新型コロナウイルスのパンデミックを経て、国際的な人の往来は力強い回復を見せています。特にビジネス目的の渡航は、対面でのコミュニケーションの重要性が再認識される中で、着実にその勢いを取り戻しています。しかし、2026年に向けた道のりは決して平坦ではありません。世界経済の不確実性と地政学的な緊張が、新たな「摩擦」としてビジネストラベルの未来に影を落としています。
この記事では、回復への期待が高まる一方で見過ごすことのできないリスクを分析し、これからのビジネストラベルに求められる視点を探ります。
回復基調を支える追い風
世界のビジネストラベル市場は、パンデミック前の水準へと回帰する軌道に乗っています。世界的なビジネストラベル協会(GBTA)の予測によれば、世界のビジネストラベル支出は2024年中にパンデミック前の1.4兆ドルレベルに完全回復し、その後も成長を続けると見られています。この回復は、オンライン会議だけでは代替できない商談、交渉、ネットワーキングの価値を企業が再評価していることの証左と言えるでしょう。
さらに、2026年には北米(アメリカ、カナダ、メキシコ)で開催されるサッカーワールドカップのような世界的な大規模イベントが控えており、これらが特定の地域における渡航需要を一時的に押し上げる強力な要因となることも期待されています。
見過ごせない経済的・地政学的な逆風
明るい見通しがある一方で、旅行者や企業は複数の複雑なリスクに備える必要があります。これらは突発的なシステム障害とは異なり、常に存在し、状況を複雑化させる「摩擦」として機能します。
旅行費用を押し上げる世界的なインフレ
最も直接的な影響は、旅行費用の高騰です。世界的なインフレの波は、航空運賃やホテル宿泊費に直結しています。燃料費の上昇、航空業界やホスピタリティ業界における根強い労働力不足がコストを押し上げ、その負担は最終的に旅行者に転嫁されます。
過去のデータを見ても、例えば2023年から2024年にかけて、世界のホテル料金は平均で4.3%、航空運賃も2.6%上昇したという予測もありました。2026年に向けてもこの傾向は続くと見られ、企業は従来よりも高い水準の出張予算を組む必要に迫られます。
サプライチェーンの遅延とサービス品質の変動
パンデミック以降、航空業界は機材の納入遅延や人材不足といったサプライチェーンの問題に直面し続けています。これにより、フライトの遅延や欠航のリスクが高まるだけでなく、空港でのサービスや機内サービスにも影響が及ぶ可能性があります。出張計画を立てる際には、こうした不確実性を前提とした余裕のあるスケジュール管理が不可欠となります。
予測困難な地政学リスク
不安定な関税政策や厳格化する国境管理、地域紛争なども大きな懸念材料です。特定の国々との関係悪化は、ビザ発給の遅延や要件の厳格化、航空路線の変更・運休といった形で、直接的に渡航のハードルを上げます。これらの地政学的な変動は予測が難しく、出張計画の突然の変更を余儀なくされるリスクを常に内包しています。
2026年を乗り切るための新たな戦略
このような「摩擦」が常態化する時代において、旅行管理者や出張者にはこれまで以上の戦略的なアプローチが求められます。
柔軟性とコスト管理の両立
単に安いチケットを探すだけでなく、急な変更に対応できる柔軟な予約オプションを選択することが重要になります。キャンセル・変更可能な運賃や宿泊プランは割高になる傾向がありますが、不測の事態による損失を考えれば、結果的にコストを抑制する賢明な投資となり得ます。精緻な需要予測とデータ分析に基づいた予算管理が、企業の競争力を左右するでしょう。
リアルタイムな情報収集とリスクアセスメント
渡航先の安全情報、入国要件、衛生状況などをリアルタイムで把握し、常に最新の状況に基づいた判断を下すことが不可欠です。テクノロジーを活用してリスク情報を一元管理し、出張者へのアラートを迅速に行う体制の構築が、従業員の安全確保(Duty of Care)の観点からも極めて重要となります。
2026年の国際ビジネストラベルは、単なる移動手段ではなく、周到な準備とリスク管理が求められる戦略的な企業活動となります。回復の波に乗り遅れることなく、同時に迫りくる逆風を乗りこなすための「備え」こそが、これからのグローバルビジネスの成功を左右する鍵となるでしょう。

