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    インドの秘境デスーリ:喧騒を離れて見つける心の静寂

    めまぐるしく過ぎていく日々の中で、ふと立ち止まり、心の奥深くにある静寂に耳を澄ませたくなる瞬間はありませんか。情報と音に溢れた現代社会を生きる私たちにとって、真の静けさとは、もはや贅沢品なのかもしれません。もしあなたが今、そんな内なる渇望を感じているのなら、インド北西部に広がるラジャスタン州の、アラーヴァリー山脈の麓にひっそりと佇む村、デスーリへの旅をおすすめします。そこは、デリーやムンバイのような都市の喧騒とは無縁の世界。壮大な自然と、神聖な祈りの空気が溶け合う、まさに「心の聖域」と呼ぶにふさわしい場所なのです。

    デスーリは、有名な観光都市ジョードプルとウダイプルの間に位置しながらも、多くの旅行者が見過ごしてしまう隠れた宝石のような場所です。しかし、この地には、見る者の魂を揺さぶるほどの美しさを秘めたジャイナ教の総本山ラナクプール寺院群や、天空にそびえる難攻不落のクンバルガル城砦、そして手つかずの自然が残る野生生物保護区が広がっています。この旅は、単なる観光地巡りではありません。それは、古代から続く祈りの響きに耳を傾け、大自然の息吹に身を委ね、自分自身の内側へと深く潜っていくスピリチュアルな巡礼となるでしょう。さあ、日常の鎧を脱ぎ捨てて、インドの秘境デスーリで、本当の心の静寂を見つける旅へと出かけましょう。

    このような静寂を求める旅は、ブータンのハア谷で心身を解き放つ浄化の旅でも体験することができます。

    目次

    デスーリへの誘い:なぜこの地が心を惹きつけるのか

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    インドと聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、タージ・マハルのような壮麗なイスラム建築や、ガンジス川での沐浴風景、さらには色鮮やかなサリーを纏った人々が行き交う賑やかな街並みかもしれません。これらは確かにインドの魅力の一端を示していますが、この国の真の奥深さは、そのような典型的なイメージだけでは決して捉えきれません。デスーリは、そんなインドの異なる側面を映し出す場所であり、静謐で瞑想的、そして圧倒的な神聖さを感じさせる特別な空間です。

    ラジャスタン州の中心を貫くアラーヴァリー山脈は、世界最古の山脈の一つに数えられています。その乾燥した大地と風雨に削られた岩肌が続く景観は、一見荒涼としているものの、不思議と落ち着きと力強さを同時に感じさせます。デスーリは、この悠久の山々に囲まれた谷間に位置し、厳しい自然環境が人々から余計なものをそぎ落とし、信仰と自己省察の文化を育んできました。ここへ足を踏み入れると、時間の流れが都会とはまったく異なることに気づかされます。忙しく刻む秒針の音は遠ざかり、代わりに太陽の動きや風の囁き、鳥のさえずりが、新たな時間の刻みとなって心に響くのです。

    この地域が特別な空気を帯びているのは、単に自然が豊かなだけではありません。デスーリ周辺は、古くからメーワール王国の戦略的重要拠点であり、またジャイナ教の信者にとって聖地とされてきました。マハラナ(王族)たちが築いた壮大な城塞は、風雪に耐えながら今も歴史の重みを伝え、信仰心に溢れる人々によって建立された寺院は、何世紀にもわたって神聖なエネルギーを蓄えています。この地を訪れる者は、知らず知らずのうちにその歴史と信仰のオーラに包まれ、心が自然と穏やかに鎮まっていくのを感じるでしょう。

    都会の暮らしは、私たちを絶え間ない外部刺激に晒します。鳴り止まぬ通知音、あふれかえる情報、果てしない他者との比較。こうした雑音が、私たちの内なる声をかき消してしまうのです。デスーリの旅は、そのような雑音から意図的に距離を取り、自分自身の感覚を取り戻すための貴重な時間となります。ここでは、スマートフォンの画面に見入る代わりに、大理石の柱に刻まれた繊細な彫刻をじっくりと見つめることができます。SNSのタイムラインを追うかわりに、アラーヴァリー山脈に沈む夕陽の彩りを心にしっかりと刻み込むことができるのです。これは、情報をただ受け取るのではなく、自分の内側に湧き上がる感情や思考を丁寧に見つめる、内向きの旅とも言えるでしょう。

    聖なる建築の奇跡:ラナクプール・ジャイナ教寺院群

    デスーリを訪れる最大の目的の一つとして、間違いなくラナクプールに佇むジャイナ教の寺院群が挙げられます。タージ・マハルと並ぶほどの美しさを誇りながらも、こちらはより静謐で瞑想的な雰囲気が漂っています。特に中心に位置するチャウムカ寺院(四面の寺院)は、建築物というよりも、まるで大理石で織りなされた壮麗な曼荼羅のようです。その場に身を置くだけで、心が浄化されていくかのような不思議な感覚に包まれます。

    寺院の紹介に先立ち、ジャイナ教について少し触れておきましょう。ジャイナ教は仏教とほぼ同時期にインドで誕生した古代の宗教で、その最大の特色は「アヒンサー(非暴力・不殺生)」の教えを徹底している点にあります。あらゆる生命を傷つけないという理念が、食事や生活のすみずみにまで深く根付いています。ラナクプールの寺院が醸し出す穏やかで平和な空気感は、このアヒンサーの精神が強く息づいているからこそかもしれません。

    光と影が織り成す大理石の迷宮:チャウムカ寺院

    寺院の敷地に足を踏み入れ、靴を脱ぎ、肌を覆うストールを巻き直すと、日常から一枚のヴェールが降りたような気持ちになります。そしてチャウムカ寺院の内部へ入ると、その場に立ち尽くす誰もが息を呑むことでしょう。そこに広がるのは、果てしなく続くかのような大理石の柱の森です。

    その柱の数は実に1444本。驚くべきは、一本一本がすべて異なる模様の彫刻で飾られていることです。神々や天女、動物、幾何学模様などが手仕事で掘られ、何十年にもわたり熟練の職人たちが祈りを込めて仕上げた緻密なディテールには圧倒されます。私はアパレルデザインに携わっているため日常的に繊細なテキスタイルや刺繍に触れていますが、硬い大理石をまるで柔らかなレースのように彫り上げた技術と情熱は、人間の創造力の限界を超えているように感じられます。

    寺院名の由来である「チャウムカ(四面)」は、中央の聖室に祀られた初代祖師アーディナータ神の像が四方を向いていることに由来します。これはジャイナ教の教えが宇宙の四方へ広がり、すべての魂を救済するという理念を象徴しています。どの方向から入っても神と向き合える構造は、訪れる者すべてを平等に迎え入れる慈愛のメッセージを感じさせます。

    もう一つの主役は「光」です。ドーム状の天井や側壁から差し込む自然光が、複雑に立ち並ぶ柱に当たり、無数の光と影の模様を生み出します。日が移ろうにつれて太陽の位置が変わると、その模様も刻々と変化し、まるで寺院全体が息づいているかのよう。ある柱の影は隣の彫刻を覆い、また別の場所では光が集中して大理石の床を神々しく照らし出します。その幻想的な光景のなかを静かに歩くと、まるで巨大な万華鏡の中に迷い込んだような錯覚にとらわれるでしょう。ぜひお気に入りの柱を見つけてその前に座り、光と影のダンスを眺めながら瞑想してみてください。思考を鎮めるそのひとときは、かけがえのない癒しの時間となるはずです。

    寺院を訪問する際の心得

    この神聖な場所を訪れるにあたり、いくつか守るべきマナーがあります。まず服装についてですが、肩や膝が隠れる露出の少ない服を選ぶことが望ましいです。短いスカートやショートパンツ、タンクトップといった服装は避けた方が無難です。私自身は、薄手の長袖シャツとロングスカート、さらに頭や肩を覆う大判のストールを持参しています。ストールは日差し除けにも便利で、一枚あると重宝します。

    また、寺院内には革製品の持ち込みが禁止されています。ベルトやバッグ、靴などが革製でないか事前に確認しておきましょう。この規制はジャイナ教の不殺生の教えに基づくもので、入口で預けることも可能ですが、布製や合皮のバッグを持参するのがスムーズです。

    そして最も重要なのは、静粛を守ることです。ここは観光地であると同時に、多くの信者が祈りを捧げる崇高な場所です。大声での会話を控え、静かに空間のエネルギーを感じることに努めましょう。撮影は許可されていますが、フラッシュの使用は禁止されています。神聖な雰囲気を損なわないよう、シャッター音にも配慮したいところです。

    項目内容
    名称ラナクプール・ジャイナ教寺院群 (Ranakpur Jain Temples)
    所在地インド ラジャスターン州 デスーリ、ラナクプール通りサドリ地区 306702
    開門時間ジャイナ教徒以外は通常12:00~17:00
    入場料外国人向けの入場料があり、カメラやスマートフォンの持ち込みには別途料金が必要
    注意事項肩と膝を覆う露出の少ない服装、革製品の持ち込み禁止、寺院内での飲食禁止、静粛を守ること

    荘厳なる歴史の証人:クンバルガル城砦

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    ラナクプールの神聖で静謐な空気に心が清められた後は、その対照ともいえる、力強く男らしいエネルギーが漲るクンバルガル城砦へ足を運んでみてはいかがでしょうか。アラーヴァリー山脈の尾根、標高1100メートルの高地にそびえ立つこの雄大な城砦は、2013年に「ラジャスタンの丘陵城砦群」の一部としてユネスコ世界遺産に登録された歴史的な巨塔です。その壮大な姿は麓の村から見上げるだけでも圧倒されますが、真の価値は城壁の上に立った瞬間に実感できるでしょう。

    この城砦は、15世紀に勇猛果敢で名高いメーワール王国のマハラナ・クンバによって築かれました。数多くの戦いで勝利を重ねた彼は、自らの権威を示すため、決して破られることのない難攻不落の要塞を築き上げたのです。実際、クンバルガル城砦はその長い歴史の中でわずか一度だけしか陥落したことがないと伝えられています。その秘密は、周囲の山々を縫うように延びる壮大な城壁にあります。

    その城壁の長さは約36キロメートル。これは中国の万里の長城に次ぐ世界で二番目に長い城壁であり、「インドのグレートウォール」とも呼ばれています。城壁の幅は、馬が8頭並んで走れるほど広く、その堅牢さには驚嘆させられます。実際に一部の城壁を歩くと、そのスケールの大きさに目眩を覚えるほどです。眼下には乾いた大地が広がり、遠方には連なるアラーヴァリーの山々が幾重にも連なっています。かつてこの城壁の上で敵の侵攻を監視していた兵士たちは、この壮麗な景色をどのような思いで眺めていたのでしょうか。国家を守る誇りと、常に死と隣り合わせの緊張感。その歴史の風が頬をかすめるようです。

    城砦の内部には、300以上の宮殿やヒンドゥー教、ジャイナ教の寺院が点在しています。城砦の最も高い場所にあるのが「バダル・マハル」、別名「雲の宮殿」です。その名の通り、まるで雲の上に浮かんでいるかのように錯覚させるほどの高さからの眺望はまさに圧巻です。宮殿の内部はパステルカラーの美しい壁画で彩られ、かつての王族の華やかな生活が偲ばれます。無骨で堅固な城砦の外観と、繊細で優美な宮殿内部との対比が非常に印象的です。

    クンバルガル城砦を訪れる際には、ぜひ夕暮れ時まで滞在することをおすすめします。日没後には城砦全体がライトアップされ、昼間とは異なる幻想的な姿を見せてくれます。闇夜の中、黄金色に浮かび上がる城壁と宮殿はまるで天空に浮かぶ城のようです。毎晩開催される光と音のショーでは、英語とヒンディー語で城砦の歴史が語られ、その壮大な物語に引き込まれることでしょう。涼しい夜風を感じながら、星空の下で歴史のロマンに浸るひとときは、かけがえのない思い出となるはずです。

    項目内容
    名称クンバルガル城砦 (Kumbhalgarh Fort)
    所在地インド、ラジャスタン州クンバルガル 313325
    開城時間9:00~18:00(ライトアップショーは日没後に開催)
    入場料外国人向けの料金設定あり
    見どころ全長36kmに及ぶ壮大な城壁、バダル・マハル(雲の宮殿)からの絶景、300以上の寺院群、夜のライト&サウンドショー

    野生の息吹を感じる:クンバルガル野生生物保護区

    荘厳な寺院と壮麗な城砦。デスーリの旅は、人々の祈りと歴史の営みを深く感じさせるものですが、この地の魅力はそれだけにとどまりません。クンバルガル城砦を囲むように広がる丘陵地帯は、クンバルガル野生生物保護区として、多様な動植物が息づく聖域となっています。

    人工的な雑踏から離れ、手つかずの自然に身を委ねることは、私たちの五感を研ぎ澄まし、生命の根本的なエネルギーを再び充填してくれます。保護区内のジープサファリは、そんな体験を実現してくれる貴重な活動です。エンジン音を響かせながら未舗装の道を進むと、景色は一変します。乾燥した低木林から、緑豊かな渓谷が次々と現れ、それらの中で野生動物の確かな営みが感じられます。

    この保護区はかつてマハラジャたちの狩猟場でしたが、現在はヒョウやナマケグマ、インドオオカミ、ハイエナ、ジャッカルなどの肉食動物をはじめ、サンバージカやニルガイ(ブルーブル)、アクシスジカ、さらには珍しい四本角のレイヨウなど、多くの草食動物も生息しています。もちろん、野生動物との遭遇は運に左右されます。特に用心深いヒョウの姿を捉えるのは非常に難しいものです。しかし、たとえ期待の動物を見つけられなくても、失望する必要はありません。

    サファリの真の魅力は、動物を探すその過程にこそあります。経験豊富なガイドが、地面に残る足跡や木の幹についた爪痕、動物の糞など、わずかな手掛かりから彼らの存在を読み解いてくれます。私たちは息をひそめ、耳を澄まし、神経を研ぎ澄ませて自然のサインを探します。木の枝がかすかに揺れる音、遠くで響く鳥の警戒音。そうした一つ一つの情報に注意を向けているうちに、普段は眠っている原始的な感覚が徐々に目覚めていくのを実感します。

    ある早朝のサファリで、私たちは岩陰に腰を下ろす一匹のナマケグマを見つけました。朝日を受けて黒い毛並みが光り、のそりとのんびりと周囲を見渡すその姿は威厳に満ちていました。動物園の檻の中にいるのとは全く違う、野生が放つ力強い生命のオーラ。その瞬間、私たち人間もまた、この広大な自然の一部であるという、当たり前でありながら忘れがちな真実に気づかされました。

    バードウォッチングを好む方にも、この場所はまさに天国です。鮮やかな羽根を持つクジャクが優雅に森を歩き、灰色サイチョウが特徴的な鳴き声を響かせ、色彩豊かなインコの群れが空を横切っていきます。双眼鏡を手に、木々の間に隠れる鳥たちを探す時間は、心を静めて集中する一種の動的瞑想とも言えるでしょう。

    サファリに最も適した時間帯は、動物たちが活発に動く早朝と夕方です。特に朝もやが立ちこめる中、静寂を破りながら進むジープからの景色は格別です。都市生活で疲れた心と身体をリセットし、生命の躍動を直に感じる貴重な体験が、ここには待っています。

    項目内容
    名称クンバルガル野生生物保護区 (Kumbhalgarh Wildlife Sanctuary)
    アクティビティジープサファリ、トレッキング、バードウォッチング
    ベストシーズン乾季である10月から3月。水辺に動物が集まりやすく、観察の機会が増加します。
    注意事項ガイドの指示は必ず守りましょう。動物を刺激しないため、静かに行動し、派手な色の服装は控えるのが望ましいです。

    デスーリでの滞在:静寂に身を委ねる時間

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    デスーリの魅力を存分に堪能するには、ジョードプルやウダイプル発の日帰り旅行では時間が圧倒的に足りません。ぜひ数日間この地に滞在し、ゆったりとした時間の流れに身を委ねてみてください。このエリアには、旅の体験をより深め、豊かにしてくれる魅力的な宿泊施設が点在しています。

    特におすすめしたいのが「ヘリテージホテル」での滞在です。これらのホテルは、かつてのマハラジャの城や貴族の邸宅(ハヴェリ)、狩猟用ロッジなどを改装したもので、歴史の趣とラジャスタン独特の建築美を肌で感じることができます。頑丈な石造りの壁、美しいアーチが続く回廊、中庭に配置された噴水──一歩足を踏み入れれば、まるで時代を遡ったかのような非日常の世界が広がります。最新設備を誇る現代的なホテルとは異なりますが、ひとつひとつの調度品に物語が宿る空間で過ごす時間は、他に替えがたい贅沢と言えるでしょう。

    私が滞在したホテルは、アラーヴァリーの丘に抱かれたまさに隠れ家のような場所でした。朝は、名前も知らない鳥たちのさえずりで目を覚まします。部屋の窓からは、朝日を浴びて刻一刻と色合いを変える山々の景色が広がり、その壮大さに息をのむほどです。日中はプールサイドで読書をしたり、ホテルの庭を散策したりして過ごしました。夜になると、満天の星空の下で焚き火を囲み、ほかのゲストと語り合う時間もあります。そこには都会のホテルにありがちな慌ただしさは一切なく、ただ静かで満たされた時間が流れているのです。

    心身を癒す体験

    こうした穏やかな環境は、自分と向き合う絶好の機会をもたらしてくれます。多くのホテルではヨガや瞑想のセッションを実施しており、アラーヴァリーの新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込みながら、専門インストラクターの指導のもとアーサナ(ポーズ)を行う時間は、こわばった心身をゆっくりとほぐしてくれます。特に夜明け前に行う「太陽礼拝」は格別で、まだ薄暗い空が徐々に明るくなり、荘厳なご来光が山々を照らし出す一瞬に、自分の内側にも新しいエネルギーが満ちていくのを感じられます。

    旅の疲れを癒すなら、インドの伝統医療であるアーユルヴェーダのトリートメントもぜひ体験してみてください。温めたハーブオイルを使った全身マッサージ「アビヤンガ」は深いリラクゼーション効果をもたらし、心身のバランスを整えます。施術後は体が驚くほど軽くなり、肌もなめらかに潤います。これは、自分への最高のご褒美となるでしょう。

    旅の醍醐味といえばやはり食事です。ラジャスタン料理は乾燥した気候を反映し、豆類や乳製品、保存に適したスパイスを多用するのが特徴です。宿のレストランでは、地元の新鮮な食材を使った伝統的な家庭料理を味わえます。特に「ダール・バーティ・チュルマ」と呼ばれる郷土料理は、硬く焼いたパンのバーティを豆のカレー(ダール)と甘いチュルマと一緒にいただくもので、素朴ながら深い味わいが忘れがたいものとなりました。都会のレストランでは感じられない、温かなスパイスの香りが心までも満たしてくれます。

    村の暮らしに触れてみる

    ホテルでゆっくり過ごすだけでなく、少し勇気を出して周囲の小さな村を散策するのもおすすめです。そこでは、派手な観光地では決して体験できない、ありのままのインドの日常が息づいています。色とりどりのサリーをまとった女性たちが井戸端で語らい、ターバンを巻いた男性たちがチャイを片手に談笑する風景。子どもたちの無邪気な笑顔や家畜たちの鳴き声。そして何より、旅人である私を温かく迎え入れてくれるかのような空気感に包まれます。言葉が通じなくても、笑顔と「ナマステ」の挨拶が心を通わせる瞬間を生み出してくれます。そんな素朴な人々との触れ合いこそ、旅の思い出をより鮮やかに彩るのです。

    旅の準備と心得:女性トラベラーのための安全ガイド

    ヨーロッパの都市を巡る旅とは異なり、インド、特にデスーリのような地方を訪れる際には、少しばかりの準備と心構えが必要です。しかし、いくつかのポイントを押さえておけば、女性ひとりでも安全かつ快適に旅を楽しむことが十分に可能です。ここでは、私自身の経験をもとにした実践的なアドバイスをご紹介します。

    アクセス方法

    デスーリへの玄関口は、ウダイプルにあるマハラナ・プラタップ空港です。デリーやムンバイなど主要都市から国内線でアクセスが可能です。空港からは、事前に予約したホテルの送迎車かプリペイドタクシーを利用すると、安全かつ確実にデスーリへ向かうことができます。所要時間は車で約2時間半から3時間です。道中にはラジャスタンの田園風景が広がり、それも旅の楽しみの一部となるでしょう。

    ジョードプルやウダイプルからの日帰りツアーもありますが、先述のようにこの地の魅力を深く味わいたいなら宿泊をおすすめします。移動時間を節約し、ゆとりを持って行動することが安全な旅の第一歩です。

    最適な服装

    服装はインドを訪れる際に非常に重要なポイントの一つです。特に女性の場合、現地の文化を尊重しながら、余計な注目を避けるためにも肌の露出を控えることが基本です。

    • トップス: 肩や胸元があまり開いていない、袖付きのものを選びましょう。Tシャツも問題ありませんが、コットンやリネンの薄手のブラウスやチュニック(クルタ)が涼しく快適です。
    • ボトムス: 膝をしっかり隠せる丈のものが必須です。ロングスカートやゆったりしたパンツ(アラジンパンツやガウチョパンツなど)が動きやすくおすすめです。ジーンズも悪くありませんが、暑い日中には少し窮屈に感じるかもしれません。
    • ストール・スカーフ: これは「必須のアイテム」と言えます。寺院に入る際には頭や肩を覆うために使うほか、強い日差しから肌を守り、朝晩の肌寒さ対策としても大変役立ちます。また、バスや列車の移動中に仮眠する際、顔を覆うのにも便利です。現地で美しいデザインのものを手頃な価格で入手するのも楽しみの一つです。
    • 足元: 道路は未舗装の場所も多いため、歩きやすいスニーカーやサンダルが基本です。寺院では靴を脱ぐため、脱ぎ履きしやすい靴を選びましょう。ヒールのある靴はまったく必要ありません。

    全体的には、身体のラインが強調されないゆったりめのシルエットを意識すると良いでしょう。これは単なるファッションの好みとは異なり、旅を安全かつ快適にするための心得と言えます。

    健康と安全

    • 水: 水道水は絶対に飲まないようにしましょう。必ず封がされたミネラルウォーターを購入して飲んでください。レストランで提供される水も注意が必要で、氷も避けたほうが安心です。
    • 食事: 基本的には火の通った温かい料理を選ぶことを心がけましょう。カットフルーツや生のサラダは、どのような水で洗浄されたかわからないため避けるのが賢明です。信頼できるホテルのレストランや衛生的な食堂を利用することをおすすめします。
    • 貴重品管理: パスポートや大量の現金はホテルのセーフティボックスに預けるのが基本です。外出時には必要最低限の現金とカードだけを、体に密着させられるセキュリティポーチやファスナー付きバッグに入れて持ち歩きましょう。バッグは常に身体の前で抱えるように持つ癖をつけるとスリ防止になります。
    • コミュニケーション: ラジャスタンの人々はとても親切でフレンドリーですが、特に地方では女性一人だと好奇の目にさらされることもあります。過度に親しげに話しかけてくる相手には、笑顔を忘れずにしつつも毅然とした態度で対応しましょう。困ったときはホテルのスタッフや、ほかの旅行者、もしくは家族連れの女性に助けを求めると良いでしょう。

    これらの準備は旅を窮屈にするためのものではありません。むしろ、余計な不安を減らして目の前の素晴らしい景色や体験に心から集中できるようにするための「お守り」のようなものだと捉えてください。

    心の旅路の果てに:デスーリが教えてくれること

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    デスーリでの時間を終えて再び空港の騒がしさの中に身を置いた時、私は自分の内面に確かな変化が起こっていることに気づきました。それはまるで、静けさの基準が変わったかのような感覚でした。かつて心地よいと感じていたカフェのBGMが少し騒がしく思え、街を歩く人々の足音や話し声が、まるで音量を上げたかのように大きく響いてきたのです。デスーリの静寂が、私の聴覚や感受性をより繊細に調整してくれたのかもしれません。

    ラナクプールの1444本の大理石柱が織りなす、光と影の無限の交響曲。その一本一本に込められた職人の祈りと魂。クンバルガル城砦の頂上から望んだ、果てしなく広がるアラーヴァリー山脈の壮大な眺望と悠久の時の流れ。そして、野生生物保護区で出会った力強い生命のまなざし。それらの記憶は、単なる美しい思い出にとどまらず、静かにしかし深く私の価値観に影響を与えました。

    私たちは日常の中で、何かを成し遂げることや所有すること、他者からの評価を求めて生きています。しかし、デスーリの旅はそんな「足し算」の生き方とは全く異なり、「引き算」の豊かさを教えてくれました。余計な情報、過剰な欲望、人の評価などを一つひとつ手放すことで、本当に大切なものが見えてくるのです。それは、自分の内なる声に耳を傾ける静かな時間であり、目の前の瞬間に深く没入する喜びであり、広大な自然や歴史の一部として生かされているという謙虚な感覚でした。

    もしも今、日々の生活に疲れを感じているなら。もしも自分自身と向き合う時間が必要だと感じているなら、次の休暇にインドの秘境、デスーリを訪れてみてはいかがでしょうか。そこには心を洗い、魂を潤し、新たなエネルギーで満たしてくれる特別な時間が流れています。喧騒を離れたその地で、あなたもきっと、自分だけの静かな心の居場所を見つけられるはずです。

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    この記事を書いた人

    アパレル企業で働きながら、長期休暇を使って世界中を旅しています。ファッションやアートの知識を活かして、おしゃれで楽しめる女子旅を提案します。安全情報も発信しているので、安心して旅を楽しんでくださいね!

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