ヒルトンやマリオットといった世界的なホテル大手企業が、次なる顧客獲得の戦場として「ロイヤルティプログラム」の改革を加速させています。単なる宿泊割引やアップグレードにとどまらない、異業種との提携による「特別な体験」の提供が、今後の旅行業界のトレンドを大きく左右しそうです。
なぜ今、ロイヤルティプログラムの改革が急務なのか
この動きの背景には、ホテル業界が直面する二つの大きな課題があります。
OTAとの熾烈な競争
一つは、ExpediaやBooking.comに代表されるOTA(Online Travel Agent)との競争激化です。OTAは価格の透明性と利便性で多くの旅行者を惹きつけていますが、ホテル側にとっては高額な手数料が発生し、顧客データを直接得られないというデメリットがあります。
ホテルは独自のロイヤルティプログラムを強化することで、顧客に直接予約を促し、長期的な関係を築こうとしています。魅力的な特典やプログラム限定の体験を提供することは、OTAから顧客を奪還するための重要な戦略なのです。
「コト消費」へとシフトする旅行者の価値観
もう一つの背景は、旅行者の価値観の変化です。特にミレニアル世代やZ世代を中心に、豪華なモノを所有する「モノ消費」から、心に残る体験を重視する「コト消費」へのシフトが顕著になっています。彼らは、ただ快適な部屋に泊まるだけでなく、その土地ならではの文化に触れたり、特別なアクティビティに参加したりすることを求めています。
ホテル大手は、このニーズに応えるべく、自社のプログラムを「ライフスタイルプラットフォーム」へと進化させようとしているのです。
具体的な戦略:ヒルトンとマリオットの野心的な一手
今回のニュースの中心であるヒルトンとマリオットは、この変革をリードする象徴的な動きを見せています。
ヒルトン:異業種提携で「旅」の領域を拡張
世界で1億8000万人以上の会員を抱える「ヒルトン・オナーズ」は、高級クルーズ会社「エクスプローラ・ジャーニーズ」との提携を発表しました。これにより、ヒルトン・オナーズ会員は、陸上のホテル滞在だけでなく、洋上の豪華クルーズでもポイントを獲得・利用できるようになります。
これは、顧客の旅行全体を自社のエコシステムに取り込もうとする野心的な試みです。ホテルからクルーズ船へ、シームレスにポイントを活用できる世界は、顧客にとっての利便性を飛躍的に高め、ヒルトンブランドへの忠誠心をより一層深めることになるでしょう。
マリオット:宿泊施設の多様化で「体験」を深化
世界最大のロイヤルティプログラムであり、1億9600万人以上の会員数を誇る「マリオット・ボンヴォイ」は、異なるアプローチで体験価値の向上を図っています。アウトドア志向の旅行者向けに、自然の中で楽しめるキャビンコレクション「Postcard Cabins」を買収しました。
これにより、マリオットは都市部の高級ホテルやリゾートだけでなく、グランピングやキャビンステイといった、より自然に根差したユニークな宿泊体験を提供できるようになります。多様化する旅行者のニーズにきめ細かく応えることで、あらゆる旅のシーンで「マリオット」が選択肢となることを目指しています。
予測される未来と旅行者への影響
このホテル大手の動きは、今後の旅行業界にどのような影響を与えるのでしょうか。
「体験型」ロイヤルティプログラムの一般化
今後、他のホテルチェーンも同様に、航空会社、レンタカー、レストラン、エンターテイメント施設など、様々な業種との提携を加速させることが予測されます。ポイントの価値は「割引」から「特別な体験へのアクセス権」へと変化し、会員ステータスが持つ意味合いもより大きなものになるでしょう。
パーソナライゼーションのさらなる進化
異業種提携によって得られる膨大な顧客データをAIで分析し、個々の旅行者の趣味嗜好に合わせた、よりパーソナルな旅行提案や特典提供が可能になります。「あなただけの特別な体験」が、ロイヤルティプログラムの新たな付加価値となる時代が到来するかもしれません。
旅行者が得るもの、考えるべきこと
私たち旅行者にとっては、ポイントの使い道が広がり、これまで以上に多様でユニークな旅を計画できるようになるという大きなメリットがあります。一方で、各社のエコシステム(経済圏)による顧客の囲い込みが強まることで、無意識のうちに選択肢が狭まってしまう可能性も考慮すべきでしょう。
これからの旅行計画では、どの航空会社を選ぶか、どのクレジットカードを使うかと同様に、「どのホテルブランドの経済圏で旅をするか」という視点が、旅の質を大きく左右する重要な要素になっていくことは間違いありません。

