都会の喧騒、めまぐるしく過ぎていく日々。ふと、立ち止まりたくなるときはありませんか。情報過多の現代社会で少し疲れた心を癒すには、時がゆっくりと流れる場所へ旅に出るのが一番です。今回ご紹介するのは、そんな心安らぐ時間を過ごせる場所、埼玉県行田市。かつて日本一の足袋の産地として栄えたこの町には、今もなお歴史の息吹を感じさせる「足袋蔵」が点在し、訪れる人々を優しく迎え入れてくれます。重厚な漆喰の壁、リズミカルに並ぶのこぎり屋根。その一つひとつが、日本の近代化を支えた職人たちの誇りと情熱を物語っています。今回は、ただ古い町並みを眺めるだけでなく、その文化に深く触れ、心と体を満たす体験を巡る旅へとご案内します。古き良き日本の原風景に浸り、自分自身と向き合う、特別な時間を過ごしてみませんか。
自分自身と向き合う静寂の旅を求めるなら、兵庫・三木の古刹を巡る旅もおすすめです。
なぜ行田は「足袋の都」となったのか

行田の町を散策する前に、まずはその歴史に少し耳を傾けてみましょう。この地がなぜ「足袋の都」と称され、日本屈指の足袋の産地となったのか、その物語を知ることで、目の前に広がる足袋蔵の景色がいっそう深みを持つはずです。
その物語の起点は江戸時代中期にさかのぼります。当時の行田は、江戸と中山道をつなぐ忍藩(おしはん)の城下町として栄えていました。忍藩の下級武士たちが生活の糧を得るため、副業として足袋作りを始めたことが、行田の足袋産業の起源とされています。彼らが手掛けた足袋は、丁寧な手作業による丈夫さと快適な履き心地で評判が高まり、次第に知名度を集めていきました。
明治時代に入り、武士の時代が終焉を迎えると、行田の足袋作りも重要な転機を迎えます。廃藩置県によって職を失った士族たちが、本格的に足袋産業に参入し始めたのです。さらにこの時期、画期的な技術革新がもたらされます。それがミシンの導入であり、特にアメリカから輸入された環縫いミシンの活用によって生産効率は飛躍的に向上しました。手で縫う場合は一日に数足が限度でしたが、ミシンを使うことで数十足から数百足の生産が可能となり、この技術の進歩が行田を単なる生産地から「日本一の産地」へと押し上げる原動力となったのです。
大正から昭和初期にかけて、行田の足袋産業はまさに黄金期を迎えます。全国足袋生産の約8割を占め、町には事業で成功した足袋商人たちが、その富と誇りを示すために競うように蔵を築きました。現在私たちが目にする「足袋蔵」とは、この時代の産物です。これらの蔵は単に倉庫というだけでなく、製品である足袋を湿気や火災から守る堅牢な構造を備えるとともに、当時の職人の美意識が色濃く表れています。白く輝く漆喰の壁、採光のための高窓、そして行田の足袋蔵を象徴する「のこぎり屋根」──北向きに設置された天窓から安定した光を取り込むこの独特な形状は、ミシンを踏む職人たちの手元を明るく照らす、まさに機能美の極致といえるでしょう。
しかし戦後、生活様式が洋風化し靴下が普及すると、足袋の需要は次第に減少していきます。かつて隆盛を誇った行田の足袋産業も、時代の流れに抗えず多くの足袋蔵がその役割を終えました。それでもなお、行田の人々はこの歴史と文化の象徴である足袋蔵を大切に守り続けてきました。そして現在では、これらの蔵はカフェやレストラン、資料館、ギャラリーとして新たな命を吹き込まれ、訪れる人々に静かにその歩みを語りかけています。これから巡る足袋蔵の一つひとつには、栄光と変遷の歴史が刻まれていることを心に留めれば、町歩きは単なる観光にとどまらず、時を超えた対話のような豊かな体験へと変わっていくことでしょう。
風情あふれる足袋蔵の町並みを巡る
歴史の薫りを感じながら、いよいよ足袋蔵が立ち並ぶ町並みの散策に出かけましょう。行田の街歩きは、決まったルートにとらわれず、気の向くままに路地裏を覗いてみるのがおすすめです。ふと曲がった角の先に、思いがけない素敵な蔵との出会いが待っているかもしれません。ここでは、数ある足袋蔵の中から特に訪れるべき代表的なスポットと、リノベーションによって新たな魅力が加わった場所をいくつかご紹介します。
伝統の風格を今に伝える「牧野本店」
まず最初に訪れたいのは、行田の足袋蔵の中でも特に知られる「牧野本店」です。明治20年に創業したこの足袋蔵は、店舗、帳場蔵、工場、さらに居住スペースまでもが一体となった大規模な建物で、当時の足袋商人の暮らしを肌で感じられます。堂々とした店蔵の佇まいは、その重厚さだけで見る者を惹きつけます。現在、内部は観光案内所や休憩所として利用されており、散策の拠点としてとても便利です。
蔵の中に足を踏み入れると、涼やかな空気が漂い、露わになった太い梁や高い天井が強い存在感を放っています。夏の暑い日でも、土壁と漆喰が織りなす空間は自然な涼しさを保ち、昔の技術の賢さを実感させられます。ここでは行田の観光パンフレットを入手したり、スタッフから見どころについて話を聞くことができます。まずはここで情報を集めて、自分だけの散策プランを練るのも楽しいひとときです。
| スポット名 | 牧野本店 |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市行田2-3 |
| アクセス | 秩父鉄道「行田市駅」から徒歩約10分 |
| 営業時間 | 9:00~16:00 |
| 定休日 | 月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始 |
| 料金 | 無料 |
リノベーションで蘇った文化発信の場
行田の足袋蔵の魅力は、単に古い建物が保存されているだけでなく、その歴史的価値を尊重しつつ現代のセンスでリノベーションされ、新たな文化発信拠点としてよみがえっている点にもあります。ここでは、そんな魅力的なリノベーション蔵をいくつかご紹介します。
忠次郎蔵(ちゅうじろうぐら)
大正13年築のこの蔵は、現在人気のパン屋さん「蔵づくりパン工房 KURA」として活躍しています。特徴的なのこぎり屋根の蔵の内部は、パンの香ばしい香りに包まれています。天然酵母にこだわったパンがずらりと並び、どれを選ぶか迷う時間もまた至福のひととき。イートインスペースもあり、歴史ある空間で焼き立てのパンを楽しめます。太い梁の下で味わうコーヒーとパンの組み合わせは、一層格別です。
| スポット名 | 忠次郎蔵(蔵づくりパン工房 KURA) |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市行田2-7 |
| アクセス | 秩父鉄道「行田市駅」から徒歩約10分 |
| 営業時間 | 10:00~18:00(パン売り切れ次第終了) |
| 定休日 | 月曜・火曜 |
| 特徴 | 大正時代の足袋蔵を改装したパン屋 |
翠玉堂(すいぎょくどう)
明治時代の蔵を改装したこちらは、アンティークショップとカフェが併設された空間です。一歩店内に入れば、まるで宝箱のような世界が広がっています。和洋の骨董品や古道具がぎっしりと並び、それぞれの品々に秘められた物語を想像しながら、お気に入りを探すのは宝探しのような楽しさです。奥にはカフェスペースがあり、静かなひとときを過ごしながらこだわりのコーヒーや手作りケーキを味わうことができます。時間を忘れてくつろげる隠れ家的な場所です。
| スポット名 | 翠玉堂 |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市行田1-1 |
| アクセス | 秩父鉄道「行田市駅」から徒歩約8分 |
| 営業時間 | 11:00~18:00頃 |
| 定休日 | 不定休(訪問前にご確認ください) |
| 特徴 | アンティークショップとカフェを併設した蔵 |
時田足袋蔵(ときたたびぐら)
行田の足袋蔵の中でも特に洗練された美しさを誇るのが時田足袋蔵です。白い漆喰壁と黒瓦のコントラストが鮮やかで、その端正な佇まいは多くの建築愛好家の心をつかんでいます。内部は公開されていませんが、外観を眺めるだけでも価値があり、青空を背景にした姿はまるで一枚の絵のようです。撮影するときは少し離れて全体のバランスを捉えると良いでしょう。この蔵の前を歩くだけでも、足袋の町ならではの風情を強く感じられます。
行田の町には、これら以外にも大小さまざまな蔵が点在しています。ギャラリーとして使われている蔵、蕎麦屋として賑わう蔵、そして今も静かに時を刻む個人所有の蔵なども。地図を片手に自分だけの気に入りの蔵を探す散策は、この町ならではの醍醐味です。車の少ない路地を選んで、ゆったりマイペースで歩いてみてください。きっと心に残る風景に出会えることでしょう。
見るだけじゃない、行田の文化を五感で味わう体験

行田の旅の魅力は、美しい風景を楽しむだけではありません。この地に息づく文化を、自らの手や舌、体験を通じて感じ取ることができる、多彩なアクティビティが充実しています。ここでは、旅をより深く、心に残るものにするための特別な体験を3つご紹介します。
① 日本の伝統を体感する「足袋作り体験」
「足袋の都」行田を訪れたら、ぜひ足袋に触れてみてください。「足袋とくらしの博物館」では、実際にミシンを使い、自分だけの一足を作る「足袋作り体験」が楽しめます。この博物館は昔の足袋工場をそのまま使用しており、一歩足を踏み入れると、ミシン油の香りや擦り切れた木の床の軋みがかつての活気を物語ります。
体験は、まず布地選びからスタート。カラフルな柄物から落ち着いた無地まで多様な生地の中からお気に入りを選べます。この選択の時点で期待感が高まります。次に、選んだ布を型紙に合わせて裁断。スタッフが丁寧にサポートしてくれるので、不器用な方も安心です。いよいよミシンでの縫製へ。軽快な音を響かせながらパーツを縫い合わせる作業は、まさに職人気分に浸れます。仕上げに足首を締める「こはぜ」を取り付ければ、世界に一つだけの自作足袋が完成します。
自分で作った足袋を履いた瞬間の感動は格別です。自分の足にしっかり合うフィット感と布の温かみは、大量生産品では味わえない手仕事の魅力そのもの。この体験を通して、伝統的な履物としての足袋の機能性や美を改めて実感できるでしょう。
| スポット名 | 足袋とくらしの博物館 |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市行田1-2 |
| アクセス | 秩父鉄道「行田市駅」から徒歩約8分 |
| 体験内容 | 足袋作り体験(要予約) |
| 所要時間 | 約2~3時間 |
| 料金 | 内容によるため、公式サイトでご確認ください |
| 注意事項 | 予約が必須で、特に週末は混雑するためお早めの予約をおすすめします |
② 心を揺さぶる青の芸術「藍染め体験」
行田の足袋産業を支えたもう一つの大切な文化が「藍染め」です。丈夫で美しい藍色の足袋は江戸時代から庶民のファッションの定番でした。現在も市内には、伝統技術を守りながら藍染めを体験できる工房があります。
藍染めの工房に足を踏み入れると、独特の発酵した藍の香りが漂います。まず、ハンカチや手ぬぐい、Tシャツなどから染める布を選び、輪ゴムやビー玉、割り箸を使って絞り模様を作っていきます。絞り方によって無数の模様が生まれるのが藍染めの面白さ。どんな模様になるのか想像しながら布を縛る作業は、瞑想のような心の安らぎをもたらします。
準備が整ったら、藍の入った大きな甕に布をゆっくりと沈めます。最初は緑色の布が空気に触れると酸化し、鮮やかな藍色に変わっていくさまはまさに感動的です。この染めと空気に晒す工程を繰り返すことで、色はより深みを増します。自らの手で布が生き生きと染まっていく過程は、生命の神秘に触れるようなスピリチュアルな体験と言えるでしょう。
染め終わった布を洗って絞りをほどくと、世界に一つだけのオリジナル模様が現れます。思い通りにいく場合もあれば、予想外の美しい柄が出ることも。この一期一会の出会いこそ藍染めの醍醐味。染め上げた藍色のハンカチは、旅の思い出としてはもちろん、使うたびに感動がよみがえる特別な宝物になるでしょう。
③ 地元で愛される味「ゼリーフライ」と「フライ」を堪能
行田の文化体験は食にもあります。街中で「ゼリーフライ」や「フライ」といった珍しい名前の看板を目にすることがあるでしょう。これらは地元の人々に長年親しまれている、外せないソウルフードです。
まず、「ゼリーフライ」。名前に反してゼリーは一切使われていません。正体は、おからとジャガイモをベースに、ネギなどの野菜を混ぜて小判型に形成し、衣をつけずに素揚げしたもの。ソースをつけて提供されます。名前の由来はその形が「銭」に似ていることから「銭フライ」が変化した説が有力です。一口頬張ると外はカリッと香ばしく、中はもちもち。おからの優しい甘みとソースのコクが見事に調和し、どこか懐かしい味わいが広がります。小腹が空いたときにぴったりのおやつです。
一方、「フライ」はクレープにもお好み焼きにも似た薄焼き生地の料理です。水で溶いた小麦粉にネギや肉、卵などの具を混ぜ、鉄板で薄く焼き上げてソースや醤油で味付けします。店によっては焼きそばを加えたボリューム満点の「フライ焼きそば」も。シンプルながら、もちもちの生地と具の旨味が一体となった味わいは、一度食べるとクセになります。
市内には多くのゼリーフライ・フライのお店が点在し、それぞれに微妙な味や食感の違いがあります。地元の人々と一緒に店先で熱々を味わうのも風情があります。お気に入りの店を見つけるために何軒か食べ歩くのも楽しい体験です。素朴で温かみのある味わいは、行田の旅の記憶をより豊かに彩ってくれるでしょう。
歴史の舞台へ足を延ばす:忍城とさきたま古墳群
行田の魅力は足袋蔵だけに留まりません。この地は昔から関東の重要な要衝として、多くの歴史の舞台となってきました。足袋蔵の街並みから少し足を伸ばせば、戦国時代のドラマや古代のロマンを感じ取ることができます。ここでは、行田の歴史の奥深さを体感できる二つの代表的なスポットをご紹介します。
難攻不落の名城「浮き城」忍城(おしじょう)
行田市の中心にそびえる忍城は、室町時代に築かれ、関東の七名城の一つに数えられる名城です。沼地に囲まれた地形から、「水に浮かぶ城」とも称される「浮き城」という異名を持っています。
この城が名を馳せたのは、豊臣秀吉の小田原征伐の際の出来事です。秀吉の軍を率いた石田三成は、城の周囲に巨大な堤防(石田堤)を築き、利根川の水を引き込んで水攻めを試みました。しかし、領民と心をひとつにした城主・成田氏の奮闘により、忍城は歴史に類を見ない水攻めに耐え抜き、ついに落城しませんでした。この物語は映画『のぼうの城』としても広く知られています。
現在の天守にあたる「御三階櫓」は、明治時代に取り壊されたものを昭和63年に復元したもので、その白亜の美しい姿は往時の雄々しさを感じさせます。館内は行田市郷土博物館として利用されており、足袋産業の資料はもちろん、忍城の歴史に加えて、後述するさきたま古墳群で出土した品々も多数展示されています。特に、水攻めの様子を再現したジオラマは見逃せません。最上階の展望室からは行田市街を一望でき、歩いてきた町並みや遠くに広がる田園風景を楽しめます。
城址公園として整備された周囲は地元の人々の憩いの場となっており、堀跡や土塁の一部が今も残されています。歴史に想いを馳せながらゆったり散策するのもおすすめです。戦国武将たちの壮絶な物語を感じつつ、この難攻不落の城の力強さを肌で感じてみてください。
| スポット名 | 忍城(行田市郷土博物館) |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市本丸17-23 |
| アクセス | 秩父鉄道「行田市駅」より徒歩約15分 |
| 開館時間 | 9:00~16:30(入館は16:00まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝日は開館)、祝日の翌日(土日祝の場合は開館)、年末年始 |
| 料金 | 大人200円、高校・大学生100円、小中学生50円 |
古代のロマンが息づく「さきたま古墳群」
忍城から車で約10分の場所には、日本の歴史をさらに数百年遡る壮大な古代の世界が広がっています。それが「さきたま古墳群」です。5世紀末から7世紀初頭にかけて築かれた9基の大型古墳が集まるこの場所は、国の特別史跡に指定されており、埼玉県の名前の起源とも言われています。
公園内に足を踏み入れると、その壮大なスケールに圧倒されます。広々とした芝生の広場に点在する緑豊かな古墳群は圧巻です。特に際立つのが、日本最大級の円墳である「丸墓山古墳」。頂上まで登ることができ、そこからの景色は絶景そのもの。春には麓の桜が満開となり、まるでピンクの絨毯を敷き詰めたかのような光景が広がります。戦国時代、石田三成が忍城を水攻めにする際には、この古墳の頂上に本陣を構えたと伝えられており、ここは古代と戦国の歴史が交錯する珍しい場所でもあります。
また、さきたま古墳群の象徴的存在とも言えるのが「稲荷山古墳」です。この古墳から発見された国宝「金錯銘鉄剣」は、剣の両面に115文字の漢字が金象嵌で刻まれており、古代史の謎を解き明かす重要な証拠として日本中を驚かせました。この鉄剣の実物は公園内の「さきたま史跡の博物館」で常設展示されており、その繊細な輝きと1500年の時を超えたメッセージに誰もが引き込まれます。
公園内は遊歩道が整備されており、ウォーキングやピクニックに最適です。古墳群をゆったり巡りながら、古代の人々がどのような思いでこれら巨大な墳墓を築いたのかに想いを巡らせてみてください。木々の囁きや野鳥のさえずりに耳を傾けるうち、日々の喧騒を忘れ、心が徐々に穏やかになるのを感じられるでしょう。ここは歴史学びの場であると同時に、豊かな自然の中で心身を癒やす憩いの場でもあります。
| スポット名 | さきたま古墳群公園 |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市埼玉4834 |
| アクセス | JR高崎線「吹上駅」からバスで約10分、あるいは「行田市駅」から市内循環バス利用可 |
| 開園時間 | 終日開放(さきたま史跡の博物館は9:00~16:30) |
| 料金 | 公園は無料(博物館は別途入館料が必要) |
| 駐車場 | あり(無料) |
四季折々の表情を見せる行田の自然

歴史と文化が息づく行田ですが、その旅をより一層豊かに彩るのが、豊かな自然の美しい風景です。とりわけ、季節ごとの変化を感じられるスポットは、訪れる時期によって異なる表情を見せるため、何度訪れても新鮮な感動があります。
神秘の蓮が咲き誇る「古代蓮の里」
初夏から夏にかけて行田を訪れるなら、ぜひ足を運びたいのが「古代蓮の里」です。ここには、約1400年から3000年前の古代の蓮の種子が、市の焼却場建設工事中に偶然発見されて自然発芽したという奇跡の逸話をもつ「行田蓮」が勢いよく花を咲かせます。
見頃の6月中旬から8月上旬にかけて、広大な蓮池がピンク色の大輪の花々で埋め尽くされます。蓮は朝早くゆっくりと花びらを開き、午後には閉じてしまうため、その最も美しい姿を拝むなら午前中の早い時間の訪問がおすすめです。夜明けの静寂の中、ポンと音を立てて開く花の瞬間に立ち会えれば、きっと忘れられない感動の体験となるでしょう。その神秘的な美しさが昔から多くの人々を惹きつけてきたのも納得です。
園内では行田蓮のほか、世界各地から集められた42種の蓮を楽しめる池もあり、色や形の違う蓮を比較して観賞するのも魅力的です。また、高さ50メートルの展望タワーからは、蓮池の全貌はもちろん、天気が良ければ遠くの山々まで見渡せます。さらに、この展望タワーから楽しめる夏の風物詩が、ギネス世界記録にも認定された「田んぼアート」です。色彩の異なる稲を巧みに植え分けて水田に巨大な絵を作り上げるもので、その精巧さと迫力には毎年圧倒されます。
| スポット名 | 古代蓮の里 |
|---|---|
| 住所 | 埼玉県行田市小針2375-1 |
| アクセス | JR高崎線「行田駅」からシャトルバス(蓮開花期間限定)または市内循環バス |
| 開園時間 | 終日開放(古代蓮会館は9:00〜16:30) |
| 料金 | 公園は無料(古代蓮会館・展望タワーのみ別途入館料必要) |
| 見頃 | 行田蓮:6月中旬〜8月上旬、田んぼアート:7月中旬〜10月中旬 |
旅の計画とアクセスのポイント
ここまで紹介したスポットを効率よく巡るための具体的なプラン例をご案内します。行田の旅を充実させる参考にしてみてください。
モデルコース例
日帰り満喫コース(歴史と文化を感じる)
午前中に秩父鉄道「行田市駅」からスタート → 足袋蔵の街並み散策(牧野本店や忠次郎蔵など) → 伝統的な古民家カフェや名物フライ・ゼリーフライで昼食 → 午後は足袋とくらしの博物館で足袋作り体験 → 忍城見学 → 行田市駅へ戻る
1泊2日ゆったりコース(自然と古代のロマンを満喫)
1日目:JR「吹上駅」または「行田駅」からバスでさきたま古墳群へ → 古墳群を散策し、さきたま史跡の博物館を見学 → 夏期は古代蓮の里を訪問 → 市内ホテルに宿泊 2日目:午前中に足袋蔵の街並みを散策し、藍染め体験 → ランチ後、午後は忍城見学とお土産探し → 帰路へ
交通アクセス
公共交通機関利用の場合
東京方面からは、JR高崎線で「熊谷駅」まで行き、秩父鉄道に乗り換えて「行田市駅」で下車が便利です。足袋蔵エリアや忍城は駅から徒歩圏内です。さきたま古墳群や古代蓮の里へは、JR「吹上駅」や「行田駅」、または秩父鉄道「行田市駅」からバスや循環バスを利用するとよいでしょう。
車利用の場合
東北自動車道・羽生ICや関越自動車道・東松山ICからのアクセスが可能です。市内の観光スポットには無料または有料の駐車場がありますが、足袋蔵の街並みは道が狭いため、市営駐車場に停めて徒歩で散策するのがおすすめです。元整備士の視点からすると、利根川沿いのドライブロードも爽快で、車を楽しみたい方には最適です。
ベストシーズン
行田は年間を通じて楽しめますが、特におすすめの時期は以下の通りです。
春(3月下旬〜4月上旬)
忍城址公園とさきたま古墳群の桜が美しく、穏やかな気候の中で歴史散策と花見の両方が楽しめます。
夏(6月中旬〜8月上旬)
古代蓮の里で蓮の花が最盛期を迎えます。早朝の神秘的な開花と、壮大な田んぼアートは必見です。
秋(10月〜11月)
過ごしやすい気温でウォーキングに最適。さきたま古墳群の紅葉が見られ、澄んだ空気の中でじっくりと歴史を感じる旅が楽しめます。
時を超えて受け継がれる温もりを訪ねて
埼玉県行田の旅はいかがでしたか。かつて日本一の足袋の産地として栄えた町の歴史を物語る足袋蔵、戦国時代のドラマを今に伝える忍城、そして古代の人々の息遣いを感じさせるさきたま古墳群。行田には日本のさまざまな時代の記憶が重なり合い、豊かに息づいています。
しかし行田の魅力は、こうした壮大な歴史だけにとどまりません。リノベーションされた蔵で香ばしいパンの香りに包まれたり、手作業で鮮やかな藍色に染まる布の変化に心を打たれたり、地元の人々に愛される素朴なソウルフードを味わったり。こうしたささやかな体験の中にこそ、この町の本当の温かさが感じられるのです。
これは、時代が移り変わっても大切なものを守り続け、受け継ぎながら新たな息吹を吹き込んできた人々が、この町にずっと暮らし続けてきた証なのかもしれません。忙しい日常から少し離れて、行田のゆったりと流れる時間に身をゆだねてみてください。古い蔵の壁にそっと触れた瞬間、きっと時を超えたぬくもりがあなたの心を優しく包み込むことでしょう。この旅があなたにとって、古き良き日本の文化の美しさを再認識し、明日への活力となるきっかけとなれば幸いです。

