世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が発表した最新の予測によると、米国における海外からの旅行者による消費額の回復が、他の主要観光国に比べて2026年まで遅れる可能性が指摘されています。堅調な国内旅行とは対照的に、インバウンド市場は根強いドル高とビザ発給問題という二重の課題に直面しており、米国の観光産業の先行きに不透明感をもたらしています。
回復の足かせとなる2つの大きな要因
専門家が指摘する回復遅れの主な要因は、「ドル高」と「ビザ発給の遅延」です。これらが海外旅行者にとって、米国を旅行先として選ぶ際の大きな障壁となっています。
根強いドル高がもたらす割高感
現在の為替市場ではドル高の傾向が続いています。これは、海外の旅行者が自国通貨を米ドルに両替する際に、以前よりも少ないドルしか手に入れられないことを意味します。結果として、航空券、宿泊費、食事、ショッピングなど、米国での滞在にかかるあらゆる費用が割高になり、旅行予算を圧迫します。
この「割高感」は、特にヨーロッパやアジアからの旅行者にとって、カナダや南米、あるいは自国周辺の地域など、よりコストパフォーマンスの高い他の旅行先を選択する動機となり得ます。
解消されないビザ発給の遅れ
もう一つの深刻な問題が、一部の国籍の旅行者に対するビザ発給の遅延です。パンデミック以降、米国大使館や領事館での面接予約が数ヶ月、場合によっては1年以上先になるケースが報告されており、旅行計画そのものを断念させる原因となっています。
U.S. Travel Associationのデータによると、ブラジル、インド、メキシコといった主要な市場からの旅行者が、依然として長いビザ面接の待機時間に直面しています。この手続き上のボトルネックが解消されない限り、潜在的な旅行者を逃し続けることになり、インバウンド消費の大きな損失につながっています。
データで見る米国の現状
WTTCの分析によれば、多くの主要観光国では海外からの旅行者消費額がパンデミック前の2019年の水準を既に回復、あるいは上回っています。しかし、米国は2023年時点でも2019年の水準に達しておらず、完全な回復にはまだ時間を要すると見られています。
国内旅行は非常に好調で、2023年には過去最高の消費額を記録しました。この国内の活況が観光産業全体を下支えしているものの、海外からの高付加価値な消費を取り込めていない現状は、業界にとって大きな課題です。インバウンド旅行者は国内旅行者に比べて滞在期間が長く、一人当たりの消費額も大きい傾向があるため、その回復の遅れは経済全体に与える影響も小さくありません。
予測される影響と今後の展望
この状況が続けば、米国の観光関連産業は収益機会の損失という形で直接的な影響を受けることになります。
観光産業への経済的インパクト
ホテル、航空会社、レストラン、小売店、テーマパークといった幅広い分野で、期待されていた収益の回復が遅れる可能性があります。特に、国際的なゲートウェイとなる大都市(ニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミなど)のビジネスへの影響は大きいでしょう。国際競争の観点からも、旅行者がよりスムーズに入国でき、コスト的にも魅力的な他の国へ流れることで、米国は「旅行先としての魅力」という点で相対的に地位を低下させるリスクを抱えています。
求められる政策支援と市場の動向
専門家は、インバウンド市場の本格的な回復には、政府によるさらなる政策支援が不可欠だと指摘しています。具体的には、ビザ発給プロセスの効率化と迅速化、主要市場に向けた戦略的な観光プロモーションの強化などが求められます。
旅行者にとっては、今後も為替レートの動向を注視し、ビザが必要な場合はできる限り早期に申請手続きを開始することが重要です。米国のインバウンド市場が本格的な回復軌道に乗るには、これらの課題解決に向けた具体的な進展が鍵となるでしょう。

