都会の喧騒、鳴り止まない通知音、そして時間に追われる日常。私たちは知らず知らずのうちに、心と体の声を聞き逃してはいないでしょうか。時に、すべてをリセットし、自分自身と深く向き合うための「静寂」が必要になることがあります。もしあなたが今、そんな時間を求めているのなら、バルカン半島の小国モンテネグロに抱かれた秘境、ドゥルミトル国立公園への旅をおすすめします。
「黒い山」を意味するこの国で、ひときわ荘厳な光を放つのが、ドゥルミトルです。氷河期に神々が巨大な彫刻刀で削り出したかのような荒々しい岩肌の山々。その麓には、森の叡智を映し込むように静まり返った18もの氷河湖が点在し、訪れる者の魂を優しく洗い流してくれます。ここは、単なる景勝地ではありません。地球の鼓動を感じ、自分という存在の小ささと、同時にその一部であることの確かさを実感できる、スピリチュアルな聖域なのです。
私、大は普段、格闘家として海外で肉体を鍛え、起業家としてビジネスの最前線で神経をすり減らす日々を送っています。刺激と緊張感の中に身を置くことが多い私にとって、ドゥルミトルの手つかずの自然がもたらす深遠な静寂は、これまでに経験したことのないほどの衝撃と安らぎを与えてくれました。今回は、40代以上の皆様にこそ体験していただきたい、この地の持つ特別な力と、心満たされる旅の過ごし方をご紹介します。さあ、日常を一時停止して、魂を解放する旅へと出かけましょう。
静寂と魂の旅を求めるなら、北大西洋の孤島、フェロー諸島で神話と絶景に抱かれる体験もまた、深い気づきをもたらしてくれるでしょう。
ドゥルミトル国立公園とは? – 黒い山の意味と大自然の聖域

ドゥルミトル国立公園は、モンテネグロ北西部に広がる約39,000ヘクタールの広大な自然保護区です。その壮大な景観美と貴重な生態系が高く評価され、1980年にはユネスコの世界自然遺産に登録されました。公園名の「ドゥルミトル」は、一説によればケルト語で「水が流れる山」を意味するとされ、この地はまさにその名の通り、氷河が溶け出して形成された数多くの湖や、ヨーロッパで最も深い渓谷を刻むタラ川など、豊かな水資源に恵まれています。
モンテネグロという国名自体は、ヴェネツィア語の「Monte Negro」、すなわち「黒い山」を意味し、これは国土を覆う深い森林が遠くから見ると山々を黒く染めている様子に由来します。ドゥルミトル国立公園は、まさにこの「黒い山」を象徴する場所であり、空高くそびえ立つ石灰岩の山々は、厳かで神聖な雰囲気を漂わせ、訪れる人々に畏敬の念を抱かせます。
この独特な地形は、およそ250万年前から続く氷河期において、大規模な氷の塊が大地を削りながら運搬し、やがて溶けていくという長い年月を経て形成されました。鋭く尖った山頂(ピーク)、お椀状に削られた谷(カール)、氷河が運んだ土砂が積もった丘(モレーン)、そして氷の溶け跡の窪地に溜まった氷河湖。公園のあらゆる風景は、地球の力強い動きの記憶を今に伝えています。私たちが目にするこれらは、何万年もの歳月が織りなす壮麗な自然のアート作品にほかなりません。
ここを訪れることは、ただの観光を超えた体験です。太古の地球の息吹を感じ取り、文明の喧騒から離れ、自然の偉大さに身をゆだねることのできる貴重な機会です。風にそよぐ木々の音や鳥のさえずり、時に訪れる完全な静寂が五感を研ぎ澄ませ、心の奥底に深い安らぎをもたらしてくれるでしょう。
魂を映す鏡 – 氷河湖「黒い湖(ツルノ・イェゼロ)」の神秘
ドゥルミトル国立公園の中心に位置し、多くの人々を惹きつけるのが「黒い湖」を意味するツルノ・イェゼロ(Crno Jezero)です。名前とは裏腹に、この湖の水は驚くほど透き通っており、光の当たり方によってはエメラルドグリーンやサファイアブルーに輝きを放ちます。では、なぜ「黒い湖」と呼ばれるのでしょうか。それは、湖の周囲を囲む樹齢数百年のヨーロッパクロマツの豊かな森が、鏡のように静かな湖面に映り込み、湖全体を神秘的な黒色に染め上げているからです。
この湖は実際には、「大湖(ヴェリコ・イェゼロ)」と「小湖(マロ・イェゼロ)」という二つの湖から構成されています。春の雪解けの時期になると水量が増し、二つの湖は水路で繋がって一体化しますが、夏から秋にかけて水位が低下すると、再び二つに分かれてしまいます。この自然のサイクルが、湖に生き生きとした変化と豊かな表情をもたらしています。
湖畔に立つと、まずその静けさに心を奪われることでしょう。目の前にはドゥルミトル山脈の中でもとりわけ印象的な、熊の形に見えるメジェド(Međed)峰が屏風のようにそびえ立ち、湖面にその荘厳な姿を映し出しています。風がやんだ瞬間、湖はまるで鏡のように反射し、まるで天地が逆さまになったかのような幻想的な光景が広がります。その美しさは息を呑むほどです。
私は湖畔のベンチに腰をおろし、ただひたすらその景色を見つめていました。普段は闘志や思考でいっぱいの頭の中が、この湖の水のように静かに澄み渡っていくのを感じたのです。悩みやこだわりが、この雄大な自然の前ではいかに些細なことかを教えられます。ここでは誰もが自然の一部となり、自分の内側と静かに向き合う時間を持つことができるのです。
湖の周囲には約3.5kmの遊歩道が整備されており、体力に自信がない方でも気軽に散策を楽しめます。森の中を歩くと、フィトンチッドの香りに包まれて心身ともにリフレッシュできるでしょう。途中には洞窟や小さな滝が点在し、飽きることはありません。夏には手漕ぎボートを借りて湖の中心から360度のパノラマを眺めたり、勇気があれば氷河湖の冷たい水に入って泳いだりすることも可能です。しかし何より贅沢なのは、ただ何もしない時間を過ごすこと。湖畔に腰かけ、光と影の移ろいや水のさざめきを感じるだけで、心は満ち足りていくでしょう。
| スポット名 | 黒い湖 (Crno Jezero / ツルノ・イェゼロ) |
|---|---|
| 所在地 | モンテネグロ ジャブリャク ドゥルミトル国立公園内 |
| アクセス | ジャブリャク中心部から徒歩約40分(約3km) |
| 特徴 | ドゥルミトル国立公園を象徴する氷河湖。大小ふたつの湖で構成される。 |
| おすすめの過ごし方 | 湖畔の遊歩道(約3.5km)散策、ボート遊び、写真撮影、瞑想など |
| 注意事項 | 夏でも水温は非常に低いため、水に入る際は十分な準備と注意が必要。国立公園の入場料がかかります。 |
神々の彫刻 – ドゥルミトルの山々を歩く

ドゥルミトル国立公園の魅力は、何よりもその山々の奥深くへ足を踏み入れることでより一層実感できます。初心者からベテランの登山者まで幅広いレベルに対応した多彩なハイキングコースが整備されており、誰もが自分のペースでこの壮大な自然に抱かれることが可能です。白く輝く石灰岩の岩肌、可憐な高山植物の花々、そして果てしなく広がる雄大なパノラマの景観。歩を進めるたび、心と体が次第に浄化されていくのを感じ取れるでしょう。
初心者向け:心癒される森林セラピーウォーク
まずは、気軽に楽しめるコースをご紹介します。「黒い湖」周辺の遊歩道は、まさに登山初心者にぴったりのハイキングルートです。ほとんどが平坦な道で、特別な装備は不要です。長い年月を経た松の木が日差しを柔らかく遮り、心地よい木漏れ日の中を歩けます。耳を澄ませば、キツツキのトントンという音や、多彩な野鳥のさえずりが聞こえてくるでしょう。これは単なる散策ではなく、五感を通じて自然を感じる森林セラピーそのものと言えます。
さらに、ジャブリャクの町からアクセスしやすい「スネークレイク(Zmijinje Jezero)」へのハイキングもおすすめです。黒い湖よりも静かで、深い森に囲まれたその佇まいは、まるで童話の世界に迷い込んだかのような幻想的な雰囲気。静かなひとときを求める方には最適のスポットです。ここでゆったりとお弁当を広げたり、本を読んだりする時間は何にも代えがたい贅沢なひとときとなるでしょう。
中級者向け:絶景を満喫する天空の散歩道
もう少し冒険心をくすぐられる方には、リフトを利用して高度を稼ぎ、稜線歩きを楽しむコースをご案内します。冬はスキー客で賑わうサヴィン・クク(Savin Kuk)山では、夏季もチェアリフトが運行中です。リフトを乗り継ぎながら標高約2,300mまで上ると、そこにはまるで別世界の景色が広がります。
眼下にはジャブリャクの町や黒い湖、そして荒々しいドゥルミトルの山々の壮大な景色が一望できます。この地点から山頂を目指すハイキングは、まさに空に浮かぶ散歩道の趣。遮るもののない360度のパノラマビューは、地球の丸みを実感させるほどのスケール感です。高山植物が咲き誇る草原を歩きながら、新鮮な空気をいっぱいに吸い込めば、日常のストレスはみるみるうちに消えてしまうでしょう。ただし、山の天候は変わりやすいため、防寒具や雨具の携帯を忘れずに。
上級者向け:モンテネグロ最高峰ボボトヴ・ククへの挑戦
最後に、体力と経験に自信のある登山者にとって、究極の目標となるのがドゥルミトルの主峰でありモンテネグロ最高峰のボボトヴ・クク(Bobotov Kuk、標高2,523m)への登頂です。これは単なるハイキングを超えた本格的な登山と言えます。
私自身、この山に挑む日を心待ちにしていました。格闘技で培った体力がどこまで役立つのか、そしてこの神聖な峰の頂上で何を感じ取れるのかを確かめたかったのです。登山口から歩き始めると、序盤は緩やかな草原が続きますが、次第に道は険しくなり、岩場の急登へと変わっていきます。息が切れ、汗が噴き出し、何度も立ち止まりたくなるほどですが、振り返るたびに見える絶景が前に進む力を与えてくれました。
最後の難関は、山頂直下のワイヤーが張られた岩場です。手足を使い、三点支持で慎重に登り進めるスリリングな瞬間。そこを乗り越えた先に、モンテネグロの頂が待ち構えています。頂に立った瞬間の達成感と眼前に広がる光景は言葉に尽くせません。北にはタラ川の渓谷、南にはピヴァ湖が広がり、360度見渡す限り連なる山の波が続いています。まるで世界の頂点に立ったかのような圧巻の感動が全身を包み込みました。
ボボトヴ・ククの登頂は往復で約6~8時間を要する過酷な行程です。充分な水分と食料、適切な登山装備はもちろん、天候の事前確認も欠かせません。自信のない方には、現地の経験豊富なガイドの同行を強くおすすめします。しかし、この苦労を乗り越えた先には、人生観さえ揺るがすほどの貴重な体験が待っているのです。
ヨーロッパ最深の渓谷 – タラ川渓谷の壮大なる息吹
ドゥルミトル国立公園のもうひとつの顔、それがタラ川渓谷(Tara River Canyon)です。全長約82kmにも及び、最も深い部分では谷底まで1,300m以上もあるこの渓谷は、アメリカのグランドキャニオンに次いで世界で2番目の深さを誇ります。その美しさから「ヨーロッパの涙」とも称されるタラ川が、その底を悠々と流れています。この渓谷もドゥルミトルの山々と共に、世界自然遺産に登録されています。
山々が静けさと内省の時間をもたらすのに対し、タラ川渓谷は地球が持つダイナミックで荒々しいエネルギーを感じさせる場所です。何百万年という長い歳月をかけて、川の流れが巨大な石灰岩の大地を削り出して生み出したこの造形美は、ただただ圧倒されるばかりです。
静かに渓谷の全景を楽しむ – チュロヴァッツ展望台
この壮大な渓谷の全体像を安全かつ静かに眺められる絶好のポイントが、チュロヴァッツ展望台(Ćurovac Viewpoint)です。ジャブリャクから車でアクセスし、少し歩くだけで息を呑むような絶景に出会うことができます。展望台の縁に立つと、足元がすくむほどの断崖絶壁が眼下に広がり、その下をエメラルドグリーンの帯のように流れるタラ川が見えます。
ここで感じるのは、壮大な自然のスケールに対する畏怖の念です。人間の小ささを実感させられますが、それは決して無力さを意味するものではありません。むしろ、この壮大な地球の一片であることに対する感謝と感動が湧き上がってきます。特に朝もやが漂う時間帯や、夕日で渓谷が茜色に染まる頃は、言葉を失うほどの美しさです。写真撮影が趣味の方にとっては、理想的なスポットと言えるでしょう。
アクティブに渓谷と触れ合う – ラフティング
渓谷をただ見渡すだけでなく、その懐に飛び込んでみたいアクティブ派には、タラ川でのラフティングがおすすめです。世界中からラフティング愛好家が訪れるこの川は、急流のスリルとゆったり景色を楽しめる穏やかな流れが見事に調和しています。
私も実際にラフティングを体験しました。専門ガイドが同行し、安全説明も丁寧なので、初心者でも安心して参加できます。激流に突入するたびに歓声が上がり、水しぶきが舞う中、仲間と力を合わせてパドルを漕ぐ一体感は、格闘技のチームトレーニングを思わせるものでした。しかし何より印象的だったのは、流れが緩やかになったときの静寂です。両岸には高さ1000mを超える断崖が迫り、その上には広がる青空。川のせせらぎや鳥の声だけが響く中、ボートに揺られて漂う時間は、まるで地球の胎内にいるかのような不思議な安らぎをもたらしました。自然の力強さと優しさを肌で感じられる貴重な体験です。
歴史と絶景をつなぐ架け橋 – ジュルジェヴィチャ・タラ橋
タラ川渓谷の語りどころとして欠かせないのが、ジュルジェヴィチャ・タラ橋(Đurđevića Tara Bridge)です。1940年に完成したこの美しいコンクリート製のアーチ橋は、渓谷の高さ172mの場所に架けられています。第二次世界大戦中には、パルチザン(抵抗組織)の手で、侵攻する枢軸国軍を食い止めるために、設計者自身の指揮で一部が爆破されるという劇的な歴史を持ちます。
現在は完全に修復され、多くの観光客が訪れる名所となっています。橋の上を歩けば、まさに空中散歩のような感覚を味わいながら、タラ川渓谷の雄大な景色を満喫できます。さらにスリルを求める人には、橋のふもとから渓谷を横断するジップラインもおすすめです。鳥のような視点で風を切り、渓谷を滑空する爽快感は格別です。この橋は単なる交通路ではなく、歴史の証人であり、絶景を楽しむための最高の舞台でもあります。
| スポット名 | タラ川渓谷 (Tara River Canyon) |
|---|---|
| 所在地 | モンテネグロ北部、ドゥルミトル国立公園の隣接地 |
| 特徴 | ヨーロッパ最深、世界で2番目の深さを誇る渓谷。ユネスコ世界遺産に登録。 |
| おすすめアクティビティ | ラフティング、ジップライン、チュロヴァッツ展望台からの絶景観賞 |
| アクセス | ジュルジェヴィチャ・タラ橋やラフティングの拠点はジャブリャクから車でアクセス可能。 |
| 注意事項 | ラフティングやジップラインは信頼できる運営会社を選び、安全指示を遵守してください。 |
ドゥルミトルの麓の拠点 – ジャブリャクの魅力

これらのドゥルミトルの大自然を心ゆくまで楽しむ拠点となるのが、ジャブリャク(Žabljak)の町です。標高1,456メートルに位置するこの町は、バルカン半島で最も高地にある町として知られています。夏はハイカーたちの拠点に、冬はスキーヤーたちのベースキャンプとして賑わいを見せており、素朴ながら旅人に必要な設備が整った、快適な居場所です。
ジャブリャクの魅力は、そのこぢんまりとした落ち着いた雰囲気と、人々の温かさにあります。豪華なホテルも存在しますが、特におすすめしたいのは「コテージ」や「アパートメント」と呼ばれる、キッチン付きの宿泊施設です。山小屋の趣が感じられる木の温もりあふれる部屋で、地元のスーパーで手に入れた食材を使い簡単な料理をすることも、旅の楽しみのひとつ。窓の外に広がる雄大な山々を眺め、朝は鳥のさえずりに包まれて目覚める──そんな贅沢な日常がここにはあります。
さらに、旅の大きな楽しみである食事も格別です。ジャブリャクでは、山の恵みをふんだんに使った素朴で深みのあるモンテネグロの郷土料理を堪能できます。ぜひ味わっていただきたいのが「カチャマック(Kačamak)」です。トウモロコシの粉とジャガイモを練り合わせ、濃厚なクリーム「カイマク」やチーズをたっぷりかけた料理で、素朴ながらも力強い味わいが、ハイキングで疲れた身体に染みわたります。
また、羊肉や仔牛肉を使った「サチュ(Sač)」という伝統的な鍋でじっくりとオーブン焼きにした料理も絶品です。時間をかけて丁寧に火が通された肉は驚くほど柔らかく、ハーブの香りが食欲をそそります。地元のチーズや生ハム、そして「プリガニツェ(Priganice)」と呼ばれる揚げドーナツのような甘いお菓子もぜひ味わってみてください。飾り気はなくとも、素材の味を大切にした料理の数々が心と体をじんわりと温めてくれます。
夜になると、町の小さなレストランやカフェには世界中から集まった旅人たちが集い、その日の出来事を語り合います。暖炉の火を囲みながら、地元のビールや果物の蒸留酒「ラキヤ」を片手に過ごす時間は、旅の思い出をより深く彩ってくれるでしょう。ジャブリャクは、豊かな自然への入り口であると同時に、温かい安らぎを与えてくれる旅人たちの第二の故郷のような場所なのです。
静寂の中で自分と向き合う – ドゥルミトルがもたらすスピリチュアルな体験
ドゥルミトルへの旅は、単に美しい風景を巡るだけの体験ではありません。この場所の真の価値は、深い静けさの中で自分の内面とじっくり向き合う機会をもたらしてくれる点にあります。
なぜここがこれほどまでに人の心を捉え、精神的な感覚を呼び起こすのでしょうか。その理由の一つが、圧倒的な自然の規模感です。何万年もの歳月をかけて形作られた山々や谷の前に立つと、自分の時間感覚がいかに短いかを痛感します。日々の悩みや焦りも、広い視点で見ればほんの小さな出来事に過ぎないと気づき、心が軽くなっていくのを感じます。
もうひとつは、人工的な音や情報が極めて少ないことです。普段、私たちは無意識のうちに膨大な情報にさらされ、脳は常に疲労しています。しかし、ドゥルミトルの森では風のささやき、水の流れる音、鳥のさえずりだけが聞こえてきます。その静寂に包まれると、感覚が研ぎ澄まされ、今まで気づかなかった自身の心の声が聞こえてくるようになります。私も黒い湖のほとりで何時間も過ごす中で、自分が本当に求めるものや何に価値を感じているのかを改めて見つめ直すことができました。
ぜひ、ドゥルミトルを訪れた際は意識的にデジタルデトックスを試してみてください。スマートフォンを宿に置き、地図とコンパスのみを頼りに歩く。通知に気を取られず、目の前に広がる景色や足元の感触、空気の匂いに集中する。最初は不安を感じるかもしれませんが、やがて自然と一体となる心地よさに満たされることでしょう。それは、現代社会で私たちが忘れかけている人間本来の感覚を取り戻す重要な体験なのです。
格闘家としての私は、常に「強さ」を求めてきました。相手を打ち負かす力や、厳しい鍛錬に耐える精神力。しかし、ドゥルミトルの雄大な自然は、私にまた別の「強さ」を教えてくれました。それは、受け入れる力であり、調和する力です。天候を変えることも、山の姿を変えることもできません。できるのは、自然を敬い、そのリズムに身を任せて行動することだけ。力でねじ伏せるのではなく、流れに委ねる。この感覚が、私の人生観に大きな影響を与えました。
この静けさの地は、訪れる人を選びません。もし人生の分かれ道に立っているなら、進むべき道を照らす光を見つける手助けになるかもしれません。心の傷を負っているなら、それを癒す優しい時間に包まれるでしょう。単に日常に疲れているなら、魂のエネルギーを充電する最高の場所となるはずです。ドゥルミトルは静かに、しかし確実にあなた自身が答えを見出すことを支えてくれるのです。
旅のプランニング – ドゥルミトルへのアクセスとベストシーズン

この素晴らしい体験を実際に叶えるために、具体的な旅のプランをご案内します。モンテネグロはまだ日本人にはあまり知られていないかもしれませんが、少し準備をすれば個人旅行でも十分に楽しむことができます。
ドゥルミトルへのアクセスについて
日本からは直行便がないため、ヨーロッパの主要都市(イスタンブール、ウィーン、フランクフルトなど)を経由してモンテネグロに入国するのが一般的です。モンテネグロには主に二つの国際空港があります。
- ポドゴリツァ空港 (TGD): 首都近郊にある最大の空港で、ジャブリャクまでは車でおよそ2時間半から3時間かかります。
- ティヴァト空港 (TIV): 世界遺産の街コトルの近くに位置する沿岸部の空港で、ここからジャブリャクへは美しい海岸線や山岳ルートを眺めながら車で約3時間から3時間半のドライブです。
また、隣国クロアチアのドゥブロヴニク空港 (DBV)も経由地の選択肢として有効です。空港から国境を越えてジャブリャクまでは車で約3時間程度で、美しいコトル湾を楽しみながらのドライブが堪能できます。
ジャブリャクへの移動はレンタカーを利用するのが最も自由度が高く、おすすめです。ドゥルミトル国立公園内の展望台や少し離れたスポットへも気軽にアクセスできます。ただし、山道やカーブの多い区間も含まれるため、運転には十分注意しましょう。あわせて国際運転免許証の取得をお忘れなく。バスでの移動も可能ですが、本数が限られているため、事前に時刻表をしっかり確認する必要があります。
最適な旅のシーズン
ドゥルミトル国立公園は季節ごとに全く異なる魅力を見せてくれます。旅の目的に応じて、訪れるベストシーズンを選びましょう。
- 夏(6月〜9月): ハイキングや登山、ラフティングなど、多彩なアクティビティに最適な時期です。日中は温かく過ごしやすいですが、標高が高いため朝晩は冷えることもあります。羽織るものを必ず用意しましょう。観光客で最も賑わうシーズンでもあります。
- 秋(9月下旬〜10月): ヨーロッパクロマツは常緑ですが、他の落葉樹が鮮やかな紅葉を見せ、山の景色が黄金色に染まります。夏の喧騒が和らぎ、静かに自然と向き合いたい方に最適な季節です。比較的安定した気候ですが、冬の訪れが早いため防寒対策はしっかりとしてください。
- 冬(12月〜3月): ジャブリャクは人気のスキーリゾートに変わり、一面の白銀の世界が広がります。夏とは異なる静謐な美しさが魅力です。ただし、多くのハイキングコースは雪で閉ざされるため、ウィンタースポーツ以外の目的では訪問を控えた方がよいでしょう。
- 春(4月〜5月): 雪が解けて山々に新緑が芽吹き、生命力あふれる季節です。高山植物が咲き始め、美しい花畑も楽しめます。ただし標高の高い場所にはまだ多くの残雪が残っており、ボボトヴ・ククなどの本格的な登山には適しません。
滞在日数の目安
ドゥルミトルの魅力をじっくり味わうには、ジャブリャクに最低でも2泊3日の滞在がおすすめです。黒い湖の散策やタラ川渓谷の観光で充実した時間を過ごせるでしょう。さらに、ボボトヴ・ククの登頂や複数のハイキングコース、ラフティングなどを楽しみたい場合は、4泊以上の余裕あるスケジュールが理想的です。ゆったりとしたペースで過ごすことで、この土地がもつ本当の癒しの力を体感できるはずです。
黒い山の抱擁に、再び還ることを誓って
ドゥルミトル国立公園で過ごした日々は、単なる闘いからの一時的な逃避ではありませんでした。むしろ、それは自分自身を改めて見つめ直し、自然という偉大な教師から新たな生きる力を授かるための積極的な旅路だったのです。
神々の手によって刻まれたかのような険しい山々は、決して人を寄せ付けない厳格さだけを持っているわけではありません。その懐に足を踏み入れると、思いのほか優しく、静かな包容力でそっと抱きしめてくれます。それはまるで、厳しさの中に深い愛情を秘めた父親の温かな抱擁のように感じられました。
また、エメラルドグリーンに輝く氷河湖は、訪れる者の心を映し出す鏡のような存在です。波紋ひとつない湖面をのぞき込むと、表面的な自分ではなく、ありのままの魂が映し出されているように思えます。ドゥルミトルは、自分に嘘をつけなくなる特別な場所なのです。
もしあなたが日常の喧騒から少しだけ立ち止まりたいと感じたとき、もし本当の静寂の中で自分の心の声に耳を傾けたいと思ったとき、どうかこのモンテネグロの「黒い山」のことを思い出してください。
ここでの経験は、あなたの人生という旅路の大切な道しるべとなるでしょう。私もまた、この地へ戻ることを誓い、次なる挑戦へと歩みを進めます。ドゥルミトルの山々が授けてくれた静かな力を胸に抱きながら。

