香港と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。きらびやかなネオンが彩る100万ドルの夜景、世界中のブランドが集まるショッピングモール、そして食欲を刺激する絶品グルメの数々。そのエネルギッシュな都会のイメージは、間違いなく香港の大きな魅力の一つです。しかし、その喧騒からほんの少し足を延ばすだけで、まるで別世界のような手つかずの大自然が広がっていることをご存知でしょうか。今回ご紹介するのは、香港最大の島、ランタオ島。ここは、日々のストレスや疲れをリセットし、心と身体を深く浄化したいと願う大人たちにとって、まさに聖地とも呼べる場所なのです。
島の大部分が緑豊かなカントリーパークに指定され、全長70kmにも及ぶ壮大なハイキングコース「ランタオ・トレイル」が島を縦横に巡っています。険しい山々、静かなビーチ、歴史ある漁村、そして天空にそびえる大仏。その多様な風景の中を自らの足で歩く体験は、単なるアクティビティを超え、自分自身の内面と向き合う「動く瞑想」とも言えるでしょう。今回は、そんなランタオ・トレイルを巡るリトリートハイキングの魅力について、私、Markが余すことなくお伝えします。さあ、都会の鎧を脱ぎ捨て、新たなエネルギーをチャージする魂の旅へ、一緒に出かけましょう。
ランタオ島の静寂な魅力をもっと知りたい方は、心洗われる静寂の旅についての記事もご覧ください。
なぜ今、ランタオ島なのか?大人が惹かれるその理由

世界中に数多く存在するハイキングスポットの中で、なぜ今、多くの大人たちがランタオ島に強く惹かれているのでしょうか。その理由は、単に自然の美しさだけにとどまりません。ランタオ島には、現代社会を生きる私たちが無意識のうちに求める、心身の調和を取り戻すための要素が絶妙に凝縮されています。
抜群のアクセスの良さと自然の圧倒的な対比
ランタオ島の最大の魅力のひとつは、アクセスの良さにあります。香港国際空港が島内に位置し、中環(セントラル)のフェリー乗り場から高速船で約30分の距離に穏やかな港町・梅窩(ムイオー)があります。まるで都会の喧騒が嘘だったかのように、静かな時間が流れる別世界へ瞬時に移動できるのです。このオンオフの切り替えのしやすさは、忙しい毎日を過ごす私たちにとって非常に価値あるものと言えるでしょう。
さらに島に足を踏み入れれば、その自然の深さに心を奪われます。島の約7割がカントリーパークとして保護されており、高層ビル群のスカイラインとは対照的に、緑豊かな山々が連なっています。都会の利便性を享受しながらも、同時に未開の自然の静寂に浸ることができる。この究極的なコントラストこそ、ランタオ島が持つ独自の魅力であり、心身のリフレッシュに理想的な環境を提供しています。
スピリチュアルなパワーが満ちる場所
ランタオ島は、昔から精神的な安らぎを求める人々に愛されてきた場所です。その象徴ともいえるのが、昂坪(ゴンピン)高原にそびえる「天壇大仏」と、そのふもとに広がる「寶蓮寺(ポーリン寺)」です。巨大な仏像が静かに見下ろすこの地は、訪れるだけで心が清められるような澄んだ空気に満たされています。また、森のなかに般若心経が刻まれた木柱が並ぶ「心経簡林(ハート・スートラ)」は、心を無にして自分自身と向き合うのに最適な場所です。
トレイルを歩いていると、目の前に突然大仏の姿が現れたり、寺院の鐘の音が風に乗って耳に届いたりすることがあります。こうした瞬間は、身体を動かすハイキングに精神的な深みを加えます。東洋と西洋の文化が交錯する香港ならではの、独特で強力なスピリチュアルエネルギーが、確かにこの島には流れているのです。
体力に応じて選べる多彩なトレイル
「ハイキングに興味はあるけれど、体力に自信がない」と感じる方でも、ランタオ島なら安心です。全長70kmにわたるランタオ・トレイルは12のセクションに分かれており、距離や難易度もさまざまです。穏やかな海辺を散策するような平坦なコースから、香港で二番目に高い山であるランタオ・ピークに挑む本格的な登山道まで、その日の体調や気分に合わせて自由に選べます。
各セクションのスタート地点やゴール地点にはバス停が整備されている場合が多く、途中で気軽にリタイアすることも可能です。この柔軟性の高さは、特に40代以上の大人にとって嬉しいポイントです。無理をせず、自分のペースで自然と対話を楽しめる。ランタオ・トレイルは、すべての人に開かれた、懐の深いハイキングコースなのです。
ランタオ・トレイル徹底解剖!心と身体を整えるセクションガイド
全長70km、12のセクションで構成されるランタオ・トレイル。その全ルートを踏破するのは容易ではありませんが、各セクションにはそれぞれ異なる魅力が秘められています。ここでは、特に心身のリフレッシュに適した厳選されたセクションをご紹介します。
セクション1 & 2:静かな海辺と新たな旅立ち(梅窩 Mui Wo 〜 南山 Nam Shan 〜 伯公坳 Pak Kung Au)
ランタオ・トレイルの公式な出発地点は、フェリーが着く港町・梅窩(ムイオー)です。ここから始まるセクション1と続くセクション2は、本格的な登山へのウォーミングアップに最適な道と言えるでしょう。のどかな銀礦灣のビーチ沿いから歩き始めると、間もなく緑豊かな森へと誘われます。
セクション1は緩やかな登りが中心で、木々の間から時折顔をのぞかせる南シナ海の穏やかな景色が心を癒します。鳥の囀りや小川のせせらぎを耳にしながら、一歩一歩、自分の呼吸に意識を向けてみてください。都会の喧騒に張り詰めていた神経が少しずつほぐれていくのを実感できるでしょう。南山(ナムシャン)にはキャンプサイトもあり、ピクニックを楽しむ家族連れの姿も見受けられます。
続くセクション2は、香港で二番目の高さを誇るランタオ・ピークの麓を緩やかに登るルートです。数か所の展望ポイントからは、眼下に広がる芝麻湾(チーマーワン)半島の雄大な風景が圧倒的。終点の伯公坳(パッコンアウ)は東涌(トンチョン)と昂坪(ゴンピン)を結ぶバス路線沿いに位置し、アクセスが良好です。本格的な登山に挑戦せずここでバスに乗って戻る選択肢もあり、まずは自然に慣れ親しむ「序章」として最適なコースといえます。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 区間 | セクション1:梅窩 (Mui Wo) → 南山 (Nam Shan) セクション2:南山 (Nam Shan) → 伯公坳 (Pak Kung Au) |
| 距離 | セクション1:約2.5km セクション2:約6.5km 合計:約9.0km |
| 所要時間 | 約3〜4時間 |
| 難易度 | ★★☆☆☆(初級~中級) |
| 見どころ | 銀礦灣泳灘、南山展望台、芝麻湾半島の眺望 |
| アドバイス | 緩やかなコースですが、こまめに水分補給を。伯公坳のバス停は便数が限られる時間帯もあるため、事前に時刻表の確認をお勧めします。 |
セクション3:天空へ続く挑戦の道—ランタオ・ピークへ(伯公坳 Pak Kung Au 〜 昂坪 Ngong Ping)
ランタオ・トレイルの見どころで、多くのハイカーが目指すのがこのセクション3です。香港第2位の標高934mを誇るランタオ・ピーク(鳳凰山)山頂へ向かう、最もハードなコースのひとつです。しかし、待ち受ける絶景と達成感は他に代えがたいものがあります。
伯公坳のバス停からスタートすると、すぐに急勾配の石段が容赦なく続きます。まるで天空へ伸びる階段を登るかのように、ひたすら上を目指す旅。息が弾み、足が重くなる中で、心臓の鼓動が耳元で響くように感じられるでしょう。そんな極限状態こそ、心がシンプルになり「もう一歩だけ」という自分との対話の時間なのです。
苦しい登りの途中、ふと振り返れば息を呑む大パノラマが広がります。香港国際空港へ離着陸する飛行機が小さく見え、眼下に連なる雄大な山並み。やがて山頂に辿り着くと、360度遮るもののない絶景とともに強烈な達成感が体中を満たします。ここで吸い込む新鮮な空気は格別です。特に有名なのは、山頂からの「鳳凰観日」—雲海の合間から昇る日の出は、人生観すら変える感動と言われています。なお、日の出を見るためには夜間登山となるため、ヘッドライトや防寒着など万全の準備と経験が必要です。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 区間 | 伯公坳 (Pak Kung Au) → 昂坪 (Ngong Ping) |
| 距離 | 約4.5km |
| 所要時間 | 約2時間30分〜3時間30分 |
| 難易度 | ★★★★★(上級) |
| 見どころ | ランタオ・ピークからの360度パノラマ、鳳凰観日(日の出)、遠望する天壇大仏 |
| アドバイス | 体力消耗が激しいコースのため、水分やエネルギー補給食は必ず携行。天候の急変に備え、防寒・防風の上着も必須です。下りは特に急なので、膝への負担にも注意しましょう。 |
セクション4:天壇大仏を仰ぎながら歩む智慧の道(昂坪 Ngong Ping 〜 深屈道 Sham Wat Road)
ランタオ・ピークを越えた先、昂坪(ゴンピン)エリアから始まるのがセクション4です。何と言っても、巨大神仏・天壇大仏の荘厳な姿を感じながら歩ける点が魅力です。大仏に見守られているという感覚は、静かな安心感と心の落ち着きをもたらします。
昂坪バスターミナルの少し下がった地点からトレイルが始まります。序盤は比較的平坦な道が続き、その間に木々の隙間から大仏の横顔がぽっかりと見えることも。このセクションの見逃せないスポットが、「心経簡林(ハート・スートラ)」です。静かな森の中に般若心経が刻まれた38本の巨大な木柱が、無限(∞)のシンボルのように配置されています。その荘厳な空間に身を置くと、自然と心が落ち着き、思考がクリアになるのを感じるでしょう。まさに瞑想に最適な場所です。
心経簡林を過ぎるとトレイルはゆるやかな下りとなり、昂坪高原の壮大な景色が広がります。これまでの山の険しさとは異なり、穏やかで優しい自然に包まれた風景が続きます。心の浄化を求める旅において、このセクションは欠かせない大切な部分。身体的負荷が少ないので、内面と向き合う時間をじっくりと持つことができます。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 区間 | 昂坪 (Ngong Ping) → 深屈道 (Sham Wat Road) |
| 距離 | 約4.0km |
| 所要時間 | 約1時間30分〜2時間 |
| 難易度 | ★★☆☆☆(初級〜中級) |
| 見どころ | 天壇大仏の眺望、心経簡林(ハート・スートラ)、昂坪高原のパノラマ |
| アドバイス | セクション3で疲れていても比較的楽に歩けます。心経簡林は少し寄り道が必要なので、標識を見逃さないよう注意してください。 |
セクション9 & 10:南シナ海の絶景が広がる海岸線ウォーク(石壁水塘 Shek Pik Reservoir 〜 水口 Shui Hau 〜 東涌道 Tung Chung Road)
山の風景を楽しんだ後は、美しい海辺の景観で心をリフレッシュしてみてはいかがでしょう。ランタオ・トレイル南側をめぐるセクション9と10は、その険しい山道とは打って変わって、南シナ海の絶景を眺めながら歩く爽快なルートです。
セクション9の出発点は、巨大な石壁水塘(セッペキ貯水池)です。ダムの堤防の上を歩く序盤は、まるで湖上を歩いているかのような不思議な感覚が味わえます。やがてトレイルは海岸線沿いに続き、右手には青い海と点在する小さな島々が広がります。波音だけが響く静かな道を進むうちに、日常の煩わしさが波に流されていくように感じるでしょう。
セクション9の終点でセクション10の起点となる水口(スイハウ)は、小さな漁村です。干潮時には広大な干潟が姿を現し、地元の人たちはアサリ採りを楽しんでいます。果てしなく続く砂と水の模様は、まさに自然が織りなす芸術作品。セクション10では、この水口の干潟を眺めつつ再び緩やかな丘を越えて進みます。山と海の両方の魅力を味わえるこのエリアは、思考をクリアにし新たなひらめきを求めるのにぴったりの場所です。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 区間 | セクション9:石壁水塘 (Shek Pik Reservoir) → 水口 (Shui Hau) セクション10:水口 (Shui Hau) → 東涌道 (Tung Chung Road) |
| 距離 | セクション9:約6.5km セクション10:約2.0km 合計:約8.5km |
| 所要時間 | 約2時間30分〜3時間30分 |
| 難易度 | ★★☆☆☆(初級〜中級) |
| 見どころ | 石壁水塘の雄大な眺望、南シナ海の海岸線、水口村の干潟風景 |
| アドバイス | 海岸沿いは日差しを遮るものが少ないため、帽子やサングラス、日焼け止め対策を忘れずに。干潮時間を事前に調べると、水口村での美しい干潟の景観を存分に楽しめます。 |
トレイルだけじゃない!ランタオ島で心身を癒す立ち寄りスポット

ランタオ・トレイルの魅力は、道中の自然だけでなく、ハイキングの前後に訪れることができる素晴らしいスポットにもあります。これらを組み合わせることで、ランタオ島でのリトリート体験はより深く、充実したものになるでしょう。
天壇大仏と寶蓮寺(ポーリン寺) – 圧倒的な大仏がもたらす癒し
ランタオ島を語る際に欠かせないのが、天壇大仏と寶蓮寺の存在です。標高約520メートルの昂坪高原に位置する、高さ34メートルの青銅製屋外座仏は、圧巻のスケールを誇ります。その穏やかな表情で見下ろす姿は、訪れる人の心を自然と安らげてくれます。
大仏の麓から続く268段の階段は、一段一段登るごとに日常の悩みが消えていくかのような浄化の時間です。息を切らしながら歩みを進め、目の前に広がる巨大な大仏と、そこから望むランタオ島の雄大な景色に触れると、自分の悩みがいかに小さなことだったかを実感するでしょう。さらに、大仏の台座内部には展示ホールがあり、仏陀の生涯や仏教美術について学ぶこともできます。
大仏の向かいに位置する寶蓮寺は、100年以上の歴史を持つ格式高い寺院です。煌びやかな装飾が施された本堂や、線香の香り漂う境内は厳かなスピリチュアルな雰囲気に包まれています。ここでぜひ体験したいのが、寺院で提供される精進料理です。野菜や豆腐、きのこなどの素材の味を活かした料理は、滋味深く歩き疲れた身体を優しく癒してくれます。肉や魚、刺激の強い香辛料を使わないその食事は、まさに身体の内側からのデトックス。心身共に清らかさを感じられるでしょう。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 名称 | 天壇大仏 (The Big Buddha) / 寶蓮寺 (Po Lin Monastery) |
| アクセス | MTR東涌駅から昂坪360ロープウェイで約25分、または23番バスで約50分。 |
| 拝観時間 | 天壇大仏: 10:00〜17:30 寶蓮寺: 8:00〜17:00 精進料理: 11:30〜16:30 |
| 料金 | 大仏の屋外エリア及び寶蓮寺は無料。大仏内部展示ホールは有料。 |
大澳(タイオー) – 水上家屋が織りなすノスタルジックな漁村
ランタオ・トレイルのセクション7の終点にあたる大澳(タイオー)は、「香港のヴェネツィア」とも呼ばれる、昔ながらの漁村の風情が今も色濃く残る場所です。川岸に密集して並ぶ「棚屋(パンオッ)」と呼ばれる高床式の水上住宅は、ここ独特のユニークな景観を作り出しています。
村へ足を踏み入れると、潮の香りとともに名物のエビペースト(蝦醬)の発酵した独特な香りが鼻をくすぐります。狭い路地には干物が軒先に吊るされ、ゆったりとした時間が流れているのが感じられます。ハイキングで研ぎ澄まされた五感が、この村の生活の息吹を繊細にキャッチすることでしょう。都会の喧騒から離れたこの場所で過ごすだけで、気持ちが落ち着き穏やかになります。
また、大澳では小舟に乗って水路を巡るツアーも人気です。運が良ければ、村の沖合に棲むピンクドルフィン(シナウスイロイルカ)に出会えることもあります。自由に泳ぐイルカの姿を目にすることは、自然との一体感を深める貴重な体験になるでしょう。ハイキングの疲れを癒すために、この村で新鮮な海鮮料理を味わいながら、夕日が水面を染める光景を眺める時間は特別な寛ぎのひとときです。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 名称 | 大澳 (Tai O) |
| アクセス | MTR東涌駅から11番バスで約50分。昂坪から21番バスで約20分。 |
| 見どころ | 水上家屋(棚屋)、大澳文物酒店(旧大澳警察署)、ピンクドルフィンウォッチングツアー、海産物の乾物店 |
| アドバイス | 村内の路地は狭いため、散策には徒歩が基本です。ボートツアーは複数の会社が運営しているので、料金や内容を比べて選ぶと良いでしょう。 |
心経簡林(ハート・スートラ) – 森に佇む巨大な般若心経の刻柱
天壇大仏の近くの静かな森の中にある心経簡林(ハート・スートラ)は、ランタオ島で最も精神性の高い場所の一つです。世界的に著名な国学者、饒宗頤(ジャオ・ツンイー)教授の書をもとに、般若心経の全文が38本の巨大な木柱に刻まれています。
これらの木柱は鳳凰山の自然の地形に沿って無限(∞)の形に配列されており、この「無限」は仏教における「空」や「無」の概念を象徴すると言われています。トレイルの賑わいを離れ、この静寂な聖域に足を踏み入れると、空気が一変したように感じられます。耳に届くのは風が木々を揺らす音と鳥のさえずりだけです。その静けさの中、一つひとつの木柱に刻まれた力強い文字に触れると、自然と呼吸が整い、心が静かに無に向かっていきます。
この場所は単なる観光地ではなく、自分自身の内面と向き合い、思考を整理するための瞑想スペースでもあります。特に早朝の霧が漂う時間帯や夕暮れ時の柔らかな光に包まれるときは、より一層幻想的で神秘的な雰囲気に満ちます。ランタオ・トレイルを歩く際は、ぜひ時間をとってこの場所を訪れ、その澄んだエネルギーを全身で味わってみてください。
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 名称 | 心経簡林 (Wisdom Path / Heart Sutra) |
| アクセス | 天壇大仏から徒歩約15分。標識に従って進みます。 |
| 拝観時間 | 24時間開放 |
| 料金 | 無料 |
| アドバイス | 周囲に売店はありませんので、飲み物は持参しましょう。静かな場所ですので大声での会話は控え、敬意を持って訪れることが望ましいです。 |
大人のリトリートハイキング、準備と心得
ランタオ・トレイルでのハイキングを、安全かつ快適で心に残る体験にするためには、事前の準備と適切な心構えが欠かせません。特に大人である私たちは、無理をせずに賢く自然と共存する方法を身につけることが求められます。
装備と服装 – 快適さは準備から始まる
ランタオ島の自然環境は時に厳しく、天候も変わりやすいため、適切な装備は安全確保だけでなく、ハイキングの満足度にも大きく影響します。
- 靴: 最も重要なアイテムです。滑りにくく、足首をしっかり支える防水機能のあるトレッキングシューズを選びましょう。スニーカーでは急な下り坂や濡れた岩場で滑る危険が高くなります。普段から履き慣れている靴を使用することが大切です。
- 服装: 汗をかいても速やかに乾く吸湿速乾性の高い化学繊維製のウェアを基本にしてください。綿素材は汗を吸って乾きにくく、体温低下の原因になるため避けるべきです。標高が上がるにつれて気温は下がるため、薄手のフリースやウインドブレーカーなどを重ね着(レイヤリング)できるよう準備しましょう。また、強い日差しから肌を守るために長袖や長ズボンの着用が望ましいです。
- 持ち物:
- 水: 季節やコースに応じて異なりますが、最低でも1.5リットルから2リットルは用意してください。脱水症状はパフォーマンス低下を招くため、こまめな水分補給が必須です。
- 行動食: ナッツやドライフルーツ、エナジーバーなど、手軽にエネルギー補給できる食品を持参すると疲労回復に役立ちます。
- 地図・コンパス/GPS: スマートフォンの地図アプリは便利ですが、バッテリー切れや電波の届かない場所への備えとして、紙地図とコンパスも携帯すると安心です。
- その他: 帽子、サングラス、日焼け止め、汗を拭くタオル、絆創膏や消毒液などの応急処置セット、ヘッドライト(日没後の行動時に必須)、モバイルバッテリー、さらにゴミ袋も忘れずに。自然の中に残してよいのは自分の足跡だけです。
時期と天候 – 最適なシーズンを知る
香港の気候を把握することは、快適で安全なハイキング計画の要となります。
- ベストシーズン: 乾季にあたる秋から冬、具体的には10月下旬から3月ごろが最適です。空気が乾燥し気温も穏やかで、晴れの日が多く、絶景を楽しむことができます。
- 注意すべき時期: 5月から9月は高温多湿の夏季にあたり、気温が30度を超え湿度も高いため、熱中症のリスクが増します。また、この時期は台風シーズンでもあるため、天候の急変や突然の豪雨に見舞われる可能性が高いです。夏にハイキングをする際は、涼しい早朝に出発し、通常より多めの水分を持参するなど十分な対策を取りましょう。出発前には必ず天気予報をチェックし、悪天候が予想される場合は無理をせず中止する判断も重要です。
心の準備 – 自然への敬意と自己対話
準備や計画と同様に、ハイキングに臨む心構えも非常に大事です。
- 無理をしない: その日の体調に正直になりましょう。計画通りに進まなくても焦る必要はありません。美しい景色に出会ったら立ち止まり、疲れたら休憩する。時には予定を変更したり、引き返したりする勇気も成熟した大人のハイカーには求められます。
- 自然への敬意: 私たちは自然の中にお邪魔している存在であることを忘れずに。「Leave No Trace(痕跡を残さない)」はハイカーの基本マナーです。出したゴミはすべて持ち帰り、植物や動物に不必要な干渉を避けましょう。静かな環境を保つことで、自分も後に続く人もより豊かに自然を味わうことができます。
- 五感を開放する: 普段は視覚や聴覚に頼りがちですが、トレイルではぜひ五感すべてを使ってみてください。そよぐ風の感触、湿った土の香り、遠くで響く鳥のさえずり、木の葉の擦れる音、そして行動食の味わいなど。スマートフォンは緊急時以外はリュックにしまい、目の前の自然を全身で感じることが、最高のデジタルデトックスとなり、心を清らかにしてくれます。
私、Markが感じたランタオ・トレイルの真髄

これまでサバイバルゲームに熱中するあまり、アマゾンの奥地のような、より過酷で野性的な環境に身を投じることもありました。正直に言うと、出発前には「整備されたハイキングコース」という話を聞いて、少し退屈に感じるのではないかと軽く考えていた部分がありました。しかし、ランタオ・トレイルは、その私の浅はかな予想を良い意味で見事に裏切ってくれたのです。
ランタオ・ピークの急勾配な石段を一歩一歩踏みしめている最中に感じたのは、アマゾンのジャングルとはまったく異なる種類の「挑戦」でした。ジャングルが予測不可能な外的脅威との戦いなら、ランタオ・トレイルは、自分自身の内面とじっくり向き合う戦いです。聞こえてくるのは、荒い呼吸と心臓の鼓動だけ。その静かな中で「なぜ今ここにいるのか」「日常の中で何に追われていたのか」といった疑問が次々と浮かび上がり、やがて消えていきます。汗とともに余計な思考や感情が洗い流されていく。それは私が今まで経験したどんなアクティビティとも違い、まさしく「動く瞑想」とでも呼ぶべき体験でした。
何よりも心を強く揺さぶられたのは、その圧倒的なコントラストです。ほんの数十分前まであったはずの高層ビルが立ち並ぶ超近代的な都市の風景。そのすぐ隣に、これほど深く雄大で、時に精神的な響きを持つ自然が存在しているという事実に心を打たれました。山頂から遠く香港の市街地を見渡したとき、その対比の激しさに、人間の営みの不思議さと自然の偉大さを同時に実感し、言葉を失いました。このギャップこそが、ランタオ島の持つ最大の力の源なのかもしれません。
普段は少し内気で、女の子と話すのが苦手な私ですが、トレイルで出会う見知らぬハイカーたちとの「ハロー」や「加油(がんばれ)」の一言は、とても自然で心地よいものでした。国籍や年齢は関係なく、自然という大きな舞台では、誰もが平等でオープンな心になれる。そんなシンプルなコミュニケーションが、乾いた心に潤いをもたらしてくれました。
ランタオ・トレイルを歩き終えたとき、身体には適度な疲労感が残っていましたが、心は驚くほど軽やかで澄み切っていました。それは単なる体力的な達成感ではありません。都会の喧騒の中で見失いがちだった自分自身の軸を、改めて取り戻せたような感覚です。もし日々の生活に少しでも疲れを感じているなら、次の休日にはぜひ香港のもう一つの顔、ランタオ島を訪れてみてください。そこには、あなたの魂を洗い清め、新たな一歩を踏み出す力を授けてくれる特別な道が待っています。

