北京の喧騒を背に、高速鉄道に揺られてわずか一時間。車窓を流れる景色が、近代的なビル群から雄大な山並みへと姿を変える頃、私の心は未知なる食との出会いに高鳴っていました。今回の目的地は、中国河北省、張家口市懐来県に位置する沙城(さじょう)。多くの日本人にとっては、まだ耳慣れない地名かもしれません。しかしこの地は、万里の長城の麓に抱かれ、中国で最も歴史あるワイン産地の一つ、「中国葡萄酒之郷」としての栄誉を冠する場所なのです。
「中国のワイン」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。正直に言えば、私自身もこの旅に出るまでは、ぼんやりとした輪郭しか描けずにいました。けれど、旅とは常に、そうした先入観を心地よく裏切ってくれるもの。沙城の乾いた風と力強い太陽の光を浴びて育った葡萄が、どれほど豊かで奥深い物語を秘めているのか。そして、そのワインが、この土地ならではのローカルグルメと出会った時、どのような奇跡的な響き合いを見せてくれるのか。それを確かめるための旅が、今、始まります。
悠久の歴史が息づく大地で、ワインと食を通じて土地の魂に触れる。それはまるで、心と体を深く癒すスピリチュアルな体験のようでもありました。さあ、一緒に沙城の美味なる世界へと足を踏み入れてみましょう。忘れかけていた五感が、ゆっくりと目覚めていくのを感じられるはずです。
この旅で味わった沙城のワインと食のハーモニーは、まるで茶馬古道で味わう野生キノコ鍋のように、その土地の風土が生んだ忘れられない味わいでした。
なぜ沙城なのか?中国ワインの聖地たる所以

旅の魅力は、その土地の背景を理解することでより深まります。沙城がなぜ中国有数のワイン産地として知られるようになったのか。その秘密は地理や気候、さらには歴史に隠されています。
懐来盆地に位置する沙城は、四方を山々に囲まれています。この地形はまるで自然の要塞のように湿った空気を遮断し、独特の乾燥した気候を生みだしています。年間を通じて日照時間が長く、昼夜の温度差も大きい。この厳しい自然環境こそが、葡萄の糖度を高め、凝縮された風味と豊かな酸味を育む理想的な条件を提供しているのです。フランスのボルドーやブルゴーニュなど世界的な名産地と同様に、葡萄は少しの「試練」を受けることで、その潜在能力を最大限に発揮するのかもしれません。
この地での葡萄栽培の歴史は長く、13世紀にまでさかのぼると言われています。しかし、近代的なワイン造りの基礎が築かれたのは1970年代後半のこと。中国初となる辛口白ワイン、さらには初の瓶内二次発酵方式によるスパークリングワインがこの地で生まれた事実は、沙城が中国ワイン産業における先駆者であることを雄弁に語っています。北京に近いという立地の利便性も、この地域の発展を後押ししました。古くから京の食文化を支える重要な役割を果たしてきたのです。
車で少し走ると、遥か遠くに万里の長城の稜線が浮かび上がります。悠久の歴史を刻んできた長城が見守るこの土地で、葡萄の木は力強く根を張り、太陽の恵みを存分に受けています。その光景を思い浮かべるだけで、これから味わうワインの一滴一滴に特別な重みとストーリーが感じられるのではないでしょうか。沙城のワインは単なる飲み物ではなく、この土地の風土や歴史を映し出す鏡のような存在なのです。
大地の恵みを五感で味わうワイナリー巡り
沙城の真髄に触れるには、やはりワイナリー訪問が欠かせません。広大な土地に整然と広がる葡萄畑、冷涼な空気が漂う醸造所、そしてそこで醸される珠玉の一杯―。ここでは、私が訪れた中でも特に印象深かった二つのワイナリーを紹介します。それぞれ独自の個性が、沙城ワインの奥深さを教えてくれました。
中国ワインの歴史を刻む名門「中糧長城桑乾酒荘」
沙城ワインを語るうえで欠かせない存在が、「長城」ブランドです。中でも、特に品質の高いワインを生み出す拠点として知られているのが「中糧長城桑乾酒荘(COFCO GreatWall Sangan Estate)」です。
荘厳な門をくぐると、ヨーロッパのシャトーを思わせる美しい建物と、手入れの行き届いた広大な庭園が迎えてくれます。その光景は、一瞬ここが中国であることを忘れさせるほど。しかし一歩中に足を踏み入れれば、中国ワインの黎明期から今日に至るまで先導してきた確固たる誇りと哲学が感じられます。
案内役のガイドに連れられ、最初に訪れたのは地下セラー。アーチ型の天井が続く薄暗い空間には、数えきれないほどのオーク樽が静かに佇んでいました。樽から漂う甘く香ばしい香りと、ひんやりと肌を撫でる空気がワインがまさに熟成という魔法にかかっていることを伝えてくれます。ここでは、ワインが単なる工業製品ではなく、手間と時間をかけて育まれる「生き物」であることが実感できます。
見学の醍醐味はやはりテイスティングです。広々としたテイスティングルームの窓越しには、陽光に照らされて輝く葡萄畑が一望でき、この景色を堪能しながら味わうワインはまさに至福のひとときでした。
特に印象に残ったのは、ソーヴィニヨン・ブランの白ワイン。グラスに注がれた瞬間、青草や柑橘系の爽やかな香りが立ち上り、口に含むとキリリとした酸味と後から追いかける熟した果実の甘みが絶妙な調和を見せていました。乾燥した沙城の気候と強い日差しが、この瑞々しくも厚みのある味わいを育んでいるのでしょう。塩味のきいた河北料理や川魚の蒸し物と合わせれば、お互いの魅力を引き立て合う素晴らしいマリアージュになることと思います。
次に試した、カベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤ワインは、黒い果実の凝縮されたアロマとオーク樽由来のヴァニラやスパイスのニュアンスが複雑に調和した、重厚かつエレガントな一本でした。タンニンは滑らかで余韻も長く続きます。この赤ワインには北京ダックのような濃厚な料理や、沙城名物の羊肉料理がぴったりだと感じました。
長城ワインは、中国の国賓をもてなす公式な席でも振る舞われる、まさに国家を代表するワインです。その堂々たる風格と土地の個性を映し出した味わいは、中国ワインの確かな実力と将来への可能性を力強く示しているように思えました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 中糧長城桑乾酒荘 (COFCO GreatWall Sangan Estate) |
| 住所 | 中国河北省張家口市懐来県沙城鎮 |
| 特徴 | 中国を代表する大手ワイナリー。国賓級のワインを生産。ヨーロッパ風の美しいシャトーと広大な葡萄畑が魅力。見学ツアーやテイスティングが充実。 |
| 見学のポイント | 地下セラーの規模と雰囲気が圧巻。葡萄畑を望むテイスティングルームからの眺めは格別。中国ワインの歴史と基準を学ぶには最適。 |
| 注意事項 | 見学やテイスティングは事前予約が推奨されることが多いため、訪問前には確認をお勧めします。 |
テロワールを追求する隠れた名醸造所「容辰酒荘」
大手ワイナリーの安定感と伝統に触れたあと、次に訪れたのはより小規模で、生産者の哲学が色濃く反映されたブティックワイナリー「容辰酒荘(Rongchen Vineyard)」です。
主要な道路から少し外れた静かな場所に、そのワイナリーはひっそり存在していました。派手な看板はなく、まるで個人の邸宅のような落ち着いた佇まい。しかしその控えめな外観とは対照的に、ここで造られるワインは国内外で高い評価を受けています。
迎えてくれたのは、オーナー兼醸造家の方。日に焼けた顔に柔和な笑顔が浮かび、葡萄とワインに対する深い愛情が感じられました。彼の案内でまず畑を見学。長城ワイナリーのような広さはないものの、一株一株の葡萄がまるで我が子のように大切に育てられているのが伝わってきます。
「ここの土を見てください」と彼は屈み込み、赤みを帯びた砂礫質の土を手に取りました。「排水性が良く、ミネラルが豊富です。これが私たちのワインに複雑さと骨格をもたらすのです」。彼が語る「テロワール」の言葉には、単なる理論ではなく、毎日の労働と観察から得た実感が込められていました。
醸造所は最新鋭の機器が並ぶ豪華な施設というよりも、清潔で機能的、そして手作りの温かさが随所に感じられる場所でした。彼はできるだけ自然な醸造を目指しており、野生酵母を使った発酵や添加物の最小限化を実践。この地の葡萄本来の力を最大限に引き出すことに心血を注いでいます。
テイスティングは醸造所の隅に置かれた素朴な木製テーブルで行われました。オーナー自らがサーブするワインは、いずれも強い個性を放っていました。
特に衝撃的だったのは、マルスランという品種から造られた赤ワインです。この品種は日本ではまだ馴染みが薄いものの、カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配で、スパイシーさと豊かな果実味を合わせ持つのが特徴です。グラスから立ち上る胡椒やクローブのような刺激的な香りに続き、カシスやブラックベリーを煮詰めたような深いアロマが広がります。口当たりは驚くほど滑らかでありながら、しっかりとした骨格も感じられ、飲み込んだ後も心地よいスパイスの余韻が鼻をくすぐります。
「このワインは沙城の鉄鍋料理と最高の相性なんです」とオーナーは微笑み、その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中には熱々の鍋から立ち上る湯気と、このスパイシーなワインの香りが混ざり合う完璧な食のひとときが浮かびました。
容辰酒荘での体験は、ワイン造りが単なる技術ではなく、自然との対話であり、生産者の哲学を表現する芸術であることを教えてくれました。一杯のワインの向こうに見えるのは、人の情熱や土地の息吹。それこそが旅先でワインを味わう醍醐味なのかもしれません。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 容辰酒荘 (Rongchen Vineyard) |
| 住所 | 中国河北省張家口市懐来県 |
| 特徴 | 小規模ながら国内外で高い評価を誇るブティックワイナリー。テロワールを重視し、生産者の哲学が色濃く反映された個性豊かなワインを生産。 |
| 見学のポイント | オーナーから直接、畑や醸造に対する熱い想いを聞ける。マルスランなど希少品種のワインに出会える可能性が高い。 |
| 注意事項 | 小規模なため、訪問には必ず事前予約が必要です。通訳の手配も検討すると、より深い交流が楽しめます。 |
ワインと共に深まる、沙城のローカルグルメ探訪

素晴らしいワインに巡り合うと、自然とその土地の料理と共に味わいたいという欲求が湧き上がってきます。沙城の食文化は、華北地方ならではの素朴で力強い特色を持ちながら、洗練されたワインというパートナーを得て独自の進化を遂げていました。ここでは、私の舌と心を惹きつけた絶品のローカルグルメをお届けします。
土鍋が奏でる豪快なハーモニー「鉄鍋炖」
沙城の夜、地元の人々でにぎわう食堂の扉を開けると、むんと立ち上る湯気と食欲をそそる香ばしい匂いに包まれました。ほぼすべてのテーブルの中心で主役を務めているのが、この地域の名物料理「鉄鍋炖(ティエグオドゥン)」です。
この料理は、テーブルに埋め込まれた大きな鉄鍋で鶏肉や魚、豚のスペアリブなどを、ジャガイモ、カボチャ、キノコ、春雨など野菜をたっぷり加えて豪快に煮込む鍋料理。味付けは醤油や八角などの香辛料をベースにし、やや甘みを帯びた濃厚な味わいが特徴です。薪を使って炊く店も多く、その調理過程を見るだけでも心が躍ります。
私たちが注文したのは鶏肉の鉄鍋炖。店員さんが手際よく具材を鍋に入れ、蓋をして煮えるのを待ちます。待つ間、鍋の周りに「花巻(ホアジュアン)」と呼ばれる渦巻き状の蒸しパンや、トウモロコシの生地を貼り付けていくのが沙城の流儀。これが鍋の蒸気でじっくり蒸し上げられ、料理が仕上がる頃には、肉や野菜の旨味を吸い込んだ絶品の主食となっているのです。
蓋が開けられた瞬間、歓声が上がりました。湯気の奥には、飴色に煮込まれた鶏肉とホクホクのジャガイモが顔をのぞかせています。熱々を頬張ると、鶏肉は骨からほろりと外れるほど柔らかく、濃厚なタレの味がしっかりと染み込んでいます。野菜はそれぞれの食感を残しつつ、旨味をたっぷり吸収し、深い味わいを醸し出しています。そして鍋肌にできた少しのおこげが香ばしく、花巻の風味を引き立てています。これだけで十分に満足できるご馳走でした。
ここに合わせたいのが、容辰酒荘で出合ったようなスパイシーで骨格のしっかりした赤ワインです。鉄鍋炖の濃厚で複雑な味わいを、ワインの果実味とタンニンがしっかり受け止め、互いの風味を引き立て合います。八角の甘くエキゾチックな香りとワインのスパイスのニュアンスが口中で重なるときは、まさに至福の瞬間。豪快な見た目とは対照的に計算づくされた味の調和には、思わずため息がこぼれました。
大勢の家族や友人と大きな鍋を囲み、語らいながら楽しむ鉄鍋炖。それは単なる食事を超え、人と人との絆を温め深める大切なひととき。この料理が地元で長く愛され続けてきた理由を、心と身体で実感した気がしました。
素朴ながらも奥深い燕麦の芸術「莜面」
河北省や山西省をはじめとする華北の乾燥地帯で古くから主食として親しまれてきたのが、「莜面(ヨウミェン)」です。これは小麦ではなく燕麦(オートミールの原料)の粉から作る麺や料理の総称で、グルテンを含まないため独特の食感と素朴な風味が特徴。現代の健康志向の高まりの中で改めて注目されている食材でもあります。
沙城のレストランのメニューを開くと、多彩な莜面料理がずらりと並び、その奥深さに触れるべく、いくつかの代表的な料理を試してみました。
職人技が光る蜂の巣「莜面窩窩」
最初に運ばれてきて、その見た目の美しさに心を奪われたのが「莜面窩窩(ヨウミェンウォーウォー)」です。薄く伸ばした莜面の生地を指でくるりと丸め、蜂の巣のように蒸籠にびっしり並べて蒸し上げたもので、一つ一つが均等な形と大きさ。これは熟練の職人でなければ成し得ない芸術品と言えるでしょう。
食べ方は、ニンニクや唐辛子を効かせたタレや、羊肉のトマト煮込みの濃厚なソースにつけていただきます。口に含むと、一見つるりとしていながらもわずかにざらりとした莜面特有の舌触り。噛みしめると燕麦由来の穀物らしいほのかな甘みと香ばしさがふんわり広がります。小麦の麺のような弾力はないものの、ぷつりとした歯切れのよさが心地よい。濃厚なタレがこの素朴な味わいに絶妙に絡み、後を引く美味しさです。
涼を呼ぶ夏の味わい「莜面魚魚」
続いて試したのは「莜面魚魚(ヨウミェンユィユィ)」という、小魚のような形をした小さな麺。生地を両手で素早くこすり合わせ、細長い紡錘形に成形する技法で作られ、その名の通り茹で上がると小魚の群れのように見えます。
冷たいスープや和え麺としていただくことが多く、私が味わったのはキュウリや香菜、酸味の効いた黒酢ベースのタレで和えた一皿。つるんとした喉ごしが乾いた喉に心地よく、暑い日にぴったりの逸品です。莜面の素朴な風味が薬味の爽やかな香りと黒酢のキリッとした酸味によって引き立てられ、さっぱりしつつも満足感のある味わいに仕上がっています。
これらの莜面料理には、長城ワイナリーで味わったような爽やかなソーヴィニヨン・ブランがよく合います。ワインの柑橘系の芳香と活き活きとした酸味が莜面の素朴な風味と見事に調和し、料理全体を軽やかで洗練された印象に導きます。特に黒酢を用いた料理との組み合わせは秀逸で、互いの酸味がぶつかることなく心地よいハーモニーを生み出していました。
莜面は決して華やかな料理ではありません。しかし一口ごとに、厳しい自然環境で生きる人々の知恵と、穀物一粒への感謝が込められているように感じられました。ワインという新たな文化と融合しつつも、古くからの食の伝統を大切に守り続ける。この姿勢こそが、沙城の食文化の本当の豊かさなのかもしれません。
食の探求は市場にあり – 沙城の朝市で感じる土地の息吹
旅先での私の楽しみの一つは、その地域の市場を訪れることです。市内の観光客向けレストランでは見られない、人々の素顔の生活や、土地がもたらす旬の恵みが市場には満ちあふれています。沙城の朝市もまた、生命力にあふれる素晴らしい場所でした。
早朝、まだひんやりとした空気の中で市場に足を踏み入れると、すでに活気に満ちた熱気が漂っていました。力強い売り子の声、真剣な表情で野菜を選ぶ人々、揺れる天秤の音。そうした要素が一体となり、市場という名の交響曲を奏でているかのようです。
並べられているのは、どれも新鮮で土の香りを感じさせる野菜ばかりでした。日本ではあまり見かけない形のかぼちゃや紫色のカリフラワー、そして驚くほど大きな白菜の山。果物のコーナーに目を向ければ、この土地の特産であるぶどうはもちろん、山のように積まれた棗(なつめ)や、甘い香りが漂う杏が並びます。試食させてもらった干し棗の自然な甘みの濃厚さは忘れがたいものでした。
中でも特に興味を惹かれたのが、豆類や雑穀を扱うお店でした。莜面の原料となる燕麦をはじめ、粟や黍(きび)、緑豆などが麻袋にたっぷり入っています。人々は慣れた手つきでこれらを購入し、毎日の食卓を豊かに彩っているのでしょう。こうした雑穀文化が根付いていることも、この土地の食の豊かさと健康的な暮らしを支える一因だと感じました。
市場の一角からは、揚げパン「油条(ヨウティアオ)」を揚げる軽快な音が聞こえ、豆乳「豆漿(ドウジャン)」の甘い香りが漂っています。地元の人々に混ざりながら、熱々の油条を豆漿に浸して味わう朝食は、言葉にできない幸福感に包まれた時間でした。
この市場で強く感じたのは、人々が大地の恵みに深く感謝し、それを余すことなく日々の糧としているということでした。ワイン作りにおける「テロワール」が重要視されるように、日々の食事もまた、この土地の気候や風土と密接に結びついています。沙城の食文化の根底に流れる哲学を、活気あふれる市場の光景から垣間見た気がしました。
悠久の歴史を感じる、食以外の寄り道

沙城の魅力はワインや美食に限りません。この地の食文化が培われた背景には、壮大で深い歴史の物語が息づいています。食の探訪の合間に少し足を伸ばせば、悠久の時を感じさせる感動的な風景に出会うことができるでしょう。
鶏鳴駅古城 – 時が止まったままの宿場町
沙城からほど近い場所に位置する「鶏鳴駅古城」は、明代に整備された駅伝制度の宿場町がほぼ完全な形で保存されている貴重な場所です。城壁に囲まれたその町に一歩踏み入れると、まるで何百年も時が遡ったかのような錯覚に囚われます。
土壁の家屋が軒を連ね、石畳の道が果てしなく続くこの地は、かつて役人や使者が馬を乗り換えながら休息を取ったであろう場所です。今もなお人々の静かな暮らしが息づいています。城壁の上を歩けば、古城の全景が広がると同時に、遠方には雄大な燕山山脈の姿も望めます。
かつてこの宿場町を行き交った多くの人々は、どのような食事を楽しみ、どんな酒を酌み交わしたのでしょうか。もしかすると、地元で採れた葡萄から醸された素朴な酒を味わっていたかもしれません。そんな想像を膨らませながら古城を歩くと、歴史のロマンが心に深く響いてきます。この地が放つ静かで力強いエネルギーは、訪れる人の心を穏やかに洗い清めてくれるかのようです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 鶏鳴駅古城 (Jimingyi Post Town) |
| 住所 | 中国河北省張家口市懐来県鶏鳴駅郷 |
| 特徴 | 明代の宿場町が非常に良好な保存状態で残されている。城壁や古い街並みが色濃く歴史の雰囲気を漂わせ、映画のロケ地としても知られる。 |
| 見どころ | 城壁の上からの眺望は絶対に見逃せない。古城内には宿泊可能な施設もあり、まるでタイムスリップしたかのような体験が楽しめる。 |
| 注意事項 | 足元が不安定な場所もあるため、歩きやすい靴を履いての散策をおすすめします。夏季は強い日差し対策として帽子や日焼け止めを用意しましょう。 |
旅の記憶、心に刻まれた沙城の味わい
北京へ戻る高速鉄道の車窓から、私はこの数日間の旅を静かに思い返していました。沙城の乾いた風、力強く降り注ぐ太陽の光、果てしなく広がる葡萄畑の緑、そして人々の温かな笑顔。そのすべてが、味わったワインの一滴一滴や料理の一皿一皿とともに、鮮やかな記憶として胸に刻まれています。
旅に出るまでは、「中国ワイン」という存在は私にとってまだ輪郭のはっきりしないものでした。しかし沙城で出会ったワインのすべては、この土地のテロワールを雄弁に語り、確かな個性と哲学を宿す素晴らしいものでした。それはフランスやイタリアのワインを模倣したものではなく、「沙城」という地でのみ生まれる、唯一無二の味わいでした。
さらに、そのワインを引き立てるかのように存在する鉄鍋炖や莜面などの地元料理。豪快さと素朴さ、そして深い滋味を兼ね備えたこれらの料理は、ワインとの調和によってその魅力を一層引き出していました。それはまるで、伝統と新たな文化が手を取り合い、見事なハーモニーを奏でているようでした。
沙城の旅が教えてくれたのは、食べることが単なる空腹の解消ではないということです。それはその土地の歴史や風土、そして人々の暮らしそのものを味わう行為なのです。一杯のワインを口にすることは、その葡萄が育った畑の土や太陽の光、醸造家の熱い想いに触れること。一皿の郷土料理を味わうことは、厳しい自然の中で生き抜いてきた人々の知恵と家族への温かな愛情に触れることなのです。
日常の喧騒を離れ、五感を研ぎ澄ませて、目の前の食に真摯に向き合う。そんな時間がどれほど心を満たし、豊かにしてくれるか。沙城での体験は、そのことを改めて私に気づかせてくれました。
もし、まだ見ぬ美味との出会いを求め、心と身体を癒す旅を望むなら、次の旅の候補地にぜひ沙城を加えてみてはいかがでしょうか。万里の長城に見守られた大地で、きっと忘れがたい一杯と一皿があなたを待っているはずです。

