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    土と炎が紡ぐ、用の美。福岡・小石原焼の里で、私だけの”うつわ”と出会う旅

    都会の喧騒から少しだけ離れて、自分の内側と静かに向き合いたい。そんな衝動に駆られることはありませんか。アパレルの仕事は、常に新しいトレンドを追いかけ、目まぐるしく変化する日々。刺激的で大好きな世界だけれど、時々ふと、もっと普遍的で、長く愛せるものの温もりに触れたくなるのです。

    そんな想いを抱えて私が向かったのは、福岡県のほぼ中央に位置する東峰村。ここは、約350年の歴史を持つ「小石原焼(こいしわらやき)」の故郷です。山々に抱かれた静かな里には、いくつもの窯元が点在し、今もなお、土と炎と真摯に向き合う職人さんたちの息遣いが聞こえてきます。

    「用の美」という言葉を、皆さんはご存知でしょうか。日常の中で使われることで、そのものの美しさが最大限に引き出される、という意味。小石原焼は、まさにその言葉を体現する器です。華美な装飾はないけれど、手に取るとすっと馴染み、料理を盛れば主役をそっと引き立てる。その素朴で健やかな美しさに、私はずっと心を惹かれていました。

    今回の旅の目的は、ただ美しい器を買い求めるだけではありません。自らの手で土に触れ、ろくろを回し、世界にたった一つの「私だけの器」を作ること。それは、過ぎ去った時間に別れを告げ、新しい物語を始めるための、ささやかな儀式のようなものかもしれません。土の感触を確かめながら、どんな未来をこの器に描こうか。そんなことを考えに、私は小石原の地へと車を走らせたのでした。

    福岡での旅の余韻に浸りながら、次は水郷柳川での舟遊びを計画してみてはいかがでしょうか。

    目次

    小石原焼とは? – 350年の歴史に息づく用の美の哲学

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    小石原焼の里を訪れる前に、その歴史と魅力について少しだけ紐解いてみましょう。この知識が旅の体験を一層深く、味わい豊かなものにしてくれることでしょう。

    小石原焼の歴史は、江戸時代前期の1669年にまで遡ります。福岡藩の三代藩主・黒田光之が、伊万里から陶工を招いて中野焼(現在の上野焼の一窯)を開いたのが始まりとされています。これは磁器の原料となる陶石を求めたものです。その後、1682年に同じく伊万里から陶工・柳瀬三右衛門を迎えましたが、磁器に適した土が見つからず、この地の陶土を用いて陶器を焼き始めたのが小石原焼の直接の起源となります。つまり、小石原焼はもともと磁器を目指してスタートしたという、少し意外な誕生の物語を持っているのです。

    また、小石原焼を語る上で外せないのが20世紀に展開した「民藝運動」との深い関係です。思想家・柳宗悦を中心に、河井寛次郎、濱田庄司、イギリス人陶芸家バーナード・リーチらが提唱したこの運動は、名もなき職人がつくる日常の工芸品の中に「真の美」が宿るという価値観を示しました。

    1931年、柳とリーチは小石原を訪れ、生活に根ざした健やかで美しい器を目の当たりにし、「用の美の極致だ」と高く評価しました。この訪問が、小石原焼の名を地方の小さな焼き物から日本全国、さらには世界に知らしめる大きな契機となりました。この山間の里が生んだ器が、美の巨匠たちを唸らせたというドラマに、誰かに話さずにはいられなくなることでしょう。流行に左右されない、普遍の美を有するこの歴史が静かに物語ってくれます。

    土と炎が織りなす伝統の装飾技法

    小石原焼の魅力は、その独特な装飾技法にあります。ろくろを回しながらリズミカルに模様を刻むのが特徴で、素朴でありながらも一度目にすると忘れられない強烈な印象を刻みます。代表的な技法をいくつかご紹介しましょう。

    飛び鉋(とびかんな)

    小石原焼と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのが「飛び鉋」ではないでしょうか。器の表面に、まるで鳥が跳ね回ったかのような、規則的ながら温かみのある点模様が刻まれています。成形して生乾きの器をろくろで回しながら、L字型に曲がった金属製の鉋を当てて作られます。土の乾燥具合、ろくろの速度、そして職人の力加減が絶妙に調和すると、鉋が土面をリズミカルに弾み、独特の美しい模様が生まれます。一つとして同じ模様はなく、製作者の呼吸や感覚がそのまま映し出されているかのようです。

    刷毛目(はけめ)

    異なる色の化粧土(白泥など)を刷毛で塗り、その大胆な刷毛跡を模様として見せる技法です。勢いのある力強い線、かすれの繊細な表情など、刷毛の種類や動かし方により多彩なバリエーションが広がります。シンプルながらもおおらかで温かな雰囲気があり、料理を優しく包み込むような魅力があります。

    櫛目(くしめ)

    その名の通り、櫛状の道具で波線や渦巻きなどの模様を描く技法です。飛び鉋や刷毛目と組み合わせられることも多く、器の表情に豊かな変化をもたらします。整然と引かれた線の美しさと、手仕事ならではの微妙な揺らぎが心地よいリズムを創り出しています。

    流し掛け(ながしがけ)

    釉薬を柄杓などで大胆に流し掛け、偶然に生まれるダイナミックな模様を生み出す技法です。自然の風景を彷彿とさせる唯一無二の景色が器の上に広がります。作り手の意図と釉薬の自然な流れが重なり奏でる、一期一会の美しさを感じさせます。

    これらの技法はすべてろくろを回しながら行われるため、非常にスピーディーでリズミカルです。無駄のない職人の動きを見ていると、まるで美しい音楽を奏でているかのような躍動感を覚えます。この動きこそが小石原焼の健やかな美しさの源泉と言えるでしょう。

    いざ、小石原焼の里へ – 煙突のある風景を歩く

    福岡市内から車でおよそ1時間半ほど走り、高速道路を降りて山道を進むにつれて、景色は徐々に深い緑に包まれていきます。窓を開けると、ひんやりとした湿った土の香りと木の葉が擦れ合う音が心地よく耳に入り、都会で緊張していた心がゆっくりとほぐれていくのを感じました。

    東峰村の小石原地区に入ると、風景は一変します。緩やかな坂道の両側には瓦屋根の伝統的な家々が立ち並び、その合間からレンガ造りの煙突が顔をのぞかせています。そう、ここは約50軒の窯元が集まる小石原焼の里。車を降りて歩き出すと、時間がゆったりと流れていることに気づきます。聞こえてくるのは鳥のさえずりと、遠くの窯から響く土を叩く音、そして時折通り過ぎる車の音だけです。

    まずはエリアの全体像を掴むために、「道の駅 小石原」に立ち寄りました。ここには多くの窯元の作品が一堂に並ぶ展示販売スペースがあり、圧倒される品揃えです。窯元ごとに異なる作風を一度に比較できるため、自分の好みに合ったスタイルを探すのにぴったりの場所。ここで「この窯元さん、素敵だな」と目星をつけてから実際に訪ねるのがおすすめです。

    「道の駅」のすぐ隣には「小石原焼伝統産業会館」があり、小石原焼の歴史や製造過程を詳しく学べるだけでなく、故・福島善三氏の人間国宝に認定された優れた作品も展示されています。旅の初めにここを訪れることで、その後の窯元巡りがより深く、意味のあるものになるでしょう。

    地図を手に煙突を目指して細い路地へと進みます。多くの窯元では母屋の隣に作業場や登り窯があり、作品を展示するギャラリーも併設されています。気軽に「こんにちは」と声をかけて中に入れる、開放的な雰囲気が魅力です。一軒一軒巡る時間はまるで宝探しのよう。土の香りとひんやりとしたギャラリーの空気、その中に並ぶ無数の器たち。作り手と直接話をしながら、それぞれの器に込められた物語に耳を傾ける、これ以上ない贅沢な時間です。

    今回訪れた窯元 – 伝統と革新の息吹

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    数多くある窯元の中で、特に私の心を惹きつけた二軒の窯元をご紹介します。伝統を力強く受け継ぐ窯元と、新たな風を吹き込む窯元の両方を訪れることで、小石原焼の懐の広さを深く実感できました。

    翁明窯元 – 伝承される「用の美」の精神

    最初に訪れたのは、里の中心部から少し坂を上ったところにある「翁明窯元(おうめいかまもと)」さん。古式ゆかしい登り窯が印象的で、歴史の重みを感じさせる佇まいが魅力的な窯元です。ギャラリーに足を踏み入れると、飛び鉋や刷毛目といった小石原焼独特の伝統技法を大切にしながら作られた器たちが、静かな呼吸をするかのように整然と並んでいました。

    当主の鬼丸翁明さんとお話しする中で、その一言一言から小石原焼に対する深い愛情と誇りが伝わってきます。「派手さはないかもしれないけれど、毎日使っても飽きずに丈夫で、料理を引き立てる。そこが小石原焼の一番の魅力なんだ」と語る鬼丸さん。その手から生まれる器は、温かくゆったりとしていて、どこか懐かしい安心感を感じさせます。特に印象的だったのは、手に取った際の絶妙な重みと指になじむ感触で、これこそが長年の経験が築いた、使い手への細やかな配慮なのだと感じ入りました。毎日使うものだからこそ、ちょっとした違和感も許されない。そんな職人としての哲学が、静かにこちらに伝わってくるのでした。

    スポット名翁明窯元
    住所福岡県朝倉郡東峰村小石原872-10
    特徴小石原焼の伝統技法を重んじ、飛び鉋や刷毛目が美しい普段使いに適した器を豊富に製作。
    魅力鬼丸さんの温かい人柄と「用の美」に宿る哲学をじかに感じられる。

    やまさん窯 – 日常に寄り添う新たなカタチ

    次に訪れたのは、若いご夫婦が営む「やまさん窯」さん。伝統的な家屋をリノベーションしたギャラリーは、明るく洗練された雰囲気で、まるでセレクトショップのような空間が広がっています。ここに並ぶ器は、小石原焼の伝統技法を用いながらも、これまでのイメージを一新するスタイリッシュなデザインが際立っています。

    パスタやカレーが似合うオーバル皿、マットな質感が特徴のニュアンスカラーのマグカップ、積み重ねて収納できる機能的な小鉢など、現代の食卓に自然と溶け込むようなアイテムが揃っています。作り手の梶原ご夫妻は、「伝統はただ守るだけではなく、今の暮らしに合わせてアップデートすることも重要だ」と語ります。古くからの技法に新鮮な感性という釉薬を纏わせ、小石原焼の新たな可能性を切り拓こうとしているのです。

    アパレルの世界で働く私にとって、この「伝統と革新の融合」という視点は非常に共感できるものでした。クラシックなトレンチコートがシルエットの変化によって現代的に生まれ変わるように、この器たちも350年という歴史の確固たる土壌の上に、新たな時代の息吹をまとっています。そんな斬新な驚きと感動を与えてくれた窯元でした。

    スポット名やまさん窯
    住所福岡県朝倉郡東峰村小石原751-1
    特徴伝統技法とモダンなデザインを融合し、現代の生活様式に合った器を製作。
    魅力若い世代の感性が息づく洗練された器は見るだけでも楽しく、カフェのようなお洒落なギャラリーも必見。

    土と向き合う時間 – 私だけの器作り体験

    いよいよ、この旅のメインイベントである器づくり体験が始まります。私がお世話になったのは、里の中でも特に体験プログラムが充実している「森喜窯(もりきがま)」さんです。優しい指導で評判が高く、初心者でも安心して挑戦できると聞いて、ここに決めました。

    エプロンをしっかりと結び、作業場の椅子に腰掛けると、眼前にはどっしりとした電動ろくろと粘土の塊が置かれていました。ひんやりとした土の感触を前にすると、自然と背筋が伸び、少しだけ緊張が高まります。「さあ、始めましょうか」と職人さんの穏やかな声に背中を押され、いよいよ土との対話が始まります。

    土殺し – 魂を込める最初の儀式

    最初に教えてもらったのは「土殺し(つちごろし)」という工程です。一見すると物騒な名前ですが、これは粘土の中に含まれる空気を抜き、粒子を均一にして、ろくろの中心に据えるための極めて重要な作業です。両手で粘土を包み込み、力強く押し下げ、再び引き上げる。この動きを繰り返していきます。「土の中心と、自分の体の中心を合わせるように」とのアドバイスを受け、呼吸を整えてゆっくり体重をかけていきます。単純に見える作業ですが、これが意外に難しく、少しでも力を誤ると粘土は遠心力でたちまち歪んでしまいます。この「土殺し」がしっかりできていないと、いくら美しい形を作っても必ずどこかで崩れてしまうのだそうです。まるで人生の基盤づくりのように感じました。土の上に何かを築くには土台が肝心で、それが不安定だとすべてがもろくなる。土に触れているのに、自分自身と向き合っているような不思議な感覚に包まれました。

    成形 – 指先から生まれる、世界にひとつの形

    土殺しを終え、粘土がろくろの中心で静かに止まると、いよいよ成形の段階です。親指を粘土の中心にそっと入れて穴を開け、そこから両手の指を使い、少しずつ壁を薄くしながら引き伸ばしていきます。

    「もっと力を抜いて。土がなりたい形になるのを、そっと手伝う感じで」

    職人さんの言葉がすっと胸に響きます。焦って形を作ろうとすると土はすぐに崩れてしまう。しかし、土の回転に身を任せて、ただ指先を添えるだけで、粘土はまるで生き物のように滑らかに伸びていきます。ひんやりと湿った土が指の間を通り抜ける感覚。止まることなく回るろくろの音は、まるで瞑想のような時間でした。

    どんな器にしようか。朝食のヨーグルトを入れる小鉢もいいし、夜にひとりゆっくりお茶を飲むための湯のみも素敵だ。ふと、かつて誰かと囲んだ食卓の記憶が蘇り、胸が少し痛みました。しかし、ろくろの上で回り続ける土は、「過去」ではなく「今」に集中することの大切さを教えてくれます。この手で作るのは、未来の食卓を彩る器。そう考えると、自然と指先にやさしい力がこもりました。

    何度か形が崩れてしまい、そのたびに職人さんに助けられながら、ようやく一つの形ができあがりました。口が少し広がった、不格好だけれど愛らしい小鉢です。完璧ではないけれど、確かに私が生み出した、世界に一つだけの形。その達成感は何ものにも代えがたかったです。

    最後に、仕上げに使う釉薬の色を選びます。小石原焼の釉薬は、この土地で採れる藁の灰や木の灰、長石といった自然素材から作られていると聞き、いっそう愛着がわきました。私は柔らかなクリーム色に仕上がるという「藁白釉(わらじろゆう)」を選びました。焼き上がりの表情を想像するだけで胸が躍ります。完成品は約2ヶ月後に郵送してもらえるとのこと。この待つ時間もまた、旅の一部だと感じられました。

    スポット名森喜窯
    住所福岡県朝倉郡東峰村小石原940-1
    体験メニュー電動ろくろ体験、手びねり体験、絵付け体験など
    魅力初心者でも職人さんが丁寧に指導してくれるので安心。作った器は後日郵送されるため、旅の思い出を形に残すのに最適。

    小石原の食と器 – 暮らしの中の用の美を味わう

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    器作りに没頭しているうちに、すっかり空腹を感じてしまいました。里山を散策中に見つけた、古民家をリノベーションした趣あるカフェ「coto coto kitchen」でランチをいただくことにしました。こちらでは、地元の食材を贅沢に使った料理を、小石原焼の器で味わうことができます。

    私が注文したのは、週替わりのランチプレート。運ばれてきたお皿を見て、思わず「わあ」と声が出ました。刷毛目模様が美しい大皿に、色鮮やかな野菜のデリやハーブが香るチキンソテーが美しく盛り付けられています。器自体も見事ですが、料理が盛られることで、その魅力が何倍にも引き立って見えるのです。これこそ柳宗悦が語った「用の美」だと、頭でなく体で実感できた瞬間でした。

    木の温もりが感じられる店内で、窓の外に広がる緑を眺めながらいただく食事は格別の味わいです。飛び鉋のカップに注がれたコーヒーは、口当たりが柔らかく、いつもより深く豊かな香りが漂う気がします。器ひとつで、日常の食事がこんなにも豊かな時間へと変わる。この体験は、これからの私の暮らしにきっと大きな変化をもたらしてくれると確信しました。

    スポット名coto coto kitchen(コトコトキッチン)
    住所福岡県朝倉郡東峰村小石原868-1
    営業時間11:00~16:00(ランチは売り切れ次第終了)※営業日は公式サイト等でご確認ください
    特徴小石原焼の器で地元の食材を使ったランチが楽しめる。古民家の落ち着いた雰囲気も魅力。

    旅の余韻と、届いた器

    小石原の里を後にし、東京の慌ただしい日常へ戻っても、指先にはまだ土の感触が残っているかのようでした。仕事の合間にふと、ろくろの回る音や土の香りが脳裏に蘇ります。そして、旅から約2ヶ月が経ったある日、待ち望んでいた小包がようやく届きました。

    慎重に包みを解きながら、胸の高鳴りを感じる。新聞紙の緩衝材を取り除くと、中から現れたのは淡いクリーム色に柔らかく輝く、あの日の小鉢でした。自分の手で作り上げた時の記憶が鮮明に甦ります。少しゆがんだ縁や、かすかに残る指紋の跡。市販のもののような完璧さはないけれど、その不均一さこそが一段と愛着を感じさせるのです。

    早速、その小鉢を使ってみることにしました。買ってきたばかりの苺をやさしく洗い、そっと盛りつけます。すると、不思議なことに、いつもと同じ苺なのに、まるで特別なデザートのように見えました。赤い果実とクリーム色の器の色合いが美しく調和し、一口食べるたびに、小石原の穏やかな風景が心の中に静かに広がっていくかのようでした。

    この器は、これからの私の日々にささやかな彩りと喜びをもたらしてくれるでしょう。時にはひとり静かに過ごす夜のスープを味わい、またある時には大切な友人と分け合うサラダを盛りつけて。この器とともに、新しい思い出をたくさん紡いでいきたい。そんな気持ちが、心から湧き上がってきたのです。

    小石原焼の里をもっと楽しむための豆知識

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    最後に、小石原を訪れる方へ向けて、旅がより一層楽しくなる情報をお伝えします。

    民陶むら祭

    毎年春の5月3日から5日、そして秋の10月上旬の土日祝には、「民陶むら祭」が開催されます。この期間中、普段は静かな里が多くの人で賑わいを見せ、多くの窯元で通常よりもお得な価格で器を手に入れることができます。窯元を巡りながら掘り出し物を探すのも、このお祭りの魅力の一つです。この時期に合わせて旅程を組むのもおすすめです。

    器を長く使うための一手間「目止め」

    陶器は水を吸いやすいため、使い始める前に「目止め」というひと手間を加えることで、汚れや匂いがつきにくくなり、より長く美しい状態で使い続けられます。方法はとても簡単です。鍋に米のとぎ汁(もしなければ小麦粉や片栗粉を溶かした水でも代用可能)を入れ、器を浸して弱火で15~20分ほど煮沸し、そのまま鍋ごと自然に冷ますだけ。このひと手間が器への愛着をより深めてくれます。まるで、新しい服を着る前に丁寧に手入れをするような儀式です。ぜひ試してみてください。

    ぜひ訪れたい周辺スポット

    小石原焼の里から車で少し移動すれば、さらに魅力的な場所があります。日本三大修験道の一つとされる「英彦山(ひこさん)」は、荘厳な神社と自然豊かな風景が見どころです。また、「筑前の小京都」と呼ばれる「秋月」は、城下町の情緒あふれる美しい町並みが魅力で、散策するだけでも心がほっと和みます。少し欲張って周辺観光と組み合わせた旅のプランを立てるのもおすすめです。

    旅の終わりに – 土から生まれた宝物

    今回の小石原焼の里を巡る旅は、私に一つの美しい器と、それ以上にかけがえのない時間をもたらしてくれました。

    それは、土と触れ合いながら、自分の内面と静かに対話する時間。作り手の想いに耳を傾け、手仕事の尊さを肌で感じるひととき。そして、自分の手で何かを生み出す喜びを味わう瞬間でした。

    慌ただしく移り変わるトレンドを追いかける日々の中で、私たちは時に本当に大切なものを見失いがちになります。しかし、小石原の里では、350年もの長い時を経て変わることなく受け継がれてきた「用の美」という確固たる哲学が、いまも力強く息づいています。

    日常の中で使うたびに旅の記憶を呼び起こしてくれる、私だけの小さな宝物。この器があるだけで、普段の毎日がほんの少し特別なものへと変わっていく。その豊かさこそ、旅がくれる最高の贈り物だと、今はっきりと実感しています。皆さんもぜひ、土と炎が織りなす物語を求めて、福岡・小石原焼の里を訪れてみてはいかがでしょうか。きっとそこで、あなたの暮らしを優しく照らす素敵な出会いが待っていることでしょう。

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    この記事を書いた人

    アパレル企業で働きながら、長期休暇を使って世界中を旅しています。ファッションやアートの知識を活かして、おしゃれで楽しめる女子旅を提案します。安全情報も発信しているので、安心して旅を楽しんでくださいね!

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