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    カメルーン・ビベミの魂に触れる食紀行:大地の恵みとサバンナの叡智が紡ぐ、未来の食卓

    アフリカの食と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。ワイルドな肉料理、あるいはシンプルな芋や豆の煮込み。そんな漠然としたイメージは、ここカメルーン北部の町、ビベミを訪れることで、鮮やかに、そして根底から覆されることでしょう。そこには、ただ空腹を満たすためだけではない、大地と深く結びつき、共同体の絆を育み、未来への持続可能性を秘めた、驚くほど豊かで洗練された食の世界が広がっていました。

    乾いた風が赤土を巻き上げ、マンゴーの木陰では人々がゆったりと時を過ごす。ベヌエ川の雄大な流れがすぐそばに感じられるこの土地は、カメルーンの中でも特に多様な民族が共存し、古くからの伝統が色濃く残る場所です。私は、テクノロジーが描き出す未来の都市風景を追い求める中で、ふと、その対極にあるかのような、しかし本質的な豊かさに満ちた人間の営みに強く惹かれ、このビベミの地へと足を運びました。目的はただ一つ、この大地が育む「食」の根源に触れること。レンズを通して都市の幾何学を切り取ってきた私が、今、ファインダー越しに見つめるのは、土にまみれたヤムイモの力強い曲線であり、女性たちの手でリズミカルに搗かれるミレットの粉が舞う光景です。それは、生命そのもののダイナミズムであり、未来の食卓への示唆に富んだ、叡智の記録でもありました。この記事では、私がビベミで体験した、五感を揺さぶるローカルフードの世界を、その背景にある文化や人々の暮らしと共に、深く紐解いていきたいと思います。

    この旅で感じた生命の根源は、カメルーンのルムの村々で触れる大地の声にも通じるものでした。

    目次

    サバンナの心臓部、ビベミへ:土と太陽が育む生命の源流

    bebemi

    ビベミの食文化を深く理解するには、まずこの土地そのものが発する声にしっかり耳を傾けることが欠かせません。この場所は、西アフリカと中央アフリカの文化が交わるカメルーンの北部、サバンナ気候帯に位置しています。強烈な太陽が照りつける乾燥した季節と、大地を潤す恵みの雨をもたらす雨季が、人々の生活や食のリズムを明確に形作っています。

    赤土の大地とベヌエ川からの恵み

    ガルア空港から車を走らせると、景色は徐々に緑が薄れ、赤みがかった土壌が広がり始めます。この赤土こそがビベミの食文化を支える原点であり、母なる大地と呼べる存在です。一見すると貧弱に見えるこの土ですが、驚くほど多くの作物を育む力に溢れています。特に、乾燥に強い穀物であるミレット(雑穀)やソルガム(モロコシ)は、この地域の食生活の基盤を担う重要な作物です。日本人にとっての米と同様に、ビベミの人々にとってミレットやソルガムは、日々の活力となるエネルギー源であり、文化の核とも言える存在です。

    加えて、大地にはヤムイモやキャッサバといった芋類が根を深く張り、豊富なでんぷんを蓄えています。茹でる、揚げる、粉にするなど多様な調理法で主食の一部となり、食卓に変化をもたらします。忘れてはならないのが落花生(ピーナッツ)です。サバンナの乾燥した気候は落花生の栽培に最適で、ここで収穫されるピーナッツは濃厚な油分と豊かな風味を持ち、ペーストにしてソースの基礎とするなど、料理に豊かなコクと栄養価をもたらす欠かせない食材となっています。

    この乾いた大地に生命の息吹を与えているのが、町近くを流れるベヌエ川です。雨季になると水量を増し、流域の土壌を肥沃にするのみならず、乾季にもかけがえのない水源として地域の人々を支えています。川ではティラピアなどの淡水魚が捕れ、貴重なタンパク質として食卓に供されます。川辺では女性たちが洗濯をし、子どもたちは水遊びに興じる。まさにベヌエ川はビベミの生命線であり、人々の暮らしや食文化に欠かせない存在なのです。

    市場の喧騒が奏でる生命の交響楽

    ビベミの土地の生命力を最も肌で感じられるのは、中央市場が間違いなくその中心です。一歩踏み入れると、色彩・音・香りが渦巻く圧倒的な活力に満ちています。鮮やかなパーニュ(アフリカ布)に身を包んだ女性たちの笑い声、力強い値段交渉の声、スパイスの芳香、干し魚独特の匂い、そして灼熱の太陽のにおい。すべてが一体となり、市場というひとつの生命体をつくり上げています。

    地面にはシートが敷かれ、そこにはまさに大地の恵みが山積みにされています。赤玉ねぎの山、鮮やかな緑が目に映えるオクラ、ごつごつとしたヤムイモの塊。日本では見慣れない葉野菜や、見たことのない形のカボチャが、生命力を誇示するように並んでいます。スパイス屋の前には、鮮烈な赤の乾燥唐辛子、鮮やかな黄色のショウガ、そして一見して未知の木の実や種子が並び、そのエキゾチックな香りが周囲に漂っています。これらのスパイスが、ビベミの料理に複雑で奥の深い風味を与えているのです。

    私が特に惹かれたのは、乾物コーナーでした。天日で干された小魚がキラキラと銀色に輝き、燻製にされたナマズが黒く光っています。さらに驚いたのは、乾燥させたシロアリの幼虫やバッタも売られていることです。これらは昆虫食として、この地では古くからタンパク源として重宝されてきました。テクノロジーの視点から見れば、極めて持続可能な未来の食材であり、食料問題の解決策としても期待が寄せられています。市場の一角で昆虫が当たり前のように取引されている光景は、私にとって伝統と未来が交錯する象徴的な場面でした。

    市場は単なる売買の場にとどまりません。ここは情報の交換所であり、社交の場であり、地域コミュニティの核でもあります。携帯電話で最新の価格をチェックする若者たち、井戸端で談笑する女性たち。伝統的な物々交換の精神と、モバイルマネー決済という先端技術が自然に共存しているその様子は、ビベミの柔軟性と活力を如実に示しています。

    ビベミの食卓を彩る、伝統の皿とその物語

    市場で手に入れた食材は、家庭の台所でまるで魔法のように変貌を遂げ、人々の糧として命を吹き込まれます。ビベミの料理には派手な装飾はありませんが、ひとつひとつの皿に、この地の風土や人々の知恵が凝縮された物語が込められているのです。

    主食の理念:ミレットとソルガムが結ぶ日々の命

    ビベミの食卓の中心には、常にミレットやソルガムを原料とした主食があります。現地では「クスクス」と称されますが、北アフリカのそれとは異なり、穀物の粉を熱湯で練り上げて作る、餅のようなしなやかな弾力を持つ塊です。これを現地語で「ブール(Boule)」や「パット(Pâte)」と呼びます。その製法は非常にシンプルでありながら力強さが感じられます。

    まず、乾燥した穀物を大きな木製の臼に入れ、女性たちが長い杵でリズミカルに粉になるまで搗きます。「トン、トン、トン…」という規則的な音が、村の随所から生活のリズムとして聞こえてきます。この作業は一人ではなく、多くの場合、二人の女性が向かい合って交互に杵を振り下ろし、その動きはまるで踊りのよう。共同の動作を通じて生まれる連帯感が、日々の食事にさらに深い味わいをもたらしているのです。

    粉末となった穀物は沸騰した鍋のお湯に少しずつ加えられ、力強く練り上げられていきます。火を止めた後も、なめらかで弾力ある塊になるまで休まずに練り続けるのです。この重労働を経て完成するブールは、穀物のほのかな甘みと香りを備え、あらゆるソースと相性抜群の万能な主食となります。手で一口大にちぎり、親指でくぼみを作りソースをすくって食べるという一連の所作には、食事への感謝と食べ物を大切にする心が表れているように感じられました。

    これらの雑穀は少ない水分で育ち、農薬や化学肥料にほとんど頼らず栽培できる、非常に持続可能な作物です。気候変動が深刻化する現代社会において、ミレットやソルガムといった伝統的な穀物の価値が世界的に再評価されつつあります。ビベミの人々が世代を超えて守り継いできた食文化は、未来の食糧安全保障に向けた大きな示唆を与えてくれているのです。

    大地のソース「ソース・アラシッド」:落花生が織り成す濃厚な味わい

    淡泊な味わいの主食、ブールに命を吹き込む存在が、多彩な「ソース」です。カメルーン料理の代表格として知られるンドレ(ビターリーフとピーナッツの煮込み)が有名ですが、北部のビベミでは、よりシンプルかつ素材の味を活かしたソースが主流です。その中でも特に有名なのが「ソース・アラシッド」、すなわち落花生のソースです。

    調理は、まず炒った落花生をペースト状になるまで丁寧にすり潰すことから始まります。この作業も、伝統的に石臼を用いたり、瓶で押し潰したりと様々な手法が使われています。濃厚なピーナッツペーストをベースに、トマト、玉ねぎ、唐辛子、燻製魚や干し肉などを加えてじっくり煮込みます。加熱されることでピーナッツの香ばしい香りが立ち上がり、油が分離することでソースに深いコクと艶やかな輝きが生まれます。仕上がったソースは、ピーナッツの自然な甘みとコク、トマトの酸味、唐辛子の辛味、そして燻製魚の旨味が複雑に絡み合った絶品。これをブールに絡めて口に運べば、サバンナの大地の力強さを全身で感じ取れるような味わいです。

    また、オクラを使った「ソース・ジョンジョン」もこの地域で愛されているもののひとつ。刻んだオクラを煮てとろみを出し、シンプルな味付けで仕上げます。独特の粘り気がブールによく絡み、滑らかな喉ごしが特徴的です。栄養価も高く、特に食物繊維が豊富なため、暑い気候の中で体調を整える重要な役割を果たしています。

    名称推奨メニュー特徴
    ビベミ中央市場の食堂ソース・アラシッドと鶏肉、ブール・ド・ミレット市場の喧騒の中で提供される、最も新鮮な食材を活かした一皿。活気溢れる雰囲気もまた楽しみの一つで、地元の人々と肩を並べて味わう体験は格別です。
    ママ・テレーズの家庭料理(要ガイド手配)その日の収穫を生かした日替わりソース一般の観光客にはなかなか体験できない、家庭の温もりに触れる貴重な機会。伝統的な調理法を間近で見学し、レシピにまつわる物語を聞くことができます。

    サバンナの恵み、野生の味:肉、魚、そして昆虫料理

    ビベミの食卓を彩るタンパク源は多岐にわたります。最も身近なのは鶏やヤギであり、祭りや祝いの際には丸ごと一羽や一頭を調理し、皆で分け合います。特に人気なのは「ソヤ」と呼ばれる串焼きで、細かく切った肉に唐辛子や各種スパイスをブレンドした粉(カニ・クリ)をたっぷりまぶし、炭火で豪快に焼き上げます。香ばしい煙とスパイシーな香りが食欲を刺激し、ビールや伝統酒との相性も抜群です。

    ベヌエ川から得られる淡水魚も重要なタンパク源です。獲れたての魚はグリルされることもありますが、多くは保存のために燻製や天日干しにされます。加工された魚はソースの材料として用いられ、料理に深い旨味と燻製香を与え、味の中心を成す大切な役割を果たしています。

    そして、多くの日本人にとっては馴染みが薄いであろう昆虫食も、ビベミの食文化に根付いています。雨季の始まりに大発生するシロアリ(翅アリ)は貴重なご馳走で、光に集まる習性を活かして捕獲し、羽を取り除いてから軽く炒って食べます。口に運ぶとナッツのような香ばしさとクリーミーな食感が広がり、その美味しさに驚かされます。栄養価も非常に高く、脂質やタンパク質を豊富に含んでいます。バッタもまた炒め物や揚げ物として食され、単なる珍味にとどまらず、過酷な自然環境に適応した合理的かつ持続可能な食の選択肢となっています。食糧危機が叫ばれる現代社会において、栄養価に優れ環境負荷の少ない昆虫食は未来のスーパーフードとして大きな可能性を秘めています。ビベミの市場でこうした食材が日常的に取引されている光景は、私たちがいかに食に対して固定観念を抱きがちかを再認識させてくれました。

    調理の科学と共同体の叡智:火と土と人が織りなす食文化

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    ビベミの料理は、その味わいだけでなく、調理の過程自体に、長年にわたり培われた科学的な知識と共同体の哲学が息づいています。最新の調理器具が手に入らない環境下で、いかに効率的に、美味しく、そして安全に食事をつくり上げるか。彼らの日常の営みが、その答えを示していました。

    三つ石のかまどが語る、エネルギーの最大活用

    多くの家庭の屋外には、三つの石を並べただけの極めてシンプルな「かまど」が見られます。工学的な観点から見ると、この三つ石かまどは非常に合理的で洗練された仕組みです。鍋を三点で支える構造により、どんな形や大きさの鍋でも安定して置けます。さらに、石の隙間から薪をくべて空気の流れを調整することで、火力を自在にコントロールできるのです。限られた燃料(薪)を最大限に活かすための熱力学に基づいた最適設計といえるでしょう。一つの火で煮込み料理を調理し、その蒸気で他の食材を蒸し、熾火を利用して焼き物をするなど、エネルギーを無駄なく活用する工夫も見事です。これは現代の省エネ技術が目指すエネルギー効率の最適化を、経験則から生み出した例です。もちろん、薪の使用は森林伐採や健康影響の課題を抱えており、近年は燃焼効率を向上させた改良型かまどの普及も進んでいますが、この三つ石かまどのミニマルながらも合理的なデザインには多くの学びが含まれています。

    発酵と乾燥:時を閉じ込める保存技術の知恵

    冷蔵庫を持たない生活では、食材をどのように長持ちさせるかが生命線となります。ビベミの人々は太陽の光と微生物の力を巧みに活用した保存技術を発展させてきました。

    代表的な方法は天日干しによる乾燥で、強烈な日差しと乾燥した空気を用いて、魚や肉、オクラ、トマト、マンゴーなど多様な食材を干します。水分を除去することにより微生物の繁殖を防ぎ、長期保存が可能になるだけでなく、乾燥過程でアミノ酸が凝縮して旨味が増す利点もあります。市場に並ぶ、カチカチに乾燥したオクラや魚は、雨季に備える彼らの叡智の象徴です。

    もう一つの重要技術は「発酵」です。ミレットやソルガムの粉を水で溶いて放置すると、自然界の酵母や乳酸菌の作用により発酵が進み、独特の酸味と風味を持つ粥「ブイ(Bouillie)」ができあがります。この発酵過程は穀物の栄養素を分解して消化を助けるだけでなく、ビタミンなど新たな栄養素を生成し、保存性も高めます。これはヨーグルトや納豆といった日本の発酵食品と共通する、微生物の力を借りた食の錬金術といえます。ビベミの人々は、目に見えない微生物の働きを経験的に理解し、食文化へ巧みに取り入れてきたのです。

    食卓を囲む意味:分かち合いの心と交流の場

    ビベミにとって食事は、単なる栄養補給を超え、共同体の絆を確認し強化する大切な儀式です。食事は基本的に、一つの大皿に盛られた料理を家族や客人たちが皆で囲みます。右手だけを使い、指先で主食を丸め、ソースをすくって口に運ぶその所作自体が、一体感を生み出しているのです。

    誰かの家を訪ねると、自然な流れで「一緒に食べよう」と招かれます。たとえ食べ物の量が限られていても、それを共有することが最高のもてなしです。食卓ではその日の出来事や村のニュースが語られ、親から子へマナーや知恵が受け継がれます。食事の場はコミュニケーションの場であり、教育の場ともなっています。現代社会で個食が進むなか失われつつある、食を通じた温かな人間関係がここには濃厚に息づいていました。テクノロジーが発展し、交流の形が多様化しても、「同じ釜の飯を食う」という行為が持つ根源的な力は、決して色あせることはないと強く感じさせられました。

    ビベミの飲み物文化:乾いた喉を潤す、大地の霊水

    灼熱のサバンナに暮らす人々にとって、水分補給は生命維持に欠かせないものです。ビベミには、単に喉の渇きを癒す以上に、人々の心に安らぎと活力をもたらす、独自で豊かな飲み物文化が根付いています。

    「ビリービリー」:ミレットから生まれる赤褐色の伝統酒

    夕方になると、街のあちこちにある「カバレー」と呼ばれる簡素な飲み屋が賑わい始めます。そこで人々が楽しむのが「ビリービリー」と呼ばれる伝統的な地酒です。この酒は、地域の主食であるミレットやソルガムを原料とした「雑穀ビール」とも言えるもので、赤褐色でやや濁った見た目は初めて見ると少し驚くかもしれませんが、一口飲むとその素朴で深みのある味に感動します。

    製造は地元の女性たちによって昔ながらの手法で行われています。まず穀物を発芽させて糖化を促し、それを乾燥し粉砕します。続いて熱湯を加え発酵させ、数日かけてアルコールが生成されます。最後に濾して完成です。その味はほのかな甘み、爽やかな酸味、そして穀物の香ばしさが特徴で、低めのアルコール度数は日本のどぶろくやマッコリにも通じる親しみやすさがあります。ビリービリーの製造は女性たちにとって貴重な収入源となっており、地域経済を支える重要な産業の一つです。

    名称おすすめメニュー特徴
    ビベミのローカルバー(カバレー)出来たてのビリービリー大きなヒョウタンの器で提供されることも多い。地元の人々との交流の場であり、ビベミの暮らしを身近に感じられる絶好のスポット。陽気な音楽と人々の笑い声に包まれて味わう一杯は格別。

    カバレーでヒョウタンの容器に注がれたビリービリーを味わいながら、片言のフランス語で地元の人々と会話を交わすひとときは、旅の中でも特に忘れがたい経験となりました。それは観光客としてではなく、彼らの生活の一部に少し溶け込めたような温かな気持ちをもたらしてくれました。

    自然の甘みと癒しの味わい:ハイビスカスジュース「フォレレ」と薬草茶

    アルコールを控えたい人や子供に好まれているのが、「フォレレ」と呼ばれる鮮やかなルビー色のジュースです。これはハイビスカス(ローゼル)の萼(がく)を煮出して作るもので、その鮮やかな色彩だけでなく、クエン酸由来のさっぱりとした酸味と爽やかな後味が、乾いた体に染み渡ります。通常は砂糖を加えて甘みをつけて飲みますが、ミントの葉を入れたり、パイナップル風味を加えたりと、各家庭でさまざまなアレンジが楽しまれています。ビタミンCやポリフェノールが豊富で、美容や疲労回復にも効果があるとされるフォレレは、まさにサバンナが育んだ健康的な飲み物です。

    また、この地域ではレモングラスやさまざまな野生ハーブを用いたお茶も日常的に楽しまれています。これらは単なる嗜好品ではなく、古くからの薬草としての役割も担っています。軽い腹痛や風邪の初期症状には、母親や祖母が庭や野山から摘み取ったハーブを煎じて飲ませる光景が今でも見られます。植物の力を借りて心身を癒やすという考え方は非常に霊的であり、自然と共に生きてきた人々の深い知恵を伺わせます。

    伝統と未来の交差点:ビベミの食が示す持続可能性への道

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    ビベミでの食体験は、私に多くの学びをもたらしました。それは単なる珍しい料理を味わう観光的な楽しみに留まらず、現代が抱える食の課題やこれからの地球で私たちがどう生きるべきかという根本的な問いかけを投げかけるものでした。

    足るを知る食生活:フードロスゼロを目指す循環型システム

    ビベミの食文化の基盤には、「もったいない」という精神、すなわち食材を余すことなく活用する哲学が息づいています。市場に並ぶ野菜は形が揃わず、虫食いの跡が見られるものも少なくありません。しかしそれは、農薬を極力抑えて育てられた安心の証でもあります。人々は見た目だけでなく、そのものの本質的な価値を見極めています。調理の際も、葉や茎、皮など、普段は捨てがちな部分まで工夫して食し、家畜をさばくときは肉だけでなく内臓や骨、血液までも無駄にしません。骨はスープの出汁に使い、残り物は家畜の餌に再利用される――ここにはほぼ完璧な循環型の仕組みが築かれています。

    世界で生産される食料の約3分の1が廃棄されている現代に生きる私たちにとって、ビベミの「足るを知る」食生活は深い気づきをもたらします。真の豊かさとは、ものの量ではなく、手元にあるものを最大限に活かし、感謝して味わう心にあるのかもしれません。

    テクノロジーとの融合:新たな農業と食の可能性

    伝統が守り継がれる一方で、ビベミの食の世界にも少しずつ変革の風が吹いています。従来の天水農業に加え、灌漑設備を導入し、乾季でも野菜を育てる挑戦が始まっています。また、収穫量が多く病気に強い品種の改良も進められています。私が話を伺った若い農業者は、スマートフォンで最新の気象情報をチェックし、都市部の市場価格をリアルタイムで把握しながら、どの作物をいつ栽培すべきか戦略的に判断していました。

    伝統的な知恵と現代の科学技術は対立するものではなく、むしろ融合させることで、より強靭で持続可能な食料生産の仕組みが作れる可能性があります。例えば、栄養価が高く環境負荷の低い昆虫食を衛生的に養殖し、加工食品として付加価値を高める。また、ミレットやソルガムといった伝統作物の機能性(抗酸化作用や豊富な食物繊維など)を科学的に解析し、新たな健康食品として世界へ発信する。工学部出身の私には、そうした未来の展望が鮮明に見えてきます。ビベミの食文化は過去からの貴重な遺産であると同時に、未来の食卓を豊かにする可能性を秘めた広大な研究所なのです。

    ビベミの食を旅するための実践ガイド

    この深遠な食文化を体験してみたいと感じた方のために、旅のポイントをいくつかご案内します。ビベミは一般的な観光地ではありませんが、だからこそ本物の生活や温かい人情に触れることができる、特別な場所です。

    ビベミへのアクセスと滞在について

    カメルーン北部への入り口となるのは、国際便も発着するガルア(Garoua)空港です。首都ヤウンデや経済都市ドゥアラからは国内線でアクセス可能です。ガルアからビベミまでは車でおよそ2時間の距離となります。乗り合いバスやタクシーの利用も選択肢ですが、安全面と効率を考慮すると、事前に信頼できるドライバーをチャーターすることを強く推奨します。

    ビベミの町には、外国人旅行者向けの高級ホテルはありませんが、清潔かつシンプルなゲストハウス(Auberge)が数軒あります。設備は最低限ですが、その分オーナーやほかの宿泊者との距離も近く、地元の情報を得るのに最適な環境です。予約サイトなどで事前に情報をチェックし、予約しておくと安心です。

    食事を楽しむ際の注意点と心得

    ビベミでの食体験を心から楽しむためには、いくつか注意すべきポイントがあります。まず最も重要なのは衛生管理です。水道水は飲用に適していないため、必ずミネラルウォーターを飲むようにしましょう。市場の食堂などで食事をする際は、十分に加熱された料理を選ぶのが賢明です。生野菜やカットフルーツの摂取は控えたほうが無難でしょう。

    現地の人々と食事を共にする機会があれば、それは素晴らしい体験となります。食事に招かれたら、感謝の気持ちを忘れずに表しましょう。食べる際は右手を用いることがマナーで、左手は不浄とされています。提供されたものはできるだけ残さずいただきましょう。また、現地の人の写真撮影は必ず事前に許可を得ることが大切です。敬意を示すことで、より深い文化理解と交流が生まれます。

    言語面では、公用語のフランス語がある程度使えるとコミュニケーションが格段とスムーズになります。「ボンジュール(こんにちは)」「メルシー(ありがとう)」といった簡単な挨拶だけでも覚えていくと、地元の人々の表情が和らぎ、温かく迎えてもらえるでしょう。

    忘れがたい食体験を目指して

    ビベミでの食の体験をさらに充実させるため、以下のようなアクティビティもおすすめです。

    • 市場のガイドツアー: 現地の信頼できるガイドを雇い、市場を案内してもらいましょう。自分だけでは気づきにくい珍しい食材やその使い方、文化的な背景について詳しく教えてくれます。
    • 家庭料理の体験: ガイドを通じて、地元の一般家庭で食事や料理づくりに参加させてもらうことを交渉してみるのもよいでしょう。三つ石のかまどに薪をくべ、一緒にソースを作る時間はかけがえのない思い出になるはずです。
    • ビリービリーの醸造所見学: 女性たちがビリービリーを作る場所を訪ね、その制作過程を見学する体験も興味深いものです。できたての一杯を作り手の笑顔とともに味わってみてください。

    お土産には、市場で販売されている乾燥唐辛子や数種類のスパイスをブレンドしたもの、風味豊かなピーナッツペーストなどがおすすめです。帰国後に現地の味を再現してみるのも、旅の余韻を楽しむ素敵な方法と言えるでしょう。ビベミでの食の旅は、あなたの価値観を揺さぶり、日常の食卓を新しい視点で見つめ直すきっかけとなる、忘れられない体験になることでしょう。

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    この記事を書いた人

    ドローンを相棒に世界を旅する、工学部出身の明です。テクノロジーの視点から都市や自然の新しい魅力を切り取ります。僕の空撮写真と一緒に、未来を感じる旅に出かけましょう!

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