どこまでも続く青い空、黄金色に輝く砂浜、そして世界中のサーファーを魅了する美しい波。オーストラリア・ゴールドコーストと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、サーファーズパラダイスの賑わいや、家族で楽しめる巨大なテーマパークの光景かもしれません。もちろん、それもこの街が持つ大きな魅力の一つです。しかし、その喧騒からほんの少しだけ南へ足を延ばすと、そこには全く異なる、洗練された大人の時間が流れるエリアが広がっています。その名も「ブロードビーチ」。
ここは、高層ホテルが林立する観光地とは一線を画し、地元の人々が日常を豊かに過ごすための、いわば「暮らしの拠点」。特に近年、その食文化のレベルの高さは目を見張るものがあり、舌の肥えたローカルたちを唸らせる個性豊かなカフェが次々とオープンしています。彼らは週末になると、お気に入りのカフェで思い思いのブランチを楽しみ、友人や家族と語らい、ゆったりとした時間を過ごすのです。それは、単なる食事ではなく、ゴールドコーストのライフスタイルそのものを象徴する、神聖な儀式とさえ言えるかもしれません。
今回の旅では、そんな地元民たちの聖域へとお邪魔し、ガイドブックには載っていない、真に愛されるブランチの名店を巡ります。なぜ彼らはこの店に惹かれるのか。一杯のコーヒー、一皿の料理に隠された物語とは何か。鉄道ファンとしての視点も少しだけ交えながら、ブロードビーチの奥深い魅力と、あなたの旅を何倍にも豊かにしてくれるであろう、とっておきのカフェ体験をお届けします。さあ、太陽と潮風が織りなす、最高のブランチを探す旅に出かけましょう。
ブロードビーチでローカルなカフェ文化を満喫した後は、観光の中心地であるサーファーズパラダイスで絶景を楽しむ食事も、ゴールドコーストの旅の醍醐味です。
なぜブロードビーチは「食の宝石箱」と呼ばれるのか?その歴史と秘密

現在の洗練された街並みからは想像がつきにくいですが、数十年前まではブロードビーチ一帯はネラング川が運んだ砂が堆積した湿地帯でした。1950年代に入り、ゴールドコーストがリゾート地として注目を集めると、サーファーズパラダイスを中心に開発が急速に進みました。しかし、ブロードビーチは当初、その中心地からやや外れた静かな住宅地として発展していきます。この「中心地から少し離れている」ことが、後にこの地域独自の文化を育てる土壌となったのです。
観光客向けの華やかなエンターテインメントで賑わうサーファーズパラダイスに対し、ブロードビーチにはより落ち着いた環境を求める人々、特に永住を視野に入れた富裕層や引退者層が居を構えるようになりました。彼らが求めたのは一時的な観光地としてではなく、日常生活に根ざした高品質な暮らしでした。その要望に応える形で、こだわりの食材を扱うデリカテッセンや腕利きのシェフたちが開くレストランが徐々に増えていったのです。
そして、この流れを決定的にしたのが、オーストラリア全土に広がった「サードウェーブコーヒー」のムーブメントでした。スターバックスに代表されるシアトルスタイルのコーヒー(セカンドウェーブ)が世界を席巻する中、オーストラリア、特にメルボルンにおいては、コーヒー豆の産地や個性を重視し、一杯ずつ丁寧に淹れるサードウェーブの文化が独自に発展しました。その波は当然ゴールドコーストにも及び、ブロードビーチの感度の高い人々は、この新たなコーヒー文化を熱狂的に受け入れたのです。
ちなみに、オーストラリアを代表するコーヒードリンク「フラットホワイト」は、エスプレッソにきめ細かなスチームミルクを注いだもので、ラテよりもミルクの層が薄く、よりストレートにコーヒーの風味を楽しめるのが特徴です。このフラットホワイトの発祥地を巡っては、長年にわたりオーストラリアとニュージーランドの間で激しい論争が続いていますが、いずれにせよ、オセアニア地域で育まれた独自のコーヒー文化の象徴であることに変わりはありません。ブロードビーチのカフェはまさにこの文化の最前線であり、単なるコーヒーを飲む場所にとどまらず、生産者からバリスタ、そして客へと繋がる物語を味わう空間となっています。
このように、歴史的な背景と新たな文化の波が融合し、ブロードビーチは単なるグルメの街ではなく、多様な食文化が共存し、それぞれが宝石のように輝きを放つ「食の宝石箱」へと進化したのです。これからご紹介するカフェは、その中でも特に輝きを放つ選りすぐりの名店ばかりです。
一軒目:アートとオーガニックが融合する空間「Elk Espresso」
海辺の喧騒から離れた、ボヘミアンスタイルの隠れ家
ブロードビーチのメインストリートから一本入った場所にあるオアシス・ショッピングセンターのすぐ近く。まるで時間がゆったりと流れているかのようなその一角に、「Elk Espresso」はひっそりと佇んでいます。初めて訪れる人は、その控えめな外観を見て通り過ぎてしまうかもしれません。しかし、一歩店内に入れば、外界とはまったく異なるクリエイティブで温もりあふれる空間が広がっています。
使い込まれたリサイクルウッドのテーブルやむき出しのコンクリートとレンガの壁が織りなすインダストリアルな趣、その隙間を埋めるように飾られた地元アーティストの絵画やオブジェ。全体的にはボヘミアンなテイストでまとめつつも、洗練された印象を与えるのは、緻密に計算された自然光の取り入れ方や、巧みに配置された植物の効果によるものです。オーナーは、ただの飲食店ではなく、人々が集い、刺激を受け合える「コミュニティスペース」を目指していると語ります。その思いは定期的に入れ替わる壁のアート作品や、若手アーティストの発表の場になっていることからも伝わってきます。
朝の光が大きな窓を通して差し込む店内は活気に満ちているものの、不思議と落ち着きを感じさせます。テーブルごとの会話、カトラリーの音、そしてエスプレッソマシンのリズミカルな響き。それらがひとつの心地よいBGMとなり、空間全体に穏やかな包容力をもたらしています。ここは、海辺の明るさと都会的な洗練が絶妙に調和した、まさに大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい場所です。
皿の上の芸術、看板メニュー「ブランチボード」の魅力
Elk Espressoが多くの人に知られるきっかけとなったのは、そのクリエイティブで美しいブランチメニューの数々です。特に人気を誇るのが「Brekkie Board(ブランチボード)」。木製プレートの上に、まるで画家がパレットに色を置くかのように、多彩でカラフルな小皿料理が繊細に並べられています。
ある日のブランチボードには、絶妙な半熟のポーチドエッグをのせたアボカドトースト、バイロンベイ産のフェタチーズとハーブを使ったサラダ、自家製グラノーラと新鮮なベリーを添えたヨーグルト、さらにはチアシードプディングが並ぶという内容でした。一皿一皿は派手な演出をしているわけではありませんが、すべてが高いクオリティで仕上げられているのが特徴です。
特に注目したいのは、食材への徹底したこだわりです。使用する卵は平飼いの鶏によるもの、野菜は近隣のオーガニックファームから毎朝新鮮なものが届き、パンは地元の職人が焼くサワードウブレッドを使用。メニューの片隅には、提携農家の名前が記されることもあります。これは単なる安全性のアピールではなく、「誰が、どのように、どこで作ったのか」という食材の背景を共有し、食べるという体験をより深く豊かにするための店の哲学の表れなのです。
この「ブランチボード」の提供スタイルもまた、オーストラリアらしいと言えます。一枚のプレートに多様な味を少しずつ楽しむというスタイルは、様々な文化が混ざり合い発展したこの国の食文化、そして家族や友人と食事を共にすることを好む国民性の反映かもしれません。甘味と塩味、あっさりとクリーミー、多彩な味覚の変化をゆっくり味わいながら、心身ともに満たされていくのを感じられます。
バリスタが語る、一杯のコーヒーに宿る哲学
Elk Espressoの魅力を語るうえで欠かせないのが、こだわりのコーヒーです。彼らが使うのは、メルボルンに拠点を置く評価の高いロースター「Seven Seeds」の豆。季節ごとに最適な旬のシングルオリジン(単一農園産豆)を厳選し、豆の個性を最大限に引き出すための抽出技術を日々追求しています。
カウンター越しに、バリスタは静かに、しかし滑らかで美しい技術でコーヒーを淹れています。おすすめを尋ねると、「今日はコロンビア産ゲイシャ種のフィルターコーヒーが特におすすめです」と笑顔で答えてくれました。一口味わうと、ジャスミンのように華やかな香りが立ち上り、ピーチやシトラスを思わせる複雑でクリアな酸味が続きます。コーヒーが本来フルーツから作られていることを改めて実感させる一杯です。
オーストラリアのカフェでのオーダーは初めての人にはやや戸惑うかもしれません。「ロングブラック」はお湯にエスプレッソを注いだもので、一般的なドリップコーヒーとは異なる濃厚な香りが特徴です。「ピッコロ」はエスプレッソに少量のスチームミルクを加えた小ぶりなラテ、そしておなじみの「フラットホワイト」も用意されています。メニューを見るだけでも、この国のコーヒー文化の奥行きを感じ取ることができます。
Elk Espressoのバリスタたちは単なるコーヒー職人に留まりません。彼らは、豆の生産者からお客様へとつながる長い旅路の最後のランナーであり、同時にストーリーテラーでもあります。何気ない会話の中から、その豆が育った農園の風景や、焙煎に込められたロースターの情熱を知ることができます。こうして届けられる一杯は、もはや単なる飲み物ではなく、一つの芸術作品として記憶に深く刻まれるのです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Elk Espresso |
| 住所 | 16 Chelsea Ave, Broadbeach QLD 4218 |
| 営業時間 | 6:00 – 16:00(季節により変動あり) |
| 特徴 | アートと調和したボヘミアンな空間、地産地消にこだわった美しいブランチ、極上のスペシャルティコーヒー |
| 予算 | 25〜40 AUD |
| Webサイト | elkespresso.com |
二軒目:ミニマリズムの極致、コーヒー愛好家の聖地「No Name Lane」

路地裏にひっそり佇む、コンクリート打ちっぱなしの異空間
ブロードビーチの中心地に位置する高級アパート兼商業施設「オラクル・ブルバード」。その賑やかな表通りから一本入ったサービスレーン(業務用通路)に、このカフェはひっそりと存在します。店名を示す看板はなく、壁に小さく描かれたロゴだけが目印。その名も「No Name Lane(名前のない路地裏)」。挑発的とも言えるネーミングと、通常のカフェとはかけ離れた無機質な立地が、この店の特別さを物語っています。
店内は、コンクリート打ちっぱなしの壁と天井に囲まれ、黒いスチールフレームの家具が配されており、最小限の照明だけで構成された徹底したミニマル空間。装飾は一切なく、主役は中央に鎮座する漆黒のエスプレッソマシンとバリスタ、そして彼らが淹れるコーヒーのみ。この空間設計は、視覚的なノイズを極力排除し、来店者の意識を嗅覚と味覚に集中させることを目的としています。装飾のない空間だからこそ、コーヒーの香りが際立ち、一口飲んだ瞬間の味わいがより深く感じられます。
一見すると冷たく感じるかもしれませんが、この場所には独特の居心地の良さがあります。バリスタの無駄のない動きや、静かにコーヒーを楽しむ常連客たちの姿が、このミニマルな環境に調和し、一種の静謐な儀式のような雰囲気を生み出しているのです。ここは、おしゃべりの場ではなく、自身と目の前の一杯のコーヒーとじっくり向き合うための空間なのです。
“マジック”を求めて。究極の一杯と絶妙なペアリング
No Name Laneは、ゴールドコーストのコーヒー愛好家にとってまさに「聖地」です。何故なら、提供されるコーヒーの圧倒的なクオリティに多くの人が魅了されているからです。中でも常連客が特に求めるのが「マジック」と呼ばれる一杯です。
「マジック」とは、メルボルン発祥のコーヒードリンクで、コーヒーマニアに広く愛されています。その定義は、「ダブルリストレットに3/4まで注いだスチームミルク」。リストレットは、通常のエスプレッソよりも少量の湯で短時間に抽出した濃厚なエスプレッソのこと。これをベースにすることで、ミルクの甘みと調和しつつ、コーヒー豆本来の豊かな風味や酸味がぼやけず濃縮された味わいを演出します。ミルクの割合も絶妙で、ラテよりコーヒー感が強く、フラットホワイトよりも滑らかな口当たり。まさに「魔法(マジック)」の名にふさわしい絶妙なバランスの一杯です。
No Name Laneのバリスタが淹れるマジックは芸術の域に達しています。豆はブリスベンの名高いロースター「Parallel Roasters」から仕入れた最高品質。ミルクは地元産の乳脂肪分が高く、甘み豊かなものだけを厳選。バリスタは天候や湿度まで考慮してグラインダーを細かく調整し、完璧なリストレットを抽出。温度管理と技術で極上にスチームされたミルクを注ぎ込みます。カップから立ち上る芳しい香りを吸い込み、一口味わえば、滑らかなミルクの感触と奥から湧き出る濃厚なコーヒーフレーバーが広がる。この感動のために、多くの人々がこの路地裏へ足を運びます。
フードは、コーヒーの風味を損なわないシンプルながら質の高いペイストリーが揃います。中でも、バター香るクロワッサンや、香ばしいアーモンドクロワッサンはマジックとの相性が抜群。リッチな脂の風味が、コーヒーの酸味や苦みを優しく包み込み、口の中で至福のハーモニーを生み出します。シンプルながらも完成度の高い、完璧な組み合わせと言えるでしょう。
地元ビジネスマンに支持される理由 – 高品質と迅速さの絶妙な共存
平日の朝8時、No Name Laneの前にはスーツ姿のビジネスマンやオフィスワーカーが列を作っています。彼らは出勤前に一杯のコーヒーを求めて、この店に集まります。ここが地元の働く人々に愛される理由は、圧倒的なクオリティと驚異的なスピードの両立にあります。
店内のカウンターでは複数のバリスタが、まるでオーケストラのような息の合った連携で次々と注文をこなしています。注文受付、エスプレッソ抽出、ミルクスチームと役割分担が明確で、それぞれが自分の動きに集中しながらも、全員の動きを把握し無駄なく動くことで、最高品質の一杯を驚くほど短時間で提供しています。この効率的なオペレーションは、長年の経験と緻密なトレーニングの成果であり、「最高のコーヒーを、待たずに」欲しいビジネスマンの要望に完璧に応えています。
彼らにとって、ここで飲むコーヒーは単なる目覚ましではありません。仕事に入る前の大切なスイッチを入れる儀式。完璧に淹れられた一杯を手にすることで、気持ちを切り替え、一日の業務にベストなコンディションで臨めるのです。No Name Laneは、ブロードビーチのビジネスシーンを、コーヒーの力で支えている存在と言えるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | No Name Lane |
| 住所 | 17 Elizabeth Ave, Broadbeach QLD 4218(オラクル・ブルバード裏手) |
| 営業時間 | 平日 5:30〜15:00、週末 6:00〜15:00 |
| 特徴 | 路地裏のミニマルな空間、高品質なコーヒーが魅力、特に必飲の「マジック」、速やかな提供 |
| 予算 | 5〜15 AUD |
| Webサイト | nonamelanecoffee.com.au |
三軒目:家族連れにも優しい、陽だまりのガーデンカフェ「Cardamom Pod」
心と体に寄り添う、多彩なベジタリアンの饗宴
これまで紹介してきた2軒が、コーヒーカルチャーの最先端を行く革新的なカフェであるのに対し、ご紹介する「Cardamom Pod」は、また異なる角度からブロードビーチの食文化に彩りを添えています。こちらのカフェは、メニューすべてがベジタリアン(菜食主義)で構成され、心身に優しい料理を提供しています。レンガ造りの建物と緑あふれる広い中庭が目印です。
ゴールドコーストは、サーフィンやヨガなどのアクティビティが日常に溶け込み、健康やウェルネスへの意識が非常に高い地域です。そのため、ベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義)は特別視されることなく、生活スタイルの一つとして幅広く受け入れられています。「肉や魚を使わない料理は物足りなさを感じるのでは?」という偏見は、この店の料理を口にすれば、心地よく覆されることでしょう。
Cardamom Podの料理哲学は、「Earth to Plate(大地から皿へ)」。世界中のスパイスや調理法を巧みに取り入れ、野菜や豆、穀物などの植物性素材の持つ可能性を最大限に引き出しています。メキシコ風のブリトーボウル、インド風のカレー、中東風のフムスプレートなど、いずれも驚くほど深い味わいと食べ応えがあり、肉や魚がないことを忘れさせてくれます。これは単に肉を野菜に置き換えただけの「偽物料理」ではありません。ハーブとスパイスを駆使し、食材の組み合わせを緻密に計算した、全く新たなジャンルの美食体験なのです。
見た目だけじゃない!「パンケーキ・スタック」に秘められた栄養価
Cardamom Podのもう一つの魅力は、その目を奪われるほど美しいスイーツメニューです。特に週末のブランチタイムには、「Pod Pancake Stack」が多くの人に人気です。
厚みのあるふわふわのパンケーキが3枚重ねられ、その上には季節のフルーツ、ココナッツヨーグルト、食用花(エディブルフラワー)、そしてメープルシロップがまるで芸術作品のように美しく盛り付けられています。その華やかなルックスは、訪れた多くの人々を引きつけ、SNSでも頻繁にシェアされています。
しかしこのパンケーキの本当の魅力は、見た目の美しさだけにとどまりません。栄養学的にも非常に工夫が凝らされています。生地には精製小麦粉だけでなく、全粒粉やそば粉がブレンドされ、食物繊維やミネラルが豊富に含まれています。トッピングには抗酸化作用が高いベリー類や、オメガ3脂肪酸を多く含むチアシード、スーパーフードとして知られるゴジベリー(クコの実)が贅沢に使われています。甘味は白砂糖ではなく、ミネラル豊富なメープルシロップやアガベシロップを選択。つまり、この一皿は単なる甘いデザートではなく、美しさと美味しさ、そして体に活力をもたらす「ウェルネスフード」として考え抜かれているのです。
さらにグルテンフリーの選択肢やナッツアレルギーに配慮したメニューも用意されており、多様な食事のニーズを持つ人々が誰一人取り残されることなく食卓を囲めるよう工夫されています。この包括的な姿勢こそ、Cardamom Podが幅広い層から愛され続ける理由のひとつでしょう。
自然光溢れるテラス席が育む、地域のコミュニティ
Cardamom Podの大きな特長の一つは、店の裏手に広がる開放的なガーデンテラスです。陽光が降り注ぎ、心地よい風が通り抜けるこの空間は、都会のオアシスそのもの。週末には多くの人々で賑わいます。
ベビーカーを押す若い夫婦、元気に走り回る子どもたち、愛犬を連れた人々、ヨガの練習帰りに立ち寄るグループなど、様々な背景を持つ人がこの場所に集い、それぞれのひとときを過ごしています。子どもが遊べるスペースも用意されており、親たちは安心して食事や会話を楽しめます。
こうした光景から、このカフェが単なる飲食店を超え、地域の人々を結ぶ「コミュニティハブ」の役割を果たしていることがうかがえます。異なる世代やライフスタイルの人たちが、彩り豊かなベジタリアン料理を共有しながら自然に交流する環境。このような空間が存在することが、ブロードビーチの暮らしの豊かさを象徴しているように感じられます。
美味しいコーヒーや上質なブランチを一人で静かに楽しむのも素敵な時間ですが、ときにはこんな温かなコミュニティに触れることも旅の醍醐味のひとつと言えるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | The Cardamom Pod |
| 住所 | 2685 Gold Coast Hwy, Broadbeach QLD 4218 |
| 営業時間 | 7:30 – 16:00 (ブランチ), 17:00 – 21:00 (ディナー) |
| 特徴 | 100%ベジタリアンメニュー、色鮮やかでバランスの良い料理、美しいパンケーキ、開放的なガーデンテラス |
| 予算 | 25〜40 AUD |
| Webサイト | cardamompod.com.au |
ブロードビーチ・ブランチ文化を支える「G:link」という名の生活の足

これまでにブロードビーチの魅力的なカフェを紹介してきましたが、鉄道好きの私としては、これらのカフェ巡りをより快適かつ楽しくしてくれる、この街の重要な交通インフラについても触れずにはいられません。それが、ゴールドコーストを南北に縦断する路面電車「G:link(ジー・リンク)」です。
2014年に開業したこのライトレールは、サーファーズパラダイスやブロードビーチといった主要エリアを結び、現在では観光客だけでなく地元の人々にとっても欠かせない生活の足となっています。ブロードビーチには「ブロードビーチ・ノース駅」と「ブロードビーチ・サウス駅」という二つの駅があり、今回紹介したカフェはどれもこれらの駅から徒歩圏内にあります。つまり、G:linkを利用すれば、車を運転することなく気軽にカフェ巡りを楽しめるのです。
このG:linkの魅力は、単なる移動手段にとどまらず、ゴールドコーストらしいユニークな特徴を備えているところにあります。例えば、車内にはサーフボードを立てかけられる専用ラックが設置されており、朝にはサーフボードを抱えた若者がトラムに乗り込み、彼らのお気に入りのサーフスポット近くの駅で降りる光景が日常として見られます。まさに、サーフカルチャーと都市インフラが見事に融合した風景と言えるでしょう。
車両のデザインもまた、ゴールドコーストの青い空と海をイメージした鮮やかなブルーとイエローで彩られ、街並みに華やかさを添えています。低床式のため乗り降りが楽で、車内は広々としていることから、ベビーカーやスーツケースを持っていても快適に利用可能です。さらに、日中は7分半間隔で運行しているため、時刻表を気にせずに来た電車に乗れる手軽さも魅力のひとつです。
乗車には「go card」という交通系ICカードの利用が便利です。駅の券売機で購入・チャージでき、乗車・降車時にホームにあるリーダーにタッチするだけでスムーズに乗車できます。現金で切符を買うよりも運賃が割安になるのも嬉しいポイントです。このgo cardはゴールドコーストだけでなく、州都ブリスベンの電車やバス、フェリーでも共通して使えるため、両都市を訪れる予定があるなら、まずは手に入れておくことを強くお勧めします。
現在、G:linkは南側へバーレーヘッズまでの延伸工事が進行中で、将来的にはゴールドコースト空港まで延びる計画もあります。このトラムの延伸は沿線の街の発展に寄与しており、新たなカフェやショップが駅周辺に続々とオープンしているのです。G:linkの路線図を見ることは、すなわちゴールドコーストの未来を想像することにもなります。カフェ巡りをしながら、車窓に映る変わりゆく街の景色を楽しみ、この街の活気を感じてみるのも一興でしょう。
ブランチだけじゃない!ブロードビーチの知られざる魅力
最高のブランチでお腹と心が満たされた後も、ブロードビーチにはまだまだ足を運ぶべき魅力あふれるスポットが多く存在します。カフェ巡りと合わせて訪れることで、このエリアの多様な魅力をより深く味わうことができるでしょう。
毎週開催されるファーマーズマーケットの活気
もし滞在が週末に重なるなら、ぜひ地元のファーマーズマーケットを訪れてみてください。ブロードビーチ州立学校の敷地内で毎週日曜日の朝に開催される「The Broadbeach Markets」では、新鮮なオーガニック野菜や果物、焼きたてのパン、職人が手作りするチーズやジャムなど、地元の生産者が自信を持って提供する豊富な品々がぎっしりと並びます。カフェで味わったあの美味しいトマトやアボカドがここで売られているのを見かけることもあるかもしれません。生産者と直接会話しながらショッピングを楽しむ体験は、スーパーマーケットでは味わえない特別なものです。地元の人々と一緒に、色とりどりの食材を見ながら歩くだけでも、心が豊かになるのを感じるでしょう。
パシフィック・フェア・ショッピングセンターの新たな魅力
「ブロードビーチ・サウス駅」に直結している「パシフィック・フェア」は、単なるショッピングモールを超えた存在です。最近大規模なリニューアルを経て、水と緑をふんだんに取り入れた、高級リゾートのような開放感あふれる空間に生まれ変わりました。有名ブランドのブティックから、オーストラリア発のファッションブランド、個性的な雑貨店まで、なんと400以上の店舗が軒を連ねています。特に「The Resort」と名付けられたエリアには、屋外ラウンジや水辺のレストランが設置され、ショッピングの合間にくつろげる心地よい空間を提供しています。ブランチの後に最新のオーストラリアンファッションをチェックしたり、お土産探しを楽しむには最適な場所と言えるでしょう。
夜のブロードビーチ、大人のエンターテイメントとカジノ「ザ・スター」
日が沈むと、ブロードビーチは昼間とは異なる華やかで洗練された夜の顔を見せ始めます。その中心にあるのが、カジノやホテル、劇場、そして多数の高級レストランやバーが揃う統合型リゾート「ザ・スター・ゴールドコースト」です。一攫千金を夢見てカジノに興じるのも良いですが、世界的に名高いシェフが腕を振るうレストランでのディナーや、併設劇場でのワールドクラスのショー鑑賞といった、多彩なエンターテイメントがあなたを待っています。日中はカフェでゆったり過ごし、夜は少しおめかしをして非日常の空間に浸る。そんなメリハリのある過ごし方もブロードビーチの大きな魅力の一つです。
太陽と笑顔が交差する場所、ブロードビーチで過ごす至福の朝

今回の旅で訪れた3つのカフェ。それぞれが異なる個性を持ちながらも共通しているのは、「Elk Espresso」のアートに満ちた空間と食材への深い愛情、「No Name Lane」のコーヒーに対する純粋かつ厳格な探求心、そして「Cardamom Pod」の心身に寄り添う優しさとコミュニティの温もりです。これらはすべて、洗練されつつもどこか肩の力が抜けた心地よさを纏うブロードビーチの土地の魅力を体現していました。
ブロードビーチのカフェ文化は、単に美味しい食事や飲み物を楽しむだけにとどまりません。豊かな自然が育んだ質の高い食材に感謝し、情熱を注ぐ作り手たちへの敬意を払い、そして大切な人と過ごすかけがえのない時間を大事にする。これが、オーストラリアの人々が大切にしているライフスタイルの本質なのです。一杯のフラットホワイトの向こう側には、この地に暮らす人々の笑顔と、穏やかで豊かな日常風景が広がっています。
サーファーズパラダイスの賑やかさももちろん魅力的ですが、もし次回のゴールドコースト訪問で、もう少しだけ街の奥深い表情に触れたいと思うなら、ぜひG:linkに乗ってブロードビーチで途中下車してみてください。地元の人たちと共にお気に入りのカフェのテラス席に腰を下ろせば、太陽の光と潮の香り、そして芳醇なコーヒーの香りが、あなたの旅を忘れがたい、最高に豊かな体験へと彩ってくれるでしょう。そこは、旅人と地元の笑顔が交わる、至福の時間が流れる場所だからです。

