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    コソボの隠れ里パルテシュで心を満たす。大地と繋がるヴィーガン食紀行

    日々の喧騒、鳴り止まない通知、時間に追われる毎日。ふと、心と体が悲鳴をあげていることに気づく瞬間はありませんか?情報過多の現代社会で、私たちが本当に求めているのは、物質的な豊かさよりも、むしろ内なる静けさと、大地と繋がるような確かな手応えなのかもしれません。今回ご紹介するのは、そんな現代人の疲れた心を優しく包み込んでくれる、とっておきの場所。ヨーロッパの南東部、バルカン半島に位置するコソボ共和国の小さな村、パルテシュです。まだ日本のガイドブックにはほとんど載っていない、この知られざる地で、私は人生で最も心に残る食体験をしました。それは、大地からいただいたばかりの生命力あふれる野菜を、そこに暮らす人々の温かい心と共に味わう、ヴィーガンという選択を通して見つけた、新しい豊かさの形でした。この記事が、本当の自分を取り戻す旅へ、あなたをいざなうきっかけとなれば幸いです。

    ヨーロッパの静けさを求める旅は、遠くブラジル・グアラミリンで月光に照らされるヨーロッパの面影を探すという、意外な形でも続いています。

    目次

    なぜ今、コソボのパルテシュなのか?

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    旅先を選ぶ際、多くの人は人気の観光地やリゾートを思い浮かべるかもしれません。しかし、真の贅沢とは、まだ誰にも知られていない場所で、自分だけの静かな時間を見つけることにあるのではないでしょうか。パルテシュは、まさにそんな旅を求める人々にとっての隠れ家のような存在です。

    騒がしさを離れ、本当の豊かさを感じる旅

    私がパルテシュに心惹かれたのは、一枚の写真がきっかけでした。夕暮れの柔らかな光に包まれたなだらかな丘、その麓に寄り添うように立つ小さな家々、そして畑で働く人の穏やかなシルエット。その風景は、私がこれまで追い求めてきた華やかな世界とは真逆にある、静かでありながら確かな幸福感に満ちていました。パルテシュには派手な観光スポットはありません。あるのは、果てしなく広がる豊かな自然と、昔ながらの生活を大事にする人々の営み、そしてそこから生まれる素朴で滋味あふれる料理です。ここでは、鳥の囀りに目覚め、太陽の光で育った野菜を収穫し、食卓を囲んで語り合う時間こそが何よりも尊い宝となります。デジタルデトックスという言葉がありますが、パルテシュで過ごす日々は、それ自体が自然なかたちで心の浄化をもたらしてくれます。情報の波から離れ、五感を研ぎ澄ますことで、私たちは忘れかけていた自分の内なる声に静かに耳を傾けることができるのです。

    未知なるバルカンの宝、コソボの魅力

    コソボと聞くと、まだ紛争のイメージを持たれている方もいるでしょう。しかし、2008年に独立を宣言して以来、この国は驚くべき速さで復興を遂げ、「バルカンの宝石」と呼ばれるほど魅力的な国へと姿を変えています。特に若い世代の活気は際立っており、首都プリシュティナにはスタイリッシュなカフェやギャラリーが次々に誕生し、活気にあふれています。一方で、郊外に足を伸ばせば、オスマン帝国時代や中世の趣を残す歴史的な街並みや、手つかずの雄大な自然が広がっています。人々は親日的で、困っている人にはすぐに声をかけてくれる温かさも大きな魅力です。複雑な歴史を乗り越えてきたからこそ、彼らの眼差しには深い優しさと強さが宿っています。パルテシュは、まさにそんなコソボの魅力を凝縮した場所。歴史の奥深さと未来に向かう力強い息吹が、美しい自然の中で静かに調和しています。

    パルテシュが持つ独特な文化と歴史的背景

    パルテシュは、コソボの中でも特にセルビア系住民が多く暮らす地域です。そのため、村の中を歩けばキリル文字の看板を目にしたり、セルビア正教の教会が静かに佇んでいたりと、コソボの他の地域とは異なる独特の文化が感じられます。この文化的背景は食文化にも色濃く表れており、バルカン半島全体の食習慣を基盤にしながらも、パルテシュの家庭料理にはセルビアの伝統的な味がしっかりと受け継がれています。それは、家族の歴史であり、コミュニティの絆そのもの。彼らにとって食事は、ただ空腹を満たすだけでなく、先祖から伝わる知恵と愛情を分かち合う神聖な儀式ともいえるのです。この村で味わうヴィーガン料理は、そうした深い精神性に根ざしているからこそ、心の奥までじんわりと温めてくれるように感じられます。

    パルテシュの大地が育む、生命力あふれる野菜たち

    パルテシュの旅で最も印象的なのは、何と言ってもそこで育まれた野菜たちでした。スーパーマーケットで見かける形が均一に整えられた野菜とはまるで異なり、一つひとつが個性豊かであふれる生命力を感じさせる野菜との出会いは、私たちの食に対する価値観を根本から揺るがすほどの衝撃でした。

    バルカン半島の気候と豊かな土壌

    バルカン半島は地中海性気候と大陸性気候が交錯する地域に位置し、四季の変化がはっきりと現れます。夏は強い日差しに包まれ、冬は厳しい寒さが訪れます。この気温差が、野菜や果物の甘みと旨みをぎゅっと凝縮させるのです。パルテシュの周辺の土壌はミネラルを豊富に含んだ肥沃な土地として知られ、古くから農業が盛んに営まれてきました。特にトマト、パプリカ、ナス、ズッキーニなどの夏野菜は、驚くほど味が濃く、まるで太陽の恵みをそのまま噛みしめているかのような感覚にさえなります。化学肥料や農薬に頼らず、自然の循環に則った伝統的な農法で育てられた野菜は、見た目は不揃いながらも、それぞれがまるで地球からの贈り物であると力強く訴えかけているかのようでした。

    農家との出会い:伝統農法を守り続ける人々の想い

    幸運なことに、私は代々農業を営む村の家族の畑を訪れる機会を得ました。案内してくれたのは、優しい笑顔と深いしわが印象的なイェレナさんというおばあさん。彼女の畑にはトラクターのような近代的な機械は見当たらず、鍬を手に土の状態を丹念に確かめながら、一つ一つの作物に語りかけるように愛情を注ぐ姿がありました。「この土はね、私のおじいさんのおじいさんの代から受け継がれてきた大切な宝物なんだよ。機械を使えば楽だけど、土の声を聞けなくなるの」と語る彼女の手は長年の労働でたくましくなっていましたが、その手から育てられた野菜はどれも瑞々しく、美しい輝きを放っていました。イェレナさんの話を通して、私たちは「食べる」という行為が単なる消費ではなく、自然の循環に参加することなのだと改めて実感させられました。

    四季の恵みを味わう – 季節ごとの野菜カレンダー

    パルテシュの食卓は、季節の移り変わりに応じてさまざまな表情を見せます。旬の野菜を最もおいしいタイミングでいただくことは、自然のリズムに寄り添った、究極の贅沢な暮らし方と言えるでしょう。

    春(4月~6月):春の息吹を知らせるのはアスパラガスや新ジャガイモ、香り高いハーブたち。ワイルドガーリックやネトル(イラクサ)など、野に自生する恵みを摘んでスープやパイに活用するのもこの季節ならではの楽しみです。食卓は、生命の芽生えを感じさせるフレッシュな緑色で彩られます。

    夏(7月~9月):陽光が降り注ぐ夏は、畑が真っ赤なトマト、カラフルなパプリカ、艶やかなナス、みずみずしいキュウリで溢れます。夏に収穫された野菜は、冬の保存食「アイヴァル」などに加工され、一年中食卓を支えます。完熟トマトをかじったときのあの青々しい香りと溢れ出る果汁の味わいは、忘れがたい体験です。

    秋(10月~11月):実りの秋はカボチャや根菜が中心。どっしりとしたカボチャはスープやグリルに、ビーツやニンジンはサラダや煮込み料理に用いられ、滋味深い甘さを存分に味わえます。また、クルミやヘーゼルナッツなどのナッツ類も豊富に採れ、料理やお菓子に風味と食感のアクセントを添えます。

    冬(12月~3月):厳しい冬の間は、夏から秋に作られた保存食が活躍します。ピクルスや乾燥豆、アイヴァルなどを使い、ゆっくり煮込んだ温かなスープやシチューが冷えた体を内側から温めます。静かな冬の食卓は、自然の恵みを知恵と工夫で長く守り抜いてきた人々の力強さを感じさせます。

    オーガニック農園訪問記

    村の郊外にある家族経営の小さなオーガニック農園「Zelena Dolina(緑の谷)」を訪れた日は、旅の中でもとりわけ心に残る一日でした。農園の主、ドラガンさんはかつて都市でエンジニアをしていましたが、自然とともに暮らすことを願い、数年前に家族と共に故郷へ戻ってきたそうです。

    スポット情報内容
    農園名Zelena Dolina(ゼレナ・ドリーナ)
    場所パルテシュの郊外(村中心部から車で約15分)
    体験内容農園見学、旬の野菜の収穫体験、採れたて野菜を使ったランチ提供
    特徴無農薬・無化学肥料にこだわり、伝統的な農法に加えコンパニオンプランツなど自然の力を活かした栽培を実践
    注意事項来訪には事前予約が望ましく、動きやすく汚れてもよい服装と靴の着用が必要

    ドラガンさんの案内で農園を歩くと、そこはまるで植物たちの楽園でした。トマトの隣にはバジルが植えられ、害虫を遠ざけています。カボチャの蔓は地面を覆い、雑草の成長を抑えています。全てが綿密に計画され、植物同士が助け合って共生しているのです。「僕たちは野菜を『育てる』というより、彼らが元気に育つのを『支える』存在なんだ」とドラガンさんは笑みを浮かべました。私も教わりながら、まだ朝露に濡れたルッコラを摘み取り、土の中から真っ赤なビーツを掘り出しました。自分の手で収穫した野菜は、我が子のように愛しく感じられます。その日のランチは、その場で採れた野菜だけを使ったシンプルなサラダと全粒粉のパン、ハーブウォーター。ドレッシングは上質なオリーブオイル、塩、レモン汁だけでした。しかし、それは私がこれまで味わったどんな料理よりも力強く、かつ優しい味わいでした。野菜本来の甘みや苦味、香り、食感が五感を研ぎ澄まし、食べることがまるで瞑想のような体験であることを実感した瞬間でした。

    心と体を癒す、パルテシュのヴィーガン食卓

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    パルテシュの食文化の真髄は、まさに家庭のキッチンに宿っています。そこで出会ったヴィーガン料理は、流行りのヘルシーフードとは異なり、土地の歴史や家族の愛情が丁寧に凝縮された、魂を揺さぶる味わいの料理でした。

    伝統料理をヴィーガンの視点から再発見

    バルカン半島の伝統料理は、肉や乳製品を使うものが一般的です。しかし、特に正教会の断食期間など宗教的背景から、長い間植物性の素材だけで美味しく仕上げる知恵が培われてきました。パルテシュでは、この「断食料理(ポスナ・イェラ)」の文化が今なお生活の中に生き続けており、それがヴィーガンの旅人にとっては格別の喜びとなっています。動物性食材を使わないことで、野菜や豆、穀物の繊細な旨味が一層際立つのです。

    「フリア(Flija)」-重なり合う生地が織りなす素朴な味わい

    フリアはアルバニアやコソボの伝統料理で、本来はヨーグルトやカイマク(濃厚なクリーム)を用います。クレープ状の生地を何層にも重ねて焼き上げる、手間暇かかるお祝い料理です。パルテシュでいただいたのは、そのヴィーガン版。ヨーグルトの代わりに豆乳ヨーグルトや植物性クリームを使い、生地には風味豊かな全粒粉を混ぜ込んでいました。特別な鉄製蓋「サッチ」を用い、炭火で上下からじっくり焼き上げることで、外はカリッと、中はしっとりもちもちした独特の食感が生まれます。重なった層を一枚ずつ剥がしながら味わうひとときは、この地の歴史をたどるような不思議な感覚で、素朴ながら深みのある味わいは、何度でも食べたくなる心落ち着く美味しさです。

    「アイヴァル(Ajvar)」-パプリカの万能ペーストが持つ奥深さ

    バルカン半島の食卓に欠かせないのがアイヴァルです。焼いた赤パプリカとナスを丁寧にペースト状にし、ニンニクや唐辛子、オイルで味付けされたもので、「バルカンのキャビア」とも称されます。秋になると、村のあちこちで家族総出のアイヴァル作りが見られます。庭先でパプリカを焼く香ばしい香りは、パルテシュの秋の風物詩。市販品とは比べものにならないほど、手作りのアイヴァルは風味豊かで、パプリカの甘みと燻製の香りが口いっぱいに広がります。パンに塗るのはもちろん、パスタソースやグリル野菜の添え物としても重宝され、その用途は無限大。ヴィーガン料理に欠かせないコクと旨味を添える、まさに魔法の調味料です。

    「タフチェ・グラフチェ(Tavče Gravče)」-ハーブたっぷりの豆の煮込み

    この料理は、北マケドニア発祥の白いんげん豆を素焼きの器でゆっくりオーブン焼きにしたもので、コソボでも広く親しまれています。パルテシュで味わったヴィーガン版のタフチェ・グラフチェは、玉ねぎとパプリカを飴色になるまで炒め、豆の甘みを最大限に引き出していました。味の決め手は、ミントやパセリ、オレガノといった豊かなハーブ類。単調になりやすい豆料理に、爽やかで複雑な香りの層を巧みに重ねています。湯気とともに熱々の器からほくほくの豆を口に運べば、じんわりと体が温まり、幸福感に包まれます。これは厳しい冬を乗り切るために、人々が培ってきた知恵と愛情の結晶と言える一皿です。

    ヴィーガンクッキングクラス体験記

    パルテシュの味わいをさらに深く知るため、私は地元の女性が主催する家庭料理のクッキングクラスに参加しました。先生は、3人の子どもを育てるミリツァさん。彼女のキッチンはいつも、家族の笑い声と料理の香りに満ち溢れています。

    体験情報詳細
    名称Milica’s Kitchen(ミリツァのキッチン)
    場所パルテシュ村内の個人宅
    体験内容伝統的な家庭料理のヴィーガンクッキングクラス(2〜3品)、試食付き
    特徴地元の家庭に訪問して、キッチンで一緒に料理を作るアットホームな体験。食材はほぼ自家菜園または地元市場から調達。
    予約方法現地のゲストハウスなどを通じて予約が必要。

    地元の女性に教わる、家庭の味

    ミリツァさんのキッチンには最新の調理器具はありません。使い込まれた木製の調理台、長年愛用された鍋、庭で摘み取ったばかりのハーブの束。彼女はレシピ本を一切使わず、目分量と手の感覚だけで魔法のように次々と料理を作り上げていきます。「大切なのは、食材と対話すること。野菜がどう調理されたいか、耳を澄ませてごらん」と語りながら、ズッキーニを薄切りにし、手際よく詰め物を仕上げていきます。言葉は片言の英語とジェスチャーでしたが、料理という共通言語を介して私たちの心はすぐに通じ合いました。計量スプーンやタイマーに頼らず、五感をフル活用して調理する楽しさと豊かさを、彼女から学びました。

    レシピ紹介:家庭で作るパルテシュの味「ヴィーガン・サルマ」

    その日教わった料理の一つが、サルマ(Sarma)のヴィーガン版です。本来はひき肉を塩漬けキャベツの葉で包むロールキャベツ料理ですが、今回はお米とキノコ、野菜で代用しました。日本でも揃いやすい材料で作れるよう、少し工夫したレシピをご紹介します。

    材料(約4人分)

    • キャベツの葉:8枚
    • 玉ねぎ:1個(みじん切り)
    • ニンニク:2片(みじん切り)
    • マッシュルーム:150g(粗みじん切り)
    • ニンジン:1/2本(みじん切り)
    • 米:1/2カップ(洗わずに使用)
    • クルミ:30g(粗く刻む)
    • トマトペースト:大さじ2
    • パプリカパウダー:小さじ2
    • 植物油:大さじ3
    • 野菜ブイヨン:500ml
    • 塩、黒コショウ:適量
    • ディルまたはパセリ(みじん切り):好みで

    作り方

    1. キャベツの葉は芯の硬い部分を薄くそぎ落とし、柔らかくなるまで茹でて冷ましておきます。
    2. フライパンに植物油を熱し、玉ねぎとニンニクを炒めて香りを出し、続けてニンジンとマッシュルームを加えさらに炒めます。
    3. 野菜がしんなりしてきたら米とクルミを加え、さっと炒め合わせます。
    4. トマトペーストとパプリカパウダーを入れて全体に絡め、塩と黒コショウで味を調え火から下ろします。これが詰め物のフィリングです。
    5. 茹でたキャベツの葉を広げ、手前に適量のフィリングをのせ、手前から巻き始め、両端を内側に折り込みながら最後まで巻きます。
    6. 巻き終わりを下にして鍋に隙間なく並べ入れます。
    7. 上から野菜ブイヨンを静かに注ぎ、落し蓋(皿などで代用可)をしてから鍋の蓋をします。
    8. 弱火で40〜50分、米が柔らかくなり煮汁が減るまで煮込みます。
    9. 火を止め、お好みでディルやパセリを散らして完成です。

    じっくり煮込まれたキャベツはとろけるように柔らかく、キノコとクルミの旨みを吸い込んだお米が口の中でほろりとほどけます。滋味深くどこか懐かしいその味わいは、パルテシュの温かな食卓の記憶を呼び起こしてくれることでしょう。

    食だけではない、パルテシュの暮らしに触れる

    パルテシュの魅力は食の領域にとどまりません。村の隅々に漂う穏やかな空気、住民たちの温かいまなざし、そして雄大な自然の風景が一体となり、訪れる者の心をゆっくりとほぐしてくれます。

    村を歩けば響いてくる、人々の笑い声と自然の調べ

    パルテシュには決まった観光コースはありません。気ままに石畳の小道を歩くのが最高の楽しみです。軒先で談笑するお年寄り、ボールを追いかけて路地を元気に駆け回る子どもたち、庭仕事の手を休めて「ドバル・ダン!(こんにちは!)」と微笑みかけてくれる村人たち。そこには、私たちがどこかに置き忘れてしまったような、人と人との温もりあふれる繋がりが、ごく自然な形で息づいています。車の騒音はほとんどなく、耳に入るのは風が木の葉を揺らす音や鳥のさえずり、遠くで鳴く鶏の声。そんな自然の音に耳を澄ませば、日常の雑多な思考に占められていた頭の中に心地よい静寂が訪れるのを感じられます。

    地元の市場(プティアツァ)を訪問してみる

    村の暮らしを実感したければ、週に一度開催される市場(セルビア語でプティアツァ)に足を運ぶのが最適です。近隣農家が自慢の収穫物を持ち寄るこの市場は、村人たちの交流の場であり、活気にあふれています。

    色鮮やかな野菜や果物、手作りチーズやはちみつの数々

    市場のテントの下にはまるで絵の具パレットのように色とりどりの野菜や果物が並びます。土がついたままのジャガイモ、双子のようにくっついたニンジン、太陽の恵みをいっぱいに浴びた野生的な香りのハーブの束。ヴィーガンである私は自家製のチーズやはちみつは購入しませんでしたが、それらを誇りを持って売る人々の笑顔を眺めるだけで心が豊かになる気がしました。彼らにとってそうした産物は、単なる商品という枠を超え、自分たちの土地と労働の結晶なのです。全て量り売りで必要な分だけ買う方式は、食材の無駄を減らすためのシンプルで賢いアイデアだと感じました。

    市場で交わされる心温まるやり取り

    市場での買い物は、そのままコミュニケーションの場でもあります。言葉が通じなくても、指差しや笑顔で意思はしっかり伝わります。私が真っ赤なトマトを指さすと、売り手のおばあさんはその中で一番おいしそうなものを選び、「これはサラダにすると絶品だよ」とジェスチャーで教えてくれ、さらには小さなキュウリをそっと袋に入れてくれました。そのささやかな気遣いは旅人の心を大きく温めてくれます。ただ物を買う以上に、人と人との触れ合いを通じてその土地の文化や人情に触れる――これこそが市場を訪ねる醍醐味と言えるでしょう。

    パルテシュ周辺の自然散策を楽しむ

    村の周囲には美しい自然が広がっています。少し足を伸ばして、ゆったりと自然の中で過ごす時間も、この旅の大切なひとときです。

    小川のせせらぎと野花に癒される散歩道

    村の中心から伸びる小道を30分ほど歩くと、澄んだ水が流れる小川に辿り着きます。川沿いの道は絶好の散歩コース。せせらぎの音をBGMに、足元に咲く可憐な野花を愛でながら歩くと、心と体が清められていくのを実感します。途中には木陰に設けられたベンチがあり、水筒の茶を飲んでしばし休憩するのもまた至福の瞬間。特別な絶景はないものの、この日常的で穏やかな風景こそが、パルテシュの最大の魅力かもしれません。

    夕暮れ時に丘の上から眺める絶景

    一日の終わりには、村の西側にある小さな丘に登ることをおすすめします。そこから望む夕景は息をのむほど美しく、太陽がゆっくり地平線へ沈むにつれて、空はオレンジからピンク、さらに深い紫へと刻々と色合いを変えていきます。眼下には灯りがともりはじめた家々が広がり、夕食の支度で立ちのぼる煙も見えます。遠くには教会の鐘の響きが聞こえ、この壮大でありながら優しい光景のなかに身を置くと、日々の悩みがいかに小さなものだったかを改めて感じさせられます。私はこの丘の上でただ静かに変わっていく空の色を眺めながら、自分自身と深く向き合う時間を過ごしました。

    旅の準備と心構え

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    パルテシュへの旅は、パッケージツアーのように手軽に楽しめるわけではありません。しかし、少しの手間をかけるからこそ味わえる感動もまた格別です。ここでは、旅を成功に導くためのいくつかのポイントをご紹介します。

    パルテシュへのアクセス方法

    日本からコソボへの直行便はないため、イスタンブール(トルコ)やウィーン(オーストリア)などのヨーロッパの主要都市を経由して向かうのが一般的です。

    プリシュティナ国際空港からの移動

    コソボの主要な空の玄関口は首都にあるプリシュティナ国際空港(PRN)です。空港からパルテシュまではおよそ70km、車で約1時間半の距離にあります。空港にはタクシー乗り場が設置されていますが、料金交渉が必要なこともあるため、事前に宿泊先へ送迎の予約をしておくのが一番安心で確実です。

    おすすめの交通手段

    より冒険的な旅を楽しみたい方には、プリシュティナのバスターミナルからパルテシュの近隣都市グニラネ(Gjilan)行きのバスを利用する方法もあります。グニラネからはタクシーやローカルバスでパルテシュへ向かいます。時間はかかりますが、車窓の景色や地元の人々との交流も貴重な思い出になるでしょう。ただし、バスの時刻は変更されることがあるため、現地での確認が必要です。

    宿泊施設の選び方

    パルテシュには大型のホテルはありませんが、それがこの村ならではの魅力。小規模で親しみやすい宿泊施設が、訪れる人を温かくもてなしてくれます。

    ファームステイや民泊で味わう深い文化体験

    最もおすすめなのが、農家に滞在するファームステイや、現地の家庭の部屋を借りる民泊(現地では「Apartman」と呼ばれることが多い)です。ホストファミリーとのふれあいを通じて、ガイドブックに載っていない生きた文化に触れることができます。畑仕事を手伝ったり、地元の家庭料理を教わったり、共に食卓を囲んで語らったりと、宿泊以上の貴重な体験が待っています。予約は海外の民泊予約サイトや現地の観光案内所を活用するとよいでしょう。

    静かな安らぎをもたらすゲストハウス

    プライベートな時間を重視する方には、小規模なゲストハウスがおすすめです。数は多くありませんが、清潔で快適な施設がいくつかあります。多くのオーナーは村の事情に詳しく、クッキングクラスや農園見学の手配など、旅の相談に親身に応じてくれる頼もしい存在です。静かな環境の中、読書を楽しんだり庭でのんびり過ごしたりと、自分のペースで穏やかな時間を過ごせます。

    旅を快適にする基本情報と言葉

    ちょっとした事前知識と準備が、旅をよりスムーズにし楽しいものにしてくれます。

    現地言語(セルビア語)の簡単な挨拶

    パルテシュでは主にセルビア語が使われています。基本的な挨拶を覚えていくことで、現地の人々との距離がぐんと縮まります。

    • こんにちは: Добар дан (Dobar dan / ドバル・ダン)
    • ありがとう: Хвала (Hvala / フヴァラ)
    • はい / いいえ: Да / Не (Da / Ne / ダ / ネ)
    • おいしい: Укусно (Ukusno / ウクースノ)
    • さようなら: Довиђења (Doviđenja / ドヴィジェーニャ)

    完璧な発音でなくても、伝えようとする気持ちが大切です。笑顔を添えてこれらの言葉を使えば、必ず喜んでもらえるでしょう。

    通貨・気候・服装について

    • 通貨: コソボの公式通貨はユーロ(EUR)です。パルテシュのような小さな村ではクレジットカードが使えないことも多いため、ある程度の現金を用意しておくと安心です。
    • 気候: 夏は日差しが強く30度を超える日も多いですが、朝晩は涼しく感じられることがあります。冬は寒さが厳しく、雪が降ることもあるため、季節に応じた服装が必要です。
    • 服装: 村の散策や農作業の手伝いを考慮すると、歩きやすい靴(スニーカーやウォーキングシューズ)と、動きやすく汚れても差し支えない服装が適しています。教会などを訪れる際は、肩や膝があまり露出しない服装を心がけるのがマナーです。

    旅の終わりに、心に刻まれたもの

    パルテシュでの日々を終え、帰りの飛行機に乗る頃には、私の心は出発前とは比べものにならないほど穏やかで満ち足りたものでした。それは、高級レストランの料理や豪華なホテルの滞在では決して味わえない、まったく異なる種類の充実感でした。

    シンプルな暮らしこそがもたらす、本当の豊かさ

    この旅で私が見つけたのは、シンプルな暮らしの中にこそ真の豊かさが宿っているという、当たり前でありながらも忘れられがちな真実でした。自然のリズムに身を任せて生きること。自分の手で食べ物を育てること。隣人と共に食卓を囲み、語らうこと。そうした一つひとつの営みが、私たちの魂をどれほど深く養ってくれるかを実感しました。パルテシュの人々は、物質的には豊かとは言えないかもしれません。しかし、彼らの瞳には、日々の暮らしを慈しみ、足るを知る者ならではの、穏やかで力強い輝きが宿っていました。

    パルテシュの食卓から得た学び

    ヴィーガンという食の選択は、この地の恵みを最大限に味わい、大地とのつながりを再確認する素晴らしい手段となりました。動物性の食材を使わないことで、野菜や穀物本来のエネルギーを直に体に取り込むことができました。それは、体が浄化されるだけでなく、思考もクリアになるような感覚をもたらしました。パルテシュの食卓は、食べることがいかに創造的で、スピリチュアルな行為であるかを教えてくれました。それは命をいただき、自分の命へとつなぐ、神聖なリレーのようなものなのです。

    次の旅へとつながる、新たな自分との出会い

    もしあなたが、日々の生活に少し疲れてしまったのなら。もしあなたが、自分にとっての「本当の幸せ」を見失いかけているのなら、ぜひコソボのパルテシュを訪れてみてください。そこには劇的な非日常があるわけではありませんが、穏やかで温かく、そしてどこまでも優しい日常があなたを待っています。大地に根を下ろし、丁寧に暮らす人々との交流の中で、あなたはきっと自分の内に眠っていた新たな可能性や、忘れかけていた大切な何かを見つけられるはずです。パルテシュの旅は終わりではなく、新しい自分を生きるための、始まりの旅となるでしょう。

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    この記事を書いた人

    韓国留学経験のある莉佳です!K-POPや最新コスメ、ソウルのトレンド情報を発信しています。ファッションと音楽をテーマにした、Z世代ならではのリアルな韓国の旅をお届けします。一緒に韓国カルチャーを楽しみましょう!

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