カナダ最大の都市トロントや首都オタワを擁するオンタリオ州が、2026年2月23日を初の「ホスピタリティ労働者感謝デー(Hospitality Workers Appreciation Day)」として制定することを発表しました。この新しい記念日は、州の経済と観光の最前線を支える人々へ公式に感謝を示すものであり、深刻な人手不足に直面する業界の再生に向けた重要な一歩として注目されています。
感謝デー制定の背景 – パンデミックが残した深刻な爪痕
この決定の背景には、新型コロナウイルスのパンデミックによって壊滅的な打撃を受け、今なお回復の途上にあるホスピタリティ業界の厳しい現実があります。
パンデミック以前、オンタリオ州の観光・ホスピタリティ業界は州の経済を牽引する存在でした。2019年には39万人以上を雇用し、340億カナダドルを超える経済活動を生み出していましたが、ロックダウンや渡航制限により多くの施設が閉鎖を余儀なくされ、数多くの労働者が職を失いました。
問題は、経済活動が再開しても、労働者が業界に戻ってきていないことです。カナダ観光人事委員会(Tourism HR Canada)の報告によると、カナダの観光業全体では依然として数万人規模の労働力が不足していると指摘されています。不安定な雇用、賃金の問題、そして心身への負担が大きい労働環境への懸念から、他業種へ転職した人々が戻らないケースが後を絶たないのです。この人材不足は、ホテルの客室稼働率の制限やレストランの営業時間短縮など、サービスの質の低下に直結し、観光客の体験価値を損なうだけでなく、経済回復の大きな足かせとなっています。
「感謝」がもたらすもの – 狙いと期待される効果
業界イメージの刷新と労働意欲の向上
オンタリオ州が制定した「ホスピタリティ労働者感謝デー」は、単なる記念日以上の意味を持ちます。これは、州政府が公式にホスピタリティ業界で働く人々の貢献を認め、その仕事が社会にとっていかに重要であるかを宣言するものです。
この公式な認定は、業界全体のイメージをポジティブなものへと転換させる効果が期待されます。日々、国内外からの訪問者を温かく迎え入れ、素晴らしい体験を提供している従業員にとって、自らの仕事への誇りとモチベーションを高めるきっかけとなるでしょう。さらに、これから就職を考える若い世代に対しても、ホスピタリティ業界が魅力的で、社会的にも評価されるキャリアパスであることを示すメッセージとなります。
安定した労働力が築く観光経済の未来
安定した労働力の確保は、オンタリオ州の観光経済が持続的に成長するための絶対条件です。質の高いサービスは、顧客満足度を高め、口コミやリピート訪問につながります。従業員が定着し、スキルを向上させる環境が整ってこそ、国際的な観光地としての競争力を維持・強化できるのです。
今回の「感謝デー」制定は、労働環境の改善や待遇向上といった、より具体的な支援策へとつなげていくための第一歩と見られています。労働者の貢献に光を当てることで、業界全体で人材を大切にする気運を高め、長期的な視点での人材育成と定着を促進する狙いがあります。
予測される未来と日本への示唆
オンタリオ州のこの先進的な取り組みは、カナダ国内の他州や、同様の課題を抱える世界中の国々にとって、一つのモデルケースとなる可能性があります。公式に感謝を示すという文化的なアプローチが、人材確保においてどのような効果を生むのか、その成果が注目されます。
この動きは、オーバーツーリズムと深刻な人手不足という二つの課題に直面する日本の観光業界にとっても、重要な示唆を与えてくれます。インバウンド観光客が急回復する一方で、宿泊施設や飲食店、交通機関などでは人手不足がボトルネックとなり、受け入れ態勢が追いついていないのが現状です。
日本の「おもてなし」は世界的に高く評価されていますが、その担い手である現場の労働者が十分に報われ、誇りを持って働き続けられる環境がなければ、その品質を維持することはできません。賃金や労働条件の改善といった直接的な施策はもちろん重要ですが、オンタリオ州のように、社会全体で観光を支える人々への感謝とリスペクトを形として示す文化を醸成していくことも、日本の観光立国としての未来を考える上で不可欠な視点ではないでしょうか。
私たちが旅先で受ける素晴らしいサービスの裏には、常にそれを提供する人々の努力があります。オンタリオ州の「ホスピタリティ労働者感謝デー」は、旅行者である私たち一人ひとりにも、その事実を改めて思い起こさせてくれるきっかけとなるでしょう。

