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    ホスピタリティの未来:ホテル滞在はウェルネスやリテールを含むエコシステムへ

    旅行の形が大きく変わろうとしています。もはやホテルは、単に夜を過ごすための場所ではありません。世界のホテル業界では、宿泊という中核サービスを軸に、ウェルネス、長期滞在用のレジデンス、さらにはショッピング(リテール)までを統合した「エコシステム」を構築する動きが加速しています。これは、旅行者の滞在をより豊かでシームレスな「コネクテッド・ジャーニー」へと進化させる試みです。

    目次

    なぜホテルは「宿泊だけ」ではいられなくなったのか

    この変革の背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。

    変化する旅行者の価値観

    パンデミックを経て、旅行者の価値観は大きく変化しました。単なる観光地巡りから、心身の健康を重視する「ウェルネスツーリズム」への関心が高まっています。実際、Global Wellness Instituteの報告によると、世界のウェルネスツーリズム市場は2022年の6,510億ドルから、2027年には1.4兆ドルへと倍増以上になると予測されています。ホテルはこの巨大な需要に応えるため、スパやフィットネス施設の充実はもちろん、メディテーションや栄養指導といったプログラムの導入を進めています。

    デジタル世代の台頭とパーソナライゼーション

    ミレニアル世代やZ世代が旅行市場の主要なプレイヤーとなる中、彼らが求めるのは画一的なサービスではなく、自分に合わせてカスタマイズされた「特別な体験」です。ある調査では、消費者の71%がパーソナライズされた体験を期待し、76%がそれを提供しないブランドに不満を感じると回答しています。ホテルは顧客データを活用し、個々の好みに合わせたサービスを提供することで、顧客との強い感情的な繋がり、すなわちロイヤルティを築こうとしています。

    「非部屋収益」へのシフト

    従来、ホテルの収益の柱は客室の販売でした。しかし、OTA(Online Travel Agent)への手数料支払いや価格競争の激化により、客室収益だけに依存するビジネスモデルは限界を迎えています。そこで、レストランやバー、スパ、イベント、さらにはホテルブランドのアメニティをオンラインで販売するなど、「非部屋収益(Non-Room Revenue)」の拡大が急務となっているのです。

    「コネクテッド・ジャーニー」がもたらす新しいホテル体験

    ホテルが構築するエコシステムは、私たちの旅行をどのように変えるのでしょうか。

    滞在前、滞在中、滞在後まで続く関係性

    旅行の計画段階から、アプリを通じてスパの予約やレストランのメニュー選択ができるようになります。滞在中は、蓄積されたデータに基づき、あなた好みの枕が用意されたり、おすすめのアクティビティが提案されたりするでしょう。そして旅行後も、自宅でホテルのリネンやアメニティを購入したり、会員限定のオンラインイベントに参加したりと、ブランドとの関係が継続します。

    具体的な取り組み事例

    大手ホテルグループはすでに行動を起こしています。例えば、フランスのアコーホテルズは「ALL – Accor Live Limitless」というロイヤルティプログラムを軸に、宿泊だけでなくダイニングやエンターテイメントまでをシームレスに繋ぐプラットフォームを構築。また、ハイアットはウェルネスアプリやリゾートブランドを買収し、宿泊客のウェルビーイング体験を強化しています。

    旅行業界全体への影響と今後の予測

    このトレンドは、ホテル業界だけにとどまらず、旅行業界全体に影響を及ぼします。

    旅行者にとってのメリット

    旅行者にとっては、より一貫性があり、パーソナライズされた質の高いサービスを受けられるようになります。旅の様々な要素がブランドのエコシステム内で完結するため、手配の手間が省け、よりスムーズで快適な旅行が実現するでしょう。

    OTAの役割の変化

    一方、ホテルが顧客との直接的な関係を深める中で、OTAも変革を迫られます。単に価格を比較して予約するだけのプラットフォームから、フライト、ホテル、アクティビティ、レンタカーなどを組み合わせ、AIを活用して最適な旅程そのものを提案する「総合旅行プランナー」としての役割がより重要になります。

    ホテルは今後、宿泊施設という枠を超え、私たちのライフスタイルに寄り添う「ライフスタイルブランド」へと進化していくでしょう。私たちが次の旅行で選ぶのは、単なる「ホテル」ではなく、どのブランドが提供する「エコシステム」に参加したいか、という視点になるのかもしれません。

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