日々の喧騒、鳴り止まない通知、積み重なるタスク。私たちはいつの間にか、自分自身の心の声に耳を澄ますことを忘れてしまいがちです。ふと立ち止まり、本当に大切なものを見つめ直したい。そんな思いに駆られたなら、次のお休みは韓国・済州島(チェジュ島)の南岸に佇む街、西帰浦(ソギポ)へと旅立ってみませんか。
「韓国のハワイ」と称される済州島ですが、その魅力は美しいビーチリゾートという言葉だけでは語り尽くせません。特に、年間を通して温暖な気候に恵まれた西帰浦は、雄大な自然と洗練されたアートが静かに溶け合う、大人のためのヒーリング・デスティネーション。そこには、ただ消費するだけの観光ではない、内なる自分と深く対話し、感性を研ぎ澄ますための豊かな時間が流れています。今回は、そんな西帰浦の海辺を舞台に、アートと自然に抱かれながら心を解き放つ、穏やかな休日の過ごし方をご提案します。忙しい日常で少し疲れてしまったあなたの心に、きっと優しい風が吹き抜けるはずです。
なぜ今、旅先は「済州島・西帰浦」なのか

ソウルのような大都市が持つ活気あふれる魅力とは対照的に、済州島にはゆったりとした時間が流れています。特に島の南部に位置する西帰浦は、韓国最高峰の漢拏山(ハルラサン)が北側からの風を防いでくれるため、島内でもっとも温暖で過ごしやすい地域として知られています。輝く太陽の光をたっぷり浴びて育つ甘い柑橘類は、この地の豊かさを象徴しています。
西帰浦の海岸線は、荒々しい溶岩の黒色と果てしなく広がる深い青の海が織り成す、息をのむほど美しい景観が連続します。断崖絶壁から海へと水しぶきを上げる滝や、古代の地球の営みを伝える柱状節理の岩々など、その風景は圧倒的で、私たち人間の悩みがいかに小さなものかを改めて感じさせてくれます。こうした手つかずの自然は、訪れる人の五感を静かに刺激し、内面の平穏を取り戻す助けとなるのです。
しかし、西帰浦の魅力は自然だけにとどまりません。この地の美しい風景と穏やかな空気は、多くの芸術家を惹きつけ、彼らの創作意欲をかきたててきました。街のあちこちには美術館やギャラリーが点在し、アートが日常生活にしっかりと根づいています。自然のなかを散策しながらアートに触れるという二つの体験を繰り返すうちに、凝り固まっていた思考は柔軟にほどけ、新たな感性の扉が自分でも気づかぬうちに開かれていくことでしょう。「ヒーリングの島」と称されるのは、このような自然と文化が織り成す絶妙な調和にこそ、その理由があるのです。
海辺のアートギャラリーを巡る – 感性を澄ます時間
西帰浦の旅は、心をリセットし、美しいものだけを感じ取る時間から始めましょう。この地に魅了された芸術家たちの魂の足跡を辿ることは、自分自身の内面を映し出す鏡を発見する体験です。彼らが抱いた感情や表現したかったことに触れることで、作品との対話を通じて自分の感情の深みを改めて実感できるでしょう。
天才画家が愛した風景 – イ・ジュンソプ美術館と文化通り
西帰浦の芸術を語る際に欠かせないのが、韓国近代洋画の巨匠イ・ジュンソプ(1916-1956)です。朝鮮戦争の混乱を避け、彼がわずか1年ほど家族と暮らしたのがこの場所でした。貧しい状況でも、愛する妻と二人の息子と過ごしたこの時期は、彼の創作活動で最も幸せに満ち、エネルギー溢れる時代だったと言われています。
彼の名前を冠した「イ・ジュンソプ美術館」は、かつて彼が住んでいた藁葺き屋根の家を見下ろす丘の上に静かに建っています。大きな施設ではありませんが、展示されている作品のひとつひとつが、家族への深い愛情や生きることへの渇望を力強く語っています。とりわけ、タバコの銀紙に釘で描いたというユニークな「銀紙画」は見逃せません。限られた素材の中で噴き出す創作意欲がこめられたこれらの作品からは、芸術家の鋭い執念や魂の叫びが聞こえてくるようです。牛や鶏、子どもたちを題材にした素朴かつ力強い線描を見つめれば、時を超えて伝わってくる彼の純真な視線を感じ取れるでしょう。
美術館に足を運んだ際は、周囲の「イ・ジュンソプ文化通り」も散策してください。趣ある石垣が続く小道には、センスの良いカフェや独特な雑貨店、小さなギャラリーが軒を連ねており、通り全体にアートの香りが漂っています。通りの中央に置かれたベンチでくつろぎながら、画家が愛したであろう西帰浦の穏やかな陽光を浴びるひとときは、心がじんわり温まる感覚をもたらします。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | イ・ジュンソプ美術館 (이중섭미술관) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市イ・ジュンソプ路 87-4 (제주특별자치도 서귀포시 이중섭로 87-4) |
| 営業時間 | 9:30~17:30 (最終入場 17:00) ※7月~9月は19:30まで営業 |
| 休館日 | 月曜、1月1日、旧正月・秋夕の当日 |
| 特徴 | 韓国近代洋画の巨匠イ・ジュンソプの作品展示。彼が実際に暮らした家も保存され、周辺はアートの雰囲気が漂う文化通り。 |
自然と一体となる建築美 – 本態博物館とユートピア路
西帰浦エリアには、世界的な建築家が創り出した、訪れるだけでアート体験となる場もあります。その代表例が、安藤忠雄氏が設計した「本態博物館(ボンテ博物館)」です。
コンクリート打ちっぱなしのシンプルな建築美と済州の自然が見事に調和したこの施設は、「静」と「動」の息づく空間。館内を歩けば、細長いスリット状の窓から差し込む光が時間と共に姿を変え、壁に美しい光と影の幾何学模様を浮かび上がらせます。それはまるで光そのものがひとつの展示品のよう。入館した瞬間から、日常の感覚がリセットされ、感覚が研ぎ澄まされていくのを実感するでしょう。
展示は、韓国の伝統的葬儀で使われるサンヨ(喪輿)をはじめとした民俗工芸品、さらに世界的な現代アーティストである草間彌生の『無限の鏡の間』やナム・ジュン・パイクのビデオアートまで多彩です。古代と現代、東洋と西洋が、安藤の洗練された建築という器の中で見事に融合し、新たな価値観を提示しています。特に鏡と光による幻想的な空間に身を置くと、自分と世界の境界が曖昧になるような不思議な感覚が味わえます。
また建築に興味があるなら、在日韓国人建築家の伊丹潤(イタミ・ジュン/韓国名ユ・ドンリョン)が設計した建築群も必見です。本態博物館からほど近い「水・風・石の博物館」は彼の代表作で、済州の自然を象徴する三つの要素をテーマにした小さなパビリオンがそれぞれ自然と対話し、瞑想を促す場となっています。風の博物館では壁の隙間を通り抜ける風の音がまるで音楽のように響き、水の博物館では天を映す水盤が静かに心を鎮めます。建築という人の営みが、いかに自然に対して謙虚であるべきかを教えてくれる、深い体験が待っています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 本態博物館 (본태박물관) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市安徳面山麓南路762番キル 69 (제주특별자치도 서귀포시 안덕면 산록남로762번길 69) |
| 営業時間 | 10:00~18:00 (最終入場 17:00) |
| 休館日 | 年中無休 |
| 特徴 | 安藤忠雄設計による美術館。伝統工芸から現代アートまで幅広く展示。建築と自然の調和が印象的。 |
心に響く色彩の楽園 – 왈종미술관 (Walart Museum)
理屈を超えて心が躍り、幸福感に包まれるアート体験を求めるなら、「왈종미술관(ワルジョン美術館)」を訪れてみてください。ここは済州島に暮らし、その日常を愛情深いタッチで描き続ける画家イ・ワルジョン氏の個人美術館です。
正房瀑布の近く、緑豊かな丘の上に立つこの美術館は、建物自体がひとつのアート作品のよう。曲線を帯びた白い外壁と色鮮やかなオブジェが配された庭は、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような雰囲気です。館内に足を踏み入れると、イ・ワルジョン氏が描く生命力あふれる色彩の洪水が広がっています。
彼の作品のテーマは「済州の暮らしの讃歌」。家族の団らんや働く人々、島の動植物などが大胆な構図と子どものような純真なタッチで明るくユーモラスに描かれています。難しい理屈や解釈は必要なく、ただ眺めているだけで心がほっこり温かくなり、自然と笑顔がこぼれてきます。人生を肯定し、日々の小さな幸せを大切にする。彼の作品は、私たちが忘れがちな大切な感情を呼び覚ましてくれます。
美術館最上階にあるカフェからの眺望も素晴らしいです。大きな窓の向こうには、西帰浦の海と沖合に浮かぶ森島(ソプソム)が一望できます。美しい絵画に囲まれながら味わう一杯のコーヒーは、旅の思い出として深く心に刻まれることでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 왈종미술관 (Walart Museum) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市七十里路214番キル 30 (제주특별자치도 서귀포시 칠십리로214번길 30) |
| 営業時間 | 10:00~18:00 (最終入場 17:30) ※冬季は短縮の場合あり |
| 休館日 | 月曜日 |
| 特徴 | 画家イ・ワルジョン氏の個人美術館。済州島の暮らしをテーマにした明るく幸福感あふれる作品が魅力。建物と庭園も美しい。 |
済州の雄大な自然に抱かれて – 五感を研ぎ澄ます

アートで感性を満たした後は、済州島が誇る壮大な自然の中に身をゆだね、そのエネルギーを全身で感じてみましょう。遠い昔から変わらず続く景色は、私たちが広大な時間と空間の中のほんの一瞬であることを実感させてくれます。その気づきこそ、日常の悩みを解き放ち、心を軽やかにしてくれる最高の処方箋となるでしょう。
海へ流れ落ちる奇跡の滝 – 正房瀑布(チョンバンポッポ)
一般的に滝は山間部に見られ、水は川となって海へと流れますが、西帰浦に位置する「正房瀑布(チョンバンポッポ)」はアジアで唯一、滝の水が直接海へと注ぎ込む珍しい滝です。
駐車場から海岸へ続く階段を下っていくと、だんだんと「ゴォーッ」という轟音が大きくなり、高揚感が高まります。そして見渡す先には、黒い絶壁(高さ23メートル)から勢いよく白い水しぶきを上げながら海へ流れ落ちる滝が現れます。淡水の滝が満ち引きする海水と隣り合う光景は、その神秘性に圧倒されます。滝壺付近に近づくと、水しぶきがミストとなって顔をかすめ、ひんやりと心地よい感触を覚えます。耳に響く滝の音、漂う潮の香り、肌で感じる冷たさが五感を目覚めさせるようです。
岩場は滑りやすいため、訪れる際は歩きやすい靴を選ぶことが重要です。波しぶきや滝の水で服が濡れることもあるので、服装にも配慮しましょう。岩場に腰を下ろし、滝が海に落ちる光景を静かに見つめていると、波が寄せては返すように心の中のもやもやも浄化されていくように感じられます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 正房瀑布 (정방폭포) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市七十里路214番キル37 (제주특별자치도 서귀포시 칠십리로214번길 37) |
| 営業時間 | 9:00~17:50(日没時間によって変動あり) |
| 休館日 | 年中無休(悪天候時を除く) |
| 特徴 | アジアで唯一、滝の水が直接海へと落ちる海岸瀑布。迫力ある景観が魅力。足元に注意が必要。 |
神の手が生んだ傑作 – 柱状節理帯(チュサンジョルリデ)
西帰浦の中文(チュンムン)観光地区の海岸線には、まるで神が巨大な彫刻刀で削り上げたかのような壮大な自然美が広がっています。それが「柱状節理帯(チュサンジョルリデ)」です。
漢拏山の火山活動で噴出した溶岩が、海水に急速に冷やされる過程で収縮し、見事な六角形の柱状岩となって形成されました。整然と並ぶ黒い岩柱は屏風のように海岸線を飾り、自然の偉大さを感じさせます。
遊歩道が整備されているため、展望台からこの圧巻の絶景を楽しむことが一般的です。エメラルドグリーンの海から打ち寄せる白波が黒い岩に砕ける様子は力強くもあり、どこかはかない趣もたたえ、見飽きることがありません。風の強い日には、波が岩に打ちつけて20メートル以上もの水しぶきが舞い上がることもあり、その迫力には息を飲みます。悠久の時を経て生まれたこの光景の前で、自分たちの時間の短さを実感し、生きている奇跡を改めて感じるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 大浦海岸柱状節理帯 (대포해안주상절리대) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市이어도로36-30 (제주특별자치도 서귀포시 이어도로 36-30) |
| 営業時間 | 9:00~18:00(季節により変動あり) |
| 休館日 | 年中無休 |
| 特徴 | 火山溶岩が創り出した六角形の柱状岩が連なる海岸。自然の造形美が圧巻。遊歩道が整備されている。 |
心を整える歩行「オルレキル」の旅
済州島を訪れたら、ぜひ「オルレキル」を歩く体験をしてみましょう。「オルレ」とは済州の方言で「道から家の入口へ通じる狭い小道」を意味し、オルレキルは島を一周するように整えられたトレッキングコースの総称です。スペインのサンティアゴ巡礼路をヒントに作られ、単に目的地を目指すのではなく、歩く過程や道中の出会い、景色との対話を楽しみながら、自分自身と向き合うことを目的としています。
西帰浦周辺には美しいコースが多数設定されており、その中でも独立岩(ウェドルゲ)からスタートし、ウォルピョン村のアウォルモク港へ至る「7コース」は特に人気です。海岸線の絶景と静かな村の風景を同時に味わえます。青いリボンや矢印の標識に従って、自分のリズムでゆったりと歩き始めてみましょう。
左手には常に深い青色の海が広がり、潮風が優しく頬を撫でます。右手には石垣で囲まれたミカン畑や、穏やかな村の風景が心を和ませてくれます。特別なものはなくても、一歩一歩大地を踏みしめ、風の音や鳥の声に耳を澄まし、草花の香りを胸いっぱいに吸い込む。そんなシンプルな行為に意識を向けているうちに、頭の雑念はすっと消え、心が静まっていくのを感じられます。これがまさに「歩く瞑想」です。誰かと競う必要もなく、時間に追われることもありません。疲れたら景色の良い場所で休み、心が惹かれたらゆっくりと眺めて過ごす。そんな自由で贅沢な時間の過ごし方がここでは叶います。
歩きやすい靴と十分な飲み物、強い日差しを避ける帽子は必需品です。全てのコースを制覇する必要はなく、1~2時間ほど気に入った区間だけ歩くだけでも心身がリフレッシュされるでしょう。
静寂の中で心を見つめる – スピリチュアルな体験
アートや自然と触れ合い、感性が豊かになったら、次はさらに内側へと心の旅をしてみましょう。西帰浦には、心を落ち着け、穏やかに自分自身と向き合える特別なスポットが点在しています。
東洋最大級の法堂を誇る – 薬泉寺(ヤクチョンサ)
信仰の有無を問わず、その壮麗な建築美と静謐な空気に心が洗われるのが「薬泉寺(ヤクチョンサ)」です。朝鮮時代の仏教建築様式で造られた大寂光殿は、3階建てで高さ30メートルに達し、東洋有数の大きさを誇ります。その圧倒的な存在感の前に立つと、自然と背筋が伸びる思いに駆られます。
法堂の内部に一歩足を踏み入れると、まず目を引くのが高さ5メートルの黄金に輝く毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)です。その穏やかな表情に見守られながら、薄暗くひんやりとした空間に身をゆだねると、外の喧騒がまるで遠のいていくように感じられます。壁や柱に施された鮮やかな色彩の装飾を見つめたり、静かに目を閉じて読経の声に耳を傾けているうちに、高ぶっていた感情が次第に和らぎ、心に深い静けさが訪れるでしょう。
寺の名前の由来となった、飲めば万病に効くと伝わる「薬水」が湧き出る泉も境内にあります。一口味わえば、そのまろやかで清らかな味わいが身心に染みわたるようです。ここは熱心な信者が祈りを捧げる神聖な場所であると同時に、誰にも開かれた心の場所でもあります。旅の途中にふと立ち寄り、静寂の中で自身の願いや感謝の気持ちを巡らせる時間は、きっと心に残る特別な体験となるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 名称 | 薬泉寺 (약천사) |
| 住所 | 済州特別自治道西帰浦市 이어도로 293-28 (제주특별자치도 서귀포시 이어도로 293-28) |
| 拝観時間 | 日の出から日の入りまで(目安) |
| 休館日 | 年中無休 |
| 特徴 | 東洋最大規模の法堂「大寂光殿」が見どころ。万病に効くとされる薬水が有名。荘厳で静かな雰囲気に包まれている。 |
海を望むカフェで味わう、何もしない贅沢
自分と向き合う方法は、必ずしも特別な場所に行くことだけではありません。時には、ただ「何もしない」こと自体が最高の瞑想となる場合もあります。
西帰浦の海岸線沿いには、息を飲むほどのオーシャンビューを楽しめるカフェが点在しています。断崖の上に位置するスタイリッシュなカフェ、砂浜に隣接する素朴なカフェ、緑豊かな庭園を持つカフェなど、それぞれに独自の魅力があり、自分のお気に入りの一軒を探すのも旅の醍醐味のひとつです。
席についたら、済州島名産のハルラボン(デコポンの一種)を使ったフレッシュジュースや、香ばしいアメリカーノをオーダーしましょう。そしてスマートフォンはそっとバッグの中にしまい、目の前に広がる景色に意識を集中します。刻々と色彩を変える空と海、白い航跡を描き進む漁船、岩の上で羽を休める海鳥たち。ぼんやりと海を眺めているだけで、時間はゆったりと、心地よく流れていきます。
旅先で感じたインスピレーションをノートに書き留めたり、気になっていた本の世界に浸ってみるのも素敵です。あるいは、何も考えずに波の音をBGMにまどろむのも至福のひととき。誰にも邪魔されない空間で、自分のためだけの時間を過ごす。この「何もしない」という行為こそ、情報過多で疲れた心と頭をリセットし、本来の自分を取り戻す最も効果的な方法かもしれません。
旅の記憶を彩る、済州島の食

心を満たす旅には、美味しい食事が欠かせません。豊かな自然に育まれた済州島ならではの味覚は、旅の活力となり、忘れがたい思い出の一部となるでしょう。
深い味わいの海の恵み – アワビ料理と海鮮鍋
四方を海に囲まれた済州島は、新鮮な海の幸が豊富に揃います。中でも、済州の海女(ヘニョ)が素潜りで採る天然のアワビは、肉厚で滋味豊かであり、ぜひとも味わいたい人気の一品です。ほろ苦いアワビの肝が溶け込んだ栄養豊富な「アワビ粥(チョンボクチュク)」は、疲れた胃に優しく、朝食に最適です。また、熱々の石鍋で供される「アワビの石焼ビビンバ」や、アワビをはじめさまざまな魚介類がたっぷり入った「海鮮トゥッペギ(土鍋)」もおすすめです。海のミネラルをまるごと味わう料理は、体の内側から元気がみなぎるのを実感させてくれます。
島の力強さを味わう – 済州黒豚
済州島を代表するグルメの一つに「黒豚(フッテジ)」があります。済州の豊かな自然の中で育った黒豚は、肉質がきめ細かく、一般的な豚肉と比べて脂身に独特の甘みと弾力が特徴です。厚切りの三枚肉(サムギョプサル)や肩ロース(モクサル)を、熱した鉄板や炭火でじっくりと焼き上げます。
表面はカリッと香ばしく、中はジューシーに仕上がった肉を、サンチュやエゴマの葉で包み、ニンニクや青唐辛子、サムジャン(味付け味噌)と一緒に頬張れば、肉の旨味が口いっぱいに広がります。済州ならではの食べ方として、カタクチイワシの塩辛ソース「ミョルチジョッ」につける方法もあります。ややクセのある塩辛さが、黒豚の濃厚な甘みを引き立て、絶妙な味の調和を生み出します。島の力強い大地を感じさせる黒豚料理は、旅の思い出に華を添える一皿です。
甘酸っぱい島の陽光 – 柑橘のスイーツ&ドリンク
温暖な西帰浦は、韓国有数の柑橘類の産地として知られます。ハルラボン、天恵香(チョネヒャン)、レッド香(レッドヒャン)など、さまざまな品種の柑橘が栽培されています。島内のカフェや市場では、これらの新鮮な柑橘を贅沢に使ったスイーツやドリンクを気軽に楽しめます。
搾りたてのフレッシュジュースは、その鮮やかな香りと甘酸っぱさが、歩き疲れた体にすっと染みわたります。柑橘のピールを練り込んだパウンドケーキや、たっぷりの果肉がのったタルトも格別です。オルレキルを歩く途中に見つけた無人販売所で、採れたてのミカンをひとつ買って味わうのも、済州らしい体験のひとつ。太陽の恵みをたっぷり浴びた柑橘の甘酸っぱさが、旅の疲れを癒し、幸せな気持ちにさせてくれます。
自分と向き合う旅のプランニング
これまでの提案で、西帰浦への旅のイメージが徐々に広がってきたのではないでしょうか。最後に、実際に旅を計画する際に役立つ実践的な情報をお伝えします。
西帰浦へのアクセスについて
日本から済州島へ向かう場合は、まず済州国際空港に到着します。空港から西帰浦市街地まではおよそ1時間から1時間半の距離です。主な移動手段は以下のようになります。
- リムジンバス: 空港と西帰浦市内の主要ホテルや観光スポットを結ぶ直通バスで、乗り換え不要で快適に移動可能。料金も手頃なため、最もおすすめの手段です。
- タクシー: 荷物が多い場合や複数人での移動時に便利です。料金はバスより高めですが、目的地まで直接行けるのが大きな魅力です。
- レンタカー: 島内の観光地を自由に巡りたいなら、レンタカーが非常に便利です。国際運転免許証の取得が必要なので、事前に準備をしておきましょう。済州島の道路は比較的運転しやすいものの、交通規則を守り安全運転を心掛けてください。
滞在時のポイント
西帰浦での滞在をより充実させるためのアドバイスです。
- 宿泊場所: 静かに過ごしたいなら、市街地の喧騒から離れた海辺のホテルやペンションがおすすめです。朝、部屋の窓から海が見えるだけで、一日が特別なものになります。また、高級リゾートホテルが集まる中文観光団地も選択肢のひとつです。
- 島内交通: 西帰浦の主要な観光地へはバスでアクセス可能ですが、路線によっては便数が少ない場合があるため、事前に時刻表を確認しておくと安心です。タクシーは比較的つかまりやすいものの、流しのタクシーは少ないため、配車アプリ「カカオタクシー」を利用すると便利です。
- ベストシーズン: 一年を通して温暖ですが、特に春(4月~6月)と秋(9月~11月)が最適です。気候が安定し、春は花々が美しく咲き乱れ、秋は空気が澄みわたるため、散策やアート鑑賞にぴったりの季節です。
モデルプランのご提案(3泊4日)
あくまで一例としてお考えください。旅の主役はあなた自身。心惹かれる場所に時間をたっぷり使うことが何よりも大切です。
1日目:到着後は海と静かな時間を
済州国際空港に着いたらリムジンバスで西帰浦へ移動。海辺のホテルにチェックインしたら荷物を置き、すぐ近くの海岸へ向かいましょう。靴を脱いで砂浜を歩き、長旅の疲れを潮風と共に癒します。夕食は海の幸を活かしたトゥッペギ料理を味わってください。
2日目:アートに触れ、自然の造形美を堪能
午前はイ・ジュンソプ美術館や文化通りを散策し、画家の情熱に触れて感性を刺激します。午後はバスかタクシーで柱状節理帯へ向かい、自然が織りなす圧倒的な景観に心奪われる時間を過ごしましょう。夕食は少し贅沢に済州黒豚の焼肉でエネルギーをチャージ。
3日目:歩きながら心身をリフレッシュ
早起きしてオルレキル7コースの一部をウォーキング。自分のペースで歩きつつ、心身の声に耳を傾けます。午後は薬泉寺を訪れ、荘厳な空間で静かな時間を楽しんだ後は、お気に入りのオーシャンビューカフェでゆったりとしたティータイムを味わいましょう。
4日目:島の恵みを胸に帰路へ
朝は西帰浦毎日オルレ市場を散策。活気あふれる市場で地元の暮らしを感じながら、お土産選びを楽しめます。ハルラボンジュースで最後の島の味を堪能したら、少し早めに空港へ向かいましょう。済州島での穏やかな時間を胸に、日常へと戻ります。
風がそよぎ、波が寄せる芸術と自然が調和する街、西帰浦。この地で過ごす時間は、あなたの心に新しい風景を映し出してくれることでしょう。次の休日、自分への最高の贈り物として、ぜひこの旅を計画してみてはいかがでしょうか。

