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    太古の息吹に抱かれて。タスマニア島クレイドルマウンテン、魂を洗う原生林の旅

    スマートフォンが鳴り止まない日常。次から次へと流れ込む情報、アスファルトを叩く無機質な音、そしてネオンが夜空の色を奪う都会の風景。私たちはいつの間にか、そんな喧騒の中に身を置くことが当たり前になってしまいました。しかし、心のどこかで、本当の静寂と、魂が震えるような深い安らぎを求めているのではないでしょうか。もしあなたが今、深く息を吸い込み、心身をリセットする必要性を感じているのなら、オーストラリアの南に浮かぶ、珠玉の島へと旅立つ時かもしれません。

    その名は、タスマニア島。そして、その心臓部に抱かれた聖地こそが、世界遺産クレイドルマウンテンです。ここは、時間が止まったかのような太古の原生林が広がり、オーストラリア本土とは全く異なる、濃密で神秘的な生命のエネルギーに満ちています。私、万里が今回ご案内するのは、ただの観光地ではありません。都会の喧騒から遠く離れ、地球の深呼吸に耳を澄ませ、自分自身の内なる声と対話するための、特別な場所への旅路です。

    さあ、一緒に歩き始めましょう。苔むした倒木を踏みしめ、氷河が削った湖の畔に立ち、何万年も変わらぬ姿でそこにあり続ける森の叡智に触れる旅へ。デジタルデトックスの先にある、五感が研ぎ澄まされる感覚を、あなたにも体験してほしいのです。

    この神秘的な森の旅を終えた後は、タスマニア島の東海岸で、炎色に燃える奇岩群を巡るカヤッキングを体験してみてはいかがでしょうか。

    目次

    なぜタスマニアなのか?本土とは異なる「癒し」の源泉

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    オーストラリアというと、多くの人が赤く焼けた大地と照りつける強い太陽や、コバルトブルーに輝くグレートバリアリーフの海を思い描くことが多いでしょう。けれども、タスマニア島はそうしたイメージとは全く異なる、独自の個性と魅力を持つ場所です。バス海峡を挟んで本土の南東に位置するこの島は、まるで世界の果てに隠された秘密の庭園のような存在なのです。

    ゴンドワナ大陸の歴史を刻む島

    タスマニアの自然がもたらす驚くべき癒しの力の背景には、その成り立ちがあります。かつて南半球の大陸すべてが一体となっていた超大陸「ゴンドワナ」。タスマニアはそのゴンドワナの一部であり、かつては南極や南米と陸続きでした。大陸が分かれてオーストラリア本土から切り離されてからも、氷河期の影響を受けつつ、独特の生態系を育んできました。ここに広がる温帯雨林は、恐竜が歩いていた時代から息づいている、まさに「生きた化石」の森といえます。

    本土の乾燥した気候とは打って変わり、タスマニアは湿り気があり涼しい気候。そのため、苔やシダが生い茂る瑞々しい緑の世界が広がっており、本土では見られない風景が広がっています。森の中に一歩足を踏み入れると、まるでファンタジー映画のワンシーンのよう。背の高いユーカリの森とは異なり、密度の濃い生命の息吹に満ちた空気が全身を包み込みます。この長い時を超えて続いてきた生命の連続性が、私たちのDNAにそっと語りかけ、深い安心感と癒しを与えてくれるのです。

    世界でも屈指の清らかな空気を味わう

    タスマニアが「インスピレーションの島」と称される大きな理由の一つが、その驚異的ともいえるきれいな空気にあります。島の北西部に位置するケープ・グリムの大気汚染観測所では、世界で最も清浄な空気が観測されています。この秘密は、南米大陸から南極海上を横断し、数千キロにも渡って陸地に触れることなく吹き抜ける強風「吠える40度」によるものです。

    私たちが都会で日常的に吸い込んでいる空気には、排気ガスや化学物質など多くの目に見えない不純物が含まれています。一方で、タスマニアの森の中で深く息を吸うと、肺だけでなく全身の細胞が歓喜するのを感じられるでしょう。ただ酸素を取り込むのではなく、大地と植物が浄化した純粋な生命エネルギーが身体中にめぐる、神聖な儀式に似た体験なのです。この清らかな空気を味わうだけでも、タスマニアを訪れる価値は十二分にあると言えます。

    聖地へ誘う道:クレイドルマウンテン国立公園

    タスマニアの豊かな自然の象徴としてそびえ立つのが、クレイドルマウンテンです。標高1,545メートルのこの山は、鋭く刻まれた独特の山容が見る者に畏怖の念を抱かせます。クレイドルマウンテンを中心に広がるのが、世界遺産に登録された「タスマニア原生地域」の核となる「クレイドルマウンテン=セント・クレア湖国立公園」です。

    公園の象徴、クレイドルマウンテン

    「クレイドル」とは「揺りかご」を意味します。角度によっては、まるで赤ん坊をやさしく包む揺りかごのように見えることが、この名の由来とされています。しかしその姿は一様ではなく、荒々しい表情を見せることもあり、天候によってさまざまに変化します。朝もやに包まれて荘厳に浮かび上がる姿、夕日に染まる赤茶けた岩肌、さらには冬には真っ白な雪をまとった神聖な姿など、一日として同じ風景を見せることはなく、訪れるたびに新たな感動を届けてくれます。

    この山は単なる美しい景観というだけではありません。古くからこの土地に暮らしてきたアボリジニの人々にとっては聖地であり、また1910年代にはこの地域の自然の価値を発見し、自然保護に生涯を捧げたグスタフ・ウインドファー夫妻の情熱が宿る場所でもあります。私たちはこの壮麗な自然を楽しむとともに、その歴史や人々の思いにも敬意を払う必要があります。

    共生のためのルール

    この貴重な自然環境を守るため、公園内では厳しいルールが設けられています。とくにクレイドルマウンテンの麓にあるダブ湖周辺への自家用車の乗り入れは厳格に制限されています。

    訪問者はまず、公園入り口にあるビジターセンターで国立公園パスを購入します。そこからは定期運行されている無料シャトルバスに乗り換え、各ハイキングコースの入口へ向かいます。一見すると不便に思えるかもしれませんが、これは排気ガスを減らし、微妙な生態系への影響を最小限に抑えるために非常に重要な措置です。シャトルバスの車窓から変わりゆく景色をゆったりと眺めるうちに、これから足を踏み入れる神聖な自然の世界へと自然と心が整えられていくのを感じるでしょう。

    スポット情報詳細
    名称クレイドルマウンテン=セント・クレア湖国立公園 ビジターセンター
    所在地4057 Cradle Mountain Rd, Cradle Mountain TAS 7306 オーストラリア
    アクセスロンセストンから車で約2時間、ホバートからは車で約4時間。公共交通機関は限られているためレンタカーの利用が推奨されます。
    営業時間8:00〜17:00(季節によって変動あり)
    料金国立公園パスが必要。1台(最大8人)あたり89.50ドル(2か月間有効)など、滞在期間に応じた各種パスがあります。(2024年時点)
    注意事項パス購入後は公園内のシャトルバスを利用し、各散策路へ移動してください。天候の変化が激しいため、雨具や防寒具の携帯を必ずお忘れなく。

    森の呼吸に身を委ねる:五感を研ぎ澄ます原生林ウォーク

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    クレイドルマウンテンの魅力は、その森を自らの足で踏みしめてこそ真に感じられます。難易度や所要時間に応じて、初心者から健脚の上級者まで楽しめる多彩なウォーキングトラックが整っています。ここでは、特におすすめしたい3つのコースをご紹介します。どのルートでも、都会の喧騒に埋もれていたあなたの五感が本来の鋭さを取り戻していくでしょう。

    妖精の森を歩む「エンチャンテッド・ウォーク」

    ビジターセンターのすぐそばにあり、誰でも気軽に古代の森の雰囲気を味わえるのが、この「エンチャンテッド・ウォーク」です。所要時間は約20分ほどの短い遊歩道ながら、その凝縮された美しさに思わず息をのむことでしょう。

    森の生命力を肌で感じる

    一歩中に入ると、ひんやりと湿った空気が肌を包みます。目の前に広がるのは、ビロードのように光る苔に覆われた世界。倒木も岩も木の幹もすべて深い緑の絨毯に覆われていて、まるで森全体が一つの生命体のように呼吸しているかのようです。足元の木道をゆっくり進むと、サラサラと流れる小川のせせらぎが耳に届きます。流れる水は驚くほど透明で、川底の石ひとつひとつまでくっきりと見渡せます。時折、木々の間から差し込む光が苔の上の水滴を照らし、宝石のようにきらめきます。ここには情報や雑音は一切なく、ただ森の音や光、香りだけが満ちています。スマートフォンの電源を切って、ゆったり深呼吸してみてください。身体中の細胞が森の清らかなエネルギーで満たされていくのを実感できるでしょう。

    絶景が広がる「ダブ湖周回サーキット」

    クレイドルマウンテンの魅力を象徴するコースが、ダブ湖を一周するこのサーキットです。距離は約6km、所要時間は2〜3時間程度。平坦な木道から岩場の上り下りまで、多様な地形が変化をもたらし、飽きずに歩き続けられます。

    常に移り変わるクレイドルマウンテンの姿

    スタート地点から湖の西岸を辿ると、すぐに雄大なクレイドルマウンテンが視界に飛び込んできます。氷河に削られた深いU字谷と、その底に静かに水を湛えるダブ湖、さらに空にそびえる岩山。完璧な風景の構図は、一枚の絵画のようです。歩みを進めると、山の見え方が次々に変わっていきます。流れる雲やさしこむ太陽光によって、山の表情は時に優しく、時に険しく様変わりし、その一瞬一瞬に目が離せません。

    古の植物との出会い

    このコースの魅力は山の景観だけに留まりません。湖畔には「ボールルーム・フォレスト」と呼ばれる、古代の温帯雨林が広がっています。そこには、ゴンドワナ大陸時代から生き続けるギンバイカ(マートルビーチ)やキングビリーパインといった固有種が折り重なり、天に向かって成長しています。ねじれた幹や苔むした枝、シダに覆われた林床の様子は、時間と空間を超えた旅に誘ってくれるでしょう。木々の間を吹き抜ける風の音に耳を澄ませば、太古の地球の囁きが聞こえてくるかもしれません。

    魂を解き放つ頂上へ「マリオンズ・ルックアウト」

    体力と時間に余裕があれば、ぜひ挑戦したいのが「マリオンズ・ルックアウト」への登山です。ダブ湖サーキットから分かれた急坂や鎖のある岩場を越えた先に、言葉を失うほどの絶景が広がっています。

    努力の果てに待つ360度の大パノラマ

    決して楽な登りではありません。息を整えながら汗をかき、岩場を乗り越える時間は、自分と向き合う貴重なひとときです。しかし、最後の難関を越えて視界が一気に開ける瞬間の感動は、何ものにも代えがたいものとなります。眼下には、さっきまで歩いていたダブ湖がまるで青い宝石のように輝き、その背後には堂々たるクレイドルマウンテンがそびえ立ちます。振り返れば限りなく広がるタスマニアの原生の大地。360度見渡す限り人工物はほぼ見当たらず、耳に届くのは高地を吹く風の音だけ。この場所に立つと、日常の悩みやストレスがいかに小さなことであったかを痛感させられます。全身を通り抜ける風が心に溜まった澱をすべて洗い流してくれるかのような、強烈な浄化を感じることでしょう。これこそが大自然がもたらす究極のスピリチュアルな体験なのです。

    原生林に息づく、愛らしい生命たち

    タスマニアの森を歩く楽しみは、風景だけにとどまりません。ここには、他ではなかなか見ることのできない、個性的で愛くるしい動物たちが生息しています。彼らとの思いがけない出会いが、旅の思い出をいっそう豊かに彩ってくれることでしょう。

    足元で出会えるアイドル、ウォンバット

    クレイドルマウンテンで最も遭遇率が高い動物の一つが、ウォンバットです。ずんぐりむっくりとした姿に短い手足、のっそりと歩く様子は、まるで動くぬいぐるみのようです。彼らは草食性で、活動が活発になるのは主に夕方や早朝の時間帯。公園内の草地や遊歩道の脇で、一心に草を食べている姿を見つけられるかもしれません。

    警戒心は比較的低めですが、あくまでも野生の動物です。触れたり餌を与えたりすることは避け、静かに距離を保って見守りましょう。彼らが安心して食事をしている様子を眺めるだけで、自然と心が温かくなるのを感じられます。彼らのゆったりとした生き方は、忙しい現代生活の中で忘れがちな大切なことを教えてくれているようです。

    森の小さな住人たち

    森の中では、ワラビーの一種であるパディメロンやベネットワラビーが、軽快に跳ね回る姿を目にすることがあります。彼らはとても用心深いので、音を立てずに静かにしていると、驚くほど近くまで近づいてくれることもあります。

    また、地面に注意を向けていると、トゲトゲの背中を持つハリモグラがアリを探して土を掘る様子に出会えることがあります。彼らはカモノハシと同じ「単孔類」と呼ばれる、卵を産む哺乳類のグループに属する、非常に原始的で貴重な動物です。古代からほとんど姿を変えずに生き続けている彼らの存在は、この森が持つ長い歴史を物語っています。

    夜が訪れると、タスマニアン・デビルやポッサム、フクロネコ(クオール)といった夜行性の動物たちが活動を始めます。ロッジの周辺で、彼らの気配を感じられるかもしれません。彼らの息づかいを感じながら眠りにつく夜は、都会のホテルでは決して味わえない、特別な体験となるでしょう。

    出会える動物特徴
    ウォンバットずんぐりした短足の有袋類。草食性で夕方から早朝にかけて活発。公園内のさまざまな場所で出会うチャンスが多い。
    パディメロン小型のワラビーで森に生息。臆病だが、人の近くによく現れることがある。
    ハリモグラトゲトゲの背中を持つ単孔類。地面を掘りアリやシロアリを捕食する。
    タスマニアン・デビル夜行性の黒い有袋類で強力な顎を持つ。近年、伝染性のがんにより個体数が激減しており、遭遇は非常に珍しい。

    自然と一体になる滞在:心と体を満たす時間

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    クレイドルマウンテンの魅力を存分に味わうには、日帰りではなく、ぜひ一泊以上の滞在をおすすめします。観光客が去り、静まり返った森の夜。そして、朝靄が立ち込める幻想的な夜明けの時間。こうした特別なひとときを体験することで、旅はより深みを増し、忘れられない思い出となるでしょう。

    森に包まれたロッジで過ごすひととき

    公園の周辺には、自然環境を大切にした素敵な宿泊施設が点在しています。中でも「ペッパーズ・クレイドル・マウンテン・ロッジ」はその代表格。木の温もりが感じられるキャビンは原生林に溶け込むように建てられ、外に一歩出ればまさに太古の森が広がっています。部屋のバルコニーで深呼吸をすれば、澄んだ空気が全身を駆け巡るのを感じられるでしょう。

    夜になると、メインロッジの大きな暖炉に火が灯され、宿泊客たちが静かに会話を楽しみながらくつろいでいます。薪がはぜるパチパチという音を聞きながら、温かい飲み物を手に窓の外の闇を見つめる。そんな穏やかな時間は、情報に溢れた日常で疲れた心身を優しく癒してくれます。

    食事もまた滞在の大きな魅力です。ロッジのレストランでは、タスマニア産の新鮮なシーフードやラム肉、チーズ、ワインなど、地元の恵みを豊富に生かした料理が味わえます。大自然の中で育まれた滋味豊かな食材をいただくことで、体の内側からリフレッシュし、エネルギーが満ちてくるでしょう。

    頭上に広がる宇宙、満天の星空

    クレイドルマウンテンの夜の見どころは、何と言っても満天の星空です。周囲に人工の光が全くないため、ここでは本物の「夜の闇」を肌で感じられます。晴れた夜に空を見上げると、無数の星々がまるで宝石を散りばめたかのように輝いています。

    天の川は白く淡い帯となって肉眼でくっきりと見え、南十字星や大小のマゼラン雲など、南半球ならではの星座が壮大な宇宙の物語を紡ぎ出します。その圧倒的な光景の前に立つと、自分の存在がどれほど小さいか、そしてこの広大な宇宙の一部であるという不思議な感覚に包まれます。

    スマートフォンの星座アプリで星を探すのも楽しいですが、たまには何も考えずにただ星の光を浴びる時間を持ってみてください。何万光年も彼方から届く古の光は、私たちの心の奥底に眠る宇宙との繋がりを呼び覚ましてくれるかもしれません。

    旅の準備と心構え:原生林への敬意を込めて

    この素晴らしい自然を未来に残していくため、そして私たち自身が安心で快適な旅を楽しむために、いくつかの準備と心得が求められます。

    「一日に四季がある」と言われる天候への対応策

    タスマニアの天候は非常に変わりやすいことで知られており、特にクレイドルマウンテンの山岳地帯では、まさに「一日に四季がある」と言われるほど急激に変わります。朝は晴れていても、昼には雨が降り、夕方には雪が舞うことも珍しくありません。

    そのため、服装は必ずレイヤリング(重ね着)を基本にしましょう。基本となる吸湿速乾性のインナー、保温性の高いフリースやダウンの中間着、そして防水性と透湿性に優れたアウター(レインウェア)が必須です。夏でも標高が高くなると気温が大きく下がるので注意が必要です。また、足元には防水性のある頑丈なハイキングシューズを選びましょう。木道は濡れると滑りやすく、岩場も多いため、足首をしっかり守れるタイプがおすすめです。

    持参するものと持ち込まないものについて

    ハイキングの際は、下記のアイテムをバックパックに入れておくことをおすすめします。

    • 十分な水分: 乾燥した環境では予想以上に体内の水分が奪われます。
    • 行動食: チョコレートやナッツ、エナジーバーなど、手軽にエネルギー補給ができるもの。
    • 地図: ビジターセンターで手に入る簡易版でも問題ありません。
    • 日焼け止め、帽子、サングラス: 標高が高いため紫外線が強烈です。
    • 雨具と防寒具: 急な天候の変化に備え、必ず携帯しましょう。

    一方で、森に「置いてはいけないもの」はゴミです。食べたものの包装紙などは必ず持ち帰り、「Leave No Trace(足跡以外、何も残さない)」の精神を守ることが、大自然を訪れる者としての最低限のマナーです。美しい自然に感謝と敬意を払い、来た時よりも美しい状態で立ち去る気持ちを持ちたいものです。

    原生林が教えてくれた、本当の静寂

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    都会の暮らしは、私たちに数多くの利便性や刺激をもたらします。しかしその反面、私たちは絶えず外界の情報や音に囲まれて、自分の内なる声に耳を傾ける時間を失ってしまいがちです。クレイドルマウンテンへの旅は、そうした失われた時間を取り戻すためのものでもありました。

    森の中で耳にするのは、鳥のさえずり、風のそよぎ、自分の足音や呼吸だけ。そこには誰かを評価する声も、未来への不安を掻き立てるニュースも存在しません。ただ、今この瞬間に自分がここにいるという、揺るぎない現実だけがあるのです。

    苔むした悠久の樹木に触れ、氷河が残した冷たい水で顔を洗い、近くで暮らす動物たちの気配を感じる。こうした体験を通じて、私たちの五感は本来の機能を取り戻し、頭で考えるのではなく、全身で「感じる」ことの心地よさを改めて思い起こさせてくれます。

    タスマニアの原生林から持ち帰る最高のお土産は、美しい写真や記念品ではありません。それは、深い満足感に包まれた静寂の記憶と、自分自身と再びつながったという確かな実感です。そしてその感覚は、賑やかな日常に戻った後も、心の奥底でそっと灯り続け、日々の支えとなってくれることでしょう。

    もしあなたの心が、本当の休息を求めているのなら、どうかこの太古の息吹に満ちた島を訪れてみてください。クレイドルマウンテンの森は、いつでも両手を広げて、静かにあなたを迎え入れてくれるはずです。

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    この記事を書いた人

    子供の頃から鉄道が大好きで、時刻表を眺めるのが趣味です。誰も知らないような秘境駅やローカル線を発掘し、その魅力をマニアックな視点でお伝えします。一緒に鉄道の旅に出かけましょう!

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