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    カルナック列石とストーンヘンジ、巨石が語る先史ヨーロッパの謎。時を超えた二つの聖地を巡る旅

    遠い昔、まだ文字さえ持たなかった人々が、大地に刻んだ巨大なメッセージ。それは星の運行を示すためか、神々への祈りか、それとも死者を弔うための道標だったのか。答えの出ない問いは、時が経つほどに魅力を増し、私たちを遥かなる過去への旅へと誘います。大学時代から、人の営みが消えた後の静寂と、自然に還っていく建築の退廃的な美しさに心を奪われてきた私にとって、先史時代の巨石遺跡は究極のロマンでした。特にヨーロッパに点在する遺跡の中でも、双璧をなす存在として知られるフランスの「カルナック列石」と、イギリスの「ストーンヘンジ」。この二つは、似ているようでいて、まったく異なる魂を持つ場所です。今回は、この二つの聖地を巡り、その規模、歴史、そして未だ解き明かされぬ謎を比較しながら、先史ヨーロッパの息吹を肌で感じる旅にご案内します。言葉にならない感動と、時を超えた対話が、そこには待っていました。

    ヨーロッパの壮大な景色を空から眺めたいなら、スイス・インターラーケンでのパラグライダー体験もまた忘れられない冒険となるでしょう。

    目次

    ブルターニュの地に眠る、巨石の軍勢「カルナック列石」

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    ケルトの風が薫る地へ、いざカルナックへ

    旅の出発点はフランス北西部、大西洋に突き出たブルターニュ半島です。この地はかつてケルト人の居住地であり、いまも独特な文化や言葉が息づく神秘の地となっています。パリのモンパルナス駅から高速鉄道TGVに乗り込むと、次第に都会の喧騒から緑豊かな田園風景へと車窓が移り変わっていきます。約2時間で地域の中心都市レンヌに着き、さらにそこからバスで約1時間半揺られてようやく辿り着くカルナックの村は、柔らかな海風に包まれ、素朴な石造りの家々がのどかに迎えてくれる、とても愛らしい場所でした。

    旅の主目的であるカルナック列石は、この村の北側すぐに、息をひそめるようにして静かに広がっています。ヨーロッパでも特に巨石文化が発展したブルターニュ地方の中心がここカルナック。この土地に足を踏み入れるや否や、現代とは異なる、より古く、そして深淵な時の流れを肌で感じることができました。

    眼前に広がる圧巻の石列

    まず訪れたのはビジターセンター「Maison des Mégalithes(巨石の家)」で情報を集めた後、最大規模を誇る「メネックの列石」でした。そこに広がる光景は、想像を遥かに超える壮観そのものでした。地平線の彼方まで大小さまざまなメンヒル(立石)が、まるで巨大な軍勢のように整然と、しかし有機的な配置で連なっています。その数は実に1000本以上。高さは最大で4メートルに及び、低く埋もれたものも点在していました。

    これまで多くの廃墟を訪ねてきた私ですが、カルナック列石が放つ独特のオーラは明らかに別格です。それは一人の作者が生み出した「作品」ではなく、名前なき共同体が何世代にもわたり祈りや願いを込めて大地にしるした楔のような存在でした。石の表面は千年以上もの風雨にさらされ、深い緑の苔や地衣類が覆っています。そっと触れてみると、冷たく硬い石肌から、遥かな時の重みが伝わってくるようでした。

    メネックを東に進むと、「ケルマリオの列石」や「ケルレスカンの列石」が数キロにわたって続きます。それぞれが微妙に異なる表情を見せ、訪れる者を飽きさせません。中でも特に印象深かったのは、ケルマリオにある巨大なドルメン(支石墓)です。テーブルのような石の構造物は古代の墓か祭壇であったと伝えられ、その下に立つと自分の存在の小ささを実感し、同時に古人の死生観に思いを馳せずにはいられません。

    この広大な遺跡群を巡るには、歩きやすい靴が必須です。私は丸一日かけてのんびり歩き回りましたが、ビジターセンターでは自転車の貸出もあり、効率良く回るのもおすすめです。また、小型の観光列車「プチトラン」も運行し、主要スポットを効率的に巡ることが可能です。ブルターニュの天候は「一日に四季がある」とも言われるほど変わりやすいため、晴れていても油断は禁物。防水性の軽い上着と折り畳み傘を携えるのが旅の必需品だと実感しました。

    解明されぬ謎、だからこそ惹かれる

    この壮大な列石群が一体何の目的で築かれたのか、それがカルナック最大の謎です。天体観測のための天文台だったという説、宗教的な儀式の巡礼路だったという説、あるいは偉大な部族の墓標であったという説など、多数の仮説が存在しますが、決定的な証拠は未だに見つかっていません。

    地元の伝承によれば、聖コルネリウスがローマ兵たちを石に変えたとの話も残っています。科学的な説明が及ばないからこそ、人々は物語を紡ぎ出し、この光景に意味を与え続けてきたのでしょう。私には、この石列が大地の奥底から湧き上がるエネルギーの流れを可視化したかのように思えました。古代の人々は、現代の私たちが失ってしまった何かを感じ取り、それを石の配列で表現しようとしたのではないでしょうか。

    見学は基本的に無料で自由に歩き回ることができますが、遺跡保護のため、4月から9月の観光シーズンは主要な列石群の内部立ち入りが制限される場合があり、ガイドツアーへの参加が求められることもあります。訪問前には公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします。ガイドツアーに参加すれば、専門家の詳しい解説が聞け、謎への興味が一層深まることでしょう。

    ストーンヘンジが「円」という閉じた空間で天空を見上げるモニュメントであるのに対し、カルナックは地を這うように伸びていく「線」であり、果てしなく続く開かれた空間です。この対比が、後半で訪れるストーンヘンジへの期待をより一層高めてくれました。

    イギリスの平原に佇む、孤高のサークル「ストーンヘンジ」

    ソールズベリー平原での感動的な出会い

    フランス・ブルターニュを後にし、次の目的地イギリスへ向かいます。ユーロスターで海峡を渡り、ロンドンから列車を乗り継いで古都ソールズベリーへ移動。この街からはストーンヘンジ行きの専用シャトルバスが出ており、アクセスは非常にスムーズです。

    バスが広大なソールズベリー平原を進み始めると、ヨーロッパでこれまで見てきた風景とは一変します。緩やかな緑の丘が果てしなく続き、空が信じられないほど広々と広がっています。その広大な景色の中に、突如としてそれは姿を現しました。遠くに、まるでミニチュアの模型のように石のサークルが見えた瞬間、思わず息を飲みました。カルナックが大地に溶け込むような存在感だったのに対し、ストーンヘンジは平原の真ん中で圧倒的な存在感を放ち、孤高に佇んでいました。

    バスを降りてまず近代的なビジターセンターを訪れます。ここでチケットを受け取り、充実した展示を通じてストーンヘンジの歴史や謎を事前に学べます。復元された新石器時代の村や出土品、360度映像で日の出を体感できるシアターなど、遺跡を見る前の期待感を大いに高めてくれます。

    そして、いよいよ専用シャトルバス(徒歩でも行けますが2キロ以上)に乗り、遺跡へ向かいます。近づくにつれ、遠くでミニチュアのように見えた石群が、その本来の雄大なスケールを徐々に取り戻していきます。この演出が感動をさらに増幅させてくれるのです。

    緻密に計算された巨石建築の美

    ストーンヘンジを目前にした時、最初に浮かんだ言葉は「美しい」でした。カルナックの荒々しく混沌としたエネルギーとは異なり、ここには緻密に計算された構造美が存在しています。

    直径約30メートルの円を描くように並べられた巨大なサーセン石は、地上部分だけでも高さ4メートルを超え、重さは25トンにも達します。さらに驚くべきは、その上に「リンテル」と呼ばれる横石が橋のように渡されている点です。これらは「ほぞ」と「ほぞ穴」という技法で精巧に組み合わされており、まるで古代のレゴブロックのような仕組みです。これが5000年以上前に、金属器もなかった時代の人々によって作られたことに、ただただ畏敬の念を抱かずにはいられません。

    遺跡の周囲には遊歩道が整備されており、ぐるりと一周しながらさまざまな角度からその姿を楽しめます。遺跡保護のため、通常はサークル内に立ち入ることはできません。一見残念に思えるかもしれませんが、少し離れた場所から全体を見渡すことで、ストーンヘンジが周囲の風景と一体になって織りなす荘厳な雰囲気をより深く味わえます。

    特に午後、太陽が傾きかける時間帯は、石に当たる光と影のコントラストが強まり、立体感と力強さが際立ちます。私が訪れた日は、雲間から差し込む光が幻想的で、巨石たちがまるで生きているかのように様々な表情を見せてくれました。朽ちて崩れた部分さえも、その長い歴史を物語る美しい傷跡のように映りました。

    科学が解き明かす謎、そしてさらなる謎の深まり

    ストーンヘンジの最も有名な謎は、その天文学的な役割です。特に夏至の日の出には、太陽がヒールストーンと呼ばれるサークル外の石の方向から昇り、その光がサークル中心の祭壇石をまっすぐ照らすように設計されていると考えられています。これにより、古代の太陽信仰の神殿や壮大なカレンダーであった可能性が示されています。

    訪問時には無料で借りられる日本語対応のオーディオガイドが非常に役立ちます。各石の意味や建設過程、最新の研究成果などを聞きながら見学すれば、単に巨石を眺めるだけでは得られない理解が深まります。たとえば、サークル内にあるブルーストーンという小さな石は、科学的に約250キロ離れたウェールズのプレセリ丘陵から運ばれてきたことが証明されています。なぜ古代の人々がこれほどの労力をかけて特定の石を運んだのか、その謎は解明どころかさらに深まっています。

    ストーンヘンジの見学は完全予約制で、特に週末や観光シーズンは予約がすぐに埋まるため、旅の計画を立てたらまずは公式サイトでチケットを確保することが非常に重要です。料金は訪問日時によって変動するダイナミックプライシングが採用されています。ビジターセンターの展示やシャトルバスの移動時間も含め、所要時間は最低でも2〜3時間はみておくのが望ましいでしょう。

    どうしてもサークル内に入りたいという方には、「ストーンサークル・エクスペリエンス」という特別ツアーがあります。これは通常の開館時間外(早朝や夕方)に少人数限定でサークル内に入れるもので、予約は数ヶ月先まで埋まっていることが多いですが、もし参加できれば一生忘れられない体験になること間違いありません。

    二つの巨石遺跡、その魂の対話

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    規模と配置:直線を描くカルナック、円形を成すストーンヘンジ

    カルナックとストーンヘンジ。この二つの遺跡を巡った後で、それぞれの違いと共通点について改めて考えさせられました。まず、規模と配置においてはまったく対照的です。カルナックは数千本ものメンヒルが数キロにわたって「直線」を形成し、広大なエリア全体が一つの遺跡として存在しています。そこを歩く体験は、物語のページを次々にめくるような感覚に近く、どこまでも続く石の列は特定の目的地へ向かうというよりも、その過程自体に意味があるように感じられました。もしかするとそれは巡礼の道であったり、生と死の境界を示す象徴的な経路だったのかもしれません。

    一方でストーンヘンジは、ソールズベリー平原という広大な舞台の中央に設置された、完璧な「円」を描いています。閉ざされた円環は外界と区切られた聖なる空間を明瞭に示し、その中心に立つと天と地が交わる特別な一点にいるかのような感覚にとらわれます。こちらはプロセスより「特定の瞬間」、例えば夏至の日の出のような特別な時に最大の意味を持つ、儀式のための劇場的空間なのでしょう。

    歴史と時間の視点:悠久の時を刻む石たち

    歴史の古さという面では、カルナックのほうが先輩格にあたります。最も古い部分は紀元前4500年頃に遡るとされ、ストーンヘンジが建設され始めるより千年以上も前から、この地で巨石文化が栄えていました。両遺跡とも、単一の時代に完成したものではなく、カルナックの列石が何世紀にもわたり追加され続けたように、ストーンヘンジも幾度となく建設や改変が繰り返されてきたのです。

    この事実は、これらの石造が一人の王や支配者の記念碑ではなく、地域共同体の信仰や宇宙観が何世代もかけて伝承され、積み重ねられてきた証しと言えるでしょう。風雨や時間の侵食に耐え、時には倒され、また別の目的に転用されつつも、それらの石はそこに立ち続け、静かに悠久の時の流れを語りかけています。

    旅人が味わう空気の違い

    この二か所で感じた空気感も、大きく異なっていました。カルナックでは、どこか素朴で、大地のエネルギーが直接伝わってくるかのような場所でした。制限された区域外では自由に石の間を歩くことができ、その質感に触れながら、自分だけの思索を深める余地が多く残されています。ミステリーが解明されていない分、想像力が刺激され、古代の人々との対話ができるような体験と言えるでしょう。

    一方、ストーンヘンジはより厳かな雰囲気を漂わせ、神聖な空気が満ちていました。徹底的に管理・保護されていることで保たれた神秘性があり、訪れる者は皆、畏敬の念を持ってその存在に向き合います。オーディオガイドから流れる解説は目の前の光景に深い意味を与え、知的な興奮をかきたててくれます。ここは壮大な謎解きに参画しているかのような、心高ぶる体験ができる場所といえるでしょう。

    巨石を巡る旅のプランニング

    二つの聖地を巡る旅へ

    もしあなたが古代の謎に惹かれるなら、カルナックとストーンヘンジの両方を訪れる旅をぜひ検討してみてください。フランスとイギリスという二国を巡る壮大な旅になりますが、その価値は十分にあるでしょう。パリを拠点にブルターニュへ日帰り、または一泊二日の旅をしてから、ユーロスターでロンドンへ移動。そこからストーンヘンジへ向かうというのが効率の良いルートのひとつです。

    ベストシーズンは、気候が穏やかで日照時間も長い春から初秋(5月〜9月頃)でしょう。ただし、この時期は観光客も多いので、ストーンヘンジのチケット予約は早めに行うことが重要です。逆に、観光客が少ない冬に訪れるのもまた魅力的です。霧の中に浮かぶストーンヘンジや、冬の寂しげな光に包まれたカルナックの列石は、まったく異なる神秘的な表情を見せてくれるでしょう。

    旅の心構えと準備

    この旅で欠かせないのは、歩きやすい靴と変わりやすい天候にも対応できる服装、そして尽きることのない好奇心です。防水機能のあるジャケットは、フランスでもイギリスでも頼りになる存在です。カメラはもちろん便利ですが、双眼鏡があれば遠くの石の細部や遺跡周辺で見られる鳥の様子を観察でき、一層楽しめるかもしれません。

    そして何より、単に知識を得るだけでなく、その場で五感を全開にすることを忘れないでください。頬を撫でる風の感触、石に染み付いた苔の香り、さえずる鳥の声、そして目の前に広がる圧倒的な静寂。写真や映像では伝わらない現地の空気感こそが、巨石遺跡を訪れる際の最大の魅力です。古代の人々が仰いだであろう空を見上げ、彼らが感じ取ったであろう大地の力を想像する。それこそが、最高のタイムトラベルとなるのです。

    時を超えたメッセージを受け取る旅

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    カルナックの果てしなく続く石の列と、ストーンヘンジの完璧な円形。これら二つの聖地を巡る旅は、私に多くの気づきをもたらしてくれました。それは単純にどちらが優れているかを問う比較ではありません。大地に根ざした「線」の信仰と、天空を目指した「円」の信仰。おそらく異なる宇宙観を持つ人々が、それでも同じ石という永遠の素材を選び、未来へ向けたメッセージを託したという事実が、強く心に響くのです。

    私たちは彼らがなぜこれらを築いたのか、その真実に触れることはできないかもしれません。しかし、それでよいのだと思います。答えがないからこそ、私たちは想像力を膨らませ、思索し、石たちと対話することができるのです。この旅は単なる観光の巡礼ではなく、人類の根源的な営み、すなわち「祈り」「祭り」「未来へのメッセージを残そうとする行為」に触れる尊い体験でした。

    もしあなたが日々の忙しさに少し疲れ、どこか遠くで悠久の時を感じたいと思ったなら、是非先史ヨーロッパの巨石群を訪れてみてください。そこにはきっと、あなたの心を揺さぶり、明日への新たな力を与えてくれる時を超えたメッセージが待っていることでしょう。あなたの旅が、古代からの声を受け取る素晴らしい体験となりますように。

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    この記事を書いた人

    大学時代から廃墟の魅力に取り憑かれ、世界中の朽ちた建築を記録しています。ただ美しいだけでなく、そこに漂う物語や歴史、時には心霊体験も交えて、ディープな世界にご案内します。

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