法人出張において、公式ツール外で決済される「見えない支出」が深刻化しています。
企業の公式ツールをすり抜ける「見えない支出」の実態
Trip.comグループの法人旅行ブランドであるTrip.Bizが2026年6月15日に発表した最新の調査報告(ホワイトペーパー「The Invisible Spend in Business Travel」)により、世界の法人出張における深刻なコンプライアンス課題が浮き彫りになりました。
公式のオンライン予約ツール(OBT)を導入している企業の約3分の1において、全出張費の20%以上が承認されたプラットフォーム外で決済されていることが判明しました。さらに、承認外ルートを利用する出張者の53%が、希望するフライトやホテルの選択肢が公式ツール内に見つからないという「コンテンツの不足」を主な理由として挙げています。
この結果、企業側が把握・管理できない「見えない支出(Invisible Spend)」が増加しています。これは単に経理部門の負担を増大させるだけでなく、有事の際に従業員の所在地を把握できないという危機管理(Duty of Care)上の問題や、コンプライアンス違反といった重大なリスクを引き起こしています。
管理者と出張者の間に生じる大きな認識のズレ
本調査では、企業の出張管理者と実際の出張者との間に生じている認識の乖離も指摘されています。
出張管理者の93%は、自社の予約プラットフォームは競争力があり完全な選択肢を提供できていると自信を示しています。しかしその一方で、管理者の69%が、出張者は公式ルートには存在しない航空券やホテルを一般消費者向けサイトで頻繁に見つけているとも報告しており、理想と現実のギャップが浮き彫りになっています。
この背景には、LCC(格安航空会社)や独立系ホテルなど非GDS(Global Distribution System)のコンテンツが、主要な予約ワークフローに完全に統合されていると回答した企業がわずか33%にとどまっているというシステム上の課題が存在します。出張者は規則を破りたいわけではなく、必要な手配を完了するためにやむを得ず承認外ルートを利用しているのが実態です。
APAC(アジア太平洋)地域で顕著な旅程把握の困難さ
この「見えない支出」問題は、特にアジア太平洋(APAC)地域で最も顕著に見られます。
APAC地域は出張市場として成長が著しい一方で、旅行コンテンツが著しく細分化されており、国や地域ごとに利用される航空会社や宿泊施設の流通プラットフォームが多様化しています。このため、企業のグローバルなOBTだけでは現地の魅力的な選択肢を網羅しきれず、結果として出張者が独自のルートで予約を行うケースが多発しています。
これにより、旅程データの断片化が進み、企業側が出張者の行動履歴や経費の内訳を正確に統合・把握することが極めて困難な状況に陥っています。
予測される未来と旅行業界が取るべき対応策
出張者が消費者向けサイトの手軽さや選択肢の豊富さに慣れ親しんでいる現在、企業が単に規則を厳格化するだけでは承認外予約を完全に防ぐことはできません。
予測される未来として、法人向け出張管理システムは「ユーザー体験の向上」以上に「圧倒的なコンテンツの拡充と統合」を最優先課題とする転換点を迎えます。法人向けサービスを展開するOTAやホテルにとっては、企業のOBTとのAPI接続や直接連携をさらに強化し、一般消費者向けと同等以上の競争力を持つ包括的な選択肢を提供することが不可避となります。
企業側にとっても、最新のデジタル技術を活用して多様なサプライヤーのコンテンツを一元化し、出張者が公式ツール内で最適な旅程を自己完結できる環境を構築することが急務です。これが「見えない支出」を可視化し、企業のガバナンスと従業員の安全を同時に守るための最大の鍵となるでしょう。

