南イタリアの眩い太陽が、アドリア海をきらきらと照らし出す。ブーツの形をしたイタリア半島の「かかと」の部分にあたるプーリア州、そしてその隣のバジリカータ州には、まるで時が止まったかのような、二つの不思議な街が存在します。一つは、おとぎ話の世界から抜け出してきたかのような、白い壁にとんがり屋根の家々が立ち並ぶ「アルベロベッロ」。もう一つは、太古の昔から人々が岩を掘り、渓谷に寄り添うように暮らしてきた洞窟住居の街「マテーラ」。どちらもユネスコの世界遺産に登録され、世界中の旅人を魅了してやみません。光の中に佇む幻想的な建築美と、大地の奥深くに刻まれた歴史の重み。この対照的な二つの街を巡る旅は、私たちに「人が住まうとはどういうことか」という根源的な問いを投げかけてくるかのようです。さあ、一緒に南イタリアの陽気な空気を感じながら、二つの奇跡の街を巡る旅に出かけましょう。あなたの心は、果たしてどちらの風景に強く惹かれるのでしょうか。
イタリアの旅の選択肢は他にもあり、例えば花の都フィレンツェと水の迷宮ヴェネツィアの間で心揺れる旅もまた、あなたの魂を惹きつけるかもしれません。
光と石灰が織りなす幻想風景、アルベロベッロへ

旅のスタートは、プーリア州の州都バーリから始まります。列車に揺られること約1時間半、車窓の外には果てしなく続くオリーブの木々と、乾いた赤土の大地が広がっています。やがて、独特の円錐形の屋根がポツポツと視界に入ると、胸が高鳴りを見せます。アルベロベッロ駅で降り、旧市街へ足を進めると、そこには現実とは思えない景色が広がっていました。青空と白く塗られた漆喰の壁、そして石灰岩を積み上げた灰色の屋根が織りなす鮮やかな対比。まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのよう、あるいは絵本の一ページに迷い込んだかのような、愛らしくも神秘的な家々が丘の斜面に密集しています。このとんがり屋根の住宅は「トゥルッロ(単数形)/トゥルッリ(複数形)」と呼ばれ、アルベロベッロの象徴となっています。その非日常的な美しさは、訪れる誰もが思わず声を上げるほど。太陽の光を浴びて輝く真っ白な街並みは、訪問者の心を瞬時に掴み、離さない魅力で溢れています。
トゥルッリとは何か? その歴史と構造の秘密に迫る
そもそも、なぜこの風変わりな形の家がこの地域にのみ集中して建てられるようになったのか。その起源にはいくつかの説がありますが、最も有力なのが「税金対策」という話です。17世紀、この地を治めていたナポリ王国は、新たに街を築く際に重い税を課していました。そこで当時の領主だったアックアヴィーヴァ伯爵は、徴税官が訪れた際にすぐに家を解体して「ここには家はなく、ただの石が積まれているだけだ」と言い逃れできるように、接着剤を使わず石を積み上げる「乾式工法」による建築を農民に命じたと伝えられています。屋根の頂点にある要石を一つ外せば、家全体が崩れ落ちる仕組みだったということからも、その巧妙さに驚かされます。こうして生まれたのが、たくましい庶民の知恵が形作ったトゥルッリの建築様式です。
トゥルッリの構造は極めてシンプルかつ合理的。壁は厚い石灰岩で造られ、夏は外の熱を遮断して涼しく、冬は内側の暖かさを保つため、天然の断熱材として機能します。そして最大の特徴である円錐形の屋根は、この地域で豊富に採れる平たい石灰岩の板「キャンカレッレ」を、下から上へと少しずつずらしながら円形に積み上げて作られています。この屋根は雨水を効率よく地面に流す役割も兼ねていました。また、多くのトゥルッリの屋根には、白漆喰で描かれた不思議なシンボルがあります。ハートに矢が貫いた模様や十字架、三日月、太陽などさまざまな種類があり、それらはキリスト教的象徴、原始的宗教の印、あるいは家主の職業表示など多様な意味合いを持つと考えられています。屋根に描かれたミステリアスなシンボルをひとつひとつ眺め、その意味を想像するのもアルベロベッロ散策の楽しみの一つ。それはまるで古代の謎解きのように、知的好奇心を刺激する体験です。
アイア・ピッコラ地区 – 静寂に包まれた暮らしの息吹
アルベロベッロのトゥルッリ群は、大きく二つの地区に分かれます。一つは観光客で賑わう「リオーネ・モンティ地区」、そしてもう一つが今も多くの住民が静かに暮らす「アイア・ピッコラ地区」です。私が最初に訪れたのはこのアイア・ピッコラ地区でした。リオーネ・モンティの賑やかさとは対照的に、ここは驚くほど静かで穏やかな空気が漂っています。約400軒のトゥルッリがひっそりと佇むこの地区は、まさに「生きている世界遺産」。迷路のように入り組んだ細い路地を進むと、軒先に干された洗濯物や窓辺の植木鉢に咲く可憐な花、日向ぼっこをする猫など、生活の温もりが感じられます。
観光地化されておらず、アルベロベッロのありのままの姿がここにあります。石畳の道をゆっくり歩きながら聞こえてくるのは鳥のさえずりと遠くの住民の会話だけ。たまに家のドアが開いて中から現れたおばあさんと目が合い、「ボンジョルノ(こんにちは)」と挨拶を交わす。そんな些細な瞬間にも、この土地の温かさと歴史の奥深さを感じることができるのです。派手な見どころはないものの、この静かな空間で白い壁と灰色の屋根が続く景色に身を置いていると、心が清められるような瞑想的な気持ちになります。日常の喧騒から離れ、ただ純粋に美しい街並みを歩き、時間の流れに身を任せることのできる、そんな贅沢な時間を与えてくれる場所です。
| スポット情報 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | アイア・ピッコラ地区 (Aia Piccola) |
| 所在地 | Alberobello, Metropolitan City of Bari, Italy |
| 特徴 | 観光地化されておらず、現在も多くの住民が暮らす静かな地区。約400のトゥルッリが現存。 |
| おすすめの過ごし方 | 早朝や夕方の散策が最適。住民の生活を尊重し、静かに歩くことがマナー。写真撮影も節度を守って。 |
リオーネ・モンティ地区 – 活気と魅力あふれるおとぎの丘
アイア・ピッコラで静かな時間を過ごした後は、丘の斜面に約1000軒ものトゥルッリが密集するリオーネ・モンティ地区へと向かいます。こちらはアルベロベッロ観光のメインエリアであり、多くのトゥルッリが土産物店、レストラン、カフェ、工房として活用されて活気にあふれています。まるでおとぎ話の村に入り込んだかのような可愛らしい街並みは、どこを切り取っても絵になる風景です。坂を上り下りしながら個性的なお店を覗く体験はまさに宝探しのような楽しさ。
地元産の陶器やオリーブオイル、ワイン、手織りリネン製品など、プーリア州の特産品がずらりと並び、見ているだけでも退屈しません。トゥルッリ内部を見学できる店も多いため、ぜひ足を踏み入れてみてください。外観とは異なる、円錐状の天井が醸し出す独特な空間感覚は非常に興味深いものです。散策に疲れた時は、トゥルッリを改装したカフェでひと休み。石造りのひんやりとした壁に囲まれながら味わうエスプレッソは格別です。また地区の高台付近にあるサンタントニオ教会も必見。こちらもトゥルッリ様式の珍しい教会で、街の風景に溶け込んで静かに佇んでいます。さらに、地区内の展望スポットからは、眼下に広がるトゥルッリの壮大なパノラマビューを楽しめます。灰色のとんがり屋根が波のように連なる光景はまさに絶景で、夕暮れ時には街全体がオレンジ色に染まり、一層幻想的な雰囲気に包まれます。
| スポット情報 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | リオーネ・モンティ地区 (Rione Monti) |
| 所在地 | Alberobello, Metropolitan City of Bari, Italy |
| 特徴 | 約1000軒のトゥルッリが密集し、アルベロベッロ観光の中心を成す。土産物店やレストランが多い。 |
| おすすめの過ごし方 | 坂道の散策やショップ巡り、トゥルッリのカフェでの休憩、展望台からの景色鑑賞が楽しい。 |
アルベロベッロのグルメ体験 – プーリアの恵みを堪能する
旅の醍醐味のひとつは、やはりそこでしか味わえない食文化です。アルベロベッロが位置するプーリア州は、イタリア屈指の「美食の地」としても知られています。豊かな日照と肥沃な土壌から生まれるオリーブオイル、新鮮な野菜や小麦、そしてアドリア海で獲れる魚介類など、素材の味を活かした素朴で美味しい料理が豊富です。この地でぜひ味わいたいのが、プーリア州の代表的なパスタ「オレッキエッテ」。耳たぶのような形が愛らしく、もちもちとした食感が特徴で、伝統的にはカブの葉のソースで和えますが、トマトやミートソースとも抜群に合います。
私が訪れたのはリオーネ・モンティ地区にある小さなトラットリア。トゥルッリの内部をリノベーションした趣ある店内は地元の家族連れで賑わっていました。そこで注文したのはもちろんオレッキエッテと、もう一品は肉の薄切りにチーズやハーブを巻いて煮込んだ「ブラチョーレ」。素朴ながら深い味わいが旅の疲れを優しく癒してくれました。そしてこれらの料理に合わせたのが地元産のワイン。プーリア州は、果実味豊かで力強い赤ワイン「プリミティーヴォ」の名産地として名高いのです。太陽の恵みをたっぷり浴びたブドウから造られるワインは濃厚でスパイシー、肉料理との相性も抜群。ついグラスが進んでしまいました。料理を通じて土地の風土や文化を味わう、それこそが旅の醍醐味だと改めて感じた夜でした。
トゥルッリに泊まるという非日常体験
アルベロベッロを訪れる際には、ぜひ「トゥルッロに宿泊する」という体験をおすすめします。街にはトゥルッリを改装したB&Bやホテルが数多くあり、この独特な建築の中で一夜を過ごせる貴重な機会が待っています。私が選んだのは、アイア・ピッコラ地区にある、いくつかのトゥルッリが連結して一つの宿泊施設となっているタイプの宿でした。チェックインで鍵を受け取った後、案内されたのは小ぢんまりとした愛らしい一軒のトゥルッロ。厚い木の扉を開けると、ひんやりとした空気が肌に触れました。
内部は歴史的な外観とは対照的に、快適なベッドや最新のシャワールームが整えられ、美しく改装されていました。しかし、何より心に残ったのは、その空間そのものの雰囲気です。壁は漆喰で真っ白に塗られているものの、ところどころ石肌が露出し、長い歳月を感じさせます。そして見上げると、石が渦を巻くように積み上げられた円錐形の天井が、独特の安心感と包み込むような温かさで迫ってきました。まるで原始の避難所にいるかのような、不思議な感覚に包まれます。夜、ベッドに横になり静寂の中でその石造りの天井を見つめると、自分が歴史の一部になった錯覚に陥りました。
さらに、夜のアルベロベッロの魅力は、宿泊者だけが味わえる特別なものです。日中の喧騒がまるで嘘のように消えた街を歩く体験は格別でした。オレンジ色の街灯に照らされたトゥルッリは、昼とは異なる幻想的でロマンチックな顔を見せてくれます。空を見上げれば満天の星空。とんがり屋根のシルエット越しに見上げる星空は、心に深く刻まれる思い出となりました。朝は鳥のさえずりで目が覚め、トゥルッロの小さな窓から差し込む柔らかな陽光を浴びる。この土地の歴史とともに眠り、目覚める体験は、単なる観光では得られない、心に響く感動をもたらしてくれました。
渓谷に潜む奇跡の景観、マテーラへの旅路

アルベロベッロの夢のような世界に名残惜しさを感じつつ、次の目的地マテーラへと向かいます。プーリア州から隣接するバジリカータ州へ移動し、車窓の景色はオリーブ畑から徐々に荒涼とした岩だらけの大地へと変わっていきました。そして約1時間半後、マテーラの新市街に到着。整然とした近代的な建物が並ぶ、ごく普通の南イタリアの街並みです。しかし、旧市街の展望台に足を踏み入れた瞬間、その光景に息を呑みました。目の前に広がったのは、この世のものとは思えないほどの壮大なスケールの風景だったのです。
グラヴィーナ渓谷の険しい斜面に無数の洞窟住居が蜂の巣のようにびっしりと重なり合い、その家々の屋根が上にある家の通路となっている様はまるで巨大な彫刻作品か、古代文明の遺跡のよう。これがマテーラの洞窟住居群「サッシ」です。その景色は、アルベロベッロの「可愛らしさ」とは対照的に、荘厳で荒々しく、どこか神聖な雰囲気を漂わせていました。この街は壮絶な歴史を持ち、旧石器時代から人々が住み続けてきた世界最古の都市の一つである一方、20世紀半ばまで電気も水道もない不衛生な洞窟で家畜と共に暮らしていました。その貧困の深刻さからマテーラは「イタリアの恥」とまで呼ばれていたのです。しかし、この苦難の歴史を乗り越え、1993年には独特の文化的景観が認められて世界遺産に登録されました。負の遺産から人類の財産へと変貌を遂げたこの背景を知ると、今目の前にある風景がより一層、心に深く響いてきます。
サッシの歴史 — 貧困から文化遺産への転換
マテーラのサッシ地区の歴史を理解することは、この街を訪れるうえで欠かせません。起源は9000年以上前の新石器時代にまで遡り、人々は柔らかい凝灰岩の岩盤を掘って自然の洞窟を利用し住居を築きました。その後何世紀にもわたり住居を掘り進めて増築を繰り返し、現在の複雑で迷路のような街並みが形成されています。中世には東方から逃れてきたキリスト教の修道士たちが150以上の岩窟教会を造り、ビザンチン様式の美しいフレスコ画が今も壁に残っています。
しかし近代化が進むに連れ、マテーラの環境は悪化し、人口密集による衛生状態の悪さから貧困と病気が蔓延しました。この悲惨な実情を世界に知らしめたのが、1945年に作家カルロ・レーヴィが発表した小説『キリストはエボリで止まった』です。ファシスト政権下でこの地に流刑されたレーヴィがマテーラの過酷な現実を詳細に描いたこの作品は、イタリア社会に大きな衝撃を与えました。結果として1950年代にイタリア政府はサッシ地区の住民を新市街へ強制移住させる法律を制定し、サッシはゴーストタウンとなったのです。
しかし時代が進むにつれて、サッシの文化的・歴史的価値が再評価され始めます。建築家やアーティストたちがその独特の景観美に注目し、保存と再生の取り組みが活発化しました。人々は再びサッシに戻り、廃墟同然の洞窟は最新設備を備えたホテルやレストラン、住居、アトリエへと生まれ変わりました。かつて貧困の象徴であった「恥」の街は、人類の叡智と不屈の精神を示す「文化遺産」へと劇的に生まれ変わったのです。この歴史の変遷こそがマテーラの最大の魅力と言えるでしょう。
サッソ・カヴェオーゾ — 原初の暮らしの痕跡をたどる
マテーラのサッシは主に二つの地区に分かれており、その一つが渓谷に近い南側の「サッソ・カヴェオーゾ」です。ここにはより古い時代の手つかずの洞窟住居が多く残り、マテーラの原風景とも呼べる場所です。崩れかけた洞窟や空洞となった住居跡が点在し、かつての厳しい暮らしの記憶を生々しく伝えています。
この地区に訪れた際は、ぜひ「カーサ・グロッタ(洞窟の家)」と称される当時の暮らしを再現した小さな博物館を訪ねてみてください。一つの洞窟内にベッドや台所、家畜小屋が共存する様子が復元されており、粗末な家具や壁の煤、さらには家畜の匂いまでも感じ取れるかのように、生きた人々の息づかいが伝わってきます。家族全員がこの狭い空間でロバや鶏と共に眠っていたという事実には言葉を失いますが、そこには貧困だけでなく家族が支え合って生きてきた温かさや、過酷な環境を乗り越える知恵も感じられます。
またサッソ・カヴェオーゾには多くの岩窟教会が点在しています。特に印象深いのが巨大な岩の塊の上に築かれた「サンタ・マリア・デ・イドリス教会」です。簡素ながらも岩をくり抜いた内部には複数の層にわたって描かれたビザンチン様式のフレスコ画が残され、神秘的な雰囲気を醸し出しています。薄暗い洞窟内でろうそくの明かりに照らされる聖人の姿は、まるで時空を超えたかのような荘厳さをもたらします。この地区を散策することは、マテーラの深い歴史と重みを五感で感じる貴重な経験となるでしょう。
| スポット情報 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | サッソ・カヴェオーゾ (Sasso Caveoso) |
| 所在地 | Matera, Province of Matera, Italy |
| 特徴 | 古い時代の洞窟住居が多く残る地区。岩窟教会や当時の生活を再現した博物館が点在。 |
| おすすめスポット | カーサ・グロッタ・ディ・ヴィーコ・ソリタリオ、サンタ・マリア・デ・イドリス教会、サン・ピエトロ・カヴェオーゾ教会 |
サッソ・バリサーノ — 再生と活気あふれる街並み
サッソ・カヴェオーゾでマテーラの歴史に触れた後は、もう一つの地区「サッソ・バリサーノ」へ向かいましょう。こちらは比較的裕福な人々が住んでいたエリアで、洞窟住居の前面に石積みの立派なファサード(建物の正面)が特徴的です。今では多くの洞窟が美しく改装され、エレガントなレストランやブティック、高級ホテルとして活用されており、洗練された活気が満ちています。
サッソ・バリサーノの散策はこの街の再生の物語を目の当たりにする体験と言えます。かつての貧民街が、今では世界中から観光客が集まる魅力的なスポットとなり、その変貌ぶりには目を奪われます。洞窟を改装したレストランでの食事は、マテーラ滞在のハイライト。岩肌がむき出しの壁やアーチ天井とモダンなインテリアが調和した空間は幻想的です。そこで味わうマテーラ名物の郷土料理はとびきりの美味しさ。「クラピアータ」という豆や野菜の煮込みスープや、揚げパンの「パンツェロッティ」など、貧しい時代から受け継がれる伝統の味は滋味豊かで心身に沁みわたります。
また、ここで一杯いただきたいのがバジリカータ州を代表する赤ワイン「アリアニコ・デル・ヴルトゥレ」。古代ギリシャに由来するブドウから造られ、骨格がしっかりして複雑な風味を持つこのワインは、まさにマテーラの重厚な歴史を象徴しています。洞窟レストランの独特の空間で土地の料理とワインを味わうことは、マテーラの過去と現在が交差する忘れがたい食体験となるでしょう。サッソ・バリサーノは、力強い生命力と未来への希望を感じさせる場所です。
| スポット情報 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | サッソ・バリサーノ (Sasso Barisano) |
| 所在地 | Matera, Province of Matera, Italy |
| 特徴 | 洞窟住居の前に石造りのファサードがある建物が多い。レストラン、ホテル、ショップが集まる洗練された地区。 |
| おすすめの過ごし方 | 洞窟レストランで食事、ブティックで買い物、改装された洞窟ホテルの見学など。 |
マテーラの夜景 — 黄金色に輝くプレセペの舞台
マテーラの本当の美しさは、夜にこそその真価を発揮します。夕暮れ時、渓谷が深い藍色に染まる頃、サッシの家々にぽつぽつと灯りが灯り始め、その光景は息をのむほど幻想的です。無数の小さな灯りが暗闇の中で浮かび上がり、まるで星空が地上に降りてきたかのよう。イタリアではこのマテーラの夜景を、キリストの降誕シーンを模した模型「プレセペ」に例えています。まさに巨大なプレセペと称されるその神々しい美しさは、誰もが心を奪われることでしょう。
夜景観賞のスポットとしては、新市街のドゥオーモ(大聖堂)広場や対岸のムルジェッキア公園の展望台が特におすすめです。そこから望むサッシ全体のパノラマはまるで一枚の絵画のよう。静寂の中、黄金色に輝くこの古代都市を見つめると、時間の感覚が消え去り、まるで別の時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。何千年もの間、人々はここで灯りを守り祈り続け、多くの魂がこの場所に息づいているように感じられるのです。昼間の荒々しい姿とは対照的に、夜のマテーラは穏やかで荘厳な顔を見せ、ただ美しいだけではない、見る者の心に深く語りかけるスピリチュアルな力に満ちています。
光と影、天と地 – アルベロベッロとマテーラの対比
アルベロベッロとマテーラ、二つの世界遺産を巡る旅を終えて、その対照的な魅力について改めて考えてみたいと思います。アルベロベッロはまさに「光」と「天」の街でした。太陽の光を反射して輝く真っ白な壁と、空へ向かって尖った屋根。その景色は明るく伸びやかで、まるでおとぎ話の世界のように感じられます。一つひとつのトゥルッリは独自の個性を持ちながらも、全体として調和のとれた愛らしい共同体を形づくっています。そこには、夢見る心やファンタジーといった、軽やかでポジティブなエネルギーが満ちています。
一方、マテーラは「影」と「地」の街と呼ぶにふさわしい場所です。大地を深く掘り下げて築かれた住まいが、渓谷の影にひっそりと広がります。その風景は重厚で荘厳、何千年もの歴史の重みを感じさせます。家々は互いに寄り添い、支え合うように密集して、まるで一つの生命体のような壮大な景観を作り出しています。そこにあるのは、過酷な歴史や人間の逞しさ、大地との深い結びつきといった、シリアスかつ根源的なエネルギーです。アルベロベッロが天へと向かう建築であるのに対し、マテーラは地に根ざした建築と言えるでしょう。光と影、天と地、軽やかさと重厚さ。この二つの街はまさに見事な対比を見せています。
「生きるための知恵」という共通点
これほど対照的な二つの街ですが、その根底には実は深い共通点があります。それは、どちらも「その土地の資源を最大限に活用し、厳しい自然環境や社会状況の中で生き抜くための人間の知恵の結晶である」ということです。アルベロベッロの人々は豊富な石灰岩を用い、接着剤を使わずに家を建てる独創的な技術を生み出しました。それは税金を逃れるための現実的な理由から発展しましたが、その結果として、夏は涼しく冬は暖かい、この土地の気候に適した快適な住まいを得たのです。
一方のマテーラの人々は、柔らかい凝灰岩の岩盤をひたすら掘り進め、風雨をしのぎ外敵から身を守る安全な住まいを確保しました。資源の乏しい土地で生きるために選ばれた、最も合理的かつ原始的な方法だったのです。アルベロベッロは石を「積み上げる」ことで創造したのに対し、マテーラは石を「掘り下げる」ことで築きました。手法は真逆ですが、どちらも石灰質の岩を素材として向き合い、驚くべき独創性を発揮しています。現代の私たちが求める便利さや快適さとは異なり、そこには「生きる」ことの原点があるのです。自然と向き合い、知恵を絞り、助け合いながらコミュニティを営む。40代を過ぎてこれからの生き方を模索する私たちにとって、この二つの街が示す、持続可能で足元をしっかりと見据えた暮らしのあり方は、多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
魂の故郷を探す旅の終わりに

結局、「とんがり屋根の街と洞窟住居の町、あなたの心はどちらに惹かれるか?」という問いに対して、簡潔な答えを導き出すことはできませんでした。アルベロベッロは、心躍るような明るさと幻想的な美しさを持ち、マテーラは、魂の奥深くに響く歴史の重厚さと荘厳さを宿しています。どちらも私の心に深く、しかし異なる形で刻まれました。光を求める心と影に安らぎを見いだす心、天を仰ぎたい魂と大地に根ざしたい魂。おそらく私たちの内側には、この両方の要素が共存しているのでしょう。
アルベロベッロは、忘れていた子どもの頃の夢や遊び心を呼び覚ましてくれた場所でした。一方、マテーラは、自分のルーツや人間という存在の本質についてじっくり考えさせられる場所でした。このふたつの町を巡る旅は、まるで自分の心の光と影、二つの側面をめぐる旅でもありました。もしかすると、旅とは、自分でも気づいていなかった自分の側面と出会い、魂が安らげる場所、すなわち精神的な故郷を探すためのものなのかもしれません。
南イタリアのこの地で、私は何度も魂が揺さぶられるような感動を味わいました。もしあなたが、日常の中で少し立ち止まり、自分自身と向き合う時間を持ちたいと思うのなら、ぜひこのふたつの町を訪れてみてください。そして自らの心に問いかけてみてほしいのです。とんがり屋根の街と洞窟の住居、あなたの魂はいま、どちらの風景を求めていますかと。その答えを見つける旅は、きっとあなたの人生にとってかけがえのない宝となることでしょう。さて、素晴らしいワインと物語に出会えたこの旅に感謝しつつ、私はまた次の酒場、いや次の街へと足を向けることにします。

