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    ドイツ・ラールの恵みと生きる。黒い森の麓で心と体を癒す、地産地消費のウェルネス旅

    南米の灼熱の太陽の下で育った私、アトラにとって、ドイツの森はどこか神秘的で、静かなエネルギーに満ちた場所に感じられます。今回私が訪れたのは、雄大なシュヴァルツヴァルト、通称「黒い森」の西端に抱かれるように佇む街、ラール。石畳の広場、パステルカラーの壁が可愛らしい建物、そして街のどこにいても感じられる、深く、澄んだ森の香り。それは、私がこれまで旅してきたどの場所とも違う、穏やかで優しい空気に満ちていました。

    旅の目的は、有名な観光地を巡ることではありません。この土地に根ざし、自然のサイクルと共に生きる人々の暮らしに触れ、その恵みである「食」を通して、心と体の声に耳を澄ませること。それは、情報過多な日常から少しだけ距離を置き、自分自身をリセットするための、いわば「食べる瞑想」のような旅です。ラールの豊かな大地が育んだ食材たちは、一体どんな物語を私たちに語りかけてくれるのでしょうか。本当の豊かさとは何か、自然と調和して生きるとはどういうことか。その答えのひとかけらを、この街で見つけられるような気がして、私の心は高鳴っていました。さあ、一緒に黒い森の麓で、滋味あふれるウェルネスな旅を始めましょう。

    このようなドイツの旅に興味があるなら、ライン川沿いに点在するロマネスク教会を巡る魂の巡礼の旅もおすすめです。

    目次

    黒い森の玄関口、ラールの自然が育む食文化

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    ラールの街を歩いていると、ふとした瞬間に森の存在感が感じられます。それは風に乗って漂う土や木々の香りだったり、遠くに見える森の深い緑だったりします。この町の食文化は、まさにこの豊かな自然環境と切っても切れない関係にあります。単に腹を満たすだけでなく、季節の移り変わりを感じ取り、地のエネルギーを体に取り込むための大切な営みなのです。

    ラールの地理と気候がもたらす恵み

    ラールは、西に雄大なライン川が流れ、東にはシュヴァルツヴァルトの森が広がる、ライン渓谷と呼ばれる地域に位置します。この地形が、ラールに多大な恩恵を与えています。渓谷はドイツの中でも特に温暖で日照時間が長く、「ドイツのトスカーナ」とも呼ばれるほどです。この豊かな太陽光を浴びて、ブドウや果物は驚くほど甘く、香り高く育ちます。街の周囲には広大なブドウ畑が広がり、秋にはたわわに実ったブドウが収穫されて、質の高いワインへと変わっていきます。

    一方、背後にそびえるシュヴァルツヴァルトは異なる恩恵をもたらします。深い森のなかでは、力強い味わいを持つジビエ(鹿や猪など)が動き回り、雨上がりには多種多様なキノコが顔を出します。さらに、この森は天然のハーブの宝庫であり、古くから人々はこれらの植物を料理や民間療法に活用してきました。温暖な渓谷の恵みと、涼しい森の恵み。この二つの異なる自然が交わることで、ラールの食文化は非常に多彩で奥深いものとなっています。春は白アスパラガス、夏はベリー、秋はキノコや新酒、冬は滋味豊かなジビエ料理。ラールでの食事はまさに、季節を味わう体験そのものといえるでしょう。

    週に一度の楽しみ、ヴォッヘンマルクト(週市)

    ラールの人々の暮らしや食文化を身近に感じられる場所、それが毎週マルクト広場で開催される「ヴォッヘンマルクト(週市)」です。私が訪れたのは、澄んだ空気に包まれた火曜日の朝。広場には色鮮やかなテントが並び、街の人々がそれぞれのバスケットを手に集まっていました。

    一歩踏み入れると、五感を刺激する楽園のような空間が広がります。土の香りが豊かな新鮮な野菜、艶やかな旬の果物、香ばしく焼き上げられたパンの匂い、そして地元産のチーズの豊かな香りが混ざり合い、生き生きとした人々の話し声とともに、市場全体が活気に満ちあふれています。南米の市場の熱気や喧騒とは異なり、どこか穏やかで秩序立った賑わいがそこにはありました。

    店頭には、見たこともない形や色の野菜が並びます。紫色のカリフラワー、縞模様のビーツ、ずんぐりとした形のカボチャなど。店主らしい笑顔の優しいおじさんに「これは何ですか?」と尋ねると、彼は嬉々としてその野菜の名前とおすすめの調理方法を教えてくれました。「このカボチャはね、スープにするとすごくクリーミーになるんだ。ほんの少しナツメグを加えるのがポイントだよ」。そんな何気ない会話の中に、食材への愛情や日常を楽しむ知恵が垣間見えます。

    特に私の心を惹いたのは、春にしか出回らない「シュパーゲル」、白アスパラガスです。ドイツの春の風物詩とも言われるこの野菜は、象牙のように白く、太く真っ直ぐに伸びています。農家の方々は、土を盛り上げて陽の光を遮りながら手間暇かけてこの「白い黄金」を育てています。その隣には、宝石のように輝く鮮やかな赤いイチゴも並びます。こちらも春から初夏にかけての短い期間だけ味わえる特別な果物です。ヴォッヘンマルクトは単なる買い物場所ではありません。季節の訪れを祝福し、生産者の顔を見て言葉を交わし、食卓に並ぶ物語ごと持ち帰る。そんな豊かな交流が生まれる場所なのです。私も教えられた通り、カボチャと摘みたてのハーブ、そして焼きたてのライ麦パンを買い求め、心もバスケットも満たされたまま市場を後にしました。

    項目詳細
    名称ヴォッヘンマルクト・ラール (Wochenmarkt Lahr)
    開催場所Marktplatz, Lahr/Schwarzwald
    開催日時毎週火曜日・金曜日の午前中(およそ7:00〜13:00)
    主な商品季節の野菜、果物、パン、チーズ、肉製品、花、ハチミツなど
    アドバイス早めの時間帯が品ぞろえも豊富でおすすめ。エコバッグの持参を忘れずに。

    ラールの畑から食卓へ。オーガニックファームで学ぶ大地の叡智

    市場で目にした新鮮な野菜たちの故郷は、どのような場所なのだろうかという好奇心に駆られ、私はラール郊外にあるオーガニック農場を訪ねることにしました。スーパーマーケットで整然と包装された野菜からは感じ取れない、土の香りや陽のぬくもり、そして生産者の熱い想いに直接触れてみたかったのです。これは、食べ物が単なる「商品」ではなく、生命の源であることを改めて実感するための大切な一歩でした。

    「農」に触れる体験 – 地元の農家での収穫体験

    私が訪れたのは、代々家族で農業を営んでいる小規模な農園です。農園主のクラウスさんは、日に焼けた穏やかな笑顔で私を迎えてくれました。「ようこそ。うちの畑は見た目は少し不揃いかもしれないけど、元気な野菜ばかりだよ」と彼は微笑みながら話します。言葉通り、畑には多様な種類の野菜がまるでパッチワークのように生き生きと育っていました。慣行農法のようにひとつの作物が整然と並んでいるのではなく、互いに良い影響を与え合うコンパニオンプランツと呼ばれる植物が共に植わっています。たとえば、トマトの隣には害虫を遠ざける役割のバジルが、ニンジンの近くには土壌を柔らかくするマリーゴールドが植えられているのです。これは、農薬に頼らず自然の力を活用して作物を育てる、長年の知恵であるとクラウスさんは教えてくれました。

    彼の手ほどきのもと、土の中からジャガイモを掘り起こす体験をしました。スコップを土に差し入れ、力を込めて掘り進めると、ごろんごろんと大小さまざまなジャガイモが姿を現します。冷たく湿った土の感触、ずっしりとしたジャガイモの重さ、そしてむっと立ち上る土の香り。五感が研ぎ澄まされる、非常に原始的な体験でした。普段何気なく口にしている食べ物が、このように土の中で育まれ、人の手で収穫されているという当たり前の真実を全身で感じていました。続いて、完熟したトマトをもぎ取らせてもらいました。ヘタの周囲まで真っ赤に色づいたトマトは、太陽のエネルギーがぎゅっと詰まった小さな宝物のよう。触れると生命力にあふれる張りを感じます。クラウスさんは言いました。「土が健康なら、野菜は自然と強く育つ。私たちはそのお手伝いをしているだけだよ」。彼の言葉には、自然への深い尊敬と謙虚さが込められており、心に深く響きました。

    採れたてを味わう至福 – ファームレストランの素朴なごちそう

    収穫体験のあと、農園に併設された小さなレストランで、採れたての野菜を使った昼食をいただきました。メニューは非常にシンプルです。今朝採れたばかりのジャガイモを茹でて、自家製のハーブクワルク(フレッシュチーズの一種)を添えた一品。そして、色とりどりの葉野菜と先ほど私がもぎ取ったトマトを使ったフレッシュサラダ、さらに焼きたての自家製パンが一切れ。

    一見するととても素朴で飾り気のない料理ですが、一口食べた瞬間、私は言葉を失いました。茹でただけのジャガイモは驚くほど甘くホクホクとしており、土の豊かな香りが口いっぱいに広がります。ハーブクワルクの爽やかな酸味と香りが、その素朴な甘みを一層引き立てていました。サラダのトマトは甘みと酸味のバランスが絶妙で、まるで果実のように濃厚な味わい。シャキシャキしたレタスの食感も心地よく、内側から体が浄化されていくような感覚に包まれました。これこそが「畑から食卓へ(Farm to Table)」の真髄であると実感したのです。余分な味付けや複雑な調理は必要ありません。太陽と大地、そして生産者の愛情こそが最高の調味料なのです。この食事を通じて、食べることの原点に立ち返ることができました。それは、生命をいただくことへの感謝であり、自然の恵みをありのままに受け入れる喜びでした。このシンプルでありながら極上のごちそうは、私の旅の中でも忘れがたい特別な思い出として心に刻まれました。

    ワイン街道の宝石。ラールのワイナリーで自然の雫を味わう

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    ラール周辺を車で走ると、丘の斜面を覆うブドウ畑が果てしなく広がる美しい景色に心を奪われます。ここはドイツを代表するワイン産地の一つであるバーデン地方です。太陽の恵みをたっぷりと浴びて育ったブドウから生まれるワインは、この土地のテロワール(土壌や気候など自然環境)を映し出す鏡のような存在です。私は、その自然の恵みであるワインの秘密を探るべく、小さな家族経営のワイナリーを訪ねてみました。

    バーデン地方のワイン造りに息づく歴史と伝統

    バーデン地方のワイン造りは、古代ローマ時代にまで遡ると伝えられています。暖かな気候とライン川がもたらした肥沃な土壌は、古くからブドウの栽培に適した環境を提供してきました。とりわけラールが属するオルテナウ地区は、急勾配の畑が多く、水はけの良さと日当たりの良さが高品質なブドウの生産に寄与しています。このエリアで造られるワインは、隣国フランスのブルゴーニュやアルザス地方の影響を受けつつも、独自の発展を遂げてきました。

    この地域を象徴するブドウ品種はピノ・ノワールの「シュペートブルグンダー」で、エレガントな酸味と豊かな果実味が特徴の気品あふれる赤ワインを生み出します。白ワインでは、ピノ・グリを指す「グラウブルグンダー」やピノ・ブランを意味する「ヴァイスブルグンダー」がよく知られており、ミネラル感豊かでしっかりした骨格を持ち、料理との相性も抜群です。近年ではリースリングの高品質なものも多く生産されています。多くのワイナリーは代々家族経営を続け、伝統を守りつつ新たな技術を積極的に取り入れ、土地の個性を最大限に表現しようと努力しています。彼らにとってワイン造りは単なる商売ではなく、土地の歴史と文化を継承し未来へつなぐ神聖な使命なのです。

    家族経営ワイナリー訪問記 — テイスティング体験

    私が訪れたのは、丘の中腹に佇む歴史ある石造りの建物が印象的なワイナリーでした。出迎えてくれたのは4代目の当主シュテファンさん。彼の案内でまずは涼しい空気が漂う地下ワインセラーを見学させていただきました。そこには大きな木樽が静かに並び、熟成中のワインから芳醇な香りが立ち上っていました。シュテファンさんは1つ1つの樽を大事そうに撫でながら、祖父の代から受け継いだワイン造りの哲学を語ってくれました。「私たちはブドウの声に耳を傾けている。いつ収穫すべきか、どんな樽で眠らせたいのか。自然のリズムに逆らわず、ブドウのポテンシャルを最大限に引き出すこと、それが私たちの使命だ」と。彼の言葉からは商業主義とは一線を画す職人の誇りと自然への敬意が深く伝わってきました。

    セラー見学の後はいよいよお楽しみのテイスティングです。窓の外に広がるブドウ畑を望む明るいテイスティングルームで、シュテファンさんが選んだ数種類のワインを味わいました。まずはヴァイスブルグンダーの白ワインから。グラスに注がれた液体は太陽の輝きを閉じ込めたかのような淡い黄金色に輝いています。グラスを回すと、青リンゴや白い花のような爽やかで繊細な香りが立ち昇りました。ひと口含むと、生き生きとした酸味と石灰質の土壌由来のキリリとしたミネラル感が口中に広がり、まるで体がすっきりと目覚めるかのようでした。次に試したグラウブルグンダーはさらに複雑で芳醇。洋梨やハチミツを思わせる甘く熟れたアロマが漂い、口当たりはまろやかでリッチでした。シュテファンさんによると「このワインは、この地元の名物料理であるフラムクーヘン(薄焼きピザのような料理)と特に相性がいい」のだとか。そして最後にいただいたのが、このワイナリーの看板ワイン、シュペートブルグンダーの赤です。ルビーのように澄んだ色合いで、ラズベリーやチェリーを思わせる赤果実の香りに、森の下草やなめし革といった複雑で深みのあるニュアンスが交じり合っています。味わいは非常にエレガントで、絹のように滑らかなタンニンと美しい酸が見事に調和し、まるでシュヴァルツヴァルトの静かな深い森を散策しているかのような心地よい余韻を残しました。ワインの一杯一杯にラールの太陽、大地、そして造り手の情熱が溶け込んでいることを舌で感じ取れた、至高のひとときでした。

    項目詳細
    ワイナリー名Weingut Schneider(架空の名称)
    所在地ラール郊外の丘陵地帯
    主なブドウ品種シュペートブルグンダー、グラウブルグンダー、ヴァイスブルグンダー、リースリング
    体験内容ワイナリー見学、セラー見学、テイスティング(予約制)
    アドバイス事前予約をおすすめします。運転される方は試飲を控えましょう。気に入ったワインはその場で購入可能です。

    黒い森の癒し。ハーブとスパイスが導く心身の調和

    シュヴァルツヴァルトの森は、食料や建材を提供するだけでなく、人々の心身を癒す「緑の薬局」としても機能しています。森の中を歩くと、そこかしこに薬効があるとされる多様なハーブが自生しており、長い歴史の中で人々はその知恵を伝え、日常の健康管理に活用してきました。ラール滞在中、私はこの森がもたらすハーブの世界に深く触れ、植物の不思議な力がどのように心と体に穏やかな調和をもたらすのかを体験することができました。

    森の薬局 ― 伝統的なハーブ療法に触れる

    ドイツでは「アポテーケ(Apotheke)」と呼ばれる薬局が町の至る所に点在しており、そこでは合成された医薬品だけでなく、豊富な種類のハーブティーや植物由来のレメディが販売されています。これは、軽度の不調を感じた際にはまず自然の力を借りて自身の治癒力を促すという自然療法(ナチュロパシー)の理念が人々の中に根付いているためです。私はラールの中心街にあるアポテーケを訪れ、薬剤師の方にハーブについて話を伺いました。

    店内にはずらりと並ぶハーブティーの棚があり、その多様さに圧倒されます。リラックス効果で知られるカモミールやリンデンフラワー、気分の落ち込みに効果があるとされるセントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)、消化を助けるフェンネルやアニスなどが揃っています。薬剤師の女性は私の稚拙なドイツ語にも丁寧に耳を傾け、それぞれのハーブの効能や正しい使い方を細やかに説明してくれました。「旅の疲れには、ラベンダーとレモンバームをブレンドしたティーがおすすめよ。夜寝る前に飲むと、心身共にリラックスできるわ」と彼女は言いました。その助言に従い、数種類のハーブティーを購入しました。夜、ホテルの部屋で淹れたハーブティーの温かい蒸気と優しい香りに包まれながら、日中の興奮で高ぶっていた神経が静まっていき、深い安らぎを感じることができました。それは薬のような劇的な効果ではないものの、植物の穏やかな力がゆっくりと確実に心身のバランスを整えてくれる実感でした。何世紀も前から人々に信頼されてきた森の知恵は、現代に生きる私たちにとってもかけがえのない宝だと改めて思わされました。

    香りのワークショップ ― オリジナルハーブソルト作り体験

    もっとハーブの魅力を知りたいと思い、地元のカルチャーセンターで開催されていた「ハーブソルト作り」ワークショップに参加しました。会場には幅広い年齢層の地元の人々が集まり、机の上には乾燥したローズマリー、タイム、オレガノ、マジョラムといった馴染みあるハーブから、初めて見るような花びらまで、多彩なハーブが並べられていました。

    講師の女性は、まず各ハーブの香りや特徴、そして料理への使い方について丁寧に解説してくれました。指先でローズマリーの葉を軽く揉むと、清涼感のある強い香りが立ち上り、頭がすっきりした感覚に包まれます。ラベンダーの蕾からは心を落ち着ける甘く優しい香りが漂います。私たちは様々な香りを嗅ぎ比べながら、直感で好みのハーブを選びブレンドしていきます。私は、ローズマリーの爽やかさにタイムの土のような香り、そして鮮やかなオレンジ色のカレンデュラ(マリーゴールド)の花びらを加えました。これらを乳鉢に入れて岩塩と共にすり潰すと、ハーブの精油成分が塩に移り、会場に心地よい香りが広がります。一見単調に思える作業も、ハーブをすり潰す音と香りに集中するうちに、自然と心が静まり瞑想に近い静かな状態になっていることに気づきました。五感を研ぎ澄まし、「今ここ」に意識を向ける――それは情報や思考で溢れた頭をリセットしてくれる素晴らしい体験でした。完成したハーブソルトは美しい小瓶に詰めて持ち帰ることができ、これは単なるお土産ではなく、ラールの森の香りを閉じ込めた旅の思い出そのものです。日本に戻ってから、このハーブソルトを使って料理をするたびに、その穏やかで豊かな時間を懐かしく思い出すことでしょう。

    ラールの食卓から学ぶ、サステナブルな暮らしのヒント

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    ラールでの滞在を通じて、この地の食文化に共通する価値観に気づくことができました。それは、自然への敬意と有限な資源を大切にする「サステナブル(持続可能)」な精神です。これは大げさに唱えられるスローガンではなく、人々の日常の中に自然と息づいている習慣でした。彼らの食卓からは、これからの時代を豊かに生きるための多くの教えを受け取れるかもしれません。

    ドイツの「もったいない」をなくす知恵

    ドイツの人々は食材を無駄にしないことを非常に重視しています。ヴォッヘンマルクトをのぞくと、形が少し歪んでいたり表面に傷がある「不揃い」な野菜が、割安で販売されているコーナーがあります。見た目の良さよりも野菜本来の価値を理解し、喜んでそれらを購入するのです。南米では見た目の悪い果物は敬遠されることが多いので、この考え方は新鮮に感じられました。

    家庭のキッチンでもこの知恵は生きています。例えば、普段なら捨ててしまいがちな野菜の皮やヘタ、芯などの部分も無駄にしません。これらを集めてゆっくり煮込めば、滋味豊かな美味しい野菜出汁(ブイヨン)が出来上がります。スープや煮込み料理のベースになるこの出汁は、料理に深い味わいを添えてくれます。また、少し古くなって硬くなったパンも貴重な食材です。薄くスライスしてカリッと焼けばクルトンになり、お湯や牛乳で戻して玉ねぎやハーブと混ぜれば「ゼンメルクヌーデル」というパン団子に生まれ変わります。食材を最後まで使い切ることは単なる節約ではなく、自然の恵みに対する感謝と敬意の表れです。この「もったいない」をなくす精神は、食べ物だけでなくあらゆる物に通じるドイツの基本的な考え方であり、大量生産・大量消費社会に生きる私たちが改めて見直すべき重要な視点だと感じました。

    季節と寄り添いながら生きること

    ラールでの食事を通じて、私は「旬」を味わうことの本当の意味を学びました。春になると、誰もが心待ちにしていた白アスパラガスが食卓の主役になります。レストランでは特別メニューが用意され、人々はその繊細な味わいを多彩な調理法で楽しみ尽くします。夏は森で摘んだり市場で買ったりしたカラフルなベリーを使い、ジャムやケーキ、デザートを作ります。秋はキノコ狩りの季節。森で採れたポルチーニやアンズタケの芳醇な香りがキッチンに満ち、新ワイン「フェダーヴァイサー」とともに実りの季節を祝います。冬の訪れとともに、ザワークラウトやレンズ豆の煮込み、ジビエのローストといった、体を温める保存食や力強い料理が食卓に並びます。

    一年中どんな食材も手に入る現代のスーパーと比べると、彼らの食生活はある意味で不便に映るかもしれません。しかし、季節に合わせて食卓の内容が変わることは、自然のリズムとともに生きている実感を与えてくれます。旬の食材は栄養価が高く、何より生命力にあふれていて美味しいのです。その時期にしか味わえないものを心待ちにし、思いきり楽しみ、次の季節をまた楽しみにする。このサイクルの中にいることで、体も心も自然に健やかになっていくのだと思います。季節感が薄れた都会の生活に慣れた私にとって、この体験は人間も自然の一部だということを改めて思い起こさせてくれる貴重なものでした。

    旅の終わりに。アトラが見つけた「本当の豊かさ」

    ドイツ・ラールの旅は、「豊かさ」という言葉の意味を大きく変えてくれました。これまでは、旅の豊かさをどれだけ多くの名所を巡ったか、どれだけ豪華な食事をしたかという目に見えるもので測っていたように思います。しかし、この街で出会ったのはもっと静かで内面的な豊かさでした。

    それは、ヴォッヘンマルクトで農家の方と交わしたさりげない会話の中にありました。オーガニック農場で触れた温かい土の感触の中にありました。ワイナリーの主が語ったブドウへの深い愛情の中にありました。そして、一杯のハーブティーがもたらす穏やかな安らぎの中にありました。ラールの人々は、自分たちを取り巻く自然に深い敬意を払い、その恵みに感謝し、そのサイクルに寄り添いながら暮らしています。彼らの食卓はその哲学を映し出す鏡であり、日々の生活が一つのアートのように感じられました。本当の豊かさとは、多くの物を所有することではなく、今ここにあるものに感謝し、その価値を味わい尽くすこと。そして、自分自身も大きな自然の一部であると感じながら健やかに生きること。ラールでの地産地消の旅は、そんなシンプルでありながら最も大切な真理を私に教えてくれました。この旅で得た気づきは、これからの私の人生をより深く味わい豊かなものにしてくれるでしょう。

    ラールへの旅の準備 – 基本情報

    ラールでのウェルネス旅を計画される方へ、基本的な情報と役立つポイントをまとめました。自然のリズムに寄り添い、ゆったりとした時間をお過ごしください。

    項目詳細
    アクセス最寄りの国際空港はフランスにあるストラスブール空港(SXB)、またはバーデン=バーデン空港(FKB)です。さらに、フランクフルト空港(FRA)からも鉄道でアクセス可能です。ドイツ鉄道(DB)を利用し、オッフェンブルク(Offenburg)駅でローカル線に乗り換えてラール(Lahr (Schwarzw))駅に向かいます。
    市内の交通市中心部は徒歩で十分に散策できます。郊外の農園やワイナリーへ訪問する際は、路線バスやレンタカーの利用が便利です。自転車も人気の移動手段で、各所にレンタルサイクルの貸し出しがあります。
    おすすめの滞在時期春(4月〜6月)は白アスパラガスやイチゴが旬の時期で、気候も穏やかで快適です。夏(7月〜8月)は緑が最も鮮やかになり、ベリー類のシーズンが訪れます。秋(9月〜10月)はブドウの収穫期で、新酒やキノコを楽しめるほか、ワイン祭りも開催されます。冬(11月〜3月)はクリスマスマーケットが開催され、静けさ漂う森の雰囲気を満喫できます。
    服装と持ち物歩きやすい靴は必須です。シュヴァルツヴァルト地方は天候が変わりやすく、夏でも羽織るものや折りたたみ傘があると安心です。市場や買い物にはエコバッグを持参すると便利です。農園での体験を予定している場合は、汚れても問題ない服装と靴を用意しましょう。
    その他レストランやワイナリーの見学は、特に週末は予約が推奨されます。基本的にドイツ語が使われますが、観光地では英語も通じることが多いです。簡単なドイツ語の挨拶(Guten Tag / こんにちは、Danke / ありがとう)を覚えておくと、地元の方との交流がより楽しくなります。
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    この記事を書いた人

    アパレル企業に勤めながら、長期休暇を利用して世界の街角を巡る旅ライター。歴史や素材の知識を活かした、おしゃれで知的な旅の提案が得意。治安情報や、スリ対策など、女性目線の安全対策に関する記事も人気。

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