欧州連合(EU)への旅行が、まもなく大きく変わろうとしています。導入が迫る新しい出入国管理システム「EES(Entry/Exit System)」に対応した公式モバイルアプリがリリースされ、シェンゲン協定加盟国への渡航手続きがデジタル化に向けて大きく前進しました。これにより、日本人旅行者を含む非EU市民の国境通過がよりスムーズになることが期待されます。
背景:なぜ今、新しいシステム「EES」が必要なのか?
EESは、EUの国境管理を強化し、近代化することを目的とした大規模なITシステムです。これまで、非EU市民の出入国管理はパスポートへのスタンプ押印によって行われてきましたが、この方法は時間がかかり、滞在期間の正確な追跡も困難でした。
パスポートへのスタンプは過去のものに
EESが本格稼働すると、シェンゲン協定加盟国(2024年3月時点で29カ国)の国境で、パスポートへのスタンプ押印が廃止されます。代わりに、旅行者の氏名、渡航書類、そして指紋や顔写真といった生体認証データがシステムに登録されます。これにより、「いかなる180日の期間内においても最大90日間」というシェンゲン協定の短期滞在ルールが自動的に計算・管理され、不法滞在の防止やセキュリティの向上が図られます。
このシステムは、日本をはじめとする約60カ国のビザ免除国からの渡航者を含む、短期滞在目的のすべての非EU市民に適用されます。
新公式アプリで何ができる?旅行前の「ひと手間」がカギ
EESの導入により、国境での手続きが増え、特に導入初期には空港などで大きな混雑が発生するのではないかと懸念されていました。今回リリースされた公式アプリは、その懸念を解消するための重要な一手となります。
国境到着前に手続きを完了
このアプリを使えば、旅行者はシェンゲン協定加盟国の国境に到着する最大72時間前から、一部の入国手続きを自分で済ませることができます。具体的には、パスポート情報の読み取り、渡航情報の入力、そして自身の顔写真のセルフスキャンをスマートフォンで完了させることが可能です。
事前にこれらの情報を登録しておくことで、空港の自動化ゲート(キオスク)での手続きが大幅に簡素化され、審査官との対面手続きにかかる時間を短縮できると期待されています。
予測される未来と旅行者への影響
EESと公式アプリの導入は、私たちのヨーロッパ旅行にどのような変化をもたらすのでしょうか。
短期的な課題と長期的なメリット
予測される影響:
- 導入初期の混乱: 新しいシステムへの移行期間中は、旅行者だけでなく現場の係官も慣れていないため、一時的に手続きに時間がかかったり、予期せぬトラブルが発生したりする可能性があります。特に2024年秋頃とされるEESの稼働開始直後に渡航を計画している場合は、空港での時間に十分な余裕を持つことが賢明です。
- 初回登録の手間: シェンゲン圏内に初めてEESで入国する際には、空港などの国境で指紋の登録が必要となります。この初回手続きには、ある程度の時間がかかることが予想されます。
- プライバシーへの配慮: 生体認証データを提出することに、プライバシーの観点から不安を感じる人もいるかもしれません。EUは厳しいデータ保護規則(GDPR)を定めていますが、自身の情報がどのように扱われるかに関心を持つことが重要です。
- 長期的な効率化: これらの初期段階を乗り越えれば、将来的には出入国手続きが大幅に迅速化・自動化されるでしょう。パスポートのスタンプ欄を気にする必要もなくなり、よりシームレスな旅行体験が実現します。
2025年導入予定の「ETIAS」との連携
EESは、2025年半ばに導入が予定されている「ETIAS(エティアス/欧州渡航情報認証制度)」と連携して機能します。ETIASは、ビザが免除されている国からの渡航者に対し、事前にオンラインで渡航認証の申請を義務付けるものです。EESが「いつ、どこで出入国したか」を記録するシステムであるのに対し、ETIASは「誰が入国しようとしているか」を事前に審査するシステムと言えます。この二つのシステムが連携することで、EU全体のセキュリティがさらに強化されることになります。
ヨーロッパへの旅行を計画している方は、EESと公式アプリ、そしてETIASに関する最新情報を、EUの公式サイトや外務省の海外安全ホームページなどで常に確認し、新しい時代の旅に備えましょう。

