日常の喧騒、デジタルデバイスから絶え間なく送られてくる通知、時間に追われる毎日。ふと、心と体が悲鳴を上げていることに気づく瞬間はありませんか。そんな時、私たちが必要としているのは、豪華なリゾートでも、刺激的なアクティビティでもなく、ただただ、ゆったりと流れる時間の中で自分自身を取り戻すような、穏やかな旅なのかもしれません。
今回ご紹介するのは、そんな願いを叶えてくれる特別な場所、ドイツ南西部に佇む小さな町「ラール(Lahr)」です。雄大な黒い森(シュヴァルツヴァルト)の麓に抱かれ、フランスとの国境にもほど近いこの町は、知る人ぞ知る癒やしのデスティネーション。その最大の魅力は、手つかずの豊かな自然と、中世の面影を色濃く残す美しい街並みが、見事に調和している点にあります。
そして、このラールの魅力を全身で、五感で味わうための最高のパートナーが「自転車」です。ペダルをひと漕ぎするごとに、目に飛び込んでくるのは絵画のような風景。肌を優しく撫でる心地よい風は、森の木々やブドウ畑の香りを運び、鳥のさえずりや小川のせせらぎが、耳に優しいBGMとなって旅を彩ります。
この記事では、ラールを自転車で巡る、心と体を健やかに満たす「ヘルシーな旅」を、具体的なプランや見どころとともに、たっぷりとご紹介していきます。体力に自信がない方でも楽しめるコースから、本格的な自然を満喫するコースまで、あなたのペースで楽しめるのが自転車旅のいいところ。さあ、深呼吸をして、地図を広げ、あなただけの特別な休日へと出発する準備を始めましょう。
ラールの旅でシュヴァルツヴァルトの魅力に触れたら、さらに深く黒い森で魂を癒す森林浴リトリートを体験してみてはいかがでしょうか。
なぜラール?心と体を満たす旅先に選ばれる理由

世界中に数多ある観光地の中で、なぜ今、ラールが心穏やかな旅を求める人々の心を惹きつけているのでしょうか。その理由には、他の場所ではなかなか味わえない特別な魅力がいくつも秘められています。
黒い森の玄関口としての壮大な自然環境への誘い
ラールは、その名にふさわしく、深く生い茂るモミの木に囲まれた神秘的な「黒い森(シュヴァルツヴァルト)」の西端に位置しています。このロケーションこそが、ラールを特別な場所にしている最大の特徴です。町を一歩出ると、そこはもう広大で神秘的な森の入口。透き通った空気や木々から放たれるフィトンチッド、鳥たちのさえずりが、日常の喧騒で疲れた私たちの心身をやさしく癒してくれます。
ドイツには「ヴァルトバーデン(森林浴)」という文化が深く根付いていますが、ラールではこれはまさに生活の一部となっています。自転車で少し走ればすぐに森の散策路へと入ることができ、木漏れ日を浴びながら深呼吸すれば、細胞の隅々まで元気が満ちていくのを感じられるでしょう。日常の騒音から解き放たれた静寂の中で、自分自身の内なる声に耳を傾ける。そんな贅沢な時間がここにはゆったりと流れています。
歴史と現代が調和した美しい街並み
ラールの魅力は、自然だけに留まりません。町の中心部に足を踏み入れると、中世の面影を色濃く残す石畳の小道や、パステルカラーに彩られた木骨造りの家々が並び、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような感覚に包まれます。町の象徴である「シュトルヒェントゥルム(コウノトリの塔)」は、かつて城塞であった歴史を現在に伝え、訪れる人々に静かに物語を語りかけます。
一方で、旧市街から少し離れると、洗練された現代建築や手入れの行き届いた公園が広がり、新旧が巧みに融合した心地良い空間が形成されています。特に毎年秋に開催される「菊の祭典(Chrysanthema)」の時期には、町全体が何万本もの菊の花で彩られ、その美しさに息を呑むことでしょう。歴史を大切にしつつ、現代の快適な生活環境を追求する——そうしたラールの姿勢が、町の風景からもひしひしと感じられます。
自転車に優しい街づくりの実現
ドイツが自転車先進国であることは広く知られていますが、ラールも例外ではなく、サイクリストにとって理想的な環境が整っています。市街地はもちろん、郊外に広がるブドウ畑や森の中に至るまで、安全で快適なサイクリングロードが網の目のように巡らされています。
特にライン川へと続く平坦な地域はほとんど起伏がなく、体力に自信がない方や久しぶりに自転車に乗る方でも、気軽にペダルを漕いで楽しむことができます。一方で、少し足を伸ばせば黒い森の丘陵地帯が広がり、チャレンジ精神あふれるサイクリストも満足できる走りごたえのあるコースが数多くあります。町にはレンタサイクル店も充実し、特に電動アシスト付きのE-Bikeを利用すれば、どんな坂道も笑顔でクリアできるでしょう。車窓からでは見逃してしまいがちな小さな発見や、地元の人々とのさりげない挨拶。自転車だからこそ体験できる一期一会の出会いが、あなたの旅をさらに豊かで特別なものに彩ってくれるはずです。
ラール自転車旅の始め方:準備とプランニング
魅力に満ちたラールでのサイクリング旅。その第一歩は、綿密な準備と計画から始まります。ここでは、現地までのアクセス方法や自転車のレンタル、そしてあなたに最適なサイクリングコースまで、旅のスタートを具体的にご案内いたします。
ラールへのアクセス手段
日本からラールへ向かう場合、まずはドイツの主要な国際空港を利用するのが一般的です。中でもフランクフルト国際空港(FRA)が最も利便性が高く、空港からはドイツ鉄道(DB)を使ってラールへ移動できます。フランクフルト空港内の長距離列車駅(Fernbahnhof)から高速鉄道ICEに乗り、オッフェンブルク(Offenburg)駅で普通列車に乗り換えれば、約2時間ほどでラール(Lahr (Schwarzw))駅に到着します。車窓に広がるドイツの田園風景を楽しみつつ、あっという間に目的地へ着きます。
また、フランスのストラスブール空港(SXB)や、スイスのバーゼル・ミュールーズ・フライブルク空港(BSL/MLH/EAP)からも鉄道やバスを乗り継いでアクセス可能です。旅程に応じて最適なルートを検討すると良いでしょう。DBのウェブサイトやアプリは英語対応もしており、チケットを事前に予約すると当日もスムーズに移動できます。
レンタサイクルで旅の相棒を手に入れよう
ラール駅に到着したら、まずは旅のパートナーとなる自転車をレンタルしましょう。駅周辺や市街地の中心部には複数のレンタルショップが点在しています。ホテルのコンシェルジュに相談したり、観光案内所で情報収集をすると便利です。
レンタルできる自転車の種類も多様です。石畳の旧市街をゆったり散策したい場合は、乗り降りしやすいシティバイクがおすすめです。郊外のブドウ畑や丘陵エリアへ足を伸ばすなら、多段ギア付きのクロスバイクや、特に体力に不安があるなら電動アシスト自転車(E-Bike)が頼もしい選択です。黒い森の坂道を登る際も、E-Bikeなら驚くほど楽にクリアでき、体力を温存しながら風景を存分に満喫できます。
レンタル料金は車種や時間帯によって異なりますが、1日あたり20ユーロ前後が目安です。借りる際は、身分証明書(パスポートなど)の提示が求められることが多いので必ず持参しましょう。ヘルメットや鍵、地図なども貸し出される場合が多いですが、必要な装備を事前に確認しておくと安心です。
おすすめサイクリングコース(モデルプラン)
自転車を手に入れたら、いよいよラールの町を巡る旅へ出発です。ここでは技術や体力レベルに合わせて3つのモデルコースをご紹介します。
初心者向け:市内散策&公園ピクニックコース(約1.5時間・5~8km)
まずはラールの町の空気を感じるのにぴったりの、ゆったりとしたルートです。マルクト広場からスタートし、石畳の道をのんびり進んで町の象徴シュトルヒェントゥルムを眺めます。その後、町の中心を流れる穏やかなシュッター川沿いを走行。川のせせらぎを聞きながらのサイクリングは心地よい体験です。最終地点は広大な市民公園シュタットパーク。ここで自転車を止め、芝生の上で休息したり、持参したサンドイッチでピクニックするのも素敵です。主要な見どころを巡りつつ、無理なく楽しめる、旅の始まりに最適なコースです。
中級者向け:ブドウ畑と丘陵の絶景コース(約3時間・15~20km)
少し冒険心をくすぐるのが、ラール郊外の美しいブドウ畑を巡るルートです。ラールはライン平野に位置しますが、東側には黒い森へ続く緩やかな丘陵が広がっています。斜面は日当たりが良く、バーデン地方の名高いワインを育むブドウ畑が一面に広がっています。整然と並ぶブドウの木々の風景は見事です。E-Bikeならこの丘陵地帯も疲れ知らず。丘の中腹に達すると、赤い屋根のラールの街並みと、その先に広がるライン平野の壮大な景色を一望できます。途中でワイナリーに立ち寄りワインのテイスティングを楽しむのも、このコースの醍醐味です。
健脚向け:黒い森チャレンジ&森林浴コース(半日~1日・30km以上)
本格サイクリングと深い自然体験を求めるなら、黒い森の奥深くを目指すコースに挑戦してください。このルートは急な登りが続くため、体力自慢かE-Bikeの併用がおすすめです。鬱蒼と茂るモミの木トンネルを抜けて標高を上げる道は、まさに冒険そのもの。時折視界が開ける場所からは絶景が広がります。森の深部では車の音は全く聞こえず、風や鳥のさえずりだけが響く、まさに至福の森林浴空間。途中の山小屋(Hütte)で素朴なドイツ料理を味わうのも特別な体験になるでしょう。万全な準備と計画をもって、黒い森の神秘的な空気に触れる忘れがたい一日をお過ごしください。
自転車で訪れたいラールの見どころスポット
自転車という自由な翼を手に入れたら、ラールの多彩な魅力を巡る旅へと繰り出しましょう。歴史が香る旧市街、美しい緑のオアシス、そして息を呑む絶景スポットまで。ペダルを漕ぎながら訪れたい、ぜひ立ち寄りたいおすすめの場所をご紹介します。
時を感じる歴史の旧市街
ラールの心臓部に位置する旧市街は、まるで時が止まったかのような特別な空間です。自転車をゆったり走らせながら、一つひとつの建物が秘める物語に思いを馳せてみてはいかがでしょう。
マルクト広場 (Marktplatz)
町の生活の中心であり、人々の笑顔が集う場所、それがマルクト広場です。広場を囲むように壮麗な市庁舎や色彩豊かな木組みの家々が立ち並び、訪れる人々の目を楽しませています。週に数回開催される市場の日には、この広場が最も活気づきます。地元の農家が丹精込めて育てた新鮮な野菜や果物、焼きたてパンの香り、色とりどりの花々、そして味わい深いチーズやハムを並べた屋台が軒を連ねます。売り手との気さくな会話も旅の思い出に彩りを添えるでしょう。自転車を停め、この賑わいに身を委ねるだけで、ラールの日常に溶け込むような感覚が味わえます。
| スポット名 | マルクト広場 (Marktplatz) |
|---|---|
| 住所 | Marktplatz, 77933 Lahr/Schwarzwald, Germany |
| 見どころ | 歴史的な市庁舎、木組みの家々、週数回の市場開催 |
| おすすめの過ごし方 | 市場で新鮮な食材を購入したり、周囲のカフェでひと休みするのがおすすめです。 |
シュトルヒェントゥルム (Storchenturm)
マルクト広場からほど近い場所にそびえる、石造りの塔シュトルヒェントゥルムがあります。別名「コウノトリの塔」と呼ばれ、13世紀に築かれたラール城の唯一現存する遺構であり、町の歴史を静かに見守り続けるシンボルです。かつてはコウノトリがこの塔に巣を作り、人々に親しまれていたと伝えられています。どっしりとした佇まいは、長い年月の重みを感じさせ、町の歴史の深さを伝えてくれます。塔の周辺を自転車でゆっくり一周しながら、中世の騎士たちの姿を想像するのも楽しいでしょう。
| スポット名 | シュトルヒェントゥルム (Storchenturm) |
|---|---|
| 住所 | Turmstraße, 77933 Lahr/Schwarzwald, Germany |
| 見どころ | 13世紀建造の城の塔。ラールの象徴的存在。 |
| 注意点 | 屋内は常時公開されていないため、主に外観の見学になります。 |
緑に包まれた憩いのオアシス
サイクリングで汗をかいたら、美しい緑の中で心身をリフレッシュしましょう。ラールには、市民に愛される素晴らしい憩いの場が広がっています。
シュタットパーク (Stadtpark)
町の中央に位置するシュタットパークは、単なる公園と呼ぶにはもったいないほど多彩な魅力を持つ場所です。19世紀に造られたこの広大な公園には、丁寧に手入れされたバラ園や季節ごとに彩りを変える花壇、木陰を作る大きな樹木の並木道、優雅に白鳥が泳ぐ大きな池など、訪れるだけで心癒される風景が広がっています。園内には小さな動物園もあり、子どもたちの楽しげな声が響きます。自転車を入り口に停めてのんびり散策するのがおすすめ。ベンチに腰かけて読書したり、芝生に寝転んで空を見上げたり。マルクトで手に入れたパンとチーズを広げてピクニックを楽しむのも最高の贅沢です。
| スポット名 | シュタットパーク (Stadtpark) |
|---|---|
| 住所 | Kaiserstraße 111, 77933 Lahr/Schwarzwald, Germany |
| 見どころ | 広大な園内、美しい庭園、池、動物園エリア。市民の憩いの場として親しまれています。 |
| 楽しみ方 | 自転車を停めて散策やピクニックに最適。入園は無料です。 |
シュッター川 (Schutter)
ラールをゆったりと蛇行しながら流れるシュッター川。川沿いには快適なサイクリングロードが整備されており、ジョギングや散歩を楽しむ地元の人たちの姿も見られます。水面に映る緑の木々、水辺で羽休めをする水鳥たち、耳に届くささやかなせせらぎの音。川沿いを自転車で走るだけで、心が浄化されるような爽やかな気持ちになります。特に早朝や夕暮れ時が美しく、日に輝く水面が幻想的な景色を創り出します。日々の疲れや悩みが、川の流れとともにどこかへ流れ去っていくような、不思議な体験ができるでしょう。
丘の上から望む絶景
少しだけペダルに力を入れて丘の上を目指せば、努力した者にだけ許される特別な景色が待っています。
シャウインスラント展望塔 (Aussichtsturm Schutterlindenberg)
ラールの東側に位置するシュッターリンデンベルクの丘の頂上に建つのが、シャウインスラント展望塔です。麓からは、緑豊かな森の中を抜ける気持ちの良い登り道が続きます。電動アシスト自転車(E-Bike)があれば、息切れすることなく快適に登坂が可能です。展望塔の頂上からは360度の大パノラマが広がり、眼下にはミニチュアのようなラールの街並み、さらに広大なライン平野、天候に恵まれれば国境の向こうに位置するフランスのヴォージュ山脈までも一望できます。心地よい風に吹かれながら、自分が走ってきた道を見渡す達成感は格別。わざわざ訪れる価値のある絶景スポットと言えるでしょう。
| スポット名 | シャウインスラント展望塔 (Aussichtsturm auf dem Schutterlindenberg) |
|---|---|
| 住所 | Schutterlindenberg, 77933 Lahr/Schwarzwald, Germany |
| 見どころ | ラールの街並み、ライン平野、ヴォージュ山脈まで見渡せる360度のパノラマビュー。 |
| アドバイス | E-Bikeでのアクセスが楽です。日没時の景色もまた格別です。 |
ラールの食文化を味わう:ヘルシー&ローカルグルメ
旅の楽しみは、美しい風景だけでなく、その土地特有の食文化に触れることにもあります。ラールが位置するバーデン地方は、ドイツの中でも特に「グルメの地」として名高い場所です。太陽の恵みをたっぷり浴びた食材と豊かな食の伝統が、あなたの旅をさらに深みのあるものにしてくれるでしょう。
マルクトで味わう新鮮な恵み
ラールの食文化を体感する最も気軽で楽しい方法は、市場(マルクト)を訪れることです。マルクト広場に並ぶ色鮮やかなテントの下には、この地方の恵みが豊富に揃っています。真っ赤に熟したトマト、新鮮なキュウリ、土の香りを感じさせるジャガイモ。春には甘い香りのイチゴや白アスパラガスが並び、夏になるとサクランボやベリー類が山盛りに。季節の移り変わりを五感で感じ取れます。
ここで手に入れた食材を使って即席のピクニックを楽しんでみてはいかがでしょう。焼きたてでシンプルな味わいのパン(ブロート)、地元農家が手がけた風味豊かなチーズ、そして職人が作るハムやソーセージ。これらを自転車のカゴに詰めて、お気に入りの公園や川辺へ出かけましょう。パンをナイフで切り、チーズやハムを挟んだだけのシンプルなサンドイッチが、どんな高級レストランの料理よりも美味しく感じられるのは不思議なものです。これこそ旅先で味わう贅沢の極みと言えるでしょう。
バーデン地方の伝統料理とワイン
レストランで本格的な郷土料理を味わうのもぜひおすすめです。バーデン地方の料理は、隣接するフランス・アルザス地方の影響を受けており、繊細で洗練された味わいが特徴です。
特におすすめしたいのは「シュペッツレ(Spätzle)」。小麦粉と卵で作るドイツ風のショートパスタで、そのもちもち食感は一度食べると忘れられません。特に、溶かしたチーズとフライドオニオンを絡めた「ケーゼシュペッツレ(Käsespätzle)」は濃厚かつ満足感の高い一品です。また、薄い生地にサワークリームや玉ねぎ、ベーコンをのせて焼く「フラムクーヘン(Flammkuchen)」もこの地方の定番料理。ピザより軽やかでクリスピーな食感が特徴で、ワインとの相性も抜群です。
さらに、バーデンの食を語るうえで欠かせないのがワインです。ラールの周辺丘陵地帯は、ドイツ有数のワイン産地。日照時間に恵まれ、リースリングやピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)といった高品質なブドウが育まれています。多くのレストランでは地元産のワインが豊富に用意されています。サイクリングを楽しんだ一日の締めくくりに、地元の料理とワインで乾杯するひとときは旅の特別な思い出となるでしょう。
休憩にぴったりのカフェ
サイクリングの途中で疲れを感じたら、ドイツならではの「カフェー・ウント・クーヘン(Kaffee und Kuchen)」文化を楽しみながらひと息つきましょう。午後のゆったりした時間に、美味しいコーヒーと自家製ケーキを味わうひとときは、ドイツ人にとって大切な習慣です。
ラールの町にも、居心地のよいカフェが点在しています。ショーケースには、リンゴやベリーを使ったフルーツケーキ、濃厚なチョコレートケーキ、チーズを使ったケーゼクーヘンなど、見た目にも魅力的なケーキ(クーヘン)が並びます。どれにしようか迷う時間もまた楽しみのひとつです。温かなコーヒーやハーブティーとともに甘いケーキを一口頬張れば、ペダルを踏んできた疲れもすっと消えてしまうでしょう。窓の外の景色を眺めたり、店内で地元の人々の会話に耳を傾けながら、ゆったりとした時間を満喫してください。
心を整えるスピリチュアルな時間

ラールの旅は、美しい風景や美味しい料理で体を満たすだけでなく、穏やかな時間の中で心の奥底を見つめ、整える機会をもたらしてくれます。日常の喧騒を離れて静寂に身を置くことで、新たな発見や内面の落ち着きを得られるかもしれません。
教会の静謐に身を委ねる
ヨーロッパの町々を訪ねると、その中心には必ずといってよいほど、大きく荘厳な教会がそびえています。ラールも例外ではなく、ゴシック様式を持つプロテスタントの「シュティフツ教会(Stiftskirche)」が、町の中心で静かに時を刻んでいます。
一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のように冷たく静かな空気に包まれます。高い天井、規則正しく並ぶ木製の長椅子、そして壁面を飾る美しいステンドグラス。色とりどりの光が堂内に差し込み、床や柱に幻想的な模様を浮かび上がらせます。特定の信仰を持たなくても、この空間の持つ神聖な雰囲気が自然と心を落ち着かせる力を持っています。そっと長椅子に腰を下ろし、目を閉じてみてください。何も考えず、その場の空気を感じることに集中しましょう。聞こえてくるのは自分の呼吸だけ。日々の思考の渦から解放され、心が澄んでいくのを実感できるでしょう。ここは宗教施設でありながら、誰もが内観し心をリセットできる特別な空間でもあるのです。
| スポット名 | シュティフツ教会 (Stiftskirche) |
|---|---|
| 住所 | Kirchstraße 2, 77933 Lahr/Schwarzwald, Germany |
| 見どころ | ゴシック様式の荘厳な建築、美しいステンドグラス、静謐な内部空間。 |
| 過ごし方 | 静かに腰を据えて心を整える瞑想の時間に最適な場所です。 |
森林浴(ヴァルトバーデン)で自然とひとつになる
自転車で少し足を伸ばし、黒い森の深奥へ向かうと、そこには究極の癒やし空間が広がっています。ドイツ発祥で世界的にも注目を浴びる健康法「森林浴(ヴァルトバーデン)」を、ぜひ本場で体験してみてください。
森林浴は単に森の中を歩いたりサイクリングしたりするだけではありません。意識的に五感を開放し、自然と深く繋がることを目的としています。まずは自転車を停め、ゆっくりと森の中を歩いてみましょう。そして意識をさまざまな感覚に向けてみてください。
- 視覚: 木々の葉の緑の濃淡、木漏れ日の輝き、足元に咲く小さな野の花の色合いをじっくりと観察します。
- 聴覚: 風が木の葉を揺らす音や、鳥たちのさえずり、遠くで流れる小川のせせらぎに耳を澄ませます。
- 嗅覚: 深く息を吸い込み、湿った土の香りや木の樹脂のかおり、雨上がりの新鮮な森の空気を体内に満たします。
- 触覚: 優しく木の幹に触れて、そのざらつきや生命の息吹を感じ取ります。裸足になり、冷たい土や苔の柔らかさを足の裏で味わうのもおすすめです。
- 味覚: 森で摘んだベリー(知識がある場合に限り)を口にして、自然の味わいを感じてみます。
このように五感全てを駆使することで、思考のループから解き放たれ、「今ここ」に意識を集中させることができます。これはマインドフルネス瞑想と共通し、科学的にもストレスホルモンの減少や心身のリラクゼーション効果が認められています。デジタルな世界から切り離され、生命の源である自然と一体になる体験は、何物にも代えがたい魂の浄化となるでしょう。
旅の締めくくりに:ラールでの滞在をさらに豊かにするヒント
ラールの魅力は、これまでご紹介してきたスポットにとどまらず、季節ごとの変化や少し足を伸ばして訪れたい周辺の町など、旅をより豊かで思い出深いものにしてくれるポイントがたくさんあります。ここでは、その一部をご紹介します。
季節ごとの魅力
ラールは訪れる季節によってまったく違った表情を見せる町であり、それぞれのシーズンに特有の美しさがあります。
春(4月〜6月): 長い冬が終わり、町全体に生命の息吹が満ちる季節です。芽吹く木々や、公園や庭先に咲き誇る色鮮やかな花々が目を楽しませてくれます。穏やかな気候はサイクリングにも最適で、新緑のトンネルの中を風を感じながら自転車で駆け抜ける爽快感は格別です。
夏(7月〜8月): 日照時間が長く、一日を存分に活用できる季節です。日中はシュヴァルツヴァルトの森で涼を取り、夕方からはマルクト広場のカフェのテラスで冷たいビールやワインを味わうのがおすすめ。多彩なイベントやフェスティバルも町を賑わせ、陽気な雰囲気に包まれます。
秋(9月〜11月): ラールが最も華やかさを増す時期です。毎年10月中旬から11月上旬には「菊の祭典(Chrysanthema)」が開催され、町全体が菊を用いた美しいアートに彩られます。ブドウの収穫期でもあり、ワイナリーではワインフェストが開催され、新鮮な「ノイヤー・ヴァイン」を楽しめます。森は赤や黄に染まり、落ち着いた美しい景観が広がります。
冬(12月〜2月): 澄んだ空気に包まれ、町は静謐で幻想的な雰囲気になります。アドベントの時期にはマルクト広場に愛らしいクリスマスマーケットが立ち、グリューワイン(ホットワイン)の甘いスパイスの香りが漂います。雪が積もればシュヴァルツヴァルトは銀世界になり、静寂の中で美しい風景を堪能できます。
周辺の町へのショートトリップ
ラールを拠点に鉄道を利用して近隣の魅力的な町へ日帰りで出かけるのもおすすめです。自転車旅とはまた異なる発見が待っています。
ゲンゲンバッハ (Gengenbach): ラールから鉄道で約20分の距離にある、まさに「おとぎ話の町」と呼ばれる場所です。『黒い森の真珠』として知られる美しい街並みは、一歩足を踏み入れた瞬間から訪れる人を惹きつけます。木組みの家が立ち並ぶ路地を散策すれば、まるで時代を遡ったかのような感覚を味わえます。特にアドベント時期には市庁舎の窓が巨大なアドベントカレンダーとして有名です。
ストラスブール (Strasbourg): 国境を越えてフランス・アルザス地方の中心都市へも、鉄道で1時間足らずで気軽にアクセス可能です。ドイツとは異なる洗練されたフランスの趣が漂う美しい都市で、世界遺産にも登録されている旧市街「プティット・フランス」の運河沿いの風景や壮麗なノートルダム大聖堂は見逃せません。
快適な滞在を叶える宿泊施設
旅の満足度を左右するのが宿泊施設選びです。ラールには様々なタイプの宿泊施設があり、目的に合わせて選択できます。快適なシティホテルはもちろんですが、より現地の暮らしを感じられる「Ferienwohnung(フェーリエンヴォーヌング)」と呼ばれるアパートタイプの宿がおすすめです。多くの場合キッチンが備わっており、マルクトで購入した新鮮な食材を使って自炊が楽しめます。まるでラールに住んでいるかのような充実した時間を過ごせるでしょう。また、郊外の自然に囲まれた「Gasthof(ガストホフ)」と呼ばれるレストラン併設の宿では、温かなもてなしと郷土料理が味わえ、印象深い滞在となります。

