都会の喧騒から少しだけ離れたい時、私たちの心はどこか懐かしくて、それでいて新しい景色を探しているのかもしれません。オーストラリアと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、きっと抜けるような青い空と広大な自然、そしてシドニーやメルボルンのようなモダンで洗練された都市の姿でしょう。私もアパレルの仕事で何度も訪れたメルボルンは、クリエイティブなエネルギーに満ちた大好きな街。けれど、そのスタイリッシュな街の郊外に、まるで時が止まったかのような中世ヨーロッパの村が息づいていることをご存知でしょうか。その名は「モンサルヴァット」。
今回は、ただの観光地紹介ではありません。一人の芸術家の燃えるような情熱と、仲間たちの夢が織りなす壮大な物語が刻まれた、オーストラリア最古の芸術家コロニーの誕生秘話と、そこに隠された数々のトリビアを紐解いていきたいと思います。ファッションが過去の様式からインスピレーションを得て新たなスタイルを生み出すように、この場所もまた、遠いヨーロッパへの憧憬と、手元にあるものから美を創造する精神が見事に融合した奇跡の場所。古い石畳を歩けば、忘れていたはずの記憶の欠片が、ステンドグラスの光のように心をよぎるかもしれません。さあ、時間旅行の準備はよろしいですか?メルボルンの中心部から電車に揺られ、緑豊かな丘陵地帯へ。私たちだけの秘密の城への扉を開きましょう。
メルボルンには、かつて修道院として使われた歴史的建造物がアートの聖地として生まれ変わったアボッツフォード修道院のような場所もあり、創造性を育む空間が街の内外に点在しています。
モンサルヴァットとは?オーストラリア最古の芸術家コロニーの肖像

まず、この魔法のような場所の基本的な概要からご紹介します。モンサルヴァット(Montsalvat)は、メルボルンの中心地から北東へおよそ25キロ離れた、ヤラ川の美しい渓谷にほど近いエルサム(Eltham)という緑豊かな郊外に位置しています。ここは単なる歴史的建造物の集まりではなく、オーストラリアで最も古く、現在も活発に活動している「アーティスト・コロニー(芸術家村)」なのです。
「アーティスト・コロニー」と聞いて、あまり馴染みがないかもしれません。これは芸術家たちが共に生活し互いに刺激し合いながら、創作活動に没頭するためのコミュニティ空間を指します。モンサルヴァットは、まさにその理想を実現するために誕生しました。1934年の開設以来、画家、彫刻家、陶芸家、宝飾デザイナー、作家、音楽家など、多くのクリエイターたちがここに暮らし、それぞれの才能を花開かせてきました。
敷地内に足を踏み入れると、そこはもうオーストラリアではないかのように感じられます。ゴシック様式を思わせる石造りの塔、フランスの田舎町にあるような素朴な土壁の家、荘厳なステンドグラスが輝くチャペル。迷路のように入り組んだ小道、蔦が絡みつくアーチ、静かに水をたたえるプールなど、48,000平方メートル(約12エーカー)にもおよぶ広大な敷地内には大小様々な建物が点在し、それらが一体となってひとつの村を形作っています。訪れた人はまるで中世ヨーロッパの物語の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥るでしょう。
驚くべきは、これらの建物が何世紀も前のヨーロッパから移築されたものではないという点です。すべてが20世紀のオーストラリアの大地で、一人の男の夢と多くの仲間の手によって、一から創り上げられたものなのです。この物語を知れば、目の前に広がる風景はさらに深みを増し、私たちの心に強く刻まれることでしょう。
夢の始まり。創設者ユストゥス・ヨルゲンセンの情熱と狂気
モンサルヴァットの物語は、非凡な芸術家ユストゥス・ヨルゲンセン(Justus Jörgensen)なしには語り尽くせません。彼こそが、この壮大な夢の立案者であり、実現へと突き動かした原動力でした。
1893年生まれのヨルゲンセンは、当初建築家としての道を歩み始めましたが、彼の心は常に絵画の世界に強く惹かれていました。メルボルンのナショナル・ギャラリー・スクールで絵画を学び、才能あふれるアーティストたちと交わる中で、彼の芸術に対する情熱は一層激しく燃え上がっていきます。そして、彼の人生を大きく変えた転機が訪れたのは、1920年代にヨーロッパを旅した経験でした。
数年間にわたりヨーロッパ各地を巡る中で、特にフランスのゴシック建築の荘厳な美しさに心を奪われました。ルーアン大聖堂の高くそびえる尖塔、シャルトル大聖堂のステンドグラスが生み出す光の饗宴、そして丘の上に築かれた中世の村々が持つ、時を超えた風格。これらの光景は、若き芸術家の心に深い感動と強烈なインスピレーションを刻み込みました。彼はそれらを単なる美しい建造物とは捉えず、人々の信仰と生活、そして魂が宿る「コミュニティの核」であることを体感したのです。
オーストラリアへ戻ったヨルゲンセンの胸には、ひとつの壮大な夢が芽生えていました。「オーストラリアの地に、ヨーロッパの精神を持つ芸術家たちのための村を築く」という強い想いでした。多くの人々にとっては荒唐無稽な夢物語に映ったかもしれませんが、彼の情熱は抑えきれない奔流となっていました。カリスマ性と説得力を持って、彼のビジョンに賛同する友人や弟子、芸術家仲間を次々と集めていきます。そして1934年、彼はついにこのエルサムの地を手に入れ、夢への第一歩を踏み出しました。
【トリビア①】聖杯伝説に由来する「モンサルヴァット」の名前
ここで一つ目のトリビアです。この芸術家村の名前「モンサルヴァット」はどこから来たのでしょうか。それはアーサー王伝説に登場し、聖杯が守られていると伝えられる伝説の城「モンサルヴァート(Montsalvat)」に由来します。ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーの最終オペラ『パルジファル』でも、この城は重要な舞台として描かれています。
ヨルゲンセンは、自ら創り上げる場所を単なる建物の集合体とみなさず、芸術という「聖杯」を守り育てる神聖な城(サンクチュアリ)と位置付けていました。伝説と現実、ヨーロッパとオーストラリア、そして過去と現在。彼はこの名に時空を超えた壮大なロマンを込めたのです。この由来を知ることで、石造りの壁や塔がさらに神秘的な輝きを放っているように感じられないでしょうか?誰かにそっと伝えたい、そんな魅力的な物語ですね。
ヨルゲンセンの指導のもと、建設は始まりましたが、そこに専門の建築業者は存在しませんでした。彼と、その夢に共鳴した芸術家たち、家族や友人が自らの手で土を掘り、石を積み、木材を組み上げていったのです。彼らは建築の素人でしたが、ヨルゲンセンの揺るぎないビジョンとリーダーシップ、そして真の芸術作品を生み出すという不動の信念が彼らを駆り立てました。それは時に狂気とも言える情熱でした。こうして、オーストラリアの地に、これまでに類を見ない「手作りのヨーロッパ」が少しずつその姿を現し始めたのです。
廃材が紡ぐ美学。サステナブル建築の先駆け

モンサルヴァットの建築群に人々が驚嘆するのは、その中世ヨーロッパ風の外観だけではありません。実は、これらの壮麗な建物の多くが廃材やリサイクル素材を巧みに活用して築かれているという事実があります。これは、モンサルヴァットの魅力を語る上で欠かせない重要なポイントであり、現代を生きる私たちに多くの示唆をもたらしてくれます。
建設が始まった1930年代は、世界が経済的に厳しい大恐慌の時代。潤沢な資金があったわけではありませんでした。しかし、ヨルゲンセンと彼の仲間たちは、この制約を逆手に取り、独自の美学へと昇華させることに成功しました。彼らは、メルボルンの街で解体される運命にあった古い建物に注目したのです。
【トリビア②】メルボルンの記憶を宿す建材たち
ここにも知る人ぞ知るトリビアがあります。モンサルヴァットの壁や床、窓や扉には、かつてメルボルンの風景を彩っていた建物の記憶が静かに息づいているのです。
例えば、最も象徴的な建物である「大広間(The Great Hall)」の床に使われている巨大な石板は、かつてメルボルンの金融街として知られるコリンズ・ストリート(Collins Street)の歩道で使われていた敷石と言われています。かつて多くのビジネスマンや着飾った淑女たちが行き交った石畳の上を、今私たちはアートを求めて歩んでいます。そう考えると、足元から街の歴史の鼓動が伝わってくるように感じられます。
また、建物の梁(はり)には、ビクトリア州の古い鉄道橋や波止場で使用されていた頑丈な木材が再利用されました。壁には、解体された邸宅のレンガや地元の採石場から採れたブルーストーン(青石)が巧みに組み合わされています。ステンドグラスの中には、古いホテルや銀行から救い出されたものも含まれているといいます。
ヨルゲンセンたちの取り組みは、単なる廃品利用や節約術にとどまりませんでした。それは、「古いものや捨てられたものの中にこそ、真の美しさと価値が宿る」という強い哲学の表れでした。長い年月を経て刻まれた傷や風合い、そして人の手の温もりが残る素材。それらを丁寧に扱い、新しい命を吹き込むことで、新品の建材では決して表現できない、深みと温かみ、そして物語性に満ちた空間を生み出したのです。
これは、現代のファッション界で注目されている「アップサイクル」や「サステナビリティ」の理念を、何十年も前に先取りしていたと言えるでしょう。ヴィンテージのドレスがその背景や前の持ち主の物語をまとって特別な輝きを放つように、モンサルヴァットの建物もまた、メルボルンの失われた記憶を身にまとい、唯一無二のオーラを放っています。彼らが廃材を使ったのは単に資金不足のためではなく、廃材そのものに価値を見出したからこそでした。この精神こそが、モンサルヴァットに時代を超えた普遍的な魅力をもたらしているのではないでしょうか。
迷宮を歩く。モンサルヴァットの見どころ徹底ガイド
では、実際にモンサルヴァットの敷地内を散策してみましょう。計画的に整えられた公園とは異なり、ここはまるで自然に形成された村のような趣があります。どこに何があるのか地図を片手に宝探しをするように歩くのがおすすめです。ここでは、特に印象に残ったスポットをいくつか紹介します。
大広間(The Great Hall)-圧倒されるゴシックの世界
モンサルヴァットの中心であり、最も象徴的な建物が「大広間」です。創設者ヨルゲンセンが家族と共に晩年を過ごした場所でもあります。分厚い石と土で造られた壁、天へと伸びる木組みの天井、そして城の謁見の間を彷彿とさせる巨大な暖炉。その壮大なスケールと荘厳な雰囲気に、誰もが息を呑むことでしょう。
特に目を引くのは、壁に埋め込まれた豪華なステンドグラスです。ヨーロッパの教会に着想を得たと思われるそのデザインは、色鮮やかな光を室内に降り注ぎ、まるで万華鏡のような幻想的な空間を作り出しています。晴れた午前中に訪れると、東向きの窓から射し込む光が床に美しい模様を描き、その光景は神聖ささえ感じられます。
壁にはヨルゲンセン自身の作品をはじめ、モンサルヴァットに縁のある芸術家たちの絵画が飾られています。重厚な木製のテーブルと椅子が並び、かつてここで行われたであろう祭典やコンサート、芸術を巡る熱い議論の光景が目に浮かびます。この空間に身を置くと、今自分が21世紀のオーストラリアにいることを忘れてしまうほどです。
【トリビア③】足元に眠るメルボルンのメインストリート
前述しましたが、この大広間でぜひ注目したいのが足元です。重厚な石の床は、メルボルンの主要な通りの一つ、コリンズ・ストリートの古い歩道から運ばれたもの。これを知っていると、一歩一歩踏みしめる感触がまったく違ってきます。多くの人々の喜び、悲しみ、出会いと別れを見守ってきた石材たちが、今は芸術の聖地で静かに時を刻んでいる。なんともロマンティックな物語です。誰かと一緒に訪れた際には、きっとこの話を共有せずにはいられないでしょう。
プールサイドのチャペル(The Poolside Chapel)-水面に映る祈りの場
大広間から少し歩くと、静かで美しい水をたたえたプールが現れます。そのほとりにひっそりと佇むのが「プールサイドのチャペル」です。石と木で造られた素朴で小さなチャペルは、まるでフランスの田舎の教会のように可愛らしい雰囲気。内部はシンプルながら、小さなステンドグラスから差し込む柔らかな光が神聖さを醸し出しています。
このチャペルの魅力は何と言ってもそのロケーション。プールの水面にチャペルや周囲の木々、さらに空が鏡のように映り込み、息をのむほどの美しい景色を見せてくれます。風のない穏やかな日には、現実と水面に映る像の境界が曖昧となり、まるで夢の中にいるかのような感覚に包まれます。
このロマンティックな空気から、モンサルヴァットはメルボルンで最も人気の高いウェディング会場の一つとしても知られています。このチャペルの前で、多くのカップルが永遠の愛を誓ってきました。かつての芸術家たちの夢が築いた場所で、新たな未来への物語が紡がれていく。時間が美しく交差する特別な場所です。
ブルーストーン・チャペル(The Bluestone Chapel)-静寂と対峙する空間
敷地内にはもう一つ、趣が異なるチャペルがあります。その名も「ブルーストーン・チャペル」。ビクトリア州で採れる青みを帯びた特徴ある石材、ブルーストーンを積み上げて造られています。大広間やプールサイドのチャペルと比べると、より小さく、静かで瞑想に適した空間です。
中に足を踏み入れると、肌を撫でるような冷たい空気が流れ、外の喧騒がはるか遠くに感じられます。厚い壁が音や光、時間の流れさえも穏やかにしてくれるかのようです。正面の祭壇には精緻な彫刻と絵画が飾られ、側面の壁に嵌め込まれたステンドグラスが宝石のような光を室内に届けます。一人静かに椅子に腰掛けて深く呼吸すれば、心が洗われる感覚を得られるでしょう。忙しい日々や感傷的な気持ちをリセットしたいときに訪れるには最適な場所。旅の途中で自分自身と静かに向き合う時間を持つのも、何物にも代えがたい贅沢です。
アーティスト・スタジオの小径-創造の息吹を感じる
モンサルヴァットの魅力は過去の遺産だけにとどまりません。現在もこの場所は「生きる」アートの拠点となっています。敷地内には、活動中のアーティストたちのアトリエ兼住居が点在。陶芸家、画家、彫刻家、宝飾デザイナー、ヴァイオリン職人など多彩なジャンルのクリエイターたちが、この刺激的な環境の中で日々作品を生み出しています。
スタジオが連なる小道を歩くと、窓越しに制作風景が覗けたり、土をこねる音や金属を打つ音が風に乗って聞こえてきたりすることも。これは、モンサルヴァットに満ちる創造のエネルギーを肌で感じる瞬間です。運が良ければ、アーティスト本人と軽く言葉を交わす機会に恵まれるかもしれません。
敷地内には「The Barn Gallery」や「The Long Gallery」などのギャラリースペースもあり、レジデンス・アーティストたちの作品が展示・販売されています。旅の記念に、世界に一つだけのアート作品を手に入れるのも素敵です。ここで作られたジュエリーや陶芸品は、まるでモンサルヴァットの空気を閉じ込めたかのようで、一つひとつ見るたびにこの場所の記憶を呼び起こしてくれます。
【トリビア④】壁に隠れた遊び心を探そう
モンサルヴァットを散策するときは、ぜひ上も下も隅々まで目を凝らしてみてください。ヨルゲンセンとその仲間たちが残した遊び心豊かな細部があちこちに隠されています。
たとえば、建物の壁に動物の顔が彫られていたり、不思議な人面像がこちらを覗いていたり。石の間に美しい模様のタイルがアクセントとして施されている箇所もあります。これらは建築の効率性からは不要かもしれませんが、彼らは単に建物を作っていたのではなく、自分たちの「村」を愛情とユーモアで飾っていたのです。
こうした小さな発見は宝探しのような楽しさがあります。一つ見つけるたびに、当時のアーティストたちの笑い声が聞こえてくるような気がしてきます。もし誰かと訪れたなら、「あ、こんなところに!」と笑い合いながら小さな発見を楽しんだことでしょう。ひとりでじっくり探すも良し、誰かと競うように見つけ合うもよし、それこそがこの村の楽しみ方の一つなのです。
モンサルヴァットの「今」。息づくアートとコミュニティ

1934年の創立から90年近くが経過した現在も、モンサルヴァットは単なる過去の遺産として保存されているわけではありません。創設者ヨルゲンセンの願い通り、ここは常に新たな創造のエネルギーが息づく場所であり続けています。
年間を通じて、多彩なアート関連のイベントが開催されています。国内外からアーティストを招くレジデンス・プログラム、誰でも参加できる絵画や陶芸のワークショップ、さらに大広間やチャペルを舞台にしたクラシックコンサートやジャズライブが催されます。中でも夏の夜に行われる野外シネマは、幻想的な雰囲気の中で映画を楽しむことができる人気の催しです。
また、前述のように、ウェディング会場としての評価も非常に高いです。歴史と芸術が織りなす唯一無二のロケーションは、新たな人生の門出を祝うのにふさわしい、まさにドラマチックな空間となっています。週末に訪れると、幸せに満ちたカップルやゲストたちの姿が見受けられ、こちらまで心温まる思いに包まれます。芸術家たちの夢の場は、現代を生きる人々の幸せな記憶を重ねることで、いっそう輝きを増しているのです。
散策に疲れた際は、敷地内にあるカフェ「The Boulevard@Montsalvat」でひと息つくのもおすすめです。美しい庭園を眺めながら、美味しいコーヒーやランチを楽しむことができます。アートに囲まれた空間で過ごす時間は、日常の慌ただしさを忘れさせてくれる至福のひとときです。メニューには地元ヤラ・ヴァレー産のワインも揃っており、優雅な午後のひとときを過ごすのに最適です。旅先でのカフェの時間は、その土地の空気を深く感じるための大切な儀式のようなもの。ここでは芸術の香りが、最高のスパイスとなっています。
アクセスと旅のヒント
最後に、メルボルン市内からモンサルヴァットへのアクセス方法と、訪問時のちょっとしたポイントをご紹介します。
メルボルン中心部にあるフリンダース・ストリート駅(Flinders Street Station)から、ハーストブリッジ線(Hurstbridge Line)の電車に乗車してください。目的地はエルサム駅(Eltham Station)で、所要時間はおよそ40~50分です。都会の高層ビル街から次第に緑に囲まれた住宅地へと変わっていく車窓の景色もお楽しみいただけます。
エルサム駅に到着後、モンサルヴァットまでは約2.5キロメートルです。美しい風景や公園を眺めながら、徒歩で約30分かけて散策しながら向かうのも気持ち良いでしょう。歩くのが難しい場合は、駅からタクシーや配車サービスを利用する方法が便利です。あるいは、513番のバスに乗り、「Mt Pleasant Rd/Hillcrest Ave」の停留所で下車すれば、徒歩数分で現地に到着します。
女性の一人旅でも、日中の時間帯であれば安全に問題なく訪問可能です。ただし、敷地内には石畳や未舗装の小道が多いため、歩きやすいフラットシューズを履くことを強くおすすめします。ヒールの靴では、この歴史ある村の魅力を十分に味わうのは難しいでしょう。また、季節によっては日差しが強くなるため、帽子やサングラス、日焼け止めの準備も忘れずに。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | モンサルヴァット (Montsalvat) |
| 住所 | 7 Hillcrest Avenue, Eltham VIC 3095, Australia |
| 電話番号 | +61 3 9439 7712 |
| 営業時間 | 木曜日〜日曜日 10:00 – 17:00 (季節やイベントにより変動あり) |
| 休館日 | 月曜日〜水曜日、祝日(詳細は公式サイトをご確認ください) |
| 入場料 | 大人 $14、コンセッション $10、子供(5〜12歳) $8、5歳未満無料(2024年現在) |
| 公式サイト | https://www.montsalvat.com.au/ |
時間を超えた芸術の魂に触れる旅

モンサルヴァットを巡る旅は、単なる風光明媚な景色の鑑賞を超えた体験でした。それは、一人の人間の壮大な夢がどのように現実となり、多くの人々の心を揺さぶり、今なお生き続けているのかを直に感じ取る旅でもありました。
ユストゥス・ヨルゲンセンという男が抱いた、遠くヨーロッパへの憧憬と、芸術の聖地を築き上げるという狂気じみたほどの情熱。そして、その夢に共鳴し、自分の手で石を積み木を削った無名の芸術家たちの汗と笑い声。モンサルヴァットの壁ひとつひとつ、床の石のひとつひとつが、その壮大なストーリーを静かに語りかけてくるかのようでした。
本来捨てられるはずだった廃材に美を見出し、新たな命を吹き込む創造の精神は、私たちに「価値とは何か」を改めて問いかけます。流行に流されることなく、自分自身の審美眼を信じて、身の回りのものの本質的な美を見つけることの大切さ。それは、私が仕事で関わるファッションの世界においても通じる、とても重要な心構えだとあらためて実感させられました。
過去と現在が溶け合い、創造のエネルギーが満ちあふれるこの地は、訪れる者の心に穏やかなインスピレーションをもたらします。もしもあなたがメルボルンを訪れる機会があれば、ぜひ少し足を伸ばして、この芸術家たちの夢が詰まった城を訪れてみてください。そこには、忘れかけていたロマンや、自分だけの「好き」を貫く勇気がきっと見つかることでしょう。そして、あなた自身の心のなかにも、誰にも渡せない「夢の城」を築きたくなるかもしれません。

