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    ペルーの白き街アレキパ、伝統食堂『ピカンテリア』で魂を満たす。心と体に優しいヴィーガン郷土料理の旅

    南米大陸の西部、アンデスの雄大な山々に抱かれるようにして存在する国、ペルー。その南部に、まるで天空に浮かぶ城塞のように輝く街があります。その名はアレキパ。「白き街」と称されるこの古都は、荘厳な火山と歴史の息吹、そして訪れる者の魂を深く癒す不思議な力に満ちています。今回は、40代からの心豊かな旅を求めるあなたへ、このアレキパで体験する、特別な食の物語をお届けします。主役は、この街の食文化の心臓部ともいえる伝統食堂『ピカンテリア』。そして、そこで見つける、心と体に優しく沁みわたるヴィーガン郷土料理の数々です。伝統の味を守りながらも、新しい時代の感性を取り入れた食の探求は、きっとあなたの旅を忘れられないものにしてくれるでしょう。さあ、一緒にアレキパの石畳を歩き、魂が満たされる食の扉を開いてみませんか。

    アレキパでの食の旅を終えたら、次はインカ帝国の聖地であり、スペイン文化との融合が息づく天空の都クスコを訪れて、魂の故郷を巡る旅へと出かけてみませんか。

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    白き街アレキパへ。魂が浄化される天空都市の輝き

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    ペルーの首都リマから飛行機で約1時間半。窓の外に広がるのは乾いた大地と、そびえ立つアンデス山脈の壮大な景色。その麓に、突然現れる真っ白な街並みがあります。これは標高約2,335メートルに位置するペルー第2の都市、アレキパです。

    この街が「白い街(La Ciudad Blanca)」と呼ばれる理由は、建物のほとんどが「シジャール(Sillar)」という乳白色の火山岩で造られているためです。背後には雄大にそびえるミスティ山、チャチャニ山、ピチュピチュ山という3つの火山があり、古代の噴火の際に生まれたシジャールがこの街を彩っています。太陽光を浴びると、街全体が柔らかな輝きを放ち、まるで天空の都市に迷い込んだかのような幻想を抱かせます。特に朝夕、斜めに差し込む光が建物の彫刻に深い陰影を落とし、その美しさは息をのむほど。石一つひとつには火山の力と、この地を築いた人々の祈りが宿っているかのようです。

    ここには澄み切った凛とした空気が流れています。高所の乾燥した気候とアンデスの風が、訪れる人々の心身を清めるかのように感じられます。一息つくたびに、日常の雑音や悩みがすっと消えていくのを実感できるでしょう。中心にあるアルマス広場に立つと、壮麗なカテドラルとその向こうにそびえるミスティ山の姿に圧倒されます。鐘の音が響き渡る中で広場をゆったり散策する時間は、かけがえのない贅沢なひとときです。

    アレキパの歴史地区は、その卓越した建築美と文化的価値が認められ、ユネスコの世界遺産に登録されています。スペイン植民地時代のバロック様式と先住民の伝統建築が見事に融合した「メスティーソ・バロック」と称される独特のスタイルは、教会のファサードや貴族邸宅の装飾に色濃く表れています。中でも、広大な敷地を城壁が囲むサンタ・カタリナ修道院は、まるで一つの街そのもの。かつて厳格な戒律のもとで暮らした修道女たちの祈りの気配が漂う静寂と、赤や青に塗られた壁面の鮮やかなコントラストが、訪れる者を非日常の世界へと導きます。

    しかし、アレキパの魅力は壮麗な建築物だけにとどまりません。石畳の狭い路地を一歩踏み入れれば、街の住民たちの日常の穏やかさが感じられます。中庭で語らう家族、軒先で花に水をやる老人、元気に駆け回る子どもたち。街全体がまるで大きな家族のような温かい雰囲気に包まれています。この清らかなエネルギーと人々の温もりは、旅人の疲れた心を優しくほぐし解き放ってくれます。アレキパは単なる観光地ではありません。そこに滞在し、呼吸し、空気を感じることで、自らの内なる静寂と向き合うことができる―そんなスピリチュアルな癒しを与えてくれる特別な場所なのです。

    ピカンテリアとは?アレキパの食文化を支える魂の台所

    アレキパの本質に触れる旅をするなら、絶対に訪れるべき場所があります。それが「ピカンテリア(Picantería)」と呼ばれる伝統的な食堂です。ピカンテリアは単なる食事処ではなく、アレキパの歴史や文化、そして人々の日常が凝縮された、まさに「魂の台所」と言える特別な場所です。

    その起源は古く、16世紀にまでさかのぼると伝えられています。もとは家庭の女性たちが自宅の軒先などで、伝統的な発酵酒チチャ・デ・ホラ(トウモロコシを発酵させて作る酒)とそれに合うシンプルなおつまみを振る舞い始めたことに端を発します。次第に、その日の食材を使った家庭料理が評判となり、多くの人々が集う憩いの場へと発展していきました。店名の「ピカンテ」はスペイン語で「辛い」を意味します。確かに、アレキパ名物の唐辛子「ロコト」を使った料理も多いですが、辛さ控えめで優しい味わいのメニューも豊富に揃っています。ピカンテリアは、辛いものが好きな人も苦手な人も、誰でも受け入れられる懐の深い場所です。

    ピカンテリアの最大の特徴は、その日の朝に仕入れた新鮮な食材を使い、大鍋でじっくり時間をかけて調理する手法にあります。特に名物なのが、「チュペ(Chupe)」と呼ばれる具だくさんのスープです。曜日ごとに異なるチュペが提供される店が多く、例えば月曜日は「チャケ(Chaque)」、火曜日は「チャイロ(Chairo)」と決まっています。地元の人々は「今日は金曜日だからあの店のチュペ・デ・ビエルネスを食べに行こう」と、ピカンテリアを日常の一部として楽しんでいます。この日替わりスープはまさにアレキパのお母さんの味。滋味深く栄養満点で、食べる人の心と体を内側から温めてくれるのです。

    店内は華美な装飾とは無縁で、素朴で温もりのある空間がほとんどです。大きな木製のテーブルが置かれ、相席も珍しくありません。そこで交わされるのは家族や友人とのおしゃべりだけでなく、見知らぬ客同士の気軽な会話も多く、生き生きとしたコミュニティの場となっています。厨房からは食材を刻む音や鍋が煮える音、そして食欲を刺激する芳しい香りが漂います。どのテーブルにもほぼ必ず置かれているのがチチャ・デ・ホラです。ほどよい酸味と甘みを持つこの発酵酒は、料理の味を引き立てるだけでなく、人々の心をほぐし、陽気な交流を生み出す魔法の飲み物。チチャを酌み交わしながら、美味しい料理を味わうことが、ピカンテリアの真髄なのです。

    このアレキパ特有の食文化はその価値が認められ、「アレキパのピカンテリア、美食の知識と伝統的な営み」としてペルーの無形文化遺産に登録されました。さらに、ユネスコの世界無形文化遺産への登録も目指されています。これにより、ピカンテリアは単なる食の提供場所にとどまらず、地域の食材を守り伝統的な調理法を継承しながら、コミュニティの絆を育む生きた文化遺産であることが証明されています。ピカンテリアの扉を開くことは、アレキパの歴史そのものを味わう文化体験。一皿一皿に込められた物語を感じながらいただく食事は、旅の思い出に深く刻まれることでしょう。

    伝統の中に光る新しい選択肢。ヴィーガン・ピカンテリアの扉を開く

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    これまでピカンテリアの魅力についてお伝えしてきましたが、伝統的なペルー料理と聞くと、多くの方は肉や魚、乳製品を豊富に使った料理を思い浮かべるのではないでしょうか。実際、アレキパの名物である「アドボ」(豚肉の煮込み)や「チュペ・デ・カマロネス」(エビのスープ)などは、多くのピカンテリアの看板メニューとして知られています。では、ヴィーガン(完全菜食主義者)や健康のために動物性食品を控えている方は、この素晴らしい食文化を楽しめないのでしょうか。

    その答えは「いいえ」です。実はペルー料理の根底には、アンデスの大地が育んだ多種多様な植物性の恵みがしっかりと息づいています。インカ帝国の時代から、人々はジャガイモ、トウモロコシ、キヌア、アマランサス、豆類、カボチャ、唐辛子といった豊かな食材を巧みに取り入れ、身体と心を養ってきました。肉料理が一般化したのはスペインの植民地化以降のことであり、ペルー料理のルーツは元々植物を中心とした食生活にあるのです。

    近年、世界的な健康志向や環境意識の高まりを背景に、ここアレキパでも伝統的な食文化を再評価し、植物性の食材だけで郷土料理の味わいを表現しようという新たな動きが広まっています。これは決して伝統を否定するものではありません。むしろ、先人たちから受け継いだ知恵とレシピに敬意を払いながら、現代に生きる私たちの心身や地球環境に優しいかたちへと昇華させる創造的な挑戦なのです。

    私が訪れたのは、そんな新しい風を感じさせる一軒のピカンテリアでした。世界遺産の歴史地区から少し歩いた、サン・ラサロ地区の静かな石畳の路地に、ひっそりと佇んでいます。小さな看板は控えめで、知らなければ通り過ぎてしまいそうですが、古びた木の扉の先には温かな光が漏れ、ハーブの心地よい香りに包まれた隠れ家のような空間が広がっていました。

    壁は白く塗られたシジャールがむき出しで、その質感が味わい深く、梁やテーブルには使い込まれた木の温もりが感じられます。壁にはアレキパの昔の風景写真や鮮やかな織物が飾られ、店の歴史や店主の郷土への愛着が伝わってきます。店内の中央には、ピカンテリアの象徴ともいえる大きな調理用の竈「フォゴン(Fogón)」があり、薪がはぜる音と香りが心を落ち着かせてくれました。

    迎えてくれたのは優しい笑顔が印象的な女性店主。彼女は代々続くピカンテリアの家に生まれましたが、自身の体調の変化をきっかけに植物性の食事の力に目覚め、家族のレシピをヴィーガン仕様で再現する決意をしたそうです。「パチャママ(母なる大地)からの贈り物をそのままいただくことが、体にも魂にもいちばん自然なこと」と語る彼女の言葉には、深い哲学と食材への愛情が込められていました。

    この店では、伝統的なピカンテリアと同様に曜日ごとに異なるチュペが用意され、チチャ・デ・ホラもすべて自家製です。しかし使用されているのはすべて植物性の食材。肉の代わりにキノコや豆類を、牛乳の代わりにナッツミルクを、チーズの代わりに豆腐やジャガイモを工夫して用いることで、伝統の味わいに驚くほど近く、しかも軽やかで優しい風味が生み出されています。ここは、伝統と革新が見事に融合した新時代のピカンテリア。これから始まる食の体験に胸が高鳴りました。

    アンデスの恵みを五感で味わう。ヴィーガン郷土料理の饗宴

    席に着くと、最初に自家製のチチャ・モラーダ(紫トウモロコシのジュース)が運ばれてきました。シナモンやクローブの香りが爽やかで、自然な甘みが乾いた喉を穏やかに潤してくれます。いよいよ、アレキパのヴィーガン郷土料理との対面の時がやってきました。店主の推薦に従い、いくつかの料理を注文しました。運ばれてきた一皿ひとさらは、どれも色鮮やかで、大地の力強さを感じさせるものでした。

    前菜:ソルテリート・デ・キヌア (Solterito de Quinoa)

    最初に登場したのは、アレキパを代表するサラダ「ソルテリート」のヴィーガンバージョン。伝統的なレシピにはフレッシュチーズが使われますが、こちらでは代わりに軽く燻製にした豆腐が用いられていました。主役は、プチプチとした食感が楽しいスーパーフードのキヌア。それに加えて、大きくほくほくしたそら豆、巨大な粒のトウモロコシ「チョクロ」、角切りのトマト、赤玉ねぎ、風味豊かなボティハオリーブが彩りを添えます。味付けはライム果汁とオリーブオイル、ペルー料理に欠かせないハーブ「ワカタイ」とコリアンダーの組み合わせ。一口頬張ると、それぞれの食材の食感や香りが見事に調和し、キヌアの香ばしさ、そら豆の甘み、トマトの酸味、玉ねぎの辛味、オリーブの塩気、そして燻製豆腐の香りが口の中で華やかなハーモニーを奏でます。ワカタイの独特の清涼感が全体をすっきりとまとめ、心地よく食欲を刺激する、まさに最初の一皿にふさわしいものでした。

    料理名ソルテリート・デ・キヌア (Solterito de Quinoa)
    タイプサラダ(前菜)
    主な食材キヌア、そら豆、チョクロ(巨大トウモロコシ)、トマト、赤玉ねぎ、燻製豆腐、オリーブ
    特徴プチプチ、ほくほく、シャキシャキといった多彩な食感が楽しめる。ワカタイの爽やかな香りがアクセント。
    感想素材の味が活きたフレッシュで栄養満点の一皿。体が喜ぶのが感じられる。

    スープ:チュペ・デ・キノア (Chupe de Quinoa) ヴィーガン風

    続いて運ばれてきたのは、ピカンテリアの真髄とも言えるスープ、「チュペ」です。この日は金曜日ではなかったのですが、特別に用意されたキヌアたっぷりのヴィーガンチュペが提供されました。通常、チュペは牛乳やチーズを使い濃厚でクリーミーな味わいが特徴ですが、このスープは驚くほど優しくかつ奥深い味わい。ベースは昆布や香味野菜から丁寧にとった出汁で、カボチャやジャガイモが溶け込むことで自然なとろみが生まれています。具材はキヌア、ニンジン、グリーンピース、チョクロ。仕上げに香り豊かなオレガノとミントが散らされます。スプーンですくって口に運ぶと、野菜の甘みとうま味がじんわりと身体に染み渡り、キヌアがスープの旨みを吸収してふっくら柔らか。時折感じられるミントの清涼感が後味をさっぱりと仕上げています。これは単なるスープではなく、食べるほどに体が温まり心がほどける、「魂の滋養スープ」でした。アンデスの厳しい自然環境の中で生き抜いてきた人々の知恵が詰まっていると感じられました。

    料理名チュペ・デ・キノア (Chupe de Quinoa) ヴィーガン風
    タイプスープ
    主な食材キヌア、カボチャ、ジャガイモ、ニンジン、グリーンピース、チョクロ、各種ハーブ
    特徴野菜の出汁とカボチャの甘みが溶け合った、優しく滋味深い味わい。ハーブの香りが豊かに広がる。
    感想体が芯から温まり、安心感に包まれる。毎日でも味わいたい、癒しの一杯。

    メインディッシュ:ロコト・レジェーノ・ベガノ (Rocoto Relleno Vegano)

    そしていよいよ、アレキパ料理の王者「ロコト・レジェーノ」がテーブルに運ばれました。ロコトは見た目がパプリカに似ていますが非常に辛い唐辛子です。ヘタと種を取り除き、中にフィリングを詰めてオーブンで焼くという、この地方を代表する名物料理。伝統的には牛ひき肉を用いますが、このヴィーガンバージョンの中身は、細かく刻んだマッシュルーム、レンズ豆、キヌア、さらにニンジンや玉ねぎなどの香味野菜を炒め合わせたもの。じっくり火を通されたロコトは鮮やかな赤を帯び、テーブルに置かれただけで強い存在感を放ちます。ナイフを入れると湯気と共にスパイスと野菜の芳ばしい香りが立ち上り、恐る恐る一口いただくと、まずロコト自体のフルーティーな甘みが広がり、次いでじわじわと強烈な辛さが追いかけてきます。しかしその辛さは決して不快ではなく、額に汗がにじむ頃には爽快な快感に変わっていきます。中のフィリングはキノコの旨味とレンズ豆のコクが濃厚で、まるで肉を使用しているかのような満足感。辛さと旨味の絶妙なバランスが口の中に広がります。添えられていたヴィーガン仕様の「パステル・デ・パパ」(カシューナッツクリームを使ったジャガイモの重ね焼き)がロコトの辛味をまろやかに和らげてくれました。刺激的で挑戦しがいのある、忘れがたい一皿でした。

    料理名ロコト・レジェーノ・ベガノ (Rocoto Relleno Vegano)
    タイプメインディッシュ
    主な食材ロコト(唐辛子)、マッシュルーム、レンズ豆、キヌア、各種野菜
    特徴強烈な辛さの中に、ロコトの甘みとフィリングの深い旨味が調和。刺激的でありながら癖になる味わい。
    感想汗をかきながら味わう究極のデトックス料理。アレキパの情熱を感じさせる逸品。

    これらの料理を通じて感じたのは、ヴィーガン料理とは決して「何かを我慢する食事」ではないということです。むしろ動物性食材を使わないことで、野菜や穀物、豆類など食材本来の繊細な旨味や香りがより一層際立っていました。一皿一皿に込められた店主の工夫と愛情、そしてアンデスの大地からの恵みが凝縮されており、五感をフルに使って味わう、極上の食体験となりました。

    食は祈り。ピカンテリアで感じるパチャママ(母なる大地)との繋がり

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    アレキパのピカンテリアでヴィーガンの郷土料理を味わう体験は、単なる美味しい食事を楽しむことを超え、より深遠でスピリチュアルな意味合いを帯びていました。一連の食事を終えたとき、胸に広がっていたのは満腹感以上の、穏やかで清らかな感謝の気持ちでした。

    アンデスの地に古くから暮らす人々にとって、自然は征服の対象ではなく、共に生きるべき尊い存在です。彼らはあらゆるものに生命が宿ると信じ、とりわけ命の源である大地を「パチャママ(Pachamama)」と呼び、母なる女神として敬い続けてきました。種を蒔くときも、収穫のときも、家を建てる際でさえ、人々はパチャママに祈りを捧げ、感謝の念を示します。この信仰は、キリスト教の広がった現代においても、人々の暮らしの根幹に深く根付いています。

    今回いただいたヴィーガン料理は、まさにこのパチャママの恵みをそのまま頂戴する行為でした。太陽の光に照らされ、アンデスの清らかな水を吸い、肥沃な土壌で育まれたキヌアやジャガイモ、トウモロコシ。その一粒一粒、一つ一つにパチャママの力が凝縮されています。動物というフィルターを通さず、パチャママの力を直接体内に取り込むこと。それは、自分がパチャママの一部となり、大いなる自然の循環と一体化するような感覚でした。

    目の前にあるロコト・レジェーノを味わいながら、私はさまざまな光景を思い浮かべました。アンデスの段々畑で、太陽に向かって真っ赤に色づいているロコト。その収穫に愛情を注ぐ農夫の手。市場で新鮮な野菜を選び抜くピカンテリアの店主の真剣なまなざし。そして、厨房で丁寧に種を取り除き、心を込めて中身を詰める彼女の姿。この一皿が私の口に運ばれるまでに、数えきれない自然の営みと人々の手と心が重なっているのです。

    そう考えると、「食べる」という行為が、まるで神聖な儀式のように感じられてきました。これは一種の「食べる瞑想」だと言えるでしょう。私たちは普段、忙しさに追われ、テレビやスマートフォンを操作しながら無意識のうちに食事を取ることが多いものです。しかしここでは、目の前の食事にすべての意識を注ぐことが可能です。食材の色や形、香り、食感、味わい、その一つひとつを丁寧に味わい、感謝の気持ちを抱く。そうすることで、食事は単なる栄養摂取を超え、心と魂を育む祈りへと昇華します。

    ピカンテリアという空間も、その感覚をさらに深めてくれます。土壁や木のぬくもり、薪のはぜる音、人々の穏やかな会話。そのすべてが私たちを日常の喧騒から切り離し、食べることと自分の内面に向き合う静かな時間をもたらしてくれます。ここでのひとときは、私たちが忘れかけていた自然との繋がり、他者との繋がり、そして自分自身との繋がりを再確認させてくれる貴重な体験となるでしょう。

    アレキパのピカンテリアでヴィーガン料理をいただくことは、パチャママへの感謝の祈りそのものであり、身体だけでなく魂の奥深くまで満たす、最高のスピリチュアルヒーリングなのです。

    アレキパのヴィーガン旅をさらに楽しむヒント

    アレキパでの魅力的なヴィーガン体験は、特別なピカンテリアだけに留まりません。この美しい街には、心身に優しい食を求める旅人にとって、嬉しい発見が数多くあります。ここでは、あなたのヴィーガン旅をより充実させるためのヒントをいくつかお伝えします。

    食の宝庫、サン・カミロ市場(Mercado San Camilo)を散策する

    アレキパの食文化を深く知るためには、まず市民の台所であるサン・カミロ市場を訪れるのが最適です。歴史的な街並みの中心からほど近いこの大規模な市場は、その活気と色彩の鮮やかさに圧倒されることでしょう。フランスの著名な建築家ギュスターヴ・エッフェルが設計に関わったと言われる鉄骨造の建物内には、まさにアンデスの恵みが満ちあふれています。

    果物売り場には、日本ではあまり見かけないトロピカルフルーツが山のように積まれています。ルクマやチリモヤ、グラナディージャなど、聞いただけでは想像できない果物たちもあります。勇気を出して試せば、その濃厚な甘さと豊かな香りに驚くことでしょう。野菜売り場では、様々な色や大きさのジャガイモやトウモロコシ、カボチャ、そして日本では高級食材として知られるキヌアやアマランサスといった雑穀が、驚くほど手頃な価格で手に入ります。市場の人々とのシンプルなやりとりもまた、旅の醍醐味の一つ。ジェスチャーを交えて新鮮な食材を手に入れる体験は、心に残る思い出となるでしょう。

    市場のもう一つの楽しみは、フレッシュジューススタンド「フーゲリア(Juguería)」です。ズラリと並ぶ果物や野菜の中から好みのものを選べば、その場でミキサーにかけて新鮮なジュースを作ってくれます。「Fresa con leche de soya(イチゴと豆乳)」や「Papaya con naranja(パパイヤとオレンジ)」など、組み合わせは無限にあります。旅の合間のビタミン補給にぴったりで、市場の活気を感じながら味わう一杯は格別です。

    モダンなヴィーガンカフェ&レストランを探索する

    伝統的なピカンテリアでの食体験も素晴らしいですが、近年アレキパには若者たちがオープンしたおしゃれで現代的なヴィーガン専門のカフェやレストランが増えています。こういったお店では、キヌアを使ったハンバーガーや豆腐のセビーチェ、アボカドトースト、美味しいヴィーガンスイーツなど、伝統的なペルー料理に現代的なアレンジを加えた創造的なメニューが楽しめます。歴史的な街並みの中庭(パティオ)が美しいカフェで、美味しいコーヒーとヴィーガンケーキを味わいながら読書や旅の計画を練る時間も、心地よいひとときです。伝統と革新の両方に触れられることで、アレキパの食文化の奥深さを一層実感できるでしょう。

    覚えておくと役立つスペイン語フレーズ

    ペルーの観光地では英語が通じる場合もありますが、地域の食堂や市場では基本的にスペイン語が使われています。ヴィーガンであることを伝え、安心して食事を楽しむために、いくつかの簡単なフレーズを覚えておくと非常に便利です。

    • Soy vegano / vegana.(ソイ・ベガノ/ベガナ)-私はヴィーガンです。(男性はvegano、女性はvegana)
    • No como carne, ni pollo, ni pescado.(ノ・コモ・カルネ、ニ・ポジョ、ニ・ペスカド)-肉も鶏肉も魚も食べません。
    • Sin productos animales, por favor.(シン・プロドゥクトス・アニマレス、ポル・ファボール)-動物性食品なしでお願いします。
    • ¿Este plato contiene leche, queso o huevo?(エステ・プラト・コンティエネ・レチェ、ケソ・オ・ウエボ?)-この料理に牛乳、チーズ、または卵は入っていますか?
    • Solamente vegetales, por favor.(ソラメンテ・ベヘタレス、ポル・ファボール)-野菜だけでお願いします。

    たどたどしくても一生懸命伝えようとすれば、ペルーの人々は親切に応じてくれるでしょう。言葉の壁を恐れず積極的にコミュニケーションをとることで、旅はより楽しく、より味わい深いものになります。

    旅の終わりに。白き街で得た、心と体のためのレシピ

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    アンデスの透き通るような青空のもと、白く輝く街アレキパでの日々は、あっという間に過ぎ去りました。石畳の道を歩きながら、壮麗な建築物に魅了され、何よりもピカンテリアで味わった一皿一皿が、私の心と体に深く刻まれました。

    旅に出る前、私はどこかで「ヴィーガン」という選択を、制限が多く窮屈なものだと受け止めていたかもしれません。しかし、アレキパでの食体験は、その固定観念を根底から覆してくれました。そこには制限ではなく、豊かさがありました。大地が育んだ恵みを存分に活かし、知恵と工夫、そして愛情を注ぎ込むことで、これほどまでに滋味深く満足感あふれる料理が生まれるのだと知りました。その発見は私にとって大きな喜びであり、これからの食生活を考える際の重要な指針となりました。

    ピカンテリアの女性店主が語ってくれた「パチャママの贈り物を、そのままの形でいただく」という言葉が今も心の奥に響いています。私たちが毎日口にする食べ物は、決して当たり前に存在するものではありません。太陽の光、水、大地、そして多くの人々の労働が結晶となっているのです。その一つ一つに感謝と敬意を払って味わうこと。そのシンプルな行為こそが、私たちの心身を健やかに保ち、ひいては地球を大切にすることにつながるのかもしれません。

    この旅で得たのは、美味しい料理の記憶だけではありません。それは、これからの人生をより豊かに過ごすための「心と体のためのレシピ」でもあります。日本に帰ってからも、食事の時間を大切にしよう。食材の源に思いを馳せ、作り手への感謝を忘れまい。そして時にはアンデスのスーパーフードを食卓に取り入れ、アレキパの爽やかな空気を思い出そう。そう心に誓いました。

    40代を過ぎ、これからの人生の歩み方を考えるとき、旅は私たちに多くの示唆を与えてくれます。特にアレキパのような大自然と深い精神性に満ちた土地での体験は、自分自身の内面と静かに向き合い、本当に大切なものを再確認するきっかけとなるでしょう。もしあなたが日常から離れて心と体をリセットしたいと思うなら、ぜひペルーの白き街アレキパを訪れてみてください。そして伝統的なピカンテリアの扉を開けて、大地のエネルギーに満ちた一皿を五感を研ぎ澄ませて味わってみてください。きっと、あなたの魂が求める、優しく温かな答えに出会えるはずです。

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