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    神々の麓の迷宮(ラビリンス)へようこそ。アテネ・プラカ地区、表と裏を巡る冒険の旅

    古代の神々が住まうアクロポリスの丘、その麓に広がる迷宮のような街並み。それが、アテネの中心に位置するプラカ地区です。石畳の道が網の目のように走り、ネオクラシック様式の建物がパステルカラーの壁を見せるこの場所は、訪れる者すべてを魅了する魔法の力を持っています。太陽の光を浴びて輝く表通りは、観光客の陽気な笑い声とタベルナの活気に満ち溢れ、まるで街全体が祝祭を祝っているかのよう。しかし、一歩、細い路地に足を踏み入れれば、そこには静寂と、地元の人々の穏やかな日常が息づく別世界が広がっています。それはまるで、コインの裏表。光と影。観光地としての華やかな顔と、古くから続くアテネの素顔。

    こんにちは、世界を旅する起業家兼アマチュア格闘家の大(だい)です。僕はリングの上で相手と対峙するように、旅先ではその土地の持つ剥き出しのエネルギーと向き合うことを信条としています。観光客向けのきらびやかな大通りも魅力的ですが、僕の足は自然と、その土地の本当の鼓動が聞こえる裏路地へと向かいます。プラカ地区は、そんな僕の探求心をこれ以上なく掻き立てる場所。今回は、観光客で賑わう「表のプラカ」と、地元の人々の生活が垣間見える「裏のプラカ」、その新旧の魅力を徹底的に比較しながら、皆さんと一緒にこの迷宮を散策してみたいと思います。誰かに話したくなるようなトリビアをスパイスに、神々の麓で、忘れられない冒険を始めましょう。

    プラカ地区の表と裏の魅力を探った後は、アテネ・アクロポリスの昼と夜の魅力を比較した記事もぜひご覧ください。

    目次

    陽光と喧騒のシンフォニー:プラカの表通りを歩く

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    プラカ地区の中心と言えるのが、キダシネオン通りとアドリアヌ通りです。この二つの大通りは、アテネを訪れる観光客がほとんど例外なく一度は足を踏み入れる場所。石畳を太陽の光が温め、道の両側には土産物店やカフェ、タベルナがひしめき合い、終始にぎやかな歓声が響きます。このエリアはまさにプラカの「顔」とも言うべき場所で、アテネ観光の魅力が凝縮された活気あふれる舞台です。まずはこの色鮮やかなメインストリートから、プラカの魅力をじっくり探ってみましょう。

    万華鏡のようなお土産屋:色彩豊かな誘惑と古代の物語

    アドリアヌ通りを歩くと、真っ先に目に入るのは、軒を連ねる数え切れないほどのお土産物屋です。店舗の前には、ギリシャ名物のオリーブオイルや石鹸、はちみつといった品々から、古代ギリシャの神々を模したミニチュア像、さらにはパルテノン神殿がプリントされたTシャツまで、多種多様な商品が並び、まるで覗き込んだ万華鏡のよう。旅の思い出を探す訪問者の瞳は、好奇心で輝いています。

    ぜひ手に入れていただきたいのが、「マティ」と呼ばれる青い目玉型のお守りです。これはギリシャで古くから伝わる邪視(嫉妬や妬みの視線)から身を守るものとして珍重されており、キーホルダーやアクセサリーなど様々な形状で販売されています。友人や家族へのささやかな贈り物にも最適です。

    誰かに話したくなるマティの豆知識

    この「マティ」、実はその起源は古代ギリシャ以前にさかのぼり、紀元前3000年頃のエジプトやメソポタミア文明に由来すると言われています。当時は、ラピスラズリなどの青石に魔除けの力があると信じられていました。さらに、アレクサンダー大王の東方遠征によって、この「目」のモチーフはギリシャを含む広範囲に広まったとの説が有力です。単なるかわいらしいお守りに見えるマティの青い瞳の奥には、何千年もの文化交流の歴史が秘められているのです。この話を添えてお土産を渡せば、きっと喜ばれることでしょう。

    スポット種類特徴おすすめポイント
    ギリシャ特産品店オリーブオイル、はちみつ、オーガニックコスメなど高品質な商品を取り扱う。食や美容に興味がある人にぴったり。試食やテスターが充実した店を選ぶのが良い。特にクレタ島産のオリーブオイルは香りと風味が格別。
    伝統工芸品店手作り陶器や革製品、ジュエリーなどが並ぶ。職人技が光る一点物に出会えることも。サンダル職人の店では、足のサイズに合わせて調整してくれる。古代ギリシャ風デザインは必見。
    定番土産屋マティの護符やミニチュア彫刻、Tシャツなど、ばらまき用のお土産が豊富。価格も手頃。複数店舗を比べて価格交渉するのも楽しい。店主との会話も旅の醍醐味です。

    タベルナが織りなすギリシャの味わい:食欲を刺激する美食の舞台

    プラカのメインストリートを歩くと、どこからともなく食欲を誘う香りが漂い始めます。それは、ギリシャの国民食堂ともいえるタベルナの香り。店頭には写真付きメニューが掲げられ、陽気なスタッフが「ヤサス!(こんにちは!)」と元気に声をかけてきます。その朗らかで開かれた雰囲気は、訪れる観光客の心を掴んで離しません。

    テーブルに運ばれてくるのは、ギリシャ料理の人気メニューたちです。ひき肉とナス、ポテトを重ね、ベシャメルソースで焼き上げた「ムサカ」、串焼き肉の「スブラキ」、新鮮な野菜とフェタチーズが絶妙な「グリークサラダ」など。どれも素朴ながら素材の味を生かした逸品で、ギリシャの豊かな太陽の恵みを存分に感じられます。特に、屋外のテラス席でアクロポリスを眺めつつ味わう食事は、至福の時間となるでしょう。

    ムサカの秘密を語ろう

    ギリシャ料理の代名詞とも言えるムサカですが、現代のスタイルが確立されたのは比較的最近のことで、20世紀初頭に遡ります。その原型はナスとひき肉を使った中東・地中海地域の料理にあり、当初はベシャメルソースを用いていませんでした。これを後に、フランス料理を習得したギリシャ人シェフ、ニコラオス・ツェレメンテスがギリシャ料理をより洗練された西洋風にアレンジし、ベシャメルソースを加えたのです。彼のレシピ本の出版とともに、この新しいムサカはギリシャ全土に広がり、国民食となりました。つまり、私たちが今日楽しんでいるムサカは、東洋と西洋の食文化が見事に融合したハイブリッド料理といえます。

    レストラン種類特徴おすすめ料理
    大通り沿いのタベルナ観光客向けでメニューが豊富。英語が通じ、写真付きメニューで注文しやすい。テラス席の眺望が素晴らしい店も多い。ムサカ、スブラキ、グリークサラダの定番。新鮮なシーフードプラッターも絶品。
    イロドゥ・アティクー音楽堂近くの高級店落ち着いた雰囲気で、伝統ギリシャ料理を現代風にアレンジした創作料理が楽しめる。デートや特別な日の利用に最適。ラム肉のクレフティコ(紙包み焼き)、ワイン風味のタコのグリルなど。
    ギロピタ専門店ギリシャのファストフード「ギロピタ」の専門店。手軽でボリューム満点、小腹が空いた時にぴったり。豚肉か鶏肉を選べるギロピタ。たっぷりのザジキソース(ヨーグルトソース)をかけるのが通の食べ方。

    古代と現代が交錯する風景:歴史散策の序章

    プラカのメインストリートが特別なのは、その賑わいだけではありません。この場所は文字通り歴史の隣に存在しているのです。例えばアドリアヌ通りを歩いていると、突然姿を現すのが巨大な古代遺跡「ハドリアヌスの図書館」の壁。土産物屋の喧騒を背に、2000年近く前にローマ皇帝が建てた知の殿堂が静かに佇んでいます。この対比こそ、アテネならではの魅力と言えるでしょう。

    さらに足を進めれば、古代ローマ時代の公共広場「ローマン・アゴラ」が視界に入ります。その一角に立つ八角形の不思議な塔は「風の塔」と呼ばれています。カフェのテラスで冷たいフラッペ(ギリシャ風アイスコーヒー)を味わいながら、風の塔を眺める時間は他に代えがたい贅沢なひととき。日常の風景に古代遺跡が自然に溶け込んでいる、このプラカのメインストリートは、壮大な歴史散歩への心躍る前奏曲なのです。

    古代の英知を物語る天才建築:風の塔の豆知識

    ローマン・アゴラに建つ「風の塔」、正式には「アンドロニコス・キラステスの時計台」と称されます。これは紀元前1世紀に天文学者アンドロニコスによって建設され、世界初の気象観測所であったと言われています。八角形の各面には、北風の神ボレアスや南風の神ノトスなど、八方向を司る風の神々のレリーフが彫られています。屋根の上にはかつて風見鶏(海神トリトンの像だったとの説も)が設置され、風向きを示していました。また外壁には日時計があり、内部には水力で動く複雑な水時計も備えられていて、天候に左右されることなく正確な時刻を知ることが可能でした。風向き、太陽の位置、そして内部の水時計の三位一体。この建物に古代ギリシャ人の天文学と建築の粋が凝縮されていると考えると、単なる古塔が一転、敬意を払うべき天才的な発明品として映ります。

    静寂と発見のラビリンス:プラカの裏路地へ迷い込む

    さて、表通りの喧騒を離れて、いよいよプラカの真髄である裏路地の迷路へ足を踏み入れてみましょう。大通りから一本細い道に入るだけで、まるで異世界に迷い込んだかのような感覚に包まれます。観光客の賑やかな声は遠ざかり、その代わりに、どこかの家から漏れてくるギリシャ語の会話や、食器が触れ合う音、そして猫の鳴き声が聞こえてきます。ブーゲンビリアの鮮やかなピンク色が白壁に鮮やかに映え、迷路のように入り組んだ階段が未知の世界へと誘ってくれます。ここには、ガイドブックには決して載っていない、アテネの真の生活が息づいているのです。

    アナフィオティカ地区:アクロポリスに抱かれたキクラデス諸島の風景

    プラカ地区の北東、アクロポリスの岩肌に寄り添うように広がるのが「アナフィオティカ地区」です。この場所に足を踏み入れた人は、思わず目を見張ることでしょう。そこには、サントリーニ島やミコノス島で見られるキクラデス諸島の風景がそのまま広がっているのです。真っ白に塗られたキューブ型の住宅、青く彩られた窓枠と扉、そして頭上には咲き誇るブーゲンビリアの花。なぜ、アテネの都心にこんな島の風情が存在するのか、不思議に思うかもしれません。

    その理由は19世紀にさかのぼります。ギリシャ独立の後、初代国王オットーはアテネの都市建設を推し進めるため、キクラデス諸島のアナフィ島から熟練の石工や職人を招きました。彼らは故郷を離れてアテネで働くこととなり、法的に所有者のいないアクロポリスの麓の土地に、アナフィ島を模した家々を建てて住み始めたのです。彼らは夜間に資材を運び込み、日の出までに屋根を完成させれば自分の土地となるという当時の風習を利用し、一晩で自らのコミュニティを築き上げました。アナフィオティカとは直訳すると「アナフィ島の人々の場所」。この美しい街並みは、故郷を懐かしむ職人たちの想いが生み出した、まさに奇跡の光景なのです。

    この地区を訪れる際は、最大限の敬意をもって歩きましょう。ここはテーマパークではなく、今も多くの人が静かに生活している住宅街です。大きな声で騒ぐことや、勝手に家の敷地に入ることは厳禁です。静かな空間のなかで、壁に触れ、花の香りを感じ取り、職人たちの想いに思いを馳せてみてください。

    裏路地の小さな住人たち:猫たちの楽園

    アナフィオティカ地区をはじめとするプラカの裏路地を歩くと、そこかしこで多くの猫に出会います。彼らはこの迷路の主のような存在です。日向ぼっこをしながらのんびり昼寝をしたり、気まぐれに足元にすり寄ってきたり、屋根の上からこちらの様子をじっと見つめていたりします。アテネの猫たちは基本的に人懐っこく、毛並みも整っています。これは、この地域の住民が地域猫として彼らの世話を丁寧にしているからです。家の前にはキャットフードや水を入れたお皿が置かれ、猫たちは住民の愛情を受けてゆったりと暮らしています。彼らは単なるペットではなく、このコミュニティの一員なのです。

    こうした猫たちの存在が、裏路地の雰囲気にさらに味わい深さを加えています。古代遺跡を背景に伸びをする猫、ブーゲンビリアの木陰でくつろぐ猫。彼らの穏やかな姿を見ていると、自分の心も自然と落ち着いてゆきます。ここだけ時間の流れがゆったりとしているかのように感じられるのです。

    意外なギリシャと猫の歴史のお話

    ギリシャといえば猫のイメージを持つ方も多いと思いますが、実は古代ギリシャ時代には猫は一般的なペットではありませんでした。当時、ネズミ退治の役割を担っていたのは主にイタチやヘビでした。エジプトでは神聖な動物として猫が敬われていましたが、ギリシャでは外来の珍しい動物として扱われ、神話にもほとんど登場しません。猫がギリシャ全土で広く飼われるようになったのは、交易が活発になったローマ時代以降のこと。ネズミ退治の名手として船に重宝され、港を起点に徐々に広まっていったのです。現在では街の風景にすっかり溶け込んだ猫たちですが、彼らがギリシャの風土の一部となるまでには意外と長い歴史があったのです。

    隠れ家タベルナと職人の工房:地元民が愛する本物の顔

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    プラカの裏路地の魅力は、その美しい景観だけにとどまりません。迷路のような道の奥には、観光客向けの店とは異なり、地元の人々に愛され続ける本物の店がひっそりと存在しています。何世代にもわたり家族経営が続く小さなタベルナや、伝統の技を黙々と守り抜く職人の工房など。こういった店との出会いこそが、裏路地散策の最大の楽しみと言えるでしょう。

    「知る人ぞ知る」美食の隠れ家:本物のギリシャ家庭料理

    表通りのタベルナが特別な日のご馳走ならば、裏路地のタベルナは毎日食べたくなる普段の家庭料理です。見つける際のポイントはいくつかあります。派手な看板や写真付きメニューがないこと、観光客を呼び込んでいないこと、そしてメニューがギリシャ語だけで、店主と思われる年配の男性(パパス)や女性(ヤヤ)が切り盛りしている店は期待できます。

    勇気を出してそうした店に足を踏み入れれば、温かいもてなしと心に染みる優しい味わいが待っています。メニューが読めなくても問題ありません。「今日のおすすめは何?」と指差しで尋ねれば、鍋の蓋を開けて見せてくれたり、得意げに説明してくれたりします。そこで味わう日替わりの煮込み料理や旬の野菜を使った素朴な一皿は、高級レストランの料理に勝るとも劣らない強烈な印象を残すことでしょう。

    ギリシャ流コミュニケーション「メゼ」の文化

    地元のタベルナでぜひ体験したいのが、「メゼ」という食文化です。これは、タコのグリルやチーズ、オリーブ、豆のペーストなどの小皿料理を複数頼み、ギリシャの地酒「ウゾ」やワインを少しずつ楽しみながら、仲間と語らうスタイル。メゼは単なる前菜ではなく、食事のメインであり、コミュニケーションの重要な手段でもあります。ゆったりと時間をかけて食事を楽しむこの文化は、効率やスピードを重視する現代社会とは対照的に、人間らしい豊かさを教えてくれます。

    スポット種別探し方のポイント楽しみ方
    隠れ家タベルナ観光客で賑わう大通りから2本以上離れた路地を探す。「TAVERNA」の小さな看板が目印。地元の客が集まる店は間違いなし。片言のギリシャ語で挨拶してみる。「カリメラ(こんにちは)」「エフハリスト(ありがとう)」だけでもぐっと距離が縮まる。
    ウゼリ(Ouzeri)ウゾとメゼを専門に扱う居酒屋。夕方から夜にかけて地元の人で賑わう。まずはウゾを注文。水で割ると白く濁るのが特徴。様々なメゼを少しずつ頼んで味の違いを楽しむのが通の楽しみ方。
    カフェニオン(Kafenion)主に男性が集まる昔ながらのギリシャの喫茶店。ギリシャコーヒーを飲みながらバックギャモンに興じる姿が見られる。観光客は少ないが、勇気を出して入店するのも面白い。濃厚なギリシャコーヒーを味わいつつ地元の日常を観察するのがおすすめ。

    時が止まったかのような工房:伝統を守る職人の息吹

    プラカの裏路地には今も、古くからの伝統技術を守る職人たちの工房が点在しています。土産物屋の賑やかさとは違う、静謐で凛とした空気が漂う空間。職人たちは黙々と自分の仕事に取り組んでいます。

    例えば、オーダーメイドでレザーサンダルを作る店。足のサイズを測り、好みの色やデザインの革を選んで、世界に一足だけのサンダルを仕立ててもらえます。また、繊細な模様が美しい陶器の工房や、東方正教会の神髄を描いたイコン(聖像画)工房など、多彩な工房が揃っています。これらの工房を訪れることは、単に買い物をする以上に、その土地の文化や歴史の奥深さに触れる貴重な経験となるでしょう。

    神話の足元を飾ったサンダルの物語

    古代ギリシャの壺絵や彫刻を眺めると、神々や英雄たちが美しいサンダルを履いているのがわかります。ギリシャのサンダル作りは数千年の歴史を誇る伝統工芸です。中でも有名なのは、神々の使者ヘルメスが履いていたという翼のついたサンダル「タラリア」。これを履けば空を飛ぶように速く走れたと伝えられます。プラカのサンダル職人たちは、この神話や古代のデザインにインスピレーションを受け、一足一足を手作業で丁寧に仕上げています。彼らの作るサンダルに足を通す瞬間、私たちは単なる履物ではなく、神話時代から続く壮大な物語を身にまとっているのかもしれません。

    時間帯で変わるプラカの表情:朝、昼、夜の散策術

    プラカ地区は、訪れる時間によってまったく異なる表情を見せます。このエリアの魅力を存分に味わうには、ぜひ時間を変えて何度も訪れてみることをおすすめします。朝の静けさ、昼の賑わい、夜の幻想。それぞれの時間帯に、異なる発見や感動が待っているのです。

    静寂の朝:神々と語り合う至福の時間

    私が特におすすめしたいのは、早朝のプラカ散策です。まだ観光客も姿を現さず、お土産屋のシャッターも閉まったまま。街は深い静けさに包まれています。アクロポリスの丘から降り注ぐ柔らかな朝の光が、石畳の道を黄金色に染め上げる様子は、神聖そのもの。この時間帯は特にアナフィオティカ地区の散歩にぴったりです。地元の人々の眠りを妨げることなく、この美しい風景を独り占めできます。聞こえるのは鳥のさえずりと自分の足音だけで、まるで古代アテネにタイムスリップしたような瞑想的なひとときを過ごせることでしょう。

    活気の昼:エネルギッシュな街の鼓動に身を委ねて

    太陽が高く昇る頃、プラカは生き生きとした活気に包まれます。世界中から訪れた観光客の笑い声やタベルナの呼び込み、土産物屋の店主とのやりとりといったあらゆる音が交じり合い、街全体がひとつの巨大な生命体のように躍動します。この時間帯は、表通りを中心に歩くのがおすすめです。人々のエネルギッシュな渦に身を任せながら、ローマン・アゴラやハドリアヌスの図書館などの遺跡を訪れたり、気になるタベルナでランチを楽しんだり。アテネが持つ陽気で開放的なパワーを全身で味わえます。

    魔法の夜:月明かりとブズキの旋律に酔いしれて

    日が沈み空が深い藍色に変わる頃、プラカはまた別の顔を見せます。ライトアップされたアクロポリスが夜空に浮かび上がり、街全体が幻想的な光に包まれます。タベルナからは、ギリシャの弦楽器「ブズキ」の哀愁を帯びた音色が流れ、その旋律に乗せて食事を楽しむ人々の陽気な歌声が響き渡ります。賑やかな表通りでのディナーも良いですが、私のおすすめは裏路地の小さなバーで一杯楽しむこと。月明かりに照らされた石畳の路地で、地元のワインやウゾを傍らに置き、遠くから聞こえるブズキの音色に耳を傾ける。それは、忘れがたいアテネの夜の思い出となるでしょう。

    東洋の魂を宿すギリシャ音楽:ブズキの起源

    ギリシャ音楽の代名詞ともいえる楽器、ブズキ。その煌びやかでどこか切なさを帯びた響きは、ギリシャ人の心の琴線に触れるとともに深く愛されています。しかし、この楽器の起源をたどると驚くべき事実が見えてきます。ブズキは古代ギリシャのリラやキタラの直系の子孫ではなく、オスマン帝国時代にトルコから伝わった「サズ」という楽器が元となっています。特に20世紀初頭にトルコからギリシャへ移住した人々によって、故郷への思いと苦難を歌う「レンベーティカ」という音楽が生まれ、ブズキはその中核的な楽器として発展しました。ギリシャの魂の旋律は、実は東洋の血を深く受け継いでいたのです。この歴史を知ってからブズキの音色に耳を傾けると、その響きの奥に一層の哀愁と歴史の重みを感じ取れるかもしれません。

    プラカ散策をさらに深く楽しむための豆知識

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    プラカ地区は、ただ歩くだけでも十分に楽しめる場所ですが、少し知識を持って散策すると、目に映る風景がより立体的で興味深く感じられます。ここでは、あなたの散歩をさらに充実させるための、ささやかなヒントをいくつかご紹介しましょう。

    プラカを歩くと哲学の息吹に触れる?古代の思想家たちの足跡

    プラカ地区は、西洋哲学の起源ともいえる「古代アゴラ」に隣接しています。古代アゴラはかつて、市場や裁判所、集会所が集まる街の中心として機能しており、ソクラテスが若者たちと対話を交わし、プラトンが自らの学園について話し、アリストテレスが深く思索にふけった場所でもあります。石畳のプラカを歩きながら、少しだけ想像力を膨らませてみてください。あなたがいま歩むこの道を彼らも歩き、世界の真理やよりよい生き方について熱く議論していたかもしれません。

    ソクラテスの最期の場所はどこにある?

    ソクラテスが「国家の神々を信じず、若者を堕落させた」として死刑判決を受け、毒酒を飲んで命を落とした牢獄の跡地は、実はアテネに二か所存在します。ひとつは観光名所として知られるフィロパポスの丘中腹にある洞窟、もうひとつは古代アゴラのすぐ南西、プラカ近辺の遺跡です。どちらが正確な場所かについては考古学者の間でも意見が分かれていますが、この議論自体がアテネという街全体がソクラテスの記憶と深く結びついていることの証拠とも言えるでしょう。プラカの路地裏でふと立ち止まった瞬間に、哲学者の魂のさざめきが聞こえてくるかもしれません。

    ストリートアートに込められたメッセージ:現代アテネの叫び声

    プラカの歴史的な街並みを歩いていると、時に建物の壁に描かれた鮮やかなストリートアートが目を引きます。これらは単なる落書きではありません。特に2010年代以降の経済危機の影響を受け、アテネのストリートアートは市民の怒りや不安、社会への抵抗を表現する重要な手段となりました。古代の神々をモチーフにして現代の政治家を風刺したり、美しいデザインの中に鋭いメッセージを秘めたりしています。プラカの壁は、古代遺跡が過ぎ去った時代を語る一方で、ストリートアートが現代アテネの生々しい「今」を叫ぶ巨大なキャンバスでもあるのです。新旧のアート作品が共存し対話を繰り広げる光景は、アテネが今なお変化し続ける、活気あふれる街であることを力強く示しています。

    迷宮の先に見たアテネの素顔

    アテネ、プラカ地区。神々の足元に広がるこの迷宮を、表通りから裏路地へと、古代から現代へと歩んできました。陽光あふれる表通りは、誰もが味わえる観光の楽しさと活気に満ちあふれていました。一方で、ひっそりと静まり返る裏路地には、歴史の記憶とそこで暮らす人々の静かで誇り高い日常が息づいていました。

    どちらか一方だけでは、プラカやアテネの真の姿を捉えることはできません。光と影、喧騒と静寂、観光と生活。この対照的な要素が絡み合い、互いに引き立て合うことで、この地区固有の魅力が形作られているのです。それはまるで、激しい格闘の合間に訪れる一瞬の静寂のようです。動と静、双方を知り尽くして初めて、真髄が見えてくるのです。

    この街の混沌としたエネルギーは、自分自身を奮い立たせ、次なる挑戦への原動力となりました。プラカは単なる観光地ではありません。歴史と生活が層となって積み重なった、生きた博物館であり、訪れるすべての人に何かを問いかける哲学の舞台なのです。さあ、今度はあなたの番です。ぜひ自分の足でこの迷宮に足を踏み入れ、あなたにしか見つけられない発見と物語を手に入れてください。その先に、忘れがたいアテネの本当の姿がきっと待っています。

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    この記事を書いた人

    起業家でアマチュア格闘家の大です。世界中で格闘技の修行をしながら、バックパック一つで旅をしています。時には危険地帯にも足を踏み入れ、現地のリアルな文化や生活をレポートします。刺激的な旅の世界をお届けします!

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