旅行の計画が、フライトやホテルだけでなく「現地で何をするか」という体験そのものにシフトする中、その予約方法に大きな地殻変動が起きています。旅行調査会社Arivalが発表した最新レポートによると、ツアーやアクティビティといった旅行体験の予約市場において、OTA(Online Travel Agent)経由の予約シェアが急拡大。一方で、事業者の自社ウェブサイトを通じた直接予約は苦戦を強いられており、業界の構造変化が浮き彫りになりました。
加速するOTAへの依存、背景にある二つの大きな変化
レポートによれば、旅行体験予約市場におけるOTA経由のシェアは2025年に37%に達すると予測されており、前年からさらに拡大する見込みです。対照的に、ツアーやアクティビティを催行する事業者の自社ウェブサイトを通じた直接予約(直販)の割合は、25%にまで減少すると見られています。
この変化は、特にアトラクション(観光名所やテーマパークなど)の分野で顕著です。2019年にはわずか8%だったOTA経由の予約シェアは、2025年には24%へと3倍に急増する見通しで、市場全体のトレンドを牽引しています。
では、なぜこれほどまでにOTAへの依存が進んでいるのでしょうか。背景には、テクノロジーとマーケティング環境の劇的な変化があります。
AI検索の台頭とマーケティングの難化
一つ目の要因は、Googleなどが進めるAIを活用した検索体験の変化です。ユーザーが「パリでおすすめのアクティビティ」と検索した際に、AIが生成した要約が検索結果の最上位に表示されるようになり、個々の事業者のウェブサイトがユーザーの目に触れる機会は減少しつつあります。このような新しい検索環境に対応するには高度な専門知識が必要となり、リソースの限られる中小事業者にとっては大きな障壁となっています。
高騰するオンライン広告費
二つ目の要因は、オンライン広告費の高騰です。旅行関連のキーワードは競争が激しく、莫大なマーケティング予算を持つ大手OTAが広告枠を独占しやすい状況にあります。中小事業者が同じ土俵で戦うことは費用対効果の面で極めて困難であり、結果として、巨大な集客力を持つOTAのプラットフォームに出品せざるを得ない状況へと追い込まれています。
予測される未来と事業者への影響
このトレンドが続けば、旅行体験市場にはどのような未来が待ち受けているのでしょうか。
事業者の利益率圧迫と顧客との断絶
OTAへの依存度が高まることは、事業者が支払う手数料の増加を意味し、直接的に利益率を圧迫します。また、OTAのプラットフォーム上での価格競争が激化することも避けられません。
さらに深刻なのは、顧客データとの断絶です。OTA経由の予約では、事業者は顧客の連絡先などの詳細な情報を得にくくなります。これにより、リピーターの育成や、顧客との長期的な関係構築(CRM)が困難になり、事業の持続的な成長を阻害する可能性があります。
求められる新たな戦略
このような厳しい環境の中、事業者が生き残るためには戦略の転換が不可欠です。
- 独自性の追求: OTAでは見つけにくい、専門性の高いニッチな体験や、パーソナライズされた質の高いサービスを提供することで、価格競争から脱却し、独自の顧客層を掴む必要があります。
- 顧客との直接的な関係構築: 一度サービスを利用した顧客に対し、SNSやメールマガジンを通じて直接コミュニケーションを取り、再訪を促す努力がこれまで以上に重要になります。自社サイトからの直接予約限定の特典を提供するなど、顧客を直販チャネルへ誘導する工夫も求められるでしょう。
- OTAとの戦略的パートナーシップ: OTAを単なる販売チャネルとしてではなく、自社のブランドやサービスを知ってもらうための「巨大な広告塔」と捉え、戦略的に活用する視点も必要です。
旅行の楽しみ方が多様化する現代において、消費者はより簡単に、そして安心してユニークな体験を予約できることを望んでいます。OTAの台頭はこのニーズに応えるものですが、その裏で体験を提供する事業者は大きな岐路に立たされています。彼らがどのようにこの変化に対応し、独自の価値を提供し続けられるかが、今後の旅行業界の豊かさを左右する鍵となるでしょう。

