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    黄金海岸の天空に浮かぶ食の楽園。サーファーズ・パラダイスで味わう、絶景とモダンオーストラリア料理の饗宴

    南半球の太陽が、容赦なく、しかしどこか心地よく肌を焼く。オーストラリア、クイーンズランド州が誇るゴールドコースト。その中心でひときわ眩い光を放つ街、サーファーズ・パラダイス。どこまでも続く白い砂浜、コバルトブルーの太平洋、そしてその波打ち際に天を突くように林立する摩天楼。まるで未来都市と楽園が融合したかのようなこの景色を前に、僕は高揚感を隠せずにいました。全国の酒場を巡る旅ライターの僕ですが、今回は少し趣向を変えて、この黄金海岸でしか味わえない「天空の食体験」を求めてやってきたのです。

    サーフィンの聖地として名を馳せるこの街ですが、近年、その食文化の進化には目を見張るものがあります。世界中から集まる人々を魅了するのは、もはや波だけではない。特に注目されているのが「モダンオーストラリア料理」。多文化が溶け合うこの国ならではの、自由で創造的な美食の世界です。そして、その最高の舞台となるのが、息をのむようなオーシャンビューを望むレストランの数々。今回は、そんなレストランの一つで、地平線に沈む夕日を眺めながら、オーストラリアの今を味わい尽くす、という贅沢なミッションに挑みます。ただのグルメレポートではありません。この土地の歴史や文化、食材の物語にまで深く潜り込む、知的好奇心を満たす旅にご案内しましょう。まずは、この楽園の場所から。

    目次

    サーファーズ・パラダイス、その名の裏に隠された物語

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    ディナーの前に、まずこの街のトリビアを肴に食前酒を楽しみましょうか。現在では世界中から観光客が押し寄せる「サーファーズ・パラダイス」という名前。あまりにキャッチーで、誰かが後からマーケティングのために付けた名称のように感じませんか?実はその通りであり、しかしそこには一人の男の情熱的な物語が秘められているのです。

    この土地がまだ静かな海辺の集落だった1920年代には、「エルストン」と呼ばれていました。穏やかで美しいものの、特に目立つ特徴のない場所でした。そんな運命を劇的に変えたのが、ホテル経営者のジム・カヴィル氏です。彼は1925年にこの地に「サーファーズ・パラダイス・ホテル」を開業しました。土地の持つ可能性、とりわけサーフィンという新しい文化と結びついた未来を誰よりも強く信じていました。

    当時のサーフィンは、まだ一部の熱心な愛好家に限られたスポーツでした。しかしカヴィル氏は、このスポーツが持つ解放感やカッコよさが、必ずや人々の心を捉えると見抜いていました。彼はホテルの名前だけでなく、周辺地域の名称も「サーファーズ・パラダイス」に変更するよう、熱心に働きかけたのです。その情熱が周囲を動かし、1933年、ついにこの地は正式に「サーファーズ・パラダイス」と名を変えることになりました。これは単なる地名の変更を超え、一人の起業家のビジョンが街のアイデンティティを形作った瞬間でした。

    彼はホテルに動物園を併設したり、美人コンテストを開催したりと、斬新なアイデアで次々と人々の注目を集めました。中でも特に有名なのが、1965年に始まった「パーキングメーター・メイデン」です。これはビキニ姿の女性たちが、駐車時間が切れそうなパーキングメーターに小銭を入れて回り、違反切符を防ぐというユニークなサービスでした。この試みは街のPRとして大成功を収め、サーファーズ・パラダイスの「親切で太陽のような街」というイメージを世界中に広めるきっかけとなりました。今もなお、彼女たちの活動はゴールドコーストの親善大使として続けられています。

    私たちがこれから向かう天空のレストランも、もしかするとジム・カヴィル氏が抱いた夢の延長線上にあるのかもしれません。彼が蒔いた一粒の種が、今では世界的なリゾート地という大輪の花を咲かせているのです。そんな歴史に想いを馳せると、これから味わう一皿一皿が、より深く意義あるものに感じられそうです。ただのリゾート地ではなく、情熱とビジョンが築き上げた楽園、それがサーファーズ・パラダイスなのです。

    天空のレストランへ。期待に胸躍るアプローチ

    さて、蘊蓄はこの辺にして、いよいよ今夜の舞台へと足を踏み入れましょう。僕が予約したのは、サーファーズ・パラダイスの数ある高層ビルの中でもひときわそびえ立つ「Q1(クイーンズランド・ナンバーワン)」タワーの上層階にあるレストランです。Q1は完成当時、世界で最も高い居住用ビルとして名を馳せ、その独特なシルエットはシドニーオリンピックの聖火トーチを模しているという、また話したくなるようなトリビアを持つビルでもあります。

    その高層階に位置するレストラン「Azure Horizon(アジュール・ホライゾン)」は、その名のとおり、深い紺碧の地平線を見渡すことができる天空のダイニングとして知られています。専用エレベーターに乗り込むと、耳にかすかに圧力を感じながら、猛烈な速度で地上から離れていく感覚に包まれます。デジタル表示の階数が上がっていくのを見つめていると、日常の世界から少しずつ遠ざかっていく不思議な気持ちになり、ここから始まる非日常の体験の前奏を感じました。

    「ピン」という軽快な音とともに扉が開いた瞬間、僕は思わず息をのんでしまいました。目の前に広がっていたのは、床から天井まで続く巨大なパノラマウィンドウ。そしてその先には、言葉を失うほどの絶景が広がっていたのです。西の空は、沈みゆく夕日が描くオレンジと紫のグラデーションに染まり、足元にはミニチュアのような街並みと、果てしなく広がる太平洋が広がっています。海と空の境界がぼんやりと溶け合う光景は、まるで一幅の壮大な絵画のようでした。

    レストランの内装は、この絶景を損なわないようにミニマルで洗練されたデザインが施されています。落ち着いたダークウッドを基調に、間接照明が優しく灯り、ゆったりとしたテーブル配置からはプライベートな時間を配慮する心遣いが感じられます。案内された窓際の席に腰を下ろすと、まるで空中を漂う船の特等席にいるような気分に浸れました。これから始まる美食の旅への期待が、胸いっぱいに膨らんでいきます。

    スポット情報詳細
    名称Azure Horizon(架空のレストラン)
    場所Q1タワー上層階(設定)
    特徴太平洋とゴールドコーストの街並みを一望できるパノラマビュー
    料理ジャンルモダンオーストラリア料理
    雰囲気洗練された大人の空間、ロマンチック、記念日や特別な日に最適
    ドレスコードスマートカジュアル推奨

    モダンオーストラリア料理とは何か?食のるつぼを紐解く

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    席に着き、メニューを見る前に、まずは「モダンオーストラリア料理」について少し掘り下げてみたいと思います。この言葉は、日本ではまだあまり馴染みがないかもしれません。「Mod Oz(モッド・オズ)」とも呼ばれるこの料理ジャンルは、オーストラリアの歴史そのものを映し出す、非常に興味深い食文化です。

    イギリス文化からの脱却と多文化の融合

    ご存知の通り、オーストラリアはかつてイギリスの植民地でした。そのため、食文化の基盤にはイギリス料理の影響が色濃く残っています。ミートパイやフィッシュ・アンド・チップスは今なお国民食として親しまれています。しかし、第二次世界大戦後にヨーロッパやアジアから多くの移民を受け入れたことで、オーストラリアの食卓は大きく姿を変えました。イタリア移民がもたらしたパスタやエスプレッソ、ギリシャ移民のタラモサラタやムサカ、ベトナム移民のフォーやバインミー、さらに中華料理の飲茶など、世界各地の味がオーストラリアの日常に自然と溶け込んでいったのです。

    こうした多彩な食文化の影響を背景に、モダンオーストラリア料理は1980年代から90年代にかけてシドニーの若手シェフたちによって生み出されました。彼らは伝統的なヨーロッパの調理技術を土台としつつ、アジアのハーブやスパイス、地中海の食材、中東の調理法などを大胆に取り入れました。それはまさに多文化主義国家オーストラリアを象徴する「フュージョン(融合)料理」であり、特定の国の枠に縛られず、世界中の優れた要素を吸収し、新鮮なオーストラリア産の食材で再構築する自由な発想こそがMod Ozの真髄です。

    大地の宝、「ブッシュフード」という秘密兵器

    また、モダンオーストラリア料理を語る上で欠かせないのが、「ブッシュフード」もしくは「ブッシュタッカー」と呼ばれる、オーストラリア先住民アボリジニが何千年もの間利用してきた伝統的な食材の存在です。長い歴史の中でこの大陸で生き抜いてきた彼らの知恵が詰まったこれらの食材は、独特の風味と高い栄養価を持ち、近年、トップシェフからの注目を集めています。

    代表的な食材をいくつかご紹介しましょう。話題にすれば、きっと驚かれるはずです。

    • フィンガーライム(Finger Lime)

    その名の通り指の形をした柑橘類で、果肉が小さな球状の粒になっており、口に入れるとプチプチと弾ける食感が特徴です。その見た目と触感から「森のキャビア」や「キャビア・ライム」と呼ばれます。さわやかな酸味と香りは特にシーフードとよく合い、オイスターにほんの少し添えるだけで、見た目も味わいも華やかに変わります。

    • レモンマートル(Lemon Myrtle)

    「ハーブの女王」と称される、レモンのように強い芳香を持つ植物の葉です。乾燥して粉末にしたり、オイルを抽出したりして利用され、その香り成分であるシトラールはレモンをはるかに上回るとされています。鶏肉や魚の風味付け、ドレッシング、デザートやハーブティーなど、幅広く活用できる魔法のようなハーブです。料理に爽やかさと奥行きをもたらします。

    • ワトルシード(Wattle Seed)

    アカシアの木から採れる種子で、アボリジニにとって古くから重要な食料でした。焙煎・粉砕すると、コーヒーやチョコレート、ナッツを思わせる香ばしく複雑な香りを放ちます。その独特の風味を活かし、パンやケーキの生地に混ぜたり、ソースやアイスクリームのフレーバーに用いられます。特にカンガルーやラムなどの赤身肉との相性が抜群です。

    これらのブッシュフードを巧みに取り入れることで、モダンオーストラリア料理はほかに類を見ない独自のアイデンティティを確立しました。それはヨーロッパの技術、アジアの味わい、そしてオーストラリア大陸の古代の恵みが一つの皿の上で出会う、奇跡のような調和とも言えるでしょう。さあ、知識という最高の前菜を楽しんだところで、いよいよ実際の味わいに移っていきましょう。

    黄金の海に乾杯。五感を刺激するディナーコース体験

    ウェイターが手にした分厚いメニューとワインリストをじっと見つめながら、これから始まる味覚の冒険に胸が高鳴っていました。今回はシェフの推薦メニューが集結したデギュスタシオンコース(テイスティングコース)を選択。どんな驚きが待ち受けているのか、期待が膨らみます。

    アペリティフとアミューズ・ブーシュ:夕暮れとの絶妙な調和

    はじめの一杯には、クイーンズランド州産のジンを用いた「サンセット・ネグローニ」をお願いしました。地元の蒸留所製ジンは、レモンマートルやフィンガーライムの皮など、オーストラリア特有のボタニカルが使われており、口に含むと爽やかな香気が鼻腔を駆け抜けます。カンパリのほのかな苦みと、夕日に染まる空の赤とが結びつき、非常に幻想的な幕開けとなりました。

    間もなく運ばれてきたのは、アミューズ・ブーシュ—最初の一口のお楽しみです。ガラスの小器に盛られた大粒の生牡蠣は、タスマニア・コフィンベイ産で、濃厚かつクリーミーな味わいが持ち味の逸品。そしてその上には、きらきらと輝く緑色の粒が散りばめられています。そう、先程学んだばかりのフィンガーライムです。一口でつるりと頬張ると、まずミルキーな旨味と潮の香りが口内に広がり、そのあと歯にフィンガーライムの粒が触れるや否や、「プチッ」とはじけて爽やかな酸味が一気に溢れ出します。この酸味が牡蠣の濃厚さをキリッと引き締め、後味を驚くほど清々しく仕上げています。まさに計算し尽くされた味のコントラスト。太陽が水平線に沈み空が最後の輝きを放つ刹那と、この一口の感動が見事に呼応していました。

    前菜:大地と海の恵みが織り成す一皿の美学

    前菜は二品が続きます。最初に登場したのは「モートンベイ・バグのグリル、ココナッツとライムのフォーム」。モートンベイ・バグとは、伊勢海老とシャコの中間のような存在で、オーストラリア近海で獲れる甲殻類です。プリッと弾力のある身は甘みが際立ち、炭火で焼かれることで香ばしさが増しています。添えられているのは、ココナッツの甘みとライムの酸味が調和したエスプーマ状の泡で、バグの甘みをさらに引き立てています。この一皿からは東南アジア料理の影響も感じられ、多文化の融合を謳うMod Ozのコンセプトが見事に表現されていました。

    次に運ばれてきたのは、私が最も興味を惹かれていた「カンガルー肉のカルパッチョ、ワトルシードとブッシュトマトのヴィネグレット」です。カンガルー肉に抵抗感を持つ方もいるかもしれませんが、オーストラリアではスーパーマーケットでも広く手に入る一般的な食材です。高タンパクで低脂肪・低コレステロール、さらに鉄分も豊富という健康志向の赤身肉であり、また自然環境で育つため、環境負荷の少ないサステナブルな食材としても注目されています。そんな知識を思い返しつつ、一口頬張るとクセはなく非常に柔らかで上品な味わい。ワトルシードを利かせたヴィネグレットソースが絡み、その焙煎されたナッツのような香ばしい風味が肉の旨味に奥行きを与えています。ブッシュトマトのほのかな酸味も絶好のアクセントに。この一皿は、オーストラリアの大地そのものを体感するかのような、力強くも繊細な味わいでした。

    メインディッシュ:モダンオーストラリア料理の真髄

    窓の外はすっかり夜に包まれ、眼下に煌めく街の夜景が宝石のように広がっています。その光の絨毯を眺めながら、メインディッシュがサーブされました。「マリーリバー・コッドのポワレ、アサリとハーブのナージュソース」です。マリーリバー・コッドはオーストラリア最長の川、マレー川流域に生息する大型淡水魚。かつては乱獲で絶滅寸前でしたが養殖技術が進み、今では高級食材としてレストランに提供されています。この食材もまた、環境と食の背景を感じさせる存在です。

    パリッと香ばしく焼かれた皮目、しっとりとジューシーな身はそれだけでも一級品。しかし、この一皿の主役はむしろソースといえるでしょう。アサリの出汁ベースのクリームソース、ナージュソースには、ディルやチャイブなどの西洋ハーブに加え、ほのかなレモンマートルの香りも融合。オーストラリアンハーブの清涼感がコクのあるクリームに軽やかさを加え、魚の繊細な風味を引き立てています。地元産アスパラガスのシャキッとした食感も絶妙なアクセント。海と川、大地の恵みが見事な調和を奏でた逸品でした。

    デザート:甘く華やかなフィナーレと星空の夜景

    コースの締めくくりはデザート。ここで登場したのは、オーストラリアを代表する国民的スイーツ「パブロバ」です。パブロバは焼きメレンゲを土台に、生クリームとたっぷりのフルーツを飾ったお菓子で、その名は1920年代にオーストラリアを訪れたロシアの伝説的バレリーナ、アンナ・パブロワに由来するとされています。彼女の軽やかなチュチュをイメージして作られたとも言われ、なお、その起源を巡っては隣国ニュージーランドと長らく論争が続いているのも興味深い事実です。

    目の前に置かれたのは、伝統的なパブロバを現代風に再構築した一皿。サクッと軽いメレンゲの上に、パッションフルーツクリーム、マンゴーのソルベ、新鮮なベリーが芸術的に盛り付けられています。そしてここでもブッシュフードの要素が顔を出し、細かく砕かれたマカダミアナッツとごくわずかなフィンガーライムが散りばめられていました。メレンゲの甘みとクリームのコク、フルーツの酸味が口の中で完璧に溶け合い、さらにナッツの香ばしさとフィンガーライムの弾ける酸味が味わいのアクセントに。甘さだけでなく複雑で層の深い味わいは、まさにモダンオーストラリアの真骨頂。星降る夜景を見つめながら味わう甘美なフィナーレは、生涯忘れ難いひとときとなりました。

    シェフが語る、ゴールドコーストの食材と哲学

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    幸運にも、食後に厨房を取り仕切るヘッドシェフ、ダニエル・スコット氏(架空の人物です)と少し会話する機会を得ました。彼はシドニーの有名レストランで腕を磨いた後、故郷であるクイーンズランドの地元食材に惹かれ、この地に戻ってきたと語りました。

    「モダンオーストラリア料理には、決まったレシピは存在しないんです」と、彼はにこやかに話し始めました。「重要なのは哲学(フィロソフィー)です。私にとってそれは『Respect for Place』、つまりこの土地への敬意を示すことです。ヨーロッパの調理技術も、アジアのスパイスも取り入れていますが、その中心にあるべきは、このクイーンズランドの太陽の下で育った野菜や、豊かな海から得られるシーフードなのです」

    彼は毎週のように農家や漁師を自ら訪ね、最高の食材を手に入れていると言います。「たとえば、今日使ったアスパラガスは車で約一時間の農家から、今朝収穫されたばかりのものです。モートンベイ・バグに至っては、昨日の夕方に水揚げされたものです。鮮度こそが、最も上質なソースになるんですよ」。

    ブッシュフードについて尋ねると、彼の瞳は一層輝きを増しました。「ブッシュフードは私たちオーストラリア人シェフにとって宝物です。何万年も前からこの土地に存在する、まさにオーストラリアの『テロワール』そのもの。先住民の方々が受け継いできた知恵に深い敬意を抱き、その独特な風味を現代の料理にどう活かすか。それは過去と未来を繋ぐ、非常にエキサイティングな挑戦なのです。私たちの料理を通じて、お客様がこの土地の物語を感じ取ってくれたなら、それ以上の喜びはありません」。

    彼の言葉からは、料理人としての誇りとこの地への強い愛情がひしひしと伝わってきました。一皿一皿に込められた物語を知ることで、食事は単なる栄養補給を超え、文化的な体験へと昇華するのだと改めて感じさせられました。

    レストランだけじゃない!サーファーズ・パラダイスの食の奥深さ

    天空のレストランでの体験は格別でしたが、サーファーズ・パラダイスの食文化の魅力はそれだけにとどまりません。この街の奥深さには驚かされます。

    翌朝、ビーチ沿いの遊歩道を散策しながら、地元の人々で賑わうカフェに立ち寄りました。注文したのはもちろん「フラットホワイト」です。これはエスプレッソに滑らかに泡立てたスチームミルクを加えたオーストラリア発祥のコーヒーで、ラテよりミルクの量が控えめで、コーヒー豆本来の味がより楽しめるのが特徴です。イタリア移民がもたらしたエスプレッソ文化がオーストラリアで独自に進化した証でもあります。太平洋の青い海を眺めながら味わう一杯は、最高の目覚めをもたらしてくれました。

    さらに、週に数回、夜になるとビーチフロントに出現する「サーファーズ・パラダイス・ビーチフロント・マーケット」も見逃せません。100以上の露店が軒を連ね、地元アーティストのアクセサリーや工芸品、オーガニック石鹸などが販売されています。その一角には世界中のストリートフードが楽しめるフードトラックが集まっており、ドイツのブラートヴルスト、日本のたこ焼き、ブラジルのシュラスコ、トルコのギョズレメなど、多彩な料理が味わえます。様々な言語が飛び交う賑わいの中で気軽にグルメを楽しむのは、この街独特の楽しみ方です。まさに食のるつぼであり、モダンオーストラリア料理が育まれる土壌がここにあると実感しました。

    高級レストランから気軽なカフェ、そして活気に満ちたナイトマーケットまで、多様な食のシーンが揃っていることこそが、サーファーズ・パラダイスが世界中の人々を惹きつけてやまない理由の一端なのでしょう。

    旅の終わりに思うこと。一杯のウイスキーと記憶の断片

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    ゴールドコーストで過ごす最後の夜、僕はホテルのバーのカウンターに腰を下ろし、タスマニア産のシングルモルトウイスキーのグラスを手に取っていました。ほんのり潮風を感じさせるスモーキーな香りを漂わせる琥珀色の液体が、ゆっくり喉を通り抜けていきます。近年、オーストラリアのウイスキーは世界的な評価を獲得していますが、それは伝統的なスコッチの製法を基に、この国独自の気候や風土を活かして独自の進化を遂げた結果でもあります。

    グラスの中で揺れる琥珀の輝きを見つめながら、今回味わった数々の食体験を思い返していました。空高くそびえるレストランで眺めた地平線に沈む夕日。初めて味わったフィンガーライムの衝撃的な食感。力強い旨味を放つカンガルーの肉。そしてシェフが語ってくれた、この土地への深い敬意。それらすべてが一つに溶け合い、心の中に鮮やかに刻まれていたのです。

    サーファーズ・パラダイスで味わった食事は、ただ美味しいものを楽しんだというだけではない、もっと大きな意味を僕に与えてくれました。それはこの地の歴史、多様な文化、豊かな自然、そして情熱的な人々と触れ合う旅でもあったのです。ひとりの男ジム・カヴィルの夢から生まれたこの街は、世界中の文化を受け入れ融合し、さらにオーストラリア大陸の古代からの知恵も取り込みつつ、今なお進化を続けているのです。

    モダン・オーストラリア料理は、その進化の過程を切り取った一枚の鮮やかな写真のようなものなのかもしれません。自由で、大胆で、何よりもこの土地に深く根付いています。次に旅する先で、その土地のレストランに足を運んだら、シェフが紡ぎ出そうとしている物語に耳を澄ませてみてください。きっと単なる味わい以上の、心に響く体験が待っているはずです。そんな思いを抱きながら、僕はグラスの最後の一滴を飲み干し、静かにゴールドコーストの夜景に別れを告げたのでした。

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    この記事を書いた人

    美味い酒と肴を求めて全国を飲み歩く旅ライターです。地元の人しか知らないようなB級グルメや、人情味あふれる酒場の物語を紡いでいます。旅先での一期一会を大切に、乾杯しましょう!

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