メキシコの南部に位置するオアハカ。その名は、どこか神秘的で、遠い昔の記憶を呼び覚ますような響きを持っています。ここは、古代文明の叡智と、今なお力強く息づく先住民の文化が色鮮やかに交差する場所。乾いた大地と抜けるような青い空の下、人々は土を捏ね、糸を紡ぎ、大地の実りを分かち合いながら、悠久の時を生き抜いてきました。今回の旅は、そんなオアハカの魂の源流を探る旅です。人の手が作り出す温かな民芸品の数々、そして複雑で奥深い味わいが広がるオアハカ料理。その一つひとつに込められた物語を紐解きながら、心と体を満たす特別な時間を過ごしてみませんか。日常の喧騒から離れ、生命力あふれる色彩と味わいの渦へと、さあ、一緒に飛び込んでいきましょう。
オアハカの魅力をさらに深く知りたい方は、古代サポテカ文明の叡智と手仕事の温もりに触れる旅についてもご覧ください。
オアハカとは?先住民文化が息づく魔法の街

メキシコシティから南東へ飛行機で約1時間の場所に、オアハカ州の州都であるオアハカ市が位置しています。標高約1,550メートルの山々に囲まれた盆地に広がるこの街の正式名称は「オアハカ・デ・フアレス」です。年間を通じて穏やかで過ごしやすい気候のため、「緑の翡翠の街」とも称されています。この町の最大の魅力は、何と言っても豊かな文化の多様性にあります。オアハカ州にはメキシコの先住民族の約半数が住んでいるとされ、サポテコ族やミシュテコ族をはじめ、16種類の異なる言語や文化が共存しています。その歴史は古く、紀元前500年頃には近郊のモンテ・アルバンにてサポテカ文明が栄えました。築かれた壮大なピラミッドや天文台は、今も訪れる者を圧倒し続けています。
スペインの植民地時代に建てられた美しいコロニアル様式の建物群と、それ以前から守られてきた先住民の伝統が、自然に溶け合ってオアハカ特有の独特な雰囲気を作り出しています。街の中心に足を踏み入れると、石畳の道を陽気な音楽の楽団が練り歩き、露店には色鮮やかな刺繍が施された衣服やユニークな形の木彫り人形が並んでいます。市場には焼きたてのトルティーヤの香ばしい匂いと、多種多様なスパイスが織りなす複雑で食欲をそそる香りが立ち込めています。ここでは、過去と現在が共に息づき、人々の暮らしの中に文化が深く根付いているのです。オアハカが「メキシコの魂」や「魔法の街(プエブロ・マヒコ)」と称される理由を、きっと肌で感じ取ることができるでしょう。
色彩の渦に飲み込まれる!オアハカ民芸品の世界
オアハカの旅で心を奪われるものといえば、間違いなく数え切れないほどの民芸品です。この地の手仕事は、ただのお土産と片付けられない、まさに芸術品と呼ぶにふさわしい存在です。一つひとつには、作り手の魂が込められ、豊かな自然環境と何世代にもわたる物語が宿っています。鮮やかさの中に温もりを感じさせる色彩、自然の素材を活かした素朴な質感、時にはユーモラス、時には神話的な独自のデザイン。オアハカの民芸品は、私たちの五感に直接響く力強さを持っているのです。ここでは、オアハカを代表する3つの民芸品の世界を詳しく掘り下げてみましょう。
アレブリヘス:夢から紡がれた幻の生き物
オアハカの民芸品と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは「アレブリヘス」ではないでしょうか。龍の体に鳥の翼、鷲の頭と蛇の尾を持つなど、現実には存在しない架空の生き物が、サイケデリックとも評される極彩色で彩られた木彫りの人形です。その起源は意外にも新しく、1930年代にメキシコシティで張り子職人をしていたペドロ・リナレスが悪夢で見た幻覚が始まりと言われています。
病にかかり高熱でうなされていた彼は、奇妙な生き物たちが「アレブリヘス!」と叫びながら列をなす夢を体験しました。意識が戻ると、その夢に現れた生き物を張り子で形にする作業を始めたのがアレブリヘスの原点です。やがて画家のフリーダ・カーロやディエゴ・リベラに認められ、世界的な注目を浴びることになります。オアハカでは、張り子の代わりに神聖な木とされるコパルの木を彫って作る技法が発展しました。なかでもサン・マルティン・ティルカヘテ村やアラスーラス・デ・ソソ村は、アレブリヘス制作の重要な拠点として知られています。
工房を訪ねると、職人たちがナタやナイフ一本で、乾燥させたコパルの木の塊から生き物の形を巧みに削り出す光景に出会えます。かつて自動車整備士として工具を操っていた私が見ても、その技術力と木の声に耳を傾けながら形を創り出す感覚にはただただ感嘆するばかりです。彫刻の仕上げには家族総出でヤスリがけを行い、表面をなめらかに整えます。彩色の段階では、サボテンの棘や植物繊維で作られた超極細の筆を駆使し、幾何学模様やドット、動植物などのモチーフを信じられないほど繊細に描き込んでいきます。これらの工程を経て、一体のアレブリヘスが完成するには数週間から数ヶ月を要することも珍しくありません。
サポテカ族の信仰によれば、人は生まれながらに守護動物(トナ)を持つとされており、アレブリヘスはその具現化と考えられています。悪霊から持ち主を守り、魂を導く存在と信じられているのです。工房に並んだ無数のアレブリヘスたちの中から、不思議と目を合わせる一体がいるかもしれません。それはあなたの魂が引き寄せた、あなただけのお守りかもしれないのです。
| スポット名 | サン・マルティン・ティルカヘテ村 |
|---|---|
| 概要 | 「アレブリヘスの聖地」と称される村。大小さまざまな工房が立ち並び、製作過程の見学や購入が可能。多くの工房で絵付け体験も楽しめる。 |
| アクセス | オアハカ市街中心部から車でおよそ45分。コレクティーボ(乗合タクシー)やツアー参加が一般的。 |
| 見どころ | 村の入り口に設置された巨大アレブリヘスのオブジェ。各工房の個性的な作風の比較も面白い。特に有名なハコボ&マリア・アンヘレス工房は必訪。 |
| ワンポイント | 職人と直接会話できる工房巡りがおすすめ。作品に込められた思いやモチーフの意味を聞くことで、より深い愛着が生まれます。 |
黒い陶器バロ・ネグロ:土と炎が生む神秘的な輝き
色鮮やかなオアハカの民芸品の中で、異彩を放つのが「バロ・ネグロ(黒い陶器)」です。文字通り磨かれた黒曜石のような、鈍く金属的に光る漆黒の陶器。この神秘的な焼き物は、オアハカ市の近郊、サン・バルトロ・コヨテペックという小さな村で何世紀にもわたり作り続けられてきました。
バロ・ネグロの魅力は、この土地特有の粘土と独自の焼成方法にあります。かつてこの地の陶器は光沢のないマットな灰色が主流でしたが、1950年代に女性陶芸家のドーニャ・ロサが、窯の最後の焼成段階で完全に密閉し、低温で燻す技法を発見しました。この処理により粘土に含まれる鉱物が化学反応し、黒く美しい光沢が生まれたのです。この革新で、バロ・ネグロは単なる日常使いの器から世界中のコレクターを魅了する芸術品へと高まりました。
工房ではろくろを使わず、型の上で手びねりによって円盤状に粘土を成形する伝統技術が見られます。薄く滑らかに仕上げられる壺や水差し、成形後は半乾きの状態で石英などの石を使い丁寧に磨き上げる作業が行われます。この磨き工程が焼き上がりの光沢に直結し、最も重要なプロセスです。レンガ造りの地下式窯で約8時間じっくり焼き上げた後、取り出されたばかりのバロ・ネグロはまだ温かく、まるで深い闇から生まれ出たかのような荘厳な佇まいを放ちます。
黒い陶器の美しさは見た目だけでなく、軽く叩くと高音で澄んだ金属音が響くのも特徴で、低温でじっくり焼き締めた高密度の土ならではです。伝統的な水差しや壺のほか、近年は透かし彫りが施されたランプシェードやモダンなオブジェを制作する若手作家も増えています。光と影を巧みに操るこれらの作品は、静かな中にも確固たる存在感を放ち、空間に凛とした空気をもたらしてくれます。
| スポット名 | サン・バルトロ・コヨテペック村 |
|---|---|
| 概要 | バロ・ネグロで世界的に知られる村。ドーニャ・ロサの工房を始め、多数の工房やギャラリーが点在。 |
| アクセス | オアハカ市中心部から車で約30分。頻繁に運行されるコレクティーボも利用可能。 |
| 見どころ | ドーニャ・ロサの工房では彼女が使った道具や窯を見学できる。広場近くの民芸品市場メルカド・デ・アルテサニアスでは、多様な工房の作品が一堂に会する。 |
| ワンポイント | バロ・ネグロの多くは装飾用で、実際に水を入れると漏れてしまうものが多い。購入時は実用品か飾り用かを必ず確認しましょう。 |
サポテカ・ラグ:先住民の祈りが織り込まれた織物
オアハカの民芸品には欠かせないのが、見事な織物、特にタペストリーです。中心地はサポテコ族の村、テオティトラン・デル・バジェ。「神々の場所」を意味するこの村では、スペイン人が羊を持ち込む以前から綿や植物繊維を用いた織物文化が根付いていました。現在は羊毛を使ったウールのラグが主流で、その高度な品質と芸術性から世界中に名を馳せています。
この村の織物の最大の特徴は、美しい色合いがすべて天然の素材から生み出されている点です。工房を訪れると、乾燥させた植物、鉱石、虫などが整然と並び、まるで魔法の実験室のような光景です。鮮やかな赤はサボテンに寄生するカイガラムシのコチニールから、深みのある藍色は発酵させたインディゴの葉から、輝く黄色はマリーゴールドやザクロの皮から抽出しています。これらの天然染料をミョウバンや石灰とともに煮出すことで、多彩で奥深い色合いが生まれ、化学染料にはない優しさと複雑さをたたえています。
染色された羊毛は手紡ぎで糸にされ、「テラール」と呼ばれる木製の手機(てばた)にかけられます。足元のペダルを踏みながら、木のシャトルを左右に動かし、一段ずつ丹念に織り進めていきます。ガチャンというリズムのある機織音が工房を満たします。デザインはサポテカ文明の遺跡に見られる菱形やジグザグ模様、神話上の神々や動物、生命の樹など、伝統を受け継ぐ文様が中心で、それぞれに豊穣や雨乞い、家族の繁栄などの祈りが込められています。
1枚のラグを織り上げるには、デザインの複雑さにより数週間から数ヶ月、場合によっては1年以上かかることもあります。それは単なる製作行為にとどまらず、自然と対話し、先祖の祈りを未来へつなぐ神聖な儀礼のようなものです。手織りのラグは世界にたった一つの作品であり、そのざっくりとした手触りと天然染料の温かな色彩は、日常に安らぎと彩りを添えてくれることでしょう。
| スポット名 | テオティトラン・デル・バジェ村 |
|---|---|
| 概要 | サポテカ・ラグの生産で有名な村。多くの工房が一般公開され、染色から機織りまでの全工程が見学可能。 |
| アクセス | オアハカ中心部から車で約1時間。イエルベ・エル・アグアなどへ向かうツアーで立ち寄ることも多い。 |
| 見どころ | 多くの工房でコチニールやインディゴを使った染色デモンストレーションを実施。自分自身で糸を染める体験ができる場所もある。 |
| ワンポイント | ラグの価格はサイズやデザインの複雑さ、色数で変動。作り手から直接意味や製作の苦労話を聞きながら選ぶ時間は、旅の思い出になるでしょう。 |
メキシコ料理の聖地!オアハカの食文化を味わい尽くす

「もしメキシコに食の都があるとすれば、それは間違いなくオアハカだ」と、多くのグルメが声をそろえて言います。オアハカはユネスコの無形文化遺産にも登録されているメキシコ料理の中でも、その独自性と深みで特に知られる「美食の聖地」です。その魅力は、古代文明から受け継がれてきた伝統的な食材や調理法、そしてこの地に根付く豊かな生物多様性にあります。トウモロコシや唐辛子、豆、カカオといったメソアメリカ文明の基盤となった食材を巧みに使い、多彩で芳醇な料理が生み出されています。それでは、五感を研ぎ澄ませて、オアハカの美味なる世界をじっくり探訪しましょう。
モーレ:複雑な味のハーモニー
オアハカの食文化の象徴的な料理が「モーレ」です。モーレとは、複数から十数種類もの唐辛子やナッツ、スパイス、果物、野菜などを丁寧に炒ってすりつぶし、とろりとしたソースに仕上げたものです。そのレシピは家庭や店ごとに異なり、まさに「おふくろの味」を代表する料理と言えます。オアハカはモーレの種類が特に多いことで、「七つのモーレの地(La Tierra de los Siete Moles)」とも呼ばれています。
中でも最も有名で、特別な祝祭には欠かせないのが「モーレ・ネグロ(黒いモーレ)」です。チョコレート(カカオ)が使われていることで知られていますが、その味は甘くはありません。チレ・ワヒーヨやチレ・パシージャなど6種類の乾燥唐辛子を種とヘタを丁寧に除いて炒り、アーモンド、ピーナッツ、レーズン、シナモン、クローブ、そして少量のチョコレートを加え、何時間もかけてペースト状にすり潰します。その味わいはスモーキーでスパイシー、ほのかな甘みと深いコクが絶妙に調和し、言葉で表現しきれないほど複雑な味覚のハーモニーを作り出します。一般的には鶏肉や豚肉の煮込みにかけて楽しみます。
そのほかにも、カボチャの種から作る緑色の「モーレ・ベルデ」、トマトベースのやや酸味ある赤い「モーレ・ロホ」、黄色い唐辛子を使った爽やかな「モーレ・アマリージョ」など、個性的なモーレが豊富にそろっています。市場のモーレ専門店では、赤、黒、緑、黄のペーストが山のように積み上げられ、その光景は圧巻です。香りや味の違いを試しながらお気に入りのモーレを探すのも、オアハカ旅行の楽しさの一つ。モーレは単なるソースではなく、この土地の人々の歴史や誇り、家族への愛情が込められた魂の料理なのです。
トウモロコシの恵み:トルティーヤからトラユーダまで
古代マヤやアステカの神話では「神がトウモロコシから人間を創った」と伝えられており、メキシコの人々にとってトウモロコシは単なる食材を超えた、生命の源としての神聖な存在です。オアハカではその重要性が特に際立ち、多種多様なトウモロコシ料理に出会えます。
その基本となるのが、毎日の食卓に欠かせない「トルティーヤ」です。ただし私たちが普段スーパーマーケットで見かけるものとはまったく異なります。オアハカのトルティーヤは、まず乾燥トウモロコシを石灰水に浸し煮る「ニシュタマリゼーション」と呼ばれる古来の工程を経ており、この過程で栄養価が増し独特の風味が引き出されます。この処理済みトウモロコシをすり潰して生地(マサ)を作り、手でひとつずつ叩いて薄く伸ばし、「コマル」と呼ばれる鉄板で焼き上げます。市場の片隅で熟練の女性たちがリズミカルにトルティーヤを焼く様子は、オアハカの日常を象徴する光景です。
このトルティーヤを使った料理は多彩です。なかでもオアハカ名物とされるのが「トラユーダ」。直径30センチ以上の大きなトルティーヤをカリカリになるまで焼き、その上にアシェントと呼ばれる豚のラードや、フリホーレス(豆のペースト)、オアハカチーズ(ケシージョ)、肉や野菜をのせた、いわば「オアハカ風ピザ」です。豪快にかぶりつけば、パリパリとした生地の食感と具材の旨味が口いっぱいに広がります。夜になると街のあちこちでトラユーダの屋台が出て、地元の人々で賑わいます。
また、厚めの生地に具をのせた「メメラ」やトウモロコシの葉で包んで蒸した「タマル」など、トウモロコシの魅力を最大限に引き出した料理が数多く存在します。色や形が多様な在来種のトウモロコシがオアハカで守られているからこそ味わえる、自然の恵みを存分に感じてみてください。
メスカル:聖なるアガベが醸す大地の酒
オアハカの夜に欠かせないのが、この地の魂の酒「メスカル」です。テキーラと同様に竜舌蘭(アガベ)を原料とする蒸留酒ですが、製法や味わいは大きく異なります。テキーラがブルーアガベという特定の品種を用い、主にハリスコ州で工業的に生産されるのに対し、メスカルはオアハカ州を中心に多様なアガベ品種を使い、伝統的な手作り製法が一般的です。
その製法は、まさに大地の力を借りた原始的なもの。収穫したアガベの球茎(ピニャ)を地面の石釜で数日間かけて蒸し焼きにします。この工程がメスカル特有のスモーキーな香りを生み出します。蒸し焼きしたピニャを石臼で挽き、木桶で自然発酵させた後、銅製の蒸留器で二度蒸留して完成。この全ての工程は職人の手作業で行われ、同じ村の同じ作り手でも作るたびに味わいが微妙に変わります。その時々の気候やアガベの状態、そして作り手の想いまでもが一滴一滴に宿っているかのようです。
オアハカの街には「メスカレリア」と呼ばれるメスカル専門のバーが多くあり、カウンターには各地の村で造られた個性豊かなメスカルのボトルがずらりと並び、まるで薬局のような光景が広がります。メスカルはショットグラスで一気に飲み干すのではなく、小さなグラスに注がれたものを少しずつ口に含み、舌の上で転がすようにゆっくり味わうのが作法です。最初に力強いスモーキーな香りが広がり、その後アガベの品種ごとに異なる果実のような甘みや、ハーブのさわやかさ、土のように複雑な香りが追いかけてきます。チェイサーとしては、オレンジのスライスにチリパウダーをまぶした「サレ・デ・グサノ」と呼ばれるものを一緒にいただくのがオアハカ流。聖なる植物アガベとオアハカの大地が生み出す一杯は、旅の夜を深く印象づけることでしょう。
オアハカの魂と出会う場所:必訪スポット
民芸品や食文化について知れば知るほど、その背景にある歴史や自然にも触れてみたくなるのが旅人の常です。オアハカには、先住民の魂を感じさせる力強い場所が数多く点在しています。ここでは、オアハカの旅をより深く味わうために、ぜひ訪れてほしいスポットを厳選して紹介します。
モンテ・アルバン:雲上にそびえる古代サポテカの都市
オアハカ市の中心部から車で約20分、標高約1,940メートルの山頂を平坦にして築かれた大規模な宗教都市遺跡がモンテ・アルバンです。紀元前500年頃から約1,300年間にわたり、サポテカ文明の中心地として繁栄し、その壮麗な遺跡群はオアハカの歴史地区とともに世界文化遺産に登録されています。
広い中央広場を囲むように、巨大なピラミッドや神殿、天文台、球技場などが整然と並び、そのスケールと建築技術の高さに圧倒されるでしょう。なかでも印象深いのが、「踊る人々(ロス・ダンサンテス)」と呼ばれる、異様な姿勢をとる人物像が彫られた石板群です。かつては踊り子やヨガ行者と考えられていましたが、現在では拷問を受ける捕虜や医療処置を受ける場面を描いているとの説が有力です。苦痛や恍惚の入り混じった表情は、古代の死生観を垣間見せ、見る者の想像を掻き立てます。
遺跡の最も高い南の大基壇に登れば、360度の大パノラマが広がります。眼下にはオアハカの谷が広がり、果てしなく連なる山々の雄大な眺めが楽しめます。そよぐ風に耳を澄ませば、かつてここで祈りを捧げた神官たちや、人々の歓声が聞こえてくるようです。天と地が交差するこの場所で、古代サポテカの人々が宇宙とどう向き合い、自然と共存していたのか。その壮大なスケールを体感することで、オアハカ文化の根底に流れる精神性を感じることができるでしょう。
| スポット名 | モンテ・アルバン遺跡 |
|---|---|
| 概要 | サポテカ文明の中心地であった世界遺産登録の古代都市遺跡。広大な敷地内にピラミッドや神殿が点在。 |
| アクセス | オアハカ市内中心部からタクシーで約20分。ソカロ周辺からはシャトルバスも利用可能。 |
| 見どころ | 南の大基壇から望む中央広場全体、奇跡の「踊る人々」の石板群、天体観測用とされる天文台(建造物J)。 |
| ワンポイント | 日差しを遮るものがほとんどないため、帽子やサングラス、日焼け止めは必須。歩きやすい靴と充分な水分補給もお忘れなく。敷地内の博物館も見応えがあります。 |
ベニート・フアレス市場と11月20日市場:市民生活と活気の核心
オアハカの暮らしや活気をリアルに感じたいなら、市場(メルカド)巡りがおすすめです。市の中心、ソカロの南隣に位置する「ベニート・フアレス市場」と、その向かいにある「11月20日市場」は、まさにオアハカの台所であり、人々の胃袋そのものと言えます。
ベニート・フアレス市場は、生鮮食料品から日用品、民芸品までが揃う広大な屋内市場。色鮮やかな果物や野菜、山積みの唐辛子、名物のオアハカチーズ、そして少し勇気がいるかもしれませんが、食用昆虫のチャプリネス(素揚げバッタ)を売る店などがひしめき合い、歩くだけで五感が刺激されます。地元の人々の会話や威勢の良い呼び声が飛び交い、溢れる活気に圧倒されるでしょう。
一方、11月20日市場は主に食事を提供する市場です。特に有名なのが「パシージョ・デ・ウモ(煙の回廊)」と呼ばれるエリア。ここでは新鮮な牛肉や豚肉、チョリソーなどを選び、その場で炭火焼きにしてもらい、焼きたてのトルティーヤと一緒に味わえます。香ばしい肉の煙が立ち上り、空気は食欲をそそる香りに満ちています。地元の人々に混ざって熱々の肉を頬張る経験は、旅の最高の思い出となるでしょう。
これら市場は単に物を売買する場ではなく、人が集い語らい、笑顔が交わされるコミュニティの中心地です。オアハカの力強い生命力を、その目、舌、肌でぜひ体感してください。
| スポット名 | ベニート・フアレス市場 & 11月20日市場 |
|---|---|
| 概要 | オアハカを代表する二大市場。ベニート・フアレスは食料品や民芸品を中心に、11月20日は主に飲食店が軒を連ねる。 |
| アクセス | オアハカ市内中心部のソカロ(中央広場)から徒歩圏内。 |
| 見どころ | 「煙の回廊」での炭火焼き肉体験、新鮮なフルーツジュース(フーゴ)店、多彩なモーレペーストを取り扱う専門店など。 |
| ワンポイント | スリなどの軽犯罪に注意し、貴重品は体の前で管理しましょう。食事の際は地元の人で混雑している店を選ぶと美味しい店に当たりやすいです。 |
イエルベ・エル・アグア:石化した滝と空に浮かぶ天然のプール
オアハカ市内から東へ約70キロ、山道を揺られてたどり着く場所には、自然の不思議な絶景が広がっています。それが「イエルベ・エル・アグア」です。スペイン語で「沸騰した水」を意味するこの地には、まるで滝が流れ落ちながら時を止めてしまったかのような真っ白な石灰の崖がそびえています。
実際には本物の滝ではなく、炭酸カルシウムを多く含む鉱泉が何千年もの歳月をかけて崖を流れ、その成分が沈殿して石化された石灰棚です。自然が作り出した壮大な芸術作品に、ただ息をのむばかりです。崖の上には、湧き出る鉱泉によって作られた天然のプールがいくつもあり、エメラルドのような緑色の水面が美しく広がっています。
プールの縁から見下ろすと、まるで空中に浮かぶインフィニティプールにいるかのような感覚。眼下には雄大な渓谷が広がり、遮るもののない絶景を独り占めできます。水はやや冷たいですが、思い切って泳げば心身が浄化されるような不思議な体験が待っています。ここは古くからサポテカ族にとって聖地で、灌漑システムも築かれた跡が残っており、自然と人の知恵が融合したパワースポットといえます。
| スポット名 | イエルベ・エル・アグア |
|---|---|
| 概要 | 鉱泉の成分が長年の沈殿で固まって形成された「石の滝」と、その上にある天然プールが人気の絶景地。 |
| アクセス | オアハカ市内から車で約2時間。ツアー参加かタクシーチャーターが一般的。ミトラ遺跡やテオティトラン・デル・バジェ村と組み合わせたツアーも多い。 |
| 見どころ | 「石の滝」を一望できる展望台、崖上の天然プールでの泳ぎ(着替えと水着を忘れずに)、周辺のハイキングコース。 |
| ワンポイント | 標高が高く日差しが強いため、帽子や日焼け止めは欠かせません。足元は滑りやすい場所も多いため、歩きやすいサンダルやスニーカーがおすすめ。簡易な更衣室しかない点にご注意ください。 |
旅の実用情報と心構え

オアハカの旅をより安全かつ心豊かなものにするために、実用的な情報と旅の心得をいくつかご紹介します。少しの準備や気配りが、旅の質を大きく左右することも少なくありません。
オアハカへのアクセスと市内移動
日本からオアハカへは直行便がなく、一般的にはアメリカの主要都市やメキシコシティを経由してオアハカ国際空港(OAX)に向かうルートが一般的です。メキシコシティからは飛行機で約1時間、長距離バスの場合は6〜7時間ほどかかります。
オアハカの市内は比較的コンパクトで、中心部の観光スポットは徒歩で十分に巡ることができます。少し離れた場所に行く際には流しのタクシーが便利ですが、乗る前に料金を確認することをおすすめします。また、地元の人が使う「コレクティーボ」と呼ばれる乗合タクシーもあります。決まったルートを走り、料金は非常にリーズナブルですが、スペイン語でのやり取りが必要になることが多いです。モンテ・アルバンや民芸品の村などを訪れる場合は、観光客向けのシャトルバス利用や、一日タクシーをチャーターして効率よく回るのが安心です。私の場合、車の運転に慣れているため、自分のペースで回れるチャーターがおすすめです。
旅のシーズンと服装のポイント
オアハカの気候は、乾季(10月〜4月)と雨季(5月〜9月)に大別されます。観光のベストシーズンは天気の安定した乾季で、特にメキシコ全土が色鮮やかな骸骨で飾られる「死者の日(10月末〜11月初旬)」や民族舞踊の祭典「ゲラゲッツァ(7月)」の時期は特別な雰囲気を楽しめますが、非常に混雑します。
服装については、標高が高いため、日中は強い日差しでTシャツ1枚でも過ごせますが、朝晩は冷え込むことが多いです。羽織りやすいジャケットやパーカー、ストールを携帯すると重宝します。遺跡や石畳の道を歩く機会が多いため、履き慣れたスニーカーやウォーキングシューズを必ず用意しましょう。日差し対策には帽子やサングラスも忘れずに持参してください。
心に残る旅にするためのコツ
最後に、オアハカの旅をより深く心に刻むためのポイントをいくつかお伝えします。
まず、作り手への敬意を忘れないことが大切です。市場や工房で民芸品を購入するとき、メキシコでは値段交渉が一般的ですが、オアハカの手仕事は多くの時間と労力を費やした芸術品です。過度な値下げ交渉は控え、制作者の労を尊重しましょう。また、工房や市場で人を撮影するときは、無断でカメラを向けるのではなく、「ポル・ファボール(お願いします)」と一言声をかける配慮が、お互いに気持ちよくなれます。
そして、何より「急がない」ことを心掛けてください。オアハカにはゆったりとした時間が流れています。詰め込みすぎたスケジュールは避け、カフェのテラスで通りを眺めたり、気に入った工房で職人とゆっくり話したり、そうした時間を大切にしましょう。効率だけを追い求める旅では見えない、オアハカの真の魅力に気づくことができるはずです。
簡単なスペイン語の挨拶、「オラ!(こんにちは)」「グラシアス(ありがとう)」を覚えておくだけで、地元の人々との距離が一気に縮まります。彼らの温かい笑顔に触れたとき、この旅は単なる観光ではなく、心と心が通い合う「体験」へと昇華するでしょう。先住民の魂が息づく色彩豊かな大地で、あなたの心にも新たな彩りが加わる、素晴らしい旅となることを願っています。

