルに食べ物を与える行為は、生態系を乱すのみならず彼らを攻撃的にさせる原因にもなるため、絶対に控える必要があります。
一方で、ヒンドゥー教においてサルは特別な存在です。叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する猿の神ハヌマーンは、知恵と勇気、そして忠誠の象徴として信仰されています。そのため、この洞窟に生息するサルたちもハヌマーンの眷属として神聖視される側面があります。彼らは単なる野生動物ではなく、聖地の一部として存在しているのです。いたずら好きで時に手を焼く隣人でもありますが、彼らの存在がバトゥ洞窟独特の雰囲気をより一層深めていることは間違いありません。敬意を持って彼らの領域に少しお邪魔する気持ちで、階段を上るのが望ましいでしょう。
聖なる洞窟の内部へ。神々の息吹を感じる空間

272段の急勾配の階段を登り切った者だけが、その全体像を目の当たりにできます。息を切らせながら最後の一歩を踏み出すと、目の前には巨大な洞窟の入り口がぽっかりと口を開けています。冷たく澄んだ空気が火照った身体を包み込み、外の騒がしさが遠ざかるのを実感するでしょう。ここは神々が宿るとされる聖なる場所です。
テンプル・ケーブ(Temple Cave)-光が差し込む荘厳な大聖堂
バトゥ洞窟の中でも中心的存在が、この「テンプル・ケーブ」(別名「カテドラル・ケーブ」)です。内部には想像を超える広大な空間が広がり、天井の高さは約100メートルにも及び、その圧倒的なスケールはまるで自然が創り出した壮麗な大聖堂のようです。岩肌を伝って滴る水音が静けさの中に厳かな響きをもたらします。
この洞窟で最も魅力的な光景は、天井に開いた巨大な穴から射し込む一筋の光です。まるで天空から降り注ぐスポットライトのように、その光は洞窟の床を照らし、お香の煙や水蒸気をキラキラと輝かせます。この幻想的な光景は時間と共に角度を変え、訪れるたびに異なる表情を見せてくれます。多くの信者たちがこの光の下で祈りを捧げる姿は、見る者の心に深い感動を与えます。
洞窟内には大小さまざまな祠が点在し、ヒンドゥー教の神々が祀られています。中心となるのはムルガン神ですが、ほかにも象の頭をもつ知恵と商売の神ガネーシャ、シヴァ神とパールヴァティー、そしてその子であるムルガンとガネーシャが並ぶ「シヴァ・ファミリー」など、多くの神像や祭壇があります。色鮮やかな神々の像は薄暗い洞窟の中でひときわ目を引き、ヒンドゥー教の「万物に神が宿る」という思想を体現しているかのようです。ここでは定期的に「プージャ」と呼ばれる礼拝の儀式が行われ、聖職者がマントラを唱え、神々に供物を捧げます。運が良ければ、その神聖な儀式を間近に見ることができるかもしれません。
ダーク・ケーブ(Dark Cave)-暗闇に潜む生命の神秘
テンプル・ケーブへ向かう階段の中ほどには、かつて別の洞窟への入り口がありました。それが「ダーク・ケーブ」と呼ばれる場所です。その名の通り、内部は人の手が加えられていない自然のままの暗闇が広がり、テンプル・ケーブとは全く異なる世界が広がっていました。
ここは単なる観光地ではなく、厳密に管理された自然保護区でした。洞窟内には世界的に希少なクモの一種「トラップドア・スパイダー」をはじめ、この洞窟独自の環境に適応して進化した何百もの珍しい生物が生息していました。そのため入場はヘルメットとヘッドライトを装着し、専門ガイドの同行するツアーでのみ許可されていました。暗闇の中を手探りで進む冒険ツアーでは、洞窟の地質学的特徴や光の届かない世界で生きる生物の驚くべき生態について学べます。
残念ながら、このダーク・ケーブは運営上の問題により2019年初頭に閉鎖され、現在は立ち入ることができません。多くの旅行者や自然愛好家が再開を望んでいますが、現時点で具体的な見通しは立っていません。それでもバトゥ洞窟が信仰の場であると同時に4億年もの歳月を経て生まれた貴重な生態系を併せ持つ場所であるという事実は、この地の深い魅力を物語っています。
アートギャラリー・ケーブとミュージアム・ケーブ-神話の世界を辿る
虹色の階段を登る前にぜひ訪れてほしいのが、麓にある二つの小さな洞窟です。これらは「アートギャラリー・ケーブ」と「ミュージアム・ケーブ」と呼ばれ、テンプル・ケーブとは異なり、入場料が必要な展示施設となっています。
洞窟内にはヒンドゥー教の神話を題材にした鮮やかな彫像やジオラマが所狭しと展示されています。ムルガン神の誕生から悪魔との戦い、ラーマ王子とシータ妃の物語を描く叙事詩「ラーマーヤナ」の名場面など、ヒンドゥー教の世界観がまるでテーマパークのアトラクションのように視覚的に表現されています。ヒンドゥー教に詳しくない方でも、これらの展示を通じて壮大な神話の世界に気軽に触れることができます。特に神々の精巧な彫像の数々は芸術品としても非常に見応えがあります。272段の階段を登る前にここで神話を予習すれば、テンプル・ケーブの体験がより深く印象的なものとなるでしょう。
| 施設名 | 特徴 | 料金(目安) |
|---|---|---|
| アートギャラリー・ケーブ | ヒンドゥー教の神々の彫像や壁画を展示 | 5リンギット |
| ミュージアム・ケーブ | 神話をジオラマで解説。ラーマーヤナの世界が中心 | 5リンギット |
熱狂と信仰の祭典「タイプーサム」
バトゥ洞窟が一年で最も神聖な熱気に包まれる日があります。それは毎年1月下旬から2月上旬の満月に開催される、ヒンドゥー教の祭典「タイプーサム」です。この祭りは、ムルガン神が悪霊を打ち破ったことを称え、神への感謝と贖罪、さらには願いをささげるために行われます。その光景は壮絶かつ荘厳で、一度目にすれば決して忘れられない強烈な印象を残します。
奇祭か、それとも究極の信仰か
タイプーサムには、マレーシア国内外から100万人以上のヒンドゥー教徒が集まります。祭りの見どころは、信者たちが行う過酷な苦行の奉納です。多くの信者は牛乳の入った壺を頭に載せて運び、体に黄色い色を塗りながら、クアラルンプール市内のスリ・マハ・マリアマン寺院からバトゥ洞窟までの約15キロを裸足で歩いて巡礼します。
中でも特に見る者を圧倒するのが、「カヴァディ」と呼ばれる装飾された神輿を担ぐ信者たちの姿です。カヴァディは孔雀の羽や花で美しく飾られており、小型のものから数十キロにもなる巨大なものまで多様です。信者たちは、重いカヴァディを持つだけでなく、無数の細い串や針、フックを自らの皮膚に刺して体を支えます。頬や舌に長い串を貫通させる者や、背中のフックにロープを結びつけ、仲間や車に引かれながら進む者もいます。この光景は初めて目にする人には衝撃的で、思わず目を逸らしたくなるかもしれません。これが「奇祭」と言われる所以です。
しかしながら、彼らの表情には苦痛の色はほとんど見られません。トランス状態に入った彼らは、一心にムルガン神を讃えるマントラを唱えながら、聖地であるバトゥ洞窟へと歩みを進めます。これは見世物ではなく、彼らにとって最も純粋で究極的な信仰の表現なのです。
なぜ苦行を行うのか?信仰の深奥に迫る
なぜこのように過酷な苦行が行われるのでしょうか。ヒンドゥー教の教えでは、肉体は魂を収めるための一時的な器に過ぎないとされています。したがって、肉体的な苦痛を乗り越えることは、俗世の欲望や執着から自身を解き放ち、魂を浄化するための重要な修行と位置づけられています。痛みを超越した先にある恍惚の境地にて、彼らは神と一体となる経験を得られると信じているのです。
この苦行は誰も簡単に思いついてできるものではありません。カヴァディを担ぐ信者は祭りの数週間前から厳格な戒律を守り、心身を清めます。菜食を徹底し、断食を行い、タバコやアルコールを断ち、禁欲的な生活を通じて精神を研ぎ澄まし、神の御業を受け入れる準備を整えます。家族や地域コミュニティも彼らを献身的に支えます。
タイプーサム当日にバトゥ洞窟を訪れることは、観光客にとっても貴重な体験となるでしょう。ただし、ここにあるのは娯楽ではなく、信者たちの篤実で真摯な祈りの姿です。見学の際には、彼らの信仰に最大限の敬意を払い、祈りの邪魔とならないよう配慮することが求められます。フラッシュ撮影を控え、静かに見守る——その態度こそ、この聖なる祭典に参加する上での唯一無二のマナーです。
バトゥ洞窟を120%楽しむための実践ガイド

神秘的で魅力あふれるバトゥ洞窟。実際に訪れる際に役立つアクセス手段や服装、周辺の情報をわかりやすくまとめた実践的なガイドをご紹介します。本記事を参考にすれば、バトゥ洞窟での体験がより快適でスムーズになることでしょう。
アクセス方法の詳細比較
クアラルンプール市内からバトゥ洞窟へのアクセスは非常に便利です。主な交通手段は以下のとおりです。
- 電車(KTMコミューター)
最も経済的で広く利用されている方法です。クアラルンプールの中心駅「KLセントラル(KL Sentral)」から、ポート・クラン線(Port Klang Line)に乗り「バトゥ・ケーブス(Batu Caves)」駅で下車します。駅は洞窟のすぐ前に位置しており、迷う心配はありません。所要時間は約30〜40分程度。ただし、通勤時間帯以外は電車の本数が1時間に1〜2本と少なめなので、事前に時刻表のチェックをおすすめします。
- 配車アプリ(Grab)
マレーシアで広く普及している配車アプリ「Grab」の利用も非常に便利です。特に2名以上のグループや荷物が多い場合は、コストパフォーマンスが良くなります。クアラルンプール中心部からバトゥ洞窟までは交通状況により約20〜30分。料金は時間帯により変動しますが、20〜30リンギット前後が目安です。目的地を「Batu Caves」に設定すれば、ドライバーが入り口近くまで連れて行ってくれます。
- タクシー
Grabと同様に快適ですが、流しのタクシーを利用する場合は料金交渉が必要なこともあります。予めメーター制のタクシー(Budget TaxiやPremier Taxi)に乗るのが安心です。料金はGrabよりやや高くなる傾向があります。
- ツアー参加
クアラルンプール市内発の半日ツアーなどに参加すると、バトゥ洞窟だけでなく他の観光スポットも効率よく巡れます。ガイドの説明も聞けるため、より理解が深まるのが利点です。
| 交通手段 | 所要時間(目安) | 料金(目安/片道) | メリット・デメリット |
|---|---|---|---|
| 電車 | 約30〜40分 | 2.6リンギット | 最安で渋滞なし。ただし本数が少ない時間帯もある。 |
| Grab | 約20〜30分 | 20〜30リンギット | ドアツードアで快適。料金変動や渋滞の可能性あり。 |
| タクシー | 約20〜30分 | 30〜50リンギット | 捕まりやすいが割高のことも。メーター利用か交渉必須。 |
| ツアー | 半日〜 | 内容による | 効率的でガイド付きだが自由度は低い。 |
知っておきたい服装と持ち物
バトゥ洞窟はヒンドゥー教の神聖な寺院です。訪問時は礼儀を重んじた服装が求められます。
- 服装
男女共に、肩や膝が露出する服は避けましょう。ショートパンツ、ミニスカート、タンクトップ、ノースリーブなどは控えたほうが安全です。もし露出の多い服装で訪れてしまっても、入り口で「サロン」と呼ばれる腰に巻く布を有料で借りることができます。また、272段ある急な階段の昇降があるため、足元は必ずスニーカーなど歩きやすい靴を選んでください。サンダルやヒールは危険です。
- 持ち物
- 飲み水: 熱帯の暑さの中での階段昇降は汗をかきやすいので、水分補給は必須です。
- 日焼け対策グッズ: 日中の日差しは強烈です。帽子、サングラス、日焼け止めは必ず持参しましょう。
- 汗拭きタオル: 汗をかくため、タオルやハンカチがあると快適です。
- カメラ: フォトスポットが豊富ですが、洞窟内部はやや暗めなのでライトを活かした撮影設定を準備すると良いでしょう。
- 小銭: お賽銭や有料トイレ、麓の売店での買い物時に便利です。
洞窟周辺のおすすめグルメスポット
階段の昇降で小腹がすいたら、麓のエリアにある本格的なインド料理店を訪れてみてください。参道沿いには南インド料理を中心としたレストランや屋台が多数並んでいます。
中でも特に人気なのが、発酵させた米と豆で作るクレープ風の「ドーサ」と、大きなバナナリーフをお皿代わりに使い、ご飯に複数のカレーや野菜料理を盛りつけた「バナナリーフカレー」。どちらもリーズナブルでスパイシーな本格味を楽しめます。また、喉の渇きを癒すには、その場で割ってくれる新鮮な「ココナッツジュース」がおすすめです。自然な甘みが疲労回復にぴったりで、聖地で味わう本場の味は旅の素敵な思い出になるでしょう。
バトゥ洞窟にまつわる、さらにディープなトリビア
さて、最後にこの記事を読んでくださったあなただけに、誰かに話したくなるバトゥ洞窟のよりディープなトリビアをいくつかお届けしましょう。
トリビア1: 階段の色彩に隠された意味
2018年に鮮やかに塗り直された虹色の階段。実はこのカラフルな色使い、単なるインスタ映え狙いだけではないという説があります。ヒンドゥー教の寺院建築の伝統的な教典「アガマ・シャーストラ」に基づいた、宗教的な意図が込められているのだとか。この教典では、寺院の各部分に用いる色にはそれぞれ意味があり、例えば赤は神聖な力を、黄色は純潔さを、緑は生命力を象徴しているとされています。物議を醸したこの塗装ですが、実は深い宗教的な背景に根ざしたデザインだったのかもしれません。真相は寺院の関係者のみが知るところですが、そう意識して見てみると、階段の一段一段がより神々しく感じられるのではないでしょうか。
トリビア2: 秘められた第四の洞窟の存在?
一般的にバトゥ洞窟は、テンプル・ケーブ、ダーク・ケーブ、そして麓にあるアートギャラリー&ミュージアム・ケーブの3つ(もしくは4つ)から成り立っていると認識されています。しかし、地元では「第四の洞窟」やそれ以上の未公開の洞窟が存在するという噂がこっそりと囁かれています。中には、かつてヒンドゥー教の修行僧が俗世を離れて瞑想に励んだとされる小さな洞窟や、まだ誰も踏み入れたことのない未踏の空間が存在すると伝えられています。4億年の歳月が生み出したこの巨大な岩山の内部には、私たちが知らない神秘がまだまだ眠っているのかもしれません。
トリビア3: 世界遺産に登録されない理由
これほどユニークで、文化的かつ宗教的に重要な場所であるにもかかわらず、バトゥ洞窟はユネスコの世界遺産リストに登録されていません。不思議に思いませんか?そこにはいくつかの複雑な要因が絡んでいます。ひとつは洞窟周辺の無秩序な商業開発で、土産物店や飲食店が景観を損ねていると指摘されている点です。さらに、先に触れた「虹色の階段」の無許可塗装も、文化遺産としての「完全性(インテグリティ)」を壊す行為と見なされ、登録を遠ざける一因となりました。聖地としての信仰を守りつつ、観光地としての発展と文化遺産としての価値保持を両立させる難しさが、ここに如実に表れているのです。
トリビア4: コウモリが支えたマレーシアの農業
現在はヒンドゥー教の聖地として世界的に知られているバトゥ洞窟ですが、19世紀後半、聖地になる以前のこの地の「主役」は大量に生息していたコウモリでした。彼らが洞窟内に残す糞(グアノ)は当時のマレーシアにとって極めて重要な資源でした。リンや窒素を豊富に含むグアノは、最高級の天然肥料として、周辺地域の野菜農家やプランテーション経営者の間で高く評価されていたのです。中国からの移民たちがこのグアノを採掘し、マレーシアの農業発展を陰ながら支えていました。聖なる祈りの声が響く前、この洞窟には明日の糧を求めて黙々と働く人々の汗と、生命の循環を支え続けるコウモリの羽音が満ちていたのです。この歴史を知ると、洞窟の岩肌が新たな物語を語りかけてくるように感じられます。

