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    ジャカルタの魂に触れる週末トリップ!セトゥ・ババカンで時を忘れるブタウィ文化紀行

    コンクリートジャングルと近代的なショッピングモールがそびえ立つ、東南アジア屈指の大都市ジャカルタ。その喧騒のすぐそばに、まるで時が止まったかのような穏やかな場所があることをご存知でしょうか。そこは、ジャカルタの原住民「ブタウィ人」の文化が、今なお色濃く息づく文化村「セトゥ・ババカン」。今回は、忙しない日常から少しだけエスケープして、心と身体を豊かに満たす、週末の文化旅行へと皆様をご案内します。近代化の波に洗われながらも、たくましく、そしてしなやかに受け継がれてきたジャカルタの真の魂に触れる旅へ、さあ、一緒に出かけましょう。

    目次

    ジャカルタに隠された緑のオアシス、セトゥ・ババカンとは?

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    ジャカルタ南部のデポック市との境界近くに広がる、約32ヘクタールもの広大な敷地。それがブタウィ文化村、セトゥ・ババカンです。「セトゥ」はインドネシア語で「湖」を意味し、「ババカン」はスンダ語で「新しい村」や「一章」を指します。その名前の通り、村の中央には静かに広がる大きな湖があり、訪れる人々の心を穏やかにします。ここは単なる観光スポットではなく、ジャカルタ州政府が消えゆくブタウィ文化を保存し、次世代に伝えるために設立した、生きた博物館なのです。

    なぜこの地が選ばれたのかというと、もともと多くのブタウィ人が暮らしていた地域であり、彼らの生活様式や伝統が比較的濃く残っていた場所だからです。ジャカルタ中心部に押し寄せる近代化の波に対し、彼らの文化的アイデンティティを守る最後の砦として、この地に文化村を作るプロジェクトが2000年代初頭に始動しました。村内を歩けば、伝統的な家屋が立ち並び、湖では人々が釣りを楽しみ、畑ではブタウィ料理に欠かせない果物や野菜が育てられています。それはかつてジャカルタが「バタビア」と呼ばれていた時代から受け継がれてきた、人々の営みの原風景そのものです。ここでは、車のクラクションの代わりに鳥のさえずりが響き、排気ガスの代わりに花々の甘い香りが私たちを迎えてくれます。

    五感を揺さぶる!生きたブタウィ文化体験

    セトゥ・ババカンの最大の魅力は、何といっても文化を「体験」できる点です。展示ケースの向こう側から眺めるのではなく、自分の五感を通じてその熱気や香り、そして音色を感じ取ることが可能です。週末に訪れると、村の至る所でさまざまな伝統芸能が披露され、まるで村全体が祭りのような賑わいに包まれます。

    魂が響き合うハイブリッド・ミュージック!伝統音楽「ガンバン・クロモン」の演奏

    村の広場に近づくと、どこからともなく賑やかでありながらもどこか懐かしい音色が聞こえてきます。これが、ブタウィ文化を象徴する伝統音楽「ガンバン・クロモン」です。木琴の一種である「ガンバン」、ゴングを並べた打楽器「クロモン」を中心に、中国に由来する二胡に似た弦楽器「テヒャン」や「コン・アヒャン」、笛、太鼓などが加わり、独特なアンサンブルを奏でます。

    この音楽の面白さはその起源にあります。実はガンバン・クロモンは、18世紀頃この地に移り住んだ中国系移民の音楽と、土着のガムラン音楽が融合して誕生した「ハイブリッド音楽」なのです。メロディを奏でるガンバンやテヒャンの響きは、どことなく中華風の哀愁を湛えていますが、それに寄り添うゴングや太鼓のリズムは、まぎれもなくインドネシアの大地の鼓動。異なる文化が出会い、長い時を経て溶け合い、新たな芸術として咲き誇る奇跡が、この音色に凝縮されています。目を閉じて耳を傾けると、かつて帆船に乗って渡来した商人たちの姿や、スパイス交易で栄えた港町の賑わいが目の前に浮かぶようでした。

    ここで、知っておきたいトリビアをひとつ。メロディを奏でる鍵となる弦楽器「テヒャン」は、その胴体部分がココナッツの殻でできているのです。身近な自然素材を巧みに利用し、美しい音色を生み出すブタウィの人々の知恵と工夫には、本当に驚かされます。演奏者たちのいきいきとした表情を見ながら聴く生演奏は、どんな高級オーディオでも味わえない、心に直接響く感動をもたらしてくれました。

    仮面に秘められた物語、躍動する伝統舞踊「トペン・ブタウィ」

    音楽の次に観客を魅了するのは、ブタウィの伝統的な仮面劇「トペン・ブタウィ」です。「トペン」とはインドネシア語で「仮面」を意味します。この舞踊は単なる踊りではなく、音楽・演劇・そしてコメディの要素が融合した総合芸術。物語は勧善懲悪のわかりやすい内容が多いものの、その表現の豊かさは実に見事です。

    登場する仮面にはそれぞれ役割があります。勇ましい英雄、優美な王女、そして観客の笑いを誘う道化師。特に道化師役の役者は、アドリブ満載のセリフとコミカルな動きによって物語の進行役とムードメーカーを兼ねています。言葉が分からなくとも、その豊かな表情や観客の笑い声につい引き込まれてしまいます。踊り手たちが仮面を付け替えるたび、まるで別の人格が宿ったかのように雰囲気が一変する瞬間は圧巻の一言。特に女性役を演じる男性踊り手の、指先まで行き届いた繊細でしなやかな動きには思わず見惚れてしまいました。

    私は少しばかり不思議な感受性を持っていますが、このトペンの仮面を見つめていると、単なる木彫りの道具とは思えない、不思議な生命力のようなものを感じました。何世代にもわたって演じられてきた物語の登場人物の魂が、この仮面に静かに宿っているのではないか…そんなスピリチュアルな感覚に包まれる、非常に興味深い体験でした。それは決して恐怖を伴うものではなく、この土地に根付く人々の祈りや願いが温かいエネルギーとなり伝わってくるような心地よさでした。

    舌の上でも文化が躍動!奥深いブタウィ料理の世界

    文化体験でお腹が空いたら、次の楽しみは食事です。ブタウィ料理はインドネシア各地の料理はもちろんのこと、中華、アラブ、ヨーロッパ(特にポルトガルやオランダ)の食文化の影響を色濃く受けた、まさに「食のメルティングポット」。スパイスの使い方が巧みで、単なる辛さにとどまらず、甘み・酸味・香ばしさが複雑に絡み合った深みのある味わいが特徴です。

    料理名特徴味のポイントトリビア
    クラック・テロール (Kerak Telor)もち米とアヒルの卵を使ったお好み焼き風の一品。別名「ジャカルタのピザ」と呼ばれている。パリッとした生地の食感、卵の濃厚なコク、エビの風味、フライドオニオンの香ばしさが見事に調和。「ケラック」は「殻」を意味し、調理の最後にフライパンをひっくり返し、炭火で直接炙って仕上げるのが特徴。
    ソト・ブタウィ (Soto Betawi)ココナッツミルクベースの濃厚な牛肉スープ。クリーミーでコク深く、スパイスが効きつつも後味はさっぱり。ご飯との相性が抜群。「バタビアのスープ」が名前の由来。牛乳を加えるレシピもあり、オランダ統治時代の影響が見て取れる。
    ガドガド (Gado-gado)温野菜や厚揚げ、ゆで卵を濃厚なピーナッツソースで和えたサラダ。ピーナッツの甘みとコク、サンバルの辛味、ライムの酸味が調和した複雑な味わい。「ごちゃまぜ」という意味。ジャカルタ生まれの料理で、店ごとにソースの味が異なるのも楽しみの一つ。
    ビル・プレトック (Bir Pletok)ショウガ、シナモン、レモングラスなど多彩なスパイスを煮出したノンアルコール飲料。スパイシーで身体を芯から温める。ほのかな甘みで飲みやすい。名前に「ビール」が含まれるがアルコールはゼロ。竹筒と氷で振る際の「プレトック」という音に由来。

    実食レポート!炎のパフォーマンスが生み出す絶品「クラック・テロール」

    数あるブタウィ料理の中でも、セトゥ・ババカンに訪れたら絶対に外せないのが「クラック・テロール」です。村内の屋台からは香ばしい香りが漂ってきます。注文すると、熟練の職人が目の前で調理を始めてくれました。

    まず、水に浸したもち米を小さな中華鍋のようなフライパンで炒り、そこにアヒルの卵を割り入れて素早くかき混ぜます。ここまでは普通ですが、驚きはこれから。生地が固まり始めたところで、職人は何気なくフライパンをひっくり返し、中身を炭火で直接炙り始めたのです!炎が勢いよく上がり、パチパチと音をたてながら表面が次第に焼かれていく様子はまさに圧巻のパフォーマンス。この調理法について尋ねると、「こうすることで余分な油が落ち、表面がカリッと香ばしく仕上がるんだよ」と教えてくれました。理にかなった技術ですね。

    仕上げに炒ったココナッツや乾燥エビの粉末(セルンデン)、フライドオニオンをふんだんに振りかけて完成。熱々を一口頬張ると、まずもち米のパリッとした食感とモチモチとした食感が同時にやってきます。次にアヒルの卵の濃厚なコク、エビやココナッツの香ばしい風味、そしてフライドオニオンの甘みが口いっぱいに広がりました。甘み、塩味、香ばしさ、旨味が絶妙に交錯する味わいに、思わず笑顔がこぼれてしまいます。これは単なる庶民の味ではなく、ブタウィの歴史と知恵がぎゅっと詰まった魂のソウルフードです。

    さらに、健康志向の私にとって嬉しかったのが「ビル・プレトック」。名前に「ビール」と付くため少し警戒しましたが、当然ノンアルコール。ショウガ、シナモン、カルダモン、パンダンの葉など、体を温め調子を整えるスパイスがたっぷり使われています。ほのかな甘みで、歩き疲れた体にじわりと染みわたるような優しさ。まさに飲む養生スープの趣で、すっかりお気に入りの一杯になりました。

    ブタウィ建築の美学を訪ねて

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    セトゥ・ババカンでは、ブタウィの伝統的な建築様式を間近に体感できます。高床式の木造住宅は、熱帯気候に適応するための知恵が豊かに凝縮されています。

    伝統家屋「ルマ・ブタウィ」に込められた先人の知恵

    村の中で復元・保存されている伝統家屋「ルマ・ブタウィ」は、一見シンプルに見えますが、細部に至るまで丹念に工夫が施されています。主に、ジャワ建築の影響を受けた「ジョグロ様式」、スンダ建築の影響を受けた「バパング様式」、そしてヨーロッパ建築の要素を取り入れた「カバヤ様式」など、いくつかのスタイルがあります。

    どの家屋も共通して風通しの良さが考慮されており、大きな窓や欄間が設けられて熱気がこもらないよう工夫されています。また、家の前には「テラス・デパン」と呼ばれる広いテラスがあり、家族が涼んだり近所の人とお茶を飲みながら語り合う、重要な交流の場として機能してきました。

    ここでひとつ興味深いトリビアをご紹介しましょう。多くのブタウィ家屋の軒下には、「ギギ・バラン(Gigi Balang)」というギザギザの木彫り装飾が施されています。直訳すると「バッタの歯」を意味しますが、なぜバッタなのでしょうか。ブタウィの人々にとって、バッタは誠実さ、粘り強さ、そして勤勉さの象徴です。常に真っすぐ進み、決して諦めないバッタの姿勢を家の目立つ場所に刻むことで、その教えを伝えています。この装飾には家族の繁栄や子どもたちの健やかな成長を願う意味も込められており、単なる装飾ではなく、ともに家族の幸福を祈るお守りのような存在なのです。

    家に宿る哲学と宇宙観

    ブタウィの家づくりには、彼らの信仰や宇宙観が色濃く反映されています。家の間取りは、公共的な空間であるテラスから家族が集う居間、さらにプライベートな寝室へと進むにつれて、プライバシーの度合いが高まるように設計されています。これは、人間関係の距離感を大切にする彼らの文化を表していると言えるでしょう。

    また、彼らの信仰はイスラム教が中心である一方で、それ以前からこの地に根付いていたアニミズム(自然崇拝)の影響も色濃く残っています。例えば、家の柱を立てる日取りや方角を占いで決め、建築儀礼を行う風習も今なお守られています。近代的な高層ビルが立ち並ぶジャカルタの中で、こうした伝統が大切に受け継がれていることに深い感銘を覚えました。家は単に雨風をしのぐ場所ではなく、家族を守り、宇宙とつながる神聖な空間であるという思想が、ここに息づいているのです。

    セトゥ・ババカン湖畔での癒やしのひととき

    多彩な文化体験を堪能した後は、村の中心に広がるセトゥ・ババカン湖のほとりで、ゆったりとしたひとときを過ごすことをおすすめします。ここは文化村としての顔を持つだけでなく、地元の人たちにとっても大切な憩いの場となっています。

    湖では、白鳥の形をした水上自転車や手漕ぎボートを楽しむことができ、子どもたちの笑い声があちこちに響き渡ります。岸辺ではゆったりと釣り糸を垂れる人々の姿も見られます。私も湖畔に腰を下ろし、しばらく静かに水面を見つめていました。心地よい風が木の葉を揺らし、水鳥が優雅に泳いでいきます。遠くから聞こえてくるガンバン・クロモンの音色が、まるで自然のBGMのように周囲に溶け込んでいました。

    都会の喧騒から離れ、こうして自然に包まれて深く呼吸をすると、乱れていた心身のリズムが静かに正しい状態へと戻っていくのを実感できます。ヨガや瞑想で目指すマインドフルな状態は、特別な場所に行かなくても、こうして五感を研ぎ澄まし、今この瞬間に意識を向けることで得られるのかもしれません。セトゥ・ババカンは、文化を学ぶ場であると同時に、自分自身と向き合い、心をリセットできる癒やしのスポットでもあるのです。

    文化を未来へ繋ぐ、人々の温かい想い

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    この旅で最も印象に残ったのは、セトゥ・ババカンで触れ合った人々の笑顔とその温もりでした。伝統舞踊の踊り手、ガンバン・クロモンの演奏者、クラック・テロールを作る職人、そして村を案内してくれたガイドの方々。彼らは皆、自身の文化に深い誇りを抱き、それを訪問者に伝えたいという強い情熱を持っていました。

    お土産屋を覗くと、鮮やかな色彩の「バティック・ブタウィ」がずらりと並んでいました。ジャワ島他地域のバティックとは異なり、ブタウィのバティックは、より明るく大胆な色遣いで、ジャカルタの動植物やランドマーク(例として独立記念塔モナスやオオハシウミガラスなど)をモチーフにした個性的なデザインが特長です。

    店主の女性が一枚の布を広げながら説明してくれました。「この鳥の模様は自由の象徴なのよ。そしてこの花は、多様な文化が共存するジャカルタを表現しているの」。彼女の言葉から、このバティック一枚一枚に故郷への愛情と未来への希望が込められていることが伝わってきました。

    セトゥ・ババカンは、過去の文化を冷凍保存している場所ではありません。そこは、人々の日常生活の中で息づきながら、徐々に形を変えて次の世代へと確かに受け継がれていく、生命力あふれる場所なのです。この村を訪れることは、その壮大な文化継承の物語に、ほんの少し触れる貴重な体験だと言えるでしょう。

    セトゥ・ババカンへのアクセスと旅のヒント

    ジャカルタの真髄に触れる旅をお考えの方へ、役立つ情報をお届けします。

    項目詳細補足
    所在地Srengseng Sawah, Jagakarsa, South Jakarta City, Jakarta, Indonesiaジャカルタの中心部から南へ約20kmの場所にあります。
    アクセスタクシーや配車アプリ(Gojek、Grab)が最も便利かつ確実です。中心部からは車で約1時間から1時間半ほどかかります(交通状況により変動)。公共交通機関は乗り換えが多く複雑なため、観光客にはあまりおすすめできません。
    開園時間月曜日から日曜日の09:00~16:00(施設によって異なる場合があります)伝統芸能の公演は主に週末(土・日)の午後に行われます。
    入場料入場は無料ですが、駐車料金や各種アクティビティ、パフォーマンス観賞には別途料金が発生する場合があります。料金は非常に良心的で、文化保存のための寄付も歓迎されています。
    おすすめの服装歩きやすい靴と通気性の良い服装がおすすめです。日差しが強いため、帽子やサングラス、日焼け止めの準備をお忘れなく。屋外での歩行時間が長いため、熱中症対策はしっかりと。
    その他虫よけスプレーを持参すると安心です。食事の屋台は現金のみの場合が多いため、小額紙幣を用意しておきましょう。トイレはありますが、ティッシュペーパーは持参することを推奨します。

    ジャカルタという大都市の中にひっそりと息づく、奇跡のような文化の聖域セトゥ・ババカン。ここは過去と現在が織りなす場所で、多様な文化が見事な調和を奏でています。もし、一般的な観光名所を巡るだけでは物足りなさを感じているなら、ぜひこの村に足を運んでみてください。きっと、これまで知らなかったジャカルタの素顔や温かな人々の心に触れられることでしょう。そして、ここで得た経験や感動は、誰かに語りたくなるような忘れがたい旅の思い出となるはずです。

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    この記事を書いた人

    心と体を整えるウェルネスな旅を愛するSofiaです。ヨガリトリートやグランピングなど、自然の中でリフレッシュできる旅を提案します。マインドフルな時間で、新しい自分を見つける旅に出かけましょう。

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