「地球には、まだ人間の想像を軽々と超える場所が残されている」
ジャングルの心臓部、アマゾンの奥地で生命の濃密な緑に包まれたときも、サバイバルゲームで極限の緊張感の中に身を置いたときも、僕の心の片隅には常に、全く別の種類の「果て」への憧れがあった。それは、荒々しい生命力とは対極にある、静謐で、神秘的で、魂を洗い流すような、絶対的な「青」の世界。
多くの旅人がその青を求めて、アイスランドの氷の洞窟を目指し、あるいはパタゴニアの巨大な氷河の前にひれ伏す。僕もまた、その一人だった。しかし、チリ・パタゴニアのさらに奥深く、文明の喧騒から隔絶された場所に、それらとは全く異なる次元の青が存在することを知ったとき、僕の冒険のコンパスは、ただ一点を指し示した。
その名は「マーブルカテドラル(Catedral de Mármol)」。
大理石でできた、湖上の大聖堂。数千年の時が、氷河の水とともに彫り上げた自然の芸術。それは、写真や映像では決して捉えきれない、生きた青の絶景。
この記事は、単なる旅行ガイドではない。僕、Markが体験し、心を奪われた「青の探求」の記録であり、これから地球最果ての秘宝を目指すあなたへの、最も詳細で、最も熱のこもった招待状だ。アイスランドの儚い氷の青、ペリト・モレノ氷河の荘厳な青。それらを知るからこそ語れる、マーブルカテドラルの唯一無二の価値とは何か。
さあ、準備はいいか。これから、常識が塗り替えられるほどの青の世界へ、あなたを誘おう。
この青の探求が、また別の場所で出会うサマルカンド・ブルーの絶景へと繋がるかもしれません。
マーブルカテドラルとは、地球が描いた青の抽象画である

まず、この奇跡的な絶景が何であるかを正確に理解しよう。マーブルカテドラルは人工的に作られた建造物ではない。チリとアルゼンチンにまたがる広大な氷河湖「ヘネラル・カレーラ湖(Lago General Carrera)」の湖畔に存在する、大理石の岩が長年の浸食によって形成された洞窟群の総称である。
その起源は約6000年以上前に遡る。パタゴニアの氷河が徐々に溶け出し、豊富なミネラルを含んだ水がヘネラル・カレーラ湖を満たした。湖の波は気の遠くなるような長い年月をかけて、湖岸の高純度大理石の岩盤を少しずつ削り、磨き上げていった。その様子はまるで、地球という名の彫刻家が、水と時間という道具を使い、巨大な大理石の塊から繊細な芸術作品を彫り出したかのようだ。
こうして生まれたのが、滑らかな曲線を描く洞窟や迷路のように入り組んだ通路、さらに光を受けて輝く純白の壁面である。これらが組み合わさってゴシック様式の大聖堂を思わせる壮麗な景観を創り出しており、そのため「カテドラル(大聖堂)」や「チャペル(礼拝堂)」と呼ばれるようになった。
なぜ、これほどまでに青いのか?
マーブルカテドラルの最も神秘的な特徴は、その「青さ」にある。洞窟の内部はまるで内側から発光しているかのように、鮮やかなターコイズブルーやサファイアブルーへと染まる。この現象には二つの要素が奇跡的に絡み合っている。
一つはヘネラル・カレーラ湖の水の透明度だ。アンデスの氷河から流れ出した水は不純物が極めて少なく、驚くほど澄んでいる。この水が太陽光の中の赤い光を吸収し、青色の光だけを反射し散乱させるのである。
もう一つは、洞窟を形作る「純白の大理石」の存在だ。湖水によって反射された青い光が洞窟内の白い大理石の壁に映り込み、自然のスクリーンのように光を増幅させる。これによって洞窟全体が幻想的な青の世界へと変わるのだ。
つまり、マーブルカテドラルの青は、水の青と大理石の白が織りなす光の魔法である。そのため、季節や時間、天候によってその色合いは刻々と変わる。朝、太陽が低く淡い水色に始まり、日が高く昇るにつれて鮮やかなターコイズブルーへと変化し、冬の水位が上昇する時期には深く濃いコバルトブルーになる。一度として同じ表情を見せることのない、まさに「生きている絶景」なのである。
究極の青を求めて – パタゴニア、アイスランドとの比較
「青の絶景」と聞くと、多くの旅人が思い浮かべるのは、アイスランドの氷の洞窟、通称「スーパーブルー」だろう。または、同じパタゴニア地域にそびえるペリト・モレノ氷河の壮大な氷壁を思い浮かべるかもしれない。僕自身もその両方を目の当たりにしてきたが、マーブルカテドラルの体験は明らかに一線を画していた。
儚さと共存する青 – アイスランド「氷の洞窟」
アイスランド南東部、ヴァトナヨークトル氷河の末端には、冬の間だけ姿を現す氷の洞窟がある。それは、氷河の融けた水が内部を削って作り出す自然の造形物だ。厚い氷の層を太陽の光が透過すると、不純物を含まない純粋な青い光だけが洞窟内を満たす。その透明感と、まるで異世界に迷い込んだかのような感覚は、一度体験すると心に深く刻まれる。
しかし、この美しさは極めて一時的だ。洞窟は毎年同じ場所に現れるとは限らず、気温が上昇すればすぐに溶けて崩壊してしまう。訪れることができるのは、気温が安定して低い11月から3月までの限られた期間だけ。まさに一期一会の絶景であり、その希少性が人々を魅了する。天候次第でツアーが中止になることも珍しくなく、その不確実さも含めて自然の厳しさと美しさを同時に感じさせる場所だ。
力強さと威厳を湛えた青 – アルゼンチン「ペリト・モレノ氷河」
パタゴニアのアルゼンチン側に位置するペリト・モレノ氷河は、また異なる「青」の姿を見せてくれる。全長約30km、末端の幅は5km、水面からの高さは60mにも及ぶ巨大な氷の壁だ。その氷は数百年から数千年かけて積もった雪が自身の重みで圧縮されたものである。内部の空気が抜け、氷の結晶が大きく成長することで、光の吸収と反射が効率的になり、深く濃密な「グレイシャー・ブルー」と呼ばれる独特の青さを放つ。
轟音とともに湖に崩れ落ちる氷塊(カリビング)は、大地のダイナミックな息吹を体感させる圧巻の光景だ。氷河上のトレッキングツアーも人気で、氷の裂け目(クレバス)の奥に広がる吸い込まれそうな青は、恐怖と美の共存を感じさせる。これは「静」の青ではなく、地球の力強いエネルギーを象徴する「動」の青と言えるだろう。
水と石が紡ぐ永遠の青 – チリ「マーブルカテドラル」
では、マーブルカテドラルはこれらとどのように異なるのだろうか。
最大の違いは、その構成要素にある。アイスランドもペリト・モレノも、その主役は「氷」だ。はかなく、常に変わりゆく一方で、時に圧倒的な力強さを見せる。しかしマーブルカテドラルの主役は、「大理石」と「湖水」である。
数千年、数万年という時間をかけて存在し続ける大理石の「永続性」と、季節や天候により刻々と表情を変える湖水の「変動性」。この硬質と軟質、静と動が融合し、唯一無二の芸術作品が創り出されている。氷の洞窟のような閉ざされた空間とは異なり、湖へと開かれた洞窟ゆえに、太陽の光が複雑に屈折し、水面からの反射光も加わり、驚くべき色彩のグラデーションを生み出すのだ。
アマゾンのジャングルで感じた、生命が生まれ死に渦巻く「緑の生命力」とは対照的に、ここには時が止まったかのような静けさが広がる。しかしよく目を凝らすと、水はそっと揺らぎ、光は移ろい、青はゆっくりと呼吸している。サバイバルゲームで高まるアドレナリンの昂揚感とは異なり、心の深奥に穏やかに染み渡るような静かな感動がここにはある。
アイスランドの青が「刹那の奇跡」であり、ペリト・モレノの青が「地球の脈動」ならば、マーブルカテドラルの青は「悠久の時が結晶化した芸術」と言えるだろう。
マーブルカテドラルへの旅路 – 具体的なアクセスとツアープラン

さて、ここからは最も重要な実践編に入る。この地球の果てに広がる絶景にたどり着くにはどうすればよいのか。その道のりは決して簡単ではないが、だからこそ到達したときの感動は計り知れないものがある。
STEP 1: 拠点の町「プエルト・リオ・トランキーロ」へ
マーブルカテドラル観光の拠点となるのは、ヘネラル・カレーラ湖の西岸に位置する「プエルト・リオ・トランキーロ(Puerto Río Tranquilo)」という小さな町だ。日本語に直訳すると「静かな川の港」。名前のとおり、時間がゆったりと流れる穏やかな場所である。
日本からのアクセス方法
- 国際線: まず日本の主要空港から、アメリカやヨーロッパの都市を経由してチリの首都サンティアゴ(SCL)へ向かう。トータルの所要時間は乗り継ぎも含めて約30時間以上。
- 国内線: サンティアゴから、パタゴニア地方の主要空港であるバルマセダ空港(BBA)へ。LATAM航空やSky Airlineなどのチリ国内線を利用し、飛行時間はおよそ3時間。
- 陸路: ここから本格的な冒険が始まる。バルマセダ空港からプエルト・リオ・トランキーロまでの距離は約220km。移動手段は主に2通りある。
- レンタカー: 自由に移動したいならレンタカーが圧倒的におすすめ。所要時間は約4〜5時間。この道は伝説の「アウストラル街道(Carretera Austral)」の一部であり、単なる移動ではなくドライブ自体が旅の醍醐味だ。道路の大半は未舗装の砂利道(リピオ)で、運転には十分な注意が必要。四輪駆動車の利用が強く推奨されている。車窓から望むのは、手つかずの森やエメラルドグリーンの川、雪を冠したアンデスの山々という絶景が続く。
- 長距離バス: バルマセダ空港のあるコイハイケ(Coyhaique)からプエルト・リオ・トランキーロ行きのバスが運行されているが、本数は限られており1日数便程度。所要時間は約5〜6時間。事前に運行スケジュールの確認が必須だ。最新情報はチリ観光公式サイトなどを参照しよう。
STEP 2: ツアーの選択
プエルト・リオ・トランキーロに着いたら、湖畔には複数のツアー会社の小さなオフィスが並んでいる。ツアーは主に2種類に分類でき、それぞれに魅力と注意点がある。
ボートツアー:もっとも手軽で一般的な選択肢
約10名程度の小グループで小型モーターボートに乗り、洞窟群を巡る人気のツアーだ。
- 魅力:
- 体力に自信がなくても気軽に参加できる。
- 約1.5〜2時間の短時間で、メインの見どころ(カテドラル、チャペル、ケーブ)を効率よく回れる。
- ガイドが操船しつつ、見どころをわかりやすく解説してくれる。
- 注意点:
- 洞窟内部への立ち入りはできず、主に入り口付近からの見学となる。
- 他の参加者と一緒のため、写真撮影場所や時間に制限があることも。
- 風が強い日は湖面が荒れやすく、ボートが大きく揺れる可能性がある。
カヤックツアー:絶景を独占する冒険体験
自らの力でカヤックを漕ぎ、洞窟に近づくよりアクティブなツアーだ。
- 魅力:
- エンジン音がなく静寂に包まれ、自然と一体になれる感覚を味わえる。
- 天候と湖の状態が良ければ、ボートでは入れない小さな洞窟の内部まで探検できることも。
- 自分のペースで自由に動け、好きな場所で好きなだけ滞在できる(ただしガイドの指示内で)。
- 注意点:
- ある程度の体力とカヤック経験が必要(初心者向けツアーも用意されている)。
- 所要時間が比較的長く、約3〜4時間かかる。
- 風や波の影響を受けやすく、天候による中止率はボートツアーより高い。
冒険好きな私なら、間違いなくカヤックを選ぶ。水面すれすれの視点から見上げる大理石の壁は迫力が段違いだ。パドルで紡ぐターコイズブルーの水面、洞窟の中には自分の呼吸音と水滴の音だけが響く。その没入感は何物にも代えがたい。
モデルツアースケジュール(ボートツアー例)
多くの旅行者が選ぶであろうボートツアーの典型的な一日の流れを紹介しよう。
- 午前9:30 プエルト・リオ・トランキーロのツアー会社のオフィスに集合し、料金支払いや手続きを済ませる。
- 午前9:45 ライフジャケット装着後、簡単なブリーフィング。安全面の注意点などを確認。
- 午前10:00 港からボートに乗り込み出発。ヘネラル・カレーラ湖の壮大な景観の中をクルージングする。
- 午前10:30 マーブルカテドラル周辺に到着。最初に最大の「カテドラル」を見学。ボートはゆっくり洞窟周囲を巡り、多角的な視点でその美しさを楽しませてくれる。ガイドが写真のベストスポットも教えてくれるだろう。
- 午前11:00 次に、繊細な「チャペル」や複数の「ケーブ(洞窟)」を見て回る。光の入り方により、青色の色調がまったく異なる様子に驚くだろう。
- 午前11:30 見学を終え、帰路につく。湖からの風を感じながら、感動に浸るひとときだ。
- 午後12:00 プエルト・リオ・トランキーロの港に戻り、ツアー終了。
所要時間はおよそ2時間。午後は町の散策や近隣の氷河観光などに充てることもできる。
旅の予算と予約の全て
旅の計画を立てる際に、予算と予約は最重要かつ現実的なポイントとなる。ここでは、その詳細について明確にしておこう。
ツアー料金の目安
料金はツアー会社や季節によって多少変動するが、おおまかな目安は以下の通りだ。
- ボートツアー: 1名あたり 15,000 CLP 〜 25,000 CLP(チリ・ペソ)
- 日本円に換算すると、約2,500円〜4,000円(為替レート 1CLP=約0.16円で計算)。この絶景体験が非常にリーズナブルな価格で提供されている。
- カヤックツアー: 1名あたり 40,000 CLP 〜 60,000 CLP
- 日本円では約6,500円〜10,000円。専門のガイドと装備が必要なため、ボートツアーよりも料金は高めだ。
※あくまで目安の料金であり、最新の価格は各ツアー会社の公式サイトで必ず確認してほしい。
料金に含まれるもの・含まれないもの
予約前には、料金に何が含まれているかをしっかり把握することが重要だ。
- 含まれるもの:
- ガイド料(スペイン語・英語対応)
- ボートもしくはカヤックのレンタル料
- ライフジャケットなどの安全装備
- 含まれないもの:
- プエルト・リオ・トランキーロまでの交通費
- 宿泊費や食事代
- ガイドへのチップ(任意だが、満足度が高ければ喜ばれる)
- 個人的な買い物やお土産代
予約方法 – 事前予約は必要か?
この問いに対する答えは「はい、特にハイシーズンは事前予約を強くおすすめします」だ。
- ハイシーズン(12月〜2月): 南米の夏休み期間で、世界各国から観光客が集中する。特に光の美しい午前中の時間帯はすぐに満席になるため、現地での予約では希望のツアーに参加できない可能性が高い。
- オフシーズン(それ以外の時期): 比較的空いているため、現地での予約も可能。しかしプエルト・リオ・トランキーロは小さな町で、天候によってツアー会社が休業することもあるので、確実性を求めるならやはり事前予約が安心だ。
予約の方法
- オンライン予約: 最も確実で便利な方法だ。多くのツアー会社が公式ウェブサイトを持ち、クレジットカード決済に対応している。Viatorなどの大手予約サイトにも複数のツアーが掲載されている。例えば、評判の良い現地ツアー会社「99% Aventura」の公式サイトから直接申し込むのが特におすすめだ。事前にオンラインで手続きが完了できるため、心の負担も軽減される。
- 現地予約: 町にあるツアー会社のオフィスに直接訪れて予約する方法だ。複数の会社を比較できるメリットはあるものの、ハイシーズンだと希望のツアーに参加できないリスクが伴う点には注意が必要だ。
完璧な準備で挑む!持ち物と服装ガイド

「備えあれば憂いなし」という言葉は、特にパタゴニアの気まぐれな自然環境において強く実感される。アマゾンでの経験からも言えるが、適切な装備が生命の危機を回避する要となることがある。ここでは、マーブルカテドラルの旅を最良のものにするための具体的な準備リストを紹介しよう。
服装 – 「パタゴニアでは1日に四季が訪れる」
この表現は、この地域を訪れる人々の間でよく語られるものだ。晴れていたかと思うと急に曇り、強風が吹き荒れ、雨や雪が突然降ることも珍しくない。こうした急激な天候の変化に対応するためのポイントは、何と言っても「レイヤリング(重ね着)」にある。
- アウターレイヤー(最表層): 防水・防風性能を備えたジャケットは必須。湖上は陸上よりも風が強く、体感温度はかなり下がる。ボートからの水しぶきで濡れることも想定しよう。ゴアテックスなどの高機能素材製が理想的だ。
- ミドルレイヤー(中間層): 保温を担う層。フリースや薄手のダウンジャケットが適している。暑ければ脱ぎ、寒ければ着ることで、体温調整の要になる。
- ベースレイヤー(肌着): 汗をかいても素早く乾く速乾性の合成繊維製が望ましい。綿(コットン)は湿ると乾きにくく、体温を急激に奪うため、避けるべきだ。
ボトムスも同様に、速乾性のあるトレッキングパンツなどがおすすめだ。ジーンズは濡れると重くなり、不快なので避けたほうがよい。
足元は濡れても大丈夫で、滑りにくい靴が適している。防水トレッキングシューズやグリップ力のあるスニーカーが理想的だ。サンダルは安全面からおすすめできない。
必須&推奨持ち物のチェックリスト
- サングラス: 絶対に必要。湖面の照り返しは強烈で、目を傷める恐れがある。偏光レンズのものなら、水中の様子もより鮮明に見える。
- 日焼け止め: 高地のため紫外線が日本の数倍強い。曇りの日でも油断せず、こまめな塗り直しが大切だ。
- 帽子: 日除けと防寒の役割を兼ねる。風で飛ばされないよう、あご紐付きのものが便利。寒い時期にはニット帽も有効。
- カメラ: この絶景を写真に収めない手はない。ただし湖に落とすリスクが常にあるので、必ずストラップを手首や首にかけ、防水ケースやバッグを利用すること。予備のバッテリーやメモリーカードも忘れずに。
- 酔い止め薬: 船酔いしやすい人はもちろんだが、そうでなくとも湖が荒れた場合に備えて持っておくと安心だ。
- 現金(チリ・ペソ): プエルト・リオ・トランキーロは小規模な町で、カードが使えない店やATMの故障、または現金不足の可能性がある。コイハイケなどの大きな町で多めの現金を準備しておくのが賢明だ。
- 水筒と軽食: ツアー中に喉が渇いたり、小腹が空いたりすることがある。環境保護の観点から、ペットボトルよりも再利用可能な水筒の使用が推奨される。
現地のルールとマナー
このかけがえのない自然遺産を未来に残すため、訪問者全員が徹底すべきルールが存在する。
- 洞窟の壁には絶対に触れないこと: 人間の皮脂や日焼け止め成分が、何千年もかけて形成された繊細な大理石の表面を傷つけてしまう恐れがある。
- ゴミは必ず持ち帰ること: 言うまでもないが、徹底した行動が求められる。
- ガイドの指示には必ず従うこと: 安全確保だけでなく、環境保護の観点からも、彼らは専門知識を持ったプロフェッショナルである。
- ドローンの使用は厳しく制限されている: 飛行には特別な許可がほとんどの場合必要。無断で飛ばすのは絶対に避けよう。
旅人が抱く疑問 – マーブルカテドラルQ&A
ここまで読んで、いくつか具体的な疑問が頭に浮かんでいるかもしれません。旅の計画をさらに確実なものにするため、よくある質問に答えていきましょう。
Q. 結局、ベストシーズンはいつなの?
これは非常に難しい問いです。というのも、季節ごとにそれぞれ異なる魅力があるためです。
- 夏(12月〜2月): 一般的に最もおすすめされる時期です。天候が安定し、日照時間も長くなります。氷河の雪解け水が最高潮に達し、湖のミネラルが光を反射して、最も鮮やかなターコイズブルーを見ることができます。また、水位が低いためボートで近づける範囲が広がるという利点もあります。ただし、観光客が最も多く混雑しやすいという欠点もあります。
- 秋(3月〜4月): 観光客がやや減り、落ち着いた空気のなかで絶景を堪能できます。紅葉が始まり、アウストラル街道のドライブは格別に美しいです。気候もまだ比較的穏やかです。
- 冬(6月〜8月): 訪れる人は少ないですが、熱心なファンには根強い人気があります。雪をかぶったアンデスの山々を背景にしたマーブルカテドラルはまさに荘厳。湖水は深みのある濃いサファイアブルーに変わります。ただし、天候は大変不安定で、雪による道路閉鎖やツアーキャンセルが頻繁に発生します。しっかりした防寒対策が必要で、経験者向けの季節と言えるでしょう。
- 春(9月〜11月): 雪解けが進み、自然が再び色づき始める季節。観光客は少なく、静かで落ち着いたパタゴニアを楽しめます。
総合すると、初めての訪問なら天候の安定と鮮やかなターコイズブルーが期待できる11月から3月頃がおすすめです。
Q. 天候が悪くてもツアーは実施されるの?
小雨程度なら催行されることが多いです。しかし問題となるのは「風」です。ヘネラル・カレーラ湖は広大なため、強風が吹くと海のように荒れます。安全が確保できないと判断された場合は、ツアーは即座に中止となります。これは自然相手のため、避けられません。
だからこそ、プエルト・リオ・トランキーロ滞在時には最低でも1日の予備日を設けることを強くおすすめします。私もアマゾンで急なスコールに何日も足止めされた経験がありますが、自然を相手にする旅では余裕のある日程が最大の保険となります。
Q. スペイン語が話せなくても大丈夫?
主要なツアー会社やホテルでは、英語が通じるスタッフがいることが多いです。しかし、プエルト・リオ・トランキーロの町全体を見ると、基本的にはスペイン語が主流です。バスの運転手や小さな商店の店員とは、スペイン語でのやり取りが必要になることが多いでしょう。
とはいえ、過度に心配する必要はありません。「Hola(こんにちは)」「Gracias(ありがとう)」「Cuánto cuesta?(いくらですか?)」などの簡単な挨拶やフレーズ、数字さえ覚えておけば、旅が格段にスムーズになります。スマートフォンの翻訳アプリも非常に強力な助けになります。大事なのは、伝えようとする気持ち。たとえ片言でも、笑顔で話しかければ、パタゴニアの人々はきっと温かく手助けしてくれるはずです。
青の洞窟を超えて – パタゴニアの更なる魅力

マーブルカテドラルの旅は、プエルト・リオ・トランキーロで終わるわけではない。むしろ、それは広大なパタゴニアを巡る冒険の序章にすぎないのだ。この地を訪れた際には、ぜひ足を伸ばしてみてほしい場所がいくつか存在する。
エクスプロラドーレス氷河(Glaciar Exploradores)
プエルト・リオ・トランキーロから日帰りで行ける、もうひとつの「青の絶景」である。ここはペリト・モレノ氷河のように遠くから見下ろすだけではなく、アイゼンを装着して氷河の上を歩く「氷河トレッキング」が楽しめる場所だ。氷の洞窟やクレバスを間近で観察でき、湖の青とはまた異なる、氷そのものが放つ神秘的な青の世界に触れることができる。マーブルカテドラルが「水と石の青」であるのに対し、こちらは「氷の青」と呼ぶにふさわしい。両者の青を体験することで、パタゴニアの自然の深さを一層実感できるだろう。
アウストラル街道(Carretera Austral)
サンティアゴから南へ約1,240kmにわたって続くこの道は、それ自体が旅の目的となりうる、世界でも屈指の美しいドライブルートだ。マーブルカテドラルへ向かう際にその一部を通るが、時間に余裕があれば、さらに南へ、もしくは北へと足を伸ばしてみてほしい。フィヨルド、温帯雨林、荒涼とした大地、未開の国立公園が次々と現れ、絶景の連続に何度も車を停めたくなるだろう。文明から隔絶された大自然の中を走り抜ける体験は、他には代え難い自由と冒険心を満たしてくれるに違いない。
マーブルカテドラルへの旅は、ただ美しい風景を眺めるためのものではない。それは文明から遠く離れ、地球のありのままの姿に触れ、自分の小ささとこの惑星の偉大さを改めて認識する過程なのだ。
私がアマゾンで感じたのは、生命の混沌としたエネルギーだった。サバイバルゲームで覚えたのは、研ぎ澄まされた生存本能の锋(するど)さだ。しかし、マーブルカテドラルで私が味わったのは全く異なるものだった。それは悠久の時を経て磨き上げられた、静かで完璧な美の前での、完全な降伏の感覚。そして、魂が浄化されていくような、穏やかな感動だった。
この青は写真では決して伝えきれない。この静寂は言葉では表現しきれない。
もしあなたの心が日常の疲れを感じているのなら。もし人生を変えるような、本物の体験を求めているのなら。その指針が示すべき場所は、ここ、チリ・パタゴニアの奥深くに間違いない。
さあ、地図を広げて、休暇の申請をし、最初のフライトを予約しよう。地球が生み出した青い大聖堂が、あなたの訪れを待っている。その青はきっと、あなたの人生に深みと鮮やかさを加えてくれるだろう。

