世界中の道を駆け抜け、自己ベストを更新するためだけに息を切らす日々。私の旅は常に、スタートラインとゴールテープの間にありました。しかし、アスリートとしてのキャリアを重ねる中で、ふと気づいたのです。タイムという数字の向こう側にある、もっと根源的な何かを見失いかけているのではないか、と。そんな思いに駆られ、私が次なる旅先に選んだのは、観光ガイドブックには決して載らない、ブラジル・パラー州の小さな町「トラクアテウア」。アマゾンの広大な緑に抱かれたこの場所で、私はタイム計測を止め、ただ地球の呼吸を感じ、自分自身の内なる声に耳を澄ませる旅に出ることにしたのです。それは、記録のためではない、魂のリカバリーのための旅でした。
魂が目覚める旅はブラジルに限らず、例えばキューバの日常に溶け込む信仰と精神世界の光景を巡る旅でも体験することができます。
なぜ、今トラクアテウアなのか?

マラソンランナーである私が、なぜレースの舞台でもなく、有名なトレーニングキャンプ地でもないトラクアテウアを選んだのか。それは、現代社会に溢れる過剰な情報や競争から心身を解放し、「デジタルデトックス」と「メンタルリセット」を求めていたからです。アスリートにとって、身体的な強さはもちろん欠かせませんが、それを支える精神の安定は何にも代えがたい価値があります。プレッシャーや周囲の期待、SNSで目にするライバルの動向。知らず知らずのうちに溜まるこうしたノイズが、時としてパフォーマンスの壁となり得るのです。
トラクアテウアには、洗練されたホテルや有名な観光スポットはありません。広大なアマゾンの森と穏やかに流れる川、そして自然のリズムと調和しながら暮らす人々の素朴な営みがあるだけです。ここではスマートフォンの電波を探す代わりに、空の色や風の香りの変化に意識を向けられます。心拍数を測るGPSウォッチを外し、ただ自分の足が大地を踏みしめる感覚やリズムよく呼吸する息遣い、流れ出る汗に集中するのです。それは、私が走り始めたころに感じていた純粋な喜びを呼び覚ます、まさに原点回帰の旅でした。都会の喧騒から遠く離れたこの地で、心身を一度リセットし、生命力そのものを充電すること。まさにそれが、次の一歩を踏み出すために私が必要としていたものだったのです。
アマゾンの恵みと共生する暮らし
トラクアテウアで過ごした日々は、自然の偉大さに支えられていることをひしひしと感じる連続でした。人々の暮らしは森や川と密接に結びつき、その恵みを享受しながらも決して搾取せず、敬意をもって共に生きていました。その循環の中に身を置くことで、私の体と心は徐々に本来の調和を取り戻していったのを実感しました。
アサイーの森を駆ける朝
トラクアテウアの朝は、ランニングからスタートします。夜明け前の薄暗い時間にヘッドライトの灯りだけを頼りに集落を抜け出すと、そこはすでに生命力に溢れるジャングルの入口でした。気温は高く、湿度は90%を超え、肌にまとわりつくような蒸し暑さです。アスファルトとは異なる、湿った土や落ち葉が積もるトレイルは、一歩一歩足裏で地面の凹凸を感じながら進まなければなりません。これが体幹やバランス能力を養う絶好のトレーニングとなります。
最初は熱帯雨林の息苦しい空気に戸惑いましたが、慣れてくると植物が放つ濃厚な酸素と土の香りが混ざり合った、贅沢なアロマのように感じられるようになりました。鮮やかな鳥が頭上を横切り、遠くから猿の鳴き声も響きます。全ての感覚が研ぎ澄まされ、まるで自然という巨大な生命体の一部となったかのような感覚に包まれました。
ある朝、一緒に走っていた地元の青年が静かにトレイルから逸れ、天に向かってまっすぐ伸びる細長いヤシの木を指さしました。それが、世界的にスーパーフードとして知られる「アサイー」の木だったのです。彼は慣れた手つきでその木に登り、紫色の実が豊かに実った房を切り落として披露してくれた感動は今でも忘れられません。日本で私たちが口にするアサイーは冷凍加工されたものが大半ですが、ここで味わう採れたてのアサイーは甘みがほとんどなく、オリーブオイルのような濃厚なコクと、大地の力強さを凝縮したような風味がありました。これをつぶして水と混ぜ、ファリーニャをかけて食べるのが現地のスタイル。極めて新鮮でパワフルな栄養補給となり、厳しいトレーニング後の回復ドリンクとして最適でした。
| スポット情報 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | アサイーの森(特定の観光地ではなく、集落近くの森林地帯) |
| 体験内容 | ・早朝のトレイルランニング ・野生のアサイーの木の観察 ・地元住民との交流(案内人付きの場合) |
| 注意事項 | ・単独行動は避け、必ず地理に精通した現地の案内人と同行してください。 ・虫よけやこまめな水分補給は必須です。 ・ぬかるみや根が多い不安定な足元のため、トレイルランニングシューズの使用を推奨します。 |
| ランナーへのヒント | 高温多湿の環境は肺や心臓に負荷をかけるため、無理のないペースで走りましょう。大量の発汗による電解質の補給もこまめに行うことが重要です。 |
ファリーニャ工場の見学と手作り体験
トラクアテウアの人々の食事に欠かせないのが「ファリーニャ」です。これはマニオク(キャッサバ芋)から作られる黄色い粒状の粉で、ご飯のように料理にふりかけたり混ぜたりして食べられます。まさにブラジル北部の人々の主要な主食でありエネルギー源です。私は幸運にも、集落にある家族経営の小規模なファリーニャ工場を訪ね、その製造過程を体験させてもらう機会に恵まれました。
工場とはいえ、近代的な機械がずらりと並ぶわけではありません。そこは高床式の素朴な木造の小屋で、ほぼ全ての工程が手作業で行われていました。まず畑から採れたマニオクの皮を、女性たちが談笑しながら手早く剥いていきます。その手際の良さには目を見張るものがありました。私もナイフを借り挑戦しましたが、分厚い皮に苦戦し、彼女たちの笑い声に包まれて自分の不器用さを痛感しました。
皮を剥いたマニオクは大きな擦りおろし器で細かくされ、その後「ティピティ」と呼ばれる伝統的な筒状の道具で水分を絞ります。この水分には毒素が含まれるため、しっかり絞ることが欠かせません。水分を抜いた粉は巨大な鉄製の鍋に入れられ、薪火でじっくりと焙煎されます。熱気が立ちこめる中、男性が大きな木のヘラで休みなくかき混ぜ続けます。この焙煎がファリーニャの香ばしさと食感を決定づける最重要工程であると、主人は誇りを持って語ってくれました。
私もヘラを手に取り、見よう見まねで混ぜてみましたが、ずっしりと重く均一に火を通すのは至難の業ですぐに腕が疲弊しました。しかし、汗を流しながら作業に没頭するうちに不思議な一体感が芽生えました。そこには単なる労働の厳しさだけでなく、家族が協力し伝統を受け継ぎながら日々の糧を生み出す誇りと喜びが満ちていました。完成したばかりのまだ温かいファリーニャをひとつまみ口に入れると、香ばしい香りが広がり、噛むほどに優しい甘みが感じられました。ランナーにとって重要な炭水化物を、これほどシンプルかつ力強く摂れることに感動させられました。それは単なる食材ではなく、人々の汗と知恵が結晶した命の証でした。
| スポット情報 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | カザ・デ・ファリーニャ(Casa de Farinha)※集落内の個人経営作業場 |
| 体験内容 | ・マニオクの皮むき ・水分を絞る工程の見学 ・巨大鍋での焙煎作業体験 ・できたてファリーニャの試食 |
| 注意事項 | ・観光施設ではないため、訪問には現地の方の許可と敬意を払うことが必要です。 ・作業の邪魔にならぬよう配慮し、感謝の気持ちを伝えることが大切です。ささやかな手土産が喜ばれることもあります。 |
| ランナーへのヒント | ファリーニャは消化の良い良質な炭水化物源です。レース前のカーボローディングや練習後のエネルギー補給に適し、スープや豆料理に混ぜることで腹持ちも良くなります。 |
川と共に生きる人々の知恵
トラクアテウアの生命線は、集落を縫うように流れる複数の川、イガラペです。この川は住民の飲み水であり、漁の場であり、交通路であり、また子どもたちの遊び場でもあります。私は現地の漁師にお願いし、彼の手漕ぎカヌーに乗ってこの緑の迷宮のような水路を巡る体験をしました。
エンジン音のない静かな環境では、水をかくパドルの音と、時折聞こえる鳥や虫の声だけが響き渡ります。水面はジャングルの濃い緑を鏡のように映し出し、どこが現実でどこが幻想なのか見分けがつかないほどの静寂と美しさに包まれていました。川辺の木々には色鮮やかな蝶が舞い、時にゆったりと枝を移動するナマケモノの姿を目にすることもできました。
漁師は流れや水色、風向きを読み巧みにカヌーを操り、絶好のスポットを見定めると息を止めて鍛えた腕で投網を放ちます。美しく広がった円形の網が水面に飲み込まれる様はまさに芸術的でした。網を引き上げるとピラルクやタラなど多種多様な川魚がかかっており、小さな魚や必要以上の獲物は丁寧に川へ返していました。自然から必要な分だけ頂くという彼らの哲学がそこにありました。
途中、川岸に住む人々の家にも立ち寄りました。カヌーで訪れた私たちを温かく迎え、湧き水で淹れたコーヒーや庭で採れた果物を振る舞ってくれました。高床式の住まいは川の増水に備えた知恵の結晶で、家の周囲には薬草や野菜が育てられ、自然の恵みを最大限に活かした持続可能な暮らしが営まれていました。ここでの生活は物質的な豊かさこそ乏しいかもしれませんが、彼らの表情からは都会の生活で忘れかけた穏やかさと満足感があふれていました。川の流れのように逆らわず、あるがままを受け入れて生きる。そのシンプルな哲学が私の心に深く響きました。
心と体を癒す、トラクアテウアのスピリチュアルな側面

この土地には、目に見える自然の豊かさだけでなく、人々の暮らしに深く根差した精神文化やスピリチュアルな世界観が息づいていました。それは特定の宗教という枠組みよりも、森羅万象に魂が宿ると考えるアニミズムに近いものです。科学的トレーニングを信条としてきたアスリートの私にとって、それは未知なる領域でしたが、心身のつながりを見つめ直す貴重な機会となりました。
薬草の知識を伝える長老との出会い
連日のランニングによる筋肉の疲労を感じていたある日、集落の長老であり、薬草の知識に長けたご老人を訪ねる機会を得ました。彼の家は、多種多様な植物が育てられた庭に囲まれた、小さな木造の住まいでした。私が足の張りを訴えると、彼は穏やかな笑みを浮かべ、庭から何種類かの葉を摘んで戻ってきました。
それを石臼ですり潰し、ペースト状にしたものを丁寧にふくらはぎに塗り、その上から大きな葉で包んでくれました。冷たく心地よい感触とハーブの爽やかな香りが広がり、緊張していた筋肉がゆっくりと緩んでいくのを実感しました。彼は、この葉には炎症を抑える効能があり、こちらの木の皮には痛みを和らげる力があると、ポルトガル語と身振りを交えてゆっくりと説明してくださいました。
その話は単なる薬草の効能にとどまらず、「植物も我々と同じ生命を宿している。だから葉を摘むときは感謝の言葉をかけるのだ。そうすれば、植物は喜んで力を分けてくれる」と語りました。現代医学の視点からは非科学的に映るかもしれませんが、自然への敬意と感謝が、植物の力を最大限に引き出すという考え方は私の心に深く響きました。私たちが口にする食べ物やサプリメントはすべて自然の恵みから成り立っており、その根底にある生命への感謝を忘れてはならない。この体験が、アスリートとしての私のボディケアに対する見方を、よりホリスティックなものへと変えてくれたのです。
静寂の中での瞑想体験
トラクアテウアでの滞在中、私は新たに森の中での瞑想という習慣を始めました。特に心惹かれた場所は、集落から少し離れた場所に立つ、樹齢数百年の巨大なサマウマの木の下です。板状に広がる根(板根)は、まるで自然が生み出した椅子のようで、そこに腰掛けると不思議と心が静まります。
目を閉じて深く呼吸を繰り返すと、耳に入るのは風が木の葉を揺らす音、無数の虫の声、そして遠方の鳥のさえずりだけで、人工的な音は一切ありません。最初はレースのことやトレーニングの計画など様々な思考が頭をよぎりましたが、呼吸と周囲の自然の音に意識を集中するうちに、思考の波が次第に静まり、心が澄んでいくのを感じました。
まるで大地にしっかりと根を張るサマウマの木と一体化したかのようで、内側からエネルギーが根のように湧き上がり、頭上の木の葉を通して降り注ぐ陽光が全身を浄化してくれる感覚でした。それは、レース前に集中力を極限まで高める「ゾーン」と似ているものの、より穏やかで根源的な体験です。日々数値を追い、他者と比較し、結果に一喜一憂する生活の中で硬直していた心がほぐされていくようでした。静寂の中でのこの内省は、「今ここにある」ことの充実感を私に教えてくれました。この体験は、今後の競技人生においてプレッシャーを乗り越える大きな精神的支えになるでしょう。
満月の夜に催されたカリンボー・デ・ホーダ
滞在中のある満月の夜、集落の広場で「カリンボー・デ・ホーダ」が催されると聞き、私も参加させていただきました。カリンボーとは、アフリカに起源を持つ文化と先住民文化が融合して生まれた、この地方独特の伝統的な音楽と踊りのことです。
広場の中心で焚き火が燃え上がり、その周囲に人々が輪(ホーダ)を作って囲みます。男性たちが丸太をくり抜いた太鼓「クリンボー」を力強く叩き始めると、腹の奥に響く原始的で生命力に満ちたリズムが夜の空気に満ちていきます。そのビートに誘われるように、女性たちが次々と輪の中に入り、ゆったりと腰を揺らしながら踊り始めます。彼女たちの長いスカートは回転に合わせて美しい円を描きます。
初めは遠くから見ていた私も、村の女性に手を取られ、恐る恐る輪の中へ。決まった振り付けはなく、リズムに身をゆだね、大地を踏みしめ、感じたままに体を動かします。言葉が通じなくとも、音楽と踊り、そして笑顔が私たちを繋いでくれます。裸足で土を踏む感触は気持ちよく、足裏に伝わるその感覚はランニングの地面を蹴る感覚とは異なり、大地と対話しエネルギーを交換するような神聖なものに思えました。
太鼓のリズムは次第に速まり、踊りは熱を帯びていきます。汗をかきながら夢中で踊り続けるうちに、個人的な悩みや不安は消え去り、自分がこのコミュニティという一つの生命体の一部であることを強く感じ、深い幸福感に包まれました。それは理屈を超えた魂で感じる体験であり、記録や勝利という目標を超えた、生きることそのものの歓びでした。カリンボーの輪の中で、私はその本質に触れたように思えたのです。
ランナーズ・アイで見たトラクアテウア滞在ガイド
この独特な地を訪れたいと考えている、特に活動的で健康志向の方々に向けて、私自身の体験をもとにした具体的な情報と助言をお届けします。しっかりと準備を整えることで、トラクアテウアでの時間はより充実し、快適なものになるでしょう。
宿泊と食事について
トラクアテウアには、一般的なリゾートホテルは存在しません。基本的には「ポウザーダ」と呼ばれる家族経営のシンプルな民宿に滞在することが主流です。私が泊まったポウザーダは、清潔なベッドとシャワールームが備わっており、何より心のこもった温かいおもてなしが印象的でした。部屋の窓越しには豊かな緑が広がり、夜にはハンモックで揺られながら満天の星空を楽しむのが最高のリラックスタイムでした。
食事は滞在中の大きな魅力のひとつです。特にアスリートにとって、バランスの取れた栄養摂取はコンディション維持に欠かせません。ここではアマゾン特有の新鮮な食材をたっぷり使った、シンプルながらも栄養豊富な料理が味わえます。
- アサイー:朝食の定番です。冷凍ものではなく、その場で絞った新鮮な果肉を使用し、砂糖は加えません。ファリーニャやバナナと一緒にいただくのが地元流。抗酸化物質や良質な脂質が豊富で、トレーニング後の回復にぴったりです。
- 川魚:ピラルクやタンバキなど、淡白で高タンパクな川魚のグリルや煮込み料理は筋肉の修復を助けます。
- フルーツ:マンゴーやパパイヤ、クプアス、タペレバなど、日本では珍しいトロピカルフルーツが非常に手頃な価格で味わえます。ビタミンやミネラルが豊富な自然の恵みです。
- タカカ:トゥクピ(マニオクの絞り汁を発酵させたスープ)に、ジャンブー(舌がピリピリ痺れるハーブ)と乾燥エビを加えた、この地域特有のスープです。クエン酸がたっぷり含まれており、疲労回復に効果が期待できます。
| スポット情報 | 詳細 |
|---|---|
| 宿泊施設 | ポウザーダ(Pousada)※家族経営の小規模な民宿が中心 |
| 食事 | ・地元の食堂やポウザーダで提供される家庭料理が基本。 ・アサイー専門店(Acaiteria)では多様なトッピング付きアサイーが楽しめる。 |
| 注意点 | ・予約は事前に行うことを推奨します。オンライン予約が難しい場合は、現地の知人に手配を依頼しましょう。 ・水道水は飲用せず、必ずミネラルウォーターを購入してください。 |
| ランナーへの助言 | 外食に加え、市場で新鮮なフルーツやナッツを購入し、練習の前後に補給食として利用するのがおすすめです。特にブラジルナッツはセレンが豊富で抗酸化作用に優れています。 |
コンディショニングおよび注意点
アマゾンの気候はランナーにとって挑戦が伴う環境です。十分な準備と対策が、安全かつ快適な滞在の鍵となります。
- 気候対策:高温多湿が年間を通じて続きます。日差しも強烈なため、ランニングは日差しの和らぐ早朝や夕方に行うのが望ましいです。吸湿速乾性の高い軽量ウェアを用意し、帽子やサングラスも忘れず装備しましょう。
- 水分補給:汗の量が非常に多くなるため、こまめな水分補給が欠かせません。水だけでなく、塩分やミネラルを補えるスポーツドリンクや経口補水液の粉末を持参すると安心です。私自身は練習中にココナッツウォーターをよく飲んでいました。天然の電解質が豊富で体への吸収が速いのが特徴です。
- 虫対策:蚊を媒介とするデング熱、ジカ熱、黄熱病などの感染リスクがあります。日本で黄熱病の予防接種を必ず受けておくことを強く推奨します。現地ではDEET成分の濃度が高い虫除けスプレーをこまめに塗り、長袖・長ズボンの着用で肌の露出を減らすと良いでしょう。
- 安全管理:知らないトレイルを単独で走るのは非常に危険です。必ず現地のガイドや信頼できる同行者と共に行動してください。また、毒蛇や危険な生物と遭遇することもあるため、むやみに茂みには手を入れないよう注意しましょう。
アクセス手段
トラクアテウアへの道のり自体が冒険となります。一般的なアクセスルートは、パラー州の州都ベレンからが主です。
- ベレンまで:日本の主要空港からサンパウロやリオデジャネイロなどの国際空港を経由し、国内線でベレンのヴァウ・デ・カンス国際空港へ向かいます。
- ベレンからトラクアテウアへ:ベレンの長距離バスターミナルからカパネマ(Capanema)やブラガンサ(Bragança)方面行きのバスに乗車します。トラクアテウアはそのルート上にあり、所要時間は道路状況により4~5時間程度です。バスの車窓からは、都市の景色から次第に広がる雄大なアマゾンの自然へと変わっていき、旅の期待感を掻き立ててくれます。地元の交通手段であるため、乗客との思いがけない交流も楽しめるでしょう。
タイム計測の先に見た景色

トラクアテウアを離れる朝、私はいつものように夜明け前に走り始めました。しかし、その日のランニングはいつもとは少し異なっていました。GPSウォッチは部屋に置きっぱなしで、ペースも距離も気にせず、ただ足裏で感じる大地の感触と、自分の呼吸のリズムにだけ意識を集中させました。森の芳香、鳥のさえずり、肌を撫でる湿った風。そんなすべてが内側で一つに溶け合っていくのを感じました。
今回の旅で、私は自己ベストを更新したり、特別なトレーニング法を見つけたりしたわけではありません。それでも、それ以上に価値のあるものを手に入れることができました。それは「走る」という行為が、単に体を鍛えたり記録を競ったりするためだけのものではないということへの気づきです。走ることは、大地と語り合い、自分の心と深く向き合い、生きている喜びを全身で味わうための、瞑想のようであり、祈りのような行為なのだと理解しました。
トラクアテウアの土の香り、満月の夜に響くカリンボーのリズム、薬草を処方してくれた長老の優しいまなざし、そして共に汗を流した仲間たちの屈託のない笑顔。そうしたすべてが私の細胞の隅々に染みわたり、これから挑むレースのための何よりも強力なエネルギーとなりました。もし、あなたが日常に疲れ、大切なものを見失いかけているのなら、思い切って地図に載っていない場所へ旅立ってみてはいかがでしょう。きっと、あなたの魂を揺さぶる新たな景色が待っているはずです。

