イタリア中部に広がるウンブリア州は、「イタリアの緑の心臓」と称されるほど、豊かな自然に抱かれた美しい地方です。なだらかな丘陵にはオリーブの古木が銀色に輝き、中世の面影を色濃く残す小さな町々が点在しています。その中でも、ひときわ特別な光を放つのが、スバシオ山の麓に広がる丘の上の町、アッシジです。
アッシジは、カトリック教会の聖人であり、動物や自然を愛したことで知られる「アッシジの聖フランチェスコ」が生まれ、その生涯を終えた地。町全体が、彼の清貧と友愛の精神に包まれ、世界中から多くの巡礼者が訪れる聖地として知られています。しかし、この町が持つ魅力は、特定の信仰を持つ人々だけのものではありません。情報が絶え間なく流れ込み、心が休まる暇もない現代に生きる私たちにとって、アッシジでの時間は、日常の喧騒から離れ、自分自身の内なる声に耳を澄ますための、かけがえのない贈り物となるはずです。
石畳の坂道を一歩一歩踏みしめ、荘厳な聖堂の扉を開けるとき、800年以上もの間、変わることなく人々の祈りを受け止めてきた空間の静けさに、きっと心打たれることでしょう。今回の旅では、聖フランチェスコと、彼の精神を受け継いだ聖キアラの足跡を辿りながら、この聖なる丘の町が持つ文化的な深みと、魂を癒す静寂の時間を体験してみたいと思います。ただの観光ではない、心で感じる旅へ、ご一緒に出かけましょう。
アッシジで心を洗われた後は、同じくイタリア中部でルネサンスの息吹を感じられるシエナとフィレンツェの魅力を比較してみるのも一興です。
アッシジへの旅路と心の準備

聖地への旅は、その入口に立つ前からすでに始まっています。アッシジという特別な場所へと向かう過程もまた、旅の大切な一部です。ここでは、アッシジへの行き方や快適に過ごすための準備についてご紹介します。
緑豊かな聖地へのアクセス
アッシジへの代表的なアクセス手段は、イタリアの主要都市からの鉄道利用です。ローマのテルミニ駅からは、乗り換え不要の直通列車で約2時間ほどです。フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅からは、途中で一度乗り換えがあり、所要時間は約2時間半から3時間程度となります。車窓から眺めるウンブリアの田園風景は、都会の喧騒を徐々に遠ざけ、旅への期待感を一層高めてくれるでしょう。緑の丘と点在する糸杉の景色は、まるでルネサンス期の絵画の中に迷い込んだかのような感覚を覚えます。
アッシジの鉄道駅は丘のふもとに位置しています。駅から旧市街までは急な坂道を上り下りするため、駅前から出ている路線バスを利用するのがおすすめです。バスは頻繁に運行しており、旧市街への入口となるマッテオッティ広場や、聖フランチェスコ聖堂付近のバス停まで案内してくれます。重い荷物を持っている場合は、迷わずバスやタクシーを利用しましょう。
聖なる丘を歩く際の心得
アッシジの街はまさに丘の上に広がっています。石畳で舗装された狭い道が迷路のように入り組み、どこを歩いても美しい坂道が続いています。そのため、旅で必須なのは何より「歩きやすい靴」です。スタイリッシュなヒールや滑りやすい革靴では、この街の魅力を存分に楽しむことは難しいでしょう。スニーカーやウォーキングシューズなど、しっかりと足を支えてくれる靴がおすすめです。
また、アッシジは多くの教会や聖堂を巡る場所でもあります。聖なる空間に敬意を示すために、服装には少し注意が必要です。特に夏場は、ノースリーブやショートパンツのように肌の露出が多い服装では入場が制限される場合があります。肩や膝を覆う服装を心掛けるか、さっと羽織れるカーディガンやストールを用意しておくと安心です。
旅に最適なシーズンは、穏やかな気候で花が咲き誇る春(4月~6月)と、ブドウやオリーブの収穫期で過ごしやすい秋(9月~10月)です。夏は観光客が最も多く賑わいますが、強い日差しと坂道の上り下りが体力を消耗させることもあります。冬は落ち着いた静かな雰囲気を味わえますが、寒さが厳しい日もあるため注意が必要です。旅のスタイルに合わせて訪れる時期を選ぶと良いでしょう。
清貧の聖者、フランチェスコの物語
アッシジの町を深く理解するためには、この土地から生まれた偉大な聖人フランチェスコの生涯を知ることが欠かせません。彼の物語は、800年以上が経過した現在でもなお、多くの人々の心を強く惹きつけ続けています。
1182年、フランチェスコ(本名:ジョヴァンニ・ディ・ピエトロ・ディ・ベルナルドーネ)は、アッシジの裕福な織物商の息子として誕生しました。若い頃は騎士を志す輝かしい若者で、仲間と共に夜通し歌い騒ぐ放蕩な日々を送っていました。しかし、ペルージャとの戦いに参加し捕虜となって1年間を過ごした経験が、彼の人生に大きな転換点をもたらしました。
病気を患いアッシジに戻った彼は、かつての享楽的な生活に虚しさを感じるようになります。ある日、郊外のひっそりとしたサン・ダミアーノ教会で祈っていると、十字架上のキリストから「フランチェスコよ、行って私の教会を建て直しなさい」という声を聞いたと伝えられています。この神秘的な体験を機に、彼は文字どおり教会の石壁を修復し始めましたが、やがてそれは単なる物理的な修復にとどまらず、堕落しかけていた当時の教会そのものを、本来の純粋な姿へと里帰りさせるという大いなる使命へと発展していったのです。
彼は父の財産をすべて放棄し、ぼろぼろの衣服をまとって神に完全な献身を誓いました。「清貧」「従順」「貞潔」を掲げ、托鉢で生活する生き方に多くの若者たちが共感し、やがて仲間が集まってきました。これが「フランチェスコ会」の始まりです。彼は人間だけでなく、鳥や魚、狼、さらには太陽や月、水や火といった自然界のすべてを「兄弟」「姉妹」と呼び、神が創造したあらゆる存在へ愛と感謝の念を説きました。彼の著名な「太陽の賛歌」は、その思想を美しく表現しています。
アッシジの町全体が彼の生きた証であり、教えを身近に感じられる場所です。これから訪れる聖堂や修道院は、彼の物語の舞台そのもの。それぞれを巡ることで、彼の息遣いを感じ取り、彼の教えが現代に何を問いかけているのかを静かに思い巡らせたいと思います。
天と地を結ぶ祈りの殿堂:聖フランチェスコ聖堂

アッシジの西の端に位置し、まるで町の守護神のように丘の斜面にそびえ立つのが聖フランチェスコ聖堂です。この聖堂は、フランチェスコの死からわずか2年後の1228年に建設が始まり、1253年に献堂されました。彼の遺骸を納め、その偉大な功績を讃えるために建てられたこの場所は、現在では世界中から多くの巡礼者が訪れるアッシジの中心地となっており、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
聖堂の大きな特徴の一つは、丘の傾斜を利用して二層構造で建設されている点です。下部聖堂と上部聖堂、そして聖人の墓が安置されている地下聖堂(クリプタ)から構成されており、それぞれが異なる雰囲気と芸術性を持っています。この建築構造自体が、「死から復活へ」「闇から光へ」というキリスト教的なテーマを象徴しているとも解釈されています。
| スポット名 | 聖フランチェスコ聖堂 (Basilica di San Francesco d’Assisi) |
|---|---|
| 所在地 | Piazza San Francesco, 2, 06081 Assisi PG, Italy |
| 開館時間 | 上部聖堂 8:30-18:45、下部聖堂 6:00-18:45(季節により変動、ミサの時間帯は見学不可) |
| 注意事項 | 写真撮影は厳禁です。静粛を保ち、露出の多い服装は避けてください。 |
光輝くゴシック建築の粋:上部聖堂
最初に訪れるべきは、光に満ちあふれた上部聖堂です。高い天井と優美なリブ・ヴォールト(交差穹窿)が特徴で、イタリア初期ゴシック建築の傑作と称されています。側廊がなく一本の身廊が祭壇へまっすぐ伸びており、その開放感あふれる空間に足を踏み入れると、まるで天上の世界へ引き込まれるような感覚に包まれます。
この上部聖堂の壁面を飾るのは、イタリア美術史でも最も重要視されるフレスコ画の連作です。中でも特に圧倒的なのは、ルネサンス絵画の祖と呼ばれるジョット(Giotto)とその工房による「聖フランチェスコの生涯」28場面です。従来の硬直したビザンチン様式とは異なり、登場人物の表情や感情、さらには背景の建物や自然までもが生き生きとした立体感を伴って描かれています。これらのフレスコ画は、当時文字を読めなかった人々にとって、聖フランチェスコの生涯を語る「絵で読む聖書」として機能していました。
一枚一枚の絵をじっくり鑑賞してみましょう。たとえば、第13場面の「小鳥への説教」では、フランチェスコが道端の木々に集まった多くの鳥たちに神の言葉を伝え、鳥たちが静かに耳を傾けている光景が描かれています。彼の自然への深い愛情が伝わってくる、温かな一枚です。また、第19場面の「聖痕を受ける聖フランチェスコ」では、ラ・ヴェルナの山で祈る彼の前に十字架にかけられた熾天使(セラフィム)と姿をしたキリストが現れ、その手足と脇腹に聖痕(スティグマ)を授けるという、彼の生涯における最大の奇跡が劇的に描かれています。これらの絵画は、フランチェスコの物語を追体験させるだけでなく、西洋美術が新時代へと進化した瞬間の息吹も感じさせてくれます。
瞑想と祈りのための重厚な空間:下部聖堂
上部聖堂の明るい空間とは対照的に、下部聖堂は天井が低く、太い柱が立ち並ぶ重厚で神秘的な空気に包まれています。ロマネスク様式を基本とし、まるで母胎の中にいるかのような安心感と静謐な祈りへと誘う厳粛な雰囲気がただよっています。壁や天井は、上部聖堂に負けないほどの素晴らしいフレスコ画で埋め尽くされており、チマブーエ(Cimabue)、シモーネ・マルティーニ(Simone Martini)、ピエトロ・ロレンツェッティ(Pietro Lorenzetti)といった、ジョットと並ぶ名匠たちの作品が並びます。
特に目を引くのは、入口近くのサン・マルティーノ礼拝堂に描かれたシモーネ・マルティーニの「聖マルティヌスの生涯」です。鮮明な色彩と細やかな描写が、ゴシック期の優雅な宮廷文化を今に伝えています。さらに、主祭壇上の4つのヴォールトに描かれた「フランチェスコ会の寓意画」は、フランチェスコが最も大切にした「清貧」「従順」「貞潔」、そして「聖フランチェスコの栄光」を象徴的に描き、彼の精神性を理解するうえで欠かせない作品です。
薄暗い光の中に浮かぶ聖人たちの姿に見入っていると、時間の感覚が薄れるほどです。ここは美術鑑賞というよりも、静かに自分と向き合い、深く瞑想する時間にふさわしい場所といえるでしょう。世界各地から訪れた人々が思い思いの想いを胸に静かに祈る様子は、この空間の神聖さをよく物語っています。
聖人が眠る静けさの空間:地下聖堂(クリプタ)
下部聖堂の中央にある階段を降りると、この聖堂の核心部分である地下聖堂(クリプタ)に辿り着きます。ここには聖フランチェスコの墓が安置されており、その場所は19世紀に発見されるまで長らく秘密に包まれていました。岩盤を掘り抜いた簡素な空間の中央に、石の棺が静かに横たわっています。華美な装飾は一切なく、ただ静寂と重々しい厳粛さが場を支配しています。
棺の周囲には、彼の最初の弟子たちの墓も並んでいます。ここに立つと、800年前に生きた一人の人間の思想と行動が、いかに多くの人の心を動かし、歴史を形作ってきたのかを強く実感させられます。多くの巡礼者がひざまずき、静かに手を合わせる姿は、信仰の有無を超えて感動を与えます。この場所では言葉は不要で、その場の空気を感じ取り、内面から湧く思いに耳を傾けることだけで十分なのです。アッシジを訪れる者にとって、一つの重要なクライマックスであると言えるでしょう。
聖キアラの清らかな魂に触れる:サンタ・キアラ聖堂
アッシジには、聖フランチェスコと肩を並べるもう一人の重要な聖人が存在します。それが聖キアラ(Santa Chiara)です。彼女はアッシジの貴族の家に生まれ、若き日にフランチェスコの説教に深く感銘を受け、豊かな暮らしを捨てて彼に従うことを決心しました。彼女はフランチェスコの精神に則った女性たちのための修道会、「清貧女子修道会」(後のキアラ会)を創設しました。
町の東端に位置するサンタ・キアラ聖堂は、その清廉で強靭な精神を今に伝える場所です。聖堂のファサードは、聖フランチェスコ聖堂の上部聖堂と同様に、この地域で産出されるピンクと白の大理石を用いた美しい縞模様で飾られており、青空の下でひときわ映えています。ゴシック様式の建築は優美でありながらも、どこか凛とした力強さを感じさせます。
| スポット名 | サンタ・キアラ聖堂 (Basilica di Santa Chiara) |
|---|---|
| 所在地 | Piazza Santa Chiara, 1, 06081 Assisi PG, Italy |
| 開館時間 | 6:30-12:00, 14:00-19:00(季節により変動あり) |
| 注意事項 | 聖堂内は撮影禁止。ミサの時間は静粛にお願いいたします。 |
聖堂内部は、聖フランチェスコ聖堂の上部聖堂に似た明るく開放的な空間が広がっています。しかし、この聖堂の最大の宝物は主祭壇の奥にある礼拝堂に安置されています。それはかつてサン・ダミアーノ教会にあり、若きフランチェスコに「私の教会を建て直しなさい」と告げたとされる大きな「サン・ダミアーノの十字架」です。ビザンチン様式のこの十字架に描かれたキリストは苦悩の表情を見せず、どこか穏やかで、見つめる者に静かに語りかけてくるようです。フランチェスコの人生を決定づけたこの十字架の前に立つと、まるで歴史的な瞬間に立ち会っているかのような神聖な感動が湧き上がってきます。
さらに階段を下りて地下聖堂へ進むと、ガラスケースに祀られた聖キアラの遺体を目にすることができます。また、彼女が生前に纏っていた質素な衣服や、自ら刺繍した祭服といった聖遺物も展示されており、その敬虔で慎ましい人柄を感じ取れます。特に、病床にあった彼女が、サラセン人の軍勢が修道院に迫った際に聖体をかざして祈り、敵を退けたという奇跡の逸話は、彼女の揺るぎない信仰心を象徴するものとして語り継がれています。
サンタ・キアラ聖堂は、フランチェスコの陰に隠れがちですが、彼の精神を支え、女性の力でその教えを広めた一人の人間の強さと優しさを実感できる、アッシジ巡礼に欠かせない聖地と言えるでしょう。
フランチェスコが神の声を聞いた場所:サン・ダミアーノ修道院

アッシジの旧市街を取り囲む城壁の外、オリーブ畑が広がる丘の斜面を少し下った場所に、サン・ダミアーノ修道院は静かにたたずんでいます。華やかな大聖堂とは一線を画し、粗い石を積み上げただけの非常に簡素で質朴な建物です。しかし、この場所はフランチェスコの物語が始まった原点とも言える聖地なのです。
| スポット名 | サン・ダミアーノ修道院 (Convento di San Damiano) |
|---|---|
| 所在地 | Località San Damiano, 1, 06081 Assisi PG, Italy |
| 開館時間 | 10:00-12:00, 14:00-18:00(季節により変動あり) |
| 注意事項 | 市街地から少し距離があるため、歩きやすい靴の着用が望ましいです。 |
前述の通り、若き日のフランチェスコがここで祈りを捧げていた際、十字架からの啓示を受けたと伝えられています。彼はその啓示に従い、まずは朽ちたこの教会の修復に心血を注ぎました。素朴な外観や内部は当時の面影を色濃く残しており、フランチェスコが目にしたであろう情景を追体験できるでしょう。
また、この修道院は聖キアラと彼女の姉妹たちが生涯をかけて共同生活を送った場所でもあります。フランチェスコは彼女たちのためにこの地を譲り、その後、キアラ会の最初の修道院となりました。見学すると、彼女たちが祈りを捧げた小さな礼拝堂や、質素ながらも食事をした食堂、そしてつつましい寝室などを目にすることができます。特に、キアラが病に伏しながら祈りをささげ、奇跡が起きたとされる場所には、今なお静謐な祈りの空気が漂っています。
修道院の中庭に足を踏み入れると、穏やかなウンブリアの田園風景が広がり、鳥のさえずりやそよ風の音だけが聞こえてきます。この静かな環境の中で、フランチェスコは有名な「太陽の賛歌(被造物の賛歌)」の多くを詠んだと伝えられています。見えない兄弟である風や姉妹の水、母なる大地への感謝を歌ったこの詩は、まさにこの場所の空気感から生まれたことを実感できるでしょう。
サン・ダミアーノ修道院は、アッシジの他の主要な聖堂のような豪華さや芸術的な華麗さはありません。しかし、その分だけフランチェスコとキアラが体現した「清貧」の精神に最も近づくことができる、心に響くスポットと言えるかもしれません。都会の喧騒から切り離されたこの地で、オリーブの木陰に腰を下ろし、静かな時間を過ごすことこそが、アッシジで味わえる何よりの贅沢なのです。
時が止まったかのような中世の街並みを歩く
アッシジの魅力は、壮麗な聖堂や修道院だけに留まりません。街全体が、まるで一つの博物館のように中世の趣きをそのまま伝えています。ピンクがかった石造りの家々が立ち並ぶ狭い路地、急な階段、小さな広場が突然現れる風景。気ままに歩くだけで、次々と心を奪われる場面に出会うことができるのです。
町の中心、コムーネ広場
アッシジのほぼ中心に位置するコムーネ広場は、古代ローマ時代から町の核となってきた場所です。広場に面してひときわ目立つのは、6本の壮麗なコリント式柱を持つ「ミネルヴァ神殿」。紀元前1世紀に建てられたこの神殿は、現在サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会として利用されており、2000年以上もの時を超え、古代ローマの建築様式がキリスト教の教会として生き続けていることに、歴史の奥深さを感じずにはいられません。
広場には市庁舎やプリオーリ宮殿が立ち並び、カフェやレストランのテラス席では、地元の人々や観光客が思い思いに過ごしています。ここでエスプレッソを一杯楽しみながら人々の行き交う様子を眺めていると、アッシジの日常に溶け込んだような気持ちになれます。中世の鐘楼から響く鐘の音を聞きながら、旅の疲れを癒すのに最適なスポットです。
| スポット名 | コムーネ広場 (Piazza del Comune) |
|---|---|
| 所在地 | Piazza del Comune, 06081 Assisi PG, Italy |
| 楽しみ方 | 広場に面したカフェでのんびり過ごしたり、ミネルヴァ神殿の古代建築を堪能したりできます。 |
ウンブリアの絶景を望む、ロッカ・マッジョーレ
アッシジの町の頂上に威厳をもってそびえ立つのがロッカ・マッジョーレ(大要塞)です。12世紀に神聖ローマ帝国の要塞として築かれ、その後、度重なる破壊と再建を経て、町の複雑な歴史を物語る象徴的な場所となっています。
急な坂を登りきり、要塞の城壁の上に立てば、息をのむ絶景が広がっています。眼下にはアッシジの茶色い屋根が密集し、聖フランチェスコ聖堂やサンタ・キアラ聖堂も鮮明に望めます。そしてその先には、広大なウンブリアの平原が地平線の彼方まで続いています。特に夕暮れ時、空がオレンジから紫へと色を変え、町の明かりが灯り始める光景は、一生忘れられない思い出となるでしょう。
私は廃墟や古い建築が好きなので、このロッカ・マッジョーレの石壁には強い感慨を覚えました。風雨にさらされ、一部が崩れながらもなお天を衝くその姿は、単なる建物を超えて、時間の重みや歴史の記憶を体現しているかのように思えます。かつてこの場所で敵を監視していた兵士たちの眼差しや、町を揺るがした攻防の跡に想いを馳せながら、眼下に広がる穏やかな景色を眺めていると、物理的な建造物はいつか朽ちても、そこに宿る人々の想いや歴史は脈々と受け継がれていくのだという深い真理に気づかされます。
| スポット名 | ロッカ・マッジョーレ (Rocca Maggiore) |
|---|---|
| 所在地 | Via della Rocca, 06081 Assisi PG, Italy |
| 開館時間 | 10:00-19:00頃(季節によって変動、日没時閉館) |
| 注意事項 | 入場は有料です。要塞までの道は急な坂が続くため、体力に余裕を持って訪れることをおすすめします。 |
祈りの道、世俗を離れた隠遁所を訪ねて

フランチェスコの精神性をより深く感じ取りたいなら、町の喧騒から少し距離を置き、静かな場所へ足を運んでみることをお勧めします。スバシオ山の深い森の中に、彼と弟子たちが祈りと瞑想のためにひっそりと身をひそめた隠遁の場が存在します。
カルチェリの庵
アッシジの町から車で約15分、山道を登ったスバシオ山の中腹に「カルチェリの庵(Eremo delle Carceri)」があります。イタリア語の「カルチェリ」は直訳すると「牢獄」を意味しますが、ここでいう牢獄とは罪人を閉じ込める場所ではなく、世俗から自らを隔て神との対話に没頭する「精神の牢獄」を指します。フランチェスコが最も愛した祈りの場のひとつとして知られています。
庵に着くと、まず出迎えてくれるのは樹齢数百年に達する聖なるオークの木です。伝説によれば、この木のもとでフランチェスコが鳥たちに説教を行ったとされています。その先に見える小さな修道院は、まるで森の一部のように岩肌に寄り添うように築かれています。内部は、人がやっと通れるほどの細い通路と、岩をくり抜いて造られた小さな礼拝堂や寝室が迷路のように連なっています。フランチェスコが瞑想したと伝えられる洞窟は今も当時のまま残されており、その狭く暗い空間に身を置くと、彼がどれほど厳しく、純粋に神と対峙していたかがひしひしと伝わってきます。
庵の周囲には、森の中をゆったりと巡る散策路が整備されています。鳥のさえずりや木の葉が風に揺れる音だけが響く静寂のなかを歩いていると、心が浄化され感覚が鋭くなっていくのを実感できます。フランチェスコがこれほど自然を愛し、その中に神の存在を見出した理由が、身体で理解できるように思えるでしょう。ここは単なる観光名所ではなく、訪れるひとりひとりが自身の内なる自然と向き合うための、霊的な聖地なのです。
| スポット名 | カルチェリの庵 (Eremo delle Carceri) |
|---|---|
| 所在地 | Località Eremo delle Carceri, 06081 Assisi PG, Italy |
| 開館時間 | 7:30-18:00(季節により変動あり) |
| 注意事項 | アッシジ市内から公共交通機関は利用できません。タクシーか、体力に自信のある方はハイキングでの訪問が必要です。 |
天使の祝福を受ける麓の聖堂
アッシジの丘の頂に位置する旧市街の巡礼を終えた際には、ぜひその麓に広がる平原にも目を向けてみてください。そこには、アッシジのもう一つの重要な聖地が、多くの訪問者を待ち受けています。
サンタ・マリア・デリ・アンジェリ聖堂
アッシジ駅から旧市街へ向かう途中、広大な平原の中にひときわ壮大なクーポラ(円蓋)を持つ建物がそびえ立っています。これがサンタ・マリア・デリ・アンジェリ聖堂です。16世紀から17世紀にかけて建てられたこの巨大なバシリカは、一見するとフランチェスコの清貧の精神とは対照的に思われるかもしれません。しかし、この聖堂の本当の価値は、その大きな建築の内部に隠されています。
聖堂の中央、ちょうどクーポラの真下には、驚くべきことに石造りの非常に小さな礼拝堂がまるごと収められています。これが「ポルツィウンコラ(Porziuncola)」と呼ばれる、フランチェスコ会にとって最も神聖な場所です。ポルツィウンコラは「小さな土地」を意味し、もともとは放置されていたこの小礼拝堂をフランチェスコ自身が修復し、彼の最初の活動拠点としました。ここで彼は仲間と共に祈り、修道会を結成し、さらに聖キアラを迎え入れました。まさにフランチェスコ会の発祥の地と言える場所です。
巨大な聖堂の中に、質素で小さな礼拝堂が大切に守られているという、その劇的な対比は、フランチェスコの謙虚な出発点と彼の教えが後に世界中に広まった歴史を象徴しているかのようです。ポルツィウンコラの素朴な佇まいは、周囲の華やかな装飾物の中で、かえって深い精神的な輝きを放っています。
さらに、この聖堂の奥には、フランチェスコが生涯を閉じたとされる「トランジト礼拝堂」も保存されています。彼は死期を悟った際、裸で大地に横たわることを望み、愛するポルツィウンコラのすぐそばで兄弟たちに見守られながら静かに息を引き取ったと伝えられています。この場所は、彼の人生の終着点であると同時に、新たな始まりの象徴でもあるのです。
| スポット名 | サンタ・マリア・デリ・アンジェリ聖堂 (Basilica di Santa Maria degli Angeli) |
|---|---|
| 所在地 | Piazza Porziuncola, 1, 06081 Santa Maria degli Angeli PG, Italy |
| 開館時間 | 6:15-12:30, 14:30-19:30(季節により変動あり) |
| 注意事項 | アッシジ旧市街からはバスでアクセス可能です。ポルツィウンコラやトランジト礼拝堂は特に神聖な場所ですので、訪れる際は敬意をもって見学しましょう。 |
ウンブリアの恵みを味わう:アッシジの食文化

聖地を訪れる旅は、心だけでなく体にも栄養が必要です。幸いなことに、アッシジがあるウンブリア州は、イタリアの中でも特に豊かな食文化を誇る地域です。「緑の心臓」と称されるこの地で育まれた、素朴でありながら深い味わいの料理は、巡礼の疲れた体を優しく癒してくれます。
ウンブリア料理の特徴は、高品質な地元食材の味を活かすことにあります。まず欠かせないのは、この地方の丘陵地帯で栽培されたオリーブから搾られる香り豊かなエキストラバージンオリーブオイルです。パンに浸すだけでも、その豊かな風味に感動することでしょう。
レストランに足を踏み入れたら、ぜひ味わってほしいのが、ウンブリア特有の手打ちパスタ「ストランゴッツィ(Strangozzi)」または「ストリンゴッツィ(Stringozzi)」です。小麦粉と水だけで作られた断面が四角形の太麺で、もちもちとした食感が魅力的です。シンプルなトマトソースや、地元の名産である黒トリュフを贅沢に使ったソースと合わせるのが定番。その芳醇な香りが口いっぱいに広がる一皿は、まさに至福の味わいです。
さらに、ウンブリアは豚肉加工品の名産地としても知られ、プロシュート(生ハム)やサラミの種類が豊富に揃っています。地元のペコリーノチーズと一緒に盛り合わせを注文し、力強い赤ワイン、特にサグランティーノ・ディ・モンテファルコのようなワインと共に楽しめば、最高のアンティパストとなるでしょう。
メインには、レンズ豆の煮込み料理や野鳥、豚肉のグリルといった、飾り気のない温もりのある料理が並びます。過度に手の込んだ調理ではなく、素材の良さをストレートに味わうこと。それこそがウンブリアの食文化の真髄であり、聖フランチェスコが説いた「清貧」の精神──本質的な豊かさを尊ぶ心──と通じているように感じられます。美味しい料理とワインに満たされる時間は、聖地巡礼の旅におけるもう一つの大きな喜びとなるでしょう。
聖なる丘が教えてくれる、静寂という名の豊かさ
アッシジで過ごした数日を終え、帰路についたとき、私の胸に広がっていたのは旅立つ前とは少し異なる種類の静けさでした。それは単に音が消えた静寂というだけでなく、情報の洪水から解き放たれ、自分の内奥にある穏やかで確かな中心に触れたような感覚でした。
この町には、800年以上前に生きた聖フランチェスコと聖キアラの息吹が、石畳の一つひとつや教会の壁の隅々に今もなお深く刻まれています。彼らの物語は単なる歴史の伝説ではありません。物質的な豊かさを追い求める現代の私たちが、見失いかけているものは何かを静かに、しかし力強く問いかけているのです。
古い建築の朽ちゆく様に美を見出す私は、これまで数々の廃墟を訪れてきました。しかしアッシジで感じたのは、物理的な建築物を超えた「精神の建築」の存在でした。聖フランチェスコ聖堂の荘厳なフレスコ画も、サン・ダミアーノ修道院の素朴な石壁も、長い年月の間に捧げられてきた無数の祈りや願いを吸収し、目に見えないものの確かな輝きを放っているように思えたのです。建築物はいつか風化するかもしれませんが、そこに宿る精神は決して衰えることなく、時代を超えて継承されていきます。アッシジはまさにその真実を体現している町でした。
この旅で私が受け取った最も大きな贈り物は、もしかすると壮麗な芸術作品や歴史的知識ではなく、「静寂」と呼ばれる時間そのものだったのかもしれません。鳥のさえずりだけが響くカルチェリの庵の森で、聖人の墓の前で静かに頭を垂れる地下聖堂で、そしてオリーブ畑を見渡す丘の上で、久しぶりに自分の心と深く向き合う時間を得ることができました。
もしあなたが日々の忙しさに追われ、心が少し乾きを感じているなら、ぜひ一度この聖なる丘を訪れてみてください。アッシジは信仰の有無にかかわらず、訪れるすべての人を優しく迎え入れ、静寂という名の豊かさを教えてくれるはずです。そしてきっと、あなただけの祈りの時間、あなただけの心の安らぎを見つけることができるでしょう。

