大手オンライン旅行会社(OTA)Agodaのオムリ・モーゲンスターンCEOが、AI(人工知能)の進化が旅行業界に革命的な変化をもたらすとの見解を示しました。同氏によれば、AIの力によってOTAは単なる予約サイトから脱却し、旅行計画の最も初期段階からユーザーと関わる「新しい検索エンジン」へと進化する可能性があるといいます。この発言は、私たちの旅行の探し方が根本から変わる未来を予感させます。
「検索ファネルの上流へ」 – AIが変える旅行計画のスタート地点
これまで、多くの旅行者は「ハワイ ビーチ おすすめ」「冬の温泉旅行」といったキーワードでGoogle検索を始め、表示された旅行ブログや比較サイト、そしてOTAのページへと進むのが一般的でした。これは「検索ファネル」と呼ばれ、OTAはファネルの下流、つまり予約に近い段階でユーザーを獲得するために、Googleに多額の広告費を支払ってきました。
しかし、モーゲンスターンCEOは、生成AIの進化がこの構造を覆すと指摘します。
AI搭載のチャット機能などがOTAに統合されれば、ユーザーは漠然とした要望を伝えるだけで、具体的な旅行プランの提案を受けられるようになります。例えば、「週末に予算5万円で、都会の喧騒から離れてリラックスできる場所は?」とAIに尋ねると、過去の好みや予約履歴を分析し、最適な温泉旅館やフライト、現地でのアクティビティまで含めたパーソナライズされた旅程を即座に提示してくれるのです。
これにより、ユーザーはGoogleで情報を断片的に集める必要がなくなり、旅行を思い立った最初の瞬間からOTAを利用するようになります。これがCEOの言う「検索ファネルの上流へ」進出するということであり、OTAがGoogleへの依存から脱却し、自ら需要を創出するプラットフォームへと変貌する可能性を秘めています。
OTAは「新しい検索エンジン」になるのか?
モーゲンスターン氏が描く未来では、OTAは旅行に特化した「新しい検索」の形、つまり究極のトラベルプランナーとしての役割を担います。
AIは単に情報を提示するだけでなく、ユーザー一人ひとりの潜在的なニーズを深く理解します。例えば、「静かな場所が好き」「アートに興味がある」「子供連れでも楽しめる」といった個人の特性を学習し、無数の選択肢の中から最適な組み合わせを提案します。これは、従来のキーワード検索では実現が難しかった、極めて高度なパーソナライゼーションです。
旅行業界におけるAI市場の成長予測も、この動きを裏付けています。市場調査会社Phocuswrightによると、旅行・ホスピタリティ分野におけるAIの市場規模は、2023年の約7億9,000万ドルから、2032年には120億ドルにまで急拡大すると予測されており、各社がAI開発にしのぎを削っている現状がうかがえます。
アジア市場のダイナミズムとAIの役割
特にAgodaが強みを持つアジア市場において、AIはさらに重要な役割を果たすと見られています。アジア太平洋地域は、世界で最も急速に成長している旅行市場の一つですが、多様な言語、通貨、そして複雑な決済システムが旅行者にとって障壁となることも少なくありませんでした。
AIはこうした課題を解決する強力なツールとなります。
- 言語の壁: 高度な自然言語処理により、多言語での問い合わせにリアルタイムで対応。
- 決済と外貨: 複雑な外貨計算や、国ごとに異なる最適な決済方法をシームレスに提供。
これらの課題をAIが解決することで、ユーザー体験は飛躍的に向上し、アジアにおける旅行のハードルはさらに下がることが期待されます。
予測される未来と私たち旅行者への影響
Agoda CEOの発言は、OTAがAIを武器に、旅行業界のゲームチェンジャーになろうとしていることを示唆しています。今後は、Booking.comやExpediaといった他の大手OTAもAI開発を加速させ、より精度の高いパーソナライズ機能を競い合うことになるでしょう。一方で、Googleも独自の生成AI検索(SGE)などで旅行領域の強化を図っており、プラットフォーマー間の競争は新たなステージへと突入します。
私たち旅行者にとって、この変化は大きな恩恵をもたらす可能性が高いです。まるで優秀な専属コンシェルジュに相談するように、AIと対話するだけで自分の理想の旅が見つかる。そんな未来が、すぐそこまで来ています。面倒だった情報収集や比較検討の手間から解放され、私たちは旅そのものの計画や体験に、より多くの時間を費やせるようになるのかもしれません。

