欧州で長年の慣習だった、ホテルがOTAより自社サイトで安く販売することを禁じる「パリティ条項」が、EUのデジタル市場法などで撤廃
長年の慣習「パリティ条項」が欧州で終焉
欧州経済領域(EEA)において、Booking.comをはじめとするOTA(Online Travel Agent)とホテルとの間で長年維持されてきた「パリティ条項(価格同一性条項)」が撤廃され、ホテル業界の競争環境が劇的に変化しています。パリティ条項とは、ホテルが自社の公式ウェブサイトなどで、OTAで提示している宿泊料金よりも安い価格を設定することを禁じるものでした。この条項が終了したことにより、ホテルは今後、自社サイトで最も安い料金を自由に設定できるようになり、OTAを介さない直接予約(ダイレクトブッキング)への顧客誘導を本格化させることが可能になりました。
背景にあるEUのデジタル市場法と司法判断
この歴史的な転換の大きな背景にあるのが、欧州連合(EU)が施行したデジタル市場法(DMA)です。2024年に業界最大手のBooking.comがDMAに基づく「ゲートキーパー」に指定され、コンプライアンス期限を迎えたことで、EEA圏内におけるパリティ条項の強制が法的に禁止されました。さらに、欧州司法裁判所(ECJ)においてもパリティ条項がEU競争法に違反するとの判決が下されるなど、欧州全域での厳しい法的・規制的な圧力が、ホテル側に価格設定の完全な自由をもたらす結果となりました。
高額な送客手数料からの脱却と新たな価格戦略
ホテル業界にとって、これまでのOTAへの依存は大きな収益圧迫要因でした。OTAを経由した予約には一般的に15%から25%にのぼる高い送客手数料が課されており、これがホテルの利益率を下げる構造的な課題となっていました。条項が撤廃された現在、ホテルはこの手数料分を戦略的な原資として活用し始めています。実際に、自社の公式サイト経由の予約に対して5%から10%の直接的な割引を提供したり、無料の朝食やルームアップグレードなどの付加価値を還元したりすることで、OTAよりも魅力的な条件を提示し、直接予約を促進する動きが活発化しています。
予測される未来と消費者・市場への影響
OTA依存からの脱却が進むことで、ホテル側には収益構造の改善に加えて、顧客データの直接獲得という多大なメリットがもたらされます。OTA経由では制限されていた顧客の属性情報や連絡先などのファーストパーティデータをホテルが直接保有できるようになるため、CRM(顧客関係管理)が高度化し、よりパーソナライズされたマーケティングによるリピーターの育成が進むと予想されます。
一方で、消費者にとっては旅行の予約行動そのものが変化します。これまではOTAを見れば最安値が保証されているケースが大半でしたが、今後は公式サイトとOTAの価格を比較することが、最もお得な予約先を見つけるための必須プロセスとなります。これに伴い、Googleホテル検索やTrivagoなど、公式サイトの最安値も並べて表示できるメタサーチ(価格比較サイト)の重要性が一層高まる見込みです。
さらに、OTA側も単なる価格競争だけでなく、自社のロイヤリティプログラムの強化や航空券などを組み合わせた独自の旅行パッケージなど、価格以外の新たな付加価値の提供を迫られています。ホテルとOTAの力関係が再定義されたことで、欧州の旅行市場全体はよりダイナミックな競争の時代へと突入しています。

