都市の喧騒、鳴り止まない通知音、そして絶え間なく流れ込む情報。テクノロジーがもたらす利便性の裏側で、私たちの心と体は少しずつ疲弊しているのかもしれません。私、明(あきら)は工学部出身ということもあり、常に最先端の技術や合理的なシステムに囲まれてきました。しかし、そんな日々の中でふと、人間が本来持っているはずの穏やかなリズムや、自然との繋がりを渇望している自分に気づくのです。
そんな思いを抱える皆さまに、今回ご紹介したい場所があります。モスクワの中心部からエレクトリーチカ(近郊電車)に揺られて、わずか1時間半。そこには、まるで時が止まったかのような静寂と、豊かな自然が広がる別世界が存在します。その名は「ベロオゼルスキ」。
この旅は、有名な観光地を巡るものではありません。ラグジュアリーなホテルで過ごす休日とも違います。ベロオゼルスキの旅は、湖のきらめきに心を洗い、森の香りに深く呼吸し、地元の人々の素朴な営みに触れることで、自分自身の内なる声に耳を澄ますための時間です。今回は、あえてスマートフォンをバッグの奥にしまい、五感をフルに使ってこの町の魅力を探る、究極のウェルネス・ジャーニーへとご案内します。日常から少しだけ距離を置き、心身をリセットする旅へ、一緒に出かけましょう。
モスクワ近郊での自然体験をさらに探求したい方には、皇帝たちも愛したコロメンスコエでのリバーサイドピクニックもおすすめです。
未来への休息地、ベロオゼルスキへようこそ

ベロオゼルスキは、モスクワ州のヴォスクレセンスキー地区に位置する「都市型集落」です。この地名は、町のそばに広がる「ベーロエ湖」に由来し、ロシア語で「白い湖のある場所」を意味しています。名前が示す通り、このエリアは水と緑に囲まれた風光明媚な場所となっています。
モスクワのダーチャ文化が根付く場所
モスクワの人々にとって、ベロオゼルスキは特別な場所です。多くの市民が「ダーチャ」を持ち、心の安らぐ第二の故郷として親しんでいるからです。ダーチャとは、家庭菜園のあるセカンドハウスのことで、日本で言う「農園付き別荘」に近い存在です。週末や夏の長期休暇になると、都会の住民たちはここを訪れ、土に触れ作物を育て、家族や友人とともに自然の中でゆったりと過ごします。
ベロオゼルスキの成り立ちはソビエト時代にまでさかのぼります。計画的に整備されたこの集落は、整然と区画分けされた住宅地の一方で、広大な森林や湖がほとんど手つかずの状態で残されています。人工的な秩序と豊かな自然が見事に共存している景観こそ、この町の独特な魅力です。合理的な都市計画の結果として、人々が自然に触れ合う最適な環境が生まれた。この矛盾とも言える構造に私は強く惹かれました。
テクノロジーの対極にある、五感で味わう町の魅力
ベロオゼルスキに足を踏み入れた瞬間、まず耳にしたのは「音」の違いでした。モスクワの絶え間ない車の走行音や人混みの喧騒が消え、代わりに聞こえてきたのは、風に揺れる葉の音や遠くで鳴く鳥の声、そして穏やかな静寂です。これは、情報が溢れかえる日常で麻痺していた聴覚を優しく目覚めさせてくれる体験でした。
ここでの時間は効率やスピードといった価値観にとらわれません。鳥のさえずりで目を覚まし、日中は湖のほとりを自由に散歩し、夜は満天の星空を見上げる。人類が時代を超えて繰り返してきた自然のリズムに身をゆだねることによって、失われていた感覚が少しずつよみがえってきます。土の香り、水の冷たさ、木漏れ日の暖かさ。五感を最大限に働かせてこの町を感じることこそ、ベロオゼルスキがもたらす最高の贅沢なのです。
湖と森のシンフォニーに身を委ねる、至福のヘルスケア
ベロオゼルスキでのウェルネス体験の核となるのは、やはりその豊かな自然環境です。特に、町の象徴でもある二つの湖と、それらを囲む広大な森林が、訪れる人々の心身に深い癒しを与えてくれます。
「白」と「黒」の湖が織り成す神秘的な風景
ベロオゼルスキには、対照的な魅力を持つ二つの湖、ベーロエ湖とチョールノエ湖が存在します。それぞれの湖畔を散策することで、異なるエネルギーを感じ取ることができるでしょう。
静寂の鏡、ベーロエ湖(Белое озеро)
「白の湖」と名付けられたベーロエ湖は、その名の通り、明るく開放感あふれる雰囲気が特徴です。比較的水がきれいで、晴れた日には砂の底まで見えるほどの透明度を誇る場所もあります。湖畔には整えられた砂浜が広がり、夏には多くの人が日光浴や水遊びを楽しみます。
特におすすめしたいのは、早朝の散策です。まだ誰もいない湖畔に立ち、静かな水面を見つめると、まるで巨大な鏡のように空が映し出されています。朝靄がたちこめる中、対岸の樹々がシルエットとなり、昇り始めた太陽の光が水面に金色の道を描き出す光景は、息を呑むほど幻想的です。それはまるで一枚の絵画の中に迷い込んだかのよう。この静かなひとときを過ごすことで、心の雑念がゆっくりと洗い流されていくのを実感できるでしょう。写真愛好家にとっては、絶好のシャッターチャンスとなります。
深い森に抱かれたチョールノエ湖(Чёрное озеро)
ベーロエ湖のすぐ隣にありながら、まったく異なる顔を見せるのが「黒い湖」と呼ばれるチョールノエ湖です。こちらは周囲が深い針葉樹林に囲まれており、湖水は近くの泥炭層の影響で黒ずんで見えます。その名からやや神秘的な印象を受けるかもしれませんが、実際に訪れると静謐で瞑想的な雰囲気が漂い、とても落ち着ける場所です。
湖畔では釣り糸を垂れる人たちの姿が点在し、彼らの静かな集中がその場の静けさを一層深めています。ここでは大声で話す人はいません。皆が森と湖が織りなす神聖な空気を尊重しているかのようです。鬱蒼と茂る木々の合間から差し込む光が黒い水面に揺らぎ、まるで自然が描いた抽象画のような光景を作り出します。思考を手放して、ただ目の前の風景に心を委ねる。そんなマインドフルな時間を過ごすには、チョールノエ湖が最適と言えるでしょう。
朝の散策と森林浴 ― 自然のエネルギーをチャージする
湖だけでなく、ベロオゼルスキを取り囲む広大な森林も、私たちの健康に多大な恩恵をもたらします。特に朝の時間帯に森の中を歩くことは、最高の心身リフレッシュ法です。
フィトンチッドに満ちた松林の小径
この地域の森は主に松をはじめとする針葉樹で構成されています。針葉樹の森を歩くと感じる独特の清涼感あふれる香り、これが「フィトンチッド」と呼ばれる成分です。フィトンチッドは、樹木が微生物から身を守るために放出する揮発性物質であり、科学的にも私たちのストレス軽減や心身のリラックス効果に寄与すると認められています。
朝霧が残る時間に松林を縫う小径を歩いてみてください。深呼吸するたびに、フィトンチッド豊かな新鮮な空気が体内に広がり、頭の中が次第にクリアになっていくのがわかるでしょう。木々の間から差し込む柔らかな朝の光は「木漏れ日」となり、地面に美しい光と影のパターンを描き出します。それはまるで自然が作り出す光のシャワーのよう。この光を浴びながら歩くと、不思議とエネルギーが湧いてきます。
四季折々の森の楽しみ方
ベロオゼルスキの森は、季節ごとに異なる魅力を見せてくれます。
初夏になると、足元には可憐な野草が咲き乱れ、森全体が生命力に溢れます。運が良ければ、野生のラズベリーやブルーベリーを見つけることもでき、摘み取ったベリーの味は格別です。
秋は、ロシアの人々に愛される「キノコ狩り」の季節です。地元の人たちはそれぞれ秘密のスポットを持ち、かごいっぱいのキノコを収穫します。ただし、毒キノコも多いため、初心者が単独で入るのは危険です。体験したい場合は、必ず知識豊富な地元の方と一緒に行動しましょう。紅葉で色づいた森を歩くだけでも、その美しさに心が奪われるはずです。
冬には、すべてが雪に包まれた白銀の世界が広がります。しんしんと降り積もる雪の森は音が消え、足音だけが響き渡る静寂の世界です。クロスカントリースキーで森を駆け抜ければ、冬ならではの爽快感を存分に味わえます。
湖と一体になるアクティビティ
暖かな季節には、眺めるだけでなく湖とより積極的に関わることも可能です。水と触れ合う時間は、私たちに根源的な安らぎと喜びをもたらします。
夏の暑い日には、ベーロエ湖の指定ビーチでの水泳がおすすめです。少し冷たい水に身を浸すと、日常の疲れやストレスが一瞬で消え去るように感じられます。安全確保のために、必ず監視員のいる場所で楽しんでください。
また、湖畔ではボートやカヤックのレンタルが可能です。自分の手でオールを漕ぎ、水面を滑る感覚は格別です。陸上からとはまた違う湖の中心部から眺める景色は、新たな発見と感動をもたらすでしょう。お弁当や飲み物を持ち込み、湖上でのピクニックを楽しむのも素敵な過ごし方です。
地元の恵みと温もりに触れる、食という名のウェルネス

旅の楽しみのなかで、「食」は欠かせない要素のひとつです。ベロオゼルスキでは、豪華なレストランの料理ではなく、この土地ならではの恵みを活かした素朴で温かみのある家庭の味に触れることができます。これこそが、心身を内側から活力で満たしてくれる、本物のウェルネスフードと言えるでしょう。
町の中心地、ローカル市場(ルィノク)を訪ねて
ベロオゼルスキの食文化を体感したいなら、まずは町の中心に位置する市場(ロシア語でルィノク)を訪れるのが一番です。ここは単なる食料品の販売所ではなく、地元の人々が集まり、情報交換をし、交流を楽しむ、まさに町の心臓部とも呼べる活気に満ちた場所です。
市場に足を踏み入れると、色鮮やかな野菜や果物が目に飛び込んできます。その多くは近隣のダーチャで育てられ、朝摘みたての新鮮なものです。太陽の光をたっぷり浴びて育った濃い赤のトマト、みずみずしいきゅうり、甘い香りが広がるリンゴやベリー類。ひとつひとつが形も大きさもバラバラで、土がついていることも少なくありませんが、それがまさに本物の証しです。
奥に進むと乳製品のコーナーがあります。ここには農家の手作りによるトヴァローク(カッテージチーズに似た新鮮なチーズ)やスメタナ(サワークリーム)、新鮮な牛乳が並びます。黄金色に輝く瓶詰めの蜂蜜や、さまざまな種類のピクルス、キノコの塩漬けといった保存食も豊富で、ロシアの食卓の豊かさを垣間見ることができます。
言葉が通じなくても心配はいりません。欲しいものを身振り手振りで指し示せば、お店のおばあさん(バーブシュカ)たちが優しい笑顔で対応してくれます。時には味見を勧めてくれたり、美味しい食べ方のアドバイスを教えてくれたりすることもあります。このあたたかなやりとりこそ、市場を訪れる最大の魅力です。スーパーマーケットの画一的な商品とは異なり、生産者の顔が見える食材を手に入れる喜びは、私たちの食生活をより豊かにしてくれるはずです。
| スポット名 | ローカル市場(ルィノク) |
|---|---|
| 概要 | 地元産の農産物や手作り食品が並ぶ市場。 |
| 場所 | ベロオゼルスキ町の中心部、駅周辺。 |
| 営業 | 主に週末に賑わうが、平日も営業している店舗が多い。 |
| 特徴 | ダーチャで採れた新鮮な野菜や果物、手作り乳製品、蜂蜜、保存食などが揃い、地元の人々との交流も楽しめる。 |
| アドバイス | 現金を用意し、エコバッグを持参すると便利。 |
ダーチャで味わうロシアの家庭の味
市場で手に入れた食材を使ってダーチャで料理をすることは、ベロオゼルスキでの滞在を一層楽しむ方法のひとつです。ロシアの食文化は、このダーチャでの自給自足的な暮らしと深く結びついています。
夏のダーチャの風物詩といえば「シャシリク」です。これは肉を串に刺して炭火で焼く、ロシア風のバーベキュー。豚肉や鶏肉を、玉ねぎや酢、ハーブをブレンドした特製のマリネ液に一晩つけ込み、じっくりと炭火で焼き上げます。炭火の芳ばしい香りとジューシーな肉の旨みは、青空の下でいただくと格別です。友人や家族と火を囲みながら楽しむシャシリクの時間は、ロシアの人々にとって何よりも大切なひとときです。
また、ダーチャの庭で採れた新鮮な野菜は、シンプルなサラダでもご馳走になります。トマトやきゅうり、ディルやパセリなどのハーブを刻み、スメタナと塩で和えるだけでも、野菜本来の力強い味わいを堪能できるでしょう。夏には、冷たい発酵飲料クワスを使った冷製スープ「オクローシカ」、冬にはキャベツをじっくり煮込んだ温かいスープ「シチー」など、季節ごとの野菜をたっぷり使ったスープも欠かせません。
収穫期になると、採れすぎたベリーや果物を使ってジャム(ヴァレーニエ)やコンポート(果実のシロップ煮)を作るのもダーチャでの大切な作業です。甘い香りが家中に広がる中、大きな鍋でじっくりと煮詰める時間は、豊かなひとときそのもの。こうして作られた保存食は、長い冬の間のビタミン補給として重宝され、夏の太陽の記憶を食卓に運んでくれます。
心をほぐす伝統の味、ピロシキとブリヌイ
ダーチャ滞在をしなくても、ベロオゼルスキの町の小さなカフェやパン屋(ベーカリー)で、ロシアの温かな家庭の味を楽しむことができます。
その代表的なものが「ピロシキ」です。日本では揚げパンのイメージが強いかもしれませんが、ロシアではオーブンで焼くスタイルが主流。ふわふわのパン生地には、ひき肉と玉ねぎ、キャベツ、マッシュポテト、ゆで卵とネギなど多彩な具材が詰められています。りんごやベリーのジャムを入れた甘いピロシキもあり、軽食やおやつに最適です。
もう一つ、ぜひ味わってほしいのが「ブリヌイ」です。これはロシア風クレープで、薄く焼かれたもちもちの生地が特徴です。スメタナやイクラをのせて食事として楽しむだけでなく、蜂蜜やジャム(ヴァレーニエ)をかけてデザートにすることもあります。特に冬の終わりに春の訪れを祝うお祭り「マースレニツァ」の期間中は、太陽の象徴であるブリヌイを毎日のように食べる習慣があります。
焼きたてのピロシキやブリヌイを口にすれば、その素朴で優しい味わいが旅の疲れを癒し、心の奥まであたためてくれることでしょう。
歴史の層を感じる、静謐なるスピリチュアル・スポット
ベロオゼルスキの魅力は美しい自然景観だけにとどまりません。この街には、人々の祈りが宿る場所や、かつての時代の記憶を映し出す風景が点在し、訪れる人に静かな内省のひとときをもたらします。
全ての聖人を記憶する教会 ― 新たな祈りの場として
町の中心部から少し離れた閑静な場所に、「全ての聖人を記憶する教会(Храм Всех Святых)」が建っています。ヨーロッパの壮麗な大聖堂とは異なり、この教会は21世紀になってから建設された比較的新しい木造建築です。しかし、その外観には古くから続くロシア正教会の伝統的な建築様式が色濃く息づいており、訪れる人の心を厳かにさせます。
青空を背景に、太陽の光を浴びて黄金色に輝くクーポラ(玉ねぎ型のドーム)が、のどかな町の風景に美しいアクセントを加えています。温かみのある木材で組まれた壁や、緻密な彫刻が施された窓枠など、細部にわたり職人の技巧が感じられます。内部に一歩足を踏み入れると、ステンドグラスを通した柔らかな光が差し込み、荘厳な静けさが広がっています。壁には多くの聖人の姿を描いたイコン(聖像画)が掛けられ、揺れる蝋燭の灯が空間にやさしい温もりを添えています。
この場所は、熱心な信者でなくとも、誰もが静かに自身と向き合える空間です。特定の信仰を持たずとも、この神聖な場に身を置くことで、日々の悩みや不安が和らぎ、心が清められるように感じられるかもしれません。また、この教会は宗教的な儀式の場であるだけでなく、地域のイベントや集会の場としても機能し、現代のコミュニティの中心的存在にもなっています。訪問時には信者の方々への敬意を忘れず、静かに振る舞うことが大切です。特に女性は、髪を覆うスカーフを携帯するとよりよいでしょう。
| スポット名 | 全ての聖人を記憶する教会(Храм Всех Святых) |
|---|---|
| 概要 | 伝統様式で建てられた美しい木造のロシア正教会。 |
| 場所 | ベロオゼルスキ町の住宅街に位置する。 |
| 建立 | 2005年 |
| 特徴 | 黄金色に輝くクーポラと温もりある木造建築が特徴。内部はイコンで飾られ、静けさと厳粛な雰囲気が漂う。地域の信仰とコミュニティの拠点。 |
| アドバイス | 訪問時は静粛に。露出の多い服装は控え、女性はスカーフを携帯することが推奨される。写真撮影は許可を取ってから行うこと。 |
町の風景に刻まれたソビエト時代の記憶
ベロオゼルスキの街を歩くと、もう一つの歴史的な層に気づかされます。それは、ソビエト連邦時代に起源を持つこの町の成り立ちそのものです。
町内には「フルシチョフカ」と呼ばれる、5階建て程度の規格化された集合住宅が数多く立ち並んでいます。これらはソビエト時代、住宅不足を解消する目的で大量に建設されたもので、装飾を極力省いたシンプルな外観が特徴です。現代の建築物と比べると古びて無機質に感じられるかもしれませんが、技術や社会的要求に即して機能性と合理性を追求した当時の完成形とも言えるでしょう。こうした建物が整然と並ぶ景色は、移り変わった時代のイデオロギーを静かに語りかけています。
駅舎や文化会館、商店といった公共施設にも、ソビエト時代の建築様式の面影が色濃く残っています。力強い直線や幾何学的なパターンを取り入れたデザインは、ノスタルジックな雰囲気を漂わせており、写真愛好家にとっても非常に魅力的な被写体となっています。
豊かな自然と人々の穏やかな暮らしに溶け込むこうした歴史の断片が、ベロオゼルスキという場所に深みを与えています。過去の社会システムと現在の個々の営みが共存する独特の雰囲気を感じながら歩くことは、単なる観光とは異なる知的な探求と発見の喜びをもたらしてくれるでしょう。
自分と向き合う時間を創る、ベロオゼルスキ流ウェルネス

ベロオゼルスキへの旅は、心身を癒すだけでなく、現代社会で私たちが忘れがちな「自分と向き合う時間」を取り戻す絶好の機会でもあります。ここでは、そのための具体的な方法をいくつかご紹介します。
意識的に「繋がらない」贅沢、デジタルデトックス
手の中にあるスマートフォンは便利なツールである一方、私たちの意識を常に外の世界に向けてしまうデバイスでもあります。ベロオゼルスキに到着したら、思い切って電源を切ってみませんか?あるいは機内モードに設定して、カメラだけを使う方法もおすすめです。
最初は少し不安を感じるかもしれませんが、やがて情報の洪水から解放された頭が驚くほどリラックスしていくことに気づくでしょう。通知に邪魔されることなく、目の前の風景に100%集中できる。鳥のさえずりや風の音に、今まで以上に耳を傾けられる。人と話すときも、相手の表情や声のトーンに集中しやすくなります。これこそ、現代における最も贅沢な時間のひとつと言えるでしょう。
旅のパートナーには、スマートフォンの代わりにノートとペンを携帯することをおすすめします。湖畔のベンチに腰かけたり、森の中の切り株に座ったりしながら、感じたことや考えたこと、心に浮かんだ言葉を自由に書き留めてみてください。手で文字を書くという行為は、デジタルな文字入力とは異なり、思考を整理し自分の内面と対話するための優れた瞑想の一手段となるでしょう。
湖畔でのヨガと瞑想
ベロオゼルスキの静寂な自然環境は、ヨガや瞑想などマインドフルネスを実践するのに最適な場所です。特別なスタジオや講師は必要なし。自然そのものが何よりの教師となってくれます。
朝、ベーロエ湖の岸辺にヨガマットを広げて、昇る朝日を浴びながら太陽礼拝をしてみましょう。新鮮な空気を吸い込み、呼吸に合わせて身体を動かすことで、心身と周囲の自然が一体となっていく心地よい感覚を味わえるはずです。ポーズの正確さよりも、自分が楽だと感じる範囲で動くことが肝心です。
また、チョールノエ湖の神秘的な森の中で瞑想を楽しむのも忘れがたい体験です。木の根元に静かに座り、目を閉じて呼吸に意識を集中させます。思考が浮かんできても追いかけず、ただ流れる雲のように眺めましょう。森の香りや土の手触り、かすかな音にも五感を開き、そのすべてを静かに受け入れます。たった10分でも、この静かな時間を過ごすことで心が深く落ち着き、新たなエネルギーが満ちてくるでしょう。
ロシア伝統のデトックス、バーニャ体験
ロシアのウェルネス文化を語るうえで欠かせないのが、「バーニャ」と呼ばれる伝統的なサウナです。単なる汗を流す場所ではなく、心身を浄化し、人々が交流を深めるための神聖な空間とされています。
基本的なバーニャの流れは、高温の蒸気室(パリルカ)で身体を温めた後、冷水のシャワーや湖に飛び込んで体を冷やし、休憩をはさみながらこれを繰り返すというもの。温冷を交互に繰り返すことで血行が促進され、新陳代謝が活発になり、体内の老廃物排出が助けられます。
バーニャの特徴的な要素のひとつが、「ヴェーニク」と呼ばれる白樺やオークの若枝の束を使うことです。熱い蒸気で蒸したヴェーニクで全身をリズミカルに叩くマッサージは、最初は驚くかもしれませんが、葉から放たれる精油成分とリズミカルな刺激が合わさり、深いリラクゼーションとマッサージ効果をもたらします。まさにロシア版のアロマトリートメントといえるでしょう。
バーニャの後は、ハーブティーやライ麦パンを原材料にした微炭酸の発酵飲料「クワス」を味わいながらゆっくりと身体を冷まします。この爽快感と内側から温まる感覚は、一度体験すると忘れられません。旅の締めくくりにバーニャを体験すれば、蓄積した疲れをすっかりリセットし、リフレッシュした気持ちで日常へ戻ることができるでしょう。
あなただけの癒しの旅へ ― プランニングガイド
ここまでお読みいただき、ベロオゼルスキへの旅に興味をお持ちの方へ、旅の計画に役立つ具体的な情報をお届けします。
モスクワからのアクセス方法
ベロオゼルスキへ向かう最も一般的で情緒豊かなルートは、モスクワのカザンスキー駅から出発するエレクトリーチカ(近郊電車)を利用することです。広大なロシアの風景を楽しみながら、ガタンゴトンと揺られる電車の旅は、旅行気分を一層高めてくれます。
目的駅は「ベロオジョールスカヤ(Белоозёрская)」で、所要時間は約1時間半です。切符は駅の窓口や券売機で購入可能で、近年は鉄道会社のアプリを使ったオンライン購入も普及しており、とても便利です。本数は比較的多いものの、あらかじめ時刻表を確認しておくことをおすすめします。車でのアクセスも可能ですが、モスクワ市内の交通渋滞を考慮すると、時間を安定して読める電車の方がストレスが少ないかもしれません。
滞在スタイルのご提案
ベロオゼルスキには大型ホテルはなく、その分この町の独特の魅力が保たれています。滞在スタイルは、旅の目的に合わせて多彩に選べます。
ダーチャのレンタル
最もおすすめしたいのは、ダーチャをレンタルして滞在する方法です。現地の人の暮らしを体験し、市場で食材を買い、自炊し、庭でのんびり過ごすという、格別な贅沢を味わえます。民泊サイトなどで短期間のダーチャレンタルが見つかります。
アパートメントホテル
町の中心部には、キッチン付きのアパートメントタイプ宿泊施設がいくつかあります。自炊が可能でありながら、駅や商店へのアクセスが便利な点がメリットです。
近隣のサナトリウム(療養施設)
健康増進や療養を本格的に目的とする場合は、ベロオゼルスキ周辺にあるサナトリウムに宿泊する選択肢もあります。こうした施設では、医師の管理のもと、多彩なウェルネスプログラムや治療が受けられることがあります。
旅をより快適にするポイント
ベストシーズン
ベロオゼルスキは四季折々に美しさがありますが、特におすすめなのは、新緑が鮮やかな初夏(6月ごろ)と、黄葉が見事でキノコ狩りも楽しめる初秋(9月ごろ)です。湖でのアクティビティを満喫したいなら、夏(7月から8月)がベストシーズンとなります。
服装について
森や湖畔を散策する機会が多いため、歩きやすい靴は必須です。夏でも朝晩は冷え込むことがあるので、薄手のジャケットやパーカーなど、羽織りものを用意しておくと安心です。また、森の中は蚊などの虫が多いため、虫除けスプレーを持参し、長袖や長ズボンを着用するなどの対策も忘れずに行いましょう。
ロシア語のポイント
町の中心部を離れると英語が通じにくい場面が増えますが、心配はいりません。基本的な挨拶「こんにちは(ズドラーストヴィチェ)」「ありがとう(スパスィーバ)」や数字だけでも覚えておくと、コミュニケーションが格段にスムーズになり、現地の人々も喜んでくれるでしょう。スマートフォンに翻訳アプリを入れておくと、いざという時に心強い味方となります。
旅の心得
ベロオゼルスキを存分に楽しむ秘訣は、予定を詰め込みすぎず、ゆとりを持つことです。スケジュールのない時間を恐れず、むしろその時間を満喫する心構えが大切です。気の向くままに散歩をしたり、湖畔のベンチでゆったり過ごしたりと、そんな「何もしない」時間こそ、最高の癒しや新たな発見をもたらしてくれます。この地では、時間の流れに身を任せる旅をぜひ体験してください。

