世界中の観光地が旅行者の回復を喜ぶ一方で、再び深刻化しつつあるオーバーツーリズム(過剰観光)。そんな中、イタリア専門のあるツアーオペレーターが、観光業界の常識を覆す可能性を秘めた研究成果を発表し、注目を集めています。フロリダに拠点を置く同社は、19年間にわたる運営データに基づき、収益の実に72%を地域コミュニティに還元しながら、業界標準の利益率を維持することに成功した「反収奪的観光モデル」を提唱しました。
この革新的なアプローチは、持続可能な観光が理想論ではなく、現実的なビジネスとして成立することを示しており、私たちの旅のあり方そのものを見直すきっかけとなるかもしれません。
なぜ今、このモデルが注目されるのか?
観光は多くの地域にとって重要な経済の柱ですが、その恩恵が必ずしも地元に行き渡っているとは限りません。特にオーバーツーリズムに悩む地域では、観光客がもたらす収益の多くが、グローバルなホテルチェーンやオンライン予約プラットフォームといった地域外の資本に流出する「観光の漏れ(Tourism Leakage)」が問題視されてきました。その結果、地元住民は混雑や物価高騰といった負担だけを強いられ、観光への反発感情が生まれることも少なくありません。
今回発表された「実存的サステナビリティ」と名付けられたモデルは、このような搾取的な構造に根本からメスを入れます。環境への配慮だけでなく、経済的・社会的な側面から地域コミュニティの持続可能性を最優先に考えるこのアプローチは、観光の恩恵を真に地域のものとするための具体的な処方箋として、大きな期待が寄せられています。
収益の72%を地域に還元するビジネスモデルの核心
19年という長期にわたる実践とデータ分析によって裏付けられたこのモデルは、決して複雑なものではありません。その根幹にあるのは、意図的に設けられた3つのシンプルな「構造的制約」です。
手数料ゼロの実現
このモデルでは、ホテルやガイド、レストランといった現地のパートナーから一切の手数料(コミッション)を受け取りません。通常、ツアー料金には多くの仲介手数料が含まれますが、それを完全に撤廃。これにより、中間マージンをなくし、旅行者が支払う費用の大部分が直接地元の事業者に渡る仕組みを構築しています。
催行人数の厳格な制限
ツアーは少人数制に限定されています。これは、大人数の団体客がもたらす地域への物理的・心理的な負荷を軽減し、オーバーツーリズムを防ぐための重要な制約です。同時に、旅行者一人ひとりにとっても、より深く、質の高い文化体験が可能になるというメリットがあります。
地元資本のパートナーとのみ提携
提携先は、グローバルチェーンではなく、家族経営のホテルや地元のレストラン、個人ガイドなど、100%地元資本の事業者に限定されています。この徹底した方針により、観光によって生み出されたお金が地域外に流出することなく、コミュニティ内で確実に循環し、地域経済全体の活性化に貢献します。
これらの制約を守り続けることで、同社は旅行代金の72%をイタリアの地域コミュニティに直接還元することに成功。これは、観光業界において驚異的な数字と言えます。
予測される未来と業界への影響
この研究成果が示す最も重要な点は、「持続可能性と収益性は両立可能である」という事実です。これは、今後の観光業界に大きな影響を与える可能性があります。
- 旅行者の意識変革
より多くの旅行者が、価格の安さや利便性だけでなく、「自分の支払うお金が、訪れる地域にどのような影響を与えるのか」を意識するようになるでしょう。地域に貢献できる旅、本物の文化に触れられる少人数の旅への需要は、今後さらに高まることが予測されます。
- 新たなビジネスモデルの台頭
サステナビリティを単なるマーケティングの言葉としてではなく、事業の核に据える新しいツアーオペレーターや旅行会社が登場するきっかけになるかもしれません。大手とは異なる価値観を持つ小規模事業者が、各地で同様のモデルを導入し、業界全体の多様性を促進する可能性も秘めています。
- 観光地の新たな戦略
オーバーツーリズムに苦しむ観光地にとっては、量から質への転換を目指す上で、このモデルは非常に重要な参考事例となります。地域が主体となり、理念を共有できる事業者と連携することで、観光の利益を最大化し、住民の生活と文化を守る道筋が見えてくるはずです。
今回の発表は、単なる一企業の成功事例にとどまりません。それは、観光が地域から収奪するのではなく、地域と共に豊かになるための未来を描く、力強いメッセージです。私たちの次の旅の選択が、訪れる場所の未来を少しでも明るくする一歩になるのかもしれません。

