大手ホテルチェーンのヒルトンが、独立系の小規模高級ホテルコレクション「Small Luxury Hotels of the World(SLH)」との独占的戦略パートナーシップを発表しました。この提携は、旅行者にとって宿泊先の選択肢を劇的に広げるだけでなく、ホテル業界におけるロイヤルティプログラム競争が新たな局面に入ったことを示す重要な動きです。Arigatripでは、このニュースの背景と今後の影響について詳しく解説します。
提携の概要:ヒルトン・オナーズ会員の選択肢が大幅に拡大
今回の提携により、ヒルトンのロイヤルティプログラム「ヒルトン・オナーズ」の会員は、世界90カ国以上に展開するSLH加盟の約560軒のホテルで、以下の特典を享受できるようになります。
- ポイントの獲得と利用: SLH加盟ホテルでの宿泊時にヒルトン・オナーズのポイントを獲得したり、貯めたポイントを使って無料宿泊に交換したりすることが可能になります。
- エリート会員特典: ゴールドやダイヤモンドといったエリート会員は、SLH滞在時にも特典を受けられるようになる見込みです。(具体的な特典内容は後日発表予定)
これまでヒルトンのポートフォリオにはなかった、ユニークで個性的なデザインやサービスを誇るブティックホテルやリゾートが、ヒルトン・オナーズのネットワークに加わることになります。これにより、会員は大手チェーンの安心感と、その土地ならではの特別な体験を提供する独立系ホテルの魅力を、一つのプログラム内で両立できるようになります。
なぜ今?提携の背景にある熾烈な顧客囲い込み戦略
この提携は、単なるホテル数の増加以上の意味を持っています。その背景には、大手ホテルチェーン間で激化するロイヤルティ会員の囲い込み競争があります。
競合ハイアットへの対抗策
実は、SLHは2023年末までヒルトンの主要な競合相手であるハイアットと提携関係にありました。しかし、その提携は終了。ハイアットはその後、同じく独立系ブティックホテルのプラットフォームである「Mr & Mrs Smith」の買収を発表し、独自の高級ホテル網の強化に動いていました。
今回のヒルトンとSLHの提携は、このハイアットの動きに直接対抗する一手と見ることができます。大手ホテルチェーンは、自社ブランドのホテルだけでは満たせない、よりユニークで多様な宿泊体験を求める顧客層を取り込むため、独立系ホテルコレクションとの連携を最重要戦略の一つと位置付けているのです。
「体験価値」を求める旅行者の増加
近年、旅行者は単に快適な宿泊施設を求めるだけでなく、その土地の文化や個性を色濃く反映した「体験価値」を重視する傾向にあります。画一的なサービスではなく、オーナーのこだわりが詰まった小規模ホテルや、ユニークなデザインのブティックホテルは、まさにそのニーズに応える存在です。
大手ホテルチェーンがSLHのようなコレクションと提携することで、こうした多様なニーズを持つロイヤルティ会員を自社のエコシステム内に留め、他社への流出を防ぐ狙いがあります。
今後の予測:旅行者とホテル業界に与える影響
この提携は、今後の旅行のあり方やホテル業界の勢力図に大きな影響を与える可能性があります。
旅行者への影響
- 選択肢の多様化: ヒルトン・オナーズ会員は、ビジネス出張での利用が多いシティホテルから、休暇で訪れたい隠れ家的なリゾートまで、ポイントプログラムを活用できる範囲が飛躍的に広がります。特に、これまで大手チェーンが進出していなかった地域での滞在先の選択肢が増えることは大きなメリットです。
- ロイヤルティプログラムの価値向上: どのホテルプログラムに加入するかを選ぶ際、「提携している独立系ホテルの魅力」が新たな判断基準となるでしょう。ポイントの貯めやすさや還元率だけでなく、どれだけユニークな体験に交換できるかが、プログラムの価値を左右する時代になります。
ホテル業界への影響
- 競争の加速: ヒルトン、ハイアットに続き、マリオット(Design Hotelsと提携)やIHGなども、独立系ホテルコレクションの取り込みをさらに加速させる可能性があります。大手チェーンによる小規模高級ホテルの「囲い込み競争」は、ますます激しくなるでしょう。
- 独立系ホテルの戦略変化: 独立系ホテルにとっては、大手の強力な予約システムや全世界数千万人規模の会員組織にアクセスできるメリットは計り知れません。一方で、大手のプラットフォームに組み込まれることで、いかにして独自のブランドイメージや個性を維持していくかが今後の課題となります。
今回のヒルトンとSLHの提携は、ホテル選びが「ブランド」から「プログラムが提供する体験の幅」へとシフトしていく時代の象徴的な出来事と言えます。旅行者にとっては嬉しいニュースであり、今後の詳細なプログラム内容の発表から目が離せません。

