大西洋の真ん中に、ぽつんと浮かぶ緑の宝石たち。ポルトガル領アゾレス諸島は、ヨーロッパの喧騒から遠く離れ、手つかずの自然が訪れる者を優しく包み込む、まさに秘境と呼ぶにふさわしい場所です。9つの火山島からなるこの群島は、「大西洋のハワイ」とも称されるほどの風光明媚な景観を誇りますが、その魅力は美しい景色だけにとどまりません。ここには、地球の奥深くから湧き上がるエネルギーを直接いただく、世界でも類を見ないユニークな食文化が息づいているのです。
今回の旅の主役は、火山の地熱を利用して調理される奇跡の料理『コジード・ダス・フルナス』。大地そのものを巨大なオーブンとして、何時間もかけてじっくりと蒸し上げられた料理は、素材の旨味が凝縮され、忘れられない味わいをもたらしてくれます。さらに、豊かな土壌が育む新鮮な野菜や果物を活かした、心と体に優しいヴィーガン料理の数々。アゾレス諸島は、多様な食のスタイルを受け入れる懐の深さも持ち合わせています。
この記事では、40代からの心穏やかな旅を求めるあなたへ、アゾレス諸島、特に最大の島であるサンミゲル島を舞台に、火山が育んだ奇跡のグルメ体験を詳しくご紹介します。地球の力強い息吹を感じながら、その恵みを味わう。それは、単なる食事ではなく、大地と繋がり、自分自身を見つめ直すスピリチュアルな体験となるはずです。さあ、一緒に魂が満たされる美食の旅へと出かけましょう。
アゾレス諸島の旅では、火山が育んだ奇跡のグルメを味わうだけでなく、大地の鼓動を感じるカルデラ湖ハイキングも忘れてはならない体験です。
大西洋に浮かぶ緑の楽園、アゾレス諸島へ

私たちの日常とはかけ離れた場所に、まだ知られていない楽園が存在することをご存じでしょうか。ポルトガルの首都リスボンから西へ約1,500km離れた、大西洋のほぼ中央に位置するのがアゾレス諸島です。9つの主要な島々が点在しており、それぞれが独自の表情を持つこの群島は、まさに自然の宝庫と言えます。太古の火山活動によって形作られたダイナミックな地形と、亜熱帯の穏やかな気候に育まれた深い緑の風景は、一度訪れた人の心を強く惹きつけてやみません。
火山が生み出した神秘の島々
アゾレス諸島の成り立ちは、地球の活動そのものと密接に関係しています。ここは、北米、ユーラシア、アフリカの3つのプレートが交差する「アゾレス・トリプルジャンクション」と呼ばれる地球の裂け目の上に位置しているため、現在も活発な火山活動が続いています。島々のいたるところで温泉や噴気孔といった地球の息吹を間近に感じることができるのです。
切り立った崖、巨大なカルデラ湖、黒い溶岩によって形作られた海岸線、そしてどこまでも広がる緑の牧草地。これらの景観は、荒々しさと穏やかさという対照的な要素が絶妙なバランスで共存しており、訪れる人に深い畏敬の念を抱かせます。かつては「世界の果て」と考えられていたこの地は、15世紀の大航海時代にポルトガル人によって「再発見」され、ヨーロッパと新大陸を結ぶ重要な中継地として歴史に名を刻んできました。しかし、その地理的な隔絶ゆえに、独自の文化や手つかずの自然が今なお色濃く残っています。
なぜ今、アゾレス諸島が注目されているのか
近年、アゾレス諸島はサステナブル・ツーリズムの先進地として世界中から注目を集めています。2019年には、ヨーロッパで初めて「持続可能な観光地」としてプラチナ認証を受けるなど、環境保護と観光開発の両立に真摯に取り組んできました。使い捨てプラスチックの削減、地熱や水力などの再生可能エネルギーの積極活用、そして地域産の食材を大切にする食文化。島全体が、自然と調和しながら生活することを当然のこととして実践しています。
忙しい日々やデジタル機器に囲まれた生活に疲れを感じている私たちにとって、アゾレス諸島は究極のデトックス・スポットと言えるでしょう。清浄で汚染のない空気、ミネラル豊富な温泉、そして何よりも大地から直接エネルギーをもらうような力強い食事。ここでは、心と体を本来の健やかな状態へとリセットできるのです。派手な観光名所を巡る旅ではなく、地球のリズムに身を委ねて自分自身と静かに向き合う。そんな成熟した大人の旅を求める人々にとって、アゾレス諸島はまさに理想の場所と言えるでしょう。
地球の熱で調理する奇跡の料理『コジード・ダス・フルナス』
アゾレス諸島を訪れる際の最大の魅力のひとつ、そしてこの場所を訪れる大きな理由のひとつであるのが、奇跡の名料理『コジード・ダス・フルナス』との出会いです。これは単なる郷土料理の範疇を超えています。地球の内側から湧き出る火山の地熱を利用して調理される、世界でも唯一無二の食体験。まさに“大地を味わう”という表現がぴったりの、神秘的で神聖な儀式のような一皿です。
場所はサンミゲル島、湯けむり漂うフルナス渓谷
コジード・ダス・フルナスの発祥地は、アゾレス諸島最大の島サンミゲル島のほぼ中央に位置するフルナス渓谷です。ここは巨大な火山のカルデラの中に広がる町で、一歩足を踏み入れると独特な硫黄の匂いが鼻をくすぐり、あちこちから白い湯けむりが立ち上る風景に圧倒されます。まるで地球の鼓動を肌で感じるかのような、不思議なエネルギーで満ちた特別な場所です。この谷には美しいフルナス湖があり、その湖畔の一角がコジードの調理に使われる特別なエリアとなっています。
湖のふもとには「カルデイラス」と呼ばれる地域があり、地面から高温の蒸気が絶えず噴出しています。地面に掘られた複数のコンクリート製の穴は、すべてコジード専用の天然オーブンとして使用されています。これらの穴はフルナスの各レストランが所有していて、毎朝次々と鍋が運び込まれる光景は、この土地ならではの風物詩であり、圧巻と言えるでしょう。
『コジード』とはどのような料理か
そもそも「コジード」とは、ポルトガル全土で親しまれている伝統的な煮込み料理のことです。肉や野菜を大きな鍋に一緒に入れて煮込むため、日本のポトフやおでんに似た存在です。しかしフルナスで提供される「コジード・ダス・フルナス」は、その調理方法において一線を画しています。
用いられる食材は非常に多彩で、牛肉や豚肉、鶏肉のほか、血のソーセージであるモルセラ、パプリカが効いたチョリソーといった加工肉も加わります。さらにキャベツ、ケール、人参、玉ねぎ、地元産のヤムイモやサツマイモ、じゃがいもなど根菜類が約束のように大鍋にぎっしり詰め込まれます。これらの具材は層状に重ねられ、ミントなどのハーブで風味が添えられます。水はほとんど加えずに、素材から出る水分のみで蒸し煮にすることで、それぞれの旨味が凝縮され、豊かで深みのある味わいが生み出されるのが特徴です。
調理の流れ – 大地への敬意を込めて
コジードの調理は早朝に始まります。レストランのスタッフは、具材を詰め込んだ数十キロにもなる巨大な金属鍋を車でカルデイラスへ運びます。鍋にはレストラン名の札が付けられ、それぞれの所有する穴へと運ばれていきます。
いよいよ鍋を地中の穴に収める場面です。スタッフ二人がかりで慎重に鍋を穴へと降ろし、その上に木製の蓋をのせ、さらに掘り返した土をかぶせて密閉します。これで準備完了。あとは大地に全てを委ねるのみです。地中の蒸気熱は約100℃に達し、鍋の中の食材を6〜7時間じっくりとゆっくりと加熱します。火加減の調整は一切不要で、地球の自然の熱が最良の火入れを実現してくれます。
そして昼時になると、再びレストランのスタッフがカルデイラスに集まります。覆われていた土が取り除かれ、木の蓋が外されると、熱い蒸気とともに食欲をそそる香りが辺りに広がります。熱々の鍋が穴から引き上げられるその瞬間はまさにクライマックスで、見守る観光客からも歓声が上がります。この一連の光景は、自然への感謝と畏敬を感じずにはいられない、感動的な食の儀式と言えるでしょう。
実食体験レポート – 深く滋味豊かな大地の恵み
引き上げられたコジードはすぐにレストランへ運ばれ、テーブルに供されます。私たちはフルナスで最も有名なレストランのひとつを予約し、期待を膨らませながらその瞬間を待ちました。
やがて運ばれてきたのは、巨大な銀のトレイに山盛りに盛りつけられた一皿。その迫力に思わず息をのむほどです。ごろごろとした肉の塊や鮮やかな色合いの野菜たちが、湯気とともに立ち上る甘く豊かな香りに包まれています。ほのかに硫黄の香りが混ざるのは地熱調理ならではの証しです。
まずは牛肉からひと口。ナイフがすっと入るほど柔らかく、噛むたびに肉本来の旨味が口いっぱいに広がります。豚肉は脂がとろけるようで、チョリソーのスパイスが絶妙なアクセントに。特に印象的なのは野菜の美味しさです。じっくり蒸されたキャベツやケールは驚くほど甘く、人参やヤムイモはホクホクとした食感の中に土の香りが息づいています。具材それぞれが互いの旨味を吸収しながらも個性を失わず、味付けはほとんど塩のみ。素材の力を最大限に引き出す、素朴ながらも贅沢な味わいです。食べ進めるうちに身体の奥からじんわり温まり、力が湧いてくるのを実感しました。まさに地球のエネルギーを体内に取り込んでいるかのような感覚でした。
| スポット名 | 特徴 | 住所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| Terra Nostra Garden Hotel | 高級ホテルのレストラン。上品な雰囲気の中でコジードを楽しめる。庭園内の温泉も名高い。 | Largo Marquês da Praia e Monforte, 9675-061 Furnas, Portugal | 事前予約が強く推奨されており、ドレスコードがあることも。 |
| Tony’s Restaurante | 地元の人々にも観光客にも人気の有名店。活気あふれる雰囲気で伝統的な味を堪能できる。 | Largo do Teatro, 9675-045 Furnas, Portugal | 非常に混み合うため予約が必須。量が多いのでシェアが基本。 |
| Restaurante Caldeiras & Vulcões | 比較的カジュアルな雰囲気のレストラン。コジード以外の地元料理も豊富に揃う。 | Rua das Caldeiras nº4, 9675-036 Furnas, Portugal | 予約がおすすめ。家族連れにも適しています。 |
ヴィーガン・ベジタリアンも安心!アゾレスの心豊かな島ごはん

地球のエネルギーを活用したコジードは、肉が主役の豪快な料理です。しかし近年の健康志向や食の多様化の波は、アゾレス諸島にも確実に浸透しています。豊かな火山性の土壌で育まれた新鮮で味わい深い野菜や果物は、それだけで立派なご馳走。肉や魚を避ける方でも、アゾレスの食文化を存分に楽しめる環境が整っているのです。
驚きのヴィーガン・コジード
「コジードは試してみたいけれど肉はちょっと…」と迷う方もいるかもしれません。ですがご安心ください。フルナスのいくつかの先進的なレストランでは、なんとヴィーガン(完全菜食主義者)向けのコジードが提供されています。これは、伝統を尊重しつつも新たな価値観を柔軟に取り入れるアゾレスの人々の姿勢を象徴しているかのようです。
ヴィーガン・コジードでは、肉の代わりに豆腐やセイタン(小麦グルテンを用いた代替肉)、さらにカボチャ、ズッキーニ、キノコ、パプリカなど季節の野菜がたっぷり使われます。これらの食材を伝統的なコジードと同じ巨大な鍋に詰めて、カルデイラスの地熱でゆっくり蒸し上げる調理法は変わりません。だからこそ、あの特徴的な硫黄の香りと素材の旨味が凝縮した濃厚な味わいはそのままです。肉なしでも、野菜や豆が持つ自然な甘みと旨味、大地の力強いエネルギーが渾然一体となって、驚くほど満足できる味わいに仕上がっています。多様性を尊重し、誰もが同じ食卓で同じ体験を分かち合えるよう配慮するその心遣いは、訪れる人々の心を温かく包み込みます。
島の恵みを生かした豊かなプラントベース料理
アゾレス諸島は、まさに野菜や果物の宝庫です。温暖な気候と排水性に優れた火山灰土壌が農作物に最適な環境を提供しています。島の道を走っていると、広がる牧草地の他にも手入れの行き届いた畑や果樹園が目に映ります。
特筆すべきは、アゾレスで栽培されるパイナップル。サンミゲル島の温室栽培は100年以上の歴史があり、化学肥料を使わずにじっくり育てられています。小粒ながら糖度が非常に高く、とてもジューシーで香りも豊か。生のままはもちろん、デザートやジュースとしても絶品です。さらに、日本ではあまり見かけないコクのあるヤムイモ、甘み豊かなサツマイモ、多彩な豆類も日常的に食卓を彩ります。
これらの豊富な食材を活かして、島のレストランやカフェではシンプルで美味しいヴィーガンやベジタリアン料理に出会えます。
- Sopas(ソパス):ポルトガル料理の定番スープ。アゾレスでは、ケールやキャベツ、人参、豆類をふんだんに使った滋味深い野菜スープがよく提供され、心身を温める優しい味わいです。
- Feijoada(フェイジョアーダ)のヴィーガン版:伝統的には豚肉やソーセージと豆を煮込む料理ですが、野菜と豆のみで作るヘルシーなアレンジも人気。パプリカやクミンのスパイスが効いて、ご飯がすすみます。
- Bolo de Milho(ボロ・デ・ミーリョ):トウモロコシ粉を使った少し甘いパンで、スープに浸したり、料理の付け合わせにしたり。素朴ながらクセになる美味しさです。
- Inhame Frito(インニャーメ・フリト):フライドポテトのように揚げたヤムイモ。外はカリッと、中はふっくらホクホクで、自然な甘さが絶妙。メインの付け合わせとして好まれます。
これらの料理は専門のヴィーガンレストランに限らず、多くの一般的な食堂やレストランでも提供されています。素材そのものの味を大事にするアゾレスの食文化は、プラントベースの食事と非常に相性が良いのです。
ポンタ・デルガダで訪れたい、ヘルシー志向のカフェ&レストラン
サンミゲル島の中心都市ポンタ・デルガダには、健康的でお洒落な食事を楽しめるお店が増えています。観光の合間にぜひ立ち寄りたいおすすめのスポットをご紹介します。
| 店舗名 | 特徴 | 住所 | ポイント |
|---|---|---|---|
| Rotas da Ilha Verde | ポンタ・デルガダで定評のあるベジタリアンレストラン。創造性溢れる美しい料理が堪能できる。 | Rua Pedro Homem 49, 9500-093 Ponta Delgada, Portugal | 予約推奨。日替わりのコースメニューが人気です。 |
| Louvre Michaelense | 歴史的建築を改装した美しいカフェ。美味しいコーヒーとともに軽食やヴィーガンスイーツが楽しめる。 | Rua do Dr. António José D’Almeida 8, 9500-164 Ponta Delgada, Portugal | 落ち着いた雰囲気で休憩に最適。アゾレス産土産も扱っています。 |
| Suplexio | フレッシュジュースやスムージー、アサイーボウルが人気のヘルシーカフェ。 | Av. Infante Dom Henrique, 9500-764 Ponta Delgada, Portugal | 朝食や軽食にぴったり。テイクアウトして海辺で楽しむのも爽快です。 |
食だけじゃない!心と体を癒すアゾレスのパワースポット
アゾレス諸島の魅力は、その独特な食文化にとどまらず、島全体が訪れる人の五感を刺激し、心と体を深く癒す壮大なパワースポットのような存在です。コジードを味わった後は、地球のエネルギーを身体いっぱいに感じられる特別な場所へ足を運んでみましょう。
フルナスの温泉体験 – テラ・ノストラ庭園
コジードを楽しんだフルナスの街には、もう一つの大きな魅力があります。それが温泉です。特に「テラ・ノストラ庭園」内にある大規模な温泉プールは、ぜひ体験してほしいスポットのひとつです。
18世紀に造られたこの広大な植物園は、世界各地から集められた珍しい植物が花開くまさに地上のオアシス。その中心には、直径数十メートルにも及ぶ巨大な湯船のような温泉があります。ここの湯は鉄分を豊富に含み、透き通ったオレンジ色が特徴です。水温は常に35〜40℃に保たれており、少しぬるめのお湯にゆっくり浸かると、旅の疲れがじんわりとほどけていくのを実感できます。周囲は亜熱帯の樹木に囲まれ、鳥のさえずりが響き渡るため、まるで自然と一体化するかのような瞑想的なひとときを味わえます。
| スポット名 | 特徴 | 住所 | 注意事項 |
|---|---|---|---|
| Terra Nostra Garden | 12.5ヘクタールの広大な植物園と鉄分たっぷりの温泉プール。 | Largo Marquês da Praia e Monforte, 9675-061 Furnas, Portugal | 温泉の鉄分により水着がオレンジ色に染まる場合あり。色落ちが目立たない古い水着の持参を推奨。園内に更衣室とシャワー完備。 |
ヨーロッパ唯一の茶畑を訪ねて – ゴレアナ紅茶園
アゾレス諸島がヨーロッパで唯一、商業的に茶葉を栽培している地であることをご存じでしょうか。サンミゲル島の北海岸に広がる「ゴレアナ紅茶園(Chá Gorreana)」は、1883年創業のヨーロッパ最古の紅茶プランテーションです。
丘陵の斜面を覆う緑豊かな茶畑とその先に広がる果てしない青い大西洋の眺めは、見ているだけで心が洗われるような美しさです。ゴレアナの茶葉は創業以来、農薬を一切使わない有機栽培を守り続けています。潮風を受けた茶葉は、爽やかでありながらほんのりとした甘みと豊かな香りが特長です。
併設の製茶工場では、19世紀から続く機械が現在も使用されており、その伝統的な製茶工程を無料で見学可能です。見学の締めくくりには試飲コーナーもあり、緑茶と紅茶の両方を味わいながら茶畑の風景を楽しむ贅沢な時間を過ごせます。ここでしか手に入らない、かわいらしいパッケージの紅茶は、大切な方へのお土産にぴったりです。
| スポット名 | 特徴 | 住所 | ポイント |
|---|---|---|---|
| Chá Gorreana | ヨーロッパ最古・唯一の紅茶園。オーガニック紅茶の製造工程見学と試飲が楽しめる。 | Plantações de Chá Gorreana, 9625-304 Maia, Portugal | 見学・試飲は無料。訪問前に公式サイトで営業時間を確認することを推奨。併設ショップで多彩な紅茶が購入可能。 |
セテ・シダデス湖の息を呑む絶景
サンミゲル島の西部に位置する「セテ・シダデス湖」は、アゾレス諸島屈指の名勝であり、多くの人がこの写真を見て訪れたいと憧れる場所です。巨大なカルデラの底に広がる湖は、一つの橋を境に二色の異なる湖水を有していることで知られています。片側は深い青色(Lagoa Azul)、反対側は穏やかな緑色(Lagoa Verde)で、その神秘的な色合いには「離ればなれになった王女と羊飼いの涙が湖となった」というロマンチックな伝説が伝わっています。
この二色の湖を最も美しく展望できるのが、「ヴィスタ・ド・レイ(王の眺め)」という展望台です。以前、ポルトガル国王夫妻が訪れたことからその名が付けられました。展望台に立つと壮大なカルデラのスケール感と、青と緑の鮮やかな対比が眼前に広がります。晴天であれば、その景色はまさに息をのむ美しさ。風がそよぎ、雲が流れ、湖の色が刻々と変わる様子を静かに眺めていると、日常の悩みが小さなものに感じられるでしょう。
展望台での眺望を満喫した後は、湖畔へ降りてカヤックやスタンドアップパドルボードを楽しんだり、周囲を巡るハイキングコースを歩いたりするのもおすすめです。豊かな自然の中に身を置くことで、心身ともにリフレッシュできます。
| スポット名 | 特徴 | 住所 | ポイント |
|---|---|---|---|
| Miradouro da Vista do Rei (Sete Cidades) | 青と緑の二色に分かれたセテ・シダデス湖を一望できる絶景展望台。 | Estrada Regional n.º 9-1, Sete Cidades, Portugal | 天候によって眺望が大きく左右されるため、晴れた日を狙うのが理想的。近隣には廃墟のホテル「モンテ・パレス」があり、独特の雰囲気を醸し出している。 |
アゾレスへの旅のヒント

神秘的な島々、アゾレスへの旅を計画する際に知っておくと便利な基本情報をご紹介します。事前にしっかり準備を整え、この楽園を心ゆくまで楽しんでください。
最適なシーズンと気候
アゾレス諸島はメキシコ湾流の影響で、年間を通じて比較的温暖な海洋性気候に恵まれています。観光に最適なシーズンは、気候が安定し日照時間が長くなる春から秋にかけて、具体的には5月から10月頃です。この時期にはアジサイをはじめ多彩な花々が島を彩り、ホエールウォッチングなどのアクティビティにも絶好の時期となります。
しかしながら、アゾレスでは「一日に四季がある」と言われるほど天候の変わりやすさが有名です。晴れているかと思えば、突然雨が降り出し、霧が立ち込めることも珍しくありません。そのため、服装は重ね着を基本とするのが賢明です。Tシャツやシャツの上にフリースや薄手のセーターを重ね、防水・防風性のジャケットを一着持っていれば、どのような天気にも対応しやすく安心です。ハイキングを予定しているなら、歩きやすい靴に加え、折りたたみ傘も忘れずに携帯しましょう。
日本からのアクセス
日本からアゾレスへの直行便は運航していません。そのため、ヨーロッパの主要都市を経由して向かうのが一般的です。最も便利なのはポルトガルの首都リスボンを経由するルートです。日本からはフランクフルト、パリ、アムステルダムなどいずれかのハブ空港でリスボン行きの便に乗り換え、そこからアゾレス諸島の玄関口であるサンミゲル島のポンタ・デルガダ空港(PDL)へ向かいます。
リスボンからポンタ・デルガダまでは、ポルトガル航空(TAP)やライアンエアー、アゾレスの地元航空会社SATAなど、多くの便が運航しており、飛行時間は約2時間半です。乗り継ぎ時間も含めると、日本からの総移動時間は20時間を超える長旅になりますが、その先に広がる絶景と感動を考えれば十分に価値のある旅と言えるでしょう。
島内の交通手段
サンミゲル島をはじめとするアゾレス諸島の各島を自由かつ効率的に巡るには、レンタカーの利用が最もおすすめです。空港やポンタ・デルガダ市内には多くのレンタカー会社が営業しており、道は概ね整備されています。ただし山間部はカーブが多く道幅が狭い場所もあるため、運転に注意が必要です。特にマニュアル車が中心なので、オートマチック希望の場合は早めの予約が望ましいでしょう。
車の運転に不安がある方や短期間で効率的に主要な観光スポットを巡りたい場合は、現地のツアー参加もおすすめです。コジード料理体験やフルナスの温泉、セテ・シダデス湖などを巡る1日ツアーが多数催行されています。
また、ポンタ・デルガダ市内を中心に路線バスも運行していますが、本数が少なく観光地を網羅しているわけではないため、バスのみの利用はやや上級者向けです。タクシーや配車アプリも使えますが、長距離移動の場合は費用がかさむことがあるため、旅のスタイルに合わせて最適な交通手段を選びましょう。
地球とつながる食体験の記憶
アゾレス諸島での旅を終えて感じるのは、ここでの体験が単なる「観光」という言葉では到底表せない、もっと深く根源的なものだったということです。特に印象に残っているのは、フルナスの大地が育んだ『コジード』を味わった瞬間の感覚で、今も鮮明に心に残っています。それは単なる美味しさの満足感にとどまらず、地球の内部から湧き上がる熱が何時間もかけて食材に染み込み、その旨味を引き出す過程そのものを体験するような一皿でした。まるで地球の生命エネルギーを自らの体内に取り込むかのような、神聖で力強い体験だったのです。
湯気が立ち込めるカルデイラスの地で、地熱の熱を活かして鍋が掘り出される光景。テーブルに運ばれてきたときの圧倒的な存在感と芳しい香り。そして一口頬張ると、どこまでも優しく、奥深い滋味が広がる味わい。そこには自然への敬意と恵みを授かる人々の感謝の気持ちが、自然と胸に湧き上がってくるのを感じました。
さらに、肉を用いないヴィーガン・コジードや、島の新鮮な野菜をたっぷり使った多彩な料理は、アゾレスが持つ懐の深さと、未来を見据えた持続可能な思想を物語っています。どんな食の好みを持つ人でも、この島の恵みを分かち合うことができるという温かい姿勢に触れることで、これからの旅のあり方や私たちの生き方に対するヒントを得るように感じました。
セテ・シダデス湖の息をのむ絶景に心奪われ、テラ・ノストラ庭園の温泉に身をゆだね、ヨーロッパ唯一の茶畑を吹き抜ける風に癒される。アゾレス諸島でのひとときは、私たちの五感を研ぎ澄まし、固まった心と体をゆっくりとほぐしてくれました。
もしあなたが、日常の喧騒から離れ、自分と静かに向き合う時間を求めているなら。もし表面的なものではない、本質的な豊かさを感じる旅を望んでいるならば、次の休暇は大西洋に浮かぶこの緑豊かな楽園を訪れてみてはいかがでしょうか。地球の力強い息吹を感じ、その恵みを心ゆくまで味わう旅が、きっとあなたの人生に深く温かな忘れがたい記憶を刻んでくれることでしょう。

