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    河北省・沙城の市場めぐり。食は人、人は土から生まれる物語を訪ねて

    悠久の時が流れる中国の大地。その片隅に、人々の営みが土の匂いとともに深く息づく場所があります。北京からほど近い、河北省張家口市に位置する沙城県(さじょうけん)。ここは、万里の長城がその雄大な姿を見せる土地であり、そして何より、芳醇なブドウが育つワインの故郷としても知られています。今回は、そんな沙城県の心臓部ともいえる市場を訪れ、旬の味覚と、食に根差した人々の温かい営みに触れる旅に出かけましょう。スーパーマーケットの均一化された棚に慣れた私たちが見失いがちな、食べることの原点、そして生きることの喜びが、ここには溢れていました。土とともに笑い、太陽の恵みに感謝する。そんな当たり前で、かけがえのない日常が織りなす物語を、五感で味わう旅の始まりです。

    今回訪れた沙城県は、万里の長城の麓で味わう美食とワインの旅の舞台としても知られています。

    目次

    夜明けのざわめきに誘われて。沙城の朝市、生命力の交差点へ

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    旅の出発は、いつも夜明け前の冷たい空気の中から始まります。肌を撫でるひんやりとした風が頬を刺激し、街がまだ深い眠りに包まれている時間帯に、私の心はすでに高鳴っていました。目的地は、沙城県の暮らしを映し出す鏡とも言える朝市です。まだ薄暗い道を進むと、遠くから人々のざわめきや三輪車のエンジン音が聞こえてきます。その音に導かれて角を曲がると、生命そのものが凝縮されたかのような、圧倒的な熱気に満ちた空間が目の前に広がっていました。

    色彩と香りの洪水に身を委ねて

    目に飛び込んできたのは、赤や緑、黄、紫、白といった多彩な色彩が渦巻く世界でした。地面に敷かれたシートの上には、採れたての新鮮な野菜が朝露に濡れてきらきらと輝いています。張りのあるほうれん草の葉、土がついたままざっくりと積まれたじゃがいも、そして燃えるような赤さのトマトの山。その一つひとつが太陽の光と大地の恵みをたっぷり受けて育ったことを、その力強い姿で静かに語りかけてくるようです。

    空気には土の香り、鮮やかな野菜の青々とした香気、そして人々の活気ある声が混じり合った独特の芳香が満ちています。その香りを深く鼻から吸い込むと、体中の細胞がゆっくりと目を覚ましていくのを感じました。日本ではなかなか味わえない、生き生きとしたエネルギーに満ちたこの場にいるだけで、心が自然と解き放たれていくような不思議な感覚に包まれました。

    市場の魅力のひとつは、農家である店主たちの表情にもあります。日に焼けた顔に深く刻まれたしわがあるものの、その瞳は柔らかく誇りに満ちていました。彼らが心を込めて育てた野菜を前に、私は思わず足を止めました。瑞々しいきゅうりを手に取ると、「お嬢さん、それは今朝採れたばかりだよ。味噌つけて食べるのが一番だ」と、歯の抜けた口元を笑顔で見せるおじいさんの店主が話しかけてくれました。言葉は片言でも、その笑顔から、このきゅうりがどれほど美味しく、大切に育てられてきたかがひしひしと伝わってきました。

    ここでは、値段交渉もまた一種のコミュニケーションです。少しでも安く買いたいという気持ちよりも、店主との会話を楽しむことが何より大切に感じられます。「これ、どうやって食べるのがいい?」「この豆は初めてだけど、味はどんな感じ?」こんな気さくなやり取りのなかで、単なる客と店主という関係を越えた、人と人との温かい絆が生まれていくのです。彼らは子どもを誇らしげに語るように、野菜への愛情を熱心に伝えてくれます。その話に耳を傾けているうちに、自然と食材への愛おしさが深まっていきました。

    季節の恵み、その一瞬の煌めき

    市場を歩きながら、季節の移ろいを肌で感じることができます。春には芽吹いたばかりの山菜が並び、夏には陽をたっぷり浴びた瓜やナスが主役となり、秋には実り豊かな穀物や果物で彩られます。私が訪れたのはちょうど初秋の時期。まさに沙城の特産であるブドウが最も美味しい季節でした。宝石のように輝く紫色の巨峰や、翡翠のようなマスカットが並び、一粒口に含むと、はじける果汁の甘みと芳醇な香りが広がり、思わずため息が漏れました。これはもはや果物という枠を超え、大自然が作り出した芸術品のようです。

    ブドウ以外にも、大きな棗(なつめ)や、日本ではあまり見られない種類の梨が数多く並んでいました。いずれも工業製品のように均一な形ではなく、少し歪みがあったりサイズがバラバラだったりします。しかしそれぞれが個性を持ち、生きている力強さが感じられるのです。旬の味を、その土地で楽しむ。こんなにも贅沢なことは他にありません。それは自然のリズムに身を委ね、大地の恵みをありのままに享受する、古くから続く人類の原始的な営みそのものなのです。

    市場の一角には、手作りの饅頭(マントウ)や油条(ヨウティヤオ)などの朝食を売る屋台が湯気を立てています。小麦の甘い香りに誘われて、一つ買ってみました。蒸したての熱々の饅頭を頬張ると、素朴ながらも奥深い小麦の甘みが口いっぱいに広がります。特別な材料は使っていないはずなのに、なぜか心に染みわたる味わいです。それはきっと、作り手の温かな手のぬくもりとこの市場の活気こそが、一番のスパイスになっているからでしょう。この饅頭一つを味わうだけで、沙城の人々の日常を支えるエネルギーを感じ取ることができました。

    スポット名沙城県内の地元朝市(大規模な観光市場ではなく、地域の人々が集う生活市場)
    所在地河北省張家口市沙城県内の市街地(複数あるため、宿泊先で尋ねるのが確実)
    営業時間早朝(5時ごろ)から午前中(10時ごろ)までが最も賑わう時間帯
    特徴地元農家が直接持ち寄る新鮮な野菜や果物が豊富。季節ごとの旬の味覚に出会える。人々の生活感が肌で感じられる場所。
    注意事項現金(小額紙幣)を用意すると便利。値段交渉も可能だが、まずはコミュニケーションを楽しむ気持ちで。写真撮影の際は一言声をかける配慮を忘れずに。

    太陽と風が育む一粒の奇跡。沙城ワイン、大地の物語を味わう

    沙城の名を語るうえで、決して欠かせない存在が、この土地の誇りであるワインです。朝市で出会った宝石のように輝くブドウたちが、どのようにして芳醇な一滴のワインへと変わっていくのか。その秘密を求めて、私は郊外に広がるブドウ畑へ向かいました。

    車を走らせると、果てしなく続く広大なブドウ畑の風景が目の前に広がります。整然と並ぶブドウの木々が太陽の光を浴びて葉を輝かせる様は、まさに壮麗というほかありません。この地域は、一年を通じて日照時間が長く、昼夜の気温差が大きいため、ブドウ栽培には理想的な気候条件に恵まれています。大陸性の乾いた風が病害虫を防ぎ、ブドウが豊富な糖度を蓄えながらゆっくりと熟成していくのです。この厳しい環境が、かえってブドウの生命力を引き出し、凝縮された深い味わいを生み出すという自然の神秘を感じさせます。

    長城ワインの故郷を訪れて

    沙城は、中国を代表するワインブランド「長城ワイン」の主要な産地の一つとして知られています。その中心にあるワイナリーを訪れると、最先端の醸造設備と伝統を重んじる職人たちの熱意が見事に調和した世界が広がっていました。

    案内役の方は誇らしげに語ってくれました。「私たちの仕事は、ブドウが持つ潜在能力を最大限に引き出す手助けをすること。主役はあくまで、この土地の太陽と土、そして水です。私たちはその声に耳を傾け、ブドウが望むワインへと成長できるよう、そっと背中を押すだけなのです」と。

    その言葉を胸に、巨大なステンレスタンクや静かに熟成を待つオーク樽が並ぶセラーを巡ると、ワイン造りが単なる製造工程ではなく、自然との対話であり、時間をかけて命を育む芸術であることが強く伝わってきます。収穫から搾汁、発酵、熟成に至るまで、膨大な手間と時間が惜しみなく注がれています。この一滴一滴に、土地の風土と造り手の深い愛情が溶け込んでいるのです。

    テイスティングルームにて、数種類のワインを味わう機会を得ました。グラスに注がれた深いルビー色の赤ワインをゆっくりと回すと、カシスやブラックベリーの果実香にほのかなスパイスのニュアンスが立ち上ります。一口含むと、凝縮された果実味と繊細でしっかりとしたタンニン、心地よい酸味が見事な調和を奏でます。その味わいの奥からは、沙城の乾いた大地と燦々と輝く太陽の温もりを確かに感じとることができました。

    白ワインは、まるで朝市で出会ったマスカットを液体に閉じ込めたかのような、爽やかで華やかな香りが特徴です。すっきりとした口当たりのなかに豊かな果実の甘みとミネラル感が感じられ、飲み進めるたびに心が明るく晴れるような気持ちにさせてくれます。このワインからは、まさにテロワール(土地の個性)を味わう喜びが伝わってきます。

    ワインが苦手な方でも、多彩な形でブドウの恵みを楽しむことができます。ワイナリーのショップには、ワインだけでなく搾りたてのブドウジュースや、天日干しで甘みを凝縮させた干しブドウ、さらにはブドウの種から抽出したオイルなどが並んでいます。特に、大ぶりで肉厚な干しブドウは自然な甘みがぎゅっと詰まっており、お土産にもぴったりです。一粒口に含むたびに、沙城の太陽の力が体中に染み渡るようでした。

    スポット名長城桑干酒荘 (Greatwall Chateau Sungod)
    所在地河北省張家口市懐来県沙城鎮
    営業時間通常 9:00 – 17:00(訪問前に要確認)
    特徴中国を代表する「長城ワイン」のワイナリーの一つ。広大なブドウ畑に囲まれ、醸造過程の見学やテイスティングが可能。ワインショップも併設。
    注意事項見学やテイスティングは予約が必要な場合あり。公共交通機関の便が限られているため、タクシーやチャーター車の利用がおすすめです。

    食卓に咲く笑顔の花。素朴で滋味深い、沙城の家庭の味

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    市場で手に入れた生き生きとした食材たち。ワイナリーで味わった大地の恵み。旅の醍醐味は、その土地の食材が現地の人々の手によってどのように食卓を彩るのかを知ることにあります。私はガイドの紹介で、地元の家庭料理を味わう機会に恵まれました。華やかさはないものの、心と体にじんわりと染み込む温かなもてなしがそこにはありました。

    燕麦(えんばく)が織りなす、大地のぬくもり「莜面窩窩」

    沙城を含む河北省北部は、冷涼かつ乾燥した気候のため、小麦だけでなく燕麦(オートミール)の栽培も盛んです。その燕麦の粉で作られるのが、この地域を代表する郷土料理「莜面窩窩(ヨウミェンウォウォ)」です。

    食卓に運ばれてきたのは、蜂の巣のように小さな筒状のものが蒸籠にびっしり並んだ、見た目にも美しい一皿でした。これは燕麦の粉を熱湯で練った生地を、指先で薄く伸ばし、くるりと巻いて作られます。一つ一つ手作業で形作られ、その技術はまさに熟練の証です。その姿は、まるで食卓に咲いた素朴な花のようでもあります。

    食べ方は、この莜面窩窩を羊肉やトマト、きのこなどが入った温かいスープのタレにつけていただきます。ひと口食べると、燕麦特有の素朴で香ばしい風味が口いっぱいに広がります。もちもちしながらも、どこかほろりとした独特の歯ごたえ。滋味深いスープの旨味と絡み合い、噛むほどに味わいが増すのがたまりません。体の芯から温まるような、やさしくも力強い味わいです。

    この料理を作ってくれたお母さんは、「昔はこれが主食だったのよ。ほかに食べるものがなくても、これさえあれば家族みんな元気でいられたの」と懐かしそうに語ってくれました。莜面窩窩は単なる料理にとどまらず、厳しい自然を生き抜く人々の知恵と家族への愛情がつまった、まさにソウルフード。歴史を思いながら味わうと、よりいっそう深みを感じられました。

    市場の恵みをそのまま食卓へ

    その日の食卓には、朝市で買ったばかりの野菜を使った料理も並びました。さっと炒めただけの青菜は、シャキシャキとした歯ごたえと野菜本来の濃厚な甘みが楽しめます。最小限の調味料で素材の味を最大限に引き出すのが沙城流。ごま油の香りが食欲をそそります。

    じゃがいもとピーマン、茄子の炒め物「地三鮮(ディーサンシエン)」は、大地の恵みを象徴する一皿です。油で素揚げした野菜を甘辛いタレで絡めたご飯が進む定番おかずで、それぞれの野菜の食感と味わいが一体となり、口の中に豊かなハーモニーを奏でます。派手さはないものの、毎日でも食べたくなる飽きのこない美味しさです。

    また、卓上の中央には大きな魚の蒸し料理が並びました。淡水魚を丸ごと一匹、生姜やネギとともに蒸し、熱した油と醤油ベースのタレをかけるシンプルな料理ですが、極上の味わい。ふっくらとした白身は臭みがまったくなく、上品な旨みが口の中に広がります。新鮮な素材があってこそ成り立つ、極上のご馳走です。

    食事の間、家族のみなさんとたくさん話を交わしました。子どもの学校のこと、最近の天候のこと、そして私がどこから来たかなど。言葉の壁はあっても、美味しいものを一緒に囲むことで、自然と心がつながります。食卓は単なる食事の場ではなく、家族の絆を深め、心を通わせる大切な空間だと改めて感じました。賑やかな笑い声に包まれて味わう家庭の味は、どんな高級レストランの料理よりも私の心を満たしてくれました。

    スポット名地元の食堂や農家楽(ノンジアロー)
    所在地沙城県内各地に点在
    営業時間店舗によるが、主に昼食・夕食時
    特徴「莜面窩窩」をはじめ、河北省北部の郷土料理が楽しめる。特に農家楽では、その家で採れた新鮮な野菜を使った家庭料理を味わえることが多い。
    注意事項有名観光レストランよりも、地元の人で賑わう小さな食堂がおすすめ。メニューが中国語のみの場合が多いため、食べたい料理の写真を用意しておくと注文がスムーズ。

    悠久の時を越えて。宿場町・鶏鳴駅に息づく食の記憶

    沙城の食文化をより深く理解するには、この土地が刻んできた歴史に触れることが不可欠です。この地域には、明代に設けられた駅逓(えきてい)、つまり宿場町として栄えた「鶏鳴駅(けいめいえき)」という古い城郭の村が、ほぼ完全な形で保存されています。城壁に囲まれた村の中に一歩足を踏み入れると、まるで時間が数百年前に戻ったかのような、不思議な感覚に包まれます。

    城壁の内側で流れる、変わらぬ時の刻み

    鶏鳴駅はかつて、北京と西方を結ぶ重要な交通の要衝でした。多くの役人や商人、旅人がここで馬を休め、宿を取り、情報を交換して賑わったと伝えられています。石畳の道を歩きながら土壁の家々を眺めていると、かつての人々のざわめきや馬のいななきが耳元に響いてくるようです。

    この村を散策していると、自然と当時の旅人たちは何を食べていたのかという疑問が浮かびました。長い旅路で疲れた身体を癒していたのは、決して豪華なごちそうではなく、この土地で収穫された穀物から作られた麺や粥、素朴な野菜料理だったのではないでしょうか。莜面窩窩のような郷土料理も、形を少しずつ変えながらこの地で旅人の空腹を満たし続けてきたのかもしれません。

    村の中には今なお普通の生活が息づいています。軒先で野菜を干したり、井戸端での会話に花を咲かせたりといった日常の風景が広がっています。観光地である一方で、生きた暮らしの匂いが色濃く残っているのが鶏鳴駅の大きな魅力です。ある家の前を通りかかると、小麦粉をこねて麺を打つおばあさんの姿がありました。その手つきはリズミカルで無駄がなく、何十年、いや何世代にもわたって受け継がれてきた技術の証のように見えました。彼女が丁寧に仕上げる一本一本の麺には、この村の歴史と家族の生活を支えてきた誇りがしっかりと込められているように感じられました。

    旅人の心を満たした、素朴な味わい

    鶏鳴駅の周辺地域は、杏の特産地としても有名です。初夏には甘酸っぱい果実が実り、その杏は生のまま食べられるばかりでなく、干し杏や杏ジャム、杏仁豆腐の材料など多彩な形で人々の食生活を豊かにしてきました。村の小さな店で手作りの干し杏を手に入れて味わってみると、太陽の恵みをたっぷり浴びて乾燥された杏は甘味が濃縮されつつも、爽やかな酸味をしっかりと残していました。一つまた一つと口にするうちに、旅の疲れがすっと和らいでいくように感じられました。昔の旅人たちも、おそらくこの杏の甘酸っぱさに故郷への思いを馳せたり、これからの旅の安全を祈ったのではないでしょうか。

    食は単に空腹を満たすだけのものではありません。時には人の心を癒やし、励まし、記憶を呼び覚ます力を持っています。鶏鳴駅の古びた城壁や石畳には、数えきれない人々の食にまつわる思い出が染み込んでいます。ここで一杯のお茶をいただき、素朴な菓子を味わうだけでも、悠久の時の流れとその中で変わらずに繰り返されてきた人々の営みに想いを馳せることができるのです。それは私たちの日常がいかに多くの歴史の積み重ねの上に成り立っているかを教えてくれる、かけがえのない体験となるでしょう。

    食文化とは、その土地の気候や風土、そして歴史が複雑に絡み合って紡ぎ出される壮大な物語です。鶏鳴駅を訪れて、沙城の食の背景に横たわる時の重みと奥深さを垣間見たように感じました。

    スポット名鶏鳴駅古城 (Jimingyi Post)
    所在地河北省張家口市懐来県鶏鳴駅郷
    営業時間8:00 – 18:00(季節により変動あり)
    特徴明代に築かれた駅逓(宿場町)の城郭がほぼ完全な状態で残る貴重な史跡。城壁に囲まれた村内には今も住民が暮らし、タイムスリップしたかのような体験ができる。
    注意事項村全体が史跡かつ居住区のため、敬意をもって見学すること。歩きやすい靴が必要。夏は強い日差し対策に帽子や水分の準備をおすすめします。

    大地と響きあう、心と身体の調和

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    沙城への旅を終えて、私の胸に刻まれたのは、満腹感だけではありませんでした。それは、大地、人々、そして自分自身の心と体が深く結びついているという実感でした。

    朝市で目にした、土の匂いをまとった野菜たち。その不揃いな形や鮮やかな色彩は、自然の生き生きとした姿を教えてくれました。スーパーで規格化された野菜にはない、一つ一つの独自性を愛おしむ気持ち。それは、多様性を受け入れ、完璧でない自分自身すらも肯定する心へとつながっているのかもしれません。

    ブドウ畑で感じた、太陽の力強いエネルギーと風のささやき。一粒のブドウがワインに変わるまでの長い時の流れは、私たちに忍耐と、待つことの意味を教えてくれます。結果を急ぎがちな現代にあって、自然のリズムに身をゆだね、じっくり熟成を待つ態度は、心の安らぎを取り戻すための貴重なヒントを与えてくれました。

    そして何よりも、人々の温かな笑顔と、食卓を囲む和やかな風景。手間を惜しまぬ家庭料理には、家族の健康を願う祈りにも似た深い愛情が込められていました。誰かのために料理を作り、共に食事をすることは、人と人との絆を確かめ合う、最も根源的かつ神聖な儀式と言えるでしょう。この旅で味わった数々の料理は、私の身体だけでなく、乾いていた心にも豊かな潤いを与えてくれました。

    沙城の食は決して華美ではありません。しかし、一口ごとに大地の力強いエネルギーと人々の惜しみない愛情、そして悠久の歴史が溶け込んでいます。それは、私たちの命が自然の一部であり、多くの恵みと人々とのつながりのなかで生きているという、当たり前でありながら忘れがちな真実を思い出させてくれました。

    この旅で得た感動を胸に、日常に戻った今、私は食との向き合い方が少し変わったように感じています。食材を手にするときは、その背景にある農家の方々の努力を思い浮かべ、料理をするときは食べる人の笑顔を思い描くようになりました。そして、食事をいただく際には、すべての恵みに自然と感謝の気持ちが湧き上がってきます。

    中国・沙城。それは単に美味しいものがあるだけの場所ではありません。食を通じて、生きる原点に立ち返り、心と体の調和を取り戻すことができる特別な場所です。もし日々の暮らしに疲れを感じているのなら、この大地のエネルギーあふれる地を訪れてみてはいかがでしょう。きっとあなたの五感を呼び覚まし、明日への力をもたらしてくれる忘れがたい出会いが待っているはずです。

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    この記事を書いた人

    K-POPアイドルの追っかけが趣味のOL。ファン目線の熱量と、最新のトレンド情報を盛り込んだ記事が人気。現地の若者に人気のカフェや、最新コスメ情報にも精通している。

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