アドリア海の紺碧の海と、オレンジ屋根の古都が織りなす絶景。クロアチアと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、そんな陽光きらめく海岸線の風景かもしれません。しかし、その国の奥深く、内陸部に足を踏み入れると、そこには全く異なる表情を持つ、もうひとつのクロアチアが広がっています。それは、豊かな大地と広大な森に抱かれた、生命の息吹あふれる緑の世界。今回は、まだ日本の旅行者にはあまり知られていない、クロアチア東部スラヴォニア地方に佇む小さな町「チェピン」を舞台に、私たちの五感を呼び覚ます、とっておきの旅へとご案内します。日々の喧騒から離れ、心と体を深く癒す、本物の豊かさを見つける旅へ、さあ、一緒に出かけましょう。
チェピンの森と大地で五感を満たした後は、ブルガリアの『バラの谷』で心豊かな暮らしに触れる旅もおすすめです。
知られざるクロアチアの心臓部、チェピンへようこそ

チェピン(Čepin)は、クロアチア東部に広がるスラヴォニア地方の中心都市オシエクから、車で南西へわずか15分ほどの距離に位置する、人口約1万人の静かな町です。この地はかつてヨーロッパ大陸を覆っていたパンノニア海の底であったパンノニア平原の肥沃な土壌の上に築かれています。歴史は非常に古く、ローマ時代より以前から人が居住し、豊かな農業地帯として発展してきました。町の中心部には、歴史の移り変わりを見守ってきたであろう美しい教会が静かに佇み、少し郊外に出ると、かつて領主が所有していた壮麗なマナーハウスの遺跡が点在しています。
スラヴォニア地方の魅力について
チェピンが属するスラヴォニア地方は、「クロアチアの穀倉地帯」という愛称で親しまれ、その豊かな農業生産でよく知られています。果てしなく広がる小麦畑やトウモロコシ畑、そして夏には太陽に向かって咲き誇るヒマワリ畑の鮮やかな黄色の絨毯が、この地域の豊かさを象徴しています。アドリア海沿岸の地中海性気候とは異なり、大陸性気候に属するため、四季の変化がはっきりしているのが特徴です。春には一斉に生命が芽吹き、夏は深い緑に包まれ、秋には黄金色の収穫期を迎え、冬には静寂な雪景色が広がります。
この地域の魅力は、美しい自然環境だけではありません。独特で豊かな食文化、タンブリッツァと呼ばれる民族楽器が奏でる陽気な音色、そして何よりも訪れる人々を暖かく迎え入れてくれる、素朴で心優しい住民たちとの交流が旅の思い出を忘れ難いものにしています。華やかな観光地とは一線を画し、クロアチアの日常や魂に触れることができる場所、それがスラヴォニア地方、そしてチェピンなのです。
五感を解き放つ、チェピンの森の物語
チェピンの真髄は、町を囲むように広がる深く広大な森の中にあります。一歩足を踏み入れれば、そこは日常から隔絶された聖なる空間。ここでは、都会の喧騒で鈍ってしまった私たちの五感が、本来の鋭敏さを取り戻すのを実感できるでしょう。森の奏でる音に耳を傾け、木々が漂わせる香りを胸いっぱいに吸い込み、土や光の色合いを感じる――そんな自然との一体感が待ち受けています。
視覚:命の彩りに染まる風景
チェピンの森は、まるで豊かな色彩のパレットそのものです。春、冬の眠りから覚めた木々は柔らかな若葉色のヴェールをまとい、地面にはスミレやアネモネなどの可憐な花が咲き乱れます。夏が訪れると、森は力強い生命力に満ち溢れ、オークやブナの木々は天蓋を作り出し、深い緑の陰影が神秘的な空間を演出します。降り注ぐ木漏れ日は、まるで自然のスポットライトのように苔むした倒木やシダの葉を優しく照らし出し、幻想的な光景が広がります。
秋の訪れは、森を最もドラマティックに彩る季節。緑の葉は赤や黄色、オレンジへと燃え上がるかのように染まり、森全体が黄金に輝きます。この季節に森を歩くと、まるで壮大な絵画の中を散策しているかのような感動を覚えることでしょう。そして冬には、葉を落とした枝が繊細なレース模様のように空に広がり、雪が降れば世界は純白の静寂に包まれます。どの季節に訪れても、森は私たちに息を呑むほどの美を見せてくれます。
森の中では、思いがけない出会いも待っています。周囲をよく見渡せば、藪の中からそっとこちらを見つめるアカシカの姿や、地面をせわしなく動き回るリス、木々の間を素早く駆け抜けるキツネなど、野生動物の息吹を感じられます。空を見上げれば、悠然と舞うノスリやタカ、多様な野鳥たちの美しい歌声が響き渡っています。彼らの営みを静かに見守る時間は、私たちに自然への畏怖と感謝の気持ちを呼び起こすのです。
聴覚:静寂という名の交響曲
私たちの暮らしは絶え間ない音に包まれています。車のエンジン音、スマホの通知音、周囲の話し声など。しかしチェピンの森では、それら人工的な雑音が嘘のように消え去り、代わりに自然が織りなす繊細な交響曲が耳に届きます。
耳を澄ませると、まず聞こえてくるのは多彩な鳥たちのさえずりです。まるで森の住人たちの軽やかな会話のように、澄んだ鳴き声やリズミカルな歌が森全体に心地よく響き渡ります。続いては風の音。そよ風が木の葉を優しく揺らす「サラサラ」という囁きから、強風が梢を唸らせる「ゴーゴー」とした力強い音まで、風が絶えず森の表情を変えていきます。
足元からは、乾いた落ち葉を踏みしめる軽快な「カサカサ」という音が聞こえます。雨上がりの時には、ぬかるみを踏む音や葉から滴る水音が静寂にアクセントを添えます。森の奥で小川のせせらぎが聞こえたら、その流れに沿って歩いてみてください。絶えず続く水の音は、不思議と心を落ち着かせ、瞑想に誘うような穏やかな気持ちにしてくれます。
夜の森はまた違った音の世界を見せてくれます。フクロウの神秘的な鳴き声や、コオロギやキリギリスが奏でる秋の夜の合唱。完全な静寂の中に身を置けば、自分自身の心臓の鼓動や呼吸音さえも明瞭に感じられます。この静寂との対話こそ、最高のデトックスであり、心の平穏を取り戻すための貴重な時間となるのです。
嗅覚:大地と樹々の深い息づかい
森の中は、生命の香りに満ちています。一歩入るとまず感じるのは、湿った土と腐葉土が混じり合った豊かで芳醇な大地の匂い。まるで地球自体が深呼吸をしているような、力強くも優しい香りです。雨上がりにはその香りが一層濃厚になり、私たちの内に眠る古代の記憶を呼び覚ますかのように感じられます。
さらに進むと、樹木が放つ爽やかな香りに包まれます。これは「フィトンチッド」と呼ばれる揮発性成分で、樹木が自己防衛のために発散しています。この香りは科学的にもリラックス効果や殺菌作用が認められており、森林浴が健康に良いとされる理由の一つです。特に松林が広がる場所では、樹脂のすっきりとした香りが空気を浄化し、深呼吸のたびに体内が清められるような爽快感をもたらします。
季節ごとに森の香りは変わっていきます。春はアカシアの白い花が甘く優しい香りを漂わせ、初夏には名も知らぬ野生の花々が蜜の香りで虫を誘います。秋は熟した木の実やキノコの複雑な香りが混ざり合い、冬の澄んだ空気は針葉樹の凛とした香りを際立たせます。目を閉じて香りに集中すれば、それぞれの香りが紡ぐ物語や季節の移ろいが、より深く感じ取れるでしょう。
触覚:生命の質感を肌で感じる
森との対話は、肌で感じる触覚を通じていっそう豊かになります。ぜひ靴を脱ぎ、素足で歩いてみてください。ひんやり潤った土、ふかふかとした苔の絨毯、時には少しチクチクする落ち葉のベッド──大地と直接つながる「アーシング」と呼ばれるこの体験は、体内に溜まった静電気を放ち、心身のバランスを整える効果があるとされています。
目の前に立つ樹齢何百年ものオークの大樹。ごつごつと深く刻まれた樹皮にそっと手を触れてみてください。硬さの中に温かみが感じられ、長年を生き抜いた生命の力強さと揺るぎないエネルギーが伝わってくるようです。目を閉じて、そのエネルギーが自分の体内に流れ込むイメージを持つのもよいでしょう。
頬を撫でる風も、森の中では格別に心地よく感じられます。朝の冷たく澄んだ空気、木漏れ日のもとで感じる柔らかな温もり、夕暮れに肌を包み込むひんやりとした風。都会の人工的な空調とはまったく異なる、生き生きとした空気の感触を味わえます。雨上がりの森では湿度を含んだ空気が肌を優しく包み込み、まるで天然のミストシャワーを浴びているかのような心地よさをもたらします。
味覚:森がもたらす自然の恵み
チェピンの森は、味覚までも満たしてくれる豊かな贈り物の宝庫です。夏から秋にかけては、森の小道沿いに野生のラズベリーやブラックベリー、ワイルドストロベリーが実ります。太陽の光をたっぷり浴びて成熟したそのベリーは、小粒ながらも濃厚な風味と甘酸っぱい果汁で、口いっぱいに自然の恵みを広げます。一粒摘んで口に含めば、自然からの甘い贈り物に心が満たされることでしょう。(※ただし安全が確実なもの以外は絶対に口にしないようご注意ください。)
秋はキノコ狩りの季節です。クロアチア語でVrganjと呼ばれるポルチーニ茸をはじめ、多種多様なキノコが森のあちこちに顔を出します。しかしキノコの採取には専門的な知識が不可欠で、毒キノコも多いことから、経験豊富な地元のガイドと一緒に行動することが必須です。ガイドの説明を受けながら、食べられるキノコを見分けて収穫する体験は、まるで宝探しのようなワクワクと喜びに満ちています。採りたてのキノコをその晩の料理に使い、シンプルなソテーやリゾットに仕立てて味わうひとときは、どんな高級レストランでも味わえない最高のご馳走です。
また、森の中でのピクニックもおすすめです。地元のパン屋で焼きたてのパンを購入し、市場で新鮮なチーズやこの地方特産のサラミ「クレン」を手に入れたら、好きな場所にシートを広げましょう。鳥のさえずりをBGMに、澄み切った空気とともに味わうシンプルな食事は、心と体に染み渡る究極の贅沢体験と言えるでしょう。
チェピンの大地が育む、豊かな恵みと文化

チェピンの魅力は、深い森の風景にとどまりません。その森を抜けると、果てしなく広がる肥沃な大地が広がっています。この豊かな土壌こそが、スラヴォニア地方独特の食文化や人々の温かい暮らしを育み続けてきました。
黄金に輝く畑と、農家の温かな笑顔
チェピン周辺を車で走ると、その壮大な景観に心を奪われます。広大な農地では、季節ごとにさまざまな作物が育っています。春には小麦の若葉が鮮やかな緑で風に揺れ、夏には太陽に向かって咲き誇るヒマワリが周囲を黄金色に染め上げます。やがて秋には、小麦やトウモロコシが黄金色に輝き、収穫の喜びを人々にもたらします。
この地域では、アグリツーリズモ(農家民宿)が人気を集めています。宿泊のみならず、農家の方々と交流したり、農作業を体験したりすることができます。季節によっては、ぶどうの収穫や野菜の収穫、家畜の世話なども体験可能です。土に触れ、汗をかくことで、食べ物がどのようにして食卓に届くかを肌で感じられる貴重な体験となります。何よりも、農家の皆さんの素朴な笑顔と心からのもてなしが、旅の思い出をより一層温かなものに彩ってくれるでしょう。
| スポット名 | Agroturizam Orlov Put |
|---|---|
| 概要 | 伝統的なスラヴォニア農家に宿泊できるアグリツーリズモ。自家製食材を使った料理が絶品で、動物とのふれあい、農業体験も楽しめる。家族経営の温かい雰囲気で、心からリラックスできる場。 |
| 住所 | Biljska cesta 66, 31207, Bilje, Croatia(チェピン近郊) |
| おすすめポイント | 自家製ワインやラキヤ(蒸留酒)、手作りパンやチーズなど、ここでしか味わえない本物の味が楽しめる。夜は満天の星空が広がる。 |
大地の恵みを存分に楽しむ、スラヴォニアの食文化
スラヴォニア料理は、クロアチアの他地域とは一線を画す、力強くも深い味わいが特徴です。ハンガリーやオスマン帝国の影響を色濃く受けており、パプリカをふんだんに使った料理が多く見られます。香ばしくスパイシーな味わいは、一度食べると忘れがたい魅力があります。
チュヴァプ(Čobanac)—羊飼いたちのシチュー
スラヴォニアを代表する料理のひとつが「チュヴァプ」です。牛肉、豚肉、鹿肉など数種類の肉を、タマネギやパプリカとともに大きな鍋でじっくりと長時間煮込んだシチューです。もともとは羊飼いたちが屋外で調理した料理で、その名は「羊飼いのシチュー」を意味します。肉は信じられないほど柔らかく、それぞれの肉の旨みが溶け出したスープは濃厚でスパイシー。パンを浸して味わえば、その美味しさに思わず感嘆の声が漏れるでしょう。
クレン(Kulen)—スラヴォニアが誇るサラミの王様
スラヴォニア地方の誇る特産品が「クレン」です。最高級の豚肉を使用し、パプリカ、ニンニク、コショウなどの香辛料と共に練り込み、燻製と熟成を経て仕上げるサラミの一種です。EUの地理的表示保護(PGI)も取得しており、その製法は何世代にもわたり家庭で受け継がれてきました。深い赤色のクレンは、凝縮した肉の旨味とパプリカの豊かな香りが絶妙に調和した逸品です。薄くスライスして、ワインと堪能するのが大人の楽しみ方です。
フィッシュ・パプリカシュ(Fiš paprikaš)—川の恵みを味わうスープ
ドラヴァ川やドナウ川をはじめとする大河が流れるこの地域では、川魚料理も欠かせません。特に有名なのが「フィッシュ・パプリカシュ」です。コイ、ナマズ、カワカマスなどの淡水魚を、たっぷりのパプリカとトマトで煮込んだ鮮やかな赤いスープです。魚の旨味がしっかりと出たスープは見た目ほど辛くなく、深いコクと旨味が特徴です。自家製の幅広パスタと一緒にいただくのが一般的で、体の内側から温まる一品です。
| レストラン名 | Restoran Kod Javora |
|---|---|
| 概要 | オシエク近郊に位置し、本格的なスラヴォニア料理を提供する名店。特にチュヴァプとフィッシュ・パプリカシュの評判が高い。地元の人々にも愛されるアットホームな雰囲気が魅力。 |
| 住所 | Ul. Martina Divalta 96, 31000, Osijek, Croatia(チェピンから車で約20分) |
| おすすめポイント | 開放的なテラス席があり、晴れた日には心地よい風を感じながらゆったり食事が楽しめる。ボリュームたっぷりなので、しっかりお腹を空かせて訪れたい。 |
陽光を浴びて育つぶどうがもたらす、風味豊かなワイン
スラヴォニアはクロアチアを代表するワイン産地としても名高く、大陸性気候と丘陵地の排水良好な土壌が高品質なぶどう栽培に最適です。ワイン造りの歴史は古く、2000年以上前までさかのぼるといわれています。
最も広く栽培されている白ぶどう品種は「グラシェヴィーナ(Graševina)」です。爽やかでフルーティーな辛口から芳醇な甘口の貴腐ワインまで多彩なスタイルが造られ、「クロアチアの白ワインの王様」と称されます。リンゴや洋梨を思わせるフレッシュな香りと、すっきりとした酸味が特徴で、どんな料理とも相性が良い万能なワインです。
赤ワインの代表格は「フランコフカ(Frankovka)」です。ベリー系果実の香りと程よいタンニンが調和するエレガントな赤ワインで、特に肉料理とよく合います。チェピン近郊には家族経営の小規模ワイナリーが点在し、ワイナリー巡りも人気です。情熱を傾ける生産者から直接ワイン造りの話を聞き、自慢のワインを試飲するひとときは、ワイン愛好家にとって格別の体験となるでしょう。
| ワイナリー名 | Vinarija Josić |
|---|---|
| 概要 | バラニャ地方ズマイェヴァツ(Zmajevac)にある有名ワイナリー。丘の斜面に掘られた伝統的なワインセラー「グノイ(gnoj)」が特徴的。併設レストランではワインと郷土料理の絶妙なペアリングが楽しめる。 |
| 住所 | Planina 194, 31307, Zmajevac, Croatia(チェピンから車で約50分) |
| おすすめポイント | 歴史あるセラーで味わうワインテイスティングは格別の雰囲気。特にグラシェヴィーナ種のワインは高評価で、お土産にもぴったり。 |
心と体を解放する、ヒーリング・アクティビティ
チェピンの豊かな自然は、単に眺めるだけのものではありません。その懐に深く身をゆだね、心身を動かすことで、日頃のストレスや疲れを解き放ち、本来の自分を取り戻すことができます。
フォレスト・セラピー:森と呼吸をひとつにする時間
日本の「森林浴」に着想を得た「フォレスト・セラピー」は、今や世界中で注目を浴びる癒しの体験です。これは単なるハイキングとは異なり、勝敗や目的地を競うのではなく、「ただ森の中に存在すること」に専念します。チェピンの森は、このフォレスト・セラピーを実践するのに理想の環境です。
まずはスマートフォンやカメラをバッグにしまい、頭の中の雑念をオフにしましょう。そして意識的にゆっくりと歩き、一歩一歩足元の大地を感じながら進みます。途中で立ち止まり、深く呼吸してみましょう。森の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す。この単純な繰り返しだけで、心拍数が落ち着き、心が静まっていくのを実感できるはずです。
木漏れ日の温かさ、風のささやき、鳥のさえずり、土の香り。五感を研ぎ澄ませて、森のあらゆる要素を感じ取ります。気になる木があれば、そっと手を触れてみましょう。お気に入りの場所で腰を下ろし、ただぼんやりと景色を眺めるのもおすすめです。ガイド付きプログラムに参加すれば、より深い森との対話のコツを教えてもらえます。数時間のセラピー後には、心も身体もリフレッシュされ、新たなエネルギーに満ち溢れていることに気づくでしょう。
ハイキングとサイクリング:大地の鼓動を感じながら
よりアクティブに自然を楽しみたい方には、ハイキングやサイクリングが最適です。チェピン周辺には、初心者でも気軽に楽しめる平坦なコースから、やや挑戦的な丘陵地帯のトレイルまで、多様なルートが整備されています。森の中の小道を歩けば、季節ごとの植物や野生動物との出会いが待っています。広大な農地の間を走るサイクリングロードでは、果てしなく続く地平線に向かってペダルを漕ぐ爽快感を味わえます。
特に、チェピン北部を流れるドラヴァ川沿いのルートは、その美しい景観で高い評価を受けています。川のせせらぎを耳に、緑豊かな川岸を散策したり、自転車で駆け抜けたり。途中にはピクニックに最適なスポットや地元の人々が集う小さなカフェもあり、ゆったりと休憩しながら自分のペースで楽しむことができます。歩きやすい靴や動きやすい服装、十分な水分補給を忘れずに、大地の鼓動を全身で感じる旅に出かけましょう。
バードウォッチング:ヨーロッパ屈指の野鳥の宝庫へ
チェピンから車で少し移動すると、ヨーロッパでも有数の野鳥の楽園が広がっています。ドラヴァ川とドナウ川の合流点近くに位置する「コパチュキ・リト自然公園」は、広大な湿地と森林が織りなす豊かな生態系の宝庫です。ユネスコの生物圏保護区にも登録されており、約300種の鳥類が記録されています。
春と秋の渡りの季節には、数え切れないほど多くの渡り鳥たちが休息のために訪れ、その光景は圧巻です。双眼鏡を手にボートで水路を進めば、大きな巣を持つシュバシコウ(コウノトリ)、優雅にたたずむシラサギ、水面を滑るように泳ぐカワウの群れなど、次々と鳥たちの姿が目に飛び込んできます。とくに、クロアチアの国鳥であるナベコウや、絶滅危惧種のオジロワシの観察も期待できる貴重な場所です。鳥たちの生命力あふれる様子は、自然の偉大さとそれを守ることの重要性を教えてくれます。
| スポット名 | Kopački Rit Nature Park (コパチュキ・リト自然公園) |
|---|---|
| 概要 | ヨーロッパ最大規模の氾濫原・湿地帯のひとつ。生物多様性が驚異的で、特に野鳥の聖地として世界的に知られている。ボートツアーや展望台からの観察が人気。 |
| 住所 | Kopačevo 31, 31327, Kopačevo, Croatia (チェピンから車で約30分) |
| おすすめポイント | 専門ガイドが案内するボートツアーに参加するのがおすすめ。季節の見どころや鳥の生態について詳しく解説してくれるため、双眼鏡は必携。 |
乗馬体験:馬の背に揺られながら見る風景
広大なスラヴォニア平原をいつもとは違った視点で楽しみたいなら、乗馬体験がぴったりです。チェピン周辺には、初心者から熟練者まで対応可能なプログラムを提供している乗馬クラブがいくつかあります。
経験豊富なインストラクターの指導のもと、馬とのコミュニケーション方法を学び、ゆったりと馬の背に揺られながら森や草原を散策します。馬の温もりとリズミカルな歩き方は、不思議なほど心を穏やかにしてくれます。視点が高くなることで、見える景色もガラリと変わります。風を切って走る爽快な感覚に加え、賢く優しい馬と心を通わせる喜びは、他では味わえない特別な体験です。夕暮れ時、茜色に染まる空の下で馬と共に歩く時間は、一生の思い出になることでしょう。
| スポット名 | Ranch Ramarin |
|---|---|
| 概要 | 美しい自然に囲まれた牧場で、本格的な乗馬体験を提供。初心者向けレッスンから経験者向けトレッキングまで、多様なプログラムが利用可能。宿泊施設やレストランも併設。 |
| 住所 | Garčin, Croatia (チェピンから車で約40分) |
| おすすめポイント | 広大な敷地でのびのびと乗馬を楽しめる。馬だけでなく他の動物とも触れ合えるため、家族連れにも人気のスポット。 |
チェピンへの旅の準備

心安らぐチェピンへの旅をより充実させるために、アクセス方法や滞在に関する情報を事前にしっかり確認しておきましょう。
チェピンへのアクセス方法
日本からクロアチアへの直行便は運航していないため、フランクフルトやイスタンブール、ウィーンなどヨーロッパの大都市を経由して向かうのが一般的です。クロアチアの首都ザグレブまで飛行機で移動し、そこから国内線でチェピン最寄りのオシエク空港(Osijek Airport – OSI)へ乗り継ぐのが、最も便利なルートです。
ザグレブから陸路でオシエクに向かう場合は、レンタカーの利用が最も快適です。高速道路を利用すれば、約3時間で到着します。周辺の森やワイナリーを自由に巡るなら、車があると行動範囲がぐっと広がります。そのほか、ザグレブからオシエク間は長距離バスや鉄道も運行されており、公共交通を利用することも可能です。
おすすめの宿泊スタイル
チェピンでの滞在は、その土地の暮らしに溶け込みながら過ごすスタイルが特におすすめです。
- アグリツーリズモ(農家民宿):スラヴォニア地方の魅力を存分に味わえる宿泊形態です。自家製の新鮮な食材で作られる温かな料理と、ホストファミリーとの心温まる交流が楽しめます。
- ヴィラや貸別荘:家族やグループでの旅行には、キッチン付きのヴィラや貸別荘の利用がおすすめです。地元の市場で食材を購入し、自分たちでスラヴォニア料理を作るという体験も旅の醍醐味です。
- オシエク市内のホテル:レストランやショップへのアクセスを重視する場合は、近隣のオシエクに滞在する選択肢もあります。美しいバロック様式の街並みが残る魅力的な都市で、滞在拠点としても便利です。
旅のベストシーズン
チェピンは一年を通じて四季折々の美しい風景を楽しめますが、特におすすめの時期は以下の通りです。
- 春(4月~6月):気候が穏やかで、新緑や花々が鮮やかに咲き誇る季節です。ハイキングやサイクリングにぴったりです。
- 秋(9月~10月):森林が色づき、ブドウやキノコの収穫時期を迎えます。食欲の秋を満喫したい方に最適なシーズンです。
夏は日差しが強く暑さが厳しい日もありますが、濃い緑と生命力に満ちた自然を堪能できます。冬は寒さが増し、雪に覆われた静かな森の景色は、他では味わえない神秘的な美しさを見せてくれます。
チェピンが教えてくれる、本当の豊かさ
クロアチアのチェピンを巡る旅は、有名な観光名所を次々と訪れる忙しい旅とは一線を画します。それは、森の静けさに耳を澄まし、大地の香りを胸いっぱいに吸い込み、自然のリズムに身をゆだねながら、自分自身と向き合う内なる対話の旅です。
木々の囁き、土の温もり、そして地元の人々の飾り気のない笑顔。そのひとつひとつが、日常生活の中で忘れかけていた、シンプルで本質的な豊かさを思い起こさせてくれます。情報やモノに溢れる現代社会において、知らず知らずのうちに多くのストレスを抱え、心身が疲弊しています。チェピンの森と大地は、そんな私たちを優しく包み込み、ただそこにいるだけで深い癒しを与えてくれる、まるでパワースポットのような場所です。
次の休暇には、アドリア海の賑わいから少し距離を置いて、クロアチアの緑豊かな中心地を訪れてみませんか。五感を開放し、ありのままの自分に立ち返る時間を過ごせるでしょう。チェピンの森と大地は、きっとあなたの心に、忘れられない生命の輝きを刻み込んでくれるはずです。

